もうひとつのソラ   作:ライヒ

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第七話 「優雅で気品があふれる、そんな人に私はなりたいです。」

 

 

 

 ○月☆日

 

 夏休みに入りました。

 つなはテストの成績が悪かったせいで毎日が補習。夏休みに入ったのにちっとも夏休みな感じがしないよ! と嘆いてました。

 たけしも一緒だったみたいで、一緒にプリントを片づけてるみたいです。

 私は夏休み満喫してます。この間はきょーこちゃんと一緒に遊びに行きました。

 今日ははるといっしょにケーキ屋『ラ・ナミモリーヌ』に行ってきます。

 

 

 

 

 

第七話 「優雅で気品があふれる、そんな人に私はなりたいです。」

 

 

 

 

 

 突然だが。

 夏は遊ぶためにあるもの、というのはほぼ全国の中学生の意見として間違ってはいないだろう。

 

「桃凪さんはどんなケーキが好きなんですかー?」

「あそこのケーキは何でも美味しいけど、やっぱりピーチタルトが好きかも」

「ああ、美味しいですよねー。クリームの甘さが控えめで桃の甘さに見事にマッチしてるんですよね!!」

 

 女同士でキャッキャとケーキ談義しながらの散歩。ツナはあまりケーキが好きというわけではないし、正直言って楽しい。

 その時。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 トントン、と後ろから肩を叩かれた。

 

「……失礼ですけど、この場所わかります?」

 

 サラサラとした金髪のブロンドを肩より少し下まで伸ばし、頭にはつばの広い真っ白な帽子。着ているものはふんわりとしたワンピース。手には地図と日傘。とどめに真っ白な肌と茶色い瞳。

 一見すると避暑地のお嬢様のような、そんな完全無欠の美女がそこにいた。

 

「……あの?」

「……。あ、えーと、どこの事ですか?」

「ここです」

 

 あまりの美しさに呆然としていた桃凪とハルだったが、お嬢様(?)の呼びかけにすぐ我に返る。

 そしてお嬢様(?)が白い指で指した場所には、

 『ラ・ナミモリーヌ』

 の文字が。

 

「はひ、お姉さんもここに行くんですか?」

「まぁ、では貴女達も?」

「はいー。案内しましょうか?」

 

 お嬢様(?)は少しだけ迷った後、やがてにっこり微笑みながら。

 

「では、お願いしますね」

 

 

 

 

 

「はひー、リータさんはイタリアからやってきたのですか」

「ええ、ちょっと旅行に」

 

 お嬢様の名前はリータと言った。なぜか、名字は明かしてくれなかったけど。

 リータの話では、彼女には弟がいるらしい。なんでも、ちょっと前までダメダメだったんだとか。

 リータの口から出てくる弟の姿は、とても、いやかなりのドジかつおっちょこちょい。もう少し何とかしてほしいと嘆いているリータだが、かすかに言葉の端に浮かぶ親愛に気づいているのだろうか。

 

「うちと少し似てますね」

「あら、そうなの?」

 

 もっとも、こちらは弟ではなく兄だが。

 女三人寄れば(かしま)しい、とはよく言ったもので。話題は尽きることはなく、いつの間にかケーキ屋の目の前に来ていた。

 

「美味しそうです!」

「迷うねー……」

「あらあら、これは壮観ね」

 

 店内のショーケースにずらりと並ぶケーキ。どれもこれもが自分の主張で忙しそうな逸品たちだ。

 

「りーたさんは、どれがいいのですか?」

「そうね……あのショートケーキとかいいかもしれないわ」

「ハルはこれに決めましたっ!」

 

 店内にはいつもより男性客が多い気がする、もしかしなくてもリータを見るためなのだろうか。実際、歩いているときも彼女は注目を集めまくっていた。もっとも、彼女はそれに気づいていなかったが。

 ふと、ハルが桃凪の買ったケーキを見て不思議そうな声を上げる。

 

「はひ? 桃凪さん、ピーチタルトの他にも買ってるんですね?」

「ああ、うん。家にいる人達の分」

 

 買ったケーキは五つ。ピーチタルトは自分で食べる物として、他の物はランボとビアンキとツナと母に。リボーンは甘いものをあまり食べそうにないので除外。

 

