【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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薙切アリスVSドン・カーマ

「あっ! ソアラさん、ここに居たんだ。アリスさんがソアラさんを連れてきてって!」

 

「アリスさんが? どうかされたのですか?」

 

 えりなさんと入れ違いで恵さんが息を切らせながらロッカールームに入ってこられました。

 アリスさんがわたくしを呼んでいるみたいなのですが、どうされたのでしょう?

 

「アリスさんの試合、“連携によって完成するアミューズ”ってお題でサポートする人を加えて調理するってルールなんだけど」

 

「アリスさんのサポートなら黒木場さんでしょうか?」

 

「うん。黒木場くんに連絡とって来てもらうようにしてたらしいんだけど。急に連絡が途切れちゃったみたいで――」

 

 アリスさんに課せられたお題はサポーターとして、自分以外の料理人を連れてきても良いというルールみたいなのですが、そのサポーターをする黒木場さんからの連絡が途絶えてしまったみたいなのです。

 

「それってまさか……」

 

「多分、ノワールが妨害してるんじゃないかな。相手の人もそんな感じのこと言ってたみたいだし」

 

「それで、わたくしをサポートに呼んだということですね。分かりました。急ぎましょう!」

 

 黒木場さんは何らかのアクシデントにより会場に行くことが出来なくなったみたいです。

 ですから、その代わりの助っ人としてわたくしを呼ぼうとアリスさんは考えたようでした。

 

 わたくしは急いで彼女のいる会場へ向かいました。アリスさんをお助けしなくては――。

 

 そして、会場に着いたわたくしはドアを開けて中に入ります。すると――。

 

「――おらぁ幸平! 遅ぇぞこら!」

 

「く、黒木場さん?」

 

 最初に目に飛び込んできましたのはイライラが全面に出ている黒木場さんの顔でした。

 えっと、彼って行方不明なのでは?

 

「あら、幸平さん。どうしたの? リョウくんの顔を見て驚いてるけど」

 

「えっと、黒木場さんが何らかの妨害に遭って来られないって聞いたのですが。妨害はなかったのですか?」

 

「あったぜ! 俺がオカマ野郎に負けるかよ! 返り討ちにしてやったぜ」

 

「もう! 野蛮な男!」

「でも、ワイルドなのって素敵じゃない?」

「わっかるー、それ! めちゃめちゃにされたいって感じ」

 

 どうやら黒木場さんはノワールの妨害工作を返り討ちにされたようです。

 確かに黒木場さんが簡単にやられる方には見えません。

 

「そ、そうですか。ご無事で何よりです。それでは、わたくしが加わって、三人で連携すればよろしいのでしょうか?」

 

「ううん。付き合ってくれるのは幸平さんだけで良いわよ」

 

「えっ? それじゃあ黒木場さんは何のために……」

 

「これを持ってきたんだよ! 調理器具とか、お前が着るっていうからこれも!」

 

 何と黒木場さんはせっかく来られたのに調理には参加しないらしいです。

 そして、彼はわたくしに何か衣装を渡されました。

 

「こ、これって、白衣ですよね。それと伊達メガネ……」

 

「連携でアミューズを作るなら、お揃いの衣装の方がいいでしょ? 今から幸平さんに科学の講義をしてあげるから、一緒に分子ガストロノミーの楽しさを教えてあげましょう」

 

「科学の講義ですか?」

 

「そ、幸平さんは助手やってもらうためにこっそりサポートの事前申請に加えたんだから。早くそれ着てちょうだい」

 

「なぜ、こっそりと……? わたくしは構いませんが」

 

 よくわかりませんが、アリスさんに言われるがままに、わたくしは彼女とお揃いの衣装を身に着けました。

 そして、アリスさんはまずはホワイトボードを用意されます。本当に調理しながら科学の講義をされるみたいですね。

 

 そんな様子を見ていたアリスさんの対戦相手のドン・カーマさんは高らかに笑いました。

 

