【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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“秋の選抜”――恐怖のストーカー

「食戟なんて全然言ってなかったのに……」

 

「美作は最初から食戟をしかけるつもりだったんだ。あいつはそういう奴なんだ。狙いを付けた生徒について徹底的に調べ上げて――挑発・恫喝……、どんな手を使ってでも勝負の場に引きずり出す。そして勝負した食戟は既に99回」

 

 客席にやっと戻ることが出来たわたくしたち。恵さんの言葉に伊武崎さんが美作さんについての説明をします。

 どうやら彼はこうした食戟を何度も繰り広げているみたいです。

 

「99回も? では、にくみさんが良い噂を聞かないと仰っていたのは――」

 

「私は何となくしか聞いてなかったけどね。美作昴って奴が食戟で勝ちまくってることくらいしか」

 

「美作は食戟ってシステムをおもちゃにして遊んでやがるんだ。奴が賭けさせるのは道具。料理人として最も大事な道具を奪うことで相手の誇りをズタズタに踏み躙る」

 

 にくみさんはよく彼のことを知らなかったみたいでしたので、さらに伊武崎さんが美作さんについての話を続けます。

 美作さんは遊び半分で食戟を繰り広げては、その相手の大事な道具を奪い取っているとのことです。それはなんとも恐ろしいというよりも――。

 

「なんだい、そりゃ! 武蔵坊弁慶を気取っているのかい?」

「悪趣味な野郎だぜ!」

 

「ある食戟では相手が大切にしていた母親の形見である包丁を高笑いしながら奪い取ったって話だ」

 

「そ、そんな。酷いです……」

 

 わたくしたちは美作さんの所業に対して嫌悪感を抱いておりました。料理人に対して少しでも敬意があればそのようなことは出来ないはずです……。

 

「じゃあタクミくんが賭けた物ってメッザルーナ……?」

 

 恵さんは青い顔をされてタクミさんが賭けたであろうメッザルーナの名を出します。

 それしか考えられないですね。彼の弟のイサミさんも顔色が悪いです……。

 

「心配ないって! 見てよあのタクミっち! 迷いなんかないよ!」

 

「ああ! 動きも細やかだ! 菓子作りは分量計算が少しでも狂ったら味が台無しになっちまう。それくらい繊細さが必要なんだ。美作みたいないかつい巨体じゃ……」

 

「いえ、美作さんも繊細さでは負けておりません。それに――」

 

「見なよ、あれ。美作って奴と、アルディーニの材料がまったく同じだよ」

 

 タクミさんの動きは洗練されて美しいとすら思えるほどの動きを見せましたが、美作さんも負けず劣らずきれいな調理を見せます。

 その上、なんと美作さんはタクミさんと同じ材料を使っており、作業の行程もまったく同じでした。

 

「まさか。同じ品を? だって、前日だよ。お題が出されるのって……。なのにそれが出来ると言うことは――」

 

「レシピを盗んだってことかい!?」

 

「んなこと、認めちまっていいのかよ!」

 

「美作さんの言動から察するに、彼はタクミさんのことを入念に調査して、どんな品を作るかを読んだ上でアレンジを加えているみたいですね……」

 

 美作さんはタクミさんのことを調べた上で何をどういう行程で作るのか予測して、さらにアレンジを加えるというやり方で食戟に勝とうとしています。

 それが出来るということは腕は確かみたいですが、これはあまりにも――。

 

「想像以上にヤバイ奴だったー!」

「まさか、ソアラさんが感じていた視線って……」

 

「タクミも何か新しい工夫をしねぇと!」

 

「兄ちゃんには現場仕込みの対応力がある! イタリア男がドルチェで負けるわけないよ!」

 

 美作さんは食戟に勝つために、ある種のタブーを破ることで恐ろしい力を発揮しております。

 このままですと、品の質では美作さんが上回ることは明白――タクミさんに残された道はさらにここからアレンジを加えることだけです。

 

「タクミも生地をオーブンに!」

「もうトッピングやソースをアレンジするしかなくなったわね……」

 

「でもタクミっちの食材でアレンジに使えそうなものなんて何も残ってないじゃんか~!」

 

「いえ、タクミさんならここからでもアレンジを加えることくらい出来るはずです」

 

「ソアラさん……」

 

 わたくしが知っているタクミさんは広い視野を持ち、非常に負けん気が強い方です。

 彼ならば、その非凡な観察力できっと新たな道を発見するでしょう。

 

