○月◎日
体育祭の季節です。
ええ体育祭です。これでもかというほど体育祭です。滅べばいいのに。
運動が苦手な私にとって、体育祭は憂鬱でしかありません。準備は楽しくて良いですが、本番は少し……。
体育祭ではA・B・C組にわかれて戦うのですが、男子で行う棒倒しの時などはもう大変です。いっぱい怪我人が出ますので、今すぐ治しに行きたくなります。
きょーこちゃんが、りょーへいさんの事が心配だって言っていました。確かに私も心配です。いろんな意味で。
だって、あのりょーへいさんが代表なら、つなにどんな事が起こるか。
と思っていたら、ツナが棒倒しの大将にされました。
救急箱、補充しようかな……。
第十一話 「月のお小遣いの少しは絆創膏に使います。」
「つな、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……」
体育祭当日。ツナは明らかに具合が悪そうだった。
それというのも昨日、棒倒しの練習とかいうのを河原でやった時に、誤ってツナが川に転落してしまったからなのだが。
「しっかり。つなが具合悪いと何故か私まで悪くなる」
「うへぇー……」
こんなんで大将が務まるのだろうか。
しかし、今はツナの事を心配している余裕はない。
何故かというと、桃凪の運動音痴はクラスでも知れ渡っているが、やはり体育祭という行事の上では最低でも一つは競技に出なければならないからだ。
そして桃凪が出る事になった競技とは。
「……男女混合、二人三脚」
並中の二人三脚はかなりの変則ルールだ。
男女ペアでやることもそうだが、選手は男女別のくじを引いて同じ数字となった相手とペアを組む。
事前練習ができない分、かなりのチームワークが必要になるルール。
ちなみに、この時は学年の壁は全て無くなる。ある意味、友好を深めるには最適かもしれない。
「次、引いてください」
「はいー」
箱の中に手を突っ込んで紙を一枚取り出す。書かれていた数字は十番。さて、誰と一緒になるのだろうか。
(できるなら、つなとがいい)
それだったら息の合ったコンビプレイを披露できるかもしれないのに。いや、二人してコケる可能性の方が高いか。
とりあえず、知り合いを探そう。
「はやとー、何番?」
「五番っス」
違う。
「つなー、何番?」
「二番……」
違う。
「りょーへいさん、何番ですか?」
「極限に三番だぁ!!」
違う。
「たけしー。何番?」
「十番だな」
「!」
どうやら自分の相手は山本らしい。
さて、どうしよう。
まず、歩幅が違いすぎる、ついでに身長も。さらに付け加えると運動音痴と運動が得意。これでは足を引っ張ってしまうだけだ。
いや、待て。
「……あ」
あるじゃないか、一番良い作戦が。恰好を想像して見るとかなり間抜けな図になりそうだけど、これしか方法がない。
「……という作戦でいこうと思うのだけど」
「いけんのか?」
桃凪が話した作戦に山本は不思議顔で答える。こちらの目線と会わせるようにしゃがまれているのが何か微妙な気分だが、まぁいいとして。
「鍵はたけしだから。私にできることはあんまりない」
つまり、一緒にやれば山本の足を引っ張る事になる。
ならば、一緒にやらなければいいのだ。
「がんばれ、たけし」
「それでは、位置についてください」
先生の言葉と共に辺りに緊張が走る。
「よーい、ドン!」
パァン! というピストルの音と共に競技が幕を開けた。
『ほら、急いで!』
『う、うん!』
やはり、大多数のチームは男性が女性をリードする方式。掛け声をかける者、手を叩くもの、それぞれ思い思いの方法で息を合わせようとしている。
しかし、その中から一気に抜き出たチームがいた。
山本、桃凪チームだ。
「おっ
「さきー……」
走り方としては、桃凪が結ばれてない方の片足を宙に上げ、そのまま山本に体重を預けしがみつく。
こうすれば相手側のスピードで走る事が出来る上に片方にそこまでの疲労はやってこず、しかも少しバランスに気をつければいいだけでチームワークはそれほど必要ない。
そしてもとより足が速い山本の事だ、あっという間に他のチームと差をつけ、ゴールテープを切った。
「よっしゃ!!」
「あー、終わったー……」
走り終わった後ガッツポーズを決めた山本は桃凪の足と結ばれていた紐を外して自軍へと走ってゆく。
そして桃凪はもはややるべきことはやったというような感じで自軍の観覧席へと歩いて行った。
思うことは一つ。
「早く終わんないかなー……」
本当に、自分の苦手な事に関しては興味がない桃凪である。
「いやー……まさかあそこで乱闘が起きるとは」
「何言ってんだ、後半ほとんど寝てたくせに……」
ツナが棒倒しでボロボロになった体でうめきながらそんな事を言う。
リボーンの策略五〇%と獄寺・了平の暴走五〇%で相手側の大将が気絶してしまい、しかもそれがツナのせいだという事になってしまった。
そのためにB軍、C軍連合VSA軍とかいう大惨事になってしまったわけだが、途中まではいい所までいっていたのだ。いったのだが、不仲が原因で結局は敗北してしまった。
桃凪は持ってきた救急箱片手に素早くツナの治療をしながらも会話を続ける。
「だって私の番終わってた、しっ!」
「いだだだっ!! し、染みる染みるっ!」
「風邪で具合悪かったにもかかわらず言いだせなかったどこかの誰かに対するお仕置き」
びみょーにだが、桃凪は怒っているらしい。
「具合悪い時点で言えばよかったのに、なんでそこで我慢するのかな。言いだせなかったとしても、ちょっと具合悪いから実力発揮できないかもくらいは」
「あの……桃凪?」
「何?」
「もしかして、心配してくれてる?」
ぷぎゅる、と桃凪が手に持っていたジェル状消毒薬が握りつぶされる。
「……な、ナニヲイイダスノカナツナハ、ソンナコトアルワケナイジャン」
「あー、うん。わかりやすいなー……」
苦笑いをしながら目線の泳ぐ桃凪を眺めるツナ。桃凪は嘘がヘタというわけではないのだが、いきなりの事だったので驚いてしまった。
もっとも、表情を変えずに言った嘘であろうとも、ツナは見きってしまうだろうけど。
「むー……」
「はいはい」
ムクれた桃凪の頭を撫でるツナ。こういうときは本当にツナはお兄ちゃんで、桃凪はそれが少し気にくわない。
だって、産まれた時間なんてほとんど同じなのに。こういうときはいつもツナは自分の前を行く。
自分は、ツナの隣を歩きたいのに。
「……治療終わったよ」
「ありがとな」
ぱたん、と救急箱の蓋を閉じる。
頭上には、一面の青空が広がっていた。