○月¨日
この間は皆で雪合戦しました。でも寒かったので、私は思いっきり着込んでたらつなに「だるまみたい」とつっこまれてしまいました。だって寒いんだもん。
あまりの寒さに偶然現れたきょーやの学ランの下に潜り込んで二人羽織をしようとしたらつなに必死で止められました。
この間はせんせーがたけしに新しい武器をプレゼントしていました。見た目は普通のバットなのですが、望遠鏡が付いていて、さらに高速でスイングすると刀に変形します。
刀の性能はもちろん、打つ、叩く、殴るの三拍子そろった武器…らしいです。その三つは同じ意味だとか、つっこんじゃだめらしいです。
第十七話 「鈍感にもほどがあると思います。」
「沢田はおりますか?」
そう言って授業中の教室に入ってきた了平。
それが今回の始まりだった。
「実は、おとといにさかのぼ……いやおとつい……? おととい? …………ええいまどろっこしい!! 沢田を出せ!!」
そう言って教師に詰め寄った了平を見たクラスの生徒(ツナ含む)が、いつもと変わらないなとひそかに絶句したのを了平は知らない。
「つな、つな。返事してあげなよ」
「え、あー……」
確かに、先ほどから周りの視線が一直線にこちらに来ている。このクラスに沢田は二人いる――すなわち桃凪とツナだが。しかし、了平は桃凪の事を名前で呼んでいるため、この状況で呼ばれたのはツナだろう。
「あっあの……何か……」
「おお沢田! 実は頼みがあってな……」
ツナの蚊の鳴くような声に反して、ツナを見つけた了平はいつもの声で話しかけた。周りの迷惑なんのそのだ。京子がものすごく恥ずかしそうな顔をしているが、あの様子では見えていないだろう。
「りょーへいさん、こんにちは」
「おお! 桃凪もいたのか。うむ、極限に久しぶりだな!!」
いやいたも何も同じクラスだからいない方がおかしいのだが。
まぁ、それはともかく。了平の頼み事とは何なのだろうか。なにやらろくでもない事な気もするが。
「ええいまどろっこしい!! 説明は後だ!!」
なにしに来たのこの人!? と、またもやクラスの心は一つになった。
「りょーへいさん、「おとつい」じゃなくて「おととい」だと思います」
「そうか!! おとついか!!」
「いやー……あの……」
「桃凪ツッコむところそこじゃないだろ!?」
その後了平の連れてきた人物の説明により(結局了平は説明しなかった)、最近並盛では道場破りが頻発している事、それによって付近の道場が困り果てているらしい。
そのために、道場破りを何とかしてするために了平率いるボクシング部が名乗りを上げたとの事。つまりぶっちゃけツナの事をどうしてもボクシング部に入れたい了平によって巻き込まれたらしい。
しかもそれにリボーンがのっかったから話は大変だ。町の治安を守るのはファミリーの務めだとか何とか言ってツナを無理やり道場へと連れて行ってしまった。
そして残された桃凪。
道場破り撃退とかになるとどうしても自分は役に立たないし、なにができるというわけでもない。そういう理由で残ったのだが。
(……、)
ぽつん、と桃凪ひとり。
いつもならひとりになることぐらいはどうってことないのだが、さっきまで騒がしい了平がいたために余計に今の寂しさが際立つ。
いや、別にさびしいからと言ってどうというわけではないのだが。
「…………むむ」
何か、何かが気に入らない。
おいてけぼりにされて怒るような年ごろではないし、別にどうしても道場破りの現場を見に行きたいというわけでもない。
しかし気に入らない、なぜか気に入らない、とてつもなく気に入らない。
いったい何がそこまで嫌なのか。自分の思考だというのになにもわからない。
「むむむ……」
頭を悩ませながら考えるが、やはりわからない。というかこの問題はひとりでは無理なのではとまで思い始めてきた。めんどいだけかもしれないが。
だとすれば残された方法は、「人に聞く」以外にない。しかし自分の事情を話すというのも……正直言って恥ずかしい。
「聞きたい、聞きたくない、聞きたい、聞きたくない……」
ぽん、と桃凪の肩に手が置かれた。
「うひゃぁ!!」
「ciao、桃凪」
振り返った桃凪を見ておかしそうに笑うのは、なんかしばらくぶりに会うような気がする。
「りーたさん……」
なんで、この人は、
「ちょっとあっちでお茶しましょう?」
自分が悩んでいるときに限って、こうも絶妙のタイミングで表れるのだろう。
「ふぅん……そういう事」
「……なんか、よくわかんないけど、もやもやするというか」
カフェテラスにて、興味深そうにテーブルに頬杖をついたリータに、気がつけば桃凪は全部話していた。
自分の気持ち、もやもやぐるぐるとした胸の中すべて。
「そうねぇ……」
可愛らしく小首を傾げた後、なんというか、にやりというか、とにかくそんな感じの意地の悪い笑みで笑うリータ。そんな顔初めて見た。よくわからない桃凪としては果てしなく不安なのだが。
「あの……りーたさん?」
「ん~、ふふ」
ニコニコと笑うリータ、周りの人から見ればそれは女神の微笑みなのだろうが、今の桃凪には悪魔に見える。
「桃凪は……」
静かに紡がれた言葉を、固唾を飲んで聞く。
「皆の事大好きなのね」
「…………ふぇ?」
正直言って、「なにを言ってるんだろうこの人は」と思った。
数秒たって、頭の中にじわじわと言葉が染み込んでいくと同時に、顔が瞬く間に赤く染まる。リンゴもかくやという感じだ。
「な、ななななななななにをいきなり……」
「あら、違ったかしら?」
いや、だから、どうしてそんな結論になったのかを詳しく!!
