鑢の呼吸、無刀の鬼狩り   作:磯野 若二

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七花への印象。

・岩柱→自身より長く鬼狩りを続けており敬意をもっているが、どこか危なっかしさを感じており、自分でも分からないが案じている。

・音柱→世間ずれした感覚に戸惑う事もあるが、力量は認めている。

・水柱→力量を認めているが、話した事はない為、特別好印象というわけではない。

・風柱→なぜ柱にならないと憤っているが人それぞれである為、少しもやもやしている。

・蟲柱→複雑な心境。(姉の死に関連して)

・炎柱→一人で洗練された独自の呼吸を編み出した実力者だとみている。

・蛇柱→恋柱と仲良く話している現場を多々目撃しており、内心穏やかではない。

・恋柱→ゆかりとの馴れ初めに浪漫を感じており、好印象。

・霞柱→鬼に襲われ死に瀕していた自分たち兄弟を救ってくれた恩人。


第陸話 上弦之弐と蟲柱、そして

上弦の陸を撃破してから三カ月後。

 

またも驚くべき知らせが、鬼殺隊全体に流れた。

 

日輪刀を作る刀鍛冶たちの里を上弦の鬼が襲撃し、それを柱たちが討伐。

 

上弦之伍、撃破。

討伐者、霞柱・時任(ときとう)無一郎(むいちろう)

当人は重傷だが後遺症なく復帰可能。

 

上弦之肆、撃破。

討伐者、恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)、階級(きのと)・竈門炭治郎および階級(つちのえ)不死川(しなずがわ)玄弥(げんや)、竈門禰豆子。

当人らは重傷だが後遺症なく復帰可能。

 

襲撃の際、何人もの刀鍛冶の命が失われ、施設への被害も甚大であり、里の移転も行われた。

手放しに喜べる話ではない。

しかし本事件より鬼の禰豆子が太陽を克服した為か、鬼の被害がぴたりと止んだ事もあって、鬼殺隊の少なくない人数が鬼との戦いの終結を想像した。

 

そして鬼の出没・被害が収まったと判断されてより、緊急柱合会議を経て柱稽古が執り行われる事となった。

 

 

音柱・宇随天元による基礎体力向上訓練。

 

霞柱・時任無一郎による高速移動の稽古。

 

恋柱・甘露寺蜜璃による地獄の柔軟訓練。

 

蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)による太刀筋矯正。

 

炎柱・煉獄杏寿郎による呼吸法の応用技術の習得。

 

水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)による防御、受けの心得の伝授。

 

風柱・不死川実弥(さねみ)による無限打ち込み稽古。

 

そして、岩柱・悲鳴嶋(ひめじま)行冥(ぎょうめい)による筋肉強化訓練。

 

鬼殺隊の歴史の転換点、鬼との最終決戦を予期した、鬼殺の剣士ほぼ全てが参加する事となった柱稽古。

 

しかしそこには、蟲柱・胡蝶しのぶ。

そして階級甲・鑢七花の姿は無かった。

 

 

柱稽古が始まってから約二月。

 

 

鬼舞辻無惨の鬼殺隊本部・産屋敷本家襲撃を皮切りに、最終決戦は幕を開けるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

血鬼術により、鬼舞辻無惨の隠れ家ーー無限城へと強制的に連れ込まれた鬼殺の剣士たち。

 

そのうちの一人、蟲柱・胡蝶しのぶは窮地に立たされていた。

 

 

「うーん此れで五回目。毒はもう尽きてしまったのかい?」

 

 

水に満たされた大きな部屋の中、女の鮮血と死体が散らばる、木橋の上。

しのぶが対するのは、上弦之弐ーー童磨(どうま)

 

頭から血を被ったような不気味な容貌の鬼は、多くの鬼を葬ってきたしのぶ特製の毒を食らっても死ぬ事はなく、徐々に速度を上げて解毒し対応していた。

 

