【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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熱いアリスも良いかと思いまして描いてみました。
アリスが主人公ムーブする回です。


連隊食戟(レジマン・ド・キュイジーヌ)――薙切アリスVS斎藤綜明

「残るカードは、斎藤綜明先輩対薙切アリス! お題はバターです!」

 

 3rd BOUTも残るは一組、アリスさんの戦いを残すのみとなりました。

 バターがテーマですか……。副食材がお題ですと範囲が広すぎて何を作ろうか迷うところですね……。

 

「バターを生かした料理って具体的にはどんな品なのかな?」

「白身魚やほたてのバター焼きとか?」

「それってバターが主役って言えるのか?」

「じゃあじゃがバターとか!」

「シンプルすぎるわね。あの薙切アリスがそんな地味で素朴な品を作るとは思えないわ」

「そだねー。恵じゃないんだし――」

 

「じゃがバターで先輩を叩き潰して上げましょう! 蕩けさせてあげるから期待してください」

 

「「えっ!?」」

 

 何と、アリスさんはじゃがバターで斉藤先輩に勝つと宣言されます。

 何ともシンプルで大胆な攻め方をされるのでしょうか……。

 

「お嬢がじゃがバター? こりゃ、どういう趣向だ?」

「茜ヶ久保先輩みたいに見た目にも拘りそうなのに……」

 

 アリスさんをよく知る黒木場さんは彼女らしくない解答に首を傾げます。

 分子ガストロノミーを得意とする彼女は味が良いことはもちろん。その上で華やかな見た目の調理を好みますから、無理もありません。

 

「いえ、このお題に対して最もシンプルな解答を選ぶというのはむしろ大正解と言っても良いわ」

 

「そうですね。答えがシンプルであればあるほど、逆に試されるのは技量と発想力。アリス嬢の実力がそのまま品に反映するということですから。品を高めることに集中できます」

 

 そう、バターがお題でじゃがバターを思いつくことに関しては不正解ではありません。

 むしろ、本質を突くのなら絶対に正解です。

 

 しかし、そのありきたりな答えで、“どんな品を創り出し評価されるのか”に関しては料理人の力が素直に試されます。

 つまり、余程自分の力に自信がないと出せない答えなのです。

 

「アリスさんは特訓を経て、わたくしたちの中で一番料理のスタイルが変わられましたよね。何ていうか、調理技術や知識を魅せるやり方でなくて、本質を突くようになったというか」

 

「昔から覚えたことを見せたいという思いが空回りすることが多かったわ。選抜時にはあなたとの技量の差はほとんどなかったのにそれが敗因で敗れているし」

 

「きっと今日のアリスさんは真剣にお題と向き合ってじゃがバターという答えに辿り着いたのでしょう。どのような品になるのか楽しみですわ」

 

 そもそも、特訓の後半から彼女にはそんな傾向がありました。

 真正面からテーマとぶつかり自分の力を最大限に叩きつけるような――そんな戦い方を彼女は選択するようになったのです。

 

「ソアラさん、斉藤先輩が――」

 

「せいやっ!」

 

「あれはオレンジですか?」

「大量のオレンジを絞り始めただと!?」

 

「なるほどね。どうやら斎藤さんの狙いは――」

 

 斉藤先輩はオレンジで何をするつもりなのでしょう? えりなさんはいち早く狙いに気付かれたみたいですが……。

 

「これは完成がさらに気になるところ! さて薙切アリスはどんな調理を行っているのでしょう?」

 

「アリスさん、じゃがいもを塩水の中に入れていますね」

 

「じゃがいもの中のデンプンの含有量を調べているのよ。アリスの使っている男爵いもは前にも講義で話したように比較的にデンプンの量がメークイン系のものよりも多いわ。しかし、それでも目には見えない個体差があるの。彼女は塩水に入れて浮いているようなデンプンの含有量が少ないものをああやって排除してるのよ」

 

 アリスさんが選んだじゃがいもは男爵いも系統のものでした。

 デンプンを多く含むそれの中でもより多くの含有量のモノを判別するために塩水に入れているみたいです。

 

