もうひとつのソラ   作:ライヒ

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第十五話 「やっぱり運動は苦手です。」

 

 

 

 

 

 ○月Ξ日

 

 りーたさんはしばらく日本にいるようです。

 詳しい所は分かりませんが、お正月の時もいましたし、着物姿がとても似合っていました。

 そして私を七五三だと呼んだつな、後で覚えとけよ。

 授業参観もありましたが、途中からせんせーが乱入してぐだぐだに。つなまで暴走しだして……。大変でした。

 あと、昨日が体育だったんですよね。そして今日も体育なんです。いえ別にどうというわけでもないのですが。

 

 

 

 

 

第十五話 「やっぱり運動は苦手です。」

 

 

 

 

 

 サッカーである。

 

「ツナ行ったぞー!!」

「お、オーライ……ぶっ!?」

 

 そしてツナはツナである。

 飛来するボールを奇跡のタイミングで顔面にぶち当てたツナ、心配する獄寺の声が余計に恥ずかしい。

 

「だ……大丈夫だから!! ボール拾ってくるから他のボールで続けてて……!」

 

 恥ずかしさで顔を赤くしながらツナは皆の輪を外れてボールを探しに行った。

 

「おーいてて……ゲ、鼻血……。はやく終わんねーかな体育なんか……」

 

 ぶつぶつと呟きながらボールが飛んで行った方に歩いて行くツナだが、ボールの近くに人影がいるのに気付く。

 

「ん?」

 

 ストライプのマフラーにジャケットとジーンズ、年の頃は小学校高学年くらいだろうか。そんな少年が、ポツリと立っていた。

 

「何やってんだ……? あの子」

 

 不思議に思うツナだったが、とりあえずボールを取りに行こう。そう思って少年の足もとにあるボールを見たツナ。しかし、

 ふわり、とボールが宙に浮いた。

 

「え、ええー!?」

 

 ふわふわと、少年のすぐそばにあったボールが宙に浮かぶ。ボールだけではない、周りの落ち葉や小石もだ。

 そしてこの騒動を起こした原因であろう少年は浮いたボールには目もくれず、宙を見つめながら何事かを呟いていた。

 

「ツナ(にい)のダッシュ力8万6千202人中8万6千202位、脚力8万6千202人中8万5千900位、持久力8万6千202人中8万6千182位……」

 

 どこを見ているのかいまいちわからない瞳でほとんど分からない事を呟く少年。

 自分の目の前で起きる衝撃映像に唖然とするツナには気づかず、少年は淡々と分析(?)をしていく。

 

「――よってツナ兄の総合力ランキングは、最下位」

 

 ぱちり、と少年が一度瞬きする。すると先程のふわふわとした瞳から一転、年相応の少年らしいくりくりとした瞳に戻っていた。

 それに従い、周りに浮かんでいたボールや落ち葉も地面に落ちていく。

 

「半年ぶりだけど順位変わらずかー。とりあえず書いとくか」

 

 一つため息をついた後、ごそごそとジャケットの中に手を伸ばす少年。

 一方ツナは先程の映像を目の錯覚か何かかと考えようとしていた。が、

 

「よいしょ」

(本デカッ!?)

 

 恐らく少年の身長の半分くらいはあるであろう本、あれは懐に入るのだろうか。そもそも重くないのだろうか。

 そんなツナの心の叫びは知らず、少年はそのまま地面に開いた本を置いて何事かを書き綴っていく。

 

「これでパンチ力、キック力、走力と最下位か……。がんばってほしーよなーツナの兄キ」

「えっ? ……あ」

 

 いきなり呟かれた自分の名前に思わず驚き、声を上げてしまったことに気付いた時は後の祭り。こちらを振り向いた少年の目がいっぱいに見開かれた。

 

「ああ!!」

 

 きらきらした瞳がこちらを見る眼差しはなんというか……そう、「憧れ」というのが一番しっくりくる感じで、非常にむずがゆい。

 

「ツナ兄! 会えた会えた!! 体育してると思って遠慮してたんだよ僕」

「は!? だ……誰だっけ?」

 

 子犬のようにコロコロと表情を変えてこちらを見上げてくる少年には、残念ながら覚えはない。しかし向こうはこちらを知っているようで。もじもじと顔を赤らめながらこちらを見上げてくるその姿はある特定の性癖の人には垂涎ものだろう。

 

「か……勝手にツナ兄って呼ばせてもらってるよ! これからもそう呼んでいい?」

「はぁ!?」

 

