【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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唐揚げ戦争の行方

「この商店街の前を通られる学生の皆様に唐揚げの最も美味しい食べ方で召し上がっていただくというのはいかがでしょう?」

 

「唐揚げの最も美味しい食べ方って?」

 

「そりゃあ揚げたてをすぐ食べるのがいちばんに決まってるだろーが」

 

 わたくしは先ずは学生さんにターゲットを絞り、彼らに唐揚げの1番美味しい食べ方――つまり、揚げたてを召し上がって貰うことを提案しました。

 このやり方で“もず屋”に対抗することが出来るかもしれないと思ったからです。

 

「にくみさんの仰るとおりです。しかし、“もず屋”の品は必ずしもそうではありませんの。電車で持ち帰るお客様のために匂いを漏らさないかっちりしたパッケージに入っていましたでしょう? 家で召し上がる事を前提に作られているのです」

 

「そりゃ、あんなきれいな駅ナカでむしゃむしゃ食べるわけにもいかねぇしな」

「そっか。フードコートみたいなものもないからテイクアウト専用なんだ」

 

 そう、“もず屋”の唐揚げは確かに美味しい……。しかし、持ち帰り前提に作られていますので、揚げたての美味しさは味わえないのです。

 

「商店街ならそんな縛りはありません。なんせ食べ歩きを売りにしてる商店街もあるくらいですから。揚げたて熱々にかぶりつくあの感じ……。皆さまにそれを味わって頂ければ……。その上、この辺りには小学校から大学までたくさんの学校があるのです」

 

「そうか! 総菜を家に持ち帰るいわゆる中食の土俵にのる必要はねぇ。こっちの地の利を生かすってことだな」

 

「さすがにくみさん! 正解ですわ! キーワードは食べ歩きの唐揚げですの!」

 

 わたくしの話を聞いて、にくみさんはこの商店街の地の利を利用して、食べ歩きが出来る“揚げたて”の唐揚げで勝負しようという意図を読み取ってくれました。

 

 嬉しくなったわたくしは彼女に飛びつきながら、にくみさんに正解だと伝えます。

 

「へへっ……、そ、ソアラさんめっちゃいい匂いする……」

 

「むぅ〜〜。アキから見たら私もこんな風に見えていたのかな……」

 

 これで方針が固まりました。あとはどんな品を作れば学生さんたちが良い反応をされるか……。

 何か良いアイデアは――。

 

「燃えてきた~! ソアラちゃん、僕も僕なりに試作してみるよ!」

 

 アイデアを練ろうと頭を働かせた瞬間に突如、商店会長さんの大きな声が響きます。

 彼はやる気に満ち溢れた顔をしていました。

 

「あら、商店会長さん。えっと、いつからいらっしゃいましたの……?」

 

「僕だって弁当屋の端くれだからね。みんなの力で絶対に“もず屋”を倒そう!」

 

 そして、彼は大いに盛り上がりながら、駆け足で試作品を作ると意気込みながら帰っていきました。

 

「大丈夫なのかよ、あの人……。すげぇ、意気込んで打席に立って、空振り三振する未来しか見えねぇ」

 

「商店会長さんのところのお弁当美味しいですから。腕は確かですわ。性格はちょっとおっちょこちょいですけど」

 

 商店会長さんのお弁当屋さん“とみたや”の弁当は何度も食べたことはありますが、いつも美味しくいただけました。

 ですから、きっと彼は良いアイデアを捻り出してくれると思います。

 

「じゃあ私たちもこの辺で……」

 

「たち? ああ、私はソアラさんのウチに泊まるからお疲れさん」

 

 夜も遅くなってきたので、真由美さんが帰ろうと口にするとにくみさんがウチに泊まると彼女に伝えました。

 

「ええっ! 水戸さん、ここに泊まるの!?」

 

「はい。にくみさんがその方が都合が良いと仰るものですから。わたくしと同じ部屋で寝ることになりますがよろしいんですの? 狭い家で申し訳ないのですが……」

 

