【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら 作:ルピーの指輪
何となくの感覚で読んでもらえたら嬉しいです。決して読み込まないでください。
『みなさんお待たせしました! 秋の選抜決勝戦! これより出場者3名の入場です!』
『“香りの貴公子”葉山アキラ選手!』
『“厨房の独裁者”黒木場リョウ選手!』
『そして三人目は“町の定食屋”幸平創愛選手!』
司会の川島さんの紹介とともにわたくしたちは会場に入ります。今までも熱気に包まれておりましたが、今日の雰囲気はいつもよりもさらに緊張感に溢れて厳格な空気が流れておりました。
その上、葉山さんと黒木場さんからの気迫が凄いです。お二人は準決勝で決着がつかなかったらしいので、お互いをかなり意識しているみたいです。
つまり、わたくしは蚊帳の外みたいに思われているということでしょうか? それはそれで、気楽なんですけども……。
「本日の審査員の方々をご紹介しましょう」
「まず審査委員長です。“学園総帥”薙切仙左衛門殿」
「観光部門のトップ、“遠月リゾート総料理長”堂島銀華先輩」
「そしてもう一方。遠月学園研究部門・薙切インターナショナルのトップ、薙切レオノーラ殿」
審査員の方は3名、総帥と堂島シェフは存じていますが、レオノーラさんという方は存じ上げません。しかし、薙切という名前とあのお顔はどこかで……。
「レオノーラ殿は最新科学によって美食学と分子料理を研究する学術機関・薙切インターナショナルの全てを統率される方です」
「コニチワ皆さん。私なきりれおのーらデス。デンマークに暮らしマス。シンサタイヘンの感じだけど頑張るデスので」
「もう! 日本に来るなら一言連絡してよねお母様!」
「ちょっとアリス! ここは運営以外立入禁止よ!」
レオノーラさんはどうやらアリスさんのお母様みたいです。えりなさんの言うとおり普通に会場の中に入っておりますわね……。
相変わらず奔放でチャーミングな方です。
「Oh! アリスゴキゲンヨウ。えりなチャンモゴキゲンヨウ。相も変わらずぷりぷり激おこなんデスね」
「あなたの娘のせいです!」
アリスさんのお母様はニコニコされながら、姪であるえりなさんにも話しかけております。
レオノーラさんもアリスさんのように明るくて楽しそうな方ですね。
「君がアリスに勝ったユキヒラさんデスね? ビックリしたデスよ私。君の料理楽しみにしてきたデスカラね」
「まぁ! アリスさんのお母様がわたくしのお料理を楽しみにしてくださったのですか? 嬉しいです!」
驚いたことにレオノーラさんはわたくしのことを知っておりました。
アリスさんのお母様がわたくしの出す品を楽しみにしてくれているなんて光栄です。
「――美味しくナカタラ激おこかもデスヨ?」
「はい。お任せください。わたくし、美味しいモノを召し上がって頂くことが大好きですの。気に入られましたら、“ゆきひら”にぜひ立ち寄ってくださいまし」
「絶対におば様の仰ったことの意味わかってないわね……」
レオノーラさんの期待の言葉に返事をしたわたくしにえりなさんは変な顔をされます。
今の言葉って何か深い意味がありましたの?
