その一 「兄と妹」
桃凪の事? 妹だけど……え? そういう意味じゃないのかよ? 人間的に? なんだソレ。うーん……。
そうは言っても妹だとしか言いようがないんだけどなー……。
って、うわ!? ちゃ、ちゃんと考えてるってば!! だから銃向けるなって! 怖いだろ!?
まったく……。……はぁ? オレと桃凪の小さい頃の話?そんなん聞いてどうするんだよ。
……他の奴に言わないだろうな。えーと、確か……小学生くらいの時に――――。
閑話その一 「兄と妹」
「つな、つな」
ちょこちょこと、自分の服を引っ張る感覚がする。今年で9歳になる少年、沢田綱吉――周りからはよくツナと呼ばれている――の後ろにいるのは彼の双子の妹、沢田桃凪姫だけだ。
いや、後ろに妹がいる事はツナには最初から分かっている。無視しているわけでもない、でも、今ツナは後ろを振り向くわけにはいかないのだ。
だって目の前にいるのが、およそツナが会ってきた近所の動物さん達の中でダントツの危険度を誇っている、中田さんちのジョシー(犬)なのだから!
「と、と、とうな……はなれてろよ……」
「えと……?」
唸り声を上げる犬に対して、じりじりと桃凪を後ろに追いやる様に距離を取りながら、ツナは目の前にいる犬に竦み上がりながらも果敢に立ちふさがっている。
普通のツナだったら逃げている。しかし今日のツナは逃げない。桃凪が後ろにいるからだ。
沢田家の家訓のようなもので、男は女を守るもの、というものがある。と言っても、それを言い出したのは『あの』父で、その隣で母はおかしそうに笑っていたが。
しかし幼く純粋で、大人というものに憧れていたツナは、それを「かっこいい」事だと思った。
それからのツナはそりゃもうすごかった。雨が降ろうが風が吹こうが朝も昼も夜も桃凪にべったり。周りからは「赤ちゃん帰りした」と笑われたが、それがどうしたとその時のツナなら言い返していただろう。
そして今も例にもれず、大事な妹を脅威から守るために戦っている。……まぁ、その妹はなにがなんだかよく分かってない様子で犬とツナを交互に眺めているのだが。
大体、桃凪は少し天然なところがあるのだ。道を歩いていると飛んできた蝶々を追っかけて迷子になった事もあったし、時々虚空をボーっと見つめてはニコニコ笑っていたりする。(決して怖いとか何を見てるんだろうとか、思ってはいない。決して)
今はだいぶそのようなことは減ったが、それでもよくよく見てみれば放っておけない点は満載で、よく今まで無事だったと呆れるほどだ。天恵とか何かの加護とかがついていなくてはやっていけないと思う。
だから、お兄ちゃんである自分が桃凪を守るんだと。
「つな?」
「だ、だいじょうぶだから…しんぱいすんな」
そう思っていたツナだったが、やはり自分一人の力ではどうしようもできない事も存在した。その筆頭が今目の前にいる。
安心させるように桃凪に笑いかけるツナだが、傍からどころか自分で見ても、桃凪の方が落ち着いている。笑いかけたはずが逆にこちらが諭されてしまっているようだ。
隙を見て桃凪の手を引いて逃げ出そうと思っていたツナだったが、目の前の
「なにがしたいんだよぉ……」
妹の前では泣き言は言うまいとは思っていたのだが、ついついポツリと言葉が洩れてしまう。自分達はただここを通りたいだけなのに、通ることすら許してくれないこの犬。ここまで来ると理不尽を通り越してなにか世界の意志のようなものを感じたりは、別にしないけれど。
「うぅ……」
一度洩れてしまったら止まらない。次から次へとやるせない気持ちがこみ上げ、ツナの顔がくしゃりと歪む。それでも背中に桃凪をかばうのは、ツナの意地か、プライドか。
そして桃凪は今にも泣いてしまいそうなツナを心配しながらも、別の事も考えていた。
(おかいもの……)
そう、ツナたちは母である奈々から買い物を頼まれていたのだ。ここは並盛商店街へと繋がる道、ここを通らなければ、買い物はできない。……もっとも、ここ以外にも商店街に行ける道はあるのだが、それを思いつかないのは子供ならではというか、なんというか。