 にくみさんは遠くからウチに来てもらっているので、泊まり込みで手伝ってくれると仰ってくれました。

 ここまでしてもらって彼女には感謝しかございません。彼女は社長令嬢のお嬢様できっと大きな家に住んでいるはずですのに……。

 

「も、もちろんだ! ぜ、全然気にならない。むしろその方が……」

「わ、私も泊まる! ても、いい? ソアラちゃん」

 

 にくみさんの返事と同時に何故か真由美さんもウチに泊まると大きな声を出しました。

 彼女からは何かとてつもない意志の強さを感じます。

 

「ふぇっ? でも、真由美さんは近所ですし」

 

「だって、久しぶりに会ったんだよ。なるべく長く一緒に居たいよ」

 

「真由美さん……」

 

「こ、こいつもやっぱり……」

 

 真由美さんは久しぶりに会ったわたくしと少しでも長く一緒に居たいと仰ってくださいました。

 そ、そこまでわたくしの事を……。やはり真由美さんは最高の友達です……。

 

「では、3人でお泊り会にしましょうか? 真由美さんは一度家に帰って準備してください」

 

「ありがとう! ソアラちゃん! じゃあ、準備してくるね」

 

 ということで、女子3人でわたくしの実家に泊まることとなりました。

 父も居ないですから、こういうお泊り会は気楽にすることが出来ます。最近、寮での生活に慣れてしまい、一人は寂しかったのでとても嬉しいですわ――。

 

 

 すぐに準備をして我が家に再びやって来られた真由美さんと、にくみさんを連れてわたくしはお部屋に案内します。

 

 にくみさんとわたくしは既に入浴を終えて、真由美さんも自宅でシャワーを浴びたと仰っていたので、あとは寝るだけみたいな感じになっております。

 

 しかし、ここに1つ問題が発生しました。それは……。

 

「ごめんなさい。父がとても大きなベッドを買ったせいで布団が1枚しか敷けませんの。ですから、ええーっと、誰かわたくしと同じベッドで寝ていただくことになるのですが……」

 

「「――っ!?」」

 

 そう、わたくしのベッドは父がお姫様用のベッドだからとか言って狭い部屋には似合わない特大ベッドになっているのです。

 ですから、スペースの関係上で布団が1枚しか敷けずにいて、どちらかがわたくしと同じベッドで寝てもらわないとなりません。

 

「す、すみません。嫌ですよね……?」

 

「わ、私が元々無理を言ったんだから、ソアラちゃんと」

「し、仕方ねぇな。ソアラさんの側近として私が一緒に――」

 

「「むっ……!」」

 

「あのう? えっと、お二人とも?」

 

 お二人にそんな事情を話すと彼女らは、何かを言いかけてジッとお互いを睨み合います。

 こ、これはどういう状況なのでしょうか?

 

「水戸さん、無理しなくて良いですよ。お嬢様と聞いていますから。ここは私がソアラちゃんと同じベッドで寝ます」

 

「わ、私はベッドじゃなきゃ眠れねぇんだよ。だから私がソアラさんと寝るぜ」

 

「まぁ、そうですの。でしたら、にくみさんが……」

 

 真由美さんが率先してベッドで寝ると言いましたが、にくみさんが体質的にベッドでなくてはならないと仰ったので、わたくしはにくみさんとベッドで寝ることにしようと口にしようとしました。

 

「そ、ソアラちゃん。そういえば、私も最近ベッドでしか眠れないの」

 

「あらあら、それは知りませんでした。うーん。それなら――にくみさんと真由美さんが同じベッドで寝ます?」

 

「「えっ?」」

 

 なんと、真由美さんもベッドが良いと仰ったのでお二人にベッドを譲って、わたくしが布団で寝ようと提案します。

 

「おい、お前のせいだぞ……」

「み、水戸さんこそ、ベッドでないと眠れないとか絶対に嘘です……」

 

「それとも、少し窮屈になりますが――みんなで同じベッドで寝てみますか?」

 

 しかし、お二人は気まずそうな顔をされました。

 考えてみれば、二人とも初対面ですから、同じベッドで二人きりというのは気まずいのでしょう。

 