「素材の選び方から慎重なのですね。じゃがいもを茹でるようですが、その前にスライスしています。じゃがバターを作ると言ってましたが……」

 

「読めたわ。アリスは“マッシュポテト”を作るつもりなのよ。その過程でバターとじゃがいもを合わせるわけだから。じゃがバターと言っても間違いじゃないわ」

 

「な、なるほど。しかし、えりな様、マッシュポテトを作るにせよ、そのまま茹でるのはまずいことなのでしょうか?」

 

「マッシュポテトを作る上で最も重要なミッションは“細胞を破壊させないこと”。細胞が破壊されるとそれだけで食感が台無しになってしまうの。ある論文では1.65cmから1.95cmの幅でスライスすることが最も適当だと言われていたわ。さらに細胞が壊れないぎりぎりの72℃のお湯で茹でるのよ。そうすることによってバターと合わせると“究極のマッシュポテト”と呼ばれるほどの滑らかな舌ざわりの品が出来るの」

 

 アリスさんはバターを使ってじゃがいもと合わせてマッシュポテトを作ろうとされています。

 えりなさんは細胞を壊さないように調理をすることが肝要だと述べてますが、そのためには知っておかなくてはならない知識がかなり多そうです。

 

 究極のマッシュポテト――何とも美味しそうですが……。

 

「アリスさんがじゃがいもにバターを投入しましたね」

 

「贅沢に使うな。じゃがいもの量の半分くらい入れてるぞ」

 

「一方、斎藤先輩はにんにくの香りを立たせてから醤油、イカ、そしてイカの肝を投入しています」

「海産物特有のゴージャスな潮の香りをバターの濃厚な風味でさらに高まってるよ」

 

「ここからが調理の本番……」

「瞬きすら許されないつばぜり合いの開始だ」

 

 アリスさんと斉藤先輩は共にバターを使って調理を開始されました。

 会場中にバターの良い香りが充満して、お腹が空いてきます。

 斉藤先輩のあの雰囲気、そして一色先輩にも勝利されたあの技量……。間違いなくここからさらに怒涛の攻めがやって来そうです。

 

「対峙している俺にはわかる……、お主は真の刃をまだ抜いておらぬな」

 

「あら、それはどうかしら? 先輩の刃は随分と切れ味が鋭そうですわね」

 

「それを見抜いて尚、その表情。あるのだな、お主には。俺以上の強敵と戦った経験が」

 

「強敵との戦いねぇ……。頂点を極めるなら当然経験しなきゃならないでしょ」

 

「ふはははっ! 頂点ときたか! やはり面白い娘だ! 薙切アリスよ! 先に抜かぬならこちらから参るぞ!」

 

 斉藤先輩はアリスさんと会話をされたかと思うと上機嫌そうに笑い出し、恐るべきスピードで品を完成させました。

 

 あ、あの品は――バターがお題でそう来られましたか……。

 

「斉藤先輩が品を完成させたみたいです」

 

「さぁ! 俺が繰り出すこの刃! 果たして受けきれるか!?」

 

「バターのコクが濃縮した熱気立ち上る鮭のムニエル! にんにくと醤油が耽美に香るイカの肝炒め! そしてプリップリに弾けんばかりの醤油漬けのイクラ! 超一流の素材が勢揃いだ! 斎藤先輩が作り上げた珠玉のバター海鮮丼!」

 

 先輩が作ったメニューは海鮮丼でした。あれだけ強い食材にバターまで使われて、きちんと調和出来ているのでしょうか……。

 もしそれが成し遂げられているのなら……、あの海鮮丼の破壊力はとんでもない強さになっているはずです。

 

「ちょっと悠姫……、よだれ……」

「だって仕方ないじゃ~ん」

 

「存分に切り結ぼうぞ。薙切アリスよ!」

 

 斉藤先輩のあの眼光――完璧な品を作ったという自信から来るものですわね……。

 

 そして、審査員の方々が実食を開始します。

 

「箸でムニエルを割った瞬間さらに熱気が! 期待で私の体まで火照ってきます! 来る! 波が来ます!」

 

