○月´日
この間、せんせーが「ツナにあう動物を選んでもらう」っていって皆を動物園に連れてきました。
しかし、皆は普通にいつものペースで動くので大変でした。
りょーへいさんはクマと戦いたいというし。びあんきは珍しい食材を探すというし。動物園で食材探しというのは、水族館で刺身を食べようとするのと同じ意味だと思うのですが。
話は変わりますが(いや、そんなに変わりませんかね?)私はおっきい動物がすごく好きです。あのどっしりとした感じ、憧れます。ほかにも、フラミンゴとかも好きです。ピンク色が可愛い。
明日は、皆で桜を見に行くそうです。びあんきがやたらはりきってたので、少し心配なのですが。
第十八話 「桜と喧嘩は合いません。」
「ふぉおおおお……」
「どうしたのいきなり変な鳴き声あげて」
さらりとビアンキが言う言葉にすぐには反論できなかった。
ぴるぴると目の前の光景に怯えていた桃凪だったが、はっと我に返って何かコメントしようと頭を働かせる。というか鳴き声なのか。
「きょ、きょうのぽいずんくっきんぐはぜっこうちょうですね……」
「でしょう? 花見っていうから、はりきったのよ」
はりきるって何を? 殺人?
まだうまく回らない舌で何とか止めようとするのだが、そんなものビアンキにはどこ吹く風。あっという間に重箱にポイズンクッキングが詰め込まれていく。
どうも、ビアンキには弱い。押しの強さで言うならば雲雀も似たようなものなのだが、尻込みしてしまうというか。これがあのレディーファーストなのかしら。桃凪も女だが。
「花見の場所取りは大変なんでしょう? 望む所よ」
「……びあんき」
そわそわと落ち着かない瞳でビアンキを見ながら、桃凪は一つだけ質問した。
「びあんきが花見の場所取りしたら、人がいなくなる頃には毒で桜が枯れるんじゃないかな」
「あ」
その顔を見ると、どうやらその可能性を考えてなかったのか、……そうですか。
結局、花見の場所取り役は桃凪達と相成りました。よかったよ、ビアンキに「毒性の低いの作るから大丈夫」とか言われなくて。もしかして手加減できないだけかもしれないが。
ちなみにいつの間にか巻き込まれていたツナは少し不満げ、花見会場を大量殺戮の現場にされないだけいいと思うのだけど。
「今日あたり満開だなー。いい花見になりそーじゃねーか」
「まだ早朝ですし、最高の場所をゲットできますよ!!」
「う……うん……」
獄寺と山本は乗り気。ツナだけは朝の惨状を目で見ているのでとてもじゃないけどテンション高くは無理みたいだ。相手はあのビアンキ、もし場所取りができなかったら冗談でも何でもなくガチで殺されそうだ。彼女はリボーンと弟と女の子以外には厳しい。
しかし、この人数なら自分が行かなくてもよかったかもしれない。むしろ家でビアンキが色々重箱に詰めようとするのを止めた方が良かったかも。触れあった箇所から料理がどんどんポイズンクッキングになってくからね。怖いよ。
なんて考えている桃凪だが、正直言って場所取りに行きたくないだけなのだ。桃凪が場所取りに行くといつも先にやってくるおばあさんおじいさん方が「あらあらちっちゃい子ねぇ」「こんな朝に感心ねぇ。お菓子いる?」とか言ってくるのだ。桃凪は中学生である。これでも中学生なんだ。
とか考えてるうちに花見会場に到着した。会場と言っても別に屋台とかがあるわけではなく、いたって普通の広場である。
「空いてるねー」
「お、ラッキー!」
「こ、これで殺されなくて済んだ……」
「一番乗りだぜ!!」
三者三様の反応だが、ツナはそれでいいのか。
その時、
「ここは立ち入り禁止だ」
桃凪たちの背後から聞こえてきた声。振り向くと、そこには学ランにリーゼントという典型的な不良が。
「この桜並木一帯の花見場所はすべて占領済みだ。出てけ」
有無を言わさない話し方に獄寺の怒りのボルテージが上がる音が聞こえた気がする。それに気づかない山本は普通に不良を説得しようとしているみたいだが、話を聞くくらいなら最初っから不良になどなって無いわけで。
「おいおいそりゃズリーぜ。私有地じゃねーんだしさー」
「誰も話し合おうなんて言っちゃいねーんだよ。出てかねーとしばくぞ」
バキボキと手を鳴らしながら威嚇してくる不良だが、それが効いているのはツナくらいのようだ。天然一直線で大抵の事は受け流せる山本に、元々不良というか殺し屋な獄寺に、あの何様僕様雲雀様と話ができる桃凪。相手が悪すぎる。
