そうして少女は日記を開いた。
第二十一話 「大丈夫。いつものように明日はきます。」
『○月¢日
今までいろんなことを書いてきたこの桃日記ですが、そろそろページが無くなってきました。
これは私の経験なのですが、こう、帯に短したすきに長しみたいな感じで、ページとかがちょっとだけ余る現象ありますよね。あれは微妙な感じがしてすごく嫌です。
なので、今回はそれなりに長めに日記を書いて、ページを使い切りたいと思います。
つまり、今日の記録が桃日記最後の記録となるわけです。
さて、今まで色々なことがありました。日記を読みなおせば分かると思いますけど、本当に色々なことがありました。
まず最初の「色々なこと」は、せんせーがやってきたことだと思います。せんせーがきてから、つなは色々と大変そうでした。でも、つなはそのぶん強くなったんじゃないかと思います。昔のつなの事は嫌いじゃないです。でも、いまのつなは大好きです。昔のつなも大好きです。そういうものです。
最初は事あるごとにパンツ一丁になってしまうつなを見て色々と思ったものですが、今はそんなことどこ吹く風という感じで。私は死ぬ気弾を撃たれたことはありませんでしたが、私が死ぬ気になるとどんな感じだろうなーと思ったことはあります。ですが、それを口に出したら恐らくせんせーに撃たれる気がしましたので、言いませんでしたが。
せんせーと言えば、最近せんせーといて話したりしたことを思い出してみます。
……なんかありましたっけ?
あ、一個ありました。
ここだけではないですが、つなは宿題とかあんまりしないんです。めんどくさがって。それで、それを見たせんせーがつなを無理やり言うこと聞かせて宿題をさせるんです。
私は別に宿題をやらないなんてことは無いのでそういうことはあまりないんですが、宿題でどうしても分からない所とかがあった場合はせんせーに聞きに行ったりします。
この前もちょっと分からなくて、聞きに行ったのですが。
なんだかつなの部屋の前が焦げくさいので正直言って入りたくなかったのですけど、せんせーに聞かないと分かりませんし、意を決して入ったんです。
そしたらやっぱりいつもより割増しでぐちゃぐちゃになった部屋の内装と、そこで机に向かいながらいつも通り焦げているつながいました。
私はいつものように、
『せんせー、分からないとこあるの教えてー』
と聞きました。つなは、
『とうとう桃凪が何も聞いてくれなくなった……』
と嘆いていました。なので私はちょっとかわいそうに思ったので、
『つな何やってるの?』
と聞いてみることにしました。そしたらつなは
『え。あー……勉強』
と言いました。私は、つなの言ってる事って間違ってないけどおかしい気がするなぁと思いましたが、でも何も言いませんでした。でも今だから言いますけど、勉強してるだけで部屋が吹っ飛ぶのはどうかと思います。
そんなつなとの会話も終了して、私はせんせーに問題を聞きました。数学がどうしても分からなくて困ってたのです。
せんせーは分かりやすく教えてくれました。でも、一回間違えると私もつなの二の舞になりそうなので、絶対に間違えられません。非常にスリリングです。
そういうときに思ったりするのですが、せんせーの教え方って習うより慣れろだなぁと考えます。一通りのことを教えた後に例題とかをたくさん出すタイプというか、なまじ間違えると危険なので必死でやるし。それでも覚えられないのはつなですが。
私はせんせーの言うとおりに問題を解きました。私は苦手教科は体育以外にはないのですが、かといって得意教科があるというわけでもありません。
普通ならそれでもいいのではないかと思いますが、私にはそれじゃダメな理由がありました。
『オレの生徒になったからには中途半端はゆるさねーぞ』
せんせーがそういうので、最近は結構勉強しています。
でも、よく出来た時は一応褒めてくれます。一応ですが。よくやったぞとかでも言われた方からすれば嬉しいものです。
そんな感じで、せんせーは私に構ってきます。数学の問題が解けてすっきりした私はそのまま自分の部屋に帰りました。後ろでつなの悲鳴が聞こえました。
……こうやって人のことを書いてページを潰すのは意外といいかもしれません。どうせですから、今まで会ったいろんな人のことを日記に書いていこうと思います。
次ははやとのお話です。
はやとと初めて会ったのは、せんせーが来てからすぐのことでした。
私はなんか変わった人が来たなくらいにしか思わなかったのですが、つなはそれなりに怖そうな人が来たなと思ったらしいです。実際マフィアのひとりだったのですから、つなの勘もなかなかのものだと思います。
最初はかなり喧嘩腰のはやとでしたが、つなと戦った……あれは戦ったに入るのでしょうかね? まぁ、そんなことがあった後はつなを常時フィルターにかかった尊敬のまなざしで眺めていました。でも、あのきらきらとした目、なんで私もあの目で見られているのかすごく謎なんですけど。何かあったのでしょうか?