「だって、皆が行ってしまってからそんな風になったんでしょう? 置いてかれて寂しかったの?」
ぱくぱく、と陸に揚げられた魚のように口を開閉させる桃凪。
確かに、確かに私は皆がいなくなって寂しいとは思った、けど、置いてけぼりにされた事については別に何とも思ってないし、行きたいとも特に思わなかったし、でも、でも!!
…………寂しかったのは、事実なんだ。
「~~~~~~っ!!」
いきなり表れてぐるぐると思考を占領していく謎の気持ちに思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す桃凪。ああ、わかった、これは「恥ずかしい」だ。
それを見ながらリータは楽しそうに笑っている。鬼だ、鬼がいる。
「でも、よかったわ」
「な、なにがですか……」
「桃凪っていつもリアクション薄いでしょ? そんな風に仲間を大事に思ってるって分かって、よかったかも」
もしかしたら自分は、相談する相手を間違えたのかもしれない。微笑むリータはとても嬉しそう。でもこちらのダメージは重大なのだ。
「……うー」
全ての力を失ったようにくたりとテーブルに身を任せる。気づいてしまった、なんかこれ以上リータの顔を見ているととんでもないへまをしてしまいそうで。
大切じゃないか、と聞かれれば、大切だ、と答えるだろう。でも、こう目の前で言われると何ともむずがゆいというか。今の今まで気づいていなかった己のもどかしさに穴があったら埋まりたい気分だ。
「……うわー! もう、あの、りーたさん!!」
「何かしら?」
「あー……、えっとー……。少々用事を思い出しましたので、これでー!!」
言うや否や桃凪はダッシュ、走る途中で何回か縺れて転びそうになりながらも目的地へ向けて急いだ。
最後に視界の端っこでちらっと見たリータは、相変わらず笑っていた。
「はふー……、はぁー……。ついた……」
ついた場所は件の道場、道場破りが出るかもしれないからなんとかしてほしいと頼んできた所。つまり、ツナ達がいる道場だ。
正直言って、自分に何が出来るのかなどと考えるまでも無く分かっている。なにもできない、それだけだ。
待機しているはずだったのにどうしてこうなった、と思ったが。なんてことは無い、リータの言葉で桃凪の羞恥心のメーターが振りきれて前後不覚になってしまっただけだ。
これはもうしょうがないので認めるが、桃凪は確かにツナ達においてかれたのが寂しかった。しょうがないから認める、本当にしょうがないが。それで、その自分が認めたくなかった部分をリータに見抜かれた揚句に「可愛いね☆」とか言われてしまった。そんで混乱しつつも自分の本心に正直になった桃凪は、そのまま道場までダッシュしたということだ。
「……入りたくないような、でも……」
情報が正しければただいまここは道場破り真っ最中。それなのかどうかはわからないがなんか道場の中でやたらに大きな音が鳴っている気がする。いや、道場は本来鍛錬する場所なのだから、試合や組み手などで騒音や掛け声が出てもおかしくは無いが。
と、そこで桃凪が躊躇しているおかげで、この災害は回避できた。
道場の扉が内側からはじけ飛んだ。
「へ? ……わー! なにこれ……!?」
扉を壊したのはガラの悪そうな男性。……いや、これは壊したということになるのだろうか。むしろ、壊れた扉と一緒に吹っ飛んできたと考えた方がいい気が。
そしてあけっぴろげに解放された道場の中心には小柄な影。
「うわ、またやっちゃったー! あれ? 桃凪さん大丈夫ですかー!」
「…………いーぴん?」
本来この世界ではまだ子供のはずのイーピンだが、何故かここに居るのは10年後のイーピン。道場にはどう見ても似合いそうにない恰好をしているが、おそらくランボの10年バズーカで入れ替わったのだろう。確か、殺し屋の仕事はやめてバイトしていると聞いていたが、かけているメガネを見るに勉強の途中に呼んでしまったのだろうか。だとしたらなんか申し訳ない。
「いやーなんか勉強の途中にいきなりここに来ちゃって。つい昔の癖でふっ飛ばしちゃったんですよねー、桃凪さん怪我は無いですか?」
「う、うん……。平気……」
イーピンに悪気はない、悪気はないと分かっているのだが。人が色々悩んで入ろうか入るまいか考えていた矢先に問題が解決した時の何とも言えないこの気分、この感覚は誰にぶつけたらいいのだろうか。
なんか今日、自分は空回ってばかりな気がする。
「うーむ…………。厄日かもしれない」
その後、なぜか帰ってきたら妹が口をきいてくれなくて困り果てる兄の姿があったとか、無かったとか。
今回は、桃凪が色々なものに振り回されるお話です。自分の感情とか、ストレートに他の人とか。
……という注釈をつけていないと何の話だかわからなそうな気がしまして。