しかも元から不良にイラついていた獄寺。とうとうぷっつりキレた。
「るせえっ!」
「はがっ!」
桃凪たちが止める暇もなく、獄寺のひざ蹴り一発で地に伏せる不良。倒れる不良を思いっきり見下す獄寺。面白い光景だ。
そして桃凪といえば、別の事に気を取られていた。
(……学ランに、リーゼント)
そう、不良は学ランにリーゼントだった。並盛町だとほぼすべての不良が学ランにリーゼントなためわかりにくいが、ここまできっちりと型にはまった不良というのも珍しい。
もしかしたら、
「何やら騒がしいと思えば君達か」
ふらりと現れた人影。
皆さんお察しの通り、雲雀だった。
「どもー」
ぱたぱたと手を振って挨拶する桃凪、雲雀はちらとこちらを見た後、またすぐに興味を無くしたように視線を外す。
「ひ、ひひひひ雲雀さん!? なんでここに……!」
おろおろあたふたと狼狽するツナだが、倒れている不良の人が風紀委員だと知って見事なまでにその顔が青くなる。
「僕は群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからね。彼に追い払ってもらったんだ」
「んな無茶なムグ」
思わずぽつりとつぶやいた桃凪の口を必死で押さえたツナだったが、雲雀には聞こえていたらしい。形のいい眉が少しだけひそめられて、いかにも不機嫌ですという感じで桃凪の方を向く。桃凪は平然としたものだが、ツナの方はたまったもんじゃない。
あの我の道を行く雲雀に口答えをしたのだ。
「…………別に、僕がどうしようと僕の勝手だ。小動物が口を出す事じゃない」
「あ、ああああの桃凪がすいません雲雀さんっ! ……って、あれ?」
条件反射で斜め45度の角度で腰をまげて謝ったツナだったが、雲雀からの予想外の返答に思わず言葉を失った。
「でも花見をしたい人はいるのに、それはどうかと思うの」
「知らないね」
「きょーやは知らなくても私は知っているのです」
とことこと無防備にもほどがある警戒心の無さで雲雀に歩み寄る桃凪。そしてそのまま口喧嘩(?)。
そしてその光景を唖然としながら見守るツナ達。
「弱いのが悪いんだ。草食動物達はね」
「でもそれだと楽しくないよ。一緒にいるのが楽しいと思わないならそれでもいいけど、私は皆一緒の方がいい。きょーやは?」
「僕は一人の方がいい」
「むー」
あの、あの雲雀が。口答えした相手に平和的に口喧嘩で戦って、あまつさえいい勝負を繰り広げている?
そういえば、前も前でスルーしていたが、この間応接室に行った時も、雲雀は桃凪だけは咬み殺そうとしていなかった気がする。それどころか仲がよさげに見えた気がする。
つまり、周りが疑問に思う事は一つ。
……この二人の関係って、何?
「あ、あのー……。雲雀さん、桃凪?」
ここでツナ、果敢に二人に質問しようとしてみる。しかし二人の醸し出す独特な空気にあてられて若干引き気味だ。しかしこの二人、独特な雰囲気を醸し出してるのにそこにまったく甘酸っぱい物が存在しないとはどういうことだ。
「正直言うと早く花見がしたいだけなのです。だから一緒に見ようと……、なにー? つな」
「僕の都合に君の考えは関係ない。この場所は風紀委員が占拠した。だから……、なんだい?」
くるり、と。囲っていた雰囲気が砕けて二人がこちらを見る。が、桃凪はともかく雲雀に睨まれるってそれどんな試練? できるものなら逃げ出したい。
「え、えーっと……。桃凪と、仲いいんです……ね?」
「……」
冷や汗ダラダラでやっと質問してみたのは、恐らくこの場にいる全ての人間が聞きたがっていることだろう。
それを聞いた雲雀は、一度だけ桃凪の方を見て、そしてツナに視線を向けて、そのままずっと逸らさない。
彼は無言で言っている(ようにツナには見えた)。
――――――なに言ってんの? コイツ。
「あ、いえ! 別に逆らうつもりとかは全然ないんですけど、ただいつもみたいに咬み殺すとかそんなん全然言わないから何でかなーって……。あ、あははは「君は…」……はい?」
無言の視線に耐えきれなくなったツナがまくしたてた言葉をさえぎるように、雲雀が声を漏らす。
「僕が『これ』相手に本気を出すほど暇だと思ってるのかい……?」
何でそんな不機嫌になってんのー!?
