【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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BLUE編
真夜中の料理人(レ・キュイジニエ・ノワール)


「ふぇ〜、前日にはキチンと営業されていたのにいきなり休業ですかぁ。それはなんとも不可解な」

 

 えりなさんとやって来たのはある温泉街でした。

 この温泉街は元遠月学園の総帥である薙切仙左衛門さんがよく利用していたらしく、目の前の風見の湯は数ある旅館の中でも特に評判が良いみたいです。

 

「この風見の湯は薙切家とも懇意にしていた老舗旅館なの。隣の乙鳴旅館の女将も煙のように一夜にして一家が失踪したと答えられている……。旅館の経営の状態は極めて良好だということを考えるとなると、やはり連中が絡んでいる可能性があるわね――」

 

「連中……、ですか?」

 

 そう、ここにやって来た理由は経営が良好だった風見の湯が一夜にして従業員が消えてしまったという話を聞いたからです。

 何らかの事件に巻き込まれたと思われますが、えりなさんは既にその原因となっている人物について心当たりがあるみたいでした。

 

「一応、原因となっている犯人らしい人物には目星はつけているのよ。でも、姿を見せないことにはやりようがないでしょ?」

 

「ええ、それでえりなさんは、その犯人さんとやらがまだこの辺りの旅館に出没されると予測されているのですね」

 

「そのとおりよ。緋沙子に乙鳴旅館の部屋を取らせましたから、今日はそこでゆっくりしましょう」

 

 えりなさんは近くにまた似たような事件が起きると予測しており、だからこそ風見の湯の近くの旅館に部屋を取ったと仰られています。

 しかし、仕事で来てこんな良い旅館に泊まっちゃうのはなんとも――。

 

「何だかのんびりしちゃって悪いですね」

 

「たまには、羽を伸ばすって言ったでしょ。いいのよ。これくらい。ちゃんと仕事はこなすつもりだから。行くわよ」

 

「あんっ、えりなさんったら。そんなに引っ張らなくても付いて行きますよ」

 

 えりなさんは楽しそうに笑いながらわたくしの手を引いて旅館に入りました。

 確かに総帥になられてから激務が続いておりましたし、これくらいの休養は許されて然るべきだと思います。

 

 

「こちらの旅館のお食事とても美味しいですわ」

 

「この温泉街はお祖父様がよく通うくらいだもの。その上、緋沙子が選んでくれたから。それなりには、ね」

 

 乙鳴旅館のお料理は素材の良さが身体に染み渡るような、そんな味付けでした。

 きれいな空気に、美味しい食事、それに温泉まで……、命の洗濯とはこういうことを言うのかもしれません。

 

「そういえば、緋沙子さんってまだえりなさんのことえりな様って呼ばれているのですか?」

 

「ええ、まぁ。あなただって堅苦しい感じで普通みたいになってるのだから、自分もいつも通りで良いだろうって」

 

 先の連隊食戟で、ようやくえりなさんと友達宣言をされました緋沙子さんは未だに“えりな様”と呼ばれているみたいです。

 確かにわたくしも皆さんを“さん付け”で呼んでますから人のことは言えないのですが。

 

「では、今度緋沙子さんの前でえりなさんのことを“えりりん”とでもお呼びしてみますか?」

 

「それは面白そうね。緋沙子のびっくりした顔が目に浮かぶわ。でも、えりりんはちょっと威厳がないんじゃない?」

 

 わたくしがちょっとした悪戯を提案するも“えりりん”はえりなさんの基準ではアウトみたいです。

 

「吉野さんのえりなっちは受け入れられてますよね……。基準が分かりません」

 

「あだ名というものが初めてだったから。ちょっと嬉しかったのよ」

 

「では、これから色々と初めてを体験出来ますね。仕事以外で外出しようとしたのも、もしかしたら――」

 

 えりなさんは外の世界について、あまりご存知ありませんでした。箱入り娘という言葉がそのまま当てはまるような方です。

 総帥になられても、生真面目さが邪魔をして、わたくしたちのような親しい人にはわがままや甘えを見せるようになったのですが、自由に振る舞うことについては未だに遠慮されていました。

