やっぱり時間は経つのだった。
第六十五話 時は流れ
「失礼します」
ノックを3回、ドアノブを回して一声かける。
中で、一人の女性が椅子に座って珈琲を飲んでいた。
「ああ、君が件の」
「お初にお目にかかります。
「初めまして。ユニオンのエンタープライズだ」
エンタープライズと名乗ったKAN-SENは立ち上がる。
所作が綺麗な人だ。
けれど、歴戦の猛者の風格を感じさせる。
グレイゴーストと呼ばれ、重桜を震撼させた相手なだけはある。
そう言えば瑞鶴さんも結構挑んだと言ってたな。
「よろしく頼む」
エンタープライズさんから封筒を渡される。
簡素な茶封筒だ。
「承りました。必ず届けます」
……どうして俺が彼女からこんなものを受け取るのか。
堪えは簡単だ。
仕事である。
「群青の配達人、君にこうして頼む日が来るとは思わなかった」
「大したことはありませんよ。よくいる補給部門の配達員です」
「レッドアクシズ提携の立役者であるという話、知らないとは言わせないさ」
「それは……」
「そう怖い顔をしないでくれ。あまり君にとっていい話ではなかった。謝罪させてくれ」
「い、いえ……大丈夫です」
ここは、対セイレーン作戦の最前線。
彼女、エンタープライズも出張ってきている。
そんな中、直々に指名が来たのだからびっくりしたものだ。
「失礼します」
そう言って、部屋を後にした。
―――――――――――
こうして、最前線一歩手前までやってきたものの……やっぱり彼女は居なかった。
「おかえりなさい。気は済みましたか?」
格納庫でリバーストライクにもたれかかっている女性が、俺を出迎えた。
「そう見えます?」
「見える、って言ったらイサム君は諦めてくれるかしら?」
「………………」
「冗談ですよ。お姉ちゃんジョークです」
先ほどのエンタープライズにも負けず劣らず白いシルエットのKAN-SEN。
鶴を模した和服に身を包む彼女の名は、翔鶴。
今日は彼女が俺の仕事に着いてきていた。
「それで、ユニオンに向かうんですか?」
「ええ。このまま海路で3日進みます」
「はーい。それじゃあ行きましょう」
……あれから、2年の月日が流れた。
俺の腕は、新たに制作された義手の先行量産タイプが取り付けられている。
パッと見は普通の腕だが、人工皮膚から若干内部構造というか、機械部分が透けて見えている。
KAN-SEN技術の応用でここまで人の形に収めることに成功したとか。
完成から1年必死にリハビリして、俺はこうして配達員として復帰することが出来たのだ。
「どう?腕は痛まない?」
翔鶴さんが気遣って声を掛けてくれる。
俺は軽く左手を振る。
彼女は呆れた様にため息を吐いた。
……海は、静かに波打っている。
とても、この海の上でアズールレーンとセイレーンが戦争を起こしている様には思えない。
「ねぇ、イサム君」
「何でしょうか」
「……隼鷹、まだ諦めてないんでしょ?」
「……ええ」
こうして、最前線の仕事を請け負っているのも……隼鷹がそこにいるかもしれないという期待からだった。
「……この2年間、未だ消息不明。それでも……隼鷹が生きてると」
「思ってます」
言い切った。
見つけ出すと決めたんだ。
俺が信じなくてどうする。
「……腕失くして、頑固になっちゃったわね」
「どうでしょうね。案外こんなんだったのかもしれませんよ」
「冗談も上手くなっちゃって……それに、髪もだいぶすっきりさせちゃって」
「ええ、邪魔でしたので」
「隼鷹、卒倒するかも」
髪はもうスポーツ刈の様な髪型にまで短くした。
「顔つきも体つきもかなり逞しくなっちゃったし」
「あー……まぁ、高雄さんと加賀様にかなり絞られたので」
リハビリと称して戦闘訓練を課すのはどうかと思うんですよ。
そのおかげか腕一本消えてなくなっているのに筋肉で5キロ増量している。
義手のパワーもあるけど荷物が凄い軽い。
「あの二人、イサム君がけが人で人間だってこと忘れてないかしら……」
「あはは……」
……俺も、ただひたすらに強くなりたいって思う感情があったんだなって。
自分でも意外だった。
隼鷹、君は今どこに居るんだ?
最後に更新したのがまる一か月前と言う事実に恐怖しながらの投稿でした。
リハビリ描写はカットです。
知識も無いので。
今回から最終章開始になります。
今度こそ完結まで頑張ろう……。