「あ、あわわわわわわわ……」
ぷるぷると携帯のバイブレーションもかくやという感じで震えだしたツナに、何処となく不機嫌さがにじみ出ている雲雀。そして桃凪は雲雀にとっての自分の価値はいったい何なんだろうと心底疑問に思った。どうも雲雀が自分の事を意に介していないというか、人間としてカウントしてないんじゃないかと思ってくるのだが。
「おもしれーことになってんな」
そして、そんな場に現れた一つの影。
場をかき乱す闖入者となるか、場を収める救世主となるか。
恐らく前者だ。
「チャオっす」
現れたのはリボーン。今日のコスチュームは着物に頭巾。どうやらコンセプトは花咲かじいさんのようだ。
そしてリボーンが座っている桜の木の幹に寄り掛かる影が一つ。
「っか~。やだねー、ほとんど男ばっか!」
でろん、と酒瓶片手に千鳥足のこの人物。名をシャマルと言って、凄腕のドクターなのだが、無類の女好きで女しか診ない。以前桃凪が風邪を引いたときにやってきたらしいのだが、結局桃凪は会うことはなかった。(それは大事な妹をエロオヤジの毒牙に掛けさせるわけにはいかないと思った兄の根性の攻防戦とかがあったのだが、桃凪は知らないようだ)
「しゃまるさん、おはようございます」
「お、桃凪ちゃんじゃねーか。相変わらずカワイイね~」
ニカッと笑いながらぐしゃぐしゃ頭をなでられて、桃凪の目の前がくらくら揺れる。どうも、シャマルにとって自分は好みのゾーンから外れているらしく、むしろ桃凪への対応が親戚のおじさんそっくりなのだが。
「赤ん坊、また会えてうれしいよ」
ロックオン。そんな言葉が一番ふさわしい感じで雲雀がリボーンを見る。雲雀はなぜかリボーンがお気に入りだ。多分強いからだろう。
「オレ達も花見がしてーんだ。どーだヒバリ、花見の場所をかけてツナが勝負すると言ってるぞ」
「なっ何でオレの名前出してんだよー!?」
話のタネにされたツナには悪いが、それでも時間は過ぎていくわけで。過ぎていく時間に対応できなかったツナだって悪い……わけではないか。
「ゲーム……いいよ。どーせ、皆潰すつもりだったしね」
「あー……」
スイッチが入ってしまった所申し訳ないが、このままだと花見の会場が喧嘩の場所になってしまう。恭弥自身もゲームだと言っているから、この間みたいに救急車のお世話になるまで殴る、ということはないだろうが。
「きょーや、せんせーも、待って待って」
「……何だい、小動物。僕は今忙しいんだけど」
「あいにくだが決定事項だぞ」
あ、止められない。
「簡単に諦めるなよ桃凪……」
「でも……無理でしょ?」
「……」
その言葉には、無言で返すしかなかった。でも、結局痛いのはこっちなんだけどな!!
「それにほら、大丈夫だと思うよ」
「何が根拠で?」
「うんとね……こういうときは、大けがはしないっていうお約束……ほら。『ギャグ補……」
「アウト!!」
もうひとつのソラはメタは認めません。
ルールは特になし、どちらかが膝をついたら負け。というのが、今回の「ゲーム」の内容らしい。
膝さえつかなければ負けないということでもあるが、膝をつけば負けることができるということでもある。しかし、この場にいる者達(ツナ除く)はどう考えてもわざと負けるとは思えない、皆が皆、負けず嫌いだからだ。
「そ、それってケンカ……?」
恐る恐る、といった風にツナが言葉を漏らす。殴りあいとかマジ無理、というのが今の正直な心境なのだろうが、周りの皆はそうでもないみたいだ。
「やりましょう10代目いややらせて下さい!」
「一応ルールあるし、花見してーしな」
「みんなやる気なのー!?」
自分の周りにいる人って、自分を含めてちょっとずれてると思う。
桃凪はちょっとだけそんなことを思った。
「心配すんなそのために医者も呼んである」
「あの人女しか診ないんだろ!!」
「そういえば、しゃまるさんはー?」
シャマルさんはあちらにいました。
「へーお前が暴れん坊主か。お前姉ちゃんいる? のへー!!」
そして殴られていました。
雲雀のトンファーに殴られ、すっ飛んだ挙句近くの木にぐしゃっと激突したシャマル。元々千鳥足だったし、しょうがないとは思うのだが。
