「イサムさん、お茶淹れてきますね」
樫野さんが机から立ち上がり、給湯室へ向かった。
「んっ……」
椅子に座りながら大きく伸びる。
背筋と肩からバキバキと音が鳴る。
……現在地は俺の執務室。
階級が上がり、赤城様付きの士官になって個室が与えられたのだ。
なお、部下は樫野さん一人。
作業内容は赤城様宛の文書の仕訳と……何故か補給物資管理。
これがまた曲者で毎日凄まじい量の書類が舞い込んでくる。
セイレーン艦隊が活発化している為、前線でかなりの規模の戦闘が勃発しているためだ。
「お待たせしました~」
「ありがとうございます」
樫野さんが盆に2つ湯呑を乗せて帰って来た。
もう熱いお茶が美味しい季節だ。
「ふぅ……」
一息入れる。
忙しくても遣り甲斐は感じる。
でも、こうして手が空いてしまうと思考は彼方へ行ってしまう。
(隼鷹……)
前線が激化している。
つまりそれは、隼鷹もそこで暴れている可能性があるという事。
「……イサムさん、また隼鷹さんの事を考えていますね」
「えっ……」
「顔に書いてありますよ。もう貴方の部下になってから結構経ちます……分かりますよ」
「すみません……」
うーん、考えない様にしてるんだけど。
赤城様から言い渡された任務がどうしても頭から離れない。
ようやく彼女に会うチャンスが巡って来たんだ。
「お仕事はしっかりこなせているのに、少しでも手が空くとずっと上の空。いつか大きなミスしちゃいますよ」
「あはは……気を付けます」
「その言葉ももう5回目です」
「え、あー……そうなんですか」
思っていたより重症かもしれない。
「……任務は3か月後。そんな調子じゃ大怪我しますよ」
大怪我、か。
大怪我で済めばいいけども。
「い、さ、む、さん!!」
「えっ、あ痛っ」
樫野さんに義手を叩かれた。
まだちょっと痛むんだよなぁここ。
「全く、こんな大怪我してるのに……」
「……すみません」
「謝るくらいなら直してください」
それもそうだ。
「……イサムさんは」
……ん?
「この任務……辞退する気は、ありませんか?」
………………何だって?
「何故、そんな事を?」
「だって、イサムさんは十分苦しみました。これ以上の困難に立ち向かう必要なんて……」
「樫野さん」
俺は、はっきりと断った。
「これは、俺がやらなきゃいけないと考えている事です。隼鷹に会って、伝えないといけない」
「隼鷹さんに、ですか……?」
「はい」
隼鷹に会って、俺は彼女に俺の想いを伝えなきゃいけない。
「……イサムさんは、隼鷹さんにどうしてほしいんですか……?」
「俺は……彼女の意志を、尊重してほしい」
「それは、隼鷹さんが戻ってこなくても構わない……と?」
「ええ」
隼鷹が戻ってこないというのが彼女の意志ならば、俺はそれを尊重したい。
例え、二度と会えないのだとしても。
「そう、ですか」
……樫野さんは、そう呟くと……今日1日、会話は無かった。