もうひとつのソラ   作:ライヒ

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第十九話 「無駄なことでも努力はした方がいいと思うんです。」

 

 

 

 

 ○月£日

 

 ぐるぐると慌ただしい日々でした。

 えーと、箇条書きにしますとまずは、

 ・ろんしゃんっていうクラスメイトの人ができました。

 ・ろんしゃんは、マフィアの関係者でした。

 ・お母さんが抽選で南の島へのリゾート券を当てました。

 ・そのリゾート券は、マフィアの関係者の人たちが仕組んだものでした。

 ……見事なまでに、上げて落とされています。漫画でいったら起承転結が二重丸でしょう。あと二年生になりました。

 でも、悪いことばかりじゃないです。

 まず、マフィアランドではころねろっていう赤ん坊にあいました。銃を持った。ええ、間違いなくせんせーの関係者でしょう。青いおしゃぶり持ってましたし。

 今日は男子はプールの掃除です。プール開きまであとちょっとです、ね……。はぁ……。

 

 

 

 

 

第十九話 「無駄なことでも努力はした方がいいと思うんです。」

 

 

 

 

 

 突然で申しわけないが、沢田桃凪姫はカナヅチである。

 運動能力が底辺どころかぶちぎれている桃凪、ちょっと走っただけで息切れを起こしてしまう彼女が、全身を躍動させ水の中を飛ぶ水泳を出来る筈が無いのだ。

 それゆえに、彼女はプール開きの時になると決まって憂鬱になる。

 泳げないわけじゃない、浮かないんだ。似たようなものじゃねえかではなく全く違う←これ重要

 水の中で溺れるものをカナヅチとは言わない。水の中に沈んでいくからカナヅチなんだ。

 ……とまあ、色々書いてみたが。

 結局のところ、いま彼女はどうやって体育の授業を欠席するか、それに焦点を集めているのだった。

 

「と、いうわけで。なんか書類とかあったら今回からは出血大サービスでいまなら30%オフのお得な値段で引き受けようと思う」

「……、間に合ってるからいいよというかちゃんと出席すれば?」

 

 という提案を雲雀にしたのだが、なんだか不興を買って応接室を追い出されてしまったのだった。ちゃんちゃん。

 雲雀のよくわからない権限を盾にすれば、欠席しても咎められるどころか二重丸をつけてもらえそうだと思ったのだが、とうの雲雀の方が非協力的なのでどうしようもない。あれか、菓子折り持参で訪問した方が良かったのか。

 となると、できるだけ教師に目をつけられない方法で授業を欠席するというのは不可能に近い。体育教師の間では桃凪の運動音痴は知れ渡るどころか常識になってきているのだが、だからと言って休めるわけではない。桃凪そのこと知らないし。

 これはつまり、そろそろ桃凪の運動音痴を何とかして華々しい青春を送るがよいという神様からのお達しなのか。なんと人騒がせかつ押しつけがましい神様なのだろう。今度初詣の時は100円じゃなくて10円を入れてやろう。

 せこいとか言わない。

 

「…………腹をくくるか」

 

 

 

 

 

「市民プールに行きませんかー! つなー!!」

「うわぁっ!?」

 

 バァン!! といつもとは明らかに違う勢いでツナの部屋の扉を開けたのは、何やら決意とかに満ち満ちた顔をした桃凪だった。

 

「いきなりなんだよ、桃凪……」

「いやだから市民プールに……たけし?」

「よー、邪魔してんぜー」

 

 ぱちくり、と何やらまったく似合わない熱血とかに燃えていた目が、客人の言葉で元に戻る。ツナはただいま山本と遊んでいる……というわけではない。いや遊んでいると言えばそうだが、とある重要な計画の為に集まっている、というのが正しい。

 しかし、市民プール。

 なぜ桃凪からその言葉が出るのか。確かに桃凪の運動音痴は酷いとか言うレベルではないものだが、その桃凪が自分から運動するための場所に行くなどと考えられないのである。ツナ、何気に非道い。

 

「ちょーどいいや、俺達も市民プールで泳ぎの練習しようと思ってたんだ。一緒に行かね?」

「ふぇ? たけし達も?」

 

