【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら 作:ルピーの指輪
「お二人ともご無事で何よりです」
「変な試験だったけどね。離乳食なんて……。まぁ私にとってはアレルギーを起こさない食材を使って美味を作るなんて造作もなかったけど」
「二人とも、まだ人間が相手だからマシだよ。私なんて“飼い主と犬が両方楽しめる食事プラン”ってお題だったんだから」
どうやら、アリスさんも恵さんもわたくしと同様に変わったお題を出されたみたいです。
恵さんもこれには苦笑いしておられました。
「それでは、第二の門に参りましょう」
「あ、あれって、ソアラさん」
「ええ、コンビニですわね。何か飲み物とか買います?」
「あっ! 私、無糖の紅茶がいいわ」
「じゃなくて! 何でこんなところにコンビニがあるってことだよ!」
第二の門の近くに建てられていましたのはコンビニエンスストア。
アリスさんとわたくしは喉が渇いているので、飲み物を買おうと盛り上がりましたが、恵さんはこんなところにコンビニがあるのはおかしいと首をひねっておられました。
言われてみれば、お城の敷地内にコンビニとは変わっていますね。最近は観光客向けに中で買い物出来るようにしているのでしょうか……。
『この試練のために建てました。第二の試練! 調理のバトルステージは見てのとおりコンビニなのです!』
そのとき、アナウンスでアンさんの声が流れます。
どうやら、第二の試練はコンビニを使って何かをするみたいです。
どんな試験なのか見当もつきません。
「はい、どいてどいて! 邪魔だって! 日が落ちてようやく涼しくなったわね。日本の夏って本当に暑苦しいんだから!」
現れたのはWGOの二等執行官、ランタービさんという方でした。
第二の試練は彼女が審査をするみたいです。
第二の門はコンビニに置いてある素材で料理を作り、審査員に100ドル(およそ1万円)の価値があると判定されれば試練クリアとなるお題でした。
そして、チャンスは三回あるとランタービさんは仰られます。
さらに、ここから先は第一の門を免除となった料理人たちも合流しました。
その中には――。
「幸平さん、良かった〜。知り合いが誰も居なくて不安だったんだ。変な扮装している奴らばっかりでさ。何なんだ、あのノワールってやつ?」
「司先輩も大会に出場していたのですね」
遠月を卒業されて、今は世界中で修行を重ねて腕を磨いていらっしゃる司先輩がわたくしに声をかけられました。
彼は知り合いが居ない中でノワールの異様な雰囲気に不安を煽られていたみたいです。
「迷ったんだけどね。君が出るかもって思ったら、出ない理由は無くなったよ。前の食戟では負けたけど、俺もあれから鍛え直したからね。幸平さんに今度は挑戦するつもりで挑むよ」
「そ、そうですか。わたくしも負けないようにしなくては」
司先輩はちょっと前に一時帰国された際、わたくしと食戟をしたときのリベンジをされたいと仰られました。
短時間で調理するための簡単なお題でしたので、あれで優劣は決まらないと思うのですが、連隊食戟で負けたときよりもショックだったみたいです。
「だからさ、その前哨戦じゃないけど、一つ競争をしよう。どっちの皿が荒稼ぎ出来るか!」
「競争はあまり好きではないですが、司先輩のやる気を削ぐのも気が引けます。受けて立ちますわ!」
「あははは……、幸平さんも変わったな。じゃあ、お互いに頑張ろう」
そして、彼はどちらの品がより高い査定を受けるかどうかで勝負をしようと持ちかけられました。
彼の真剣な勝負への気持ちに応えないわけにはいきませんし、わたくしもえりなさんと共に帰るために勝ちへの執念を捨てるわけにはいきません。
なので、わたくしは司先輩との勝負を受けることにしました。
「司先輩と勝負するの? でも、幸平さんにこのお題は不利でなくて?」
「えっ? どういうこと? アリスさん」
アリスさんはその話を聞いておられて、わたくしにこの試練は不利だとはっきりと断言しました。
彼女の仰られたいことはわかります。
「だって幸平さんのところの定食屋って、一万円を超えるメニューなんてないんじゃないかしら? 大体、この子の品って安くても美味しいみたいなのが多いし」
