もうひとつのソラ   作:ライヒ

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第十三話 「再開というのはいつも突然です。」

 

 

 

 

 

 ○月Π日

 

 いーぴんがド近眼だった事が判明。道理で間違えるはずですよ。あと女の子でした。こちらにも驚き。それとといーぴんとらんぼは仲が悪いみたいです、仲良くしなきゃダメですよ。

 それと、きょーこちゃんとはるがいつの間にか知り合ってたみたいです。二人ともケーキが好きみたいなので、今度一緒に行こうと思ったのですが、二人は当分ケーキは食べないらしいです。何かあったのですかね?

 

 

 

 

 

第十三話 「再開というのはいつも突然です。」

 

 

 

 

 

 えー今の状況を簡単に説明しますと、家の前にたくさんの強面で黒服の方たちが勢ぞろいしております。

 

「……えー」

 

 あまりといえばあまりな状況に思わず絶句する桃凪。黒服って、黒服って。

 

「あ、あのー……」

 

 恐る恐る近くにいる人(こちらも黒服)に声をかけてみた所、沢田家以外の者は通さないと言われたが、自分が沢田桃凪姫であるという事を伝えるとあっさり通してくれた。

 

(……見た目ほど怖い人達でもないのかな?)

 

 人は見かけによらないとよく言われるが、あの人達はその典型だったのだろうか。いやでもなんだかさっき目に入ったけど銃の手入れを道端でしてる人とかもいたし…。

 ぐるぐると思考の迷宮に入っていく桃凪と、そんな桃凪を心配しているのか、柔らかく頭を撫でてくれる黒服の皆さん。あ、やっぱり優しい人達なんだ。

 

「ただいまー」

「おう桃凪、帰ったな」

「せんせー? あの人達は?」

「エスプレッソ淹れろ」

「……うん」

 

 質問を軽くスルーされた挙句アゴで使われる桃凪。だが何も言わない、リボーン相手に言えるはずが無い。

 

「二人分な。なかったら紅茶でいーぞ」

「? うん」

 

 お客様でも来ているのだろうか。聞き返す前にリボーンはそのまま二階に昇ってしまったから、まぁいいかと考えてコーヒーと紅茶を淹れる。

 二階に上がって耳をすましたところ、どうやらリボーンとそのお客様がいるのはツナの部屋らしい。

 こんこん、と軽くノックすると、いつものリボーンの声と、陽気なお兄さんの声。

 

「失礼しまーす……」

 

 いつもツナがいる時はノックしたり声掛けたりはしない桃凪だが、今日はお客がいるので別。ドアを開けると、テーブルの前にいるリボーンと、なにやら外から持ち込んだらしき真っ黒いイスに座る。

 

「よっ」

 

 金髪のお兄さん。

 

「……どうも」

 

 …………どう……反応したらいい?

 

「桃凪」

「あ、うん……」

 

 桃凪を見上げるリボーンに促され、座った桃凪はリボーンにはエスプレッソを、金髪のお兄さんには紅茶を、それぞれ目の前に置く。ちなみに自分はどさくさにまぎれて作っておいたココアを。

 

「……はじめまして?」

「おう、はじめまして。ボンゴレの次期補佐さん。オレはキャバッローネファミリー10代目ボスのディーノだ」

「あー、なるほど」

 

 さらりと言われた問題発言をそのままさらりと流した桃凪に目を丸くするディーノだが、一拍置いてそのまま笑いだした。

 桃凪としては、ディーノの言っている事が本当なのだとしたら外にいる黒服の人達の事も容易に受け入れられるし、あのリボーンのお客さんなんだからそのくらいは普通なのではと思っていたし、なによりもディーノの纏う空気がそんじょそこらにいるではものではない感じがして……。

 そう思っていた故の反応なのだが、どうやらディーノからしたら意外な反応だったらしい。

 

「ははっ。中々度胸があるじゃねーか、リボーンもいい教え子持って幸せだろ?」

「問題無さ過ぎてむしろつまんねーくらいだぞ」

 

 撃ちがいがねぇ。と銃を持ちながらどことなく残念そうな顔を浮かべるリボーンに、桃凪とは言わずディーノまで頬をひきつらせた。

 

「そ、それでー……。で、でい……でぃーのさんは何でツナの家に?」

「え、あ……おう」

 

