【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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薙切えりなと幸平創愛

「この見た目……、エスプレッソのように泡が蕎麦を覆っている。確かにこのような見た目の蕎麦は食べたことがない。それに、クリームからは甘ったるい匂いも全くしない。むしろ、香ばしくて――。はっ――!?」

 

 えりなさんは魔法のお蕎麦の入った器をジッとご覧になっていました。

 最初は嫌な顔をされていたえりなさんでしたが、彼女はだんだん蕎麦に興味を持っているように見えました。

 しかし、このままでは――。

 

「あのう。差し出がましいのですが、お蕎麦が伸びない内にご試食をお願いします」

 

「分かってるわよ! ひ、一口だけ、一口だけ味見して差し上げます!」

 

「はひっ!? ご、ごめんなさい。ありがとうございます……」

 

 わたくしが遠慮がちに試食を勧めますと、彼女は少しだけ頬を桃色に染めて、一口蕎麦を試食すると言ってくれました。

 よかった……。召し上がらないと仰るかもしれないと思いましたわ……。

 でも、えりなさんが大きな声を出しましたので、心臓が飛び出しそうになりました。もっと度胸が付けば良いのですが……。

 

「さっきまでと全然感じが違う……、調子が狂うわね……。まぁいいわ。――クリーム入りの蕎麦なんて美味しいはずが……、ちゅるっ……」

 

 えりなさんは箸できれいに蕎麦をつまみ、それを小さな口へ運んで上品に私の料理を召し上がります。

 大丈夫……。きちんといつもどおり作れたはず……。

 

 わたくしはドキドキしながら、彼女が試食する様子を見守っていました。

 

「――っ!? んっ、んんっ……! 口当たりはメレンゲ、舌触りはクリーム……! 食べた瞬間に溶けてなくなっている繊細な食感……。なのに、しっかりとした芯の強い旨味が、まろやかな卵と共に、濃厚なコクを生み出している! これは、ただのクリームじゃない……!? ちゅるっ……」

 

 彼女は早口で私の魔法のお蕎麦の感想を口にしました。その表現は的確に特徴を捉えており、一口しか食べていないにも関わらず、クリームにコクと旨味の秘密があることまで見抜いてしまいます。

 やはり、皆さんがすごいと仰るとおり、この方の舌は神が宿っているみたいです。

 

「まぁ……」

 

「――はっ!? た、確かに一口って言ったけど、そんな変な顔しなくても良いじゃない。嫌味な子ね」

 

「えっ!? いや、その、そちらではなくてですね、一口だけでそこまで分かってしまうことに驚きましたの」

 

 わたくしが感嘆の声を上げたことを嫌味と捉えられてしまいましたので、慌ててわたくしはそのような意図はなかったと弁解をしました。

 そういえば、一口だけと仰っていましたわね……。

 

 それならば、もう一口召し上がったということは期待してもよろしのでは? わたくしはえりなさんの一言で少しだけ魔法のお蕎麦に自信が持てる気がしました。

 

「そ、そう? なら良いわ。――あなたがこのクリームに混ぜたモノそれは……、納豆ね……」

 

「正解ですわ。さすが、えりなさんです。すぐに魔法のタネがバレちゃいました……」

 

 そして、えりなさんはたったの二口だけであっさりとわたくしの蕎麦の秘密を看破しました。

 納豆の匂いが出ないように工夫しましたのに……。簡単に見抜くなんて……、やはり只者ではございませんわね。

 

「蕎麦と出汁の風味は完璧に近い……、そしてその風味を損なわずにボリュームを出すためにまさか納豆と卵を混ぜてクリームを作ってかける……。これで、こんなに上品な味付けになるなんて……。どうしたら、そんな発想が……」

 

 えりなさんはわたくしのアイデア自体には好感を持ってくれたらしく、どうしてこの発想が生まれたのか興味がありそうでした。

 

「それは、恥ずかしながらウチが小さな定食屋だからですわ。ウチは高級料亭みたいに高い食材が使えないのです。だから、考えますの。どうやったら、安くて美味しいモノが作れるか。一生懸命に……」

 

 わたくしはえりなさんの疑問に答えました。“食事処ゆきひら”は確かに小さな定食屋です。

 ですが、わたくしはいつも想っています。たとえ安くとも食べに来てくれた皆さんには美味しくて、そしてお腹がいっぱいになってほしいと……。 

 