「確かに定食屋で一万円以上どころか5000円以上のメニューも見ないよね」
アリスさんの仰るとおり、定食屋のメニューは基本的に高くても2000円くらいです。
基本的に1000円を超えないお手頃な価格帯で商売をしていますから、わたくしのメニューは基本的に値段をつけるなら安い部類に入ります。
今回は価値の査定ですから、普通の定食屋のメニューですと、いくら美味しくても価値は低いままなのです。
「ええ、まぁそうなんですけどね。ちょっと新しくやってみたいことがありますの――」
わたくしはそれでも定食屋であることを捨てる気にはなれませんでした。
定食屋として作りますが、何とか調理技術のすべてを使って付加価値の高いメニューを作ってみせます。“ゆきひら”を、父とあの日話したような世界一の定食屋にするために――。
「出来ましたわ。わたくしのメニュー……」
ようやく、自分の品が出来上がったとき、すでに司先輩は料理を出す段階までいっておりました。
彼はどんなメニューを使ったのでしょうか……。
「幸平さん、先に行かせてもらうよ。お口に合いますように――“デミグラスソースで味わうビーフ&チキンの競演”でございます」
ランタービさんは、その料理に何かを感じ取られたようで微笑みます。
「へぇ、わかってるじゃないの」
彼の品はとても高級感が溢れる一皿でした。彼女はフランス料理店のメインとしても遜色ないビジュアルの美しさと褒めています。
まず、デミグラソースの風味が食欲をそそっておりました。
パイ生地で包み込まれた二重構造の詰め物が重厚かつ相互に美味しさを高めています。
上の段は鶏肉のムースで、下の段は牛肉主体のミンチで構成されていまして、上段のとろとろチキンムースとデミグラソースの相性は抜群みたいでした。
彼女は美味しそうに彼の品を召し上がって、彼の品の価値を査定されました。
「さあ判定よ! プラス――587ドル!!」
司先輩はコンビニの品から約6万円の価値を生み出しました。すごいです。彼のその技量は、一品料理でここまでの価値を――。
すべては彼の技巧が成す技です。同じ製品を使ってもよほど丁寧に調理しなくては雑多な味になってしまい、その価値は急落してしまうでしょう。
「あら、司瑛士。なんでまだそこに居るの?」
「俺を負かした後輩がどんな品を出すのか、興味があるのですよ」
「へぇ、あんた程の人をあの娘がねぇ、何ていう子なの?」
「幸平創愛――俺が知る中で最強の料理人です」
「おあがりくださいまし! “ゆきひら”裏メニューその100の試作品! “世界一周・焼きサバ定食”です!」
司先輩が見守る中で、わたくしはいつか“ゆきひら”で出そうと思っていましたメニューの試作品をコンビニの品を使って調理しました。
「定食!? あっはっは! 定食屋に一万円を超えるメニューなんてないでしょう?」
「かもしれないですね。ですから、作りました。今、ここで」
ついこの前まで、わたくしは高級感というものとは無縁で過ごしてきました。
しかし、あらゆる経験を積んで誰も作ったことがないかもしれない新しい定食をわたくしは作りたくなったのです。
もっとも、価値を見出してもらえなければ、誰も注文してくれないかもしれませんが……。
「な、何これ!? 本当に定食? というか、何品作ったのよ!? どれも高級料理店のメニューと遜色ないレベルの見栄えじゃない」
わたくしが作った品は全部で四品。副菜とサラダと汁物と主菜です。それにほかほかのご飯を合わせて定食として彼女に出したのです。
「ま、まずは、この鶏肉の麻婆ソースがけ! はむっ……、――っ!? 痺れるような刺激! まさに本格四川料理の前菜のような鮮烈さ! どうやってこんな辛さを!?」
「最近のカップ焼きそばって辛いモノが流行っているのですよ。これを使って市販の麻婆茄子の元とサラダチキンをつかって味を整えて四川料理を作ってみました」
久我先輩から習った四川料理の辛さを引き出すために、激辛カップ焼きそばのスパイスに各種調味料を加えて、麻婆茄子の元とサラダチキンを合わせて調理し、四川料理の前菜に当たるようなメニューを副菜として作りました。