 ですから、わたくしは窮屈になりますが3人揃ってこのベッドで寝ようと提案しました。

 

 そして、彼女たちはその提案に同意されましたので、わたくしたちは実際にパジャマに着替えて横になってみたのです。

 

「さ、3人で同じベッドなんて……、かなりデカいから、詰めれば眠れるけど……。ソアラさんとこんなにくっつくなんて……」

 

「水戸さんに対抗するつもりで、頑張ったけど……、これは……」

 

「あ、あのう……、お二人とも横向きで眠られるのですね。そこまで詰めなくてもスペースは……」

 

 わたくしが真ん中で仰向けになっていまして、右ににくみさん、左に真由美さんが寝ていらっしゃるのですが、お二人ともこちらを向いて横向きになっていました。

 顔をジッとお二人から見つめられると、少しだけ気恥ずかしいですね……。

 

「いや、すまねぇ。ソアラさん。私いつも抱き枕使ってんだけど、こうやってもいいか?」

 

「ええ、構いませんよ。にくみさんって、とても柔らかいですから、そうしてもらうと気持ち良いですわ」

 

「――っ!? なんかテンション上がって攻めて見たけど……、眠れそうにない……」

 

 にくみさんが胸をギュッと押し付けるように、わたくしの腕にしがみついております。

 彼女の柔らかな感触がパジャマ越しに伝わってきて、とても心地よいです。

 

「そ、ソアラちゃん。私もこうしても――良いかな?」

 

「は、はい。真由美さんとこうやって一緒に眠るのも久しぶりですね」

 

 そして、真由美さんももう片方の腕にしがみついてきました。

 温かな体温と彼女の甘い果実のような香りを近くに感じて懐かしい気もちになりました。

 

「う、うん。小学生のとき以来だね。ソアラちゃん……、ずっと私は――」

 

「真由美さん?」

 

「ううん。なんでもない……」

 

 こうしてわたくしたちは雑談もそこそこに、気付いたら眠りに落ちていました。

 こうやって、一緒に寝るとより一層絆が深まった気がしますわ……。

 

 

 そして、翌日になり――わたくしはにくみさんのアイデアを聞いて新しい唐揚げを作ってみました。

 

 

「わあっ! 今までのよりジューシーになってる!」

 

「“もず屋”が使ってるのは低カロリーで脂もあっさりしたむね肉だ。揚げたてのガツンとした美味さを出すならやっぱもも肉だって思ってさ。――フライドチキンを出す店でも子供人気が高いのはダントツでもも肉なんだ。これなら学生の食欲を刺激できるぜ?」

 

 新作の唐揚げはにくみさんの提案で“もず屋”のむね肉と差別化をはかり、もも肉で作ってみました。

 

 むね肉の方が原価も安く低カロリーで女性層には好まれるのですが、揚げたてのジューシーが引き立つのはダントツでもも肉です。

 

 味見役の真由美さんもかなり美味しくなったと絶賛してくれました。

 

「さすがミートマスターです。やはり、にくみさんに声をかけて正解でした」

 

「へへっ……」

 

 わたくしはにくみさんに手伝ってもらおうと考えて良かったと心から思いました。

 彼女は肉のスペシャリストで味から流通まで広い分野をカバーしてくださいますので心強い味方です。

 

「ソアラちゃ~ん! こっそり裏口から入らせてもらったよ」

 

「いえ、正面から堂々と入ってほしかったのですが……」

 

「完成したんだよ! “食べ歩く”というコンセプトにぴったりの品! “弁当のとみたや”の英知を結集した革新的メニュー! 見てくれ! これこそ――!」

 

 そんな中、商店会長さんが裏口からいらっしゃって、革新的なメニューを開発したと意気揚々と試作品を持ってこられました。

 いいタイミングです。この唐揚げを食べ歩きが出来て尚かつインパクトのある見た目のモノにすれば、商店街にとって起死回生の一手になるでしょう。

 

 さて、どんな品を作られたのでしょうか?