「バターの白波に乗って魚介達の輝きが!」

「舌の上へと降り注いでくる!」 

 

「「箸が止まらない!」」

 

 審査員の皆さんは夢中になって海鮮丼を食べています。

 この釘付けられようは尋常ではありません。

 海鮮丼のクオリティの高さがそれだけで推し量ることが出来ます。

 

「じっくりと焼き上げた鮭…小麦粉に僅かに含まれる糖分がバターと化学反応し見事な香ばしさの完璧なムニエルに仕上がっている!」

 

「イカ肝の塩っ気と心地よい苦みをバター風味が丸く包み込んでくれています!」

 

「イクラの醤油漬けにはざくろととんぶりが和えてる! バターによって異なる三種が違和感なく融合!」

 

「そしてバターをふんだんに使っているのに味がくどくないのは酢飯にも重大な秘密がある」

 

 斉藤先輩の海鮮丼の具材はすべてがバターとの調和を織りなしていました。

 それだけでも凄いのですが、その上で味はまったくくどくなっていない様なのです。どうやら、酢飯に秘密があるみたいですが……。

 

「オレンジ果汁とレモン果汁で作られた特製の酢飯!」

 

「あの大量のオレンジはそのためか!」

 

「脂がたっぷり乗った海鮮に油の塊のバターをただ合わせるだけでは当然しつこくなる。それを感じさせない軽快な風味を作り上げるためにさわやかさを強めるオレンジを使ったんだ」

 

「フレンチなどで使う古典的なソースにもバターとオレンジを合わせたものが多い……、バターを活かすために酢飯にまで目を光らせるとは!」

 

 なるほど、オレンジを使った理由はそれでしたか。

 斉藤先輩はバターをとにかく活かしきって全体を調和させたということですね。

 

「強烈なバターの香りを彩る極上の効果だ」

「確かに最大限まで高めていやがる」

 

「まるで己の携える刀に全霊を込めて戦う武士のたたずまいそのものだ」

 

「あ、あの海鮮丼。すっごく食べてみたいですわ……」

「ソアラさん、丼物好きだもんね」

「言ってる場合か! こ、これは究極のマッシュポテトくらいじゃ勝てないのでは――?」

 

 斉藤先輩は寿司が本分だからこそ、バターの扱いにも長けていると自負されました。

 というよりも、魚を活かすために酢や塩など様々な副食材を扱うので、副食材全般的に彼は操ることが長けているのだそうです。

 

 さらに一色先輩曰く、斉藤先輩はお母様が修行中に倒れられるという家庭の事情から中学生の頃から実家の寿司屋を切り盛りすることになり、魚という刀一本で成り上がり続けた背景がある方だと仰っておりました。

 

 なるほど、彼の料理は業物の刀も同然――その切れ味で食べる者すべてを一刀両断にされています。

 

「まぁ! 凄い切れ味ですこと。斉藤先輩のお料理」

 

「ぬっ、少しも動じておらぬだと……」

 

「いえいえ、とぉーっても驚いていますよ。なぜ、これだけの方が薊おじさまなんかに賛成しているってことに。私は不思議でなりませんわ」

 

 アリスさんは斉藤先輩の実力を認めてられて、それほどの方が薊政権に賛同されていることに疑問を持っているみたいです。

 確かに彼のような境遇の方が薊さんのやり方に同意するのは不自然な気もします。

 

「……この変革に加わったのは武士道を重んじ守るべき弱き者のため」

 

「ふーん、弱い人のためねぇ。でもそれなら私も同じことよ。もっと自由に、そして真剣に皿と向かい合えるようなそんな世界――そのために私はこの品をぶつけます。――ふふっ、おあがりください! 究極のマッシュバターポテトの巻寿司です!」

 

「あの食の魔王の血族の方の調理――実は楽しみにしておりました。どれ、拝見させてもらいますよ」

 

 アリスさんが出したメニューはマッシュポテトを海苔で巻いた太巻き寿司です。

 これは、何とまぁ。意外性のある品を出されましたね……。

 