「こっちのサラダはレモンとバジルが効いた野菜とツナのサラダ! イタリアンね!」
「市販品のレモン汁とパスタの元のバジルソースにツナ缶とカット野菜のサラダを合わせて調理しています」
次の品はレモンのあっさりした風味とバジルの香りを足して、甘さを強調したサラダです。
タクミさんからイタリア料理のサラダを作るコツを習っておいて良かったですわ……。
「吸い物は魚介の出汁がしっかり効いていて、すり身と野菜の繊細な味付けが絶妙! 料亭の椀物として出されても文句がないレベル! さらにこの焼きサバにかかっている特製のバターソースは何!? 焦がしバターとヘーゼルナッツの香りが芳しくて、まるで高級感溢れるフランス料理のメイン!」
お吸い物はおつまみのスルメで出汁をとり、おでんのはんぺんの味を調節して、冷凍食品の焼きサバは解凍をせずに焼き直して風味を強調させ、焦がしバターにヘーゼルナッツのアイスクリームを主な材料としてクリームソースを作りフレンチの味付けにしてみました。
「四川料理の辛さがサラダの甘さを引き立て、その後のすまし汁で舌を休ませ、メインの焼きサバの味わいをより深くする――。コース料理として成立してるのに、どれも米と合うように作られ定食としても成立している。その上、こんなに世界中の料理を混ぜているのに素材を存分に活かしきって破綻してないって――、なんて味覚とセンスなの!?」
高級感のあるコース料理としても、定食としても楽しめるメニューを目指して作ってみましたのが今回の品です。
ランタービさんは美味しそうに、そして楽しそうに焼きサバ定食を召し上がってくれました。
「こ、この定食! まさに
彼女は夢中になって定食を完食されて、恍惚とした表情を浮かべております。
ええーっと査定の方は大丈夫でしょうか……。
「すっかり俺の技を自分のモノにしてるのな。まったく自信無くすよ。おまけに薙切の“神の舌”に幸平さん自身のセンス……、他にも久我たちの力まで遠慮なく借りてるし……、これは対戦するときには、もっと本気にならなきゃな」
「は、判定よ――! 幸平創愛の品は――プラス1153ドル! なんで、こんな子がノーシードで参戦してるのよ……!」
「お粗末様ですの!」
ランタービさんは11万円も価値がある品だと認めてくれました。
さすがに店で出すとしても、こんな値段を付けるつもりなんてありませんが、嬉しかったです。
「定食屋でこんな品、なんで出そうと思ったの?」
「大切な人が居まして、お金を取ろうとか特に考えていませんが……、その人にわたくしが学んだすべてを味わってもらえるような、そんな定食を作りたかったのです。定食屋に居ながら世界を感じられるようなフルコースになる新しい定食を!」
えりなさんには普通の定食も、もちろん召し上がってほしいのですが、彼女から学ばせてもらった高級感溢れる品もわたくしは好きになりました。
そこで彼女に喜んでもらえるようなコース料理を定食として出せれば面白いと思いまして、こういう品も考えていたのです。
言うならば、これはえりなさんの為の定食の試作品……。
「あ、あの、あたしもあなたのお店に行ってもいいかしら? 別に特に意味は無いんだけど!」
「あ、はい! ぜひお越しください。楽しみにして待っていますわ。ランタービさん」
ランタービさんがわたくしの店に来たいと仰ってくれましたので、わたくしは彼女の手を握って喜びを伝えました。
「な、何よ! この子……! か、かわいいじゃない……。持っていきなさい! 1153ドルよ!」
「あのう……、1ドル札ばかりで持ち切れませんし、いま全部渡されたように見えるのですが……。それだと他の方の分が無くなるのでは?」
「あたしが持てって言ったら持つの! そうしたい気持ちなんだから! 文句言わないの!」
ランタービさんは頬を赤く染めながら、彼女が持っていた全ての1ドル札をわたくしに渡されました。
こんなに沢山頂いて大丈夫なのでしょうか――。
◇ ◇ ◇
「もう! 幸平さんが全部ドル札持っていったから、審査が雑になったじゃない」
「多分100ドルくらいって、合格者の人みんな言われたもんね」
「だから要らないと申しましたのに……」
案の定、あれから1ドル札が無くなったせいで、アリスさんと恵さんは合格したにも関わらず、札をもらうことが出来ませんでした。