 混乱するツナにかまわずどんどんと話を進めていく少年。だが、何かに脅えるようにびくりと身をすくめたと思ったら慌てて逃げ出した。

 

「さ、さいなら!!」

「あ、ちょ……、ってうわ!?」

 

 そして少年の後を追うように複数の黒服が真昼間の学校に大挙して走り抜けていった。無論、ツナをガン無視してである。

 

「……」

 

 なんじゃありゃあ。

 

 

 

 

 

 そしてその頃桃凪は。

 

「うにゅ~」

 

 応接室で絶賛サボタージュしていた。

 

「……………………………………………………、」

 

 そして雲雀の視線が痛い。

 しかし、なにも桃凪は体育が面倒だからとかそんな理由でサボっているわけではない。これにはちゃんとした理由があるのだ。

 

「体、痛い~……」

 

 どうやら原因は昨日の体育らしい。少しばかり張り切り過ぎてしまったようだ。

 それはともかく体超痛い、めちゃくちゃ痛い、これでもかというほど痛い。

 しかし、筋肉痛程度で体育は見学にならないのだ、たとえどれだけ筋肉痛が酷かろうと、筋肉痛では見学扱いはされないのだ。

 だったらもうサボるしかないじゃないか。

 というか、桃凪は運動音痴に加え運動不足なのではないだろうかと思う。動け。

 

「うぅ……」

 

 そんなわけでゴロゴロしていたのだが、よく考えなくても桃凪の話はまったくの詭弁。アキラメロとしか言いようがない。しかしこの場にいるメンツでは桃凪に懇切丁寧に注意してくれる人物は誰もいないのだった。

 そんなとき、

 

「……委員長」

 

 心なしか、困った様子の副委員長の声が聞こえてきた。

 申し訳なさそうに応接室の扉を開けた風紀委員副委員長草壁。ソファの上でダレていた桃凪に一度会釈をすると雲雀に向き直った。

 

「……何?」

 

 一方の雲雀は応接室の人口密度が増えたことで少し不機嫌な様子。これは私が出て行った方がいいのか、ああでも動くの面倒くさいな。などと桃凪が心の中で葛藤していると。

 

桃姉(ももねえ)!!」

 

 ぴょこん、と山のような図体の草壁の後ろから子犬がのぞいた。

 つぶらな目とマフラーが印象的な、小学生くらいの男の子。しかし桃凪に覚えはない。私に弟の心当たりはございません。

 が、やっぱりちっちゃくてコロコロしたものが抱きついてきたら抱きしめ返してしまうのは女の子の(さが)。しかもそのままぎゅうと抱きしめてしまうのも仕方がない。

 

「かわいいかわいい」

「あ、うー」

 

 ほっぺをむにむにしながら子犬となごなごしていると、自分の後ろに気配が。その気配の主である雲雀に、そのまま襟首を掴まれ強制的に応接室から放り出された。

 つまりあれか、群れるのなら出て行けと。

 

「……」

 

 キョトンとした目でこちらを見上げてくる男の子。ああもう可愛いなぁ。

 まぁ、とりあえず。

 

「名前は何ですかー?」

 

 自己紹介から始めようと思う。

 

 

 

 

 

「つまり、ふーたは自分の持っている情報とかを狙われてて、それで逃げ回ってるの?」

「うん……」

 

 桃凪が手を引いて屋上まで連れて行った少年の名前は、フゥ太というらしい。

 フゥ太が作るランキングは的中率100%で、外れたことはないらしい。そのためそのランキングを狙う輩というのもまた後を絶たず、今回フゥ太がここにやってきたのも、ツナに会いたいという理由の他に、ランキングブックを狙うマフィアから逃げ切るためとのこと。

 

「本当はツナ兄の家に行こうと思ったんだけど……」

「その前に取り囲まれちゃったの?」

 

 うなずくフゥ太に、悩む桃凪。

 桃凪の心象としては、何としてもフゥ太を守りたい。なのだが、現実問題難しいことも理解している。

 まず、人数の差。こちらは二人、あちらは不特定多数。

 次に、戦力。フゥ太のランキングブックが目当てな以上余り手荒なまねはしないとは思うが、あくまで憶測だ。

 

「うーむ……。そういえば、ふーたのランキングブックって、どうやって作ってるの?」

 

 疑問に思うことひとつ。フゥ太自身は戦う力や、どこかに潜入する力は持ってない。だとすると、どうやって調べているんだろうか。

 

「えっとね、ランキング星と交信するんだ!!」

「……ランキング星?」

 

 なんぞそれは。

 

「わかんねーんだったらやってみればいいと思うぞ」

「うわ、せんせー」

 

 ちょこんと、いつの間にか隣にいたリボーン。相変わらず気配がない。

 相変わらずのかわいらしい無表情で、次の瞬間リボーンは爆弾発言を落とした。

 

「内容は、そーだな。桃凪のここ数年の身長の伸び具合とか」

「せんせー!?」

 

 ちょ、おま。なんということを!!