どうしようもできない状況の中で立ち往生している双子。しかし、天は二人を見捨てなかった。中田家の人がジョシーの名を呼んだのだ。ツナたちには強気な態度のジョシーも家の人には従順なのか、一度だけこちらをちらりと見た後、唸るのをやめて家の中へと入ってゆく。ツナたちはその隙をついて一気に中田さんちの前を駆け抜けた。
「は、はぁ……こわかった……」
「つな、こわかったの?」
「! こ、こわくなんてなかった!! ぜったい!」
「そっか」
思わず、といった調子でもれてしまった言葉を聞かれたらしく、桃凪が首を傾げ気味に質問してきたので、即座に否定の言葉を返した。桃凪の方はいつものように平然としていて、時折空を見上げたりしながらボーっと時間を過ごしている。
そのまま宙に溶けて消えてしまいそうな妹の手をぎゅっと握りしめ、ツナはおつかいへの道を急いだのだった。
第一関門を突破したツナたちの目には、活気ある商店街が映っていた。
さて、次の問題は買い物だ。一応何を買うかはわかる、奈々からおつかいで買う品物が書いてある紙を貰ってきているからだ。しかし、なにしろ初めてのおつかい、どこの店に何が置いてあるのかも、今のツナにはあいまいだった。
「どうしよう……」
「つな、つな」
途方にくれるツナだったが、くいくい、と自分の服の裾を引っ張る感触がもう一度。
振り返るとそこには桃凪がやっぱりいて、おつかいメモを見ながらこう言った。
「てわけしたらいいんじゃないかな」
つなが半分で、わたしがもう半分。
ぐるりと商店街の右側と左側を指さす桃凪。たぶん、ツナが右半分、桃凪が左半分を担当して、それぞれおつかいの品を手分けして探そう。ということだろう。
桃凪の言いたい事は分かる、手分けした方がすぐに終わるし、簡単だとツナも思う。
でも、
「だ、だめ!」
「なんでー?」
「なんでも!」
確かにそれなら早い、でもそれだと元も子もないではないか。ツナはお兄ちゃんらしく桃凪を守りたいのだから、ツナの目の届かない所には行って欲しくはない。
絶対別行動はダメだと言うツナの態度に桃凪は首をかしげていたが、手を引っ張るツナの動きに逆らわずついてくる。少し安心したツナが手元の紙を見ると書いてあるのは簡単な食材。内容的に今日のご飯は肉じゃがかカレーだろうか。どちらにしても楽しみだ。
「やおやさん…やおやさん…」
きょろきょろとあたりを見回しながら、確か奈々がよくおまけしてもらったりしてた馴染みの八百屋を探す。気前のいいおじさんが開いているお店で、ツナの事を「ツナ坊」と呼んでいた。
しかし、探そうとしてもお目当ての八百屋さんがなかなか見つからない。奈々と来た時はそこまで迷ったりしなかったのに。
そんな風に頭を悩ませていたツナの服の袖を、またまた桃凪が引っ張った。
「つな、やおやさん」
ぐいぐいと手を引っ張られたツナが向いた方向には、なんのことはない、馴染みの八百屋の姿があった。八百屋にはいつもの通りに元気なおじさんがいて、通りに向けて威勢のいい声を張り上げている。
「……」
「なに?」
「……なんでもない」
お兄ちゃんなのに妹に助けてもらった、とどこか胸にむっとくる思いを抱えていたツナだが、それとおつかいは別。桃凪と一緒に八百屋へと歩いて行った。
近所のおばさんが集まって値切り交渉をしている隣をすり抜け、おじさんへ向かってぶんぶん手をふりあげれば、おばさんの相手をしていたおじさんの目がすっと細まって笑い顔になる。
「すいませーん」
「お、ツナ坊に桃ちゃんじゃねえか! お母さんはいないのかい?」
「きょうはおれたちだけです!」
びしり! とまるで誇るかのように背筋を伸ばして宣言したツナの姿に、思わずおじさんが噴き出す。何で笑われたのかはツナは分かってなかったけど、偉いねぇと褒められると悪い気はしない。噴き出しそうになるのをこらえながらおじさんはリクエストを聞いてきた。
「んで、何が欲しいんだい?」
「ん!」
貰ったメモを見せながら欲しい野菜を指さすと、はいはいと笑いながらおじさんが野菜を持ってきてくれる。それをかごに入れてもらった後、きっちりと財布から代金を取り出し渡した所で、隣にいる桃凪がやけに静かなのに気づいた。
「……あれ?」