「マッシュポテトを巻寿司に!? 米は使わずにそのまま海苔で巻いたのか」

「しかし、このマッシュポテトは究極と言っても差し支えないほどの理想形をしていますね。ここまで、粘り気がなくそれでいて滑らかで柔らかい品は相当科学的な知識と技量が無いと完成させることは出来ません」

「それにしても、いい香りだ! バターの風味がストレートに嗅覚を刺激してくる!」

 

「しかし、先ほどの海鮮丼と比べれば見た目のインパクトには欠けているね」

「問題は味なのです。食べてみましょう」

 

「はむっ……、――っ!?」

 

 アリスさんの巻寿司はバターの風味が香りだけで伝わるものの、見た目の華やかさでは斉藤先輩の豪勢な海鮮丼に及びません。

 しかし、審査員の方々はそれをひと口頬張るだけで顔色が急変しました。

 

「んんんっ……、あんっ……、こ、これは……、何てことでしょう……! こんな複雑な食感で、それでいて鮮烈にバターの風味が口の中で破裂するような……! この品にはじゃがいもこそ、バターの最高の伴侶だと……、ひと口で納得させるようなパワーがあります……」

 

「パリッとした海苔の食感とサラッとした滑らかなマッシュポテトの食感……、これらのクッションとなっているのは――りんごだ! シャリッとした、すりおろしたりんごをマッシュポテトと海苔の間にまとわせている!」

 

 アリスさんの品は食感とともに鮮烈なバターの風味が伝わるような構造をされている品の様でした。

 すりおろしたりんごというのは、恵さんが渡していたものでしょう。

 

「それだけじゃない。マッシュポテトの中にはいくらのような食感がするものが入っているんだ! そこから恐ろしいほどのバターの風味が飛び出てくる! これって――」

 

「アルギニン酸ナトリウムとピロリン酸ナトリウムを使って融解したバターを粒状にしました。このメニューの肝は食感――咀嚼した最後に弾けるバターの風味が最高の後味を残してくれるはずです」

 

「あれって、ソアラが秋の選抜の一回戦で使った――」

「ええ、知育菓子をヒントに海苔をいくら状にしたのと、同じ理屈ですわ」

「アリス嬢も敗戦から学んだということか!?」

 

 さらにわたくしが彼女との試合で海苔をいくら状にしたのと同じやり方でバターのいくらを作り、それを咀嚼した最後に破裂するように仕掛けられたみたいです。

 これは、ひと口食べるごとにバターの力強い風味が最大に押し寄せるような品になっていますね。

 

「何という食感の四重奏! 恐ろしいことに旨味を味わう順番から食感を楽しむ順番がすべてマッチしていて、最高レベルに素材の良さを引き出していることです」

 

「しかもこのバターは斎藤綜明の使っていたものとは明らかにコクが違うし、風味も独特の強さがある」

 

「これは、おそらく“発酵バター”を使いましたね」

 

 さらに、アリスさんの品の秘密はバターにありました。

 アリスさんが使ったのは“発酵バター”という最近はパンに塗ったり、お菓子に使われたりされて注目されている製品です。

 

「ええ、発酵バターには乳酸菌が多く含まれておりますから。古来のヨーロッパでは技術が未熟でしたので、自然と発酵が進んでしまい、それが独特の風味とコクを生み出して親しまれていたのです。現代では技術が進み発酵していないものが主流なのですが、技術が未発達だからこそ起こり得る化学反応が魅せる美味というものもございますの」

 

「美味し過ぎて、おいしすぎて……、声を抑えられない……! んっ、んんっ……、あんっ……、ああああああ~ん!」

 

 ストレートにバターの力強さを伝えるために、あの斉藤先輩の魚という刀に真っ直ぐと挑んだアリスさん。

 一撃必殺のような何とも大胆でシンプルでそれでいて鋭い料理です。

 

「抜刀! 否、これは刀に非ず――まるで極限まで鋭く研ぎ澄まされた一振りの矛! すべてを真正面から貫かんとする無双の一閃! お主……、何故だ? 何故ここまで強く真っ直ぐに……」

 