 実は、男子はプール開きの最初の授業のさい、最低でも15メートルは泳がなければならない。泳げなかった男子は問答無用で女子の近くでバタ足練習だ。これは恥ずかしい。

 そしてツナは泳げない。泳ぎ方が分からない、という方が正しいか。決して桃凪のように浮けないのではない。

 というわけで、水泳のみならずほっとんどの運動が得意な山本に教えを乞おうとしていたのだった。

 市民プールに練習に行くのも、その一環だったのだが……。

 

「一緒に練習すっか?」

「…………、いや、えと、……やっぱいいや」

 

 そう山本に言われた桃凪は、あっという間に口ごもってしまった。あれ? そこでやめるのか。何で? 今の桃凪だったら先頭に立って掛け声を上げそうなくらいだと思ったのに。

 

「(桃凪どうしたんだよ。具合悪いのか?)」

「(……つな)」

 

 すすす、とさりげなく部屋の入り口からツナのそばに移動した桃凪が、こそこそっと耳打ちする。

 少しだけ頬を赤らめて、若干恥ずかしそうに、無表情に話した内容とは。

 

「(……だって、私スクール水着しか持ってない)」

 

 だった。

 

「?」

 

 そしてこれに首をかしげたのはツナ。

 そりゃ桃凪は運動が苦手で、運動するための場所に行くことは全然無い。だから桃凪が学校指定のスクール水着しかもっていないのは当たり前の事なのであって、逆に別の水着を持っていたらいつの間に買ったんだと不思議に思ってしまう。

 

「(それで何でやめるんだ?)」

「(いや、ほら、スクール水着というのはですね、規格製の量産品ですので、素材が良くなければ意味を持たない代物なのです。この場合の素材の良さっていうのは要するに身体の黄金比を指しているから……云々)」

「???」

 

 ますます分からない。

 なにが恥ずかしいのかよくわからないけどなんだかすごく恥ずかしそうな桃凪と、桃凪の言っている意味がよくわからないツナ。そして見た目はすごく仲睦まじい兄弟をほほえましげに見まもってる山本。

 

「(……だからつなはつななんだよ。だからきょーこちゃんともいつまでたっても進まないんだよ。……ばか)」

「(はぁ?)」

 

 

 

 

 

 さて、市民プールに到着。したのだが。

 

「やだ」

「じゃあ何でプールに来たんだよ……」

 

 恥ずかしがるのを半ば無理やり連れてきた桃凪が、拗ねてプールに入りたがらないのだ。

 

「だって、私来たくなかったのにつなが無理やり連れてきた」

「最初のあのテンションはどこに……」

「無い。そんなものは幻ということで」

 

 タオルケットをひっかぶったまま体育座り、ろくに動かない状態。これは完璧に拗ねている。日焼けを気にしているわけでは無さそうだし、やっぱりツナにはよく分からない。

 

「まーまー、泳ぎたくねーっつーんなら無理して泳ぐ必要もないだろ。んじゃま、ツナから練習いってみるか?」

「え? あ、ああ……」

 

 そういえば桃凪の事ですっかり忘れていたが、自分はここに泳ぎの練習をしに来ていたのだった。心配していたリボーンはただプールに浮きながら昼寝しているだけだ。これならばあまり問題は無いだろう。

 

「リボーンのやつ涼みにきてるだけじゃねーか」

(ま、その方がよかったけど……)

「んじゃとりあえず泳いでみろよ。ここなら浅いから」

 

 山本の教育方法は実戦方式、習うより慣れろだ。山本の運動センスならばそれが可能だし、実際習うより実戦しながらの方が上手くいくこともあるだろう。

 

「う、うん……。よーし……」

 

 いつもやるみたいに、いやいつもやると失敗するから、とりあえず腕を動かさなければ。息を吸って、止めて、せーの。

 ばしゃん! ガボガボガボガボ…………!