『残り30分を切りました!』

 

「二人とも焼き上がったみたいですね」

「美作くんの生地、タクミくんのより色が濃いような」

 

「ビスキュイ・ジョコンドだね……」

「生地に使用する小麦粉の大部分をアーモンドパウダーに置き換えたものだ。より濃厚なスポンジに仕上がる……。美作の野郎、ここでもアレンジか……」

 

 美作さんは生地にもアレンジを加えてタクミさんの品よりも濃厚なスポンジを作ることに成功しました。

 既に焼いている段階――活路があるとすれば、それは――。

 

「審査員の方々も反発はしていますが……」

 

「自分の舌には嘘はつけねぇってか。くそっ、あんな奴に……!」

 

 先に出した美作さんのセミフレットはかなりの評価を集めていました。

 審査員の方々も美作のやり方には感心をしていませんが、ルール違反ではないので審査は公平にするようです。

 

「でも、タクミくんのあの表情――何かあるよ」

 

「あの皿、兄ちゃんが試作したセミフレットとは違う……」

 

「クリームとスポンジの間に第四の薄い層がある」

 

「オリーブオイルをバターの代用として使ってレモンカードを作ったっていうのか!?」

 

「あれは、父さんが日本に渡るときに渡してくれたオリーブオイルだ。アルディーニが兄ちゃんを守ってくれた――」

 

 しかし、タクミさんはこの状況でやはりやってくれました。即興でオリーブオイルをバターの代用として使い、新しいレモンカードを作り出し自らのセミフレットをさらに豊かな味わいになるように昇華させたのです。

 

 彼の観察力と発想力はやはり素晴らしいです。

 タクミさんはわたくしの顔を見て、腕を上げました。まるで、わたくしとの約束は守ると仰っているように――。

 

 

「で、なんであの野郎は笑ってるんだい!?」

 

 タクミさんが見事な逆転をされたと思ったのもつかの間、今度は美作さんが大声で笑いだしておりました。

 まるで、自分の勝利が決まったと思っているかのように――。

 

「まさか、タクミさんがレモンカードのアレンジを加えることも読んでいたというのですか……?」

 

「はぁ? そ、そんなこと出来るわけ……」

 

「いえ、タクミさんならこの土壇場でも独自のアレンジを加えられる事はわたくしでも読めました。もっと、彼のことを知れば――どんなアレンジをするのかも予測出来たかもしれません……」

 

 全ては美作さんの手のひらの上での出来事でした。

 タクミさんがオリーブオイルでレモンカードを作ることを読んでおり、美作さんは予め何週間も漬けていた塩レモンを自らの品に仕込んでいたのです。

 

 つまり、タクミさんの決死のアレンジでも美作さんの品には僅かに及ばず――。

 

『満場一致! 第四試合、勝者は美作昴!』

 

『この決着をもって秋の選抜一回戦の全試合が終了した。二回戦は一週間後だ。対戦カードは一回戦同様抽選で決まり本日中に通達される。以上だ』

 

 美作さんがタクミさんとの食戟に勝利して、彼はタクミさんのメッザルーナを奪い取りました。

 

 これで“秋の選抜”の一回戦は全て終わり――誰が誰と戦うのかはまた今日中に通達されるとのことです。

 

「マジで納得いかないよ! なんなのよあのストーカー!」

 

「わかったから俺に当たるな……」

 

「タクミ君ショックでしょうね……」

「励ましてやりてぇけど何て声かけたらいいかわかんねぇよ……」

 

「ソアラさん。良かったのか? タクミのやつに声をかけなくて」

 

「わたくしがタクミさんを慰めても、彼のプライドが傷付くだけですわ。彼は気高くて、非常に男らしい方ですから」

 

「姐さんの言うとおりかもねぇ。男らしいって言葉は嫌いだけど、敢えて何も言わないというのが情けになることも――」

 

 あまりにもな食戟の内容にわたくしたちは何とも言えないモヤモヤとした気持ちに苛まれていました。

 

 わたくしとて、タクミさんに何か言葉をかけたいという気持ちはあるにはあるのですが、彼の気持ちを考えるとそれは逆効果になるのではと思いまして、憚られてしまいます。

 

 そういうわけで、皆さんと共に極星寮に戻り、わたくしは自分の部屋のドアを開きました――。

 

「よう」

 

「「――っ!?」」

 