しのぶは小柄な為か、鬼の頸を刎ねるほどの膂力が無い。

 

それを補う為、鬼を殺す毒を開発し、それを打ち込む為の剣技を編み出して力を高め、柱となった。

 

それが全く効果を発揮せず、(あまつさえ)え、童磨の血鬼術の一端である凍てつく血霧を吸い込んでしまい肺胞が傷つき、全集中の呼吸が苦しくなるほど追い詰められていた。

 

 

ーー最後の手段はある。しかし、それに縋る前に全身全霊で相手を倒す。

 

 

その意気込みで、しのぶは技を繰り出した。

 

蟲の呼吸・蜻蛉(せいれい)の舞い、複眼六角。

 

大量の毒を打ち込む六連撃。しかしそれも無駄に終わる。

六撃全てを打ち込まれても損傷はない。傷も毒も一瞬で完治する。

 

 

「いやあ本当に早いねえ。今まで会った柱の中で一番に早いかもね」

 

 

そう余裕そうに呟く童磨。そして、攻撃に集中しているしのぶが察する事も出来ない速さで鉄扇を振るおうとした。

 

このままだと致命傷を負いかねないしのぶ。

その彼女を救うように、童磨の攻撃を妨害するように。

新たな鬼狩りが戦場に現れた。

 

 

虚刀流、木蓮。

七の構え・杜若から放たれた飛膝蹴りが、無限城の壁を突き破り、鉄扇を振ろうとする童磨の首へと向かっていく。

 

 

突如現れた新手に対応せざるをえず、童磨は虚刀流の技を叩き落とすように振るう。

 

脚甲を両断せんばかりに振るわれる其れを、空中で迎撃する。

木蓮を繰り出した足とは別の足にて、虚刀流、鷺草(さぎぐさ)ーー上方から袈裟懸けに振り下ろされる蹴りを放ち、身体のひねりで鉄扇を回避しながら童磨の腕を凪ぐ。

 

曲芸じみた動きを想定していなかったのだろう。

童磨は鉄扇をもつ腕を折られ、しかし片方の腕で斬りつける。

しかしそこには、闖入者も、胡蝶しのぶも居なかった。

 

 

「この動き、見覚えがあるなあ。もしかして、()()()の鬼狩りかい? 今夜は本当に、珍しい事が起こる」

 

 

そうして、胡蝶しのぶを抱きかかえて安全圏へと避難した七花を眺めた。

 

 

「鑢さん、どうしてーー」

 

「動くな。あんたじゃ、あいつの相手は出来ねえよ」

 

 

そう言って七花はしのぶを降ろし、改めて童磨に向き直す。

 

 

「たしか四年前か。手ごたえが奇妙だったから、もしかしたと思ったけど、本当に生き残っていたんだねえ。それに、()()()()()()()()()()柱にでもなったのかい?」

 

 

そう微笑みながら話しかけた。

 

その言葉に、しのぶは改めて七花の前身を見やり、気づいた。

 

彼が羽織るのは、藤色の羽織。産屋敷家の人間がよく身に着けていたもの。

そして彼の腰から垂れるのは一房の白い髪。遺髪と思しきもの。

 

 

「そうそう君に聞きたい事があったんだ。なんで君は鬼狩りを続けているんだい? ()()()()が死んで、君はもう鬼狩りを続けている理由なんてないだろうに」

 

 

そう、言葉を続けた。

 

 

最終決戦の始まりは、鬼舞辻無惨が産屋敷本家に強襲をかけた時。

 

その場に居たのは、鬼殺隊九十七代目当主ーー産屋敷輝哉。その妻、産屋敷あまね。

そして、現当主の妹にして七花の妻ーー鑢ゆかり。

 

 

鬼舞辻無惨の襲来を予期していた産屋敷輝哉は、自らの命を囮にした作戦を計画しており、あまねは夫と運命を共にすべく同行。

作戦の成功率を上げるためと父母に連れ添うつもりだった輝哉とあまねの娘たちーー長女ひなきと次女にちかを言い負かし、自身が足止めに最適だとして、ゆかりは鬼殺隊本部に残った。