「ふふー……♪」

 

 家に帰るのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

「でね。弟ったら、仲間の前だと恰好いいのに家だとまるで駄目なのよ」

「ほぇー。私の兄は誰の前でもおおむねダメですね…」

「ハルはそんな事思いませんよ! ツナさんはすっごくかっこいいです!!」

 

 帰り道。桃凪達は例の如く世間話をしていた。

 

「この間も夕飯の時に零してて、片付けが大変だったの」

「へー……そーいえば……」

 

 恐らく、ここに男性がいたらいい加減にしろよおまえらいつまで同じ話するつもりだとか思っていただろうが、残念な事にここにいるのは戸籍上も生物学上も女性なメンツだけだ。

 ちなみに、さっきの話はこれで三回目である。

 

「どこの家でも似たようなことはあるもので――――?」

 

 笑顔で話をしていた桃凪の言葉がぴたりと止まる。

 

「どうしたんですか? 桃凪さん?」

「……あれ」

 

 桃凪が指さした先、そこには。

 

『さっさと車の用意しやがれ! じゃねーとこのガキぶち殺すぞ!』

『落ちつきなさい! まずは落ちついて私達の話を――』

『うるせぇ!!』

 

「「「……、」」」

「は、はひー!? たたた大変ですデンジャラスですー! ちっちゃい子が人質に取られてます!!」

「……ごーとー?」

 

 顔を覆面で隠し、拳銃を持った人物。声からしておそらく男だろう、それと銃口を向けられている小さな子供。

 典型的な強盗の現場だ。

 どうやら犯人は周りを囲まれ追いつめられているらしく、震える指先は今にも引き金が引かれてしまいそうだった。それでなくとも気が長そうな方ではないのだ、ゆえに警察もかなり慎重になっている。

 

「あの子大丈夫でしょうか……」

「……どー見ても大丈夫じゃないよ」

 

 見てる方もハラハラとさせられる一幕。そもそも、この平和な(最近はそうでもなさげだが)並盛にこのような事件が起きる事が異例であって、そのために恐らく警察の数倍の野次馬が集まっていた。

 

(勇気がないのなら強盗なんてしなきゃいいのに……あれ?)

 

 しばらくそちらの方を見ていた桃凪は少し辺りを見回して、

 気づいた。

 

「……りーたさんは?」

 

 

 

 

 

「さっさと道開けろっ!」

 

 拳銃を振り回し、野次馬の中を突っ切ろうとする強盗。拳銃を向けられた民間人は悲鳴を上げながら道を開けて、

 一人だけ、道を開けない女がいた。

 

「っ! どけ!」

 

 拳銃を向け、威嚇する強盗。しかし女は譲らない。

 

「――! どけぇえええ!!」

 

 叫んだ拍子に、指の震えが最高潮に達して、

 

「――――まずは、その子を離して」

 

 ガギン! とどう考えても銃を撃ったものではない音が響き渡った。

 そして手首にくる鈍い痛み。見ると、そこには先程まであった銃がない。目の前には相変わらず女の姿。ただし、手にしていた日傘を振り抜いた形で止まっていた。女の遥か後方に、先程まで自分が持っていたらしき銃が落ちている。

 

「そろそろ離してあげたら? 可哀(かわい)そうよ」

 

 声は後ろから。目の前にいたはずの女の姿を確認する前に、強盗の視界は大きくブレ、緩やかな暗闇が覆っていった。

 あの一瞬で背後に回り込み、意識だけを奪う的確な攻撃をした彼女。そんな彼女は手もとにあるケーキの箱を眺めて、心配そうにポツリ。

 

「…ケーキ、崩れてないかしら?」

 

 

 

 

 

「はひ……。倒しちゃいました……」

「すごい……」

 

 すぐそこにいたはずのリータがいなくなり、強盗の目の前に現れるまで数秒。そして強盗を打ちのめし、子供を助け出すのに数秒。

 早い、とてつもなく早い。絶対人間業ではない。

 遠くにいたリータがこちらを見て手を振る、そして走り出して、

 

「あ」

「け、警察に捕まっちゃいました」

「……まぁ、怪しいよね」

 

 走ろうとしたリータが警察に話しかけられるまで数秒。ちなみにドサクサに紛れて強盗はちゃんと捕まっていた。

 しかし、先程の動きはすさまじいものがあった。あんなに長いスカートを着ているのに、あの身のこなし。

 でも、最近どこかで見たような気も――?