 

「唐揚げおにぎりだ!」

 

「「…………」」

 

「もうあるよこれ普通に」

「コンビニで見たことあります」

 

 商店会長さんが持ってこられたのは唐揚げおにぎりでした。

 しばらくの間、沈黙が流れてにくみさんと真由美さんは可哀相な人を見るような表情で、これが既存の品だということを彼に伝えます。

 

「恥ずかしい!」

 

「いえいえ、良いアイデアですわ。唐揚げプラスご飯の組み合わせは最高ですから」

 

「分かってくれるかい! ソアラちゃん! そうなんだよ! ご飯と唐揚げは最強のタッグなんだ! じゃあ早速、この唐揚げおにぎりを――!」

 

「あ、その、ええーっと。唐揚げおにぎりは止めておきましょう。その代わりに――」

  

 しかし、わたくしは商店会長さんの持ってこられたコンセプトは素晴らしいと思いました。

 そして、思い付いたのです。新しい唐揚げを……。

 

 それが、どんなメニューなのか皆さんに伝えて、さっそく明日から販売を開始する流れとなりました。

 駅ナカの快進撃に対してすみれ商店街が逆転出来るような商品になれば良いのですが――。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「す、すごい! たった3日でこんなに大盛況になるなんて」

 

 そう、新作の唐揚げの販売が開始されて3日が過ぎたのですが、商店街にはこの唐揚げを求めるお客様で賑わっておりました。

 

「しょうゆと一味唐辛子を中心にしたオリジナルの漬けダレに昼の間漬け込んだ大ぶりのもも肉――」

 

「にくみさん!」

「任せろ!」

 

 わたくしとにくみさんは連携して唐揚げを揚げます。

 もちろん外に美味しそうな匂いが流れるように工夫して人を呼び込みながら――。

 

 やはり食欲を刺激するには先ずは嗅覚からです。

 

「うわっこの匂いたまんねぇ!」

「早く食いてぇ!」

 

 揚げたての唐揚げの匂いに惹きつけられるようにドンドン人が集まってきます。

 

「そして一旦揚げて中までゆっくり熱を通し、()()()()()()表面をカラッとさせる」

 

「リーフレタスと数種類の香草を薄く焼き上げた特製生地で包む」

 

「さらに、ここからがソアラちゃんの得意技だ。僕はこの特製チリソースだけでも完璧だと思ったけど、なんとソアラちゃんは明太子マヨネーズや、ガーリックサワー、タルタルソース、クリームチーズなど、沢山のお客さんの好みに合わせられる10種類のディップを作った」

 

 そう、インパクトのある見た目で持ち歩ける唐揚げを考えた結果、わたくしはクレープやケバブのように生地で包むというやり方を提案しました。

 

 さらに、最初は特製チリソースで味付けをしてみて皆さんから合格点を頂いたのですが、辛い味が苦手な方もいらっしゃると思いましたので、別のソースも考えるようにしました。

 

 わたくしは、ついソース作りに熱中してしまい、様々なお客様の好みに合わせられるように10種類ほどのディップを作ったのです。

 

 これはかなり好評でした――。

 

「オレ、辛いの苦手だからクリームチーズにしよっと」

「私はピリ辛が好きだからチリソースで!」

 

「見栄えも良くなったし、飽きられないからリピーターも沢山来てくれている! ナイスアイデアだ!」

 

「あのう……、商店会長さん。解説はよろしいので手伝って頂けないでしょうか?」

 

 10種類の味があるので、すべての味を買うというお客様や別の味を試してみようというお客様も現れて、いい感じにリピーターが増えてくれたのも、この商店街が盛り上がる大きな要因になりました。

 

「ああ、ごめんごめん。つい嬉しくてさ。この“すみれ印の唐揚げロール”が大ヒットしたことがね」

 

「うお~! ずっしりしたボリューム感!」

「まだジュワジュワ音してる!」

 

「「美味ぇ〜~ッ!!」」

 

