【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら 作:ルピーの指輪
4th BOUTの組み合わせとお題が決ました。
アリスさんと司先輩は“野うさぎ”、緋沙子さんと竜胆先輩は“ヤリイカ”、そしてわたくしと茜ヶ久保先輩は“黒糖”とテーマが決まり、それぞれが品の調理に取り掛かります。
「さぁブッチー。素敵な品を作ってイライラを吹き飛ばそう。その勢いでソアりゃんをやっつけちゃおっか」
「おー! なんじゃありゃー!?」
「めっちゃカラフルなペースト生地がボールにたくさん!」
「いちご、抹茶、ココア、ブルーベリー、黒胡麻等々で色を付けたようね。まるで鮮やかな色がきらめくパレットね」
茜ヶ久保先輩は色とりどりのペースト生地を用意されております。
彩りが豊かなスイーツを作るのでしょうがそれにしても色のバリエーションが多いですね。
「おいしく食べれちゃう絵の具さんでお絵描きタイムスタート!」
「ファンシーなイラストを次々完成させていく!」
「どうなっているのだ!? あのスピードは!」
「全部一発描き! どれだけ描き慣れてやがんだ!」
そして、彼女は恐ろしいほどのスピードで可愛らしいイラストを次々と描いております。
絵心まであるとは、茜ヶ久保先輩は確かに可愛いを極めていらっしゃる……。
「描けたものから約3分オーブンで焼いて~――その上から黒糖を混ぜ込んだ生地を流し込~む」
「どうやら作ってるのはロールケーキのようですね」
「日本ではポピュラーなイラスト付きのものか!」
「そうなると意外に素朴な品なのかな? 先ほどの豪華なタルトに比べれば」
「飾り付けもかわい~くかわい~く」
「あの技法はシュクル・ティレ! 飴の塊を適切な温度・柔らかさを保ち続けながら薄く均等に伸ばす」
「飴細工の技法の中でも最も艶を出せるテクニックですが難易度は極めて高い。なのにああも簡単そうに!」
「今回は調理過程でもかわいさに満ちた演出をちりばめている!」
茜ヶ久保先輩はどうやらロールケーキを作られるつもりみたいです。
先輩の調理技術の高さはもちろん、その演出も可愛らしく彼女らしさが全面に押し出されております。
しかしながら、このロールケーキの量はちょっと普通では――。
「ちょっと待って!」
「一体いくつ作るつもりだ!?」
「まだまだ足りないよねブッチー。もも店長のお菓子屋さんは大忙しだ~」
「さすがは茜ヶ久保先輩です……、さてわたくしも……」
茜ヶ久保先輩の調理に目を奪われたわたくしでしたが、どんな品を作るかようやく決まりましたので自分の調理に取りかかりました。
ボウルに卵と油ときび砂糖を入れてかき混ぜます。
わたくしも黒糖を使うならケーキが良いと思いましたので、自分なりのスイーツを作ることにしました。
さて、ここから集中します。えりなさんに許可を貰ったアレを使わなくては――。
「なんで、ソアラさんは目を瞑っているんだ?」
「茜ヶ久保さんはドンドン品を完成させているのに――」
「ソアラの特技はその記憶力とセンスによって成立させる模倣。あの子は才波様から次々と技術を吸収した――」
「確かにソアラ姐さんの技術というか、引き出しはそばの調理のときに思ったけど、相当増えているように感じた」
「でも、彼女が模倣出来るようになったのは技術だけじゃないのよ。ついにあの子は一瞬だけ可能にしたの。その超人的な記憶力とセンスで私の“神の舌”の模倣を!」
「「――っ!?」」
えりなさんの仰るとおり、わたくしは自分の記憶と勘を研ぎ澄ませて、ほんの一瞬だけ自らの味覚を鋭敏にすることを可能としました。
「んなこと可能なのかよ!?」
「だって、生まれながらの感覚だぞ! 真似しようったって真似しようが……」
「いや、あいつなら出来るかもしれない。スパイスを使うときも幸平は俺の嗅覚ににじり寄って遜色のない精度を見せていた」
