【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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夏休みの過ごし方

「選抜まで1ヶ月ちょっと、葉山君みたいな人に対抗できるメニューを考えるなんて一朝一夕じゃとても追いつけないよ~!」

 

 極星寮の厨房に戻ってきたわたくしと恵さん。恵さんは葉山さんのカレーを食べて焦りを感じているようです。

 彼女のアワアワしている動作は可愛らしいですわ。

 

「葉山さんの鋭敏な嗅覚には驚きました。ですから恵さんが焦る気持ちもわかります。しかし、彼が素晴らしい料理人ということとわたくしたちが焦ることは全くの別問題ですよ」

 

「なしてそんな……。だって選抜だよ。負けないような凄い料理を作らなきゃ」

 

「出した品が良い物か悪い物かは結果に過ぎません。わたくしたちは料理人です。自分なりに美味しいと喜んでもらえるような一品を作る――それだけを考えれば良いんです」

 

 わたくしたちが考えるべきは少しでも美味しいモノを召し上がってもらう為にはどうすれば良いかということだけです。

 もちろん選抜を勝ち抜くことは大事ですが、それは結果に過ぎない。料理人がすべきことは一品に雑念を捨てて没頭することだとわたくしは思っています。

 

「でも、私なんかが……」

「恵さんは優れた料理人ですよ。最初に出会ったときから、ずっと」

 

「そ、そんなことない。私は落第寸前で、この寮に入るのだって――」

 

「自信の持ち方はわたくしも知りたいくらいですから、アドバイスを差し上げることは出来ませんが、わたくしは恵さんのお料理が大好きです」

 

 わたくしも恵さんと同じで自信が持てません。もうダメだと思ったことは何回もあります。

 でも、わたくしは彼女の料理が大好きですし、力強い品を作る彼女の力は信じられます。

 

「――っ!? いつもソアラさんはそうやって……、ズルいよ……」

 

「それにわたくしだけじゃないですよ。恵さんの力を分かっている人は。どうしようも無くなったときにそれだけは思い出してみてください」

 

「う、うん。ありがと……」

 

 恵さんが料理人として優れているということは、新参者のわたくしだけでなく極星寮の方々なら誰でも存じています。

 彼女にはどうかそれを知っていてほしいとわたくしは思いました。

 

「しかし、もうじき皆さんは実家に帰られますからこの寮も寂しくなりますね」

 

「そっか、ソアラさんのところは城一郎さんが……」

 

「はい。“ゆきひら”に戻っても誰もいませんから。こっちで頑張ります」

 

 寮生たちは一色先輩を除いて皆さん実家に帰られると聞いています。

 わたくしは実家に誰も居ませんから、ここに残ってカレー料理の研究を頑張るつもりです。

 

「ソアラさん。じゃあ……、あの、ウチの実家に来てみない?」 

 

 そんな話を恵さんにすると、彼女はわたくしに自分の実家に来ないかと誘われます。

 それは非常に嬉しい申し出ですが……。

 

「ふぇっ? め、恵さんのご実家ですか? 恵さんのご実家は確か旅館でしたっけ? このシーズンにそれはご迷惑なのでは……」

 

「よく母が友達を連れてきてって言ってたから。ソアラさんさえ良ければ、私は来てほしいな」

 

「そ、そうですか。ご迷惑でないのでしたら、是非ともお邪魔させてください」

 

「うん!」

 

 恵さんの所がご迷惑ではないと仰るので、わたくしは彼女の誘いに乗って、東北にある彼女の実家に一緒に向かうことになりました。

 失礼のないようにしなくては……。ううっ、ちょっと緊張してしまいます。

 

 

 それからスパイスの研究などをしているとあっという間に8月になり、わたくしは恵さんと共に彼女の地元へと足を踏み入れました。

 

 

「おう! 恵じゃねぇか!」

「聞いたべ! でっかい大会の選手に選ばれたってよぉ」

「さすが俺らの希望の星だない!」

 

「もうやんだ~」

「恵さん、大人気ですわね」

 

 恵さんの地元の漁師さんたちは彼女の帰還を喜んでこちらに駆け寄って来られました。

 どうやら彼女は地元の期待を一身に受けておられるみたいです。

 

「恵、そっちのめんこい子は友達が?」

「都会の子を連れで帰るどは恵もやるなー」

 

「そ、そだのでねぇって」

 

 雑談をしていると、1台の自動車が止まって中からとても綺麗な女性がこちらに声をかけてきます。

 

「恵! おかえりなさい。そちらの方がお友達の――」

 

「はい、幸平創愛です! す、すみません。お忙しいところ、お呼ばれしてしまい……」

 

