もうひとつのソラ   作:ライヒ

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第十六話 「甘いものは好きです。」

 

 

 

 

 

 ○月Λ日

 

 ふーたのランキング能力は、かなりの高精度でした。いや、目の前で身長ランキングを言われた身としては信じざるを得ないとは思うのですが、あそこまで精度がいいとは思っていませんでした。

 さて、今日はあの日です。男性にとってはハラハラドキドキの日、女性にとってはワクワクドキドキの日。甘い思いをして勝ち組となるか、しょっぱい涙を飲み込んで負け組となるか、すべては女の子の気持ちしだい……。

 まぁ、平たく言えばバレンタインです。

 

 

 

 

 

第十六話 「甘いものは好きです。」

 

 

 

 

 

「桃凪、家に帰ったら台所に来なさい。ハルと京子と私でバレンタインのチョコを作るわよ」

 

 その時、世界が止まった。

 のちに少女は、そう語ったという。

 

 

 

 

 

 まだ寒さの少し残る季節。しかし周りは温かかった。特に、

 

「山本く~ん。これあげる!!」

「私も私も!」

「サンキューな!」

 

 山本とか、

 

「てめーらついてくんじゃねぇ!!」

「獄寺君チョコ貰って!!」

「カッコイイ~!」

 

 獄寺の周りは特に。

 逆にブリザードか永久凍土のごとき雰囲気を持つ生徒もいるが、それに関しては本当にご愁傷様としか言いようがない。イケメンがクラスに二人もいたことを嘆いてくれ。

 しかし、浮足立つはずのクラスの雰囲気を押し返すかのように、桃凪のオーラは重かった。

 桃凪の頭の中は、来るべき事態を回避するのでいっぱいいっぱいだったからだ。

 

 元々の発端は、ビアンキの発した何気ない一言から始まる。

 

『今日はバレンタインだから、手作りでチョコレートを作ろうと思うの』

 

 大量殺戮事件の前触れである。

 いや、わかってる。ちゃんと分かってるのだ。ビアンキに悪意などこれっぽっちも無いということは。ビアンキはただ、愛しい愛しいリボーンのために手作りチョコレートを作って、愛情をプレゼントしようとしているだけなのだ。しかし、悪意がないからって何をしてもいいというわけではないだろう。

 正直言って、桃凪に愛でハッスルするビアンキを止めることはまず不可能だ。というより、止めることができるのはリボーンだけだろう。

 

復活(リ・ボーン)! 死ぬ気で京子のチョコの行方を知る!!」

 

 なんか隣をパンツ一丁のツナが駆け抜けていった気もするが、桃凪は忘れることにした。

 

 

 

 

 

「さぁ、始めるわよ」

「「おー!」」

「おー……」

 

 結局何も良い考えが浮かばないまま、チョコを作ることになってしまった。

 家に帰った時にまだツナが帰ってないのには少し驚いたが、あのペースだとそうかからずに到着するだろう。

 あああああ、そう言ってるうちにビアンキのチョコから紫色の煙が出てきた。どうすれば、どうしたら……。

 

「……ん?」

 

 こそり、と。台所の入口に小さな影。あれはフゥ太と…ツナ?

 

(なにやって……)

 

 いや待て、ツナは恐らく、ビアンキのチョコ作りの阻止を図ろうとしているのだろう。ビアンキの事だ、チョコレートが完成したらついでといった感じでツナに食べさせようとするに違いない。食べされられるツナからしたら死活問題もの、どうにかして事態を収拾しようとするはず。フゥ太を連れてきたということは、

 直後、ぶわりと周りの物が宙に浮いた。材料もレシピも道具もすべて例外なくだ。

 

(これは…ふーたの、ランキング!?)

 

 ツナはこの状況でランキングをしてどうしようというのだろう。ビアンキを逆なでするだけな気が。

 ……逆なでするということ、つまりは怒らせる。怒らせてチョコレートから視線を外させる気か?

 

「は、はひー! 何ですかこれはー!?」

「先生ポルターガイストです!!」

 

 混乱して慌てる京子とハルだったが、ビアンキは冷静だ。リボーンへの愛を邪魔された事で怒っているようにも見える。というかあれは絶対怒ってる。

 そしてビアンキはリボーンと共に行動したこともある凄腕の殺し屋でもある。

 

「! そこにいるのは誰!?」

(つな、見つかっちゃった!!)

 

 美人というのは怒れば怒るほど恐ろしい。整った顔をしているがゆえに、それが歪む様子はまるで般若を連想させる。つまり何が言いたいのかというと、ビアンキマジ怖いということだ。恐らく子供に見せたらトラウマになるくらいに。

 

「び、びあんき! チョコレートから目を離すのは私どうかと思う!!」

 

 とにかく、ビアンキを止めなくてはいけない。しかし、止めるとその分ポイズンクッキングの完成が早まるわけで……。

 

(……腹をくくろう)

 

 桃凪ひとりだけでポイズンクッキング作成中のビアンキは止められない。ならば桃凪がするべきことは、出来る限りビアンキの手を煩わせず、自分の分のチョコレートを急いで作り上げることだ。

 ビアンキに構っていたら自分の分のチョコレートさえもポイズンクッキングになりかねない。少しでもツナ達にまともなチョコレートを食べさせるには、自分はここで他のチョコレートを見捨てる選択をとらなければならないのだ。

 ……製作者だから味見以外はあまり食べないと思うし。

 頭の片隅でそんなことを思う桃凪、意外と打算的である。

 

「ビアンキー、ツナ達のメインはチョコフォンデュだけど、私他にも渡したい人がいるから別に作っていい?」

「いいわよ。桃凪だったら問題ないでしょうし、持っていくわけにもいかないものね」

 

