もうひとつのソラ   作:ライヒ

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にじファンからの転載となります。

改稿完了


第一章 他愛のない日常と少女の日記
第一話 前編「晴れ・今日はつなに家庭教師が出来ました。」


 

 

 

 

 

 イタリア。ヨーロッパにある半島で、長靴型の形をしている。人口はおよそ六千万人、首都はローマで、現在EU加盟国である。普段はきれいな風景で多くの観光客を集める観光名所も多い。……問題と言えばスリや犯罪が少しだけ多く、治安の面で心配な所か。

 

 そして、この国には裏の顔がある。

 

 裏の社会において絶大な力を持ち、時には国家さえも影から動かすことができるほどの組織、マフィア。イタリアはそのマフィアの総本山のような場所という、とてもデンジャラスな一面も併せ持っていた。

 そのイタリアにて、事情を知る裏の人間達が集まる吹き溜まりのような場所に、一人の赤ん坊がやってきていた。仕立てのいい黒いスーツに帽子、その上にはなぜかカメレオンが乗っている。そんな彼が店に入ってきた途端に、荒くれ者たちの視線が集中した。

 彼の名をリボーン。

 見た目は小さな赤ん坊だが驚くなかれ、こう見えても裏社会では一大マフィアのボスに一目置かれている存在である。

 

「リボーンか……。しばらくぶりだな、今日は何の用事だ? またオヤジからの呼びだし……だろうな。おまえはオヤジのお気に入りだからな」

 

 その中の一人がリボーンに話しかける。ちなみに、「オヤジ」とは簡単にいえばマフィアのボスの事。彼らの親しみと敬愛の念、そして忠誠心と信頼を込めた最上級の呼び名だ。

 

「ああ」

「何飲む? あんただったらツケでいいぜ」

「エスプレッソ。今日は仕事だからな」

 

 注文を聞きに来たマスターに何故かバーなのにコーヒーを頼みながら、男の問いかけにリボーンはそげなく返す。そしたらその男の隣の席に座っていた別の男が幾分からかいの感情を含めて問いかけた。

 

「あいかわらず、人気者はつれぇなー? んで、今度はどこだ? ローマ? ヴェネチア?」

 

 イタリアにある主要な都市の名前を羅列した男に、リボーンは一言。

 

日本(ジャッポーネ)だ」

 

「!!」

 

 ざわり、とその一言を口にした瞬間、周りの空気が総毛立つ。日本、彼が口にした言葉には、それ相応の重みがあった。

 

「なに……!」

「オヤジの奴、とうとうハラ決めやがったのか……!」

 

 ざわ、ざわ、と波紋のように騒ぎは広まる。声は反響し、跳ね返り、満たしていく。

 そして声の洪水の中、リボーンはポツリと。

 

「長い旅に、なりそうだ」

 

 そう呟いた。

 

 

 

 

 

第一話 前編「晴れ・今日はつなに家庭教師が出来ました。」

 

 

 

 

 

「桃凪ー、パス行ったー!」

「え、あ、うん」

 

 ふわりと飛んできたボールをこれまた軽く味方に飛ばす。流石に選んで飛ばせるほど器用ではないので、かなり適当だ。

 今は体育の時間、今日はバスケなのだが、男子と女子に分けてやるのは学校の恒例だろう。

 彼女、沢田(さわだ)桃凪姫(とうなひめ)は運動が得意というわけではなく、むしろ苦手な部類に入る。そんな彼女にとってこの時間は正直言って退屈以外の何物でもなかった。

 まぁもっとも、あちらに比べたら失礼な話なのだろうが。

 飛んでくるパスに悪戦苦闘しながら桃凪が見た先、そこには。

 

「ツナ! パスパス!!」

「えっ!? う、うわ……! ぐぇっ!?」

 

 ふわふわと逆立った癖っ毛が特徴の琥珀色の髪の少年……彼女の双子の兄である沢田(さわだ)綱吉(つなよし)が、ボールを顔面でキャッチしている所だった。

 桃凪は何でも出来るというほど万能でも天才でも無いが、それでも人並みには出来る方だ。しかし、ツナはまったくと言っていいほど取り柄も長所もない。勉強もダメ、運動もダメ。ついたあだ名が『ダメツナ』。

 しかも本人がそれを自覚しているのに直そうとしない所がなお(たち)が悪い。ゆえに周りの人間はどうにかしようと奮闘するわけなのだが、桃凪は特にそういうことをしようとは思わなかった。