 ドアを開けた瞬間にわたくしは息を呑みます。

 なぜなら、わたくしの部屋の中には美作さんが座って居たのです。なるほど、彼の調査の範囲の中にはわたくしもやはり含まれていましたか……。

 

「な、な、なんでソアラさんの部屋に!? 美作くんが……」

 

「合鍵♡」

 

 恵さんが腰を抜かして悲鳴のような声を上げたことに対して、美作さんは平然と合鍵を使ったと口にします。部屋の鍵を変える必要が出てきましたね……。

 

「つ、通報だ! 警察に突き出してやる!」

「今すぐ、この部屋を出な! まさか、姐さんの部屋でナニを……! これだから、男ってのは!」

 

「――ちょっと報告することがあってな」

 

 にくみさんと美代子さんは怒り心頭で美作さんに詰め寄りますが、彼は表情一つ変えずにわたくしに話すことがあるとだけ告げます。

 

「わかりました。にくみさん、美代子さん、落ち着いてくださいな。わたくしも彼に用事がありましたから。丁度良いです」

 

「あ、ああ……。なんか、今日のソアラさん……、怖い……」

「笑顔だけど、いつもの感じじゃないねぇ」

 

 わたくしは基本的に人から悪意を向けられても気にはしません。怖がりはしますが……。

 しかし、彼の所業はあまりにも料理人を冒涜しています。

 

 要するに、わたくしはちょっとだけ彼に対して怒っているのです。

 

「そういえば、美作さん。夕食は召し上がりましたか? 作り置きのビーフシチューが残っていますから、よろしければいかがですか?」

 

「ありがたくいただこうじゃんか」

 

 とりあえず、客に何も出さないというのもアレなので、わたくしはビーフシチューを彼に出しました。 

 

 これは“ゆきひら”の裏メニューの1つで、自分なりに上手くできたメニューのうちの1つでもあります。

 

「――二回戦の対戦カードさっき決まったぞ」

 

「それをわざわざお伝えに来てくださったのですか?」

 

 どうやら、二回戦はわたくしと美作さんが戦うことになったみたいですが、彼の真の目的はそれを伝えることではないのは明白です。

 

「わかってんだろ? やろうぜ食戟」

 

「ええ、わかっておりました。美作さんが持ちかけないなら、わたくしから申し出るつもりでした」

 

 美作さんはやはりわたくしに食戟をしようと話を持ちかけてきました。

 これは予想通りでしたし、わたくしから持ちかけようと思っていたくらいのことです。

 

「お前がいつも使ってる出刃包丁。俺が勝ったらそいつを貰う。俺の見立てではかなりの業物だ。定食屋の娘が持ってるのが不思議なくらいのなぁ。代わりに俺が差し出すのは――」

 

 彼の要求はわたくしの愛用している出刃包丁でした。そして、その代わりに差し出そうと取り出したのはタクミさんのメッザルーナです。

 この2つを賭けて食戟をしようと彼は言い出しました。

 

「哀れだよなあのイタリア男。好きな女の前で大敗北しやがった! 料理人としての誇りも将来もズタズタだ!」

 

「あら、タクミさんはこんな事くらいでは潰れませんよ。可哀想なのはあなたの方ですわ。美作さん」

 

「――っ!?」

 

 タクミさんは確かに悔しい思いをされたでしょう。だからといって再起ができないほど弱い方ではない。

 それよりもわたくしは美作さんの方が可哀想な方だと思いました。

 

「模倣は上達する上で大事なことです。わたくしも皆さんから色々と学ばせていただいてます。それを短期間であのレベルで行える美作さんの技術は素晴らしいとわたくしは思っております。だからこそ、わかりません。なぜ、あのようなくだらない勝負をされているのか」

 

 美作さんの技術は一級品です。普通の人はレシピが分かっても、あのように全く同じ品を再現することは出来ません。

 

 そんな素晴らしい力があるのに、人の誇りを傷付けるようなことにしか使えないことが残念でならないとわたくしは思いました。

 

「そのくだらねぇ勝負でアルディーニは惨敗した――料理人として完全に俺が上回って……」

「違います。あなたはタクミさんの努力の上澄みを掬い取っただけに過ぎません」

 

 美作さんが料理人としてタクミさんの上を行っていると言いますが、それは違います。

 あのセミフレットを苦労して生み出したのはあくまでもタクミさんです。それを何の努力もせずに奪い取った美作さんの方が優れているなど、あり得ないのです。

 