「おほほほ、そんないかにも天然でバカそうな生娘一人加えて科学の授業? ナメるのもいい加減にしなさい! アタシたちのシェイク連携が勝つのは自明なのだからっっ!」

 

「ソアラさんはバカじゃないです!」

「そうだな、幸平はバカじゃねぇ」

 

 恵さんに黒木場さん、天然でもないと言ってくださいな。

 カーマさんはサポーターの方々とシェイカーをフリフリされます。

 これも何らかの異能なのでしょうか……。さらに、同時に具材の調理も進んでいきました。

 

 彼の作ったメニューは“オネェの欲張りヴェリーヌ3種”

 

 ヴェリーヌとは小さめなグラスに盛られた料理やスイーツの事で、ソースやムースが層状に積み重ねたビジュアルの鮮やかさも特徴です。

 

 カーマさんのヴェリーヌは3つのグラス――注目すべきは3つ合わせて100層にも届きそうなムースの重なりです。

 

 これはそれぞれにフルーツ、魚介と香草、子羊肉と根菜類の色とりどりな光景が広がるひと時のショーのような味と評価されていました。

 

 しかも、これだけの重厚なうま味を味わったにもかかわらず、ヴェリーヌの中身は泡状であるため、とても軽い、アミューズの概念を超えた品となっています。

 

「どうかしら? 科学バカには到底届かない領域でしょう? 驚いて開いた口が塞がらないんじゃない?」

 

「そうね〜、驚いたわ」

 

「あら、素直な子。アタシはそういう子は好きよ」

 

 アリスさんは不敵に笑いながらカーマさんたちの調理に驚いたと言われました。

 この笑顔をされた彼女は相手に負ける気が微塵もないという証拠なのですが、カーマさんは言葉のとおり受けているみたいです。

 

「それだけ人数集めて、作ったのはそこそこ美味しいモノの詰め合わせセットしか作れないなんて。ビックリしたわよ。ねぇ、幸平さん」

 

「え、ええ。まぁ、そのう。凄いとは思いましたけど――」

 

「はっきり言いなさいよ。ノワールはやっぱり宴会芸レベルの集団だって」

 

「な、な、何よ! 失礼しちゃうわ! そんなに言うなら見せてご覧なさい! アタシたちを超えるアミューズを!」

 

 アリスさんは心の底から馬鹿にされたような口調でカーマさんのヴェリーヌを貶めました。

 わたくしを巻き込まないでほしいのですが……。

 

「幸平さん。予定変更。ヴェリーヌを作りましょう」

 

「あ、はい。ヴェリーヌですね。それでは、液体窒素はどのように使いますか?」

 

「そうね。液体窒素はねぇ――」

 

「なに、あの二人――」

「薙切アリスがイチからやり方を教えてる?」

「幸平創愛は分子調理の経験がないのかしら?」

 

 アリスさんは次々とホワイトボードに化学式と共にルセットを書かれて、わたくしにヴェリーヌを作る行程を示します。

 こ、これは何とも斬新なアミューズですね……。

 

「こんな通常の料理から逸脱した複雑な行程、すぐに覚えられるはずがないわ。せっかく黒木場が無事だったのになぜ?」

 

「わかりました。では、調理を開始しましょう」

 

「「――っ!?」」

 

「うそっ!?」

「あの訳のわからん行程を全部覚えたっていうのか?」

「幸平創愛の理解力も驚愕ですが、薙切アリスは予定変更と言っておりました。まさか、あの複雑なルセットを一瞬で考えついたのでしょうか」

 

 アリスさんの科学の講義をわたくしは何とか理解して、彼女のヴェリーヌ作りを一生懸命にサポートしました。

 彼女の特殊な行程も意味を理解しながら調理すると、その精度がより正確になります。

 

「お待たせしました。こちらが私のヴェリーヌです」

 