「幸平さんのお店って定食屋さんなんでしょう? わざわざその宣伝をお母様にするの?」
「ええ。司会の川島さんの仰ったように今日は“町の定食屋”として皆さんにお料理を味わってもらいに来ましたから」
アリスさんの問いかけに答えるように、わたくしは紹介のとおり定食屋として決勝戦に臨むとお答えしました。
わたくしでないと作れないお料理はやはり定食屋ならではのメニューでないとなりません。
「幸平さん。定食屋のメニューだとリョウくんに勝てないわよ」
「ソアラ、あなた体調が悪いの? まさか、大衆料理でも作ろうっていうんじゃ」
「もちろんです。これがわたくしの原点ですから――一人の定食屋の娘としてあなたに勝利を捧げてご覧に入れますわ」
「「――っ!?」」
わたくしはえりなさんが“ゆきひら”に来てもらいたくなるようなメニューを作ろうと思っています。
定食屋のメニューでも、良い一皿を作ることが出来ればきっと彼女も――。
「あなたって優勝宣言なんてするタイプだったかしら?」
「はひっ!? 優勝宣言なんてわたくししましたか?」
そんなことを思っているとえりなさんがポカンとされた表情でわたくしが“優勝宣言”をしたと指摘されました。
そんな大胆なことをこの場でするはずが……。
だって、優勝宣言なんて予告ホームランみたいなものじゃないですか……。手術を控えている子供のいる病室ならまだしも、皆さんが見ているこの会場でしたら――。
「してたわよ。リョウくんと葉山くん、凄い顔してあなたを睨んでるし」
「はっきり言ったじゃない。言ったからには、負けたら許さないんだから」
アリスさんとえりなさんは首を縦に振ってわたくしが優勝するとはっきり口にしたと仰ってます。
そして、背中には葉山さんと黒木場さんの凍てついた視線が突き刺さってます。ダーツの的になった気分です。
定食屋として、気合を入れて臨むと申し上げただけですのに……。まさかこんなことになろうとは――。
「決勝戦の調理時間はおよそ2時間。月が完全に現れた瞬間から天の道を渡り終え再び姿を隠すまでとします!」
一色先輩の説明と同時に会場のドーム型の天井が開き夜空が見えます。
どうでもいいことなのですが、もしも雨や曇の日だったらこのルールはどうなっていたのでしょうか? そんなことを考えるのは無粋ですが……。
「構えよ! 調理開始!」
総帥の一声でわたくしたちは一斉に調理に踏み出しました。
やはり、皆さん最初にサンマには手を出しませんね。他の素材から下処理を進めるのは定石――余計な手数を増やすとサンマの鮮度が落ちてしまうからです。
アリスさん、あのまま審査員席に居るのですね……。彼女の分も用意したほうがよろしいのでしょうか……。
さて、ここからサンマに手を付けます。丼物ですからご飯との調和が命です。
美味しくなりますように――気持ちを込めて作りましょう……。
しばらくの間、三人は調理に没頭していました。
そして、最も早く品を完成させたのは――。
「完成だ――」
「まずは黒木場選手のサーブです!」
黒木場さんが最初に品を完成させました。彼はアリスさんと幼いときより競い合って実力を付けたという話を聞きました。ですから、分子ガストロノミーにも詳しいとのことです。
その知識を活かして、彼は耐熱フィルムを使っていましたが、フィルムで包んだままグツグツ煮えた状態で審査員の前に出してますね……。
「あのフィルム――黒木場さんはまさか……」
「俺とお前に意趣返しでもしたいんだろう」
「負けず嫌いな方が多い料理人の中でも彼は人一倍それが強いのですね」
「では、実食である!」
フィルムが開かれた瞬間に魚介の香りが爆発して辺りに充満しました――。
「んっ――!? エビ、ムール貝、アサリ、そしてサンマ……! 怒涛の香りのグラデーションに引き込まれる……!」
そう、黒木場さんが仕掛けたのは香りの爆弾。予選でわたくしと葉山さんがカレー料理に施した手段です。
「カルトッチョ……! 俺が出した料理は、秋サンマのカルトッチョだ! さあ味わいな!」