「そういや、目利きも記憶力とセンスだけで完璧だったな」
「でも、この模倣は完璧な技じゃない。集中力を高めて、味覚が私の領域まで到達するのはほんの一瞬のみ。しかも、立て続けに使うと集中力が切れてしまって味覚の精度が数時間ほど、通常よりも落ちてしまう諸刃の刃。だから、ソアラには私の調理補助の時しか使わないように釘を刺しておいたの。まぁ、理由はそれだけじゃないけど」
一瞬だけえりなさんの“神の舌”に近づけるようになったおかげで、彼女の調理サポートの精度が跳ね上がり、お互いにお互いの品を高め合えるようになったのです。
今回の連隊食戟ではまだ組むことはなかったですが、えりなさんのお役に立てるようになれたことは喜ばしいことでした。
「で、その“神の舌”を真似てソアラって何を作ろうとしてるの?」
「そりゃ、“神の舌”だぜ。“神の舌”! 茜ヶ久保先輩にも負けないくらいゴージャスなもんを作るに決まってらぁ!」
「うーん。どうかなー。材料と作業を見てたら最初はケーキを作ろうとしてるんだと思ったけど」
「でも、あの黒糖のザラッとした感じでコーティングされて黒光りしている見た目ってすっごく見覚えのあるお菓子だ」
「ありゃあ“かりんとう”じゃねぇか?」
「ああ……、どっちかと言うと恵よりの品じゃん……」
「よく考えたら“神の舌”を使っても、頭の中身がソアラだかんね。それだけじゃ、えりなっちみたいにならないか」
「でも、まぁそこはソアラちゃんだから。味は最高のモノを作るはずさ」
皆さんの仰るとおり、わたくしは鋭敏になった味覚を最大限活かして、かりんとうをモチーフにした品を作っております。
だって、黒糖と言ったらかりんとうが最初に思いついたのですもの。でも、えりなさんなら、きっともっとおしゃれなメニューにされたのでしょうね……。
「どうやら4th BOUTで最初に実食に入るのは茜ケ久保先輩のようです!」
「わー! すごすぎー!」
「夢の国のお城みたーい!」
「「えぇ~!?」」
茜ヶ久保先輩の作った品は大量のロールケーキで作られた豪華絢爛なお城でした。
メルヘンチックで存在感が大きなその品は、圧倒的なインパクトを誇っております。
「素朴なんて言ってしまったがとんでもない! 慎ましさの欠片もないスケールじゃないか!」
「いやしかし! いくら見た目にインパクトがあろうが味がすべて!」
「ええ……、何もかも舌によるデリバレーション次第なのです……」
審査員の方々もあまりのスケールのロールケーキに目を丸くしていました。
味が大事なのはもちろんですが、茜ヶ久保先輩が遠月学園随一のパティシエだということはこの品を見れば一目瞭然でしょう。
「はっ! なんだこの上質な触感と甘美さは!? フォークで押すとふわふわと押し返してくる! とてつもなくボリューミーな弾力!」
「なのに食べるとその口どけは舌の上に霧雨がそっと降るように柔らかく優しい!」
「何よりこの奥深く染み渡るような甘さは何だ!?」
「その答えはこれだよ。生クリーム、きび砂糖、バニラエッセンス、そして醤油を合わせて泡立てたものを焼き上がった生地に塗り付けてからくるっと巻いて冷やしたんだよ。黒糖の味をもっともっとかわいくおいしくするためにね」
審査員の方々は味や食感も絶賛しておりました。
このロールケーキの美味しさの一番の秘密は醤油にあるみたいです。
「つまりこれはスイーツにしょっぱさの要素を合わせることで逆に甘さを際立たせる塩キャラメルに近い発想。独自の醤油クリームと呼ぶべき味付け方法なのです!」
「黒糖には普通の砂糖にはほとんど含まれないナトリウム・鉄分といった多くのミネラル分を含み独特の風味を持つ。その黒糖ならではの複雑な風味と醤油が持つコクが抜群に合っているのだ」
「一口ごとにフルーツを挟むと違った風味が弾けて楽しいよ。もちろんこの飴細工も食べられるから細かく砕いて舌にのせてから味わうとまた格別なの」