「こ、これはまたシンプルというか、変わったヴェリーヌ。一見、ただのシャーベットに見えるが……」

 

「真っ白なシャーベット。あの複雑そうな行程で出来たのはこれだけ?」

  

 アリスさんのヴェリーヌは一見するとグラスに真っ白なシャーベットが入っているだけのように見えます。

 審査員の方々もこれには首を傾げていますね……。

 

「それでは、その白いシャーベットにスプーンを入れてみてください」

 

「――っ!? な、なにこれ? 中から美しい緋色と碧色が現れたわ。はむっ、んんっ……、これはズワイガニにミントを合わせたモノかしら? 清涼感のあるミントによってカニの風味がストレートにまっすぐ鼻に抜けるわ。あんっ……、こんな、組み合わせがあるなんて。冷たい洋梨の酸味と舌触りが、カニの旨味を抜群に上げているわ」

 

「この洋梨は普通のシャーベットではありませんね?」

 

「ええ、洋梨ジュースを液体窒素で瞬間冷却して、梨の風味や食感を損なわずにそのまま固めました」

 

 彼女の作った洋梨のシャーベットは液体窒素で瞬間冷却することで、風味や食感をそのままに味わえるような仕掛けになっており、これがズワイガニの美味しさを完璧に引き出せる秘密となっておりました。

 さらにミントを使ったことで、風味を存分に感じることが出来るようになっております。

 

「確かに分子ガストロノミーの技術を活かしてカニの旨味を存分に引き出している。さっきのヴェリーヌの美味に負けていませんね」

 

「なんてこと言うのあんた! そんなわけ無いでしょう!」

 

「甲乙付けがたいわね。あら、さらにもう一つの層があったのね……。――っ!? これだけ美味しかったカニの旨味がさらにもう一段階上がった!? そんなはずっ――! んんんっ……、だ、ダメ……、気を確かに持たなきゃ……、でも……、んっ、あんっ……」

 

「こ、これは、モヒートのエスプーマ、カニミソのソースが隠し味として入れられていますね。うっ……、ひ、ひと口食べるとモヒートの酸味と冷たい洋梨が、カニの旨味を引き立てているのです。最初にミントによって清涼感を得ていますので、味覚がいつもよりも鋭敏になり、ストレートに素材の旨味を感じられる体に私たちが改造されてしまっています。いや、それだけじゃない。カニミソのソースにも仕掛けが……」

 

「そのとおりです。神の舌とまではいかないまでも、“天使の舌”と言えるくらいには舌が敏感になっているでしょう。そのようにソースを作りましたから。より繊細で淡い味付けにすることで、味蕾という味を感知する細胞が発達するように――」

 

 そして、アリスさんの品の驚くべき点は、食べる方の味覚をより研ぎ澄ませることを可能とした点です。

 料理は科学といいますが、こちらの分子ガストロノミーの申し子はそのさらに先を行く調理をされています。

 

「お、恐ろしい料理人だわ。料理を美味しくするだけでなく。我々審査員の味覚まで支配するなんて」

 

「ま、まさか。素直に黒木場と調理せずに、幸平創愛を呼んだのも、長々と科学の講義をしながら調理をしたのも全部――」

 

「ええ、先にこの品を出したら。審査員の皆さまの舌の状態が良いまま、あなたたちの品の審査をすることになるでしょ? そんなの嫌ですもの」

 

 アリスさんはあえて遅出しをするために、調理開始を遅らせたと仰られました。

 彼女には黒木場さんが妨害に遭わされることまで読んでいたみたいです。

 

「あ、あのう。それじゃあ、わたくしはいらなかったんじゃ?」

 

「そんなことないわよ。この品は鮮度が命。調理時間自体は早いに越したことがない。幸平さんとの連携は本当に助かったわ」

 

