【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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生存者たち

「くっ……、幸平に負けるのはまだいい……。新戸と俺は明らかに力の差があったはずだ。なぜ、こんな結果に……」

 

「緋沙子さんは、生き残りたいから力を奮ったのではないですよ。大切な人に美味しいと言ってもらえるように、それを目指して研磨を積み続けて、皿と向き合い続けたんです」

 

「味わうまでもなく分かる。君が選抜決勝で出した皿とは、込めた熱量に明らかに差があるということが。葉山アキラ、君はこの皿に対して真に情熱をもって試行錯誤し抜いたと心の底から言い切ることができる? 誰かに美味いと言わせたい、その精神が抜け落ちていたと思えないかしら?」

 

 緋沙子さんはえりなさんに美味しいと言ってもらえる一皿を作ろうと熱量を持って日々研磨に励んでおり、努力を続けておりました。

 そして、その想いを皿に込めることで品の力を引き上げていたのです。

 堂島シェフの仰るとおり、葉山さんの技量は以前より上がっていましたが、彼からはそのような熱を感じられませんでした。

 彼が緋沙子さんに一歩及ばなかったのは、その熱量の差だったのでしょう。

 

「貴様に負けたとき、ショックだったよ。だが、良いことを教えてもらえた。私の世界は確かに狭い。えりな様の後ろを歩いているだけで、満足していた私はあの方と肩を並べようとまでは考えもしなかったのだ。才能が違うと決めて、勝手に線を引いていた……」

 

「だが、それではダメだとソアラが気付かせてくれた。百の努力で足りないなら、千、千で足りないなら、万の努力をすれば良い。いつか、あの方を悦ばせたい。その気持ちを皿に込め続けている。今日の私の皿が貴様を上回ったのは、貴様に敗北したおかげだ。葉山アキラ!」

 

 緋沙子さんはいつしか負けた経験をも糧として立ち上がり、料理人としてのスケールを増しておりました。

 彼女の目は自信に満ち溢れています。

 

「堂島先輩の言うとおりだ。俺はいつからか何のために品を作るのかわからなくなっていた。幸平にリベンジすると言いながら、それにも半端な覚悟で挑み……、一度勝っている新戸の顔など見ようともしなかった……。新戸は目標に向かって歩みを止めなかったというのに――」

 

「……あら? あなたは――」

 

「ん? ――うぉおっ!? じ、潤!? なっ!? はぁ!?」

 

「汐見先生、何故ここに?」

 

 葉山さんの隣にいつの間にか汐見先生がいらっしゃっておりました。

 はて、何故彼女が今ここにおられるのでしょうか……。

 

「極星寮出身のよしみで私が招待したのよ。この勝負を直接見届ける権利が、彼女にはあると思ったの」

 

「……何しに来たんだよ。そんなに俺に文句が言いたかったのか……。――ん? へぶっ!」

 

「「――っ!?」」

 

 汐見先生がここに居るのは堂島シェフの計らいらしいのですが、彼女は思いっきり葉山さんの頬を殴り飛ばします。

 い、今のはかなり強烈に見えましたけど、大丈夫でしょうか……。

 

「……あっ!? ご、ごめんアキラくん……! い、痛かった!? 大丈夫!?」

 

「脳が……、ゆ、揺れた……」

 

「なんで殴った方がうろたえてんのさ」

 

「………は、初めて潤に殴られた……」

 

 動揺しながら葉山さんに駆け寄る汐見先生……。彼は呆然として彼女を見ていました…

 

「わ、私は葉山くんの親代わりでもあるんだから。今のはし、躾として叩きました! 葉山くんはまだ子供なんだから、責任なんか感じなくていいんだからね!」

 

「……何だよ、子供扱いすんじゃねーよ。潤!」

 

「潤って呼ぶなぁ!」

 

「俺がいなきゃ何もできねーくせに!」

 

「う……!」

 

「毎日毎日俺がマネジメントしなきゃタスク管理もできねーくせによ!」

 

「……そりゃまぁ子供にもちょっとは責任感もたせるのも大事だしぃ……」

 

「論旨がブレブレじゃねーか!」

 

 そして、いつの間にかいつものように葉山さんと汐見先生は言い争いをされます。

 いつ見ても、仲がよろしいですね……。

 

「う、うるさいよ! とにかく! ――あのね 私が今日までで考えた結論、伝えるね」

 

「………?」

 