「驚愕です! 食べるたびに何度でも夢の国へ誘われる~!」
「森羅万象すべての可愛さに対する絶対的な嗅覚! 見た目・味共に完璧な品が完成した!」
醤油を利用して黒糖のコクと風味を存分に活かしたロールケーキ。
まさに茜ヶ久保先輩が可愛さにこだわり続けて作り上げた渾身の作品と言えるでしょう。さすがは遠月学園の第三席です……。
「果たして、この完璧なスイーツに対して幸平創愛はどう立ち向かうのでしょう!?」
「お待ちどうさまですわ。さぁ、おあがりくださいまし! ゆきひら謹製、“かりんとうケーキ・北の大地の恵を込めて”です!」
わたくしはかりんとうのように黒糖で表面がコーティングされた二段のケーキを出しました。
見栄えは茜ヶ久保先輩よりもかなり地味になってしまいましたが、何とか味で挽回したいです。
「だぁ〜〜! やっぱりかりんとうだぁ!」
「オシャレさの欠片もない! ビジュアルの破壊力ではあのお城に全然敵わない!」
「てか、あの城のビジュアルを超えるのって無理じゃね?」
「それ以前にあの子、なんでわざわざ遠月最強のパティシエである茜ヶ久保先輩に対してスイーツで挑んでんのよ〜〜!」
寮の皆さんは思いっきり不安そうな顔をされております。
えりなさんの“神の舌”を借り受けているので、負けるわけにはいかないのですが……。
「しかし、面白いな! かりんとうは和菓子だが、洋菓子であるケーキ仕立てにしてるとは」
「黒糖の良い香りがストレートに伝わってきて、さっきのロールケーキの後だと逆に素朴で癒やされるな」
「日本には侘び寂びという言葉もあります。質素だからこそ、キレイに見えるということもあるのです。焼き加減から何まで丁寧に仕上げられてますから、その黒光りする光沢はまるでブラックパールのような美しさです。さて、味はいかがでしょう?」
あ、あれ? 意外と見た目の評価も悪くはありませんの? 茜ヶ久保先輩の品のビジュアルが見事過ぎて、皆さんの感覚がビジュアル的に真逆のこの品を物珍しく感じるようになったのでしょうか……。
ともかく、三人の審査員の方たちはわたくしのケーキを実食されます。
そして、すぐにわたくしが仕込んだこのメニューの核となる部分に気が付きました。
「こ、これは!」
「ただのケーキではありません!」
「二枚のケーキの間に!」
「あんこが!」
「はい。それこそがこの一皿の主役ですの。小豆から練り上げ黒糖で調理を施した、特製の黒糖こしあんですわ。圧力鍋を使って風味を損なうことなく短時間で調理しました」
そう、わたくしは二枚のかりんとうケーキであんこを挟みました。
以前、実家の近所の方がお土産で持ってこられた“かりんとう饅頭”という菓子がこの品のヒントになっております。
かりんとうと、こしあんは実は大変相性が良いのです。
饅頭をケーキにまで発展させたので、さらに美味にするには工夫が必要でしたが……。
「2枚の生地の間にあんこを挟み込んだ一品……、つまり“どら焼き”ってことだな」
「厳選された十勝産の小豆が味の格調を否応にも高めている!」
「黒糖の風味をしっかりと包み込むまったく雑味のない甘み!」
「ソアラは私の持っている北海道の知識を全て記憶しているから、素材への理解度は完璧よ」
えりなさんのおかげで、わたくしは北海道の食材などの知識はかなり身につけることが出来ました。
どの素材を使えば、最も風味が活かせるのか教えてもらった知識を使って実践することで、こしあんは最高の仕上がりになったのです。
「見ろ! 麗ちゃんまで!」
「だ、駄目よ私……、審査員の方々があんなに美味しそうに食べてるからって……、あくまで毅然と司会実況を務めなきゃ~!」
「川島さんも召し上がってみますか? 以前のお詫びもありますし」
「ゆ、幸平さん? いいの? 私、あなたに酷いことを言ったのに」
「気にしていませんよ。川島さんには無理をさせてしまいましたから」