「あまり申し上げたくないですが……、毎日負けていたからですわ。斉藤先輩よりも強い相手に――! でも、私は諦めたくない! 何度涙を流そうとも、ボロボロに切り裂かれようとも、立ち止まると私は私じゃなくなるから! 頂点を目指すなら、すべてを正面から突き破るだけです!」

 

「負けぬために刃を磨き上げてきた俺に対して、勝つために負けた経験で磨き上げた矛を突き立てるお主もまた武士道を極めし武士というわけか!」

 

「ブシドーというのが何だか私にはよくわかりませんが、私は負けず嫌いで、わがままですから、全部が思い通りにならないと気が済みませんの。ですから、何としてでもまかり通らせて頂きます。私の覇道を――」

 

 どこまでもひたむきで、誰よりも負けず嫌いなアリスさんは、皿に込める熱量がドンドン増しておりました。

 きっと、彼女には頂点を取って守りたいものがあるからでしょう――。

 

「ふっ、お主のような蛮勇を負かすような者がおるとは恐ろしい。しかし、その生き様や清々しく実に潔し。武士道でも俺の完敗だ……」

 

「満場一致! 勝者は反逆者連合――薙切アリス!」

 

「私を負かすような人……。いつか必ず……。でも、今日のところは、ふぅ……、お粗末様です――」

 

 アリスさんはチラッとわたくしの方を見つめて、肩をなでおろしてこちらに戻ってこられました。

 最近の彼女は鬼気迫るモノを感じることがあります。美食の王道を極めようとするアリスさんの強さが今日は遺憾なく発揮されていましたね……。

 

 

「な、な、なんと! 薙切アリスが十傑第四席の斎藤綜明を下しました!」

 

「凄い……、凄いよ、アリスさん……。あんなに強かった斉藤先輩に勝つなんて――」

 

「それは、違うわ。田所さん。私たちはチームで勝った。そうでしょ?」

「そのとおりだ。アリス嬢が勝った要因には当然、田所さんも入っているのだからな」

 

「三人とも〜! 凄かったよ〜!」

「すげぇな! 十傑相手に一歩も引かないなんてよぉ!」

 

 そう、この戦いは三人のチームでの戦いでした。恵さんは確かに負けたかもしれませんが、サポート面で残りの2勝に貢献しております。

 ともかく、これで人数は4対3となり、早ければ次で決着がつくところまできました。

 

「お嬢、お疲れっす……、次は出られるんすか?」

「正直、休みたいけどね。余力は残しといたわ。次も出る」

「へぇ、シンプルなマッシュポテトを選んだのは力を温存するためっすか」

 

「両陣営は控え室に戻り、4th BOUTのメンバー会議に入ってください!」

 

 アリスさんは次も出られると仰ってましたけど、4人の中から3人は出さなくてはなりませんから、誰を残すかという話になりそうですわね……。

 

「残る敵は十傑第一、二、三席、こちら側は私とアリス嬢は連戦となり、ソアラとえりな様は――」

 

「私が出るわ。確実に敵を倒すために」 

 

「えりな様……」

 

「ダメよ! えりなは最後まで温存するの!」

 

 次の試合、えりなさんが出られると口にするとアリスさんはそれを否定します。

 えりなさんはこの4人の中で最強の料理人です。敵側が最大戦力なら出し惜しみをされない方が良い気もしますが……。

 

「アリス、今、持てる最大戦力で挑まなくてどうするのよ?」

 

「これは、連隊でしょう? リーダーが必ず勝てるようにお膳立てしてあげるわよ」

 

「アリスさん……、まさか……」

 

「私と緋沙子ちゃんで第一席と第二席を最低でも出来るだけ弱らせる。もちろん勝つ気でやるけどね。そして、連戦になる可能性があるなら、この中で一番体力がある幸平さんが出た方がいい」

 

 アリスさんの仰り様はまるで捨て身になって、司先輩と竜胆先輩を消耗させて5th BOUTで決着をつけようと言っているように聞こえました。

 わたくしが茜ヶ久保先輩に勝つことが大前提なのですが……。

 