 

そして作戦ーー鬼殺隊本部である産屋敷家本邸全体を爆破させて鬼舞辻無惨を足止めし、協力者である鬼の珠世が特効薬を鬼舞辻無惨に見舞う。

珠世を吸収し薬を分解する為に足止めをくらう無惨に対し、集結した柱たちが攻撃を打ち込もうとしたところで無限城へと転移させられ、戦端は開かれたのであった。

 

 

「君は鬼に憎しみがあるわけでもない。恩があったかもしれない女は自爆して木っ端微塵だし、わざわざ自分の命を棒に振ってまで、鬼狩りを続ける理由があるのかい?」

 

 

ーーただでさえ短い命を無駄に散らすような馬鹿な事をした女なのに、それでも君は情を持っていられるんだね。素晴らしい愛だよ、と。

 

童磨は栄養価の高い女を優先的に食って、力を蓄えてきた。

その中には鬼殺の剣士であった者もいる。

食った者から読み取った記憶をもとに、童磨は感動するように声を漏らす。

 

 

その言葉に、しのぶは激しい怒りが沸き上がる。

この鬼は、触れてほしくない人の心を逆撫でするような、無神経な言葉で知ったように口をきく。

 

 

この鬼に殺された者の中には、しのぶの目の前で殺された者のように、ただ幸せに生きたかっただけの者も多かったはず。

それなのに、この鬼は自分勝手な理屈で人を食い殺し、これが救済だど宣うほどに厚顔だ。

 

鑢七花という鬼狩りの事を、しのぶはよく知らない。

姉が童磨に殺された時に居合わせた、しのぶと同じように生き残った者の一人。

 

ーーそして、最愛の妻の為に鬼狩りとなり、柱ならずとも鬼殺隊を支えた剣士。

 

そんな彼を侮辱するような言葉に思わず立ち上がりーー。

 

 

「本当に、ゆかりは馬鹿な女だよ」

 

 

と怒りを微塵も感じさせない言葉を口にした七花に、思わず上げた腰が止まった。

 

 

「ゆかりは自分の寿命が短いのは承知のうちだった。だから、家の事なんて放っても良かったんだ。家に縛られなくても良かったんだ」

 

「だけどよ。それなのに()()()は、幸せそうに笑うんだ」。

 

 

と、七花は力の抜けた姿で佇んだままだった。

 

 

ーー可哀想に。

 

 

と童磨は嘘くさい涙を流す。

 

 

「愛する人を失って悲しいんだね。自暴自棄になる事はないよ。今日で鬼狩りは全員死ぬんだ。すぐに君も楽にしてあげよう」

 

 

そう童磨は続け、しのぶが感知する事の出来ない速度で七花に駆け寄り、その首を落とそうとした。

 

 

童磨の敗因は、二つの事に気づけなかった事。

 

 

七花は無気力に佇んでいるのではなく、虚刀流零の型・無花果(いちじく)という構えを取っていたこと。

 

そして、彼の羽織った着物の襟から覘く胸元に、痣がある事を。

 

 

童磨はおそらく初めて、勘に頼って防御の構えをとった。

 

両腕を頸元で組み、後ろへと跳ねる童磨。

その腕を抉るようにへし折って千切れさせ、頸を中ほどまでつぶす掌底が、童磨に打ち込まれた。

 

虚刀流・一の構えから繰り出される、虚刀流の技で最速を誇る掌底。

 

虚刀流一の奥義ーー鏡花水月。

 

それが童磨に致命傷を与えんとしていた。

 

前回相手どった時、目にしていた技だったからだろう。咄嗟に防御が間に合った。

 

童磨の血鬼術である呼吸殺しの凍てつく血霧を、吸う間もなく技を放たれたのでは効果がない。

 