 この魔法のお蕎麦もどうにか安くて美味しい上に、満足していただけるボリュームを提供できるように考えた結果、カルボナーラをヒントにして生まれたメニューです。

 

「随分、楽しそうに話すのね。お金がないことがそんなに楽しいの?」

 

「ふふっ、まさか。わたくしが楽しいのはお客様の美味しかったという表情(かお)を見させて頂くことですわ。今のえりなさんのような……」

 

 えりなさんがお金がないことを楽しそうに語ると誤解をされたので、わたくしはそれを訂正しました。

 

 お客様が「美味しかった、また来るよ」と仰ってくれたときの顔が見たくてわたくしは料理を作っています。だからこそ、料理することがわたくしは楽しくて仕方がないのです。

 

「――っ!? わ、私はまだ……、何も……」

 

「ごめんなさい。お気を悪くしないでくださいまし。ただ、わたくしが今のえりなさんのお顔をとても愛らしく、素敵だと思っているだけですから……」

 

 彼女の愛らしい天使のような顔を見て、わたくしは早まってフライング気味に合格をもらっていた気になっていたので、それを正直に伝えて謝罪しました。

 

 えりなさんの食事をされている時のお顔はとても可愛らしく、思わず見惚れてしまうほどでした。

 

「あ、愛らしい? ――はっ!? し、審査を続けます。ちゅるっ……、ちゅるちゅる……。んっ……、あんっ……、んんんっ……、んっ……」

 

 愛らしいと言われたえりなさんは顔を真っ赤にして照れていました。その恥じらう感じもとてもいじらしくてわたくしの心は鷲掴みにされてしまいます。

 

 そして、彼女は審査を続けると仰って、なんと魔法のお蕎麦を完食して下さいました。

 それがあまりに嬉しくて、“お粗末様ですわ”と心の中でわたくしは叫んでおりました。

 

 

「そ、それで、審査の方は……、わたくしのお蕎麦は美味しかったですか?」

 

「えりな様……」

 

 さて、完食をされたということは審査が終了したということ。

 わたくしは恐る恐る、えりなさんに合否を尋ねました。彼女のお友達も不安そうな表情でえりなさんを見守っています。

 

「…………しかった」

 

「はい?」

 

「――まぁまぁ、美味しかったわよ。だから、ギリギリ合格ってとこね。メレンゲの作り方もまだまだ雑だし、蕎麦の硬さもなってないわ。アイデア一本勝負って感じで……、でもそのセンスは悪くない。これから頑張りなさい」

 

 えりなさんは技術的な面には問題はあるけど、発想力は悪くないとしてくれて、ギリギリ合格点を与えて下さいました。

 ああ、どうにか合格できました。ありがたいことです。

 

「まぁ! ありがとうございます。えりなさん! これからよろしくお願いしますわぁ!」

 

「ちょ、ちょっと、あなた! は、離れなさい!」

「えりな様ぁ! き、貴様! えりな様に気安く……! 許せん!」

 

 わたくしは感極まって、えりなさんをギュッと正面から抱きしめました。ああ、えりなさんの髪からいい匂いがします。

 それに柔らかくて、とても抱き心地が良いですわ……。

 

 しかしこれがいけなかったのか、えりなさんが、というよりも、お友達の方が必死の形相でわたくしを引き剥がしてきました。

 あら、わたくしったら、馴れ馴れしくしてしまいましたわ……。

 

「も、申し訳ありません。つい、感情が高ぶってしまいまして……。不快な思いをされましたか?」

 

「――うっ! べ、別に嫌ではないわ。驚いただけよ……」

 

 わたくしはえりなさんにいきなり抱きついて不快になられたのではと質問すると、彼女はまた顔を赤く染めてプイとそっぽを向きました。

 よかった。嫌われてはいないみたいです。

 

「そ、そうですか。あの、それで私のお蕎麦はどうしたらもう少し美味しくなるのでしょう?」

 

「貴様! えりな様が軽々にアドバイス――」

「茹で時間だけど――。あっ……」

 

 わたくしは魔法のお蕎麦をさらに美味しくするにはという質問を彼女にすると、お友達の方がアドバイスに応じる時間がないと指摘しました。

 やはりお忙しい方なのですね。これは、不躾なことをしてしまいました。

 