「お嬢、捨て駒になるつもりっすか……?」

「むぅ〜、馬鹿言わないでよ、リョウくん。せっかく上手く話をつけて、司先輩を倒して頂点に上り詰めるつもりだったのに」

 

「薙切アリス、あんた今後に及んでそんなこと――」

 

「いえ、アリス。お願いできるかしら? 司瑛士の相手を――」

 

 アリスさんの力強い目をご覧になり、えりなさんはセントラル最強の料理人である司先輩の相手を彼女に託します。

 アリスさんの覚悟を汲んだのでしょう。ああやって飄々としておりますが、彼女は冷静な計算が出来る方ですから――。

 

「任せてちょうだい。今の私は絶好調なんだから」

 

「しかし、ソアラさんの相手はあの茜ヶ久保ももだ……。今の話だと最低でも彼女が勝つことが前提のような……」

 

「ソアラ、茜ヶ久保さんに勝てる自信はありますか? 無ければ私が――」

 

「いえ、わたくしが出ますわ。茜ヶ久保先輩と試合してみたいです。えりなさん、次の試合ではわたくしは()()を使いますが構いませんね?」

 

 えりなさんはわたくしが勝てる自信が無いなら、自分が出ると仰られましたが、それだとアリスさんの覚悟を台無しにしてしまいます。

 ですから、わたくしは特訓中に使えるようになったある技法を使って良いのか、えりなさんに許可を貰うことにしました。

 

「――っ!? ふぅ……、使い過ぎないようにしなさいよ。連戦になる可能性もあるのだから。そもそも、私と組んだ時しか使わない約束なんだし」

 

「すみません。でも、必ず勝たなくてはなりませんので……」

 

 えりなさんに使用許可を得て、わたくしは茜ヶ久保先輩に勝とうと心に誓い会場を目指しました。

 連隊食戟も終盤になり、敵は強大……。ここから先はさらに厳しい戦いになりそうですね……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ソアラちゃーん、おはようさん! ほら、この通り竜胆先輩が復活したぞー! 喜べ!」

 

「敵だと思うと素直に喜べない気もしますが、おめでとうございます」

 

「相変わらず固いなー。ソアラちゃんは、でもそんな所がマジで可愛いぜ。4th BOUTはあたしとやるか?」

 

「幸平さんが出てくるのは予想がついたけど……、薙切えりなはまだ温存か……。意外だな。幸平さん、この前の決着を俺とつけようか?」

 

 会場に着くと、復活した竜胆先輩に抱きしめられ、司先輩にも声をかけられました

 お二人はわたくしと試合をしたいと仰っていますが――。

 

「いえ、そのう。今回、わたくしが対戦したい方は――」 

 

「ソアりゃんがももの相手……。やめといた方がいいよ。今ちょっと、心がトゲトゲしてるから――約束通り加減してあげられないかも」

 

「まぁ、お約束を覚えていらしたのですね。お気遣いは無用ですわ。楽しい試合にしましょう」

 

 4th BOUTでのわたくしの相手は遠月学園の十傑、第三席、茜ヶ久保もも先輩です。

 お題は“黒糖”に決まりました。またもやパティシエである彼女に馴染みの深い食材ですね……。

 これは心してかからないと一瞬で負けてしまいます。

 

 しかし、わたくしはそんなこと以上に茜ヶ久保先輩との試合が楽しみで仕方なくなっておりました――。

 どうして、凄い料理人と対峙すると自然に嬉しくなってしまうのでしょう――。

 

 




相変わらず、分子ガストロノミーの申し子とかいう設定が難しすぎました。
料理は色々と科学的な事とか調べたりして書いてみたんですけど、やっぱりイマイチという感じです。雰囲気が伝わればよいのですが……。
アリスの実力は一応覚醒したということで原作以上になりました。1年生ではえりな、ソアラに次いで三番手で強キャラに返り咲きという感じにしようと思ってます。
少しでも面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録や感想などして頂けると嬉しいです。
あと、4th BOUTのアリスと秘書子の調理は執筆時間とテンポの関係上、ダイジェストにしますので、ご了承ください。

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