【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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※この物語の主人公である幸平創愛(ソアラ)は母親の珠子譲りの金髪ロングヘアが特徴の美少女です。



たった一人の編入生編
編入試験に現れた美少女


「試験がありますの?」

 

「はぁ? 当たり前でしょう?」

 

「す、すみません……、そ、それで場所は……?」

 

 わたくしこと、幸平創愛(ソアラ)は今、遠月学園という料理学校に来ています。

 料理学校に通いたいからではありません。訳あって、この学校に通わなくてはならなくなったからです。

 

 小さな定食屋の娘であるわたくしが料理学校に通わなくてはならなくなった理由は父親にあります。

 中学卒業目前になったある日のこと、わたくしの父親である幸平城一郎は突然、わたくしの進学先である普通科の高校の入学を取り消したと伝えてきました。

 

 わたくしがそのことについて、言及すると、彼はメモを手渡して店を閉めてどこかにいってしまいましたのです。父は時々わたくしの理解を超える行動をするので、困ってしまいます。

 

 彼のメモには普通科の高校に通う代わりにこの“遠月学園”に通うようにと書いてありました。

 

 当たり前ですが、わたくしは途方に暮れてしまいます。

 しかし、進学しないとどうにもやっていけないので、不本意ではありますがこの学校にやってきました。

 

 この場所は事務員さんなどがいらっしゃる場所らしく、聞いた情報によると、どうやらこの遠月学園に通うためには編入試験とやらに合格しなければならないようなのです。

 

 しかも、その編入試験の会場は3キロも離れているというではないですか。前途多難の予感しかしませんわ……。

 

 

「えっ? これが料理学校ですの? わたくしが想像していたものと異なるのですが……」

 

 わたくしの目の前にそびえ立つのは広大な敷地と多様な施設。どうやら、これが全部学校らしいです。

 学費とかすごく高そう……。わたくしが想像していた料理学校の数十倍以上の規模なのですが……。

 

 

「ぎゃあああっ! 進級試験落ちたぁぁぁっ!」

「頼む、2000万、いや3000万寄付する……! 息子の退学を取り消してくれ!」

 

 なんか、すごく悲壮感が漂っている親子がいらっしゃる……。

 お金の単位、おかしくありませんか? お父様、わたくしの来ている場所、間違っていませんか?

 

 わたくしはおもむろに携帯を取り出して父の番号に電話しました。

 

「お、お父様〜〜! こ、これは一体どういうことですの〜?」

 

『あれ? 言ってなかったっけ? そこは日本屈指の料理学校……。卒業率10%以下の超絶エリート学校だぜ!』

 

「聞いてませんわ! ということはわたくしは、9割以上の確率で高校卒業出来ないじゃないですかぁ」

 

 父、城一郎がわたくしに言い放ったのは衝撃の事実でした。料理学校にエリート学校とかそんなものがあることも存じ上げませんでしたし、何よりも卒業率10%以下という言葉が突き刺さりました。

 

 それって、学校として経営が成り立ちますの? だって、100人居たら10人以下しか卒業出来ないということですよね? なんで、わたくしがそんな厳しいところに通わなくてはならないのですか?

 

『おいおい、創愛(ソアラ)よ。その学園で生き残れないようじゃ、オレを超えるなんて笑い話だな!』

 

「わたくし、お父様を超えたいなんて言った覚えはございません。それなら普通の高校に――」

 

『いや、その学校以外に行かせる気はねーから。住むとこもそこの寮しか認めねーし』

 

 昔から父はわたくしに、「料理のセンスがあるからオレを超える料理人になれ」とか言っていました。

 しかし、わたくしはお料理は大好きですが、特に父を超えたいと思うこともなく、時々彼がせがむので料理勝負に乗って差し上げるくらいで、凄い料理人になろうとかそんな意志は毛頭なかったのです。

 

 父親はどうやらそんなわたくしに荒療治をしようと目論んでいるようでした……。

 

「人でなし! あんまりです! お父様なんか大嫌い!」

 

『そ、創愛ちゃん? ご、ごめん。お父さんが言い過ぎた……! 待って、その……』

 

「もう知りません!」

 

 わたくしは物分りの悪い父に腹を立てて、つい電話を切ってしまいます。

 かけ直して来ないところを見ると、大抵わたくしに甘くしてくれる父なのですが、こればかりは妥協してくれないみたいです。

 

 

「やはり、編入試験に合格しませんことにはわたくしの将来が……。しかし、これは何とも……、場違い感がとんでもないですわ……」

 

 編入試験とやらの会場に続々と他の受験生たちが到着してきたのですが、その人たちは皆、高級車から降りて、お付きの人を何人も従えているような方ばかりでした。

 も、もしかして、1人で来ているのってわたくしだけなのでしょうか?