 

「ツナ!?」

「ぶはっ!? ぐはっげほっげほっ!!」

 

 水の中に入った瞬間に上下の間隔が無くなって、腕まわしても進まなくて、軽いパニック状態に陥ったツナ。体で覚えるうんぬん以前に、そもそも基本的な運動さえうまく出来ないのだ。

 

「なるほどなんとか5メートルってとこだな。まずは呼吸の練習から始めるか」

「う、うん……げほっ」

 

 そして山本レッスン開始。

 レッスンその一。

 

「いいかツナ! ぐっともぐって、んーぱっんーぱっぐっぐって」

「え?」

 

 レッスンその二。

 

「そーすりゃすい――っといくから!」

(意味わかんねー!?)

 

 レッスン終了。

 

「んじゃすっすぃすぃ~っともう一本いってみっか?」

(感覚的すぎてついていけません――!?)

 

 頭のいい人間が他の人に勉強を教える場合、自分を基準に考えてしまうために過程を色々とすっとばして話を進めるから、逆に言っていることが分かりにくいということがあるらしい。山本の場合、その類稀なる運動センスですべての物事がかたづいてしまっているため、運動歴赤マル初心者のツナにはちょっと何いってるかわからないようだ。

 

「……とりあえずプールに潜ってみて、水面に顔出しながら、腕を前に向かって動かすと、意外と行ける?」

「おっ、そうそうそんな感じ!」

「桃凪!」

 

 ちょこんと、まだタオルを被ったままだが桃凪がプールサイドでしゃがんでこちらを眺めていた。

 そして何故あの難解な山本語を翻訳できるのだろうか。…………ああそうか、桃凪も桃凪で感覚で生きてる所があるからか。

 

「泳ぐ気になったのか?」

「……つなも頑張ってるし、頑張ってみる」

 

 無表情のままそう呟く桃凪はまあいいのだが、桃凪ほどの運動音痴がこの感覚式レッスンについていけるのだろうか? とツナは今更ながらいらない心配をしてしまう。しかし泳ぐ気になっている桃凪に変な事言ってすねられてもアレだし、言わないでおいた方がいいのだろうか。

 

「…………たけし、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだー?」

「…………」

 

 胸まで水につかった状態のまま、揺らめく水面をじっと見つめながら、桃凪は質問した。

 

「…………水に浮くにはどうしたらいいと思う?」

 

 ……まさか。

 

「……そこからかよ」

「いや、泳げないわけじゃないよ。泳ぎ方は分かってるんだよ。浮かないんだよ」

「同じ事だろ」

 

 同じことだけど桃凪からしたら違うらしい。まったく同じことだと思うが。

 

「見ててねー」

 

 そういって息を吸い込んだ桃凪、そのままゆっくりとプールの中に沈んでいく。

 とぷん……。

 …………ぶくぶくぶく。

 浮かんでこない。

 

「…………溺れてないよな?」

「んー、大丈夫じゃね?」

 

 結構長い時間沈んでいたため、だんだん心配になってきたツナだったのだが、山本からすると心配は無いらしい。そうしているうちに、さっきの光景の逆再生のような感じで桃凪の琥珀色の髪の毛が見えて、浮かび上がってきた。

 

「ぷはっ……。ね、浮かないでしょ」

「んー、水の中でぐっとすりゃ勝手にプカーって浮くぜ?」

 

 ……水の中でただ沈むのではなく、態勢を変更すればあとは勝手に浮かぶことができる、ということだろうか。

 

「……なるほど」

 

 そしてもう一回トライ。

 ぶくぶくぶく…………。

 

「……浮かない」

「あっれー? おっかしーな?」

 

 ……もう一回。

 ぶくぶくぷく……。

 

「がんばれ! ちょっと浮いてきたぜ!」

「……ぶほ、も、限界、です……」

「だ、大丈夫か? 桃凪、なんか貞子みたいになってるぞ」

 

 長い髪の毛はゴムで縛ってあったのだが、いつの間にか取れてるせいで水面に揺らめく髪の毛が某ホラー映画の最近は萌えキャラにされてる某人物みたいになってる。

 

「うむ……。前が、見えない……。疲れた…………、上がる……」

 