そんなはやとですが、この間ちょっと悩み事を私に相談してきました。内容は、
なんか、ボンゴレ(マフィアの事です)からすごく偉い立場に就任できるかもしれないと言われて、最初は嬉しかったけど、そうなるとつなの所から離れないといけない。
そんで、つなのためを思うなら自分はイタリアに行った方がいいのだけれど、どうも踏ん切りがつかない……。と、大体こんな感じの内容だったと思います。私は、
『はやとは多分、つなの所から離れたくないんだよね?』
と聞いてみますと、はやとはギクリとした顔をしました。
『いやオレは……! ただ単に、10代目はオレを頼りにしてくれてるから、いきなりそんな風に行っちまったら困るんじゃないかと思って……』
そう言ってきたはやとに、私は何か返答しようと思ったのですが、返答する前に何故かどこからともなく現れたせんせーがこんなことを言いました。
『だったら、試してみればいいんじゃねーか? 今日一日、ツナが一度でもお前を頼ったら日本に残る。頼らなかったらイタリアに帰る。どーだ?』
『わかりました! っつーか、楽勝っスよ!!』
そういって、一日はやとはまるでわんこみたいにつなが頼ってくる瞬間を待ちわびていました。
しかしまぁ、お察しの通りつなはまるではやとを頼りませんでした。つなの中でははやとに頼るとなんでもダイナマイトで片づけられてしまいそうだという不安が無意識の内にあったのではないでしょうか、たぶん。むしろ頼られ率だとたけしの方が多いのではないかと。
そんな感じで、はやとは日が暮れる頃にはすっごく落ち込んでいまして、自分は10代目に頼られてなかったのか……? と不安そうな表情をしていました。
なんだかみているとあんまりでしたので、私はこうはやとに提案しました。
『あのねはやと、はやとが心配してるような事、本当は無いかもしれないよ。だから、確かめてみよう』
『そ……そっスか? じゃあ10代目に……』
『いやたぶん、つなに聞いても教えてくれないと思う』
恐らくはやとを怖がって。
『だからー、私がそれとなくつなにはやとが遠くに行っちゃうこと言ってみるね。そんで、はやとはそれを物陰で聞く。どう?』
『了解しました! バッチリ聞いてますから!!』
はやとの了解も取れましたので、私はつなの所へ突撃インタビューを敢行しました。
夕方に縁側に寝そべっているつなの所で。
『ねえねえつなー。はやとがね、イタリア帰っちゃうんだってー』
『え? 獄寺君が!?』
『なんかすごい所にスカウトされたらしいよ? そんでね、行こうかどうか迷ってるって。つなはどう思う?』
『え、オレ? ん~、やっと身の危険から解放される~!! って言う感じかなぁ? 獄寺君と一緒にいると常に命がいくつあっても足らないし……』
私はその時、はやとの体が地面に沈みこんでる感じがしました。いや、あくまでもそんな気がしただけですが。
でも、その後つなは、
『……でも、友達としてはどうなのかなぁ……』
と、呟きました。私はたぶん、つなはまだ別に言いたいことがあるんだな、と思いましたので、続きを待つことにしました。つなは続けてこう言いました。
『オレさ、獄寺君がオレのこと10代目10代目って言ってくるのはちょっと困ってたけど、獄寺君達と一緒に花火見たり遊んだりするのって結構楽しかったんだ。こう、桃凪と一緒に居るのとはちょっと別な感じで……』
『わかってるから、続きどうぞ』
『あー……ホラ、オレあんまりそういうことする友達いなかったからさ。だから、なんというか、獄寺君が行くって言うんならいいと思うけど、その。…………友達としては、行って欲しくないなって』
たぶん、これを聞いてるはやとは絶対にイタリアに行くなんて言わないだろうなと私は思いました。
そして予想通り、次の日になると元気100倍のはやとがいつものようにつなを迎えにやってきました。
はやととの日常については、以上です。
たけしです。それだけです。