「もう研究場所(ゼミ)なんて私は要らないよ。機材や予算を取り戻すことなんかより、 アキラくんにはして欲しかったことがあるから」

 

「え……?」

 

「私が本当に見ていたかったもの――それはアキラくんが自分の料理を心から楽しんで。……そして、同年代のお友達と………、たくさんたくさん 研鑽しあう風景なんだよ」

 

「…………」

 

 汐見先生は葉山さんには料理を楽しいんで友人と研磨し合う風景を見ることがしたいと彼に仰ります。

 ゼミを取り戻すよりそうして貰いたいみたいです。彼女は葉山さんを本当に愛しているのでしょう……。

 

「まぁ、これで私たち家無しになっちゃったけど。あはは」

 

「笑ってる場合かよ……」

 

「あのう、その件なのですが……」

 

「幸平さん? お、お久しぶりですね。どうしました?」

 

「汐見教授も葉山さんも極星寮に来ませんか? それで、ある程度は解決出来ませんかね? とりあえず料理する場所は確保できますし。わたくしが何とかふみ緒さんに頼み込みますから。どうでしょうか……」

 

 わたくしは極星寮に一時的に身を移して活動をすることを提案しました。

 寮ならば部屋も多く空いてますし、独立も一応は認められています。

 

「そうね、当面は機関の圧力で活動はどうあろうと制限されるでしょうけど、幸平さんの活躍で存続が認められた極星寮の中でなら、何か拓ける可能性もあるかもしれないわ」

 

「幸平さん……、堂島先輩……」

 

「なんだか……、心温まるではないか……!」

「えぇ……、同期ならではの友情ですよ!」

 

「同期の友情ねぇ。ま、美しくていいんじゃん?」

 

 堂島シェフも良い手だと仰ってくれて、他の皆さんも賛同してくれました。

 しかし、葉山さんだけが浮かない顔をしております。

 

「……でも幸平、それに新戸も……、お、俺は、お前らを裏切ってセントラルに……」

 

「私たちを見縊るなよ、葉山! 何を今さら小さいことを気にしてる! それはそれ、これはこれだろ!  この機会にセントラルと縁を切れば何も問題あるまい!」

 

「ええ、緋沙子さんの仰るとおりです。ただの生徒に戻ってしまえば良いではないですか」

 

 葉山さんはセントラル側に付いたことを気にしておられます。

 わたくしとしては彼には彼なりの事情があったと思っていますし、緋沙子さんも終わった話を引きずるつもりはないと言っていますので、感情の面では何ら問題はありません。

 

「……二人とも、ありがとよ。それだけで……、救われた気がするよ……」

 

「救われた……」

「気がする……?」

 

 葉山さんは微笑んで、変なことを仰りました。

 それだけで、救われた気がする……? どうしてそのような言い回しをされるのでしょうか……。

 

 ちょうど、その時です。会場の中に息を切らせながら、えりなさんが駆け込んで来られました――。

 

「ソアラ、それに緋沙子………、あなたたち、か、勝った……、のね……? 良かった……」

 

「あ……、薙切えりなさん」

 

 えりなさんは、わたくしと緋沙子さんを思いきり抱きしめながら良かったと仰ってくれました。

 暖かな彼女の体温を感じながら、わたくしはようやく三次試験を突破出来たのだと実感します……。

 

「はい、ご心配おかけしました……」

「え、えりな様……、あの、い、今は、そのう――」

 

「はっ――」

 

 えりなさんは、緋沙子さんに声をかけられてハッとした表情をされてわたくしたちから離れて、髪を直されました。

 

「薙切さんって、あんなにスキンシップが激しい子なの?」

「お、俺が知るかよ……」

 

「こ、コホンっ……、 二人ともよく残ってくれました。緋沙子、選抜の雪辱を果たしたのね。あなたを誇りに想うわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 そして、改めてわたくしたちの無事を喜んでくださって、緋沙子さんが選抜でのリベンジを果たしたことを褒めます。

 緋沙子さんの表情が今までに見たことがないくらい明るくなりました。

 

「葉山くんも、これに懲りたらセントラルの片棒を担ぐなんて事はもうやめることだわ!」

 

「それなのですが、葉山さん……。それだけで救われた――とは、どういう意味ですの? まさか生徒に戻れない事情でもあるのでは?」

 

「………」

 

 わたくしは葉山さんの発言が気になってました。まるで、もう生徒には戻れない……。そんなような口ぶりだったからです。

 

「それについては私から」

 

