レッドアクシズ・ストランディング   作:塊ロック

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もうここまで来たらイサムくん覚悟ガンギマリ不退転ボーイですね……。


第七十六話 選択

「失礼します」

「イサム、さん……!?」

 

ノックもそこそこ、赤城様の執務室に文字通り押し入った。

流石に赤城様も目を丸くする。

 

「どうさされました……?貴方、今日は休みでは」

「聞きました」

「っ……何、を」

「隼鷹の事です」

「………………」

 

赤城様が、唇を噛んでいる。

とても、悔しそうに。

 

「誰から……いえ、それは詮無きこと。イサムさんは、どうするつもりですか」

「これを」

 

俺は、懐から封筒を取り出し……赤城様の目の前に置いた。

それを見た瞬間、赤城様は激昂する。

 

「巫山戯ないでくださいまし!」

「本気です」

「死ぬつもり!?」

 

封筒には、『辞表』とだけ書かれていた。

 

「貴方一人でどうするつもりですか!?」

「隼鷹に会います」

「装備も何も無く遠い海域まで歩いて行くとでも!?」

「それしか手が無いのなら、そうするまで」

「いくら貴方が海を渡れると言っても限度があります!」

「今無茶しなくていつすれば良いんです!?」

「っ……」

「もう、隼鷹に会うには今しか無いんです!このチャンスしかない、そう感じて仕方ないんです!止めないで下さい、赤城様!」

「………………」

 

赤城様は、無言で立ち上がり……俺の目の前まで来て、

 

俺の頬を、思いっ切り叩いた。

 

「っ、ぐ、ぇ……!?」

 

KAN-SENのフルパワーではないが、俺よりも遥かに強い腕力。

頭が揺れて気を失いそうになるのを必死に堪えた。

それでも、俺は精いっぱい赤城様を睨み付ける。

 

……赤城様は、ぽつり、と呟いた。

 

「現在、アカツキイサム准尉の保護責任者は、私、赤城です」

「え、ええ……」

「貴方に対する責任は、全てこの私が取ります」

「赤城様……?」

「全く……」

 

ふわり、と赤城様に抱き締められた。

 

「誰に似たんでしょうか……貴方は」

「赤城様……?」

「話を最後まで聞かずに行動して……イサムさん、叩いて、悪かったですね」

「い、いえ……覚悟は、出来てました」

「……本当に、強情なのですから。入りなさい」

 

赤城様が出入り口の襖に一声かけると、遠慮がちに一人、入ってきた。

 

「樫野さん……?」

「あ、えっと……お久しぶりです」

「どうして……」

「貴方の秘書艦です」

「え、でも自分は指揮官では……」

「特例です」

「は、はぁ……」

 

赤城様が離れる。

香水の匂いが仄かに残る。

彼女らしい、優しい香り。

 

「あ、あの……どうぞ」

 

おずおずと樫野さんが俺にバインダーを渡す。

何やら文書が留めて……。

 

「……!?赤城様、これって……」

 

表紙に書かれた文字は、『仮称:隼鷹捕獲作戦要項』とあった。

 

「……当日、重桜艦隊はアズールレーンの指揮から一時離脱。その後周囲のセイレーン艦隊を掃討します」

 

赤城様が指を鳴らすと、彼女の背後に天井からスクリーンが垂れる。

そして、海域の作戦図がプロジェクターで投影された。

 

「……この掃討段階でごく少数の部隊を偵察に向かわせます」

「……まさか」

「KAN-SEN6名、偵察班がひとり。そこへ、貴方をねじ込みました」

 

……俺は、膝から崩れ落ちた。

今更になって、赤城様のビンタが痛んできた。

 

「これほ明日、説明する予定でした」

「すみません、自分は……」

「向こう見ずも大概にしないと次は手が出ますよ」

 

もう出てる、とは流石に言えなかった。

 

「イサムさん」

 

赤城様が、屈んで目線を合わせてきた。

 

「この作戦、生還率は5割とありません。それでも……行きますか」

「はい」

「……分かりました。後で遺書を認めて下さい。それと……今まで関わってきた人に、挨拶を」

「はい……」

「泣くんじゃありません。全く……貴方が泣いたのは初めて見ますね」

「ありがとうございます、ありがとうございます……」

 

年甲斐もなく泣きじゃくってしまい赤城様と樫野さんに宥められてしまったのだった。

 

 

 




隼鷹に再会するために、後は突き進むのみ。

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