私はたけしの考えてる事がよく分かりません。いえ、考えてる事自体は分かるのですが、どうしてその結論に至ったのかがよく分かりません。たけしらしいと言えばそうなるのですが。
そんないつものたけしらしいエピソードを、今回は解放しようと思います。
たけしはちょっと前に、高校に行った野球部の先輩の新聞配達のアルバイトを手伝ったことがあるらしいです。
私がそれを知ったのは、なんか朝早くに目が覚めたのでふらっと散歩に出かけたからなのですが。いきなり目の前をバッグを背負ったたけしが走り去っていったので、あまりの爽やかさ加減に驚いた記憶があります。汗がきらきら光るのも才能の一つだと思います。
『? たけしだ』
『お、おはよう! 早いな』
『おはよ。たけしは朝のランニング?』
『ああ、それもあんだけどさ、野球部の先輩のバイト手伝ってんだ』
『ほむほむ、なるほど』
私は丁度暇だったし、体動かすのも悪くないかなと珍しく思ったので、手伝うと言いました。
そんな感じで私は朝から新聞配達のためにご近所さんを走り回ることになりました。といっても私は走るのはあまり得意じゃないので、自転車を使って配りましたが。
たけしは、基本的にお人よしです。じゃなかったらわざわざ掃除を押し付けられたつなの掃除を手伝ったり、あれほど邪険にされてもはやとを友達扱いしたりなんてしません。
でもたけしの本当にすごい所は、そうやっている親切は全部自分からやりだしたことだという事です。しかも、押しつけがましくないんです。相手が困っているときにひょこっと現れて手伝って帰って行きます。そういうの、すごくかっこいいと思います。
私が配り終わった事にはもうすでにたけしは全部配り終わってて、先輩らしき人と話していました。先輩らしき人はなんとなく優しそうな人で、何度もたけしにお礼を言っていました。
私は終わった頃、もうすでに日は結構登り始めていたのですが、たけしとちょっと話をしました。
『たけしって、結構面白いと私、常日頃から思ってるよ』
『? サンキュー?』
『褒めてはいないと思う』
まったく褒めてはいないと思いますがお礼を言っちゃうあたり、たけしは天然だなぁと思います。
『褒めてないけど、たけしはたけしだから気にしなくていいね』
『? おー』
そう言う所がたけしの人気の秘密なのでしょうし、つながたけしを頼りにしている所でもあるのでしょうし、せんせーがたけしをマフィアにいれたがっていた理由でもあるし、はやとがたけしを邪険にする理由でもあると思います。
私も、たけしのそういう裏表のない所が好きですし、人のために動ける真っ直ぐな所が好きです。
その後は私はたけしと別れて、つなと一緒に学校に行きました。その途中でたけしとはやとに会いまして、今日二度目だねぇと私達にしか分からなかったであろう会話をしました。
たけしとの思い出については、以上です。
次はらんぼにします。らんぼは年が近いからかいつもいーぴんと遊んでいます。この間は二人で外で追いかけっこをしていました。
らんぼはかなり特殊な生い立ちの子です、いや、特殊と言えばいーぴんもそうですけど。まぁ二人とも不思議な子と言うことで。
それでも、らんぼ達は一見するとまったく普通の子供で、普通に遊んでいます。……いーぴんはともかく、らんぼは最初せんせーを殺すために来たとは思えないほどに毎日元気に遊んでます。
でもやっぱり二人とも相性が合うのかどうかわかりませんが、いつも二人で遊んでいることが多いです。子供の遊び場は無限大なので、本当にいろんな所で遊んでいます。
私は二人に結構懐かれていますので、遊びに誘われることがよくあります。遊ぶ方法はその時によってさまざまですが、だいたいらんぼが途中で飽きてとてつもなくストレンジな遊びを提案するので大変です。
マフィアに育てられて感覚がマヒしているのか、らんぼは遊びの途中でよく手榴弾やバズーカやらを持ちだしてきます。恐ろしいです。しかもそこらへんの大人よりも使い方を心得ている所がさらに恐ろしいです。