 話をそらそうとディーノに質問する桃凪。途中で名前が難しくて呼べないため所々噛んでしまったが、どうやらスルーしてもらえた様子。……それとも名前を間違えるような年齢の子供だと思われているのか…もしそうだったら後から訂正しなくては。

 しかし、わざわざ遠くからこのような大所帯でやってくるからにはそれなりの理由があるわけで、しかもそれがマフィアがらみになれば必然的に危険度は増しそうな予感がする。

 来たるべき衝撃に対して驚かないと決めた桃凪は緊張しながらディーノの言葉を待った。

 そしてディーノは、

 

「いや、別に遊びに来ただけだぜ」

「へぇー……へ!?」

 

 あまりと言えばあまりな発言に思わず桃凪は心の中で「そりゃないだろ」と突っ込んでしまったという。

 

 

 

 

 

「なるほど……兄弟子さん……」

「まっ、そういうことだな」

 

 その後の説明によると、なんでもディーノはリボーンの元教え子で、つまり桃凪達の兄弟子に当たるという。

 それで弟分の様子を見にわざわざ遠くからここまでやってきたとの事。暇なのかとも思ったが、あんな大勢で来るからにはそれなりの準備もしているのだろうし、まったくの暇というわけでもないのだろう。いや、あんだけ色々準備してやることが人に会いに来るだけなのだから、やっぱり暇なのか……?

 ところで、

 

「あの……、でぃーのさん」

「何だ?」

「…………何ですか? この態勢」

 

 そう、いま桃凪はディーノの膝に抱えられている状態である。

 膝に抱えられている状態である。

 

「なんつーかさー、町にいるガキ共思い出してよ」

 

 そのままなでなでと頭を撫でてくるディーノ。

 解せぬ。

 

「……私は、中学生、なのですが」

 

 決して小学生ではない、思春期真っ盛りの中学生だ。子供扱いは(確かにまだまだ子供だが)止めて欲しい。

 どうしたものかと悩んでいる桃凪はそのままディーノに背中を預けるように寄りかかる。ふと、ディーノの懐で何かがごそごそ動いているのに気づいた。

 

「……?」

「お、起きちまったみてーだな」

 

 そういいながらディーノが懐より取り出したのは、

 

「かめ?」

「ん、ああ。こいつはカメのエンツィオって言ってな、リボーンから貰ったんだ」

「へー……」

 

 物珍しさからか、そーっと桃凪が指をエンツィオに近づけてみると、

 がちんっ

 さっ

 

「…………」

 

 近づけてみると、

 がちんがちんっ

 さっさっ

 

「…………、」

 

 とにかく、気性が荒いという事だけは分かった。噛まれそうになったし。

 

「寝起きで機嫌悪いみてーだからあんまり触んない方がいいぜ」

「はー」

 

 そういえば、忘れていたけどツナはどこに行ったのだろう? いや忘れていた自分が言える事じゃないのだけど。

 すると。

 

「ごめんなさいね、手間かけちゃったでしょう?」

「い、いえいえ」

 

 ドアの向こうから聞こえるのは聞きなれたツナの声と、どこかで聞いたような。

 

「リボーン!! どういうことだよこれは!?」

「あらあら、ずいぶんディーノと仲良くなったのね」

 

 そこにいたのはツナと、

 

「りーた、さん?」

 

 年齢所属その他一切不明の麗しの美女は、にっこりとほほ笑んでいた。

 

「遅かったじゃねーか、姉貴」

「あ、姉……!?」

 

 いきなりの再開に呆然としている桃凪に、更に畳みかけるように情報が入ってくる。確かに、二人の顔立ちやら何やらを見比べてみると、かなり似ている。これなら姉弟でも納得できるが。

 しかし、もしそうだとすると。

 

「じゃあ……りーたさんが言ってたダメダメな弟ってでぃーのさんの事…?」

 

 ぽつりと、思わず考えていた事が漏れる。

 

「……おいおい姉貴。何桃凪に教えてんだよ」

「ふふ、的確でしょう?」

 

 傍目からは仲の良い会話をしている姉弟を見ながら、正確にはディーノを見ながら、桃凪は茫然とした。

 だって、リータいわく自分の弟はどうしようもなくダメダメで部下の前だとかっこいいけど家だとドジで…とか言ってたのに。ディーノを見ているとどうしてもそう思えない。それとも今が部下の前だからだろうか、とりあえず今の状態では想像が出来ない。ギャップが激しすぎる。

