ディザは困惑していた。
地獄も天国も追い出されたディザは、仕方がなく輪廻の輪まで押し入っていた。
行く当てもない魂は地獄の管理者だったものとして法に反するためだ。
上に立っていた者が法を守らなければかつての部下達に示しがつかない。
ファッ〇ュー神!最後の最後にそう思ってディザは輪廻の輪へ飛び込んだ。
——最後の言葉が本当にそれでいいだろうか——
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…ところが、ディザが目を覚ますとどこぞのダンジョン最深部の祭壇にいた。
見ればどう考えてもド腐れ外道な魔法儀式の真っ最中だ。
生け贄は古代エルフのようだ。
…不死に近い存在である古代エルフ。それを贄にやる儀式等ディザは一瞬で察した。
なので、取り敢えずローブの男女7人をボコボコにした。
具体的にはディザの姿の全容がわからぬ内にタイムストップ。
からの背後に周り込んで杖で殴って気絶させた。
——これが名高き魔王の魔法(物理)である——
気絶させて7人を亀甲縛りにしたところで、こいつらの言葉がわからないことに気が付いた。
…一瞬喋ったが多分「何奴!捉えろ!」的な感じだったと思う。
しかし、聞いたこともない言語だ。学匠として地獄では名高いディザもこれにはショック。
相当遠い異世界に来たようだ。
仕方がなく翻訳魔法タンズで現地語翻訳し、マインドクラックで首謀者と思しき赤ローブの男の記憶を調べようと試みた。
——なお、マインドクラックは洗脳系エロ同人が可能な覚えているだけでドン引きの外道魔法である——
その瞬間に冒険者達がやってきたのだ。大体十分くらいだ。
調べられたのは精々ここ数日の脅威に感じたこと。
印象に残っている断片しかわからない。大体二つだ。
①ハゲと不愉快な仲間達は冒険者と騎士だかに追われていること。
②レイドというこのハゲが極悪人だということ。
これくらいしかわからない。
結果、訳の分からぬまま事態が進んでこの有様である。
見目麗しかったであろう女騎士が初対面のディザに向かって野郎ぶっ殺してやる!である。
生まれてこの方何も悪いことしてないのに酷い。ディザはそう思った。
——おい、魔王——
…だから、突撃して来るエリスが何故いきなり襲い掛かってきたのかがディザにはわからない。
まるで突然巨悪に出くわしたかのようだとディザは思った。
——ディザは自分が魔王であったことを全力で棚上げしてそう思っていた——
幸いローブ共が起きた場合に備えて幻術とアイテムを併用して顔を変えている。
幻術見破られても問題ない二重の対策済みだ。
ここで逃げて後から人相書きが手配されるとしても無問題だろう。
それに、無詠唱魔法で矢除けや魔法防御等、古代エルフを保護している。
——ディザが無詠唱ではなく普通にハイ・エルフを庇っていたら流石に様子がおかしいと仲間がエリスを止めただろう。気が付かない紳士気取りである——
こいつらボコボコにしても全く問題ないな!
ディザは心の中でガッツポーズだ。
——本当に腕力で解決したがるこの男は一応魔法使いである。魔法使いとは一体なんだ——
そして、適当なローブの下っ端を奴…協力者として使う事にしようとディザは決めた。
ディザはレイドの記憶からほんの少し役立つ情報(ディザ目線)を読み取っていた。
——それは、ダイスでファンブルを出した可哀想な犠…幸運な人——
記憶にあった儀式に僅かに、だが反対していたレイドの弟子。
他に強く反対した弟子が殺されて、蘇生しないようにされるのを見て賛成に回った者。
その者の顔を記憶にとどめておくことにした。
雑魚一人くらい拉致っても問題あるまい。
後でこいつから異世界について聞き出し、ディザの奴…案内人として協力して貰わねば。
我ながら素晴らしいアイディアだとディザは自画自賛した。
——…哀れな被害者は地獄随一のサディストに目をつけられた——
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先ほどの回想は大体三秒程の出来事だ。
——聖騎士エリスが襲い掛かって来た!——
そして、エリスのコマンドは自動決定だ。