「――っ!?」

 

「失礼しますよ。薊様の側近を勤めている相田という者です。えりな様、あなたが家出なさったせいで味見役の仕事をキャンセルするのに私が頭を下げて回ったんですよ。まぁ、いいんですけどね、あの薊様のご息女だし私なんかが何言っても聞かないってことは考えなくてもわかりますしね……、遺伝的にね……」

 

 突如現れたのは、薊さんの側近だと言われる相田さんという方。

 彼はえりなさんがいなくなったことに苦言を呈しておりました。そして、葉山さんの身に何が起こるのか知っているみたいです。

 

「あ、あの……! 何の用……、ですか? 葉山くんが何か……」

 

「葉山アキラ、わかっていますね?」

 

「……あぁ」

 

「先ほどの勝負の結果をもって、葉山アキラは退学となります」

 

 何と彼は葉山さんが退学になると言われました。

 彼の態度から良くないことがあるとは察しがついていましたが、まさか退学だなんて……。

 

「えっ!? ちょっ……、葉山くん、どういう事?」

 

「そういう契約だったんだ。薙切薊の要望を満たせなけりゃ学園から去るってな。研究機関を存続させるという報酬に目が眩んで幸平たちを裏切ったんだ。このくらいの報いは仕方ねぇよ」

 

「そ、そんな………!」

 

「他ルートの結果についても報告が来ていますよ。………聞きますか?」

 

 葉山さんの退学に続いて更に良くない知らせが続きます。

 タクミさんやイサミさん、にくみさんと北条さん、黒木場さんに加えて極星寮の皆さんも全て十傑の方々との勝負に敗北されて、退学が決まってしまったのでした。

 

「そ、そんな……、まさか皆さんが……」

 

 必ず皆さんで二年生になろうと頑張っていましたのに……。こんなことって……。

 

「おー、お前ら。よそのルートのことばっか心配してていいのかよー? アリスちゃんと田所ちゃんの相手……、このりんどー先輩だったんだぜ?」

 

「えりなさん!」

 

 さらに竜胆先輩が現れて、アリスさんと恵さんまでも敗北されたようなことを匂わせます。

 えりなさんはそれを聞いて、彼女らの会場へと走り出したので、わたくしも彼女を追いかけました。

 

 

「あ、あれ………? ふ、二人とも結果は……?」

 

「あ、あの、それが……」

「ちょっと、えりな〜、聞きなさいよ〜。りんどー先輩ったら――」

 

 結論から申しますと、お二人とも無事に試験を突破されておりました。

 竜胆先輩の三次試験は“彼女に美味いって言わす料理を出す事”だったとのことです。

 十傑とのガチ対決とは言ったけど、料理勝負とは言ってないという理屈みたいでした。

 

 竜胆先輩は彼女らの料理を食べると簡単に美味しいと仰って合格にしてくれたそうです。

 

「やはり、竜胆先輩は敵って感じがしませんわね……」

 

「そうだったの……、少なくとも あなたたちだけは、生き残ってくれたのね……」

 

「ちょっと待ちなさい。それってどういうことよ!」

 

「えりなさん! 私たち“だけ”って?」

 

 アリスさんも恵さんもえりなさんの態度から良くないことが起きたことを察したみたいです。

 わたくしたちは彼女たちに皆さんの退学が決まってしまったことを告げました。

 

「そう……、つまり、私たち以外のルートに進んだ反逆者たちは皆、すでに退学になってしまったのね……、リョウくんまで……」

 

「み、みんな退学になっちゃうの……? そ、そんなの嫌だよ……」

 

「……くっ、情けない。自分の身を守るだけが精一杯だったなんて……」

 

「緋沙子……」

 

 この事実はわたくしたちを絶望させるには十分過ぎるほどでした。

 皆さんで力を合わせて乗り切ろうと全力で手を尽くしましたのに……。その努力が崩れ落ちてしまったからです。

 

 何か逆転出来る手段は――皆さんが十傑に敗れたことを無かったことに出来るような……。

 

 ちょっと待ってください……。

 十傑……? そうです。十傑なら――。

 

「…… あ、あのう。遠月十傑になれば、学園のこと好きにできるのですよね?」

 

「えっ……?」

 

「ですから、ここに既に十傑のえりなさんを除いて在校生が4人居ます。十傑は葉山さんが抜けられるので、全部で9人……」

 

「ま、まさか。ソアラさん……」

 