審査員の方々の様子をご覧になっていた川島さんが興味深そうにこの品を見ていらしたので、わたくしは彼女にも試食を勧めました。
「――じゃ、じゃあひと口だけっ……。あむっ……、んんんっ……、んっ……! そうだ。この子はいつもそうなの……。こうやって包み込むような甘さで……、人をダメにするような優しくて惹きつけられる美味しさで……! こんなに優しくされたら……、誰だって惚れちゃうでしょ〜〜」
「まぁ、川島さんったら、お上手ですわね」
川島さんは美味しそうにわたくしの作ったケーキを召し上がってくれました。
この試合が始まったときの刺々しい感じが消えて、とても愛らしい彼女に戻っています。
そんな様子をジィーっと見ていました茜ヶ久保先輩はわたくしのケーキを指さしました。
「その黒いスイーツ。ちょっとかわいいよ。だけど、もも的には90点。かりんとうとケーキを合わせるだけでカリッとした食感とふわっとした繊細なスポンジの食感で成立しているし、風味だって餡を入れたどら焼きじゃあ薄れちゃう。まぁ、それでも95点ってところだけど。やっぱり田所恵と変わらない地味なスイーツだし」
「そうですかぁ。茜ヶ久保先輩のロールケーキは先輩と同じでとぉっても可愛らしいですから。先輩がそう仰るのは尤もですわね。しかし――」
先輩としては、やはりこのケーキは地味すぎるみたいです。
しかし、こしあんを使ったことが失敗ということだけは違うと断言ができました。
「ですが、負けるのは茜ヶ久保さんのロールケーキですよ。ソアラが“神の舌”を使いこなせていたのなら」
「――っ!? “神の舌”? それはえりにゃんの代名詞でしょ? なんでソアりゃんが……」
わたくしと茜ヶ久保先輩の会話を遮るかのようにえりなさんは不敵な笑みを浮かべて先輩の負けを予想されました。
ええーっと、なんでえりなさんはそんな煽るようなことを――。
「美食の象徴とも言える“神の舌”の持ち主が二人居たとは知らなかったのです。しかし、それならこの神の啓示ともいうべき繊細なバランスで成り立った深い味わいは納得できます。そう、黒糖の餡の存在感が大きすぎて茜ヶ久保さんのロールケーキが霞んでしまうほどでした」
「えっ? 何を言っているの? こんなかりんとうにもものロールケーキが劣るとでも……?」
えりなさんに続いてアンさんがわたくしのかりんとうケーキを褒めてくださって、茜ヶ久保先輩は不機嫌そうな声を出します。
彼女は自分の品と感覚に絶対の自信がある様子でしたから、プライドが傷ついたのでしょう。
「ならば、ソアラのケーキを食べてご覧なさい。それで、あなたが先ほどから不快そうな顔している理由もわかりますよ」
「だってさ、ブッチー。食べたところでももが意見を変えるはずがない? そうだよね。こんなの食べたって平気だもん。ソアりゃん。ももにも食べさせなさい」
「あ、はい。先輩もぜひ……」
えりなさんは挑発するような言い回しで、茜ヶ久保先輩にわたくしのケーキを食べるように勧められました。
彼女はそれに乗るような感じでわたくしに品を食べさせるように言われます。
「はむっ……、あ、あれ? 舌がおかしいのかな? あむっ……、こ、こんなこと今までに……。 ――っ!? う、うそ……、でしょ……!? こ、このかわいさ……、避けられない……!」
「何ぃーーっ!?」
「あの、もも先輩が自分以外のスイーツにメロメロに! しかも、あんな地味な……!」
茜ヶ久保先輩はあり得ないという表情をした後に、恍惚とした顔をされてわたくしの品を味わいました。
「こ、この味の深さは、隠し味に豆乳を……? いや、それにしては濃厚な……」
「ええ、豆乳をヨーグルト状にして、さらに水切りをしました。そうすることによって、豆乳の独特の柔らかい風味とチーズのような優しいコクが生まれるのです。豆乳の成分は和菓子と洋菓子のどちらにも調和するので、この品に尤も合います」
このかりんとうケーキとこしあんを調和するために使ったのはヨーグルト状にして水切りまですることで超濃縮した豆乳です。