 水浸しの髪の毛でずるずるのままプール状に這い上がる桃凪。深夜のプールだったら悲鳴が上がるのではないだろうか、そもそも深夜のプールに人はいないが。

 近くのベンチに行くのも面倒なので、プールサイドでそのままぐったりと寝そべった。傍から見ると溺れた人に見えなくもない気がするとかちょっと考えたけど、動くのも面倒なので気にしないことにした桃凪なのだった。

 

「キャー! 助けて~! おぼれる~!!」

「……うぁ? この声……」

 

 そこには。

 

「助けてください! 泳いで助けてください~!!」

「ハル!?」

 

 思いっきり水面をばしゃばしゃ言わせながら溺れたふりをしているハルがいた。となりで小学生が何やってんだろうという感じで通り過ぎていくのがいたたまれシュール。

 

「な、何でハルがここに……?」

「それどころじゃないです、命が! ともしびですー!!」

「足つくだろ?」

「……」

 

 本人も無理があると思っていたのか、はたまたツナがあまりにも冷静だからタイミングを失ったのか。ぴたりと止まったハルの体が、次の瞬間勢いよく水面に現れた。

 

「リボーンちゃんに聞きました! 泳げなくなっちゃったって!!」

「は!?」

 

 リボーンはあれでもキチンと根回しをしていたらしい。根回しと言っても、それが良い事につながるとは言えないが。むしろリボーンにとっていい事になっている気がする。なんともまたせんせーらしい。

 

「ハルもツナさんが泳げるよう協力します! 前に川に落ちたハルを泳いで助けてくれたじゃないですか、きっとツナさんはハルのためだと泳げると思うんです!!」

「あ、あん時は……」

 

 実際にツナがあの時泳げたのは死ぬ気弾のおかげだったのだが、それを知らないハルにはわからないだろう。それでわざとらしくツナの目の前で溺れたふりをしていたわけだ。

 

「さあヘルプミー!!」

「やめろって!! そーゆーわけじゃないから!!」

 

 そして再び足がつく所で溺れたふりをし始めるハルだったが、周囲に居る小学生の無慈悲な変態発言が結構堪えたらしい。

 

 

 

 

 

「いちにー、いちにー、ぱっ」

「ばっ、ゴホッゲホ!」

 

 ハルが混ざった練習を始めてからおよそ十数分。

 

「だいぶ呼吸がさまになってきたな!」

「う……うんっ。ただ……やっぱり……ハルに手ぇひっぱってもらう練習恥ずかしいよ!!」

「まごころ指導が上達への近道です!」

 

 そりゃ確かに山本の分かる人にしか分からない感覚指導よりは効果的かもしれないが、ここは市民プールで、しかも昼間の一番盛況な時間帯で、そんな中で中学生がまるで幼稚園児にやるがごとき方法で泳ぎを練習していたら、それはいたたまれなくなるものある。

 そしてこっちは、

 

「ぷかー……」

「あー、もうちっとこうだーっとなりゃもっとぷかぷか浮くぜ?」

「ぷー、ぐだだ……」

 

 桃凪は山本の感覚指導を直感的に信じて無駄な努力をしていた。なんでも、力を抜くと体が浮くとかそういうことが言いたいらしい、山本は。

 そういえば昔、水の中に服を着たまま落ちた時のために水中で服を着たまま浮く訓練をしたことがあったなぁ。あの時も何故か全然浮かないので、絶対に水の中に落ちるなよ! 絶対だぞ! とか言われた覚えがある気がする。と現実逃避しつつ。

 なんとか水面に顔を出せるくらいまで浮くことができるようになったのは、恐らく大きな進歩だと思うのだが。しかし逆を返せば足はどんどん水の中に沈んでいって底に付いているので、底の深いプールや海などに浮かんだらぶくぶく沈んでいってしまうことは決定事項だ。

 でも水面から眺める空は青くてきれいだなぁ、と割合平和に考えていたら。

 

「10代目! 10ー代目ー!!」

 

 何故かプールのフェンスをのぼって来た謎の声がそのままプールに飛び込んできた。いや桃凪の知る限りでは人の事を10代目などという珍妙奇天烈な呼び方をする者など一人しかいなry