 

「ないわよ。だから、今日だって仕事っていう体裁だけは取り繕ったもの。何だか悪いことしている気がするのよね〜」

 

「不良娘ですのに……、くすっ……」

 

「早く忘れなさいよ! もう10回以上は思い出し笑いしてるでしょ?」

 

 わたくしはえりなさんはもう少し不良になってもらっても良いかと思ってます。

 でも、えりなさんは今回は頑張った方ですね。公私混同なんて言葉、ちょっと前の彼女には考えられませんでしたから。

 

「だって、えりなさんに不良というワードがマッチしていないのですもの。そういえば、仕事という体裁とはいえ、旅館の休業には何か事件が絡んでいるのですよね? えりなさんが心当たりがある犯人ってもしや料理人ですか?」

 

「――っ!? どうして分かったの?」

 

 話が仕事のことに戻りましたので、わたくしは今回の旅館の一家失踪事件は料理人が絡んでいるのでは、という推論を彼女に伝えます。

 えりなさんの反応からそれは正解だとわかりました。

 

「推測ですが、遠月の第一席と総帥が動くほどのヤマですから、食に関することということなのは間違いありません。そして、一夜にして休業に追い込まれるという事態は食戟で研究会やゼミが潰されたときに似ています。なので、犯人は食戟のようなことをされている闇の料理人とかそんな人なのではないかと思ったのです。闇の料理人なんてそんな変な人たちがいるのか知りませんが……」

 

 忘れそうになりますが、わたくしは遠月学園の第一席、そしてえりなさんは総帥です。

 二人が一緒に仕事をするということは食に関係することに決まっているのです。

 そして、一夜ですべてが無くなるというような現象は食戟で敗北したときと似ています。

 

「居るわよ。闇というか、裏の料理人と呼ばれる人たちがね。何なのあなたのその推理力。探偵にでもなるつもりなの?」

 

「実は憧れてます。刑事コロボーンとか古山狂四郎とか、松下左京とか」

 

「誰それ? 知らないんだけど」

 

「刑事ドラマです。ですから、こういう調査は実はワクワクしています」

 

 わたくしは推理モノのドラマを見ることが趣味なので、こういう事件の捜査は不謹慎ですが、ちょっぴり楽しみです。

 

「料理以外でこんなに笑顔のあなたを見るの初めてかもしれないわ。とにかく、犯人はおそらく、その裏の料理人よ。裏の料理人というのは――」

 

 えりなさん曰く、裏の料理人とは“表”とは別の世界に生き、秘密の会合や非合法な催事で食事を賄う出張料理人のことみたいです。

 

 彼らは傍若無人な無頼者や悪徳シェフなど裏社会で莫大を得る利益を得る料理人たちで、“真夜中の料理人(レ・キュイジニエ・ノワール)”と呼ばれているのだそうです。

 どういう訳かその方たちが日本の食戟というシステムを知って好き勝手に振る舞っているのだとか。

 

「ふぇ〜。真夜中の料理人(レ・キュイジニエ・ノワール)ですかぁ。本当に推理小説の世界みたいですね。しかし、そのような方々が料理で好き勝手にされているのは許せません」

 

「そうね。遠月の理念からしても捨て置けない。だからこそあなたや他の十傑たちにも地方に散らばって調査をさせているの」

 

 どうやら、そのノワールは日本各地に出没しているらしく、他の十傑の皆さんも調査しているみたいでした。

 ちなみに今の遠月学園の十傑はこのような感じになっております。

 

 第一席 幸平創愛

 第二席 薙切アリス

 第三席 一色彗

 第四席 久我照紀

 第五席 新戸緋沙子

 第六席 葉山アキラ

 第七席 黒木場リョウ

 第八席 紀ノ国寧々

 第九席 田所恵

 第十席 タクミ・アルディーニ

 