サンマのカルトッチョ――つまり、サンマの蒸し焼き料理で黒木場さんは勝負に挑んだみたいです。
とても美味しそうです。あとで食べさせてもらえませんかね……。
「はむっ……、あぁっ! 新鮮すぎてサンマの脂が……! とろけるように甘いデス……!」
「これほどの豪快な旨味を力づくで封じ込めるとは……! 黒木場リョウの真骨頂ね!」
「どうやら出るようだわ…お母様の”おはだけ”が……!」
「ええーっと、アリスさん。それってまずいんじゃないですの?」
突然動かなくなってしまったアリスさんのお母様であるレオノーラさん。
アリスさんによると、これはレオノーラがおはだけをする前兆のようです。さすがに女性が総帥みたいに上半身を見せるのは如何なものかと思うのですが……。
「素晴らしいサンマ料理でした。まずテーブルに出された際のビジュアルの衝撃。給仕の方法も料理の大切な要素と考える現代料理のトレンドをしっかり踏襲しています。会場中が前のめりになって注目していたことからもその計画は見事に完遂したといえるでしょう」
「アクアパッツァにはアンチョビが使われる事が多いですが、この料理ではハーブバターを使用するため省いてありますね。賢明です。両方投入しては味がケンカしてしまいますからねそしてこのハーブバターこそが、料理を完成させる重要な役目を果たしていますバターのまろやかさが素材同士のキスを一つにまとめるのにも効果を発揮しています」
「しかしハーブによってしつこく後を引くこともなく強烈な味のインパクトは軽やかに通り抜けていくだからこそ、サンマの香り高さもより際立ちます。耐熱フィルムもハーブバターも全てがサンマの美味しさを活かすべく徹頭徹尾一貫していたからこその――」
「――っ!?」
レオノーラさんは急に早口になって流暢な日本語で黒木場さんの料理を解説されます。何が起こったのでしょうか……。
「お母様は美味しい料理を食べるとカタコトがはだけて、流暢に感想を喋り出すの!」
「ふぇ〜。カタコトってお料理ではだけますのね〜」
「………」
アリスさんの説明に納得していると、隣には冷めた表情の葉山さんが立っておりました。
料理でカタコトがはだけるって面白いと思うのですが……。
「他のどの魚でもなく、旬のサンマでなければ成立し得ない美味……! 彼奴の調理技術の集大成! 身も心も……海とひとつに!!」
「本家おはだけも出た〜〜!」
そして、総帥もいつも通り上半身裸になります。レオノーラさんがこうならなくて良かったです。
「続いて葉山選手がサーブします!」
「葉山さんの品は何でしょう……。あら、これは――」
「ふざけんなコラァ! カルパッチョだとぉ!?」
次は葉山さんが品を出したのですが、彼の料理はカルパッチョでした。
すると黒木場さんがそれを見るなり激怒されます。怒った理由は何でしょう? 考えられるとしたら――。
「うふふっ、黒木場さん。カルトッチョとカルパッチョで名前が似てるからってそんなに怒らなくとも」
「んなわけあるか! 黙ってろ! 天然バカ女!」
「ひっ……!」
わたくしは黒木場さんが似た名前の料理を出そうとしたことが気に食わなくて怒ったのだと思いましたが、それは違うみたいです。
すごい剣幕でわたくしは怒鳴られてしまいました。
「ちょっとリョウくん! バカは酷いわよ!」
あ、アリスさん? 天然でもないですよ。念の為……。
「前菜メニューで俺に勝つ気かよ!? 話にならねぇ! 勝負を何だと思ってやがる! 準決勝で俺と戦ったのは別人かよ、あぁ!?」
「――お前は知らないんだ、香りは料理の概念すら作り変えることを。俺のカルパッチョはメインを張る……!」
黒木場さんが怒った理由は葉山さんの品が前菜の定番であるカルパッチョだったからみたいです。
勝つ気が無いのかと言わんばかりですが、葉山さんもまた負けず嫌いな方です。このカルパッチョにも当然、何か仕掛けがあるのでしょう。
「では実食を――」
「もう少々お待ちください。まだ仕上げが残ってますので……」