 

「きゃっ、も、申し訳ありません。つい、ボーッとしてまして……」

 

「気にしないで、君も編入希望者なんだね? 僕は二階堂圭明、家ではフランス料理店をやっている。座りなよ」

 

「まぁ、そうなのですね。奇遇ですわ。わたくしの家も料理屋なのです」

 

 わたくしは周りに圧倒されて足元を疎かにして、ベンチの角に躓いて転びそうになると、そのベンチに腰掛けていた二階堂さんという方がわたくしに笑顔で声をかけてくれました。

 

 彼のご実家はフランス料理店を経営しているらしく、実に優雅な感じでお茶を飲んでいらっしゃいます。

 

「ふふっ、偶然ではないかもよ。ほら、あそこに居る彼は全国展開しているレストランの跡取りだし――」

 

 彼いわく、ここに集まっている殆どが料理業界のサラブレッドらしいのです。

 ええーっ、ますますわたくしのような者が居てはならないような……。

 

「君の家は何をやっているの?」

 

「わ、わたくしですか? お恥ずかしいながら、小さな定食屋を――。きゃっ……! 何をなさいますの!?」

 

「低俗な庶民が、僕と並んで座るなぁあー!!」

 

 わたくしは実家の商売のことを質問されましたので、それに素直に答えようと口を開きます。

 しかし、回答を言い終わらないうちに、わたくしは彼に突き飛ばされてベンチから落ちてしまいました。

 

「ひぃっ! そ、そんな、低俗だなんて……、グスン……、ひ、酷いです……」

 

 わたくしは彼に実家を貶されて涙が出てきました。小さな店でも思い出がいっぱい詰まった店なのに……。

 

「おい、すごく可愛い子がいるぞ!」

「あの男の子に突き飛ばされて泣いてるみたいよ」

「酷いことするな。良いじゃないか定食屋の娘さんでも」

「可哀想……」

 

「ちょ、ちょっと待って。ぼ、僕はその……」

「わ、わたくし……、低俗なんですかぁ?」

 

 わたくしが泣いていると周囲に人が集まり、二階堂さんは泣いてるわたくしに何かを口にしたい様子でした。

 

「――っ!? そ、そんなことないよ。ご、ごめんね。緊張してて、変なことを口走ったみたいで……」

 

「そ、そうだったんですの……。わたくしこそ、泣いてしまってごめんなさい。お互いに編入試験を頑張りましょう」

 

 どうやら彼は緊張のあまり思ってもみないことを声に出したご様子でした。

 それなのに、わたくしったら、何てはしたないことを……。

 

 

 それから程なくしてわたくしたちは編入試験会場に立ち入ることを許可され、中に入って行きました。

 どんなことをするのでしょうか――?

 

 

「メインの食材は卵。1品、作りなさい。私の舌を唸らせた者に遠月学園への編入を認めます」

 

 編入試験の審査員は意外なことにわたくしと同じ年くらいの一人の女の子でした。彼女は薙切えりなさんと名乗り、美味しい料理を作れば編入しても良いと仰っています。

 制服も着ていますし、ここの生徒さんなのでしょうか?

 

「なお――今から1分だけ受験の取り止めを認めましょう」

 

「「――っ!?」」

 

 えりなさんが棄権を認めると仰った瞬間に蜘蛛の子を散らすように編入希望者たちがこの場から逃げようとしました。

 

「へっ?」

 

 わたくしは、何が起こったのか全然意味がわかりません。せっかくの試験を皆さん受けないのでしょうか?

 

「あ、あの、皆さんはなぜお帰りに?」

 

「は、離せ! まさか、お前はあのお方を知らないのか?」

 

 二階堂さんは早口で薙切えりなさんについて説明をしてくれました。

 彼女は“神の舌”を持つ凄い料理人らしく、彼女に才能なしと言われることは料理界において生きていられなくなるくらいの不名誉な事なのだそうです。

 だから、不合格よりも皆さんは辞退を選ばれるみたいなのです。

 

「見たでしょ、愚図ばかりよ。こんな連中に私の時間を割くわけにはいかないわ」

 

 えりなさんは、一緒にいる女の子に審査する時間が勿体無いとまで言い放ちました。

 なんだか、すごく言い出しにくいです。まだ、わたくしがここにいることを……。

 

 そして、自分の新作料理の試作をすると言い出して、お友達の方に試食を頼むところまで話が進んでいます。

 こ、このままだと、わたくしも不合格。そしたら、就職活動を――? そ、それはこのご時世、ちょっと厳しそうですわね……。店を勝手に開けると父に怒られそうですし……。

 