 つい最近までは一色先輩が二席だったのですが、アリスさんが彼との食戟を繰り広げて僅差で勝利して、第二席についたのです。

 緋沙子さんも久我先輩に挑んでいましたが、先日は惜しくも敗れてしまいました。

 

「他のみんなも別の案件に? 真夜中の料理人(レ・キュイジニエ・ノワール)とかいう人たちはそんなに多くが日本にいるのですか?」

 

「その答えはイエスよ。さぁ、行くわよ。ソアラ!」

 

 ノワールという料理人たちが多く日本にいる事実を肯定されたえりなさんは立ち上がり、凛々しい顔付きになられました。

 これは、えりなさんのスイッチが入りましたね。

 

「なるほど、お腹いっぱいになったところで調査を開始するのですね!」

 

「いえ、温泉に入ります。今日は目一杯休んで、英気を養ってから調査に取り掛かるのです」

 

 キリッとされた表情でえりなさんは温泉に入ると言われます。

 こんなに毅然とされた顔つきでお風呂に向かわれる方はこの方しかいないでしょう。

 

「やっぱり変わられました。えりなさん……。すごく自由になったというか……。わたくしは何だか嬉しいです」

 

「な、何よ。ちょっと不真面目になるくらい良いじゃない」

 

「もちろんですわ。さぁ、お風呂にしましょう」

 

 わたくしとえりなさんは乙鳴旅館自慢の温泉に入ることにしました。

 見事に今日はほとんど何も仕事をしませんでしたね――。

 でも、やっぱりえりなさんの楽しそうな顔を見られるのは嬉しくて仕方ありません。

 

 

「こうやって旅先でお風呂に一緒に入るのは宿泊研修以来ね」

 

「そうですわね。あれから1年くらいですか。早いです」

 

 お互いに体を洗い合ったりした後に湯船に入ってホッと一息つきます。

 大きなお風呂に一緒に入ったのは確かにそれ以来ですね。極星寮ではよく一緒に入りましたけど。

 

「まさかあなたが第一席になるなんて思ってもいなかったわ」

 

「えりなさんが指名したんじゃないですか」

 

「それはそうだけど、あのときはお父様に逆らって、勝負まで仕掛けるとは思ってなかったし。自分が総帥になるなんてもっと想定外よ」

 

 この一年は彼女にとっても大きく変わったことだらけでした。

 わたくしが第一席になるよりも、遥かに大きな変化が彼女には訪れたのですから。

 でも、その変化は素晴らしいことです。 

 

 えりなさんの変化といえば――。

 

「確かにそうですね。あら、えりなさん。以前よりもまたスタイルが良くなってませんか?」

 

 わたくしは彼女の体つきを見て、前よりも発育が良くなったことに気付きました。

 特に太ったとか、そういうわけではないのですが、より魅力的になったと言いましょうか……。

 

「そうかしら? だから、最近肩が凝って仕方ないのね」

 

「なるほど、ではマッサージなどしてみましょうか」

 

 そのせいなのか、どうなのかは分かりませんが、えりなさんが肩が凝ると仰られます。

 緋沙子さんの薬膳茶を飲んでも改善しないのは由々しき事態です。なので、わたくしはマッサージをしようと提案します。

 

「湯船の中で?」

 

「血行が良くなっている時のほうが解しやすいので」

 

「じゃあお願いするわ。 マッサージならよく受けてるけど、あなたのはよく効きそうだし」

 

「では、いきますね。力を抜いてください」

 

 わたくしはえりなさんの肩に指先を当てて、グイッと力を入れました。

 これは何とも固くなっていらっしゃる。食材ならヨーグルトに漬けたくなるくらいです。

 

「え、ええ。あっ……、あんっ……、んんっ……、き、気持ちいいわ……、そ、そこ、んんんっ……、んっ、んんっ……、いい……、もっと来て、ああんっ……!」

 

 マッサージをして間もなく、えりなさんが艷やかな声を上げられます。

 温泉はえりなさんの希望で貸し切りにしているので人は入ってませんが露天なので、防音とかしていません。

 