 綺麗な女性は恵さんのお母様でした。お姉さんだと思うくらいお若く見えるのですが……。

 わたくしは緊張しながら挨拶をします。

 

「ふふ、恵が言っていたとおりの方ですね。恵がいつもお世話になっていると聞いています」

 

「ふぇっ!? いえいえ、わたくしなんて全然そんなこと! むしろ、右も左も分からないわたくしの方が恵さんには色々と教えていただいております」

 

「何もないところですが、ゆっくりしていってください」

 

 恵さんのお母様は笑顔でわたくしを迎え入れてくれました。

 しかし、わたくしは恵さんのお世話などしたことございません。どのように伝わっているのでしょうか……。

 

「め、恵さん。わたくしのことをどう説明してますの?」

 

「えっ? そのまま伝えてるけど。合宿のときもいつもソアラさんには助けてもらっていたから」

 

「恵ったら、自分のことみたいにソアラさんのことばかり自慢しているのよ。すごい人とお友達になれたって」

 

 恵さんはお母様に等身大以上にわたくしのことを伝えているみたいです。

 

「恵さん、困りますわ。わたくしなど定食屋のことしか分からない女ですのに」

 

「だから凄いんだよ。私ももっと頑張れるって思えたから」

 

 恵さんはわたくしの抗議を聞き流して微笑んでおりました。ただの定食屋の娘であるわたくしが少しでも彼女の為に何か出来ているなら光栄なことですが……。

 

 恵さんのご実家の旅館に到着し、わたくしは彼女に自分の部屋まで案内されました。

 今日から数日ほどこの部屋で二人で寝泊まりします。

 

「ここが恵さんのお部屋ですか。素敵なお部屋ですね」

 

「ちょっと恥ずかしいな。じゃあ私は厨房を手伝って来るからゆっくりしてて」

 

「では、わたくしも手伝わせてもらってもよろしいですか?」

 

 恵さんが厨房を手伝うと仰るので、わたくしも手伝いたいと申し出ました。

 彼女の部屋で一人でくつろぐのは気が引けますし、恵さんの仕事にも興味があるからです。

 

「えっ? で、でもソアラさんはお客さんだし……」

 

「毎日、包丁を握っていないと落ち着かないので……。お邪魔でないなら……」

 

「うーん。じゃあ、お願い。付いてきて」

 

 恵さんはわたくしの我儘を聞いてくださり、厨房に案内してくれました。

 これが旅館の厨房ですか……。当たり前ですが、定食屋よりもずっと賑やかです。

 

 

「ここをこうして、これで完成」

 

「見事な手際ですね。こうですか?」

 

「すごい。一度見ただけなのに」

 

「恵さんの教え方が上手いからですよ。では、恵さんのサポートをさせて頂きますね」

 

「うん!」

 

 恵さんの繊細で丁寧な手際を見様見真似で覚えたわたくしは彼女のサポートに回ります。

 こうやって恵さんのお手伝いをすると、この前の合宿での四宮シェフとの食戟を思い出しますね……。

 

「ソアラさん!」 

「はい! こっちは終わりました!」

 

「驚いたわ。上手になってるだけじゃなくて、こんなに早くなっているなんて。二人とも息がぴったりなのね」

 

 しばらく二人で仕事をしていますと、恵さんのお母様がわたくしたちの仕事を褒めてくださいました。

 息をきちんと合わせることが出来れば、一人でするより2倍以上のスピードで作業することが出来ます。恵さんとは波長が合うので一緒に作業がしやすいのです。

 

「ソアラさんがサポートしてるからだよ。私なんてまだまだ」

 

「いえ、わたくしは恵さんの動きに合わせているだけですよ」

 

 わたくしたちは楽しみながら、互いを感じ合い作業に没頭しました――。

 

 

「お客様にこんなに手伝わせてしまって、ごめんなさい」

 

「そ、そんな。わたくしこそ、ご無理を言ってしまい申し訳ありません。良い経験が出来ました」

 

「ソアラさん、夕食を作ったの。一緒に食べよう」

 

 お仕事が終わって恵さんのお母様としばらく雑談をしていると、恵さんがわたくしに夕食を作ってくださり、それを持ってきてくれました。

 これは鍋物ですね。しかし――。

 

「まぁ、これは――お魚ですか? あまり見慣れない食材ですわね」

 

「えっと、これはどぶ汁って言ってね。あんこうの鍋物なんだ〜」

 

「あんこう? あんこうってあの……。確か、捌くことが凄く難しいって聞きましたが……、これは恵さんが捌かれたのですか?」

 

 見慣れない食材について話を聞くと恵さんはあんこうだと答えてくれました。

 あんこうは吊るして捌くと聞いたことはありますが、かなり高度な技術が要求されて出来る方が少ないとも聞きます。

 