何か不思議に思って隣を向くと、あら不思議、さっきまでそこにいた桃凪はあとかたもなく消えておりましたとさ。いきなり居なくなってしまった桃凪。ツナはあたりを見回すけど、何処にもいない。もしかしたらあの時、お金を渡そうとして桃凪の手を離してしまったのが原因、だったのだろうか。
とにかく桃凪は消えていて、ツナは朝から抱いていた嫌な予感が当たってしまった事に気付いた。
「つなー」
大人ばかりの商店街でツナの姿を呼びながら、辺りを歩き回る桃凪。
迷子になったときはその場に座って動きまわらないように、と先生から言われていたが、そのことは桃凪の頭からすっぽりと抜け落ちてしまっているらしい。むしろ、桃凪の頭の中では迷子になったのは桃凪ではなくツナということになっていた。
「つなー?」
一体兄は何処に行ったのだろうか。そう思い、しばし立ち止まってツナの行きそうな所に頭を巡らせる桃凪。
まず、ツナの事だから迷子になったと気づけば、真っ先に桃凪と合流しようとするだろう。そして合流するために、色々な所を歩き回るだろう。
しかし商店街は広いので、中々桃凪を見つけることは出来ない。となると、桃凪はここで立ち止まっていた方がいいのだろうか。そうすればいつかはツナが桃凪を見つけてくれるだろうか。
そう考えて自販機の横で休憩をとろうと思った矢先、桃凪の目に無視できないものが飛び込んできた。
「にゃあ」
「ねこさんだー」
まだ子供らしい、幾分か小さな黒猫がこちらの足元にすり寄っていたのだ。真っ黒くてきらきら光るつぶらな瞳がこっちをじーっと見つめてきて、何かお話したいことがあるのかなぁと思った桃凪はしゃがんでお悩み相談をする事にした。
「ねこさんどうかしましたかー」
「にぃ」
「ふむふむ、なるほど」
「うにゃにゃー」
「うーんと、えーとね」
わかんないや。しょぼんとした顔で猫と意思疎通が出来ないことを嘆いている小学生の隣を、微笑ましそうな眼をした大人たちが通り過ぎていく。
とうの猫は気持ちが伝わらないことに焦れたのか、一度桃凪の方を振り向いた後、路地裏の方へかけて行った。
「あ、まってまって」
なんとなくだが「ついてこい」と言われているような気がして、桃凪は慌てて黒猫を追いかけた。ツナの事はその時頭から抜け落ちてたのだった。黒猫はそこまで素早く歩いていたわけではなかったので、すぐに追いついた桃凪は足元の黒猫を見ながら話しかける。
「ねこさん、どこいくの?」
「にぃ」
「わかんないけど、だれかをさがしているとみた」
「なぅ」
「ほんとかどうかわかんないけど、それだったらおてつだいしてあげよう」
会話は成立していないが、桃凪はそうと決めて黒猫の後をついて行くことにした。
「とーなー!!」
桃凪が猫にくっついて路地裏に入って行った頃、ツナは先ほどから桃凪の想像通りあちらこちらを回りながら桃凪を探していた。
「とうなってばー!!」
おつかいも途中だったが、おつかいよりもいなくなった桃凪の方が重要だ。きっと父も母もそういうと思う。でも、道行く人に聞いても、あたりを探してみても、桃凪の姿は何処にも無い。大人たちの喧騒の合間を縫うように進むツナは必死で桃凪の名前を呼ぶ。けれどどれだけ頑張って探しても、桃凪はいない。
まるで、桃凪という存在そのものが突然消えてしまったような。
桃凪なんて、始めからいないとでも言うような。
「……っ!!」
最悪の想像を頭からたたきだして、必死で桃凪の影を追う。
「とうな……! とうな……!」
ツナも何でこんなに必死になってるのか分からなかった。桃凪はいつものようにマイペースで、気がついたらいて、いつもそこにいるような存在だったから。
だから今回もツナとはぐれたからと言ってもうとっくに家に帰ってるかもしれないし、もしかしたらおつかいをしてればいつかとなりにひょっこりと戻って来るかもしれない。そうだ、きっとそうなんだ。
でも、そのはずなのに、
(みんなとうなはちょっとかわってるだけとかいうけど、おかしいよ……! だって、とうなはいつも)
ツナだけが知っている。家族と話しているとき、誰かと話しているとき、その誰かの目が自分じゃなくて別の人を向いたとき。
(すっごく、こわいってかおするんだ……!)