 周りが何を言おうと、本人が変わろうと思わないうちは何をどうやってもダメなものはダメなのだ。ツナにしたってそう、自分で出来ないと思っているうちは出来ない。

 しかし、どうにも出来ないことこそどうにかしたいと思う心理は確かにある。こういう時に一番必要な処置は、これまでのすべてを丸ごとひっくり返すような、ええとそう、ショック療法。

 たとえば、そう――。

 一度死ぬくらいのショックがあれば、変わるのではないかな。と思う。

 

 

 

 

 

「ったく、お前のせいで負けたんだからな! 責任取れよー!!」

「ご、ごめん……」

 

 体育の終わり、結局何の役にも立てないどころかむしろ足を引っ張っていたツナに向かっての罵詈雑言。ツナもツナで反論できる理由が見当たらない。

 

「と、ゆーことでお掃除頼める? オレ達放課後は遊びたいからさぁ」

「ぅえっ!?」

 

 驚き、顔を上げたツナの目の前にはお掃除モップ。まさかこの広い体育館を一人でやれと。

 

「んじゃ頼んだぜダメツナー!」

「今日何処行くー?」

「ゲーセン行こうぜ!!」

「ちょ、ちょっと待ってよー!!」

 

 ツナの引き留めにも聞く耳持たず、いつしか体育館はツナ一人だけになってしまった。

 それでも渋々とはいえ掃除を始めるツナ。掃除中の愚痴には終わりがない。

 

「はいはい、どうせオレは馬鹿で運動音痴ですよー……」

 

 そんなツナがなぜ学校に来ているか、その理由は一つ。

 体育館の外から聞こえてきた無邪気な笑い声。それを耳にした途端にツナの顔が明るくなる。体育館の窓の外から見える景色には、二人の少女が並んで歩いていた。ショートカットの少女と、黒髪の少女。ツナの目線はショートカットの少女の明るい笑顔に向けられていた。

 ツナが学校に来ている理由はただ一つ。笹川京子が見られるから、だ。

 京子は簡単にいえばツナのクラスメイト。かわいらしい顔立ちと誰にでも向ける無邪気な笑顔。ツナの他にも密かに思いを抱いている人物もいるのではないだろうか。もっとも、本人はそれに全く気付いておらず、周りから言わせればその天然なところもイイ、のだろうが。

 

「あー……、やっぱかわいいなー……」

「ちょっとそこのお兄さん」

「ほわぁっ!」

 

 ほわほわとしていた所にいきなりの呼びかけ。思わずツナの口から意味不明の叫び声が漏れ出る。

 

「誰見てたのー?」

「な、何だ……、桃凪か……驚かせるなよなー」

 

 後ろを見たツナの目に入ったのは自分の双子の妹。小さい頃はよく、妹の方がしっかりしてると言われたものだが。いや、それは今も変わらずか。

 驚くツナの事は全く気にせず、桃凪は窓の外を見ると。

 

「ふむふむ、なるほどー。きょーこちゃん見てたんだ」

「そ、そうだけど……」

「きょーこちゃんいい子だもんねー?」

「そ、そうだね……。……あのさ、桃凪」

「ん?」

 

 いつの間に後ろに来たのかとか、その何か含んだ視線は何だとか、色々言いたいことはあるが、とりあえず一番言いたいことは一つ。

 

「……背、足りないんなら踏み台とか持ってきたら?」

「…………ほっといて欲しい。見えるのだから問題ないし」

 

 実を言うとこの妹、かなりのミニサイズだ。決して大柄とは言えないツナよりさらに頭一つ分小さい。多分小学生と言えば通ってしまうのではないだろうか。そしてそんな妹が窓の外をのぞき見るために目いっぱい背伸びしている光景は、正直言ってなんか痛ましく思えてくる。

 

「いやでも、結構足とか震えてるし」

「……あ!  だれかきたみたいだよ!」

 

 見ていてわかるくらい思いっきり話を逸らされた。普段は「身長なんて気にしてるわけねーだろ」みたいに構えてはいるが、意外と気にしてはいたらしい。少なくとも、指摘されれば不機嫌になるくらいには。

 ツナはしばらく胡乱げな目線で桃凪を見つめていたが、とりあえず窓の外に視線を移す。そこには。

 

「おまたせ京子!」

「あ、持田センパイ」

「それじゃ私行くねー。二人の邪魔したら悪いし?」

「む、もー花ったらー」

 