「捌ける人が居なくなっちゃいそうだったから。小さい頃に覚えたの。苦労したけど、みんなが喜んでくれたから良かったよ……」

 

 なんと、恵さんはそれを小さい時に覚えたと答えられました。

 やはり彼女は強い心を内に秘められている方です。

 

「いただきます……。はむっ……、――っ!? お、美味しい……、です。そして何より恵さんの優しさや力強さが伝わる味です。あんこうの肝のコクがお味噌とマッチして何とも言えない深みを生み出していますね。お野菜とも相性が抜群で」

 

 恵さんのお料理は彼女らしさが詰まっていました。食べるだけで癒やされて、優しい気持ちになれるようなそんな味です。

 

「ソアラさんにだけ話すけど、これをカレー料理に出来ないかと思ってるの」

 

「こ、これをカレー料理に……? なるほど。スパイスをこのコクのあるスープと合わせるわけですね。非常に面白い発想だと思います。さすがは恵さんです! もう、“秋の選抜”の品を思いついていたのですね!」

 

「えへへ……」

 

 恵さんは着実に一歩ずつ前進しておりました。彼女はきっと“秋の選抜”で良い結果を残すと思います。

 わたくしも負けていられません。頑張らなくては――。

 

 そして、夜も遅くなり恵さんの部屋でわたくしも一緒に横になります。

 

「今日はありがとうございます。恵さんのお料理が食べられてとても嬉しかったです」

 

「ソアラさんに地元の味を食べてもらいたかったから」

 

「まぁ! では、わたくしのために心を込めて作ってくださったので、あれほど美味しかったのですね」

 

 恵さんがわたくしの為に心を込めて作ってくださったお料理は特別に美味しかったです――やはり、作る方の感情が入っている品というモノは輝いております。

 

「何か不思議だね。寮とか合宿とか一緒に寝泊まりするのは珍しくないのに。ソアラさんが実家にいると思うと……、ドキドキする……」

 

「ちょっとだけ、そちらに行っても良いですか?」

 

「へっ? あ、うん……」

 

 わたくしは恵さんの入っているお布団の中に移動して彼女を抱きしめました。

 自分もお友達の家に行って緊張してましたが、こうすると気分が落ち着きます。

 

「一緒のお布団に入っちゃいました。ふふっ……、恵さんとこうやってくっつくと安心します」

 

「ううっ……、ソアラさんの吐息が当たって……」

 

「最初の授業で初めてお話したときのことを思い出します。こんなに温かくて優しい方が同じ学園に居るなんて思いませんでしたから」

 

 遠月学園に入学して、ギラギラした怖そうな方が多い中で優しく接してくれた恵さんのことは特に印象的でした。

 彼女が居たから最初の授業も上手くいったと思っています。

 

「い、今だから言うけどね。私、最初はソアラさんと関わりたくなかったの」

 

「ふぇっ? は、初耳ですわ……」

 

 そんなことを話すと、恵さんはわたくしと最初は関わりたくなかったと告白しました。

 ええーっと、それは聞いてなかったです。何か悪いことをしたのでしょうか?

 

「退学がかかっていて……、私は自分勝手だから……、知らない編入生のソアラさんが怖くて……、でも……、ソアラさんはそんな私を優しく助けてくれて。料理が楽しいってことを思い出させてくれた」

 

「そうでしたの。今はでもこうやって仲良くなれたのですから」

 

「うん。あのね……、私、あの日からずっと憧れていたんだよ。ソアラさんのこと」

 

 思い出を話しているとふと、恵さんがわたくしに憧れていると口にします。

 わたくしのような者にそんな感情を持つというのは想像できないのですが……。

 

「あ、憧れ……、ですか?」

 

「だって私と同じくらい気が弱いと思っていたら、調理が始まった途端に人が変わったようにかっこよくなるんだもん」

 

「そんなこと――」

 

 確かに調理をするときは特に気合いを入れておりますから、人が変わるとは良く言われますが、カッコいいとまでは言われたことはないです。

 恵さんがそんなふうに思っていてくれていたなんて……。

 

「私、楽しそうに料理をしてるソアラさんが好きなの……」

 

「そうですか。私も恵さんのお料理しているところ、好きですわ。うふふ……、両想いですわね」

 

「――っ!? もう後戻り出来ねぇがも……」

 

 こうして、数日間恵さんのところでお世話になりました。

 定食屋の厨房しか経験したことがなかったわたくしにとって、こちらでの経験は大きな力になったような気がします。

 

 

「すみません。こんなに長くお世話になってしまって」

 

「ううん。厨房のみんなもソアラさんのおかげで大助かりだって言ってたよ」

 