「ソアラ、何を言おうとしているのだ? 結論を言え!」

 

「ですから、その“席”さえ勝ち取れば退学も含めて全部まるごと覆せることが可能ということです。つまり、わたくしたちで十傑の席の過半数を奪ってしまおうと申しております」

 

 わたくしは十傑の力を手に入れて、この状況を逆転させようと提案しました。

 学園の頂点である十傑には退学を取り消すくらいの力があるはずです。すなわち、わたくしと恵さん、緋沙子さんとアリスさんの4人が十傑になれば、えりなさんを加えて5人――9人中、5人ということは、つまり過半数に達するのです。

 

「わお! 食戟で席次を奪っちゃおうって言うことね。それは愉快な作戦じゃない。良いわね、やりましょう」

 

「無理だべ〜〜。ソアラさん。そ、想像も出来ねぇだぁ〜〜」

 

「食戟の勝ち負け以前にソアラよ、食戟には双方の合意がいるのを忘れてないか? 何か、交換できるカードを持っているとでも言うのか、貴様は……」

 

 わたくしの提案に、アリスさんは目を輝かせて、恵さんは不安そうな顔をされ、緋沙子さんは冷静な意見を言われます。

 

 そう、まさにこの話の核は緋沙子さんの言われた双方の合意を得るという所にありました。

 セントラル側が十傑の座を賭けるメリットが無くては話にならないからです。

 

「持ってません。セントラルがわたくしを手に入れようとしているなら、身を売ることくらいしか」

 

「身を売る? ダメよ、ソアラ! そんなこと、私が許しません!」

 

 わたくしは自分が負けた場合はセントラルに生涯忠誠を尽くすという条件で何とか薊さんに交渉を持ち掛けようと考えました。

 しかし、えりなさんが泣きそうな顔をされてそれを止めるように仰せになります。

 

「でも、それくらいしか方法は……」

 

「ソアラちゃん、泣かせるね〜。そんな人身売買みたいな条件出すのはすげぇし、面白いけどさ。それでも、無理だと思うぜ」

 

「竜胆先輩……」

 

 いつの間にか、話を聞いていらっしゃった竜胆先輩はわたくし自身を賭けたとしても難しいと言われました。

 確かにわたくし一人の人生の価値など大したことないですから、現実的ではないかもしれません。でも――。

 

「えりなちゃんも、まぁ……、どんまい! お友達のことは諦めてくれよなー」

 

「とにかくソアラの案だけは認められない。それなら、外聞なんかもう構っていられないわ。私から、皆さんの退学を取り下げてもらえるよう、お父様にお願いすれば、聞き入れて下さるかもしれない……! でも、お父様は今はどこに……?」

 

 憔悴されたえりなさんは、自分が父親である薊さんに頭を下げれば、退学を取り下げられるかもしれないと考え、彼を探すことにされたみたいです。

 そのような情が通じれば、そもそもこのような強硬手段に出られないような気がしますが……。

 

「薊そーすいなら今ちょうどここに来てるぜ」

 

「この会場に……?」

 

「進級試験の各会場を回って状況視察してる最中なんだ。話したいなら急いだ方がいーぜ、多分まもなく、自家用(プライベート)ヘリで次の会場に飛び立つ時間だ」

 

「――っ!?」

 

 竜胆先輩が薊さんが間もなくヘリコプターでこの場所から移動されると仰ると、えりなさんは急いでヘリポートに向かって駆け出しました。

 

「えりなさん! お待ちください!」

 

 わたくしたちも彼女を追って薊さんのところへと向かいます。

 彼女の説得でもダメならば、やはりわたくしが――。

 

 

「お父様! あの………、 お父様……!」

 

「何だい、えりな。まだそんな連中と一緒にいたのか。あと数日中にはそこにいる者たちももれなく退学になる。幸平創愛を除いてね。いい加減、見限りなさい。………まぁ、フリーダムな試験を行う者さえいなければだが……。小林、次の会場では君は謹慎しててもらうからね」

 

「だってー 、あたしが蹴落とさなくたって、どーせいずれ誰かが蹴落とすもんー」

 

 わたくしたちに気付いた薊さんは相変わらず淡々とした口調でえりなさんに皆さんとの関係を切るように告げ、手心を加えられた竜胆先輩に謹慎を命じました。

 これは、やはり彼の心を動かすことは難しい気がします。

 