「神に仇なす神敵め!誅殺してくれる!!」
エリスがディザに切りかかる。
殺意満々な上段切りだ。
ディザは思わず叫ぶ。
「話を聞かぬ蛮族め!」
ブチっとエリスから何かがキレる音がした。
——ディザからすればただの喩だが、蛮族絶対ぶっ殺すウーマンは激怒した——
思わぬ攻撃に反応が遅れたディザは肩辺りにきた剣を杖で受け止める。
そしてディザは剣を受け止めてから気が付いた。これはただの脳筋ではない。
「フッ!」
その瞬間、エリスは剣先を時計回りに巻き付けるようにディザの喉の辺りを突き刺そうとする。
ディザは杖を上方へ軽くズラした。エリスは剣をディザから離すと見せかけて下から腕を切り落とそうとしてきた。
この返しを予測していたディザは杖を思いっきり下へ叩きつけて剣を躱す。
「…フェイントか!」
エリスはディザの叩きつける衝撃を利用して斜め後ろへ回避する。
だが、腰を落として一瞬の間が見て取れた。
「天辺切りとは…ただのバーバリアンじゃないな」
ディザはいきなり感情で切りかかって来たように見えた蛮族(エリス)への評価を上方修正する。
先ほどのウィザード達とは次元が違う。
ディザは叩きつけた杖を下から斜め上へ流れるように体と共に動かし、杖をエリスへ叩きつけようとした。
すると、ディザは殺気を感じた。魔法じゃない攻撃だ。
ディザは体を止めて敢えて杖の勢いを増すことで杖を回転させる。
まるで丸い盾のようになるように回転する杖。
二発。銃声の音と何かが跳ね返る音がした。
「な…!杖で弾いた!」
驚愕する声がダンジョン奥深くで響き渡る。
だが、ディザはそれ以上に驚いた。
「魔法の銃だと!」
地獄でもない技術。しかも魔法。魔法と機械文明の融合の技術。
しかも、銃を扱うのは良く見れば女性型のアンドロイドだ。
——ディザが超魔王(仮)対策案としてあった“完成品”がずっと弱い物とはいえ既にあった。さらにはホムンクルスとは違う機械人間の存在——
ディザはこの推定異世界の脅威度を上げる。
「ファイヤーボール!!」
巨大な火玉がディザだけを狙って襲い掛かる。
だが、
「レベル50程度の花火が効くとでも?」
ディザは無詠唱のディスペルマジックで火玉を相殺する。
ここまでのディザと仲間の冒険者達の攻防を見て、ディザに仕掛けようとしていた推定盗賊と神官が止まる。
どうやらディザと格の差は一応わかったようだ。
戦闘を辞めて五体投地で靴を舐めるくらい誠意を見せてもらいたいとディザは思った。
——なお、ディザは本気でそう思っている。サディストである——
「そんな馬鹿な!エリス様と打ちあえるマジックキャスターだと!!」
火玉を放ったウサギみたいなのが叫ぶ。
何だあれは。非常食か。
この世界では非常食が戦うのかとディザは興味深々だ。
ウサギの叫びはどうでも良いが、ディザはこの五人の強さを把握した。
大体レベル50~60程度だ。一応、エリスだけちょっとだけ強い65くらいか。
本気でやれば魔法で吹き飛ばせるがそうはいかない。
誘拐犯と間違われて殺しましたのでは目覚めが悪い。だが、誤解は解けそうにもない。
かといって、ディザは近接戦をここ10年以上の書類仕事のせいでやっていない。
先ほどの魔術師連中のように一撃で気絶させる戦術は一応ある。
だが、この五人だと一人一人それを行うとなると魔力消費量が馬鹿にならない。
ダンジョン出たら、レベル100いましたとかあったらこちらがヤバい。
普通の魔法では魔法抵抗力がどの程度かわからない。下手すると殺してしまう。
…ゲートもできない。あの魔法は把握している場所じゃなきゃ転移できない。
この世界はダンジョンしか知らない。転移魔法を土壇場で試すのもおっかない。
ディザは、これどうしようと悩んだ。
殺さないでかつ切り抜ける方法だ。
…ふと、ディザは最高の解決策を思いついた。
殺して復活させて記憶弄って放置で良くね?
——なお、本気である。鬼畜かこいつ——
ディザの不穏な雰囲気に身構える冒険者達。
今まさに慈悲なき刃(杖)が罪なき冒険者に振り下ろされそうなその瞬間。
「うーん…はっ!逃げないと!」
黒いローブの救世主——ディザの奴隷候補生筆頭——が目を覚ましてしまった。