 

「桃凪」

「は、はい!」

 

 凛とした声。

 

「久しぶり」

「お、久しぶりです」

 

 思いもよらない再開の緊張で固まる桃凪に対してくすくすと楽しそうに笑うリータ。

 

「驚かせちゃったかしら?」

「はい……まぁ」

「ハルは元気?」

「元気です」

 

 少し元気すぎるくらいには、とは言わないでおこう。

 

「しかし、りーたさん。何故つなと一緒に?」

 

 疑問に思った事をぶつけてみると、リータは困ったように苦笑した。

 

「ああ、それね……。少し町を見てみたいと思って出かけたのだけど、道に迷ってしまってね。困っていた所に偶然この子がやってきたのよ」

「へー……」

 

 確か、桃凪とリータが出会ったきっかけも道に迷ったリータが桃凪に話しかけてきたからで、そして今回もそうであるらしい。リータは意外と方向音痴なのだろうか。

 

「やっぱり日本(ジャッポーネ)の町並みは珍しいわね。ついつい寄り道しちゃったわ」

 

 まぁ、でも。

 楽しそうなリータに何か言うのも無粋というものか。

 

「それで今回はどれくらいいるのですか?」

「んーとね……」

 

 頬に手を当て、少し考えるそぶりを見せたリータだったが。直後、その眼差しが鋭いものへと変わった。

 

「桃凪!」

「え?」

 

 ぐい、と桃凪を引き寄せたリータはそのままどこからか取り出した日傘を振りかぶり、直後に目の前にやってきた黒い塊を思いっきりかっ飛ばした。

 高速で飛来していく物体はリータの傘に弾き飛ばされ、窓の外へと飛んでいく。

 

「ディーノ、行ったわよ!!」

「おう! てめーら、ふせろ!!」

 

 リータによって外に飛ばされた鉄塊……形状を見るに手榴弾、をディーノが下にいる部下に当たらないように窓から身を乗り出し持っている鞭で更に空高くへ放り投げた。

 手榴弾の爆発をバックに華麗に着地するディーノ。その姿は元からの容姿の端正さも相まってものすごく、

 

「「かっこいい……」」

 

 思わず、といった調子で呟いてしまったツナと桃凪。

 

「いい? それはおもちゃじゃないの、遊びに使ったりしてはダメよ。解った?」

「う~……」

「○ΔΠ●……」

 

 視界の片隅ではリータが腰に手を当ててどうやら今回の出来事の犯人である(どうも、ランボが手榴弾を持ったままイーピンと追いかけっこをして、躓いた拍子に手に持っていた手榴弾が桃凪の方に飛んできた)らしいランボとイーピンを叱りつけていた。

 イーピンは元から聞きわけのいい子だから素直に謝っているようだが、ランボの方は納得していない様子。もっとも、あの無鉄砲なランボが大人しく説教を聞いているというのも珍しいと思うのだが。これもリータの持つ雰囲気、言うのならば天然のカリスマのお陰だろうか。

 なかなか謝らないランボの様子にリータはため息一つついた後、目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

「悪い事とは言って無いの……。楽しかったんでしょう? 私もその気持ちはよく分かるから、一緒に遊んでいると楽しいわよね。でも、迷惑をかけたんだから謝りなさい」

 

 優しく、しかし厳しく。二律背反でありながらも、それを押し通すことのできる強さと迫力。

 

(ふわふわして優しくて、でも強くて。不思議な人だなー……)

 

 そう思いながら見ていた桃凪。そしてとうとうランボが折れ、小声ながらも「ごめんなさい」を口にする。その瞬間花が咲かんばかりの笑顔を浮かべて二人をその胸の中にかき(いだ)くリータ。

 リータに抱きしめられたおかげか先ほどまでの落ち込みようが嘘のようにご機嫌になるランボとイーピン。子供の扱いに慣れているというか、人を説得するのが上手というか。

 

「陰ながらボスを支え、間違いがあれば優しく正す。それがボスの補佐だぞ。桃凪も見習え」

「そしてせんせーはすぐにマフィアに持っていくし……」

 

 半分以上はこじつけなのではないかと思われるリボーンの言葉に半分くらいは呆れながら呟く桃凪。とうのリボーンはそんなことも露知らず窓の外で部下と話しているディーノに声をかけた。

 

「ディーノ、姉貴と一緒に今日は泊まってけ」

「なっ!?」

 