いーぴんはいーぴんで、常識人なんですけど、そこは子供らしくはじける時だってあります。はじけると言っても物理的に。本当に物理的に爆発するんです、子供って怖い。
このあいだは私とらんぼといーぴん、あと途中で乱入してきたはると一緒にだるまさんが転んだをしました。
最初の鬼は私とはるの内からジャンケンで決めて、私がパーではるがチョキ、私が鬼になりました。
遊んだ場所はよくある公園です、ここによく来るにゃーさんに私はご飯をあげています。
公園の時計の下に私は陣取って、柱に顔を伏せました。後ろの方から『いいですか……ランボちゃん、イーピンちゃん、ゆっくり近づくんですよ……ゆっくりですよ……』とかいうはるの声と、それに頷いてるらしきいーぴんの声、『わかったもんねー!!』という(おそらく分かってない)らんぼの声が聞こえてきました。
だるまさん転んだに作戦会議も何もあるんだろうかと聞きながら思いましたが、私は勝負事で手は抜きません。全力で迎え撃ちます。迎撃準備万端です。
私はちょっと息を吸い込んだ後、言い始めました。
『だー……るー……まー……さーんーがー……』
『ガハハー! 一番乗りだもんね!!』
『あ、ランボちゃーん!!』
『―――!!(聞き取れませんでしたが、多分「行っちゃダメ!」と行ってたんじゃないかと思います)』
この時の状況は多分、開幕早々ダッシュを決めたらんぼに、忍び足で近づいていたはるといーぴんが必死でらんぼを止めようとしていたんじゃないかと思います。
そしてこんな美味しい状況を逃す私じゃありません。一気に言いきって振り向きました。
『転んだ!』
『はひっ!?』
『お?』
『―――!(声も無く止まってました)』
振り向いた私が見たのは、いきなり振り向いた私に追いつかずにうごいちゃったらんぼと、らんぼをとめようとしたのか片足立ちのまま両手だけ前に出した非常に芸術的なポーズで止まっていたはると、びしっと華麗に決めポーズをするいーぴんでした。私は吹き出しそうになるのを必死にこらえました。
『らんぼ、動いたー』
『う、動いてないもんねっ!! ランボさん、ちっともこれっぽっちも動いてないもんね!!』
『らんぼー、…………最初はぐー!』
『! じゃんけん、ぽんっ!!』
私はパーでらんぼはグーでした。
『私の勝ちー、捕まるのー』
『うー……、仕方ないなー、ランボさん大人だから大人しく桃凪に捕まってあげるもんねー!!』
『おけー』
という感じで、第二ラウンドの始まりです。ちなみに、いーぴんはともかくはるは結構長い間あのポーズのまま止まってたので辛そうでした。
『だーるーまーさーんーがー』
この時は二人とも無言でした、つまらぬ。
『こーろー……んだ!』
『きゃっ!?』
後ろに振りかえると、バランスを崩してしりもちをついた態勢のはるがいました。残念なことに動いてはいませんでしたけど。しかし、
いーぴんの姿がどこにもありません。
『消えたー……?』
私は一瞬そう思いました。でも、私の知るいーぴんは、少なくとも瞬間移動は出来ません。
そんでもう一回よく見てみました。さっきまではるの隣にいーぴんはいて、私が少し目を離した隙ににいーぴんは忽然と消えていました。そしてはるの近くにあるものは公園のジャングルジム……。これから導き出される結論は一つです。
『!! いーぴん、上ー! 動いたー!!』
いーぴんはジャングルジムを足場にして、上空高く跳び上がっていました。一瞬早くそれに気づいた私が上を見上げて見たものは、今現在も落下してくるいーぴんでした。いーぴんはそのまま落下してきて、私がキャッチしました。
いーぴんは空中に静止する事は出来ないので、だるまさんが転んだのルールから言うと失格です。ので、捕まりました。
『よし、あとははるだけ』
『ま、負けませんよー!!』
『ハルー! 早くー!!』
『――――!(手をぱたぱた振っていました)』
最終ラウンドは、はると私の一騎打ちでした。
