地獄で魔王と言えば頂点みたいな風潮が地獄の住人にはある。
その証拠として魔王ディザ以外に他の魔王を止められる者が権力的にいないことが挙げられる。逆もしかりだが。
ディザも権力的には平等な同僚へは精々知られたくない性癖や黒歴史をばら撒くくらいしか嫌がらせができないでいる。悪魔かお前、辞めて差し上げろ。
だが、勘の良いカンビオンや長生きしたデーモン等はそうではないと知っている。
何故ならいくらディザが強くなったからと言って元人間の魔王。
——ディザも人間ごときに扱き使われて地獄で生きる者としてどうなのかと憤っている。お前が言うな——
ディザのこの増長を他の魔王が黙って見ているわけがない。
更に言えば魔王が二、三組めばディザは倒せなくもない。
ディザは分類上後衛。理論上は魔王が近接戦に持ち込めば倒せるからだ。
魔王が組む等という非常識を無視すれば貧弱なウィザード(かもしれない)は地獄の溶岩池の鯉のエサになるに違いない。
だが、ディザはその可能性を完全に無視して悪魔に自由と殺戮ではなく秩序と平和を求めてくる。大多数の悪魔達的にはふざけんな死ねである。
——最も、そういった者達はディザが日頃の憂さ晴らしとして経験値となるのだが——
横暴な絶対者である。まさに悪魔達の頂点として相応しい姿である。
話が大分脱線したが、何が言いたいのか。
つまり、魔王以上の何者かが存在していなければ魔王となる前にディザは潰されていたことに他ならない。
ディザが嫌いな混沌系悪魔達は媚び売っている金魚の糞と内心思っている。
実際は反逆5回もしている上にその内権力を簒奪すると公言しているのだが。
他の魔王は一人を除いて連座で殺されないか恐れている。
——なお、もう一人は喜んでいる。辞めろ、お前——
ディザはある意味、悪魔的なものとはいえ権威や秩序に歯向かう気満々の悪魔より悪魔らしい人間である。
そんなディザにも弱点がある。
どうあがいても強くなれずとも、弱いなら弱いなりに戦うつもりでいるディザでも地獄で人間として生き…死んでいる?過ごしている以上、絶対なければならない条件が一つだけ欠いているのだ。
「災厄神の災厄」Evil god of disasterと呼ばれている八大魔王の一人ディザ。
彼には誰にも話していない秘密が確かにあった。
というより地獄に来て最初の10年くらいはことあるごとに言っていたのだが、諦めて権力簒奪へ方針転換したので秘密した。
それは…
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三方を全長が知れない程の城壁に囲まれた町には中世を忍ばせる数千も数万ともいえる建造物を廃墟が残る。城壁内には赤い切妻屋根の家々と聖堂が見えるがどれも崩れている。
十字架はねじ切れ、ハンマーは石にしかみえず、朱鷺の死骸はアンデッドとなっている。
存在する神々の聖印が全て悪意をもって表されている。
地獄にはこんな町はない。
というのも聖印は神の力であり、これほどの数の神々を冒涜すれば世界のバランスが崩れるからだ。
——ディザが真似しようとしたら悪魔達の三割が死にかけたのだから間違いない——
地獄にない町。いや、この世界はたった一人のために作られたものだった。
善性を司るのが白金の竜たるバハムートであるならば、その対。
絶対にして最悪たる名すら語れぬ冒涜者。
神々との終末戦争に備える「絶対にして至高悪」である。
ディザは勝手に超魔王(仮)と呼んでいる。
「お前、魔王クビな」
そんな姿形も認識できない——脳が拒絶する——おぞましい何かがディザに魔王クビを宣告する。
魔王を辞める。それは今まで魔王として権力で守られてきた者に取って死を意味する。
魔王として好き勝手やっていた恨みつらみは凄惨な形で返って来る。
魔王たちが無謀とはいえ、形だけでも天界への侵攻計画を毎度練るのは超魔王から魔王の資格を剥奪されないためだ。
——形骸化し過ぎてただの飲み会となっていることについて魔王辞める前に超魔王(仮)に報告した方が良いだろうかとディザは思った——
「わかりました。では、引継ぎがあるので失礼いたします」
ディザはあっさり了承して帰ろうとした。
相手はまだ上役なので恭しく丁寧に頭を下げて退出する。
…いつかそんな日が来るとディザは思っていたので動じない。
ディザだって育てた部下等気になることは多い。…いや、多すぎる。
だが、自分が消滅したりした時に備えて引継ぎくらいしてある。
勿論、十年くらいは混乱するかもしれないがそれも経験として成長してくれるに違いない。
地獄の頂点に立つ策はまだ幾らでも残してある。
超魔王(仮)が変なことしない内に帰って…
だが、
「いや、もう地獄へは帰れない。…それと先の飲み会について教えろ」
超魔王(仮)の言葉に初めてディザは反応を示した。
——本人の了承も取らずに心を読むのはモラハラだと——
ディザは、アメリカ映画で「おまえはクビだ!」と宣告されたサラリーマンがダンボールに自分の荷物を詰めて叩き出されるのをふと思い出した。