 ちょうど京子の待ち人が来ていたらしい。一緒にいた子が含み笑いしながら離れていった所を見ると、どうやらそれっぽいあれなのだろうか。

 

「んーと、あの人剣道部の主将だっけ。なんなんだろーか、付き合ってるのかな。……つな?」

 

 すぐそばで見ていたツナの方を振り返ると、何というか、がっくりと言うかズーンというか、とにかくそんな効果音が見えそうなくらいに落ち込んでいた。

 

「つなー?」

「やっぱ剣道部主将とできてたんだ……」

 

 桃凪の声もどこ吹く風。どうやら、かなり沈んでいるらしい。

 やがてツナはふらふらと立ちあがるとそのままモップを放りだし、見ているこちらが不安になるようなおぼつかない足取りで歩いていく。

 

「つなー、つなー。掃除は?」

「いい……サボる……」

「学校はー?」

「サボる……」

 

 失意のどん底にいる人間に何を言っても無駄、そのまま体育館をあとにしたツナ。残されたのは桃凪一人。

 

「……、しょーがないよね、うん」

 

 よし、と気合を入れなおすとモップを手に取る桃凪。このあと何をするかは、言わなくても解るだろう。

 彼女にとってこういう行動はさして珍しくもない。ツナが投げ出したりしたことを後からやってきて終わらせるのは、半ば彼女の義務と化していた。

 と言っても、多分桃凪は他の人の分をやれと言われた場合は渋るだろう。ただの便利屋ではなく、彼女が動くのは、あくまでツナのためだ。

 

「……うむ、上出来」

 

 数十分後、それなりに綺麗になった体育館の真ん中で汗を拭う仕草をする桃凪。その言葉通りに、体育館は初めと比べてわずかに綺麗に見えるかもしれない。あくまでも、かもしれない、だが。

 

「……まぁ、体育館なんてそんなに隅々まで見る人いないだろうし、……うん。問題ない」

 

 軽く自己完結してから掃除道具を片づける。

 さて、時間は放課後。特に部活などには入ってないためこのまま帰ってもいいが、まだ一つだけ仕事が残っている。ツナとは全く関係のない、しかしある意味どうしてもしなければならない仕事が。

 

 

 

 

 

「うわー……」

 

 教室に来て早々呟いたのがこれとは如何なものかと言われるかもしれないが、それは許して欲しい。

 だって、あの広い体育館を一人で掃除してきた帰りにこんなものを見せられては、怒るか泣くか呆れるかぐらいしかすることはないだろう。というより、これで笑い出す人間がいたらそれはもう色々キマってるに違いない。具体的に何が、とは言わないが。

 

「今日もまた多い……」

 

 目の前には書類、書類、書類の山。机の耐荷重量は何キロだっけ? と思いたくなるような枚数である。いや、もはや枚数ではなくセンチやメートルの単位で表した方が適切かもしれない。

 言っておくが、この書類、別に桃凪が片づけるのではない。ある人物へ届けるためのものだ。

 

「これは紐とかで縛ってまとめた方がいいよね、途中でぶちまけたら洒落にならんし」

 

 ちなみに、こうなることは半ば予想済みだったのでもう先生に頼んでビニール紐を貰ってきている。貰いに行った先生が何に使うのかといぶかしんでいたが、事情を説明すると真っ青になってよろしくお願いしますと頭を下げてきたので、正直反応に困った。

 とりあえず目の前にある紙束をとりわけてまとめていく。結構な枚数だが、頑張れば運べるかもしれない。

 

「うん、いける。頑張れ私、いけるいける」

 

 と自分に自分で自己暗示をかけながらも束を抱えると、やはり重い。桃凪はあまり力がないからなおさらだ。

 

「んぐ……大丈夫……距離はそんなにないから……大丈夫…………」

 

 言いながらも足取りはまるで先程のツナの如く。おぼつかないどころかいつ転ぶのかわからない。

 それでもふらふらと歩きながら言った所は応接室前。普段はとある理由があって通る人があまりいなく、もしいても早歩きで通り過ぎる場所だ。

 応接室の扉の前に立って、重大な事に気付いた。

 

「……どうやって扉開ければいいんだろうこれ」

 

 シミュレーション開始。

 手・両手ともにふさがっていて不可能。

 足・女の子として却下。

 頭・そもそもどうやって?