 商店会長さんは新商品の“唐揚げロール”が大ヒットしてホクホク顔をされておりました。

 わたくしも、自分が手がけた品が皆様を笑顔にすることが出来たのでとても幸せです。

 

「ソアラちゃん、そろそろ休憩したらどうだい? ずっと働き通しだろ? 揚げ場は僕に任せてくれ」

 

「あ、はい。それではお言葉に甘えて。にくみさん、お願いします」

 

「おう! 任せてくれ!」

 

 朝からずーっと唐揚げを揚げ続けていたわたくしを気遣って、商店会長さんが休むようにと声をかけてくださいましたので、わたくしは休憩を取ることにしました。

 

 おや、あの方は“もず屋”の中百舌鳥さんですわね……。

 

「あの生地は一体なんや……? クレープ? タコスに使うトルティーヤみたいなもんか? 得体が知れへん……」

 

「あ、あのう。お一つ召し上がりますか? 先日、試食させてもらいましたし……」

 

 中百舌鳥さんが、不思議そうに特製生地をご覧になっていましたので、わたくしは自分用で持ち出していた“唐揚げロール”を彼女に差し出しながら声をかけました。

 

「あ、あんたはこの前の小娘! い、いつから練っとったんや? この作戦」

 

「えっと、3日前ですの。必要なものの準備は全部商店街が一丸となって、一晩でしてくださいました」

 

「“唐揚げロール”とご一緒にキンッキンに冷えた生ビールいかがっすか~?」

「たい焼きも割引中よ!」

「冷たいラムネもあるよ~!」

「うちの新作も食べてみて!」

「デザートもサービス中!」

 

 そう、わたくしが新商品の案を出したその夜にすみれ商店街は一丸となり、この“唐揚げロール”に合わせた商品の販売方法を考えて、一夜の内に準備を終えました。

 

 わたくしたちの商店街にはまだこのような強い結束力が残っております。

 

「競争力も独自性もないとこなんか廃れて当然と仰っていましたが――ありますの。うちの商店街には大きな力が――」

 

「やかましぃや! そんな唐揚げがなんやっちゅうんや!」

 

「そんなこと言うならさ、おばちゃんも食べてみなよ!」

「やべぇからマジで!」

 

「なんやねんな! ――っていうか誰がおばちゃんや!」

 

「まぁまぁ、そう仰らずに――どうぞ一食おあがりくださいまし!」

 

 中百舌鳥さんが中々すみれ商店街の結束力を認めて下さらないので、わたくしはもう一度彼女にこの“唐揚げロール”を勧めます。

 

「くっ……、はむっ……。――っ!? こ、この生地、米粉や! そうかこれは“バインセオ”に近いものやったか……」

 

 中百舌鳥さんは、わたくしから素直に“唐揚げロール”を受け取り、口に入れるとハッとした表情になり、特製生地の秘密を見抜きました。

 

 そう、この生地は米粉を使っております。ご飯と唐揚げのコンビネーションが絶妙なら、米粉を使った生地に合わないはずがない。

 

 つまり、この品のコンセプトは――。

 

「“ホカホカの白ご飯とジューシーな唐揚げ”……、それがこの品のコンセプトかえ?」

 

「はい。そのコンセプトでいかに食べ歩きやすくて、見た目にインパクトをつけるか苦労しました」

 

 商店会長さんの唐揚げおにぎりの方向性は決して間違いではありませんでした。

 その方向性で考えて、さらに見た目のインパクトや食べ歩きやすさを追求した商品が、米粉を使った特製生地で包んだ“唐揚げロール”です。

 

「はむっ……、はむっ……、こ、この唐揚げが…この場所の空気が呼び起こす……、儲け、利潤、そんなものよりもはるかに輝かしい! こ、これは青春の味……!」

 

「お粗末様ですの!」

 

 

 この唐揚げロールのヒットを皮切りにすみれ商店街は活気を取り戻しました。

 真由美さんは“とみたや”さんでアルバイトを始められて、毎日忙しくなったみたいです。

 

「ソアラちゃん、私……、ずっと待ってるから――」

「真由美さん……」

 