 

「……まさかねー」

 

 一瞬リボーンの事を思い出したが、即座に否定する。あんなに優しいお姉さんが、マフィアな筈がない。

 

「ごめんなさい、手間取っちゃったわね」

 

 ニコニコとリータが歩いてきた。強盗を思いっきり殴り飛ばしてもちっとも折れたり曲がったりしていない日傘もすごいが、あれだけの事があって笑っていられるリータもすごい。

 

「す、凄かったですよリータさん!」

「かっこよかったですー」

「ありがとう」

 

 誰もが見とれるような可憐な笑顔で笑うリータ。彼女は手元の腕時計に視線を移すと少し落胆したような表情を浮かべる。

 

「……あら、そろそろ帰らなきゃ」

「そーなんですかー……」

「残念です……」

「ふふ、私も残念よ。でも大丈夫」

 

 桃凪達から離れるように歩きだしたリータは背中越しに、

 

「――――――たとえどんなに離れていても、ソラは繋がっているから」

 

 告げた。

 

「じゃあね。桃凪、ハル、楽しかったわ」

「はい! 私もです!!」

「さよーならー」

 

 

 

 

 

「――という事があってね」

「へー」

 

 夕食時。桃凪は今日の出来事をツナたちに自慢(はな)していた。

 

「すっごくかっこよかったんだから。あんなお姉さんになりたいなー」

「なれるわよ、桃凪なら」

「ありがと、びあんき」

「私もいつかリボーンにふさわしいお嫁さんに……」

 

 買ってきたケーキは今は冷蔵庫の中。夕御飯の後に皆で食べるつもりなのだ。

 

(でも、不思議な人だったなー)

 

 その美貌もさることながら、プロ顔負けの身のこなし、深い知識と言葉の一つ一つに感じた優雅さ。こんなに完璧な人がいるのかと思うくらいの衝撃だった。

 ビアンキもそうだが、外国の人はあんなに美人揃いなのだろうか? だとしたら外国人に生まれたかった。

 

「また、会えるかなー……」

 

 

 

 

「~♪~♪」

「また随分とご機嫌だねぇお嬢」

「あら、わかる?」

 

 とある所のとある場所。そこにいたのはリータと彼女の仲間達。

 

「可愛らしい女の子たちとお話ししてきたのよ。楽しかったわー」

 

 優雅な外見に似合わず、まるで童女のような笑みを浮かべるリータ。

 くるりくるりとリータが回るたびにふわりとスカートが宙を舞う。このまま歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。それに仲間たちは苦笑い。

 

「それはいいが、足元見ないと転ぶぜお嬢」

「あら、大丈夫よ。そこまで子供じゃ――うきゃぁ!?」

 

 ぐい、と長いスカートのすそが足に引っ掛かった。彼女の長い髪が尾を引いたように流れる。

 

「……?」

 

 転倒の衝撃に目をつぶるリータだったが、意外な事に何もない。それどころか、温かいものに包まれているような感覚がする。

 不思議に思った時。

 

「……ったく、何やってんだ」

 

 上から聞こえてきた声。それを聞いた途端、リータの頬が羞恥によって赤く色づいた。

 

「おっちょこちょいな所は変わんねーなー、『姉貴』」

「い、いつもこうな訳じゃないわよ」

 

 リータは慌ててよりかかっていた相手から身体を離し、身だしなみを整える。気を抜いていたとはいえ、恥ずかしい所を見られてしまったものだ。

 

「それで、今度はなに? 『    』」

「ああ、オレの弟分に会いに行こうと思ってな」

「へー……もしかしなくても、日本(ジャッポーネ)?」

「おう」

 

 再び現れた意外なチャンスに思わず感心するリータ。

 何というか。

 

「またすぐに会えそうねぇ……桃凪」

 

 そういって、リータは綺麗に笑った。




新しいオリジナルキャラクターが登場しました。といっても、とても分かりやすい立ち位置ですが。
個人的イメージでは、優雅なお姉さんという感じです。好きになっていただけたら幸いです。
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