 

「ご病気ですかっ!? 泳げない体になってしまったなんて!!」

「うわぁ!? え、泳げない体……!? ……獄寺君、また何か勘違いを……!?」

「はひ! ツナさんは今ハルのまごころ指導の最中なんですよ!!」

「つーかお前ちゃんと正面入り口から入ったかー?」

「ああ!? んなことよりまず10代目のご病気を治す方が先決だっつーの!!」

「ご、獄寺くん! 病気じゃないから!!」

「お前ら、気付いてねーようだから言うがな。さっきから桃凪の姿が見えねーぞ」

「「「「え?」」」」

 

 そういえば確かにさっきから水面に顔だけ出して空を眺めていた桃凪がいない。不思議に思った4人が辺りを見回しても、やっぱりいない。

 と、そこで。

 ごぽっ、ごぽごぽごぽごぽ……。

 近くの水面、多分さっき桃凪がいたらしき場所から次々と浮かび上がってくる気泡。水面は人が大勢いるせいで揺れに揺れてて、底の方はぼやけて上手く見えないが、恐らく。

 

「……は、はひー!? 桃凪さんが溺れてますー!!」

「ちょっ!? 桃凪!? しっかりしろ、市民プールで溺れるなー!!」

「と、桃凪さぁあああん!! クソッ! 誰だこんなことしやがったヤツは!?」

「さっきお前が飛び込んできたときに出来た波じゃね?」

 

 

 

 

 

「すいません! すいません!!」

「…………め゛とはな゛の奥との゛どが痛いでず……」

「ちょっと休むかー?」

 

 溺れた桃凪はプールの監視員の方が助けてくれた。獄寺はプールに飛び込んだことで、ツナと山本は監視不行き届きでそれぞれしかられた後。水を飲んだりはしなかったが、器官に水がある程度入ってしまって盛大にむせかえった桃凪はバスタオルにくるまれながらのどの痛みと戦っていた。

 

「……私はいいから、つな、泳ぐといいと思う。見てるから」

「あ、ああ……。そうした方がいいかもな」

 

 これで水中にトラウマが植え付けられたりはしないとは思うが、気分的にはもう泳ぎたくは無いんだろう。

 そうして、途中から混ざった獄寺と一緒に泳ぎの再開をしたわけなのだが。

 

「いいですか10代目、このように上手く泳ぐには重力と浮力の重心が重要になります」

(理論指導だ……!?)

 

 獄寺は確かに頭がいいし、山本みたいに感覚的な指導をしそうなタイプには見えない。しかし、そこでホワイトボードと眼鏡を装着して理論の説明から入るなどとは誰だって思わないだろう。興味深そうな目でホワイトボードを眺めている体育座りの小学生のおかげで、その光景はいつもより8割増しで面白おかしい。

 

「せっかくプール来たんだし、体で覚えた方が早ぇんじゃねーの?」

「なっ! あのなあっ! 理屈が分かんなきゃ出来る事も出来ねーんだよ!!」

「ちょっ!? 獄寺君!」

 

 山本は運動センスにより動いているうちになんとなくやれるタイプで、獄寺はまず理論を徹底的につきつめて効率のいい方法を導き出すタイプ。同じ中学生でもやっぱりそこら辺は全然違うというか、本当に正反対だ。

 

「ハルは真心が第一だと思います」

「お、そりゃそーか」

「知ったよーな口聞くんじゃねー! アホ女!」

 

 そしてハルは真心的指導。人に教えるということを考えれば一番いいのは彼女の教え方なのだろうが、これはまた見事なまでに各々ばらばらなのは一体どういうことだろうか。

 

「だったら誰が一番教え方がうまいか競争です!」

「それいーじゃんじゃあ一人30分ずつな」

「のぞむ所だ! 10代目が何メートル泳げるようになったかで勝負だ!!」

「うそ!? ちょっと待ってー!!」

 

 もはやツナに教えるうんぬんより、自分達が正しいことを証明する戦いになってしまっている気がするが、一応これでもツナのためを思っているのだろう。

 

 まずは一人目、山本。

 