己を殺しうる可能性がある相手。

それを認識した時、童磨は七花相手に初めて血鬼術を使う。

 

血鬼術、霧氷(むひょう)睡蓮菩薩(すいれんぼさつ)

 

木橋を割り、飛沫を上げながら君臨する氷の大仏。

部屋を埋めつくさんばかりの氷の像が、部屋を凍てつく血煙で満たし、その巨体からは想像もつかない速さで攻撃を行い、七花を葬るだろう。

 

 

刹那の速度で大仏の手刀が振り落とされる直前、童磨は七花の声が明瞭に聞こえた気がした。

 

 

「ーー虚刀流最終奥義、七花八裂(しちかはちれつ)!!」

 

 

像に向かって、拳が放たれる。

それは像ではなく、その後ろの童磨の頸に威力が伝わった。

弾けるように、童磨の頸が千切れる。皮一枚でつながっている事が奇跡だった。

何が起こった、という間もなく大仏の手刀が打ち下ろされ、盛大に飛沫と木橋や死体の破片が舞う。

 

またしても勘に救われた童磨は、上からの衝撃が襲い掛かる。

完治した筈の両腕を掲げて防御した筈が、天井を足場にした前方三回転かかと落としによって断たれる。

 

後ろに下がろうとしたが、腰から下が動かない。

正確には、腰から真っ二つに胴体が切断され、下半身が置き去りになっていた。

 

 

そして追撃とばかりに双掌が肩に打ち込まれ、服ごと上半身の皮膚がはじけ飛ぶ。

 

予想できず味わった事のない激痛に思わず動きが止まった童磨に対し、頸を刈り取らんとする蹴りが、死神の鎌のように童磨の頸を狙った。

咄嗟に出した氷の槍を何本を叩き折り、頸を半ば斬り裂く。

 

鬱陶しいとばかりに、先ほどの掌底が童磨の顔面へと叩きつけられ、顔面を抉り貫通する。

 

そして間を置かずに放たれた貫手が、完全に童磨の頸を穿ち、その首を落とした。

 

 

上弦之弐は、ここに敗北した。

 

冷静に、あるいは冷徹に。

客観的に相手を見据え、情報を最大限に引き出して、自力で完膚無きまでに圧勝する戦い方をする童磨。

 

自分の命すらも他人事のように見据え、様子見をし先手を譲るような戦い方が、おそらく唯一の付け入る隙であったのだろう。

 

 

時間にすれば一分とかからず、戦闘を終えた七花。

 

 

その胸元ーー心臓の位置には、とある痣があった。

それは一見すれば家紋か、もしくは刀の鍔に見えるかもしれない。

 

 

七つの花弁をもつ花と、それをぐるりと丸く囲む円環の蛇。

 

 

それは七花と、とがめ(ゆかり)を暗示するものだと気づける者は、誰一人としていない。




■こそこそ噂話
各奥義の独自解釈

・二の奥義、花鳥風月
牙○零式。コークスクリューブロー。貫通力による攻撃力強化と「防御不能」を体現する貫手。全身を捩じる筋肉の最適な連動が必要な事から、良きものを羅列した”花鳥風月”を連想し命名

・三の奥義、百花繚乱
剣士殺しの蹴撃。アニメでは膝蹴りで表現。達人ほど技の起こりや動きが見えず惑わされ、その蹴りの予測が百様に見える事から百花繚乱と命名。

・六の奥義、錦上添花
超至近距離で放たれる横版のホワイト○ァング+ワンインチパンチ。アニメでは肩への双手刀として表現。必殺の一撃をさらに重ねることから、錦上添花と命名。


・最終奥義 七花八裂
虚刀流の一から七までの奥義を、一瞬と呼べるほどの短い間に連続で繰り出す。
その組み合わせは7!=5040通りもある。
童磨への攻撃は、4→7→6→5→3→1→2の順で行われた。
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