隠し味にこれを使ったことで、この品は最大限に黒糖の美味を引き出すことに成功したのでした。
「でも、特別な道具は使ってなかったのに……」
「コーヒーフィルターを使ったんでしょう。前に彼女に教えたのよ。コーヒーフィルターはろ過性も抜群で取り回しにも優れているって」
「はい。えりなさんの仰るとおりです。この辺りは非常に繊細な味覚が必要になりますので、集中力を高めて味見をしました」
まず、豆乳グルトを使うアイデアを思いつくために、集中力を高めて味を確認して、さらにその味の綱渡り的なバランスを失敗しないように味見をすることでこの品は完成しました。
つまり、この品は“神の舌”による鋭敏な味覚を無しでは作れないスイーツだったのです。
「より味の強い例えばチーズなどを使っていたら茜ヶ久保ももの言う通り減点は確実だった……」
「まさに“神の舌”で成立させたような、これ以上ない工夫だ。この少女には美食の神が宿っていたという事実は信じざるを得ない」
「しかし、味覚が鋭敏になったとしてこんな発想が出るものでしょうか?」
「発想自体は恵さんが3rd BOUTで見せてくれたアイデアが元になっています。でないと、すぐにこんなこと思いつきませんわ。えりなさんの“神の舌”を真似たとしても。ですから、この品にも恵さんの名前を入れてみたのです。彼女と一緒に戦っているつもりでしたから」
「そ、ソアラさん……」
さらにこの発送の助けとなったのは恵さんの3rd BOUTでのどら焼きのアイデアです。
彼女の活躍が無くてはこの品に辿り着くのは無理だったでしょう。
「茜ヶ久保先輩、すみません。先輩が100点満点の品を作ることは分かっていましたから……、わたくしは負けないために、120点の品を創り出すために……、二人分の力を借り受けて三人で1つの品を作りました」
「満点を捨ててまで、そんなことを……。だから、ももはイライラしたんだ。――認めたくない。だって、ももが可愛いと思ったものが一番可愛いの。それは絶対なのに――」
「茜ヶ久保先輩……」
「認めたくない……、認めたくない……、で、でもね……、言っちゃう……、このどら焼き……、超かわいい――!」
茜ヶ久保先輩は顔を赤らめながら、わたくしの品を認めて可愛いと言ってくれました。
遠月学園随一のパティシエである先輩にスイーツを褒めて貰えて嬉しかったです。
「4th BOUT、第一カードは反逆者連合・幸平創愛の勝利です!」
「お粗末様ですわ」
えりなさんの“神の舌”と恵さんの“チャレンジ精神”。この2つを借り受けて作られたスイーツはわたくし一人の作品とは言えず、連隊が生んだ産物だと言えるかと思います。
「幸平創愛……! 今度はももが叩き潰すんだから。覚えているんだね」
「えっと……、セントラルが勝っちゃったらわたくしは居なくなるのですが」
「あっ……」
茜ヶ久保先輩との食戟で勝利を掴んだわたくしに対して彼女はリベンジしたいと仰られました。
でも、それってセントラルが勝つと無理なんですよね……。
「でも、茜ヶ久保先輩が料理しているところ、楽しそうでイキイキされてましたから。またお手合わせ願いたいです。先輩みたいにおしゃれで可愛いスイーツも作れるように今度は勉強してきます」
「司と竜胆は強いよ。でも、君なら分からないかもね。ももが自分以外をこんなに可愛いって思ったのは初めてだから」
アリスさんも緋沙子さんも懸命に戦ってくれています。
もし彼女らが負けてしまったとしてもわたくしとえりなさんはその意志を受け取って必ず勝利するつもりです。
ですから、茜ヶ久保先輩――その時はまた再戦しましょう……。
「あ、あの……、幸平さん……」
「か、川島さん?」
「生き残ったら、またあなたの食戟に付き合います。何時間かかっても……、だってそうしたら長く一緒に……」