「そこでギューンぽっぽって」

「げほっ! ? ?」

「5m変わらずです」

「意味わかんねーぞ野球バカ!」

「がんばれー」

 

 二人目、ハル。

 

「バタ足じょーず! バタ足じょーず!」

「ぐはっ!」

「やっぱ5mだ」

「分かったかアホ女!」

「ふぁいとー」

 

 三人目、獄寺。

 

「腕をこの角度にすることにより推進力を……」

「う、うぅ……」

「5mですよ!」

「お前もダメじゃん」

「やればできるさー」

 

 おおよそ、個人練習から一時間三十分後。

 

「ダ……ダメだあ……全然上達しない! 15mなんて夢のまた夢だよ~っ!!」

「そ……そんなことないっすよ! かなりフォームは良くなったっス!」

「オレもいい線いってると思うけど」

「何がいけないんですかね?」

 

 それぞれがそれぞれの思う方法で教えた。内容はともかく、熱意だけは一級品だった。その証拠かどうかは分からないが、ツナも少しづつフォームもまともになってきたりした。けれども距離は相変わらず5メートル。一体何がいけないのだろうか。

 

「……みんな、ありがとう……。でももういいよ……」

 

 皆の頑張りは伝わってくるし、でも、だからこそ成長しない自分が情けなくなってくるなぁ、とツナは思う。

 

「そんな簡単にダメツナから変わんないよ……。これがオレの実力だよ、急に泳げるようになんてなるわけないって……」

 

 昔のツナでは考えられない思考だろう。ここに居るのがもし昔のツナだったのなら、自分の境遇に甘え、努力することすら放棄していただろうから。

 

「10代目……」

「……ツナ」

「ツナさん……」

「つな……」

 

 だから、それが思えるだけでもかなりの進歩であると言える。ならばツナに足りないものなど、現時点では一つしかないだろう。

 

「ヘコたれるんじゃねえぞ。おまえに足りないものを教えてやるぞ」

 

 ゆるり、とツナのすぐ後ろの水面で、黒いものがうごめいた。そこはかとなくぬめっとした質感で頭(だと思われる)部位がずんぐりと大きく、頭の近くに髭のようなものが生えているそれは。

 

「じしんだ」

 

 バリッ バチバチバチ!

 

「ひぎゃぁああああ!?」

 

 やたらリアルなナマズの着ぐるみを着たリボーンだった。

 なぜか着ぐるみのはずのナマズからばりばりばりばりと電気がほとばしり、プールの水面を伝ってツナに襲いかかる。ツナのあの様子を見るからに、恐らくかなり痛いのだろう。

 リボーン流ショック療法は結構だが、至近距離で電流をくらったツナは虫の息、かと思ったがすぐに復活した。そのタフさは見習いたい。

 

「これは自信と地震をかけたんだぞ、ナマズなのは地震を予知する……」

「うるさいよ!! つーかオレ以外にも何人かくらってるぞ!!」

 

 ご丁寧にも自分のギャグの説明を始めたリボーンにツナが突っ込むが先ほど流れた電流、ツナだけではなく恐らく周り一帯に流れたため辺りはまさしく死屍累々。プール監視員が飛んでこないのが不思議なくらいだ……と思ったら、何故か監視員がいなかった。リボーンの力で物理的に排除された、というわけではないと祈りたい。

 

「でも、リボーンちゃんの言ってる事正しいかもですよ」

「ああ、自信って大事だぜ」

「え……、で、でも自信って言っても……」

 

 自信と言われても、いきなりそのようなものが芽生えるはずがない。ツナの根本にはまだ「どうせオレなんか……」という思考回路が抜けていないのだろう、こういう時にしり込みしてしまうのが、その証拠だ。

 そこで、

 

「オレの出番のようだな!!」

 

 いかにもここぞという時のお助けキャラのように登場したのは、相変わらずそこに居るだけで周囲の体感温度が数度は上がっているのではないかと錯覚させる熱い(おとこ)、了平だった。

 