アリスさんは頬を膨らませて不平を述べております。
「それより、俺は幸平さんが“副賞”の特典を適当に扱おうとしたことの方が面白かったけど」
「やっぱり、うちの店に来てもらうの無理ですかね。卒業したら店はあまり閉めたくないのですが……」
「特務執行官だからね。軽々に日本の定食屋には来られないんじゃないかな? ランタービさんもそう言ってたし」
BLUEを優勝した特典の“副賞”として得られるのはWGOの特務執行官お付き指定の料理人になれる特権だそうです。
特務執行官はランタービさんたち
わたくしが指定の料理人になるのは抵抗があるみたいなことを言うとランタービさんに怒られてしまいました。“ゆきひら”に来てもらうのも無理みたいですね……。
「審査員が出てきたわ。ようやく第三の門の試練が始まるのね」
「昨年のBLUE本戦! 決勝戦で審査を任されたこの三人が行う!」
「その試練待て……! 第三の門の試練は趣向を変えた選別を行う!」
第三の試練が始まろうとしたその瞬間に、先程から話題になっていた特務執行官その人が待ったをかけました。
そこから、特務執行官がBLUEを開催した真の理由を語りだします。
そもそもBLUEの大会は次代を担う若手料理人のNO.1を決めることにありますが、それとは別に特務執行官には毎年巨額を投じてでも開催する理由があるとのことです。
それは“今まで地球上になかった品を創造しうるものを探すこと”でした。
ですが、その逸材は何年たっても表の料理人からは現れなかったため、彼女はしびれを切らし本年の大会からノワールの方々を参加させることに決めたということです。
そして、世界中の品を食べつくした特務執行官はすでに表の料理人には期待しておらず、引き立て役として参加させたとまで言い放ちました。
“今まで地球上になかった品”というものに並々ならぬ執着があるように感じられますね……。
「もはや、私は“裏”にしか期待しておらぬ」
その言葉に当然、“表”の料理人の方々は反発しますが、試しとして特務執行官はノワールの一人に対し牛肉を調理するよう申し付けます。
ミニスカートを履いた警官や軍服のようなコスチュームの女性が調理を開始しました。
彼女の料理は驚くべきものでした。牛フィレ肉を加熱したのち、なんとチェーンソーのようなものを取り出したのです。
「チェーンソーなどと一緒にするな、これはれっきとした私専用のカービングナイフだぞ!」
そのカービングナイフを見事に使いこなして、刃にまぶされたシーズニングスパイスによって味付けまで施すことで、牛フィレ肉は繊細に隠し包丁を施された極上の品となっていたのでした。
「あの牛肉を今の調理クラスの美味に仕上げられる技を持つ者あらば名乗り出ろ! そうでなくば、城郭本丸に足を踏み入れる資格なし!」
そんなことを仰られる特務執行官に対して、“表”の料理人はたじろぎます。
あの、チェーンソーのようなカービングナイフを使っていた女性はサージェさんという名前で、その兵器を扱うような調理から“
彼女に続いて次々とノワールの方々が異質な調理を見せます。
“
面白い調理方法ですね……。確かにサーカスみたいです。
その他にも“
「幸平さん、見た? 裏の料理人というのは宴会芸が得意ですのね。あんなので得意になられちゃ困るわ。目に見える派手さより、目に見えないことの方がよっぽど大事だということを教えて差し上げましょう」
「ソアラさん、私も頑張ってみるよ! 試してみたい調理方法があるし!」
「薙切の言うような宴会芸だと思われるのは嫌だけどなぁ。俺も後輩たちに負けてられないな」
“裏”の料理人にしか期待されていないと言われてもわたくしたちとて、引き下がるわけにはいきません。
司先輩の後を追うようにアリスさんと恵さん、そしてわたくしが調理台へと向かいました――。
ここから、わたくしたちは裏の料理人たちとの本格的な勝負を繰り広げることになりました――。
なんだろ、ノワールの小物感。
料理描写が雑ですみません。何か原作を読んでも審査基準がよくわからんし、コンビニの製品でコース料理なんて参考に出来るモノがなかったのでいつにも増して適当になりました。