……今になって思いますが、本当は一緒に遊ぶべき小さい子を差し置いて最後に残ったのが中学生の私達というのも、なかなか大人げなかった気がします。
でも、そうやって一緒に遊んでたら、通りかかったおばちゃんに、私も小学生だと間違えられました。地味に辛かったです。
らんぼはちょっとやんちゃな所もありますが、いつもはかわいい良い子です。たまに10年バズーカを使って大人らんぼと入れ替わる時がありますが、10年後らんぼもいい人です。
でも、大人らんぼに何も悪いことはありませんが、おかーさんは私と大人らんぼが二人っきりで同じ部屋にいても何も気にしないんですよね。気にされても困りますが、気にされないとそれはそれですごく気になります。
らんぼのことについては以上です。
えーと、次はりょーへいさんにしようと思います。
…………でも、私りょーへいさんのことあまり知らないんですよね。とりあえず知ってる事書きます。
まず、りょーへいさんはボクシング部です。
……すいません、それ以外分かりません。きょーこちゃんの所に遊びに行くことがよくあるのですが、そういう時りょーへいさんは家に居ません。きょーこちゃんに聞いてみると、
『うーん、またいつもみたいにトレーニングで河原走ってるんじゃないかな?』
というなんとも曖昧な返事が返ってきました。
きょーこちゃん曰く、りょーへいさんの行動範囲は広すぎるのでよくわからないらしいです。恐るべし。
そこで私、一体何を思ったか知りませんが、りょーへいさんを探してみようと思い立ちました。
ええ、本当に何を考えていたんでしょうね私ったら。今思い出しても謎過ぎてわけがわからなくなります。あのとき思い浮かばなければ、その後の騒動にはならなかったのでしょうけど。
とりあえず私は、りょーへいさんの行動パターンをメモする事にしました。何曜日の何時にどこで見つけたとか、そういう情報をメモにして、マッピングしてみようかと。
えーと、書いたメモによりますと……、
月曜日
午後3時
おつかいの帰り道、何でか近所の大型犬と気合勝負をしていた。
火曜日
午後5時
いつものようにボクシング部で部活している。
水曜日
午後6時
夕陽の河原を太陽に向かって吠えていた。昔のドラマみたいですね。
木曜日
午前7時半
話しかけて挨拶する暇もなく、高速で隣を走り去っていった。
金曜日
午後7時
公園で筋トレ。道路二つ挟んでも聞こえるくらいの大きな声でした。
土曜日
午前11時
お昼少し前、川で熊の如く魚をとろうと奮戦していた。しばらく見ていたが、とれた数は3匹でした。
と、いう感じです。こうして見ますと、行動範囲が広すぎて逆に良く分からないです。一応、平日はちゃんと学校に居る事と、門限は午後8時っぽいことが分かりました。実際、それ以外がよくわからなかったのですが。
そして日曜日なのですが………………私、その日は特にりょーへいさんの行動パターンを分析する気はなかったんです。ただ、久しぶりに遠出しようかなと思っただけなんです。
その日はとてもいい天気で、私も少し浮足立っていました。だから普段なら通らないような所を通ってみようかなぁとか思ったんです。本当に失敗でした。気温は程よくぽかぽかしていて、うららかなお天気にテンションが上がっていた時の事です。
意気揚々と山道を進んでいる私、うっかり横道にそれてもあんまり気にしない私。陽気は人を馬鹿にします。
そしてそんな天気に負けないほど元気に叫ぶりょーへいさんと、
そのりょーへいさんの前でまるでやーさんのごとき威圧感で佇む巨大なくまさんが。
いきなりですけど、本当なんです。本当にいたんです、私実際に見たんです。つなに行ってもそんなのあるわけないだろって流されるし、たけしに言ってもおもしろい冗談だなーって言われるし、はやとに言ってもあの芝生頭が熊に勝てるわけないじゃないっすかーって言われて信じてもらえないし、きょーやにいたっては話を聞いた瞬間馬鹿を見る目を向けてきたんですよ!? ひどいと思います!!