 それでも何とか答えようとしてくださる、えりなさんはお優しい方です。

 

「…………では、またの機会にお聞かせくださいまし。お忙しい方だということを失念しておりましたわ」

 

「そ、そうね。暇なときなら教えて差し上げてもよろしくてよ」

 

 えりなさんはお暇なときに、料理のアドバイスをしてくださると仰ってくれましたので、わたくしはとても嬉しい気持ちになりました。

 やはり、この方は興味深い方です。この学園に来て良かったと思えるくらい……。

 

「はい。では、最後に1つだけお願いがあるのですが……」

 

「お願い?」

 

 だから、わたくしはえりなさんに1つだけお願いごとをしようと口を開きました。

 

「わたくしを、えりなさんの――」

「まさか、えりな様の付き人になりたいなど、恐れ多いことを言うのではあるまいな!」

 

「そうなの? 幸平さん。まぁ、これからの頑張り次第で考えなくも……」

 

 お友達の方がわたくしがえりなさんの付き人になりたいと言おうとしたのと勘違いをされたので、えりなさんも変な反応をされてしまいました。

 

 ええーっと、学生同士なのに付き人とかいらっしゃるのですか? この学校は……。

 なんか、相撲部屋みたいですわね……。

 

「付き人? いいえ、えりなさんのお友達になりたいと思いまして」

 

「と、友達?」

 

「はい! だって、お料理のこと詳しいですし、美味しいモノを食べているときの顔がとぉっても可愛らしいんですもの」

 

 わたくしはえりなさんに友達になりたいと伝えました。

 料理の試食をしてくれる友達はいましたが、深いことを話せる友達は今まで居なかったので是非とも親交を深めたかったのです。

 

 それに、食べているときの顔がとても可愛らしくて、魅力的でしたし……。波長も合いそうでしたから……。

 

「か、可愛い? わ、私が?」

 

「とても、可愛いらしい方ですよね? えりなさんって……」

 

「えっ? なぜ私にそれを聞く? それは、まぁ、えりな様はお美しいが……」

 

 照れて顔を真っ赤にするえりなさんを尻目に、わたくしがお友達の方に同意を求めると、彼女もわたくしの意見に同意してくれました。

 

「あなたまで……!?」

 

「い、いえ、違うんです。き、貴様が変なことを言うから……!」

 

「ダメですかぁ? ぐすん……」

 

 えりなさんとお友達の方のやり取りをみて、わたくしはもし断られたらどうしようと、急に不安になり泣きそうになってしまいました。

 

「だ、ダメだなんて言ってないわ……、す、好きにしたら良いじゃない」

 

「わぁい! ありがとうございます! 不束者ですが、これからよろしくお願いします。ソアラと呼んでくださいまし」

 

「だから、なんで抱きつくのよ? もう……、仕方ない子ね……」

 

 えりなさんは友達になることに同意して下さり、わたくしは堪らず彼女に抱きついてしまいます。

 すると、今度は彼女はそんなわたくしを受け入れて、背中を叩いてくれました。

 

「う、受け入れたぁ!? そ、そんな……。おのれ、幸平創愛め……!」

 

 そんなわたくしの背中に何やら恐ろしい視線が突き刺さったような気がしますが、あまり気にしないようにした方が良いのでしょうか?

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「この学園の99%は残りの1%の玉を磨くための捨て石である! その1%に君がなるのだ! ここから、試されるのはその気概である!」

 

 遠月学園の総帥である薙切仙左衛門さん。老人なのにも関わらず筋骨隆々で逞しい彼は新学期の挨拶でそんなことを仰っていた。

 父は10%とか言ってましたが、なんか1%になっているんですけど……。というか、あの方の言っていること厳しすぎではないでしょうか? 自分の周りの方が捨て石だなんて、思いたくありませんわ……。

 

 それにしても、最初に高等部に進学した生徒の代表としてスピーチをしていたえりなさんは格好良かったです。わたくしもえりなさんに負けないように頑張らなくては……。

 

 ちなみにこれから編入生としてわたくしもスピーチをしなくてはならないらしく、わたくしは舞台袖でガチガチに緊張しながら時が来るのを待っています。

 なぜ、人前で話さなくてはなりませんの……? 先生が軽く紹介してくれれば良いではありませんか……。

 