桃凪が何に怖がってるのか分からないけど、何に怯えてるのか分からないけど。
それでも、ツナは桃凪のお兄ちゃんだから。
桃凪を助けてあげたいし、桃凪を幸せにしてあげたいし、桃凪とずっと一緒にいたいと思うのだ。
「ねこさん、おかーさんをさがしてるの?」
「みぃ」
返ってきた声は鳴き声なのか返事なのか分からなかったけど、とりあえず桃凪は返事だと思うことにした。
相変わらず進んでる路地裏はじめっとしていて、日の光がちょっとしか入ってこない、とても暗い場所だった。
昔の桃凪はこういう所に入るのが好きじゃなかった。というか、むしろ嫌いだった。今も好きとは言えない。
こういう所に入ると桃凪は決まって、泣きたくなるような、怒りたくなるような、そんな不思議な気持ちになるのだ。だから、入りたくなかった。入ってしまった時、その感情に流されて誰かれ構わず当たり散らしてしまいそうで、自分の心が自分を離れて飛んで行ってしまいそうだったからだ。でも今は猫さんのためだから、と必死に耐えていた。
「ねこさん、わたしにもおかーさんいるんだよ」
「みゃー」
「そんでねねこさん、わたしのおかーさんね、わたしにみえるものはみえないっていうの。ふしぎだよね?」
桃凪にとって、この世界の一番の不思議は、いつも身近にあるものだった。
「わたしね、ひとりぼっちのひとがいるのわかるんだ。でもね、ほかのひとはわかんないんだって」
道路で、学校で、水族館で、遊園地で。
いつもそこにいるけれど、まるでいないような扱いをされる人たち。
だから桃凪は、彼ら彼女ら、あるいはそれらを「ひとりぼっちのひと」と呼んでいた。
「そのひとたちもね、わたしがみえるとおどろくの。なんでだろうね? とうめいにんげんなのかな」
触ることは出来なかったけど、話しかけることは出来た。しかし、話しかけると毎回その人はとても驚いた顔をする。
「よくね、いっしょにいよう。っていわれるんだけど、わたしはつなのほうがいいから」
お誘いを受けることは何度かあったけど、そういうのは受けちゃいけないって誰かが言ってたし、曲がりなりにも知らない人について行くのは駄目だろう。
それに、桃凪のそばには父や母やツナがいるから、もし桃凪の姿がツナ達に見えなくなってしまったら、それはとても悲しいことだから。
「わたし、あのひとたちって、わすれちゃったひとなんだなっておもう」
自分がここにいるわけも、そうなってしまった理由も、全て忘れてただ「会いたい」という気持ちだけでそこにいる人。とても寂しくて、とても純粋な人たちだ。
そして、忘れてしまった人たちとは、逆にいえば忘れられた人たちでもある。と桃凪は思う。
「あのひとたちがほんとにあいたいなーっておもってるひとたちが、あのひとたちのことわすれたから、あのひとたちもぜんぶわすれちゃったんだ、たぶん」
誰よりも会いたいと願う人達に忘れ去られて、色んな事を忘れてしまっても会いたくて、最後には『誰に』会いたいかも忘れてしまった。
そんな悲しい人たちなんだ、あれは。
でも、
「わたしね、わたしもあんなふうになったらこわいなっておもうの」
彼らのあり方は純粋で、だから桃凪は怖かった。もしも、自分があんな風になったら。いつかだれにも見てもらえなくなって、掴もうとした手もすりぬけて、自分自身も、大事な人のことが思い出せなくなってしまったら。
そう考えるといつも怖くて、ツナの服を握りしめてしまうのだ。
「……わたしってここにいるのかな。もしかしたら、わすれられてるのかな」
そう問いかけたけど、それは猫に分かる事ではないだろう。
それよりも猫は猫が探してる人の方が気になるのか、辺りを見回しながらひたすら、恋しいと言わんばかりに鳴いている。
と言っても桃凪には犬のような嗅覚も耳もないので、ただ猫の後ろをくっついて行くことしか出来ないのだが。
すると、
――にぃ――。
ここの猫の声ではない。新しい鳴き声。それに、桃凪の隣にいた黒猫の耳がピンと立った。
そちらの方向へ目を向けた桃凪は、
「いたっ!」
ツナが桃凪を見つけたのは、路地裏への道がすぐの所にある狭い通りだった。もしかして大通りにはいないのかもしれないと思って捜索の範囲を広げたところ、入ってすぐに見つけることが出来たのは、ツナにとって運が良かったのだろう。
そこにぼんやりとした顔で突っ立っていた桃凪は、ツナの声を聞くとビクリと肩を震わせて、またあの、「こわい」って顔をする。