「試行錯誤して、研磨を続ける。その過程があるからこそ皿は輝くのです。だから、料理で何かを生み出せるということは嬉しくも感じますし、楽しいのです。あなたが可哀想だと申し上げたのは、それを存じ上げないからです。だからあのような勝負で笑うことができるのでしょう」

 

 美作さんが不幸なのは料理人本来の幸福感も楽しさも知らないということです。

 凄い力があるにも関わらず、それを知らずにいるなんて残念でなりません。

 

「やりましょう。食戟を……。でも、わたくしが欲しいのはメッザルーナだけではありません。あなたが今まで奪ってきた99本も頂きます」

 

「はぁ? ふざけんな! それじゃ割に合わねぇだろうが! 100本の道具に釣り合うリスクを――」

 

 わたくしは彼が奪い取った100本の全ての道具を要求しました。

 しかし、彼は当然それに反発します。ですから、わたくしは――。

 

「では、あなたに負けたら料理人を辞めましょう」

 

「なんだって?」

 

「あなたとの食戟に負けましたら二度と“ゆきひら”の看板は背負いませんし――一生プロの厨房には立たないと誓います。それでしたら、何とか100本の道具と釣り合いませんか? 人生を賭けると申し上げているのですが」

 

 わたくしは100本の道具に対して、料理人として生きる人生そのものを賭けることにしました。

 負ければ、二度と厨房に立たないことを誓うことによって……。

 

「そうですね。あと、わたくしと同じメニューを作るのでしたら、それもお教えしましょう。二回戦のお題は洋食のメインですから、わたくしはこれ作ります」

 

「姐さん! 何を言ってるんですか!?」

「そうだよ。ソアラさん! あんたらしくない! 何口走ってんだ! 作る料理を自分からバラすなよ!」

 

 さらにわたくしは洋食というお題に対してビーフシチューを作る宣言をしました。

 すると、美代子さんとにくみさんがわたくしの言動を咎めます。どうせバレるのですから、手っ取り早いと思ったのですが……。

 

「大丈夫ですよ。にくみさん。もしも、美作さんが()()()()()()()をすれば、100パーセント負けるのは彼です」

 

「んだと、幸平! 意外と心理戦もイケる口じゃねぇか。ハッタリで脅す気か!?」

 

「いいえ、事実を述べたまでです。勝てるとしたら、美作昴さんとしてわたくしに向かってくることだけです。自分をさらけ出すというのは勇気が要ります。わたくしも臆病者ですから、それはよく分かってます。もう一度申し上げますが、わたくしの真似はしない方が賢明ですよ」

 

 美作さんがわたくしの真似をすれば確実に彼は敗北します。

 出来ればやりたくない事なのですが、絶対に彼に負けない方法があるのです。

 ですから、わたくしは祈っておりました。美作さんが反省をして自分をさらけ出して戦いを挑むことを……。

 

「――面白ぇ! 面白い女だな。幸平創愛! 何をするつもりか知らねぇが、後悔させてやろうじゃねーか」

 

「あなたが奪ってきた道具100本、あるべき場所に返してもらいます。わたくしの料理人としての全部を賭けてあなたに勝ちます!」

 

「成立だな。食戟!」

 

 こうしてわたくしの人生と美作さんの奪い取った100本の道具を賭けた食戟が成立しました。

 今回だけは絶対に負けるわけにはいきません――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、日にちが過ぎて迎えたのは“秋の選抜”の準決勝が行われる日。

 わたくしは、この日のためにえりなさんやアリスさんに説教をされながらもアドバイスを貰ったり、新聞部の方の密着取材を受けたりしながら過ごしておりました。

 

「ねぇ、本当に大丈夫なの? 今日の食戟……、なんか新聞部の子にも密着取材オッケーしてたけど」

 

「私もよくわかんねぇな。あんな情報を撒き散らすマネをして、何のメリットがあるのかわかんねぇ」

 

「姐さん、めちゃめちゃ熱心にビーフシチューの試作してましたよね。その努力が全部美作の奴に奪われちまうんですよ!」

 

 恵さん、にくみさん、美代子さんは口々にわたくしの心配をされます。

 彼女らが心配される気持ちはよく分かりますが、わたくしは今日だけは負ける気持ちはこれっぽっちもございません。

 

「わたくしが努力したのは美作さんに勝つというより、審査員の方に出来るだけ美味しいモノを食べてもらう為ですから」

 

「でも、負けちまったら意味ねーじゃねぇか!」

 