「お医者さんいなくなったね」
隣で小さく獄寺が「バカだ」と呟いていたが、反論する者は誰一人としていなかった。
そして混沌の中リボーンの鶴の声が一つ。
「しかたねーな。桃凪、お前医者役やれ」
「ふぇ?」
「救急箱持ってんだろ」
「? うん」
そういってごそごそと懐から応急セットを取り出す桃凪。何処に入っていたのだろうか、とかは気にしてはいけない。いけないったらいけない。
「怪我人でたらお前が何とかしろ」
「あー、うん」
流石に骨折とかは面倒見切れないけど、ちょっとした怪我だったら何とかできる。のだが、リボーンの中にはそもそも喧嘩をしないという選択肢はないのか。あるはず無いか。
「10代目、オレが最高の花見場所をゲットしてみせますよ!」
「えっ!? でも獄寺君相手は……」
相手はあの雲雀だ、ツナの脳内ではこの前の応接室の一件、危うく病院送りにされそうだったあの瞬間の記憶が、まざまざとよみがえってくる。
それに、こういうのもアレだが、獄寺はあの時雲雀に一敗を記している。精神論でもう一回立ち向かっても、勝てるのかと……。
「まぁ見てろ」
「! え?」
そんなツナにリボーンがかけた言葉は簡単なもの。しかし、それの意味を他ならぬ獄寺自身が解明してくれた。
「よっしゃ!! ……テメーだけは、ぶっとばす!!」
ひとつ気合を入れてのスタートダッシュ、何処からか取り出したボムに火をつけながらの特攻。そこら辺にいるヤンキーだったら恐怖のあまり固まってしまうレベルだ。
しかし、雲雀はそんな獄寺に冷静に反応した。
「いつもまっすぐだね。わかりやすい」
体のバネを使って、一瞬のうちに意識を刈り取る一撃。
だが、それを予期していたかのように身をかがめた獄寺。雲雀の一撃は空を切った。
「!」
予想外の手ごたえに一瞬硬直した雲雀、獄寺はその隙を見逃さなかった。手の内のダイナマイト、それを投げるのではなく、宙に離す。雲雀の周りに、まるで花に集う蝶のようにダイナマイトが静止して。
「新技、ボムスプレッズ。――――――果てな」
閃光、そして衝撃。
大きな音と共にダイナマイトははじけ飛んで、土煙に視界が遮られた。
いくら雲雀であろうとも、あの中心にいて無事であるはずもない。というか普通は死んでる。つまり、
「ええっ!? まじで雲雀さんを!?」
「あのスピードと柔軟性は、強化プログラムで身につけたものだぞ」
そしてリボーンのウソ臭い解説。ちなみに強化プログラムとは、以前獄寺が「もしかして自分は十代目の役に立ってないのではないか」と思った時、リボーンが提案した強化プログラムの事だ。正直言って見学した桃凪としては、あれは一体何をやっているのだろうか、コントの練習? みたいな状態だったが。
まあ、それはともかく。
「……、」
桃凪が透かし見るのは、いまだ見えない土煙の中心。
「で……?」
そしてそこにゆらりと立つ人影を認知した時。
「はやと! まだ!!」
桃凪の叫びと同時、もうもうと立ち込めていた土煙が、ぶわっ!! と吹き飛ばされた。
「続きは無いの?」
そこに立つ雲雀は、無傷。
「なっ!? トンファーで爆風を!?」
「二度と花見を出来なくしてあげよう……!」
驚愕する獄寺を気にした様子も無く、まさに
勝ったと思って油断していた獄寺には、あまりにも拙い。
「くっ!」
高速で振るわれた雲雀の攻撃をどうにかかわす獄寺、しかしその膝は地面に触れてしまう。
「獄寺は膝をついた。ストップだ」
「やだよ」
冷静な
そのまま風切る音と共に振り下ろされたトンファーに、唯一反応を返した者がいた。
「次オレな」
「山本!!」
「……!」
雲雀のトンファーを受け止めていたのは、いつだったかリボーンが山本に渡していたバット。高速で降ると胴体部分が潰れて刀に代わる、命名「山本のバット」とかいった代物のはずだ。実際はバットではなくバット型望遠鏡というヘンテコな代物なのだが、桃凪はそれを詳しく知らない。
「これならやりあえそーだ、なっ!」
言葉と共に切りつけ、薙ぎ払う。師を持たないその一撃は型こそめちゃくちゃだったが、十分な早さを持って雲雀を狙う。
