タキシードの話を纏めると、
“ジン君のコミュニティは元々強かったんだけど魔王に襲われて名前も旗も人も奪われた“
だって。二行の話にどれだけ時間かけてるんだよ。信じられるか?これ話続くんだぜ?
話が長いタキシードは若干虚ろになっている私の視線に気付かずに話を続ける。
「そもそも考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます?商売ですか?
「そうね……誰も入ろうとは思わないでしょうね」
「そう、だからこそ彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華の縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」
そう言って高笑いする自称紳士タキシード。しかしコイツウザイな。ニ、三回殴りたいでござる。
「そして私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。“箱庭の貴族”と言えば所持しているだけでコミュニティに“箔“が付く程の貴種。そんな彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」
「……そう、事情はわかったわ。 それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」
飛鳥ちゃんは含みのある声で問う。まあどんな含みがあるのかはお察しだけど。どんな風にその含みを察したのか似非タキシードは笑みを浮かべて言った。
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガス パー!?」
大体予想は付いていたので特に反応しない私達とは対称に、ジン君はテーブルを叩いて抗議する。台パンは店に迷惑がかかるから自重しようぜ?
台パンを受けたタキシードは怯まずに睨み返す。
「黙れジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」
「そ……それ、は」
「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも箱庭の住人として、通さなきゃならねえ仁義があるぜ」
タキシード の にらみつける !
ジン は ひるんでしまってうごけない !
そんな感じかな。どちらかと言えば怯んでいるというより、私達への申し訳無さとか後悔の方が強そうに見える。まだ若いなあ。
「……で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
「「は?」」
即答で断る飛鳥ちゃん。断られたタキシード、俯いていたジン君は思わずといった感じに声を上げた。うん、まあそりゃそうだよねー。
誘いをばっさりと切り捨てられたタキシードもジン君も飛鳥ちゃんの顔を窺っている。 が、飛鳥ちゃんは全く気にせずに紅茶を飲み干すと、耀ちゃんに笑顔で話しかける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、 意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
そう飛鳥ちゃんは自分の髪を触りながら耀ちゃんに言った。自分で口にしておきながら恥ずかしがってる。なんだこの生き物可愛過ぎるんだけど。
それを聞いた耀ちゃんも少し考えた後に笑って頷いた。その笑顔も今までのギャップでとても可愛く見えた。嫁にしたい。
「……うん。飛鳥は今までの人たちと違う気が する」
「にゃー《よかったなお嬢……お嬢に友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ》」
そう三毛猫も合わせて和やかな雰囲気を作る二人と一匹。……ま、まずい、このままだと私の空気化が加速する!
「わ、私も!私も友達に立候補する!」
ガタッと椅子を鳴らしてそう宣言すると、二人は少し驚いた後に顔を見合わせて、こちらに向かって笑顔で言った。
「うん、勿論」
「友達になりましょう、ジェニー」
よ、良かった……これで更なる空気化の加速を防げるはず。と、無意識にタキシードとジン君を放って話を進めてしまっていた。タキシードは大きく咳払いをすると、
「失礼ですが、理由をお聞かせていただいても?」
と言った。馬鹿だなあ、獣みたいだと思っていたのは姿だけじゃなく頭もらしい。
そう思ったのは私だけじゃないらしく、飛鳥ちゃんはわざとらしく溜め息をついてから言った。
「私、久遠飛鳥は―――裕福だった家も、 約束された将来も、おおよそ人が望みうるの全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら身の丈を知ってから来なさい、似非虎紳士」
そう言うと、似非虎紳士(笑)は尚も諦めの悪く絡んでく
「お……お言葉ですがレデ
「
……絡んでくると思ったら言葉を続けようたタキシードの口はガチン! と音を立てて閉じられた。
本人は混乱したように口をパクパクしてもがいているが、全く声が出ない。
「貴方からはまだまだ聞き出さなければい けないことがあるのだもの。貴方は
そう飛鳥ちゃんが言うと、その言葉に反応したようにビシィッと椅子が悲鳴を上げる勢いで座り込んだ。
「ガルド=ガスパー……?」