「え、えりなさん……、声が少し大きいです。というか、ちょっとそんな声を聞かされると変な気分になっちゃいますよ」

 

「もう、あなたが上手すぎるから、はしたない声を出しちゃったじゃない」

 

 声を注意しますと、彼女はわたくしのマッサージが上手いからだと仰られます。

 それは嬉しいですけど、肩はこれ以上揉まない方が良いですね。

 

「まぁ、お気に召してくれましたか? 今度は二の腕とか如何です?」

 

「ふわぁっ……、んんっ……、いいわ……、そ、ソアラっ……、もっと……、あっ、ああんっ……」

 

「声ガマンできないみたいですから、止めときますね……。あとは部屋でやりましょう」

「そ、そうしてもらえる」

 

 腕を揉んでも、背中を押してもえりなさんの艶声は止まりませんでしたので、お風呂でマッサージをすることは諦めました。

 えりなさんは肩が軽くなったと喜んでいましたから良かったです。

 

 

 部屋に戻ったわたくしたちは並べられているお布団の中に入りました。何にもしていませんが、今日はよく眠れそうです。

 

「いいお湯でした。このような温泉街はずっとこのままであって欲しいものです」

 

「そうね。何も考えずにのんびりすることがこんなに贅沢なことなんて考えもしなかったわ。んもう、お祖父様が総帥をやめて晴れ晴れとした気持ちになったのはこういうことだったのね」

 

「わたくしたちでも、こんなにさっぱりするのですから、お年を召した方は尚更でしょう。仙左衛門さんは高齢にも関わらずパワフルに活動なさってましたから、こうやって疲れを癒やしていたのでしょう」

 

 若いわたくしたちですら、こういった場所で極楽を感じられるのですから、この温泉街はもっと疲れられている方々にとっては極上の幸せを提供できる場所になっているはずです。

 

 こういった場所はいつまでも大切にしたいと思いました。

 

 

「――ねぇ、そっちの布団に行ってもいい?」

 

「ええ、では端に詰めますね」

 

 しばらく会話をしていますとえりなさんが寂しそうな声を出しながら、こちらの布団に来たいと仰ったので、わたくしは端っこにズレます。

 

「温かい……、ソアラの体温って高いわね」

 

「そ、そうですか? でも、えりなさんの体のぬくもりも感じますよ」

 

「こうしてあなたを感じて眠れるなんて、最高よ……」

 

「まぁ、えりなさんったら。わたくしも心地良いです。少し窮屈なのに不思議ですわね」

 

 わたくしの胸の中にうずくまるようにくっつかれるえりなさんの体温はとても心地よく、幸せを感じられます。

 そしてしばらくすると、えりなさんの声が聞こえなくなりました。

 

「――はっ! ちょっと、ウトウトしてた」

 

「眠ってもいいじゃないですか。わたくしも寝ますし」

 

 さらにしばらくした後に彼女は寝かかっていたとつぶやきます。

 その焦ったような口調が可愛らしくてわたくしは少しだけ可笑しくなってしまいました。

 

「ううん。寝る前に、ほら」

 

「ええ、おやすみなさい。ちゅっ……」

 

「んっ……、好きよ……、ソアラ……」

「わたくしも好きですわ。えりなさん……」

 

 おやすみのキスをして、わたくしたちは深い眠りに落ちます。

 今日は本当に彼女と二人きりで旅行に行ったような……、そんな気分になりました――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翌日の朝に第二の事件が起きました。風見の湯の近所に位置する御錦上旅館も一夜にして人が消えていなくなり休業になってしまったのです。

 

「本日こちらに宿泊予定のお客様、ご迷惑おかけします。よろしければ、別の宿を手配させていただきますので」

 

「御錦上旅館までも一夜にして……」

 

「えりなさん、こちらもやはり人の気配が消えています。乙鳴旅館の板長さんの電話にも応じずに……。そして、気になることは、窓から中を覗いてみたのですが、家財道具は残っているのに調理器具だけはごっそりなくなっているのです。さらに、三人分の食器だけが調理台に残っていました。まるで“食戟”でもした直後のように――」