 

「桃姉の身長ランキング……」

「ふ、ふーた。無理にやらなくても……、っ!!」

 

 フゥ太が虚空を見つめた瞬間、ふわりと周りの物が虚空に浮いた。ついでにリボーンも。

 

「な、なにこれ……!?」

「フゥ太が自分の脳をレッドゾーンに追い込んで何かをランキングする時、体内にため込まれていたエネルギーが放出されて奴の周りの引力を無効化させるんだ」

「???」

 

 とにかく、ランキングしているときは浮く、ということなのだろうか。

 

「桃姉の身長が一番伸びていたのは3年前の+2センチだね。それ以降は伸びが少なくなってきて、今年に入ってからは……」

「わー待って待って待って待って!! やんなくていい、やんなくていいから!!」

 

 

 

 

 

 少し話がそれてしまったが、とにもかくにも逃げる方法を考えなくては。

 

「せんせー、なんかいい案無い?」

 

 困ったときのリボーン頼み、とはまた何ともアレな話だが、これのほかに方法がないのだから大目に見てもらいたい。なんとかしてよリボえもん。

 

「そーだな……。これでも使え」

「?」

 

 ポイ、といい加減な感じで放られたのは何かのリモコン。それぞれのスイッチには意味を指し示すらしい記号が書いてあったが、桃凪にはよくわからない。

 

「……これは?」

「センスが良ければなんとかなるだろ。じゃーな」

「?? せんせーどこに行くの?」

「昼寝の時間だぞ」

 

 そういってクールにリボーンは姿を消した。

 残されたのは、リモコンひとつ。

 

「桃姉……」

 

 ぎゅう、とフゥ太が不安そうに裾をつかんでいるが、桃凪の目はリボーンから渡されたリモコンしか見ていない。

 

(……暗号?)

 

 まず桃凪が考えたのは、スイッチの模様が何かの暗号になっているということ。リボーンだったらありえそうだし、実際リボーンが手紙を書いているときに覗き込んだことがあったが、文面は文字ではなく記号。何かの暗号のようだった。

 恐らくこれも似たような系統なのだろう。ただ、桃凪にはその暗号を解くすべがないということだ。

 適当にボタンを押してとんでもないことになったらシャレでは済まされない。なんというか、あのリボーンが渡したのだから半端ものでは無さそうな感じがするのだ。

 まぁ、わからないものに悩んでいても仕方がない。

 

「……とりあえず、これは保留として。逃げようか、ふーた」

「! うん!!」

 

 緊張した面持ちでうなずいたフゥ太の手を取った桃凪。

 変化が訪れた。

 

「……?」

 

 くらり、と視界が揺れる。

 桃凪の頭に、ぼんやりと浮かび上がる『何か』。

 

 そう、あの時も、手を、握って、いや、取ったのは、自分? じゃあ、この手、この手の持ち主は、この、暖かくて、優しい、この手、は。

 

「……桃姉?」

「……」

 

 フゥ太の言葉で我に返る。頭に浮かんだことを反芻しようと思ったが、ふわりと浮かんだそれはもう欠片も見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 右見てもマフィア、左見てもマフィア。

 

「囲まれてるね……」

 

 物陰にてこっそり身を隠す桃凪とフゥ太、体が小さいからこそできる芸当だ。

 

「ふーた、こっそり足音をたてないように移動できる?」

「が、頑張るよ」

「おーけー」

 

 こそり、と居場所を変更する二人。地理的な面でいえば、ここは桃凪のホームグラウンド。初めて入った奴らには負けないだろう。

 

「こっち、だね。急いで」

「うん……」

 

 こそり、こそり。

 気分としては、ル○ン三世。美女を前にしたあのダイブは芸術の域だと思う。おっと思考がそれた。

 とりあえずの第一目標は、マフィアの連中に見つからないようにフゥ太をツナの家まで運ぶことだ。そして学校からツナの家はそんなに距離は無い、歩いていける距離だ。しかし、徒歩というのは手軽なぶん見つかる可能性が上がる。この場合とるべき方法は、

 

「も、桃姉!!」

「へ? ……うわっ!?」

 