「……お、お父様! その……… 、三次試験で不合格になった生徒たちですが……どうか……、どうか皆に……寛大な処置をお願いしたく……、どうかお願いします! お父様……! 皆を……、返して下さい!」

 

「予定が押してるな 急ごう」

「はい、薊様」

 

 そして、えりなさんは涙ながらに薊さんに訴えますが、薊さんはやはり彼女の訴えに聞く耳を持たず、ヘリコプターに乗り込もうとされました。

 

「えりなさん、やはり、皿で決着つけるしかないみたいです」

 

「ソアラ……」

 

「薊総帥! あなたが語るセントラルの思想は緋沙子さんや恵さん、それにアリスさんが残っている時点で、絶対正しいなんて証明できてないのです。ですから、十傑の過半数を賭けた食戟をしませんか? わたくしは人生を賭ける覚悟は出来てます」

 

 わたくしは何とかセントラルの思想の矛盾点を語り、自分の人生と引き換えに十傑の過半数を賭けた食戟に応じてもらえるように薊さんにお願いします。

 

 彼がわたくしをセントラルに入れたいと望んでいるならば、交渉に応じてもらえるという小さな望みに縋る思いで必死に訴えました。

 

「はぁ……、なるほど。君の人生を賭けるときたか。幸平創愛、確かに君は魅力的だ。何としてでも欲しいと思っているよ。でも、それでも十傑の過半数と比べたら不足している」

 

 

 薊総帥はわたくしの人生ではやはり不足していると答えられました。 

 ダメですか……。口惜しいですが、もうわたくしには打つ手が――。

 

 ――そのときです。大きな手がわたくしの頭に触れました。この手は見なくても誰の手かわかります。

 まさか、この場面で彼が来るなんて――。

 

「おいこらぁ! 中村、くそバカヤロー! 俺の可愛い、可愛い、世界一可愛くて大事な一人娘の人生が不足だとぉぉぉ! んなわけあるかぁぁぁ!」

 

「「――っ!?」」

 

「才波様!?」

「それにお祖父様まで!?」

 

 そう、現れたのはわたくしの父、幸平城一郎。さらに、薙切仙左衛門さんまでいらっしゃいました。

 えりなさんもアリスさんも目を丸くされています。

 

「というか、ウチの娘に何言わせてんだ! クソッタレがぁぁぁ!」

「ちょっと、お父様! 薊総帥に殴りかかってはなりません! 何をやってますの!?」 

 

 父は怒り心頭で、薊さんに殴りかかろうとされましたので、わたくしは彼の腕を掴んで父を止めます。

 

「離してくれ、ソアラちゃん! 俺はあいつを殴らにゃ気が済まん!」

「久しぶりに顔を見せるなり、バカなことを言わないでくださいまし。何をしに来られましたの?」

「城一郎、落ち着け! さっそく娘に迷惑をかけておるではないか!」

 

 わたくしと仙左衛門さんでどうにか父を落ち着かせて、薊さんへの暴行を引き止めることが出来ました。

 こんなところで警察沙汰は勘弁して頂きたいです。本当に何をしに来られたのでしょう……。

 

「才波様……、おじい様……、どうしてここへ……?」

 

「……やあ、えりなちゃん……、大きくなったな。割って入ってわるいね。俺からも……、君の親父に話があるんだ」

 

 不思議そうな表情をされている、えりなさんに父は優しく微笑みかけました。

 あれだけ暴れようとして、今さら紳士的になっても無駄ですよ……。

 

「殴っちゃダメですよ」

 

「わーってるって、さっきのは冗談だよ。冗談。おい、中村ぁ、ソアラちゃんの提案、捨てたもんじゃねーと思うぜ? もちろん、人生云々ってのは論外だがよぉ。だから例のやつやらせよーや」

 

「は……?」

 

 父は薊さんにわたくしの提案を受けるように声をかけます。

 例のやつとはなんでしょう……。

 

「団体戦だよ――。“連隊食戟(レジマン・ド・キュイジーヌ)だ!」

 

 父は薊さんに団体戦を提案しました。

 連隊食戟(レジマン・ド・キュイジーヌ)――後で知りましたが、それは、同一の信念を掲げる料理人たちが集団対集団でぶつかり合う遠月伝統の変則食戟だそうです。

 

 遠月学園の頂点である十傑との全面対決が幕を開けようとしました――。

 




概ね原作通りなので、箸休め的な回になりましたね。
連隊食戟のメンバーを変えたので、面白く出来るように頑張りたいです。
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