 簡単に話を進められたツナが驚いていたが、そんなものリボーンにはどこ吹く風。

 

「ん。オレらはいいけどこいつらがな……」

 

 そう言ってディーノが親指で指したのは彼の部下の黒服達。確かにディーノとリータの二人ぐらいならともかく、この人数は泊める事は出来ないだろう。

 

「部下は帰してもいいぞ」

「おいっ。お前何勝手に決めてんだよ!」

 

 淡々と物事を進めていくリボーンに思わずといった調子でツナが突っ込みを入れているが、やはり聞いてない。焦れた様子のツナがこちらにも話を回してきた。

 

「~っ!! 桃凪もなんか言えよー!!」

「え? 私はりーたさんがいた方が嬉しいけど……?」

「あらあら、桃凪ったら……」

 

 きょとん、とした顔を浮かべながら言いきった桃凪と、何やら裏切られたような顔をしているツナ。そして口調では困りながらもどことなく嬉しそうなリータ。

 

「それに、つなだってでぃーのさんいてくれた方が嬉しいでしょ?」

「それは……そうだけど……」

 

 ツナがディーノに憧れじみたものを感じているのは解っているのだ。それでもツナが嫌がっているのは、これをきっかけに更にマフィアに沈みこんでいく事を気にしているだけで、ディーノには泊まってほしいと思っている。そう桃凪は思った。

 そしてディーノの方はディーノの方で部下たちは帰ったらしい。どこに帰ったのかと聞かれると疑問だが、大方ホテルなどの宿泊施設だろう。黒服で強面でどう見てもソッチ系の業界の人を泊めることになるホテルの人達、ご愁傷様です。

 

「よっしゃ。んじゃーボンゴレ10代目に説教でもたれるか」

「オ……オレのために――――。そ、そんなぁ~っ」

「よかったなツナ」

「嬉しそうだねつな」

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 夕食の時間。ツナの目の前には同じテーブルに座るディーノが、桃凪の前にはリータが、それぞれ食卓を囲んでいた。

 

「さー、何でも聞いてくれ。かわいい弟分よ」

「あー、あの……」

 

 ディーノと向かい合うツナの顔には困惑半分と嬉しさ半分。ディーノに気にいられるのは嬉しいが、マフィア関連の話はしたくない。といった感じだろうか。

 

「む、この卵焼き味が違う」

「それ私が作ったのよ、奈々さんみたいに上手く出来なかったけどね。隠し味にごま油じゃなくてオリーブを使ったから、桃凪からすると珍しいかしら」

「おー、イタリア風味……」

 

 そして桃凪とその向かいに座るリータは仲むつまじく卵焼きをつつきあっていた。しかし、強いし綺麗だし優しいしそのうえ料理も上手とは、なんなのだろうこの完璧美女は。

 

「そーいや、ツナお前ファミリーはできたのか?」

 

 ディーノの言うファミリーとは言わずもがな、マフィアのファミリーの事だろう。正直、マフィアになる気が無いツナにとってはファミリーなんて欲しいどころかこちらから願い下げだ。そんなのいるはずがないと言おうとしたのだが、

 

「今んとこ、獄寺と山本、あと候補がヒバリと笹川了平と……」

「友達と先輩だから!!」

 

 それより先に先手を打ったリボーンが彼の視点からしてファミリーに入っているらしいメンバーを上げていく。その四人とツナと桃凪を入れれば全員で六人か、ディーノのファミリーを見た後だとしょぼい感じがするが、少数精鋭だと思っておこう。卵焼きをもぐもぐさせながらそんな事を考える桃凪。思考回路が平和である。

 

「っていうかリボーンなんでオレなんかのとこ来たんだよ。ディーノさんとの方が上手くやってけそうなのに」

「ボンゴレは俺たち同盟ファミリーの中心なんだぜ。何にしてもオレ達のどのファミリーより優先されるんだ」

 

 驚きの事実、リボーンみたいな凄腕のヒットマンを家庭教師にできるのだからボンゴレはそれなりの勢力なのだろうと思ってはいたが、まさかそこまで大きな組織だったとは。ますます騒動が大きくなっていくことに辟易するツナと、自分の知らない世界の事情を知れて少し嬉しそうな桃凪。こういうときは両極端な双子だ。

 

「まぁ、ディーノ君」

 