「ま、まるで天使によって極楽に連れて行かれるような――」

「まさに我々が体感したことのないアミューズですな。これがコース料理なら、そのあとに運ばれる品もより一層な美味に感じられるでしょう」

 

「これが私の“天使の気まぐれヴェリーヌ”ですわ」

 

 アリスさんは自信満々の表情で自分の品の名前を言われました。

 審査員の執行官の方々も新しい発想だと褒められています。

 

「味覚を鋭敏にする? “天使の舌”? そんなおバカなことがあるわけないじゃないのよ!」

 

「では、召し上がってみますか?」

 

「くっ――! いいわよ。食べてやろうじゃないの! はむっ――、んあっ……、いやん……、んんっ……、バカ……、やめなさい! んんんっ……、なにこれ? こんなのアタシ知らない! 舞い降りたのは百人のマッチョなイケメン天使! そんなゴリゴリが強引にアタシを天まで連れてくの〜〜! だ、ダメ〜〜! こんなのされたら、もう! す、好きになっちゃう! こんなに愛されたら、も、もう! 我が生涯に一片の悔いなし!」

 

「「…………」」

 

 カーマさんは右拳を天に掲げながら、満足そうに目を閉じました。

 これは負けを認められたということでしょうか……。

 

「どうでもいいけど、ソアラ。この大会って35歳以下の若手の大会じゃなかった?」

「人を見た目で判断しちゃ行けませんわ。ドン・カーマさん、ちょっと老け顔なだけかもしれないじゃないですか」

「老け顔なのは認めるんだね……」

 

「勝者! 薙切アリス!」

 

「「お粗末様ですわ!!」」

 

「ありがとう! 幸平さん! おかげで助かっちゃった。やっぱり頼りになるわ」

 

 アリスさんの勝利が宣言されて、彼女はわたくしに抱きついて、褒めてくださいました。

 彼女の柔らかな感触が腕に伝わり、心地よい温もりを感じます。

 

「アリスさんが凄かっただけで、わたくしは何も――」

 

「えりなにあげちゃうのは勿体無いわよ……、本当に……」

 

「アリスさん?」

 

「ううん。何でもない。こっちの話よ」

 

 アリスさんは少しだけ寂しそうな顔をされながら、わたくしの腕にしがみついております。

 一体、どうされたのでしょうか……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ねぇ、見てソアラさん。このトーナメントの対戦表……」

 

「な、何ですか、これは……、これじゃえりなさんが……」

 

 翌日の朝に恵さんから、このトーナメントの対戦表を見せられて、わたくしは驚きました。

 なんと、えりなさんにだけ大量の対戦相手がいるような組み合わせで、いわゆる彼女は逆シードというような悪意のある対戦カード強制されていたのです。

 

 わたくしたちはえりなさんの様子を見るために会場に向かいました。

 

『千切っては投げ、千切っては投げ! 薙切えりな連戦連勝! 誰も彼女を止められません!』

 

「…………」

 

 えりなさんは次から次にノワールの方々を相手に白星を重ねます。

 その勢いは凄まじく、彼女の料理はいずれも熱が籠もっておりました。

 

「やはり、おかしいですよ。こんな不平等……、それにこんなに試合を続けたら」

 

「体への負担は大きいよね。やっぱり……」

「むぅ〜、えりなだけ目立ってずるいわ。文句を言いに行きましょう」

 

「「えっ?」」

 

 えりなさんの身を案じていましたら、アリスさんがこのトーナメントに文句を言おうと提案されました。

 わたくしたちはその言葉に驚きます。

 

「ブックマスターっていう人に直談判するのよ。こんな不当なトーナメントは即刻変えるべきだってね」

 

「それってわたくしたちが言って何とかなりますかね?」

 

「じゃあ幸平さんはえりながあのまま連戦しても良いって言うの?」

 

「…………わかりました。特務執行官さんに話に行きましょう」

 

「そ、ソアラさんまで……。でも、そうだね。こんなの酷すぎるよね」

 