実食に移ろうとした手前で葉山さんは、ひと工夫としてカルパッチョをバーナーで炙りました。
サンマの表面に焼き目が付いていきます。
「おおっ!? バーナーで炙って……!」
「あ、あんっ……、――も、もう、一秒もマテナイ……!」
その香りを嗅いだレオノーラさんはいち早く腰が砕けて、恍惚を浮かべた表情になります。
さすが葉山さんですね。香りだけでここまで人を虜にするなんて――。
「ドレッシングにはエキストラバージンオイルやワインビネガー――」
「――一体どれだけ多くのスパイスを組み合わせて……」
そんなレオノーラさんはまたもや流暢な日本語で葉山さんの品の解説をされていました。
スパイスの力でここまでの香りを生み出したとレオノーラさんは考えておられるみたいですが、どうなのでしょう。
「いや! 使用しているのはオールスパイスただ一つ!」
「それなのにこの香りの豊かさは何? リョウくんのカルトッチョに匹敵する勢いだった」
「ただ炙っただけでは有り得ないデース!」
「“かえし”です。サーブする直前身の表面にさっと塗りました」
葉山さんはオールスパイスのみしか使用せず、炙っただけで豊かな香りを生み出した理由として、“かえし”を使ったと答えます。
「カエシ? 燕返しデスか? コジロー・ササキ?」
「よく知っていますね。そんな言葉……。でも違います」
「“かえし”とは醤油にみりんやにぼしなどを加えて作る合わせ調味料。このかえしを出汁で割ることでそばつゆができるのです。日本食全般に使える万能調味料だとみなされていますわ」
そう、えりなさんの仰るように“かえし”は万能調味料です。
素材の良さを引き出して、豊かな味わいを作り上げてくれます。
「”スパイスだけしか能がないワンパターン”だったか? 香りを従えるとはこういう事だ」
「キサマッ……!」
葉山さんは黒木場さんと何か言い合ったことがあったのか、彼に香りを使って前菜料理のカルパッチョをメインのメニューまで昇華させたことを見せたかったみたいです。
「本家おはだけ、また出たーーっ!」
総帥は当然のような表情で上半身を剥き出しにされておりました。
いつもはだける瞬間を見逃すのですが、どういった原理なのでしょうか……。
「最後は幸平選手のサーブです」
そして、いよいよわたくしの番が回ってきました。
今回は前回と違って自分を出しきりました。これが幸平創愛に出来る全力の料理です――!
「お待ちどう様ですの。“炙りサンマとなめろう丼”ですわ――」
わたくしは丼ぶりを審査員の皆さまに差し出しました。
あの日から試行錯誤してメニューを考えた結果、わたくしが辿り着いたサンマ料理の答えがこの丼に詰められています。
「炙りってまさか、幸平さんも……」
「葉山さんの真似をするようで恐縮なのですけど、今からこれで――」
「バーナーか……」
「リョウくんや葉山くんと比べても遜色ないほどの豊かな香り……」
葉山さんがバーナーでサンマを炙ったときにはまたもや発想が被ってしまって驚きました。
香りの奥深さやスパイスの講義は彼や汐見先生から学習したので、どうしても似た発想になってしまうのです。
「幸平さん。あなたは出汁醤油を作ったわね」
「ええ。まずは“かえし”を作り、そこから自家製出汁で調節して丁度よい塩梅になるように……。出来た出汁醤油を先ほどサンマのお刺身に塗っておきました」
葉山さんは“かえし”をサンマに塗ったと仰っていましたが、わたくしは“出汁醤油”をサンマに塗ることで炙ったときに発せられる香りをより芳醇なものにしました。
「はむっ……、こ、これはサンマ本来の風味が一口食べる毎に広がって鼻から抜けていく。強いのに優しく包み込むようなそんな味ね。幾らでも食べられるような……」
堂島シェフは炙りサンマとご飯を一緒に食べて美味しそうな表情を浮かべてくれました。
「その横には“なめろう”――房総半島沿岸が発祥の郷土料理じゃな」
「郷土料理研究会の友人がいまして、丼物に合わせるのにぴったりだと思いましたので」