「美作さんがわたくしのメニューにアレンジを加えるというのなら、負けません」

 

「ソアラ姐さんは、そればかりだ。さっぱり分かりません」

 

 美作さんがわたくしの作るビーフシチューのレシピを手に入れて、それに手を加えることは何をしても防ぐことは出来ないと思ったので、わたくしは特に情報の漏洩を防いだりしませんでした。

 

 幼馴染の真由美さんからの連絡によると、“ゆきひら”にも美作さんは現れたそうです。つまり、わたくしの手の内は全てバレています。

 

 しかし、どっちにしろ審査員の方には美味しいモノを食べてもらいたいので良い品を作る努力だけは止めませんでした。あとは美作さんの出方を見てどうするか考えるつもりです。

 

『秋の選抜本戦・準決勝第一試合はまたしても食戟となりました! 幸平選手が賭けたのはなんと自身の料理人生命です!』

 

『そして美作昴選手! 今回も恐ろしいパーフェクトトレースが炸裂するのでしょうか!?』

 

 司会の川島さんの言葉に続いてわたくしと美作さんが会場へと入場します。

 自分がメインの食戟はにくみさんと戦って以来ですね……。

 

『なお審査員席には遠月の卒業生にして十傑経験者ばかり5名の方々です!』

 

 今回から審査員の方々が一新されて、宿泊研修にも来られていた堂島シェフ、乾シェフ、水原シェフに加えて角崎タキシェフと木久知園果シェフが担当することになりました。

 いずれも遠月の十傑経験者みたいです。

 

「遠月リゾート総料理長・堂島銀華よ。審査は我々が厳正に務めさせていただく。準決勝、第一試合――幸平創愛VS美作昴! 調理! 開始!!」

 

 堂島シェフの一声で準決勝の第一試合が開始されました。

 わたくしも髪を結んで調理に移ります。

 

「幸平創愛! お前がこの一週間、誰と会って、どんな工夫をしたのか全部知ってるぞ! ――わたくし幸平創愛は、楽しく皆さまを悦ばせるお料理を作りますわ!」

 

「あの二人、まったく同じ手順――」

 

「さぁ、ここからアレンジして差し上げます!」

 

 美作さんは思ったとおりわたくしと同じ品を同じ行程で作ろうとしていました。

 やはり、そう来ましたか……。

 

「やはり、わたくしのメニューをアレンジされるのですね。それなら――」

 

 気が重いですが、美作さんがわたくしを真似るのならこちらにも考えがあります。

 元々、わたくしも記憶力には自信があり、大体の技術はひと目見れば覚えることが出来ます。

 

 美作さんのように短期間で忠実にその人物の再現は出来ませんが、何年もの間、わたくしはある一人の料理人の技術を目にしてきました。

 

 そう、わたくしは今からあの方を模倣して即興で調理をするつもりです。

 

「あら、雰囲気が変わりましたわね……。どうされたのですか?」

 

「――っ!? あ、あれは……!」

 

「どうしたんですか? 堂島先輩……。急に立ち上がって」

 

「ま、まさか。あそこに立っているのは――じょ、城一郎くん……?」

 

 堂島シェフは立ち上がってわたくしの方をご覧になっていますね。やはり、彼女は父と親しかったので、すぐに気付きましたか……。

 

「お題はビーフシチューか。ソアラちゃん……、始めようじゃねぇか。491回目の勝負をな!」

 

「……だ、誰だ、お前は? まさか、お前も俺と同じくパーフェクトトレースを!?」

 

「おいおい、パパの顔を忘れるなんてショックだぜ。悪いが今日も負けてやらねーぞ。あと、ソアラちゃんはそんな口調じゃねぇ」

 

 わたくしが模倣するのは父である幸平城一郎です。

 彼は、489回も料理勝負でわたくしを負かしている料理人。わたくしの模倣をしている美作さんでは、決して勝つことが出来ない相手です。

 

 身についていない技は身を滅ぼす危険性があるので、わたくしは教えられた技術しか今まで使っていませんでした。

 しかし、頭の中には詰まっております。何年もの間、ずっと見続けていた父の技術が――。

 わたくしは今から幸平城一郎になりきります。彼なら即興でも美味しいビーフシチューを作ることくらい容易でしょう――。

 




なんか、すげぇチートな技を出した気がする……。
一応、リスクみたいなモノをつけて簡単に使えない技にするつもりです。
あと、えりなには城一郎との親子関係はまだ内緒ということで進める予定。

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