 奈々が何かに気付いたような声を上げる。その視線の先には、

 

「あらあらこぼしちゃって……」

「うわっ!?」

「ある意味器用だ……」

「……だからあんたはナイフとフォークを使いなさいっていったのに……」

 

 ぐちゃぐちゃになった焼き魚と零れたご飯、散乱したおかずと、とても見ていられない惨状になったディーノの食卓。桃凪の前で呆れているリータを見る限り、いつものことのようだ。

 そういえば、リータは部下がいないとディーノは半人前なのだと言っていた。そしてこの場にいるのはリータとディーノと桃凪達だけ……。

 ということは、まさか……。

 

「またリボーンはそういう事を……ツナたちが信じるだろ? 普段フォークとナイフだからハシが上手く使えねぇだけだって……」

「な……なーんだ。そーですよね!!」

 

 ツナの前ではディーノがそんな事を言っていたが、はたして本当なのだろうか。リータの前情報があった身としては果てしなく心配だ。

 ふと、リータが思いついたように。

 

「そういえばディーノ。エンツィオは?」

「あ」

 

 今「あ」って言った! 「あ」って言った!!

 

「キャアアア!!」

 

 お風呂場に行ってくると言って席をはずしていた奈々の悲鳴。もしかしなくても原因は。

 

「母さん!?」

「どーしたんだ!!」

「馬鹿っ! ディーノ……!」

 

 ディーノが椅子を跳ね上げ立ち上がる。それを慌てたように止めるリータ。その理由は次の瞬間明かされることとなった。

 

「でっ!!」

 

 びたーん!! という効果音がとてつもなく似合う感じでディーノがすっ転んだ。

 

「だっ、大丈夫ですか?」

「つつつ……、自分で自分の足を踏んじまった……」

「は?」

「ほれ見ろ運動音痴じゃねーか」

 

 運動音痴というよりもはやドジの領域なのでは……と思う桃凪。自分で自分の足を踏むなんて、ツナどころか運動が苦手な桃凪ですらめったにやらない珍事だ。

 

「お、お、オフロに、オフロに~!!」

 

 バタバタと涙目で走ってきた奈々の混乱しきった言葉に従い、風呂の扉を開ける。と、

 

「……!!」

 

 人と同じくらいに巨大なカメ。しかし、どこかで見た事あるような。

 

「エンツィオのやつ、いつの間に逃げたんだ!?」

「「え!? あれさっきのカメなの!?」」

 

 エンツィオは水をかけるとふやけて膨張するスポンジスッポン。巨大化したエンツィオはその大きさに比例して凶暴化しており、家一軒は軽く食べてしまう。

 お風呂場に行ったのは水を求めるカメの帰巣本能みたいな何かなのだろうか……、と現実逃避しながら考える桃凪。ちなみに言っておくが、スッポンはカメ目に属しているためカメの仲間だが、種類名のスッポンではなくカメの方がかわいいからカメって呼ぼう。

 

「でもどっちかって言うとかめより爬虫類だったらかえるとかのほうがいいなー……」

「桃凪! しっかりしなさい!! 桃凪!!」

「かーえーるーのーうーたーがー……、はっ!」

 

 リータに揺さぶられてようやく意識を取り戻した桃凪。現実逃避というより現実逃亡をしていた間にも状況はどんどん動いているらしい。

 

「りーたさん……さっきの傘は……」

日傘(アンブレローネ)は狭いから使えないわ。それにエンツィオを叩くんじゃなくて止めるのが目的だもの」

 

 少し困った様子で答えるリータ。そして今回の騒動のほぼ元凶でありエンツィオの飼い主でもあるディーノは、

 

「下がってろ。誰も手を出すんじゃねーぞ。てめーのペットの世話もできねーよーじゃあキャバッローネファミリー10代目ボスの名折れだ」

 

 そういいながら鞭を取り出すディーノはかっこいい……のだが。

 

「…………桃凪。離れなさい」

「りーた、さん?」

 

 冷や汗かいたリータが桃凪を風呂場の外に追いやる。よくわからないけど、きっと何かがある。

 ディーノが思いっきり振り回した鞭があちらこちらいたるところにまったく関係ない場所に何故かクリーンヒットする音声をBGMに、リータがこちらを振り返る。

 

「ちょっと……いってくるわね?」

 

 にっこり笑うリータに対して、「どこにですか」とは絶対に聞けなかった。

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