ご飯の上に乗せる具材を吟味していたときに、助けてくださったのは丼物研究会の他に恵さんの所属する郷土料理研究会でした。
彼女に許可を取ってもらい、わたくしは新しい郷土料理の資料の閲覧をしてサンマ料理に使えそうなメニューを探させてもらったのです。
そして、辿り着いた料理が“なめろう”というアジやサンマのたたきに生姜と味噌とネギを加えた料理です。
香りは弱いですが、新鮮なサンマの美味さが最もストレートに伝わる料理だとわたくしは思っております。
「どれ……、はむっ……、こ、この食感は……! 信じられないほど歯ごたえがない……! お主、またレンコン料理のときの食感の技法を用いたな! サンマのたたき、生姜と味噌、きざみネギをすべて同じ柔らかさにし、旬のサンマの脂の旨味をこれ以上ないほどに引き出している! レンコンの時とは違い、口に入れると消えるどころか厳かにサンマの凝縮された旨味が主張しておるわ!」
「またもや、総帥がはだけたぞ〜〜!」
炙りサンマとメリハリをつけるために、このなめろうは柔らかさをとにかく意識して作りました。
口の中で溶けた瞬間に美味しさが爆発するような狙いを込めています。
総帥にはなめろうは好評だったみたいですね……。
「どの品も甲乙付けがたし……」
「ユキヒラさん。コメの量がオオスギデスよ。明らかにコメが余ってしまいマス」
「そういえば、この量の具材に対して白米の量が多いわね。丼物というのは、具材と米の量の配分も大事な要素なのに」
「よもや、初歩的なミスを犯すとは」
三人の食べている表情を伺っていると、レオノーラさんがご飯の量が具材に比べて多すぎると口にされました。
ああ、そうでしたわ。つい、皆さんの顔を見ていて大事なことを言い忘れておりました――。
「す、すみません。実はそのご飯には秘密があるのです。上の具材を食べ終わりましたら、残りのご飯にはこれと溶き卵をかけます」
「白いスープ……」
「しかし、具材は全部食べてしまった。それをかけて、おじやのようなモノを作ろうにも――」
「いいえ、最後の具材は丼の底に用意してあります。おあがりくださいまし! “炙りサンマとなめろう丼”改め、“サンマのつみれのおじや”です!」
「「――っ!?」」
実はこの丼には1つ見た目ではわからない秘密を隠しておりました。
普通は丼物の具材は上に乗せるものですが、この丼には下にも具材を用意しているのです。
「ほ、本当ね。丼の底につみれが入っている。それだけじゃない。ネギやキノコも……! 目に見えないところにこんな仕掛けを――! つまり、この丼は二層構造になっていたというわけね!」
「一つのメニューで3度オイシイ! とてもファンタジックデス!」
「そして、このまろやかでクリーミーな白いスープ……。この正体は……、豆乳じゃな!」
「仰る通りです。これは豆乳に白味噌とパルミジャーノチーズを少しずつ加えて、じっくり温めたものですわ」
冷たい丼を食べたあとにホッと温かくなる品が欲しいと思いまして、わたくしはこの方法を思いつきます。
アリスさんと試合したときの弁当もこのアイデアに貢献してくれました。
「読めたわ。幸平さんの狙い……。どこまで、貪欲なの……」
「気付いたようねアリス。おじやの肝は何といっても出汁。ソアラは豆乳を出汁として位置づけこの料理を再構築したのよ」
「出汁とは旨味そのもののこと。豆乳は昆布と同じグルタミン酸をたっぷり含んでいる。十分におじやの美味しさのベースを担うことができる……」
「1つの丼に3つの味をつぎ込むなんて、1つ間違えたら雑多になって食べられたものじゃなくなるのに。ソアラは旬のサンマの良さをあらゆる角度で引き出すことに成功した」
炙りサンマ、なめろう、サンマのつみれ――わたくしはどの品も新鮮なサンマを活かせるメニューだと思いました。
丼物にすることでその全てを調和することができると考えてわたくしはこの料理を考案します。
要するにわたくしは定食屋なので、“サンマ尽くし定食”を丼にすることで1品料理として表現したかったのです。