 悲鳴じみたフゥ太の声に反応して振り向くと、いきなり襟首を掴まれて思いっきり持ち上げられた。きょーやにも似たようなことをされたことがあるが、アレより乱暴で思いやりがない。

 

「見つけたぞ!!」

「フゥ太を捕まえろ!」

 

 どうやら、自分の襟首思いっきりつかみやがったのはマフィアの連中らしい。首しまったらどうしてくれる。

 

「ふーた、逃げて!」

「え、で、でも……」

 

 戸惑うフゥ太。そりゃ、いきなり自分の事はいいから先に逃げてなど言われたら戸惑うか。でも、自体はそう簡単ではない。奴らの目的がフゥ太のランキングブックである以上、フゥ太には何としても逃げてもらわなければ。

 

「大丈夫、私もすぐ行くから」

「……絶対、絶対だよ!!」

 

 そう叫んで、フゥ太は後ろに向かって走り出した。やや足取りがおぼつかないが、外国からここまで逃げながらやってきたのだ、なんとかなるだろう。

 さて、今一番の問題は。

 

「逃がすな! 追え!!」

 

 この殺気立った兄ちゃんたちをどうするかだろう。

 

「…………離して!!」

 

 無駄だとは自分でも痛いくらいにわかってるが、ここは一応暴れてみる。

 襟首を掴む手に爪を立てて、それでも離れなければ引っ掻いて。自分の無力さに嫌になってくるが、やめることはできない。もうこれぐらいしかできることはないのだ。

 

「うー……! っ!?」

 

 ぶん、と体が宙を舞って、地面に投げ出された。離された、のだろうか。しかし、周りを見るとぐるりと怖いお兄さん。逃げ場がない。

 

「フゥ太がどこに逃げたのか、吐いてもらおうか……」

 

 どうやら、フゥ太が逃げる場所に当たりをつけて待ち伏せをするつもりらしい。そのために桃凪から情報を搾りとろうとしている、と。

 じりじりとにじり寄ってくるマフィア。絶体絶命の大ピンチといったところだろうか。人間、窮地に陥ると案外冷静なんだなと、他人事のように思う。

 ふと、リボーンから借りたリモコンが転がっているのが見えた。結局これは何だったのだろうかと思って、

 

 気付いた。

 

(……あれ? これって、もしかして)

 

 這いずるように進んでリモコンをつかみ取る、もう一度周囲を見回して、確認して。

 祈るように、スイッチを押した。

 

「さぁ、観念して「お兄さんたち」……あぁ?」

「上、上」

 

 桃凪の言葉に一瞬不思議に思ったマフィアが上を見上げると、

 (かな)だらいが落ちてきていた。

 

「ぐへっ!!」

「ぶごっ!?」

「べほっ!!」

「ぐはぁ!!」

 

 ごんがんごんげーん。と、一昔前のコントのように直撃する金だらい。

 当たった方も当たった方だが、当てた方も当てた方だ。まさか金だらいが落ちてくるなんて誰が想像しよう。少しだけ、リボーンのことが分からなくなった。

 簡単な話、スイッチの模様はリボーンの視点から見て一番目立つ建物やオブジェを記号的にあらわしていたもので、リボーンと同じ視点で見なければ分からないものが多かっただけだ。地面に投げ出されたせいでうつぶせにならなければ絶対に分からなかっただろう。

 

「まさかのまさかとは概ねこの事……」

「やっとわかったみてーだな」

「せんせー」

 

 すたすたと何食わぬ顔でこちらに歩み寄ってきたリボーン。その手には一丁の拳銃が、もしかしてあれか、ついさっきまで自分は人前で下着姿になるかどうかの瀬戸際だったのか。

 

「フゥ太はツナの家に向かってるぞ。ここの後始末はオレがしてやる」

「あ、うん」

 

 後始末をするというか、後始末を他人に押し付けるのをしてやるというべきだと思う。

 

「せんせー、なんか疲れちゃった」

「そーか」

 

 ごろり、と仰向けになって空を見上げると、きれいな青空だった。

 

 

 

 

 

 ちなみに、帰ってきたツナとフゥ太は偶然の遭遇をしたらしく、自分のランキングが初めて覆されたととてつもなくうれしそうなフゥ太が報告してくれました。かいぐりかいぐり。

 

「桃姉ぇはね、人に好かれやすいランキング上位ひとケタに入ってるよ」

「あー……予想通りって言ったら予想通りかもなー……」

「つな、それは一体どういうことかな?」




朝起きて見てみて感想が来ている至福、今日も一日頑張ろう。
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