…………ちょっと落ち着きます。
そんなわけで、いきなりとんでもない光景を見てしまった私は、一瞬わけがわからなくなりました。だって学校でいつもあってる先輩が目の前でくまさんと激闘一歩手前だったら誰だって驚きます。でも、そんな私の驚愕はりょーへいさんは全くと言っていいほど知らないので、くまさん相手に意気揚々と宣言していました。
私は混乱したまま、くまさんと遭遇してしまった時の対処法を思い出そうとしました。たしか走って逃げるのは逆効果だから、目を見ながらゆっくり後ずさるのが一番いいらしいという所まで思い出した後、りょーへいさんが危ないということに思い至りました。なんとか助けないと。
『りょ、りょーへいさん……こんにちは』
『ん? おお! 沢田か!! いい天気だな!!』
『そうですいい天気ですー。だからちょっとそこからゆっくり離れてください……!』
『いや待て! オレはまだ、この山の主との決着を終えていない! よって逃げるわけにはいかんのだぁ!!』
『くまさん山の主なんですか!?』
りょーへいさんは聞いてくれません。泣きたくなりました。
『ではいざ! 尋常に勝負ー!!』
『りょーへいさーん!』
そしてそのままりょーへいさんはくまさんに突貫しました。
対するくまさんはまるで『ヤレヤレ、面倒な奴に関わっちまったぜ……』とでも言いたげな鷹揚な溜息を一つついた後、毛皮に包まれた丸太のような腕を一振り。それでべふんだとかばふんだとか言う感じの効果音と共にりょーへいさんをふっ飛ばしました。りょーへいさんは木にぶつかって伸びてしまいました。
さて、ここで私は気がつきました。
くまさんがこっちをじっと見ていることに。私はまたくまと出会った時の対処法を(略)
そんな感じで動くことが出来なくなって固まったまま、しばらくくまさんとと見つめあっていた私の所に、何でかせんせーがやってきました。
せんせーはくまさんと知り合いだったみたいです。
その後、気絶したりょーへいさんの介抱をしながらせんせーとくまさん(喋りません)の話を聞く所によりますと、
くまさんはりょーへいさんの言う通り、ここら一帯の山を仕切る山の主さんらしいです。せんせーとはせんせーがこの町に来てから知り合った仲で、たまーにこうやってティータイム(?)をする事があるとのことで。
ちなみに、くまさん……名前もあって、だいごろーさんでした。そのだいごろーさんが唯一上だと認めているのがきょーやだそうです。きょーや、とうとう自然の生態系にも干渉を始めましたか……。
そのまませんせーとだいごろーさんはお茶会を始めてしまったので、私はりょーへいさんを手当てする事にしました。手当てといっても、りょーへいさんは掛け値なしに丈夫なので簡単なすり傷の手当てくらいでしたけど。
これまで色々りょーへいさんを観察してきた中で思ったことは、私はやっぱりりょーへいさんの事はなんにも分かりませんでした。考えれば考えるほど分かんなくなってきて、りょーへいさんは私の理解の範疇外の存在なんだなということがなんとなく分かりました。
私がりょーへいさんが少し苦手な理由は、次に何をするのか全く分からない所です。なんというか、私の常識とは少しずれているというか、そこでどうしてそうなるんだろうという思考回路なところとか。
でも、そんな私でもりょーへいさんはいい人なんだろうなということは分かります。いつも元気いっぱいで、悩むという事をしなくて、前に向かって全力ダッシュしているりょーへいさんは、見ていてとても楽しいです。
私がりょーへいさんについて知っていることは、以上です。
えーと次は、きょーやですかね。
私、きょーやの事は友達だと思ってます。ですけど、大半の人にとってはそう思われていないようです。
例えば、私が前にきょーやに言われて書類を運んだ時。前を行くきょーやの後ろをついていく形になったとき。
『…………雲雀さん、あんな小さな子風紀委員にいれたのか?』
『あの子、勇気あるなぁ……』
『雲雀さんがどういう人なのか分かってないんだよ……』
『大丈夫かしら……』
と、やたら身の安全を心配されたことがあります。でも、きょーやの性格を考えるに、その発言は無理ないことだとは思いますが。
きょーやは人に簡単に手を上げますが、きょーやなりの価値観の中で行動しています。……まぁ、その価値観が果てしなく子供っぽいとは私も思いますが。
私はどうもきょーやの価値観に抵触しない人種のようです。なので一緒に居ても咬み殺されることがないのでしょう。