しかし雲雀はそれをたやすくあしらい、そのままトンファーを振りぬいた。
「ふうん、どーかな?」
この局面においての冷静すぎる表情。桃凪の感が告げている、もっと何かを隠し持っている顔だと。
「僕の武器にはまだ秘密があってね」
「……秘密?」
不敵な笑みの雲雀に違和感を感じながらも、手を止めずにバットをトンファーに叩きつけた。
そして見えた、笑みを消し去った冷酷な顔。
「!?」
ガキンっ! という音。それと共に刃物と化したバットが雲雀のトンファーに『絡め取られる』。トンファーから飛び出していた仕込み鉤が、山本のバットを無効化していた。
「な、何アレ!? 何か出たー!?」
ツナの驚愕の声と同時に振りぬかれたトンファー。風を巻き起こすそれを山本は紙一重でよけ、避けきれずに額を掠めていく。またかよと軽く呟きながらも、
「らうんどわーん。のっくあうと」
ぽつり、呟いた桃凪の言葉が、ある意味で一番状況を説明していた。しかしバトルになると本当に自分は目立たないな。
「次はツナだぞ」
「ええー!?」
獄寺も倒され、山本も倒された状況。まあ、普通はそうなる。
「お、オレは無理だよ! 何にも強くなってねーし!」
狼狽しながら後ずさるツナに、そうでもないと桃凪は思った。
だって、この間のつなはきょーこちゃんをかばってライオンの前に立ち塞がっていた。ちなみに動物園に行った時にライオンが逃げ出したので、町中にライオンがいるわけではない。
「昔のお前が体を張ってライオンから京子を守れたか? さっさと暴れてこい」
「ちょっ!? 待てよ!!」
ずがんっ!
花咲リボーンが銃声一発。脳天にぶち込まれた銃弾に、ツナの死ぬ気が覚醒した。
「
リボーンの帽子に乗っていた形状記憶カメレオン、レオン。前回の雲雀との対決ではツナの手によってスリッパに変形したそれ。
むにゅにゅとおよそ生物ではちょっとありえない変形をしながら整えた形は、金属製の細長い棒の先端に埃取りに最適なふわふわの布地が付いた、ハタキ。いつもいつも思うが、何であんな微妙なものに変形するのだろう。
そのまま振り下ろしたハタキを、雲雀は何の苦も無く受け止める。受け止めた際ハタキの一番上の布地がぽふっと頭にかかっていたが、特に気にしていないらしい。
しかし雲雀はわずか、そう、ほんのわずかだけ腕に感じた力に注意を向ける。いつもそうだ。弱々しく吹き飛ばされたと思えばこちらが意図しないタイミングで痛烈な一撃を加えてくる。強いのならば戦いたいけど、弱いのならば咬み殺したい。でもどちらかわからない。
「君は変わってるね。強かったり弱かったり、よくわからないから――――殺してしまおう」
「っだぁ!!」
そのまま数合、はた目から見れば力量はほぼ互角、打ち合いの最中にぽふぽふとなるハタキが微妙に緊張感をそいではいるが。
しかし、この拮抗は長くは続かない。元々、ツナは死ぬ気弾による一次的なパワーアップでやっと雲雀と互角なのだ、故に死ぬ気弾の効果が薄れてしまったら、ツナに雲雀と戦うだけの力は無い。
ギィン! とひときわ大きく金属音が鳴り、二人が距離を開ける。そしてその時ちょうど死ぬ気弾の効果が、切れた。
「……い!? わっ! ちょっ待っ!?」
死ぬ気モードが抜けた途端に元のツナに逆戻り。だが、雲雀は特に気にしない。まったく困ったことだが。
「ひぃっ!?」
「……あ」
そしてそのまま、
とん、と。
地に膝をつけていた。
――雲雀が。
「……えー?」
少なくとも、桃凪の目からは、ツナが雲雀に攻撃をあてていたようには見えなかったし、雲雀が体調不良だったというわけでもないらしい、ということぐらいしか分からなかった。
ならばなぜなのか。
そしてそう思ったのはツナも同じらしく、ひどく狼狽している。それこそ桃凪の比では無いほどに。
「えー!? 嘘っ!? オレがやったの……!?」
「ちがうぞ。やつの仕業だ」
「?」
今この場で、雲雀に気づかれないように一撃入れる事が出来る者。そんなのリボーンと――、
「おー、いて。ハンサムフェイスに傷が付いたらどーしてくれんだい」
そう、リボーン以外ならば可能性は一つ。
「Dr,シャマル!!」