「これからも恵のことよろしくお願いします」

 

「はい! では、恵さん。先に極星寮に戻って皆さんをお待ちしておりますわ」

 

 そしてわたくしは一足早く極星寮に戻り、新作のカレー料理の研究に没頭しました。

 みなさんが楽しんで美味しく召し上がれるようなそんな品を――作ることが出来ればいいのですが――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 さて、それからさらに月日は流れ9月になり、いよいよこの日が来てしまいました。

 

「いよいよ、“秋の選抜”の日が来てしまいましたわ……。寮に帰ってからはひたすら徹夜で頑張ってみましたが……」

 

「ソアラさーん! 私とソアラさんで選抜を制して、派閥の勢力を一気に拡大させてやろうぜ」

 

 選抜された皆さんは開会式の会場に集められ、にくみさんがわたくしに気付き声をかけてくれました。

 久しぶりにお顔を見ますが、相変わらず“派閥”のお話をされるのですね……。

 

「にくみさん。元気そうで何よりです。同じAブロックですから、どんなカレーを作られるのか見れるのが楽しみですわ」

 

「さすがソアラさん。予選くらいは余裕ってことか!? そりゃあそうだよなー」

 

「いやいや、そういうことじゃ……」

 

 にくみさんはわたくしの言葉を変な風に取って持ち上げますが、決してそういった意味ではありません。

 集まった皆さんがどんな品を出すのか、それが今日の楽しみの一つだということです。

 

「指にかすかにスパイスの香りが染み付いている。それなりにやり込んできたみたいだな」

 

「ふえっ!? クンクン……、そんなに匂いますかね?」

 

 葉山さんが後ろからわたくしに声をかけて、スパイスの香りが指についていると指摘しました。

 ほ、本当ですか? きれいに洗ったはずですが……。

 

「おい! てめぇ、ソアラさんの指の匂いを嗅ぐとか変態か!?」

 

「いや、俺は別に……」

 

「にくみさん、葉山さんは変態ではありませんわ」

 

「そ、そっか。悪かったな」

 

「もういい。俺が悪かった……。あとは皿で語るとしよう」

 

 にくみさんの迫力に押されて、葉山さんは何とも言えない表情で去っていきました。

 何か悪いことをしてしまったような気がします……。

 

「ソアラさん。久しぶり! 俺はBブロックだから今日は別々だけど、本戦で会えることを祈って――」

 

「まぁ、もしかしてイサミさんですか? 随分と雰囲気変わりましたね」

 

「やぁ、幸平さん。夏バテしちゃって、少し痩せちゃったんだ。もう体調戻ったから大丈夫だよ」

 

 タクミさんとイサミさんがこちらに来られ、見た目が大きく変化したイサミさんにわたくしは目を奪われました。

 夏バテだと仰ってますが、たった一月で身体つきが変わっても大丈夫なものなのでしょうか……。

 

「い、イサミ。今、俺がだな……」

 

「あ、兄ちゃん。続きをどうぞ」

 

「コホン! 本戦では……」

 

 そして、タクミさんが何かを話そうとした瞬間に会場は急に真っ暗になってしまいました。

 停電でしょうか? それとも――。

 

「ご来場の皆様長らくお待たせいたしました。前方のステージにご注目ください。開会の挨拶を当学園総帥薙切仙左衛門より申し上げます」

 

 司会をされている川島麗さんの声により、今から開会式が始まることがわかりました。

 壇上には総帥であるえりなさんのお祖父様――薙切仙左衛門さんが立っております。

 

 あら、咳き込んでいますが大丈夫でしょうか……。

 

「この場所の空気を吸うと気力が心身に巡ってゆくのが感じられる……。当会場は通称・月天の間! 本来は十傑同士の食戟でのみ使用を許される場所。歴代第一席獲得者へ敬意を込め肖像を掲げるのも伝統となっている!」

 

「数々の名勝負と数々のスペシャリテがここで生まれた! だからこそここには漂っているのだ澱のように連綿と続く戦いの記憶が!」

 

「そして秋の選抜本戦はこの場所で行われる。諸君がここにまた一つ新たな歴史を刻むのだ! 再びこの場所で会おうぞ! 遠月学園第92期生の料理人たちよ!」

 

 仙左衛門さんはわたくしたちを激励して、ついに“秋の選抜”が開始されました。

 ここまで、準備は自分なりに進めて来ましたが、いざ本番となるとやはりドキドキします。

 

 えりなさんとの約束を果たすために頑張らなくては――。

 




恵の実家でいちゃいちゃしたいだけのお話。
彼女はBブロックなので掘り下げられませんからねー。
予選はいろんなキャラが出てきますが、その辺は大体カットしますので多分あっさり終わります。
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