「ユキヒラさん。こんなタクサンテイスト何故入れようとオモッタデスか? 勝ちたいいうシュウネンデスカ?」
「それは楽しいからです。レオノーラさん」
「タノシイ?」
「ええ。皆さんが美味しいと感じてくれたときの表情を見ることが楽しいんです。わたくしは欲張りですから、何度もその
料理とは美味しいを発見することです。そこに完璧という概念はありません。
こうしたら、もっと美味しくなるを追求することにゴールなんて無いのです。
わたくしは美味しさに出会って幸福そうな表情を何度も見たいという欲望に駆られてこの品を生み出しました。
「このサンマのつみれにもマジックが仕掛けられてますね。このスープを加えて解すことにより、食感に張りを与えてさらに旨味という面でもまったく新しい味付けを生み出してます」
レオノーラさんの仰るようにサンマのつみれも食感と旨味の調和にこだわって作りました。
「幸平創愛さん。これがあなたの味なのね。準決勝のあと、あなたが浮かない顔だった理由がわかったような気がするわ」
「堂島シェフ……。うふふっ、お粗末様ですの!」
準決勝の品はあくまでも父から借りた力で作った料理でしたので、わたくしとしては納得できる品ではありませんでした。
ですから、今回の決勝戦で彼女に自分自身の料理を知っていただけてとても嬉しかったです。
「これにて審査は終了! 判定である!」
「ご苦労であった。決勝を戦うに値する個性のぶつかり合い三者三様の持ち味を見せてもらった」
「まず調理の技術。これは全員伯仲している。次に素材の目利きについても三人が三人共々、最上のサンマを完璧に選び抜いてみせた」
「さらに驚くべきことに味についても3名ともほぼ互角と言える美味さであった」
「勝負の決め手になるのは“料理人の顔が見える料理かどうか”――」
総帥によれば3人の料理の完成度は素材から技術まで拮抗していたみたいです。
黒木場さんと葉山さんのお料理は素晴らしかったので、それと並べただけでも嬉しいです。
しかし、“料理人の顔が見える料理かどうか”とはどういう意味でしょうか……。哲学的な話ですかね……。
「本当のオリジナリティに溢れた皿は味わッタだけでその料理人の顔が心に浮かんでくるものデスから」
「言い換えるならその者にしか作ることのできない真に独走性のある一皿。そんな料理の事を我々は敬意をこめて
なるほど、その人にしか出来ない独創性がある
そういえば、四宮シェフに対してそんな言葉をかけていたような……。
わたくしの品は
「しかし、ここに来てもなお選考は困難を極めた――。だが、この若さで己の料理どころか己の店まで明確に思い浮かべることが出来る料理人がおった。頂点に立ったのは己の料理とは何かという問いに真に向き合い、その更に先に進んだ者だ! その人物の名は――」
総帥は優勝者の名前を言い放とうと息を吸い込みました――。
一瞬が永遠とも感じられるくらい長く感じられます。
突然、普通科の高校の入学が父によって取り消され――右も左もわからずに遠月学園の編入試験を受けることになりました。
その日、薙切えりなさんにわたくしは出会いました。
あの日からわたくしは魅せられてしまったのかもしれません。彼女が品を食べたときのあの
だからこそ、あなたの見守っているこの舞台で、わたくしはこの一皿に自分の全てを込めたのです――。
「勝者! 幸平創愛!!」
名前が呼ばれました。父と母が授けてくれた、わたくしの名前です。
えっ? わたくしが優勝……?
状況を飲み込めないわたくしの鼓膜に、怒号のような歓声が届きました――。
サンマ料理が思いつかずにのたうち回った結果、意味が分からない品になってしまってごめんなさい!
料理漫画に手を出すことの難しさを痛感しました。
原作はソーマはスペシャリテ童貞を葉山さんに捧げましたが、それはちょっとこの物語では意味合いが違って来ますので、ソアラの優勝ということで“秋の選抜”は締めます。
美作との準決勝がピークだったことが自分的に悔しいところですね。
次回からはスタジエール編です。