実はシャマル、雲雀に吹き飛ばされたあの状況で自身の技である「トライデント・モスキート」…何らかの病原体を持った蚊を使い、雲雀に病を発症させていたのだ。器用である。
ちなみに、その病の名前が。
「わりーけど、超えてきた死線の数が違うのよ。ちなみにこいつにかけた病気は桜に囲まれると立っていられない「桜クラ病」っつってな」
「なんじゃそりゃー」
「……(またヘンテコな病気だ―――!!)」
桜クラ病って、どう考えてもダジャレじゃないか。いいのかそんなんで。仮にも病名が。もし病気になって病院に行った人が医師から「桜クラ病ですね」なんて言われたらどう反応すればいいのだ、苦笑しかない。
あきれ果てている桃凪だが、実際目の前にかかった人がいるのだ、雲雀が。
「……約束は、約束だ。せいぜい桜を楽しむがいいさ」
そして雲雀はとんでもない方法で負けたのにもかかわらず、悔しさを一切にじませないまま(恐らく、内心ではかなり悔しかったと思うが)広場を後にした。……桜クラ病にかかったままだったため、足取りはおぼつかなかったが。
「あー、きょーやきょーや」
それい気付いた桃凪、とてとてと歩み寄り、雲雀に肩を貸そうとして、やめた。雲雀はそういう手助けを嫌っているし、体格差を考えても無謀そうだと思ったからだ。
「つなー、ちょっときょーや送ってくる」
「え……? あ、ああ」
「…………いらないよ」
むすっとしたまま断りの言葉を入れる雲雀をまったく気にしないまま、ふらふらした足取りの雲雀の傍に寄り添う桃凪。第三者の視点からすると、何やらやたらよろめいた足取りで歩く中学生男子とそれを助けもせずただ一緒に歩いているだけの小学生というとてつもなく変な組み合わせだが、気にしてはいないらしい。
さて、この病気は桜に囲まれていると発症するものならば、桜から遠ざかれば症状はあらわれないはず。そして症状が消えれば雲雀は光の速さで桃凪に帰れコールを送ってくるはずなので、実質桃凪が雲雀と話せる時間はほんの僅かだ。
しかし、何を話そうか。世間話とかだろうか。
「きょーやは集まるのが嫌い?」
「……そうだよ」
「別にそれはいいんだけど、人の善意は嫌いなの?」
「哀れみの目は気にいらない」
「……すごくそんな感じがする」
「僕は強いから、そんな目で見てくるやつはいないけどね」
「いなくなったって事ですね、うん」
……世間話?
うん、世間話。世間話なのだこれは。そう思う事にしよう。
どうも、意識すると上手く話せない。内心で首をかしげるが、どうしようもないことは一番自分がよくわかってる。といっても、雲雀と世間話など何をしていいのかわからないのも事実だ。普通に今日はいい天気ですねとか言っても話が続くとは思わないし。
ま、いっか。悩むのはやめよう。
「きょーや、そろそろ戻るね」
「さっさと行けば」
「……むー」
相も変わらずぶっきらぼうな言葉に傷ついたふりをしつつ、なんだかこうして話すのも久しぶりだと思いながらもツナ達の方に戻って行った。
なんとなく、波長が合うのだろう。
結論としては、それ。桃凪と雲雀はどこかの歯車がかみ合っているのだと思う。故に、ここまで会話が奇跡的に成立しているのだと。それだけで、特にどうとでも言うわけではないが。でも、たとえ少しでも自分の心の奥底を理解してくれる人がいるというのは、とても幸せな事ではないだろうか。雲雀に限らず、己の半身に対しても、同じセリフが言えると思う。こんな風にくるくるころころと興味の対象が変わっていく自分に、ちゃんと会話してくれたり、友達でいてくれるという事は、すごくうれしい。
理解してくれて、ありがとう。
――――そこで終わればいい話だったのにな。
「いいから食べてみなさい。感謝の気持ちがこもってるからきっと大丈夫よ」
「だから無理だって言ってるだろ!?」
「あ、アネキ……ガハァッ!?」
「ははっ、仲いいのなー」
「ビアンキちゅわ~ん(はあと)」
「死ね!!」
「そろそろ昼寝の時間だぞ。オレの眠りを妨げた奴は殺す」
「…………結局、こうなるの、決定事項」
しかたない。
ストックが、そこを、つきました。
続き書くの頑張ります。