 次に帰ったときは彼女にはもっと美味しいものを召し上がってもらいたい――わたくしももっと力を付けなくては……。

 

 

 それから、あっという間に連休も終わり、また遠月学園での生活が戻ってきました。

 食戟や宿泊研修で様々なトラブルもありましたが、しばらくは平穏な生活を送れるように祈りながら今日もわたくしは登校します。

 

 本当にトラブルには遭いたくない……。そう願っておりましたのに――。

 

「来たか」

 

「あ、はい。失礼ですが、どちら様でしょうか? 編入したてで、先輩方のお名前を覚えておりませんの」

 

 ある日、わたくしは知らない先輩に呼び出されました。そして、言われた場所に訪れるとオールバックのメガネをかけた怖そうな先輩がわたくしを睨みつけておりました。

 

「遠月十傑第九席。叡山枝津也だ。幸平創愛、俺の下につけ」

 

「ふえぇぇぇ〜〜っ!?」

 

 先輩はわたくしに下につけとか、よくわからないことを仰る。

 なにか、猛烈に嫌な予感がするのですが……。

 

「状況が飲み込めんか。仕方ねぇ、順を追って話してやろう。――“すみれ印の唐揚げロール”なかなか面白い品だったぜ。実はな、“もず屋”の東京進出をプロデュースしたのは俺だ」

 

「――っ!?」

 

「“もず屋”だけじゃない。中等部の頃から500を超える店のフードコンサルティングをして成功に導いてきた。お前が商店街を立て直した顛末は聞いている。おかげで俺の戦略は台なしだ」

 

「えっ? いや、その、申し訳ありません。先輩のビジネスを邪魔とかそういう気は一切なくて――」

 

 どうやら、叡山先輩は“もず屋”のコンサルティングをされていたようで、それをわたくしが邪魔をしたと受け取られたみたいです。

 まさか、遠月学園の方が関わっていたとは――。

 

「あー、わかってる。わかってる。別にお前を取って食おうって話じゃねぇ。俺の下につけ。そうすりゃあ一生食いっぱぐれないようにしてやる」

 

「は、はぁ。それはありがたい申し出なのですが――」

 

「乗らねぇってことか? なんか理由はあるのかよ」

 

「と、特に理由は無いのですが……、今のままでわたくしは満足してますので、先輩の下について何かをしようとか考えられませんの」

 

 こんな得体の知れない方に関わりたくなかったわたくしは、何とか穏便にことを済ませようと返答をしました。

 コンサルタントとか特に興味がありませんし、わたくしは“ゆきひら”で料理が作れれば十分ですので……。

 

「ちっ、志の低い奴だ。チンケな店に生まれてスケールも小さくなっちまったんだな」

 

「わたくしのことはどう思って頂いても構いませんわ。せっかくのお誘いをお断りして申し訳ありませんでした」

 

「なんだ、言い返さないのか? 思った以上のヘタレ女じゃねぇか。教えといてやる。お前は“秋の選抜”に選ばれた」

 

「せ、選抜にわたくしが……」

 

 勧誘をあっさりと止めた先輩は急にわたくしが“秋の選抜”に選ばれたという話をされました。

 それは光栄な話ですが、どうしてそんな話をされたのでしょう?

 

「特に薙切と一色がお前を推していたな。だが喜ぶのはまだ早い。この選抜でお前の成り上がりはおしまいだ。俺のキャリアを汚したヤツは許さねぇ」

 

「ひぃっ……」

 

「人は俺をこう呼ぶ。錬金術士(アルキミスタ)! ――最高の舞台でお前を叩き潰してやる!」

 

 叡山先輩はわたくしのことを恨まれているみたいです。そして、選抜でわたくしを潰すと断言しました。

 どうして、わたくしにはこんなにトラブルばかり続くのでしょうか?

 はぁ、胃が痛いですわ――。




結局ね、何が描きたいって添い寝シーンだったわけですよ。
今後もスキあらば添い寝させたい作者です。
次はもっと濃厚に描写したいと思ってます。
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