 体・体当たりの結果弾き飛ばされる未来しか予想できない。

 結論、不可能。

 

「扉の前に置いたら怒られるかな……」

 

 と、何やら不穏な事を呟く桃凪。ツナほどではないが、彼女も彼女で適当だ。

 

「いいかなー……? いいよねー……? わざわざこんな紙束に変な事する人なんていないと思うし……」

「……何やってんの? 君」

 

 桃凪の目の前でベルリンの壁の如き威圧感を持って佇んでいた扉がいとも簡単に開き、そこから学ランを着た黒髪の少年が。

 

「……あ、きょーや。お久しぶりです」

「昨日の放課後会ったばかりだけど」

 

 彼の名は雲雀(ひばり)恭弥(きょうや)。並盛中風紀委員長でありながら、不良の頂点に君臨する存在だ。

 彼こそが実質的にこの並盛中を、というより並盛町全体を取り仕切っているといっても過言ではない。

 その上『群れる』事が何よりも嫌いだと自分で豪語するだけあり、彼の目の前で少しでも『群れ』に値する行為をした者たちは例外なく潰されている。しかもこれで子供っぽい一面があり、気にいらなければ問答無用で『咬み殺される』。それゆえ、周りの人間からとてつもなく恐れられている。

 桃凪に風紀委員への書類運びの仕事が回ってきているのも簡単だ。出来れば雲雀に近づきたくない、だから他の人に任せたい、でもその人も怖がる。しかし書類が滞ってはいけない。その結果、特に雲雀を怖がらない桃凪にお鉢が回ってきたのだ。

 桃凪は雲雀を怖がらない、というより雲雀の評判やその他もろもろを気にしてない。そして雲雀も雲雀で桃凪の接近を許しているフシがある。何故かは解らないが、ある意味適任と言えるだろう。

 

「とりあえず、書類……」

「……君、前見えてないみたいだけど。そんな状態でよく来れたね」

「もう道を覚えてしまったからー」

 

 雲雀に開けてもらった扉をくぐり応接室に入る桃凪。相も変わらず応接室には雲雀以外誰もいない。群れるのが嫌いな彼らしい部屋だ、と思う。

 ふらふらと一番大きな机に近づいてゆっくりと書類を乗せる。その瞬間今まであった重りが消え去ったような感覚と共に、一気に体が軽くなった。

 

「あー、私は今……自由を手に入れた気がする……」

「何言ってんの君」

 

 訳のわからない桃凪の一人言にも律義に突っ込みを入れながらも、雲雀は積み上げられた書類の数枚を手に取る。

 しかし見れば見るほど凄まじい書類の量だ。なぜ風紀委員会にここまでの量の書類が集まるのか。いやまあ雲雀に常識など通用しないというのは百も承知だが。この間はバイクに乗っているの見たし、いいのか中学生。始末書……はたとえ地球が一巡してもあり得ないだろう。雲雀にそんなものを持ってくるはずがない。

 というより、雲雀はちゃんと仕事をしていたのか。てっきり部下に全てまかせっきりで自分は悠々自適に屋上で昼寝とか……。その瞬間、背筋になにかざわりと悪寒が。発生源は……きょーや?

 

「……言いたいことがあったら、はっきり言ったらいいと思うよ」

「ん、ちゃんと仕事してたのかー、と思って」

「……、」

 

 普通の人間ならこれだけ殺気を浴びせられれば真っ青になって口をつぐむものを、あっさりすっぱり言いきった。気づいてないわけでもあるまいし、気にしてないというのが一番適切な言い方だろう。

 

「んー? 何?」

「……いや、何でもないよ」

 

 何かタイミングをずらされた雲雀が若干不機嫌そうにもう一度書類へ目を通す。その様子を見ていた桃凪が何を思ったか。

 

「手伝おーか?」

「僕は群れるのが嫌いだ」

 

 今度は書類から目をそらさず言い放つと、桃凪は少しだけふむふむと考えた後。

 

「んー……」

 

 書類を数枚だけ手に取ると応接室の一番隅っこにちょこん。

 しかもそのまま書類を見つめ、なるほどなるほどそういうことかとペンを片手にさらさらさらり。

 

「……、」

 

 流石にこれは疑問に思った雲雀、もう一度書類から顔上げる。

 

「……何やってるの?」

 

 多分その言葉の中には、何を考えてるの? と、人の話聞いてた? の二つの意味が隠れているのだろうが、桃凪はそれを気にしない。気がつかないのではなく、気にしない。

 質問すれば桃凪が顔を上げ。

 

「だって、きょーや群れるの嫌いらしいから」

 

 それだけポツリと言った後にすぐに顔を書類に戻す。

 