 

 わたくしは付近の聞き込みと周辺の状態の確認を出来る限り行いました。

 すると、やはり食戟のようなことが行われた形跡が見つかります。

 

「さすがに仕事が早いのね。感心するわ。しかし、その状況――真夜中の料理人(レ・キュイジニエ・ノワール)の仕業と見て間違いなさそうね」

 

「つまりこの近くに犯人がいるってことです。わたくしの推理によると――」

 

「オ〜〜〜ウ! こまりマシタ〜! こちらに泊まれないのデスカ!」

 

 オーバーなリアクションを取っている男性の外国の方がわたくしたちのすぐ側にいます。

 わたくしは即座に彼の元に駆け寄りました。

 

「あなたが真夜中の料理人(レ・キュイジニエ・ノワール)ですか?」

「ちょっと、ソアラ! 何の証拠もなく何を言ってるの?」

 

 わたくしが彼にノワールの人なのかどうか尋ねると、えりなさんはわたくしの肩を掴みました。

 しかし、この方がノワールである確率はかなり高いです。

 

「ワッツ! キュートガール、ボクがどうかしマシタか〜?」

 

「す、すみません。お兄さんが料理人なのではないかと思いまして」

 

「料理? イエース! よくわかったネー。料理はよくやるヨー! 食べること大好きダカラサ」

 

 彼は一瞬だけわたくしの質問に眉を動かし反応しましたが、すぐにニヤリと笑って料理をすると答えられました。

 

「昨夜も調理をされたのですか?」

 

「ホワイ! どうして? ボクは旅行者ダヨ。旅先では料理は食べるモノじゃないのカイ?」

 

 しかし、昨日の夜に料理をされたかどうか質問をしますと、彼はそんなことはしていないと述べます。

 わたくしはこの質問に嘘をついた彼がノワールだと確信しました。

 

「あなたの荷物からは各種高級食材の香り、使った直後に洗ったような調理器具特有の金属の香り、そして指先からは料理人愛用の無香料の石鹸の香りがします。間違ってたら申し訳ありませんが」

 

「ここで、葉山くんの嗅覚の模倣を使ったの? でも、ソアラが言っていたことが本当なら、ただの旅行者にしては怪しいわね」

 

 葉山さんの鋭敏な嗅覚の模倣を修得したわたくしはこの方が垂れ流す香りから、昨日調理を行った海外在住の料理人だということを特定します。

 えりなさんもそれを聞いて彼が怪しいと言われました。

 

「ウッ……、フッフッフッ……、ハァーハッハッハッ! エクセレント! まさかジャパンでホームズに会えるとは思わなかったヨ。いかにもオレはノワールダ! この旅館のヤツラに食戟を挑んだのもこのオレサ! なぜなら――」

 

「理由は結構です。遠月学園の総帥として食戟を悪用することは許せません。制裁を加えさせてもらいます」

 

「トオツキ? ああ、食戟のカルチャーを作ったとかいうぬるま湯スクールかい? こんなベイビーちゃんがトップとは、思った以上にヌルそうダヨ。これなら、もっと派手にやっても怖くナイナ」

 

「遠月を私の前で侮辱するなら、覚悟は出来ていますね?」

 

「覚悟? ワッツ? 何ソレ?」

 

「もちろん、捻り潰される覚悟です」

 

「へぇ……、食戟でもするつもりカイ? 面白いネ――。そちらこそ、負けタラ、オレの奴隷になってもらうヨ」

 

 怒りに打ち震えるえりなさんが食戟を持ちかけると、あっさりと彼は了承します。

 彼の名はモナールカさんと言いまして、客とは王様で、超最高級でゴージャスな食材を提供しないと王様に失礼なのにも関わらず、新鮮な()()で質素で地味な料理を出した旅館に我慢が出来なかったのだとか。  