「とうな、どこいってたんだよ!!」
「つな……?」
近寄って行ったツナに恐る恐るといった調子で手を伸ばす桃凪。その小さな手がツナの服の裾を握りしめて、少し肩の力が抜けた。
「おつかいもとちゅうだし、しんぱいしたんだからな」
「つな……つな……」
「とうな?」
ツナの言葉に反応しないで、俯いたまま顔を上げない桃凪。ツナの服の裾を握りしめる手が、震えている。
「ねこさんが……おかーさんをさがしてたの……」
手と同じくらい震える声でぽつり、と呟いた。
「だから……わたしも、いっしょ……に……さがしてあげようと、おもっ……て……」
とぎれとぎれに伝わっていた言葉が、ふと止まる。
その姿を不思議に思ったツナが屈んで桃凪の様子を見ると、
「……っ……」
「とうな……?」
桃凪の、ツナと同じ色をした瞳から、ぽろりぽろりと涙がこぼれていた。透明な液体は次から次へと落ちてきて、まるで桃凪の目からりんごジュースが溢れているようでもあった。
桃凪は基本は泣かない。転んでも、怪我しても、からかわれても絶対に泣かないのに。
「おかーさんね、だめだった、の……」
「……だめってなんだよ?」
「……っ!」
一体何がそこまで悲しいのか、目だけは泣いたまま、唇は引き結んで嗚咽をこらえたまま、しゃくりあげそうな声で桃凪が話す。
「おかーさん、もう『ひとりぼっち』になってたから……ねこさんのこと、おぼえてなかった……から……!」
そこが限界だったのか、ぺたんとひざから崩れ落ちて。
あとはひたすら、桃凪は泣くだけだった。
夕暮れへの帰り道、ツナは桃凪の手を引きながら返っていた。
もう怖い犬もいないし、おつかいもしたし、ただ帰るだけなんだけど。
「……」
「……」
あのあと、ずっと桃凪は泣いていた。ツナはいつもはあんなに泣かない妹が珍しくも号泣している姿を見て動揺してしまって、慰める方法もわからなくて、服の裾を握りしめてくる桃凪の傍にずっといた。
桃凪は泣きながら、同じ意味の言葉をいつまでも話していた。
わすれないでね。
どんなことがあっても、なにがあっても、つなは、
つなだけは、わたしのことわすれないでね。
それにツナは何と答えただろうか。ツナ自身記憶があいまいとしていて、よく覚えてない。でも、「あたりまえだろ」は絶対に言った、と思う。その後桃凪が泣きやんで買い物が再開されても、二人はずっと無言だった。
ツナには、桃凪の言った言葉の意味がよくわからなかった。ひとりぼっちとは何なのか、桃凪が見ていたものと関係あるのか、それが見えないツナにはいまいちわからなかったのだ。
でも、桃凪が自分が一人になることに怯えていて、とてもとても寂しがり屋だったのだ。ということは、小さいツナにもなんとなく分かった。
「だいじょうぶだからな」
「……、」
あの小道で話しかけてから、一回も言わなかった一言を、ツナは自分の言葉に乗せる。
「わすれないから、おれ、ずっととうなのみかただから」
それだけを言いきって、なんだか恥ずかしくなってくる。顔も熱いし、桃凪は無言だから余計に照れてしまって、夕日と同じくらい顔が赤いのが、ツナ自身でも分かった。
桃凪は何も答えなかったけど、握っている手がぎゅうと握り返される。
その暖かさを感じていると、なんだか無性にこみあげてくるものがあって、滲みそうになった視界をツナは服の袖でごしごしと擦った。
「……? つな、ないてるの?」
「なっ、ないてない! ないてなんかないぞっ!!」
ツナの方が前を歩いているのだから、桃凪がツナが泣いているのかどうかが分かるはずない。けど、桃凪はツナにそう聞いてきた。
それをツナが必死で否定していると、くすくすと後ろで桃凪が笑う音がする。先ほど泣いていたとは思えない変わりように、今度はツナがびっくりする番だった。なんとなく決まりが悪くて、半分こにした買い物袋をぶらぶら揺らしてしまう。
「つな」
「……なんだよ」
まだかすかに笑っている様子の桃凪が一言。
「わたし、あんしんした」
その時の桃凪の顔を、ツナはずっと覚えている。
ヾ( ゚∀゚)ノ゙よーし、幕間投稿するぞー
(´・∀・`)あ、その前に見直ししておかんば。えーと……
( ´∀`)どれどれ……
(;´∀`)…………これは、アカン
(`・ω・´)加筆じゃー!!
(・ω・`)加筆じゃ……上手く書けない……
(´;ω;`)…………
(´・ω・`)書きなおそう
そして現在に至ります。前の方が好きだったなーって方いたら、すみません。