「……」

 

 いや、それだけで片付けられても困るのだが。

 

「……だったらなんで出ていかないの?」

「出ていく必要あるの?」

 

 一応そういう意味で言ったのだが。

 

「詳しく説明するとね、きょーやは群れるのが嫌い、でもきょーやの手伝いがしたい、距離を離してれば群れには値しないんじゃないかと思ったの」

 

 ばばーん、と明かされた知りたくもなかった新事実。当の桃凪は褒めて褒めてー。と小動物の如きキラキラ目線。ちなみに、応接室はかなり広いので一応数メートルは離れている。

 

「……」

 

 もはやここまでくれば怒りを通り越して呆れるしかない。なぜここまで天然なのか、屋上辺りから他の草食動物と群れてる姿を見た時はもう少し真面目そうな感じがしたのに。もしかしたら人によって接し方が違うのだろうか。

 しかし、雲雀も雲雀で我が道を行くMr.(ミスター)going(ゴーイング) my(マイ) way(ウェイ)。疑問は疑問のまま処理され、深くは考えない。

 

「はぁ……」

 

 まぁいいか、困るわけではないし。と思い至った雲雀は再び書類に目を通し。なんかめんどくさくなってきた、草壁辺りに任そうかなどと委員長にあるまじき事を考えながらも仕事仕事。桃凪も頼んでないのに手伝ってくれてるし、これなら今日中に終わると思われる。

 それに、二人なら群れではない、し。

 

 

 

 

 

 結局かなり夕方になってしまった。

 

「書類はすごい……結局全部終わらないのにきょーやにまかせて出てきてしまった……」

 

 そこまで暗いというわけではないが、いつも帰る時間よりはやはり暗い。

 

「……ま、いっか。きょーやの役にも立てたし」

 

 思えば不思議な縁だったと思う。自分と彼は。

 たまにだが、桃凪は一人でゆっくりしたくなる事があって、そういう日には散歩しながら適当に並盛で人の少ない所を探すのだが、……なぜか、いつも狙い澄ましたようにそこに雲雀がいるのだ。一人で居たい者同士、思考回路が似るのだろうか。

 まぁ最初は間の悪い時に来ちゃったなとか思ったが、そんなことでも繰り返せばいつしか慣れる。といっても、別に話しかけたりしたわけではなく、居るのがなんとなく予想出来るようになった、と言うだけだが。

 そして並盛中に入って風紀委員会への書類運びを頼まれた時、初めて入った応接室にいたのには驚いた。あちらもあちらで自分がいたのには少し驚いていたみたいだが。なんというか、世間って意外と狭いんだなーと思ったのを覚えている。

 ……なんで小学生がここに? みたいなことも言われた気がするが、そういうことは覚えてるだけ無駄だと判断します。

 

「……あ」

 

 昔の事を考えていたらいつの間にか家の目の前に居た、ツナはもう帰ってきてるだろうか。

 

「ただいまー」

「あら桃凪! おかえりなさい」

「うん、ただいま」

 

 玄関の扉を開けると、自分の母親の沢田奈々が迎えてくれた。ツナは結構鬱陶しがる時も多いが、自分にとってはいい母親だと思う。父がいないという環境でここまで二人を育て上げた手腕は尊敬したいものだ。

 

「あ、そうそう桃凪」

「ん?」

「今日ね、ツナに家庭教師の先生が出来たのよー」

「つなに?」

 

 これはまた嫌がりそうな。

 

「ツナの成績が上がるまで住み込みで暮らすことになったのよ」

「ほぇ……住み込みとはまた珍しい」

 

 ということは今二階にいるのだろうか。

 そこはかとない興味をそそられた桃凪はいつもより速足で階段を上る。おそらくツナの部屋あたりだろう。そう考え扉を開けた桃凪の目の前には、

 ……なんか、この世の終わりかと言うぐらい混乱したツナがいた。

 

「……ちょっと、何があったん「と、ととと桃凪! どうしよう…!」……どうしたの?」

 

 なにやらいつもの数割増しの勢いで慌てるツナをなんとかなだめすかして事情を聞くと。

 

「笹川京子に…………告白しちゃったぁああ!!」

「……は?」

 

 何故に?

 

「……あのヘタレつなが何でそんな無謀な事を…」

「オレのおかげだぞ」

「え……?」

 

 

 ――後編に続く。




前編は終了です。
見返してみると、初期はまだキャラクターが定まっていないですね……。
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