○月※日
この間あったりーたさん、せんせーに話したらなんか心当たりがあったみたいです。
やっぱりりーたさんもマフィアの人なのでしょうか? そんな風には見えなかったのですが……。
そういえば、最近私の部屋のクーラーが壊れました、毎日が蒸し風呂です。夜はつなの部屋に泊めてもらってますが、さすがに昼はずっといるわけにはいかないので。
というわけで、今日は散歩に出かけてきます。
第八話 「明日から多忙になりました。」
そんな俳句があった気がする。夏の日の事を書いた俳句だが、これだけを見るとどことなく涼しそうな印象を受けた。
しかし、直射日光の下で聞く蝉の声などただ暑さを助長させるだけの物でしかないわけで。
「……、」
もはや言葉を発する気力も桃凪にはない。頭は思考を止め、体を動かすのは理性ではなく本能。
このようなか弱い少女になおも刺激的すぎる日光を浴びせてくる太陽に軽く殺意を覚えながら、桃凪は歩を進める。
確か、もうちょっと言った所に桃凪お勧めの避暑スポットがあったはずなのだが、そこに行く前に力尽きてしまいそうだ。
だから、目の前にリーゼントの学ランがいるのを見ても、桃凪は別に驚かなかった。
というより、めんどくさい。
「沢田桃凪姫さん、委員長より言伝を賜っております」
「はぁ……どうも」
目の前にいるリーゼントはどうやら雲雀の部下だったらしい。桃凪に手紙らしきものを渡すとすぐに去ってしまった。どうでもいいが、この天気の中であんな黒一色の学ラン、暑くないのだろうか。
『小動物へ』
まぁとりあえず雲雀の手紙だし、読むか。というより小動物って何だ。
そう思った桃凪はパラリと手紙をめくる。
『何で君携帯持ってないの?』
ほっといてほしい。
「だって、必要ないじゃんかー……」
でもこんな事を雲雀に言ったら、すぐ連絡入れられないから不便ださっさと持て、とか言われるのだろうなー。と思いながらも桃凪は手紙のつづきを見る。
『最近書類が来ないんだけど、ちゃんと持って来ないと咬み殺すよ』
「……もしかして、夏休み中にも書類はあるのか?」
だとしたら、大変だ。
書類を溜めている事で雲雀を怒らせてしまうということもあれだが、何より自分の机がどうなっているのかが。
「……、」
桃凪はさっきまで向かっていた目的地と並中、どちらが近いか考えて。
並中に行くことを決めた。
「…………泣いていいかな」
というより、泣きたい。
幸い、書類により机が大破しているという事態は無かった。
無かったが。
「書類が多すぎて机が見えない……」
なんということでしょう。一般の生徒より少し低めにデザインされていた彼女の机。それが、今は一面の純白により埋め尽くされています。シンプルな茶色い机は今は白い書類に、それなりに座り心地のよかったイスは白い書類に。
なんだろうこのビフォーアフターは、劇的にもほどがある。
「……そもそも、これは運べるのかな?」
常識的に考えて、一度では無理な気がする。ならば数回に分けるか。しかし、少しづつ運べばその分応接室に入らなければならないわけで。
「ダメだ……。運ぶごとにきょーやの冷たい視線が想像できる」
考えろ、一番いい方法を。
「……よし。――台車借りてこよう」
コンコン。と応接室の扉がノックされた。
「……入っていいよ」
恐らく、時間的に考えるとあの小動物だろう。違ったら咬み殺す。
「おじゃましまーす……」
少しだけ開かれた扉から除く顔は雲雀の予想通り。しかし普段と比べてやや弱々しい感じがした。
「あのー……、きょーや、さん?」
「何」
「書類、持ってきたよー……持ってきた、けど……」
けど、何だ。いつもの彼女らしくない、人をイラつかせる喋り方。
「……だから、何」
「まぁ、見てもらえればわかる……」
そうしてガラガラという音と共に応接室に入ってくる小動物。
……ガラガラ?
「溜まってた」
一緒に入ってきた荷台に積まれていた、大量の書類。
…………、
……。
「……、」
「……ごめんなさい」
決定。咬み殺す。
書類の手伝いを終わるまでやるという条件で何とか咬み殺すのだけは勘弁してもらえた。
しかし、今日から朝早く起きては学校に直行。何故夏休みなのに毎日学校に行かなくてはならないのか。
そして書類が夏休み中も来るという事を知った今は、書類の片づけが終わってからもちょくちょく学校に来なくてはならない。めんどうな。
しかし、いい事もあった。
「応接室ってクーラーきいてるねー」
「ちゃんと手を動かしなよ」
「ごめんなさい」
どうやら目の前の委員長は世間話も許してはくれないらしい。
カリカリカリ……、とペンを動かす音だけが響き渡る。
(……まぁ、いっか)
どうせ家に帰ってもクーラーは壊れているのだから、それに暇だったから散歩に出かけたようなものだし。
散歩は好きだ。知らない所に行けば今まで見た事もなかった物に出会えるかもしれないし、知っている所を散歩するだけでも暇つぶしになる。ちっちゃい頃は散歩していたらいつの間にか迷子の捜索願いが出されていた事もあったが、今はそんなことはないし。
少なくとも、何もやる事が無いよりは、ずっと楽しい。
そう、思った。
が。
「……すみません、もうそろそろ帰らせてください」
「まだノルマ終わってないよ」
「勘弁してください……」
そろそろ夕方なのだが、まだ書類は終わらない。
これがいつもなら普通にさっさと帰るのだが、この事態を作ってしまった張本人としての負い目もあってあまり強く出れなかった。
嫌だ、さすがにこの年で捜索願いを出されるのは。
「明日も来るから……。お願いー」
ちょこちょこと雲雀のデスクの近くにより、やや上目気味に雲雀を見上げる。気分としては王様に懇願する一般民衆の気分。しかし雲雀はどちらかというと人の上よりも屍の上に立っている方がそれっぽいような気もするが。
「……、」
雲雀はしばらくそんな桃凪を眺めていたが、やがて諦めたように息を吐いた。
「……明日は朝八時に登校ね」
「わかった、十時に来る」
「……、」
背後からの視線が痛いなんてもんじゃなかったが、無視して応接室を出た。
仕方がない、明日は九時半くらいに来るか。
普段はボケる人をツッコミに回らせるのが好きです。苦労させるのはもっと好きです。