そんな私ときょーやですが、たまには喧嘩します。……と、つなに言ったら『桃凪雲雀さんと喧嘩したの!? え、何で生きてるの!?』とかとてつもなくひどいことを言われました。
喧嘩と言っても、戦うわけじゃないです。もし戦うような事になったらつなの心配通り私は三途の川を渡ることになります。それはすごく困ります。私水に浮かないのに。
だから、きょーやとの喧嘩は大体口喧嘩です。きょーやと「口喧嘩」出来る時点で私がかなり変なのだとは思いますけど。
一番印象に残ってる喧嘩は、えーと……。
私がまだ、きょーやの名前とか肩書きとか、そういうのを知らない頃。つまり、学校じゃなくて町で会ってた頃ですね。
その頃は私もきょーやの名前を知らないのと同じように、きょーやも私の名前を知りませんでした。だから、「そこの」とか、「君」とか呼ばれてました。いまも「小動物」とか呼ばれてますけど、個として認識されてつけられた愛称ではなく、群衆の一人としての呼び名だったというか。
最初は会話もしませんでした。だって、そもそも人に会いたくて会ってたわけではありませんでしたから。人の居ない所に行きたくて行った結果、何故かお互いが鉢合わせするという奇跡のような状態でした。猫は家の中で快適な場所を察知する能力にたけていると言いますが、もしかしたら私達もそうなのかもしれません。
それでも、ずっと鉢合わせしてれば顔は覚えますし、何度も会えばお互いの存在がいやでも目につきます。
私ももちろん、きょーやの方もいい加減気になってきていたらしくて、でも話しかけるのがめんどくさい。といったふうに私を見つめてきていました。
私は、これって話しかけた方がいいのかなぁどうなんだろうなぁなどと思っていましたが、結局視線に耐えきれずに話しかけてしまいました。
『ねぇねぇ』
『……何?』
『(視線を送ってきたのはそちらなのにこの反応はどうなのか)えーと、何であなたはここにいるの?』
『僕がここにいて何か悪いことでもあるのかい?』
『…………つまり、ここにいて悪いのは私なのか』
『よくわかったね』
つまり、遠まわしに「出てけ」って言われてたってことなんですね私。でも森の動物さん達と戯れる貴重な癒しタイムが潰れるのはすごく嫌でした。
大体ですね、いきなり出てけと言われてはいそうですかというわけがないじゃないですか。もしもあの時、私がきょーやの武勇伝を知っていたとしても、やっぱり出て行くという選択肢はありませんでした。
私にだって命は惜しいという感情はありますし、痛いことは苦手だし、運動は辛いです。でも、なんというか、その時私は、きょーやがあまり怖い人には見えなかったんです。
私達がいた所は森の中の日だまりがこぼれるぽかぽかした暖かい所だったのですけど、そこに寝っ転がって昼寝をしようとしていたきょーやが、なんだかすごくいやされた顔をしているので、私も何だか癒されてしまって。
実際は癒されているのではなく眠かっただけなのかもしれませんけど、とにかくあの時の私にはきょーやが怖くは見えなかったんです。だからついつい反論しちゃいました。
『私いなくなるのやだよ、ここにいたい』
『……、』
ここで普通の人は反論の言葉が来ると思うでしょう? ですが残念、相手はきょーやだったのです。
まあ飛んできますよね、トンファーが。
私の顔すれすれを通ったトンファーは近くにあった切り株に当たりました。切り株は哀れべっこりへこんで二つに裂けてしまいまして、本とか読む時の椅子がわりに使ってたのでちょっとショックでした。私が何か不穏な空気を感じ取って思わずしりもちをついてなかったら、多分当たってましたよあれ。
『僕がいなくなれって言ってるんだから、さっさと行きなよ』
『…………、』
その時私、正直言って混乱してたんですよ。しりもちをついたこっちを見降ろしてくるきょーやを見上げながら、なんか現実逃避をしてしまったというか。だって、たまに見かける名前を知らない中学生さんが、まさかトンファー持ってるなんて思わないでしょう。
だからつい言っちゃったんですよね。
『あ、小鳥乗ってる』
『……、』
きょーやの丸っこい頭のてっぺんに、スズメだったかよく覚えてないんですけど、ちっちゃい小鳥が乗ってたんです。なのでつい言ってしまったというか。悪気はないんです、本当に。
『私の知ってる限りでは、動物に好かれる人は悪い人じゃないの』
『……、』
『だから、私もあなたのこと好きになれそうかもしれない』
『は?』
『多分これから結構会うのだから、私はあなたとお友達になりたいと思う。だから、一緒にお話ししよ』