 そして、“ホスピタリティがグッドな宿”を実現させるため食戟を旅館に挑んできたようです。

 

 かなり自分勝手な方ですが料理の腕には自信がある感じでした――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「女王様〜〜! ボクが間違ってマシター! これがジャパンのカルチャーの土下座デスネ! こんなんじゃ生ぬるい! 土下寝シマス! 踏んでクダサイ! 女王様〜〜!」

 

「うるさいわね。静かになさい……。あの程度の料理でよくもまぁ王様だなんて言えたわ」

「えりなさん……、容赦ありませんわね」

 

 えりなさんは素材の良さを最高レベルにまで引き上げて、高級食材を使わずとも、まさに世界の王様にでもなったように感じさせる鮮烈な日本料理を出されました。

 モナールカさんはそのあまりの美味に、身も心もえりなさんに屈服してしまったのです。

 

 総帥になられても、彼女は研磨を怠っておりませんので連隊食戟のときと比べても遥かにスケールアップしておられます。

 勝負はえりなさんの圧勝でした――。

 

「ロイアルとはえりな様のためのワードデス。驕ってイマシタ。反省シマス。国に帰りまっとうに生きマス。踏んでクダサイ」

 

「そこまで卑屈にならなくてもよろしいのでは?」

 

 彼は土下寝とやらを続けてられながら、えりなさんに頭を下げ続けます。

 確かにえりなさんの料理は勝負した相手を完全に捩じ伏せるほどの力がありましたが、ここまで精神にダメージを与えるとは……。

 

「そんなことより話しなさい。ノワールはなぜ食戟を知っているのか? あなたに聞きたいのはそれだけよ」

 

「イエス! マイロード! 話させていただきマス――」

 

 彼が食戟を知った経緯はおおよそ以下のとおりです。

 普段は単独で仕事をしているノワール同士が雇われた規模の大きな宴席があったらしく。一触即発の厨房にその食戟を教えたという人物が参加していました。

 彼はパーティーの出席者だけでなくノワールたちも魅了するほどの凄腕の料理人だったみたいです。えりなさんにも肉迫するかもしれないほどの技術だったみたいです。

 

 顔を隠していたので風体は良くわからないと言っていましたが、その彼がノワールたちに「食戟って知っているか?」と話しかけたのだとか。

 彼はノワールたちに食戟がどんな要求でもできる料理勝負だと教え日本行きを煽ったようです。

 

「間違いなく元凶となったのはその男性ですね」

「それで、その男の名前は?」

 

「な、名前デスカ。名乗ってはいたのデスガ……、なんせ聞き慣れない名前デシタので」

 

「ふーん。役に立たない男ね……」

 

 元凶の男性の名前が思い出せないモナールカさんに、えりなさんは吐き捨てるような言葉を投げかけました。

 

「女王様! すぐに思い出しますので、お待ちを! 大丈夫です。必ずや思い出させていただきます」

 

「急に日本語が流暢になりましたわ。レオノーラさんのおはだけみたいです」

「そういえば、叔母様にはそんな設定あったわね」

「設定って何ですの?」

 

 あまりのえりなさんの胆力に押されて、モナールカさんはカタコトで話すことも忘れられて必死で思い出そうとします。

 

「お、思い出しました! 確か、さ、サイバです! その男はサイバと名乗っていました!」

 

「さ、才波……? まさか、お父様?」

「いや、そんな……、才波様がそんなことを――」

 

 何と彼から伝えられた名前は“サイバ”――わたくしの父である城一郎の旧姓です。

 料理の世界では才波城一郎として知られていますし、遠月のOBですから食戟も知っています。

 きっと別人ですよね……? 信じていますわよ。お父様――。

 




ただのイチャラブ旅行を書きたいだけなので、料理描写は全カットします(笑)
もう結婚すればいいのに!
こんな感じで進めようと思ってますので、これからもよろしくお願いします。
次回は鈴木先生こと朝陽とのバトルです。書いてて彼が可哀想になってしまった……。
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