「緊張してるの?」

 

「えっ、えりなさん? は、はい。もう、声が震えてきちんと喋れるか自信がありませんわ」

 

「もう、私が合格させたのだから、恥をかかせることだけは許さないわよ」  

 

 舞台袖でスピーチを終えたえりなさんが、緊張の真っ只中にいるわたくしにプレッシャーをかけてきました。

 もう、そんな怖いこと言わないで下さいまし……。

 

「そ、そんなぁ……。もう、手がこんなに冷たくなっちゃってて……、震えが……」

 

「あら、本当に冷たいじゃない。冷え性?」

 

 わたくしがえりなさんに手を差し出すと、彼女はわたくしの両手を握りしめて、冷え性なのか心配をしてくれます。

 多分、緊張のしすぎで血の気が引いてるだけだと思いますが……。

 

 それにしても――。

 

「えりなさんの手って、スベスベですわね〜」

 

「ひゃうっ、へ、変なことを言わないでちょうだい! もう、心配して損したじゃない」

 

「えへへ、えりなさんの手を握ったら、勇気が出ましたから」

 

 えりなさんの柔らかな手のひらはとても触り心地が良くて、いつの間にかわたくしの緊張感は消えておりました。

 

「――っ!? は、恥ずかしげもなく、よくそういうことが言えるわね。とにかく、この学園で何を成し遂げたいか、素直に言ってくれば良いのよ。長く話す必要はないわ」

 

「は、はい。頑張ってきます!」

 

 えりなさんに背中を押されたわたくしは編入生として挨拶をするために壇上へ向かう。

 あっ、ダメですわ。また緊張して頭の中が真っ白ですの。

 

 

「ほ、本日はお日柄もよく……、ええーっと」

 

「見ろよ、編入生、めちゃめちゃ可愛くね?」

「アイドルか、何かかな?」

「えりな様も良いけど、この子みたいなのも可愛らしくて良いな」

 

 わたくしは緊張して自分が何を言っているのかよくわからない状態になっていました。

 ええーん。みんなが見てますわ。きっと、わたくしの悪口を仰っていますの……。

 

 とりあえず、目標を言わなくては……。も、目標? この学園での目標は――。

 わたくしがチラッと舞台袖に視線をやると、腕を組んで立ち上がり、こちらを見ているえりなさんと目が合いました。

 

 そうですわ。この方は恐らくわたくしよりも、高みにいらっしゃる料理人……。ならば……。

 

「と、とにかくですね。この学園での目標は、そのう……、あっ、薙切えりなさん! そう、薙切えりなさんと同じくらい凄い料理人になりたいです! そのために頑張りますので、よろしくお願いします!」

 

 せっかく、えりなさんという凄い方と友達になれたのですから、わたくしは彼女の隣に立てるくらいの人物になりたい。

 良いライバルでありたいと目標を語りました。

 よ、良かったです。とりあえず、言わなきゃいけないことは口に出せました。

 

「「…………」」

 

「あ、あれ?」

 

 わたくしのスピーチが終わると、シーンと辺りは静まり返りました。えっと、わたくし、緊張のあまり放送禁止用語とか口に出していましたでしょうか?

 

「あの編入生、えりな様のライバル宣言をこの場でしたのか?」

 

「なんて、大胆なことを!?」

「身の程知らずね……!」

「頭が変なんじゃないの?」

「可愛いと思ってたのに、残念な感じの子かぁ……」

 

 そして、程なくしてざわつき始めて、わたくしに幾つか悪意のこもった視線が集まりました。

 一体なぜ? わたくしの頭は混乱していました。

 

「わ、わたくし……、何かまずいことを申し上げたのかしら?」

 

 遠月学園での生活が始まって1日目の朝……。わたくしは、さっそく嫌な予感からのスタートとなりました。

 でも、わたくしは負けません。無事に卒業ができるように努力するつもりです。

 

 しかし、わたくしはまだ全然理解していませんでした。この学園での生活が如何に大変だということを……。

 そして、わたくしが料理人としてまだ半人前にもなれていないということを――。

 




魔法のお蕎麦はミスター味っ子の“陽一風、納豆卵蕎麦”を参考にしました。
思い付かなかったときは原作に頼りますが、他の料理漫画の料理とかも出せればなぁって思ってます。
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