それを聞いたきょーやはどこか拍子抜けしたみたいにトンファーを下ろして、頭の上に乗っかっていた小鳥を手のひらで包んで木に放していました。
そして、そのままこっちを見ることなくお昼寝を始めました。
……よく考えてみると、これは喧嘩をしてませんね。いつもきょーやが怒ったりする時は私が流したりしてるので、よくよく考えると喧嘩という喧嘩って無いのかもしれません。おかしいですね、最初に考えた時は結構あるなとか思ったのですが。
やっぱり、喧嘩とかあんまりしてませんでした。
まあ、私でもいきなり「お友達になろう」は変かなとは思ってました。けど、あの場面で怪我をしないように終わらせるには、相手の考えとは真逆のことを言って驚かせたりしないといけなかったんです。
きょーやは多分、驚かれたり怖がられたり、そういうのに慣れているので、それこそきょーやが私を呼ぶ時のようないかにも「小動物」的な反応は慣れてないのだと思います。でも、いかな暴君とはいえ、誰かに慕われることを悪く思うはずはないと思います。
私はきょーやの事を危ないなぁとはよく思いますが、それできょーやに対する反応が変わったり、きょーやの事を怖がったりすることはありません。ですから、きょーやとこのままの関係を続けていけるのでしょう。
私がきょーやに関して思うことは、以上です。
こうして、今まで書いた日記を見直してみて思った事ですけど。
私の周りって本当に変な人ばっかりですね。まぁ、私が言える事ではありませんけど。
そして、私の日記って本当に思った事を書き綴ってるんですね。
日記一つとっても支離滅裂でまとまりがないです。日記とはそういうものなんだとは思いますが、読み返すとなんだかおかしいですね。
でも、最近なんでか思うようになったんですけど。
こういう、あったときには大事件だと思うような事も、文字にして後から読み返してみれば、何でもないように思えてくるんですね。起きた時は叫んだような事も、後で思い出せば笑い話になります。
そういうのを、人は『日常』と呼ぶのでしょうか。
当たり前ではないけど、愛すべきものです。
…………何でいきなりこんなことを思ったのでしょうかね? 自分でも分かりません。
あ、そうそう。今度つな達と一緒にお出かけするんです。どこに行くのかはまだ決まってないんですけど、私は博物館とか行ってみたいなぁ。でも、たけしとかりょーへいさんとからんぼとか、あとつなも、博物館とか暇だからやだとか言いそうですね。水族館とかの方が……だめですね、お魚さんを食べようとしたり、サメと戦おうとしたりするのが予想できます。
どこに行くのかは相談して決めますね。
……あ、そろそろ本当にページが少なくなってきました。
私、こんなにたくさんの文字をいっぺんに書いたことってあんまりないので、いまちょっと目と肩が痛いです。この日記を書き終わったら二冊目を書こうと思ってたんですけど、日記を買いに行くのはまた今度にしようと思います。
ではまた、桃日記で会いましょう。』
そうして少女は日記を閉じた。
そして、
『○月£日
つなへ
私、行かなきゃ。
大丈夫、ちゃんと帰って来るから。心配しなくてもいいよ。私の帰る場所は、つなの所だから。
だから、
いってきます。』
新しい日記に彼女の愛した『日常』が綴られることは、もうしばらくない。
いつかやりたいなぁと思っていた、前編丸々桃日記。
これからの展開を知っている読者の方々にはおわかりでしょうが、しばらく桃凪が落ち着いて日記を書けるような状況は来ません。色々ありますから。
ですので、桃凪にとっての騒がしくも他愛のない日常の象徴としての桃日記は、日常編が終わるのと同時に無くなってしまいます。この話は、その最後の締めくくりと、波乱への幕開けとか何とか結構かっこいいこと言ってみたり。
それと書いてない所で色々と親交を深めてたんだよみたいな。
さて、次回からは第二章黒曜編…………の前に、幕間でいろいろあげていこうと思います。
……と言いますのも、にじファン時代にリクエストで応募したあれこれとか、急に思いついた桃凪とツナの幼少期の話とか、日常編にいれるにはちょっとなーみたいな話があるので、主にそれを載っけていく感じです。時系列的には日常編と黒曜編の中間あたりに起こった出来事ですしね。
では、ここまで見てくださった皆さん。何度も更新が停止したりなんだりして進みが遅い拙作でしたが、ここまで見てくださってありがとうございました!
また会えます事を祈りまして、後書きを終わらせていただこうと思います。
Arrivederci!