フライゴンの背中に乗って空を飛ぶこと数十分、ようやくお城のような建物が見えてきた。
あれがナックルシティ。随分と大きい建物だな。
近くの広いバトルフィールドの隅に下ろしてもらい、バックからオボンのみを取り出してフライゴンにあげた。
「お疲れ様フライゴン、ありがとね」
そっと頭を撫でてから、休んで貰うためにモンスターボールへと戻した。さてと。
ナックルシティのジムリーダーに早いとこお願いして、推薦状貰わないと。あと2週間で開会式なんだっけ?
2週間のスケジュールをいろいろ考えながらポケモンセンターの前を通り過ぎて、ジムらしい場所までたどり着いた。
大きな橋を越えてすぐの入口へと向かう。
いったいどんなジムリーダーなんだろうか、ととてもワクワクしていた。ちょっと前までは。
それが10分後には失望に変わるとは思いもよらないだろう。
ウィーン、とドアか開いたその先には人が少なからずいた。奥のスタッフらしい人に話しかければジムリーダー呼んでくれるかな、と思い声をかけたのに。
「申し訳ないんですが…」
この一点張り。いやいや待て。なんで呼んでくれないの。
「だから、ジムチャレンジしたいからジムリーダーの推薦状が欲しいって言ってるの。ジムリーダー呼んでくださいよ」
「関係者じゃないようなので、そんなすぐには…」
その言葉にカチンときてしまい、とうとう怒鳴ってしまった。
「関係者じゃない?当たり前でしょ!さっきシンオウからガラルに来たばっかりなのに、知り合いなんているわけないでしょ!?さっきからそう言ってるのに貴方話通じないわけ!?もういいわ、他当たるから!」
…やばい、ついに言ってしまった。周りも私の怒鳴り声でなんだなんだとざわつきだした。目立たないように地味女の変装までしたのに、これじゃ意味が無い。
「おー、なんかさっき怒鳴り声がしたけど何かあったかー?」
鶴の一声で、ざわついていた周りもシーンとなる。が、すぐに誰か分かると、キバナさんだ!キバナが来たぞ!と来る前よりも騒がしくなった。それよりもキバナって誰よ。
奥の方から出てきた高身長の褐色肌の男。頭にはオレンジのバンダナ、ダボッと着こなしているパーカー。かっこいいとは思う、かっこいいとは。
ただ、これは私のチャラ男センサーが反応している。こいつはいわゆるパリピ属性のチャラ男、私が嫌いな部類の男だ。
男がスタッフに近寄って話をしている間、私は1人でどうやっていちゃもんつけてやるかを考えてた。いちゃもんつけるなら徹底的に文句言いまくって出て行ってやろう、そんなことを考えてているうちに、いつの間にか男が私の近くまで来ていて話しかけてきた。
「なぁお前、ジムチャレンジするために推薦状が欲しいんだってな?名前は?」
「ちょっと、初対面相手にお前って何?失礼にも程があるわよ?それに私に名前を聞く前に自分の名前名乗ったら?」
そう言うと、後ろに控えてるスタッフが顔を真っ青にして、ワタワタと私と男を見守っている。
「おっとすまねぇ、他の地方から来たってのは本当みたいだな。オレさまはキバナ、ここナックルジムのジムリーダーだ。一応ここのジムは7個目のバッジを取った後に来る、最後のジムなんだよ。だからスタッフもあんな堅いことを言ったんだ。」
「そう。私はネモ。シンオウからきたばっかりなの。それでジムチャレンジするための推薦状は書いてもらえるのかしら?」
ぶっきらぼうに答えてしまったが、しょうがない。さっきからイライラしているのだ。推薦状を貰えないのならこんな所さっさと出ていってやりたい。
「その事なんだが、ネモが推薦状を受け取るに相応しいかどうかの実力を見せてくれ」
要するにバトルってことね。まぁいいか。実力見せてコテンパンにすればいい。他の地方のチャンピオン舐めるなよ。
「実力、ねぇ。貴方後悔するわよ?」
その言葉には嘘はない。事実、私の手持ちはレベルも努力値もMAXまで上げているのだ。それを易々とジムリーダー如きにやられる訳がない。
「悪ぃが、バッチを持ってようが持ってなかろうがオレさまは全力で行かせてもらうぜ」
この男、なんて大人げない奴なんだ。
私も人のことは言えないが。
そんなこんなで、私とジムリーダーのキバナという男は奥のバトルフィールドへと向かって歩き出した。