ジン君は怪訝な表情をしている。タキシードも言葉は出せていないが目を白黒させてパニックになっていることは間違いないようだ。
「お、お客さん!当店で揉め事は控えて」
「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」
騒ぎを聞いたのか、さっきの猫耳娘さんがこっちへ向かってくると、飛鳥ちゃんはそう言った。猫耳娘さんは首をかしげているけど、私は飛鳥ちゃんが何をしようとしているのか大体分かった。
「ねぇジン君。コミュニティの旗印を賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」
「い、いえ。そんなことはありません。旗印を賭ける事はコミュニティの存続を賭ける事ですから……かなりのレアケースです」
「そうよね。それを強制できるからこそ魔王は恐れられる。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に強制できたのか……聞いてみようかしら?」
「待って、飛鳥ちゃん」
タキシードへと告げる飛鳥ちゃんの言葉を私は遮った。こちらに向く飛鳥ちゃんに私は聞く。
「今のって、飛鳥ちゃんのギフトなんだよね?」
「……ええ、そうよ。どんなものも言うことを聞かせる……それが私のギフト。……友達が、嫌になったかしら?別にいいわ。私は」
「ちょ、違う違う。私は」
飛鳥ちゃんの言葉を止めて、私はタキシードの方へカットちゃんを向ける。
「私のギフトも、見せようと思って」
解体人形ジェニーは、登場した当初から制限をかけるべきと言う声が出ていたカードである。
その凶悪さは、能力の『相手の手札を見て』一枚捨てる、というところに直結する。どんなカードゲームを想像してもいいが、基本的に自分の手札というのは自分の選択肢の全てである。それを、三ターンや四ターンという早いタイミングで的確に潰すことができるジェニーは、強カードに分類されるのには充分だったのである。その手札を見るピーピング能力と、
そして、ここまではゲームのジェニーの能力の話。
話は変わるが、デュエル・マスターズの背景ストーリーにおいて手札は《知識》と呼ばれることがある。
カードイラストも魔導書のような物だったり、
もうひとつ、これは逆にジェニーのようなハンデスに多いが、手札が《魂》と呼ばれることがある。
実際にこれにどんな意味があるのかは分からない。だが今、何の因果かジェニーの姿になった者の能力。それは、
ーーー自由自在に
……って格好良く言ったはいいものの、そこまで使い勝手は良くないよね。
実際、私に出来るのは閲覧と消去だけだし、元に戻すこともできないから下手に使うと不味いし。
まあこの状況では関係無いけど、と考えながらカットちゃんを操作する。すると私達の机の上にふよふよ浮かぶ巨大なモニターが現れた。
「ジェ、ジェニー?これは一体?」
ジン君が混乱したように言う。別に大したことはしてないと思うんだけど。
「タキシードの記憶を再生するモニターだよ」
「(タキシード……?)いえ、記憶を再生する?そんなギフトが……」
始まるよー。
視点はFPS みたいな感じ。タキシードの記憶だからタキシード視点だろうね。
本拠のようなところで部下に命令している。命令内容は人質の誘拐。
やはり飛鳥ちゃんの疑惑は正しかったようだ。真っ当な方法じゃないはずだし、もしかしたらこれでこのタキシードは捕まるかもしれない。だけどそれよりこの人質がどこにいるかを調べないと。
そう考えると、場所が移った。どうやら本拠の地下のようだ。真ん中で子供が泣いている。まだ小さい。早く助けなければ危ないかもしれない。
そうしてると、視点が子供に近づいた、そして
『うるせぇぞクソガキども!!!』
……首を、飛ばした。
呆然としている間に映像は進む。反省したようだが、次に来た子もお父さん、お母さん、と泣いていたら殺された。開き直ったようで、連れて来たら殺すようにしたらしい。
『死体の処理はどうするかな。ん、そうだ。お前ら新鮮な肉が食いたいって言ってたな?お前らコレ喰
「死ね」
限界だった。映像を止めて向かいのゴミに近づき、その首を
「
飛鳥ちゃんの声が響き、一瞬動きが止まった。そこに耀ちゃんが近づいて私を押さえ込んだ。
「……ジェニー。落ち着いて、このままだとアレと同じになる」
その言葉で少し落ち着いた。向こうでは飛鳥ちゃんとジン君が話をしている。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら……ねえジン君?」
「いえ。彼のような悪党は箱庭でもそうはいません」
「そう?それは残念ね。それよりジン君。箱庭でも法を犯せば裁くようだけど、それでこの件は裁けるのかしら?」
「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
「そう。なら仕方がないわね」
裁かれない?馬鹿な。あのゴミがこのまま逃げるなんて考えられない。それなら、それならいっそ私がここでーーー
そうしていると飛鳥ちゃんがこちらへ向かって微笑んだ。
「大丈夫よ、ジェニー。この外道がのさばるのを許せないのは私も一緒だわ」
そう言って飛鳥ちゃんは顔を真っ青にして未だに動けないゴミに顔を向けた。
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」
おめでとう!
タキシード は ゴミ に しんか した!