「あ、ありがとうございます。その時はまたお願いさせてもらいますわ。で、でも、今度は自重しますね」
「うん……!」
川島さんに手を差し出すと彼女は笑顔でわたくしの手を握りしめてくれました。
彼女の華やかな司会ぶりには助けられておりましたし、またお世話になりたいと思っております。
「まったく、私のこの高貴な“神の舌”を真似て、“かりんとう”? 気品も威厳もあったもんじゃないわ。だから、あなたが一人のときは使用を禁じたのです。あまり、軽々しく使われると品位が落ちますから。いいですか。真の美食というのは味はもちろんですが、そこに格式と品性というものが必要なの。あなたが今度“神の舌”を使うのなら、その辺のエレガントさをきっちりと覚えてからにしてもらいますからね」
「す、すみません……。え、えりなさんを怒らせてしまいました……」
えりなさんはわたくしが“神の舌”を使って、貧相な品を作ることが我慢出来なかったみたいです。
舌が鋭敏になろうとも、思考しているのはわたくしですから品は自分が全面に出てしまいます。
見た目にももう少し気を遣わねばなりませんね……。落ち込みますわ……。
「はっ――! け、けど、品自体のクオリティは良かったわよ。味に関しては私の求める美味に限りなく近いです。誇っていいわ。むぅ〜、何よ! 落ち込まなくたって良いじゃない! あなたらしさが出てたし、私も何というか一人じゃないって思えたから――」
「え、えりなさん……? えっと……、ありがとうございます」
しょんぼりと俯いておりますと、えりなさんは急にわたくしの品を急に褒めてくれました。
彼女の褒められるのは天にも登るくらい嬉しいです。
「ソアラさん!」
「あんっ……、め、恵さん!」
「わ、私の名前を料理に入れてくれて嬉しかった。あ、あと、おめでとう。やっぱりソアラさんはすごいや」
「いえいえ、アイデアの元となったモノを生み出したのは恵さんですから。恵さんの方がもっとすごいですよ」
恵さんから力強く抱きしめられて、彼女の名前をメニューに入れたことを喜ばれました。
もし負けていたら、とんでもなく気まずい状況になっていましたね……。
そう考えると、足元がガクガクと震えてきました――。
◇ ◇ ◇
「たった今から僕が審査員長を務める。君達は十分十傑の料理を味わったことだしね」
第二カード、アリスさんと司先輩の試合が終わった途端に薊さんはそのようなことを仰られました。
アリスさんと司先輩の試合は、アリスさんが自分の持てる全ての力を込めた“野うさぎのパイ包み焼き”で審査員たちを魅了しました。
血や脂一滴一滴も無駄にせず、分子ガストロノミーの知識で見事に素材の良さを引き出した素晴らしい品でしたが、司先輩の“
そんな中の審査員の変更に当然反逆者サイドからは反発がありましたが、このことは薊さんだけでなく、仙左衛門さんも承諾していることであり、覆そうにはありません。
「これは正式に認定された食戟なのです。我々としても一度審査を任された責任があり、単独の審査はWGOの理念に反するものです」
「その通りだ。では信頼に足るゲストをお招きしよう」
「デコラ! クラージュ!」
アンさんの反論に、薊さんは新たなWGOの一等執行官を2名率いてきました。
デコラさんとクラージュさんというそのふたりの女性は、アンさんの先輩にあたる人物であり、その味覚は確かなものらしいです。
ということで、薊さんや、薊さんの息がかかったWGOの執行官の審査が適正か見極めるため、アンさんが審査員席に残り、これ以後の審査は薊さん、デコラさん、アンさんの3名で行われることになりました。
そして、仕切り直された第三カード――緋沙子さんは子持ちヤリイカを使った活造りで勝負しました。
乾シェフから直伝の技術は彼女の正確無比な作業とマッチして見事な品に昇華させました。
しかしながら、竜胆先輩が作られた“カウサ”という様々な魚介やマッシュポテトを押し寿司のような多層状に形作るペルー料理は圧倒的でした。