 確かに、あっつあつのチョコレートフォンデュを抱えて相手の家に行くわけにもいかない。よく考えればそうだが、ビアンキが素直に折れてくれたことが桃凪にとっては嬉しかった。

 しかし、チョコレートといっても何を作るべきなのだろうか。ビアンキのことで頭がいっぱいでそこら辺をまったく考えていなかった。

 

「何にしよっかなー……」

「ねえねえ、桃凪ちゃんは誰にチョコレートあげるの?」

「あ、それはハルも知りたいです!」

「ふぇ? 私ー? 別に……」

 

 えーと、とりあえずツナにはあげる。リボーンも甘いものが好きでは無さそうだけれども一応あげるし、フゥ太やランボにもあげる。イーピンは女の子だからそこら辺はどうしようかと思ったが、まぁあげても悪いことは起きないし、あげようと思う。獄寺山本は大量に貰ってたし、今更チョコレートあげても甘いもの尽くしはきついだろうからチョコではなくてクッキーやビスケットでもあげようと思う。

 他にも、桃凪の思いつく中では雲雀、了平、ディーノ、リータ、その他もろもろ、クラスの中のいい友達など。考えただけでもかなりの量になる。

 

「んー、結構いっぱい?」

「へー、私はお兄ちゃんのぶんかな。毎年あげてるの」

「ハルはお父さんにあげるんですよー!」

 

 なるほど、どうやら京子とハルはこの家で作るチョコレート以外に特定の誰かにあげる予定は無いらしい。兄や父だけとは可愛いものだ。これはツナも期待していいかも?

 ……背後でぶすぶすと煙を上げるビアンキチョコレートを見るに、生きて京子のチョコにありつけるかどうかは不明だが。

 しかし、ここで桃凪の想像通りならそろそろツナが次の手を打ってくるはずだ。先ほどのフゥ太のランキングは恐らくビアンキ関係のものだろうし、恐らく、ビアンキをランキングするために近くに来ていたのだろう。時間から見て考えついてるはずなのだが……。

 

「ちょっとリボーンにチョコレートの味見をしてもらってくるわね」

 

 と、煙を出すチョコレートが入ったボウルを持ってニ階に上がっていくビアンキ。桃凪はこれ幸いと自分の分のチョコレートを作っていたのだが、しばらくした後に上の方で破壊音と叫び声などが聞こえてきた。

 

「……? どうしたのかな?」

「なにかあったんですかね?」

「んー……気にしなくていいと思う」

 

 破壊音に混じって「ロメオォオ!!」とか言うビアンキの叫び声が聞こえてきた。ロメオって確か、ビアンキの元彼で、別れる時かなり険悪な仲だったらしい。ちなみに死因は食中毒。

 そして一番驚くべき所はここなのだが、なんとロメオは10年後ランボにそっくりなのだ。

 だから多分さっきの声は、何らかの理由で10年バズーカが発動して、10年後ランボがやってきた。その時ちょうどチョコレートを味見してもらおうとビアンキがやってきて、対面。ランボの事をロメオと勘違いしてキレたビアンキがそのままランボを殺そうとして、その後聞こえた銃声から考えるとリボーンがツナに死ぬ気弾を撃った。それで復活したツナは死ぬ気でランボを守っている……といったところだろうか。

 方法がアレだし、少々言いたいこともあるが、とりあえずビアンキはしばらく台所にはやってこない。それがツナの狙いなのかどうかはしらないが、この分だと桃凪のチョコレートの他にチョコレートフォンデュの方もどうにかできるかも。

 

 そしてチョコ作りを再開した桃凪たちだったが、数分後に帰って来たビアンキが「チョコレートが出来ているなら私はチョコにつけるクラッカーを作るわ」と言い出したため、結局ポイズンなクッキングになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

「というわけで、辛うじて死守したチョコレートが、これです」

 

 ことり、と目の前に置かれた、包装紙に包まれリボンでラッピングしてある箱が一つ。

 

「……、」

 

 何やら長ったらしい前口上を言ったと思ったら、どうやら自分はこんなにも大変だったと言いたかっただけらしい。

 しかしこの自分に群れていた時の状況を話すとは、まともな人間だったなら絶対にしない。そういう意味でも彼女は大物かも知れないが。

 

「本当に守り抜くのが大変だったのですよ。ほめてほめてー」

「何言ってるの君」

 

 ぱこん、と丸めた書類で頭を叩けばあうー、と悲鳴を上げる小動物。訂正、これが大物とかありえない。ただ単に頭が足りないだけか。

 

「そんな家庭内害虫を始末する時のような感じで叩かなくても…」

「僕が小動物相手に本気を出すとでも思ってるのかい?」

 

 咬んでもおいしくなさそうだしね。とどこかずれた発言をした少女は、ソファから飛び降りて一緒に持ってきた袋を掴み、応接室の扉に向かっていく。

 

「じゃねー。きょーや」

「何処に行くの?」

 

 んーとね…。

 小動物は一度考えるそぶりを示した後、

 

「はやとにたけしにりょーへいさんに…チョコレートとか他いろいろ渡しに行くね」

 

 気持ちって言うのは隠しちゃだめな時もあるんだよー。

 そう、満面の笑みで話す少女の顔はなんというか、『幸せってこんな感じ』とでも言いだしそうな顔だった。




にじファンの時のやつと比べて、ちょっと文字量が増えました。
個人的にはスランプ中に書いたやつで気に入らなかったので、あと文量が少なかったし。
楽しんでいただけたら幸いです。
あと、毎日感想楽しく読ませてもらっています! 飽き症な作者にとっては感想は一番の燃料です……!
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