「京子ちゃんのお兄さん!!」

「りょーへいさんだー」

「おう! 沢田が泳ぎの練習をしているらしいと聞いたのでな、並盛の闘魚(ランブルフィッシュ)と呼ばれるオレの力を貸そうと思ってここまで来たのだ!!」

 

 了平はなんというか、ボクシングしかやっていないような印象が桃凪にはあったのだが、そこまで言うからには水泳もそれなりに出来るのだろうか。

 ボクシング部の勧誘ではないがスポーツの特訓ということでそれなりに盛り上がっているらしく、正直言って近くに座っている桃凪がちょっと引くくらいには真剣な目をしている。

 そんな了平の指導方法とは。

 

「スポーツが最後にたどりつくのはいつだって、熱血指導だ――!!」

 

 桃凪の感想、あーやっぱりかー。ツナの驚愕、一番受けたくない指導来たー!?

 桃凪は偶然この間見てしまったのだ、夕方あたりに絶叫しながら河原の土手を猛スピードで走っている了平を。

 最初は何やっているんだろうと思ったし、後になって考えてみてもなにか嬉しいことあったのかなぐらいにしか思わなかったのだが、……冷静になって考えてみると、河原を奇声をあげて全力ダッシュする奇妙な光景を、普通だったら変人ととるはずなのに嬉しいことあったのかなで終わってしまう了平、恐るべし。

 それはともかく、もしかしたらあれがトレーニングだったのかもしれない。

 つまり了平は、自分でやっている事と人がやっていること、どちらも出来ると思っている気がする。

 しかしいきなり登場してきた了平に獄寺はイラつきを隠せないようだ。いつも文句を言いながらも協力している山本とは違い、了平と獄寺は色んな意味で犬猿の仲。その反応はいただけないが、仕方ないかもしれない。

 

「オイ、芝生頭。テメー何しにきやがった」

「パオパオ師匠に聞いたぞ、テメーらのやり方が甘いとな」

 

 パオパオ師匠って確か、リボーンの変装の一つだったっけ? 何だか記憶があいまいだが、明らかにぎょっとしているツナの様子を見るにそれであっているらしい。表情が明らかに「余計なことするなよー!」とでも言いたげだ。

 そして日本一空気を読まない男(推定)了平は、

 

「さあ!! 血を吐くまで泳げー!!」

「ざけんなっ! てめーの好きにはさせねーぞ!!」

 

 と、その領域に至るまでにドクターストップがかかりそうなことをいっていた。案の定獄寺に止められたし。

 と、そこまで見届けて桃凪はぐるりと周囲を見回した。幸いにも、先ほどの特訓でつきかけていた体力は今現在においては上昇傾向にある。

 なんとなくだが、桃凪の予感がささやくのだ。こんな風に色んな人がやってきて、わちゃわちゃ騒いでいると、なにか、とんでもないオチがつく可能性がある。と。ギャグ漫画ではないのだしそう簡単に事態が収集したりしないと思うのだが、ことツナの周りでは何故かそんな事態が起きやすくなる。

 すると、そんな桃凪の考えを天が見透かしたように、ツナの方で悲鳴が上がった。

 

「あ!! 足つった!! いでででで!!」

 

 どうやら、いつもはしない長時間の運動による疲労によって引き起こされた事態らしい。プールの水深から考えればそう一大事ではないかもしれないが、いざそういう事態になると意外とパニックになるものである。今がまさにその状況だろう。

 

「あ! ツナさん!!」

「10代目!!」

 

 皆が思わずツナの方に注目した、助けようとした。そんな時、

 

「オレが助ける!! まかせとけっ! とうりゃ!!」

 

 そういってプールに飛び込もうとした了平、飛び込み寸前のその姿はまるで炎天下で日干しにされたカエルの如く。端的に言うと「なんつー無様な……!!」とは獄寺談。その後着水、したはいいのだが体の前面をぶつけるようなアレだったために非常に痛そう。思わずお腹どころか顔面その他もろもろを押さえたくなるような感じだ。しかもその後ぶくぶくと沈んでいったと思ったら水中で湯だったタコのような動きをしている、ひとしきりうにょうにょした後水面に上がった了平の第一声は、

 

「いやー泳いだ泳いだ!!」

 