希少食材など様々な野生を手懐けた上でヤリイカの特性を活かすという竜胆先輩らしい品で、彼女は緋沙子さんを打ち破ったのです。
「これで本日の対戦は終了。そして明日の連隊食戟、残る料理人は両陣営共に二名ずつ。もし次の5th BOUTで両チーム1勝ずつなら6th BOUTまで行うことに――」
「否! 次なる試合、5th BOUTこそが連隊食戟の終局戦、FINAL BOUTである!!」
4th BOUTが終了して川島さんが最長で6th BOUTまで伸びる可能性を示唆すると、仙左衛門さんが声を張り上げられて、次の試合がラストだと告げられました。
どういうことなのでしょうか……。
「試合形式を変更するのだ。各チームの二名がそれぞれ一品ずつ連続してサーブしコース料理として成立させることにする。つまり! チームの一人がオードブル、もう一人がメインディッシュを調理するのだ! テーマ食材は完全に自由とするがその代わり設けるお題は“真の美食たるコース料理”。何か異議は? 現総帥」
「いいえ。素晴らしい趣向だと思いますよ。司と小林が皿に織り成す組曲。それを勝負の場で味わえるなんて。何しろ僕の理想を体現している料理人が現十傑なのですから。一方今のえりなでは真の美食は作り得ない。それを僕はわかっているのでね」
仙左衛門さんは次の試合を二人で1つのコースを完成させるコース料理対決にしようと提案して、薊さんはそれを受けました。
えりなさんでは真の美食を作れないとして――。
「果たしてそうでしょうか? 私は随分変わったと思います。きっと作る皿も昔とは違うと思いますよ。えりなは家出までする不良娘になってしまいました。お父様が思っていらっしゃるいい子の私ではもうありませんから」
「思春期に反抗するなんてごく自然なことだよ。父として受け入れるさ。そしてセントラルへ迎える。不純物を取り除き浄化した後にね。それは必然なのだよ。えりな。君こそが料理人を正しく導くための鍵なのだから」
えりなさんは極星寮に来られて、特訓を経て料理に関する考え方が大きく変わってきました。
薊さんは見誤ってます。えりなさんは誰よりも新しい正解へと向かう旅を楽しんでおり、料理人として途轍もない進化を遂げているのですから――。
「くすっ……」
「ちょっと、ソアラ。なんで笑うのよ」
「えっと、自分で不良娘って言ってしまわれる、えりなさんが可愛かったので」
「あなた私を馬鹿にしてるの?」
「いえ、今のえりなさんとなら、とっても美味しいものが作れると思います。わたくし、今からそれが楽しみですの」
「まったく、呑気な子ね」
そして、わたくしは単純に彼女と品を高め合いながら試合に臨めることを嬉しく思っていました。
えりなさんとの調理はとても高いところまで翔べるので楽しみです。
「幸平創愛、君もお父様が僕の下に付いたら、真の美食が何たるか教育を受けてもらおう。城一郎先輩の為なら頑固そうな君でも大人しく従うだろう」
「あまり父の言うことも聞きたくないのですが……。それはまたその時に考えるとして、薊さんに美味しいと仰って貰えますよう頑張らさせて頂きます」
「無駄な努力だと、思うが。せいぜい頑張りたまえ」
「ではまた明日この場所で相まみえよう! 勝者こそが遠月の未来を決定する! 心してかかれ! 若き料理人達よ!」
明日、わたくしとえりなさんの手で仲間を取り戻すための最後の戦いが始まります。
相手は司先輩と竜胆先輩という遠月学園最強のお二人です。
でも、ここで負けるわけにはいきません。
えりなさんとわたくしはお互いの手を握りしめて、勝利を誓いました――。
もうね。スイーツなんて何を描いたら良いのかわからなくなったから、描写がふわふわし過ぎているというね……。
ただ、かりんとう饅頭はマジで美味い。緑茶にこれ以上合う菓子はないんじゃないかなー。
次はコース料理って……。どうすりゃ良いんだ……。