「その前に上に報告しなくては、合格者は0だと――」

「あ、あの……! 作る品は何でも良いのですか!?」

 

 報告をされると編入出来なくなる――そう思ったわたくしは思いきって大声を出しました。

 すると、ようやくえりなさんはわたくしに気付いてくれます。

 

「卵さえ使えば自由よ。でも、本当にやる気? 辞退するなら今の内に――」

「お願いします! 試験を受けさせてください! わたくしにはもう後がないのです!」

 

「――へぇ、いい目をしてるわね。背水の陣で挑むなんて、他の連中とは確かに違うわ」

 

 わたくしは、えりなさんの両肩を掴んでまっすぐに彼女の目を見て後がないことを力説しました。

 なんせ、この学校以外の高校に父は通わせないと断言しているです。えりなさんが如何に厳しくてもこの機会を逃すわけにはいきません。

 

 わたくしの熱意が通じたのか、彼女は静かに微笑んでくれました。

 

「は、離れなさい! この方をどなたと心得る! 首席生徒にして、遠月十傑評議会のメンバー、薙切えりな様だ!」

 

 しかし、馴れ馴れしく触ってしまったことがいけなかったのか、彼女の友人がわたくしをえりなさんから引き剥がし、先ほどの二階堂さんと同じようなことを言いました。

 

「は、はい。すみません。よくわかりませんが、凄い方なんですよね? 才能がないと言われると料理人として生きていけないくらい」

 

「それを知っていて尚、試験を受けると言うの?」

 

「も、もちろんですわ! えりなさんに美味しいって言ってもらえれば合格でよろしいのですね?」

 

 えりなさんは再三わたくしに試験を受けるかどうかの確認をします。

 とにかく卵を使って美味しいと言ってもらえれば良いだけなら、何とかなるかもしれないです。

 

「えりな様! この人、定食屋の娘みたいです!」

 

「――っ!? なぁんだ。失うものが既に無いんじゃない。まぁいいわ。底辺の味を味わって差し上げましょう!」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 えりなさんはわたくしが定食屋の娘と聞いて嘲るような顔をしました。定食屋の味は確かに底辺の味かもしれないです。

 ですが、わたくしは包丁を握った瞬間、料理が早く作りたい衝動に駆られて、そんなことはどうでもよくなっていました。

 

 昔からわたくしは包丁を持つと気分が高揚して料理が好きで好きで堪らなくなるのです。父ですら、わたくしのことを別人なのではと首を傾げます。

 

「こ、こいつ、嫌味がわからんのか!?」

 

「喜んで! ウチのお店のとっておきを出して差し上げますわ! お待ちになっていてくださいまし!」

 

「雰囲気が変わった?」

 

 わたくしはさっそく料理に取り掛かりました。

 卵をとにかく使って、そして美味しくて、何よりも楽しくなるようなそんな料理を――。

 

 食材は幸い豊富にあります。それなら――。

 

 

「卵を使ってメレンゲ? ふーん。スイーツを作って出すつもり? 発想は並ね……」

 

「全然違いますわ。もう少し待ってくださいね。お客様――」

 

 ミキサーを使って卵をクリーム状にしていると、えりなさんはスイーツを作るのかと尋ねたのでわたくしはそれを否定しました。

 

「――っ!? スイーツじゃない? 何を作るつもりなのよ!?」

 

「すぐにお解りになりますよ。ほら」

 

「そ、蕎麦!? ちょっと、あなた合格を諦めたの? 冗談じゃない! 甘い蕎麦なんて、付き合いきれないわ!」

 

 わたくしが用意していた蕎麦を彼女に見せると、突然彼女は機嫌を損ねました。

 恐らく、わたくしがゲテモノでも作るのかと勘違いされたからだと思います。

 仕方ありません。先に何を作るのか宣言しておきましょう。

 

「お待ちください! わたくしが作るメニューは魔法のお蕎麦です! えりなさんが恐らく召し上がったことがない、新しい食感のお蕎麦です!」

 

 わたくしは“食事処ゆきひらの裏メニューその88”を出すことに決めて料理を作っていました。

 それが、この魔法のお蕎麦です!

 

「うっ、本当に出来上がった蕎麦に――クリームをかけている……」

 

「最後に、刻んだネギと天かすをかけて出来上がりですわ! さぁ、おあがりくださいまし!」

 

 わたくしは完成したお蕎麦をえりなさんの前に出しました。

 この蕎麦の評価でわたくしが高校に行けるかどうかが決まります……。

 

 料理が完成して、わたくしは今更ながら緊張で腰が抜けそうになっていました――。

 果たしてわたくしは合格が出来るのでしょうか――?

 




次回あたりから百合展開を挟めればと思います。

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