【完結】レッドアクシズ・ストランディング   作:塊ロック

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第八十一話 襲撃者

 

……ヒッパーと別れてから、数分。

帰路がぶっちゃけ同じなので気まずいと重い途方に暮れていた。

 

「こんばんは」

「えっ……ああ、ローンさん」

 

背後から声を掛けられた。

あまりにも気配がなさ過ぎて面食らう。

 

「こんばんは。どうしたんですか、こんな夜更けに」

「ヒッパーが飛び出していくのが見えたので心配になって」

「そ、そうなんですね」

 

今泣かせちゃったんですよあの子……。

自分で決めていた事とは言え罪悪感が無いなんて事は無い。

全ての決着がついたら改めて話をしないと。

 

「……ヒッパー、可哀想」

「申し訳ない事をしたと思ってます」

「それに、貴方も」

「え?」

 

ローンさんの表情が月明かりに照らされる。

……俺は戦慄した。

彼女には表情と言うものがなかった。

 

何も、表情から読み取れない。

 

「どういう事です」

「死にそうな目に遭って、また自分から命を懸けに行く。人間である貴方が」

「……俺の選んだ道です。貴女にとやかく言われる筋合いはありません」

 

それだけは変わらない。

誰に何を言われても。

 

「フフフ、強情ね。でも……」

 

そっとローンさんが近付いてくる。

思わず後ずさりそうになる。

彼女は俺の右腕に触れる。

 

「……腕、両方無くなってしまえば流石に考えも変わるでしょう?」

「なっ……あ、ぎぃっ!?」

 

ローンさんはそのまま俺の右腕を捻ろうとした。

慌てて左の義手で抑えた。

 

「あら。その義手も凄いパワーね。先にそっちから壊しちゃおうかしら」

「くっ……何のつもり、ですかっ!!」

「?貴方が戦場に出ない為、ですよ」

「お、わっ」

 

ぐるん、と視界が回る。

投げ飛ばされた。

慌てて受け身をとってローンさんから離れる。

 

「逃しませんよ」

 

それより早く、ローンさんが俺の左腕を捻り背中へ回された。

肩も抑えられていて動けない。

 

「くっ……辞めてください。こんな事何の意味もないっ……!」

「意味?ありますよ」

 

義手に込められた力が強くなる。

嫌な音が聞こえてくる。

このままだと、砕かれてしまう。

このタイミングで義手が破壊されてしまうと、作戦に遅延が出てしまう。

 

「貴方は私に守られるべきなんです。もう命なんて懸けなくて良いのイサム。隼鷹の代わりに、私がずっと……ずっとずっとずっとずっと守ってあげる」

「ぐ……違う!」

「違わない。だってイサムは私より弱いんですもの」

「そうだ、俺は弱い……!でも、弱いままで、何の意思も示さなくて良いわけがない!!」

 

でも、この手を振り払えない。

 

「離れなさいってのこの馬鹿ッッッッッ!!!」

「きゃっ!?」

「うわっ……!?」

 

衝撃。

手が離されて思いっ切り突き飛ばされた。

誰かがローンさんにぶつかった?

 

「イサム!」

「えっ……ヒッパー!?」

 

俺に駆け寄ってきたのは、さっき走り去って行ってしまった……アドミラル·ヒッパーだった。

起き上がろうとして、義手に力が入らなくてつんのめってしまった。

 

「ちょ、危ない!」

 

慌ててヒッパーが俺を受け止めた。

勢いでヒッパーの胸元に飛び込む形になってしまった……柔らかくてちょっとどぎまぎしてしまう。

 

「ヒッパー、どうしてここに……」

「あの馬鹿……ローンが居ないってビスマルクの奴から連絡が来たから嫌な予感が……って、何でもないっての!」

「そっか……ありがとう、ヒッパー」

「礼は後、立って」

 

立ち上がり、吹っ飛んだローンさんの方を見る。

……待って、彼女との体格差を考えるとまさかドロップキックしたんじゃ。

 

「痛いじゃないですかヒッパー」

「うっさい!勝手に抜け出して何してんのよアンタは!」

「イサムを守る為です」

「何が守るってのよ!イサムに手を出して!下手したら国際問題よ!」

「関係ありません。何が敵になろうと、私がイサムを守れば良いんです」

 

何事も無かったようにローンさんは立ち上がる。

そして、俺に向かって手を広げた。

 

「おいで、イサム」

「アンタ……!」

 

激昂するヒッパーを手で制した。

 

「イサム……?」

「ローんさん」

 

話はきっと通じない。

彼女の中に刻まれてしまったんだ。

 

「帰って来たら、お茶でも飲みながらゆっくり考えましょう」

「……えっ?」

「は?」

 

ローンさんとヒッパーが面食らった様な声を上げた。

 

「多分、ローンさんには時間が必要です。でも、俺にはそれに付き合う時間がありません」

 

何の確証もない、薄っぺらい約束。

それでも。

 

「絶対に帰ってきます。だから……この話は、また後日にしましょう」

 

彼女のした事を赦して、これからの彼女を肯定してあげないといけない。

 

「………………」

 

ローンさんは黙ったまま、そのままふらりと立ち去って行った。

 

「………………」

「………………」

 

そして、この場に沈黙だけが残ってしまった。

 

 

 

 

 

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