 どうやらあれで泳いでいたらしい。以上、ダイジェストでお送りさせていただきました。というか、ツナを助けるのが目的ではなかったのか。

 

「いかん! 泳ぐのが楽しすぎてつい沢田を助けるのを忘れていた!! 泳いで引っ張ってってやろうか?」

「…………いや、歩いてでいいです……」

 

 ツナは思った。先ほどの了平の泳ぎはフォームもめちゃくちゃ、泳ぐ泳がない以前に泳ぎと呼べるのかさえ疑問に思ってしまうような。しかし、それでも了平は自信満々に泳いだと言っている。その光景を見ているとなんというか、自分でも出来るのではないかと思ってくるというか。

 

「…………自信湧いてきちゃった……。でも、こんな自信でいいのかな……?」

 

 ぼそりと呟いた言葉を桃凪たちは聞き逃さなかった。

 

「いいんじゃねーか?」

「そだよ。だって、つな頑張ってるし。だったら自信持っていいんだよ」

「そーだぜツナ、お前もうほとんど泳げてんだからさ」

「そっすよ! 10代目が泳げないっつーなら皆泳げてないっスよ」

「安心して自信持って下さいツナさん!」

「み、みんな……」

 

 温かい言葉にちょっとじんわり来た。そうだ、こんなに頑張ったのだから、もうちょっと頑張ろう。もうちょっとだけで出来るかもしれない。もうちょっとで泳げるようになれるかも

 

「つーことで」

 

 思考強制終了。

 

「すすっとやってみっか、なっ」

「新しいオレの理論を試していただきます」

「お魚ちゃんでちゅよー」

「甘い! あと100本だ!!」

(全部いっぺんにきた――っ!?)

「うん、みんないつも通りで大変だね」

 

 そして太陽が沈みかけ、カラスも家に帰る頃。

 

「んじゃ、ラスト一本いくぞ」

「う……う、よ……よーし……」

 

 もはや教える側も満身創痍。大きく息を荒げながらもそれでもツナが泳げるようになることを願ってやまない。

 

「よーい、どんっ」

 

 そして今日最後の挑戦が始まった。

 

「ファイトっス10代目!!」

「いけツナ!」

「極限だぁー!!」

「頑張れツナさん!」

 

 みんなの声援に押されて泳ぐ、泳ぐ。

 

「や、やっぱダメ! 苦しい……! 足ついたっ……!! ぶはぁっ!!」

 

 そういってツナは顔を上げた。後ろの方に聞こえる皆の呆けた声。やっぱり今回もダメだったかと肩を落としかけた、が。

 プールの目盛りを見てみると、15メートルきっかり。

 

「おっ、およっ、泳げてるー!! やったぁあああああああ!!」

 

 その瞬間聞こえる大歓声。

 

「さすがっス10代目!」

「やったなツナ!」

「ツナさんすごーい!!」

「極限!!」

 

 スポットライトこそないものの、その瞬間はスタッフロール開始5分前さながらの歓喜にプールサイド(会場)は包まれたのであった。

 

「ねー、見てみてー」

 

 と、そこで聞こえてきた桃凪の声に一斉に振り向く。

 

「浮いたよー」

 

 そう言った桃凪の体は、ぷかぷか水面に浮いていた。

 そんな桃凪の近くに浮輪着用のリボーンがそっと近寄り、

 

「よっ」

「あっ」

 

 背中の下に設置していたビート版を抜き去った瞬間、桃凪の体は数秒だけ水面に浮いた後に沈んでいったのだった。

 

 本日の成果

 ツナ……クロール:15メートル

     ???:不明

 桃凪……潜水:可能

     水泳:不可能

 

 

 

 

 

「なんか、今回のオチ要員は私な気がする」




ソロモンよ、私は帰って来た。
はい、更新遅くなりまして誠に申し訳ありませんでした。言い返す言葉もない次第です。
日常編終了まで後わずかですが、皆さんのお力とお声を支えに、最後まで走りぬけていきたいと思います。
……しかし、ジャンプ連載中の原作はいつ最終回を迎えるんだろうか。
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