 えりなさんのために、こんな不平等で偏ったトーナメントを変えてほしい――それを直談判するために、わたくしたちは特務執行官(ブックマスター)の元に行くことにしました。

 

 わたくしたちがどうにか特務執行官さんの居場所らしき場所を見つけたとき、えりなさんが既に彼女にこのトーナメントについて自ら言及をされていました。

 

「私の悲願を成就させるのに、最も適したものが残るように便宜を施している」

 

 すると特務執行官さんは自らの目的のためにあのようなトーナメントにしていると、細工を認めます。

 それじゃあまるで特務執行官さんは――。

 

「“神の舌”という異能には用がない。そういう事なのですね?」

 

 えりなさんは彼女が“神の舌”を排除したがっているとして、さらに驚きのセリフを続けました。

 

「お母様」

 

「「――っ!?」」

 

 何とえりなさんは特務執行官さんをお母様とお呼びしました。

 

 それと同時に御簾が上がって特務執行官さんの顔が見えます。

 えりなさんのお母様――薙切真凪(まな)さん。彼女は肩肘ついてえりなさんをジッと見据えていました。

 

「ま、真凪伯母様!」

 

「アリス!? それにソアラに田所さんまで!? どうしてここに?」

 

 その様子を見ていたアリスさんは驚きの声を上げて、えりなさんに駆け寄ったので、わたくしたちもそれに続きます。

 えりなさんはわたくしたちが出てきて驚かれていました。

 

「いえ、そのう。えりなさんだけに対戦相手が偏っているトーナメントを改めてもらおうと思いまして」

 

「そ、そう。私のために……」

 

 わたくしが彼女にここに来た理由を話しますと、えりなさんは少しだけ頬を染めながら、わたくしの手を握ります。

 

「えりな、真凪伯母様がブックマスターなんて、聞いてないんだけど」

 

「言ったわよ。あなたが忘れてるだけじゃない?」

 

「そんなはず――あれ? 言ってたかしら?」

 

「あ、アリスさん。そこは自信を持ってくださいな」

 

 アリスさんは真凪さんのことを聞いてないと不機嫌な顔をされてましたが、えりなさんの口ぶりでは話したことがあるみたいでした。

 アリスさんはそれを聞かれて首を傾げておりますね……。

 

「アリスとその二人も確かまだ生き残っている表の料理人だったの。えりなの取り巻きか……」

 

「いえ、違います。二人とも私の友人です」

 

「友人? これは驚いたえりなに友人などおったとは」

 

 真凪さんはえりなさんの友人という発言に本当に驚いていました。

 まるで、自分の娘に友達がいるはずがないと仰られているみたいです……。

 

「そう。お母様……、あなたは私に興味がない。故に彼女らのことも知らなかった……。そのせいで“神の舌”を潰そうと目論みも頓挫したのです」

 

「なんじゃと?」

 

「こちらの幸平創愛はその類稀なる才能で、私のような遺伝とは別の形で“神の舌”の領域に踏み込んだ料理人です。彼女は間違いなく決勝の舞台まで上がるでしょう」

 

 えりなさんはわたくしを彼女に紹介されました。決勝進出は間違いないと、ハードルを上げて――。

 いや、まだ朝陽さんか恵さんとトーナメントでぶつかる可能性もありますし、他の凄い方がいるかもしれませんし、間違いないというのはちょっと――。

 

「後天的に、“神の舌”の領域に踏み込んだと申すか! 戯けたことを言うな! そんなバカげたことあろうはずがなかろう」

 

特務執行官(ブックマスター)、薙切えりなさんの仰ったことは本当なのです。以前に彼女の料理を食したことがありますが、確かにその域に達せなければ届かないような複雑な構成の調理を成功させていましたのです」

 

 わたくしが“神の舌”の模倣をしていることが信じられないという真凪さんに、どこからか一等執行官で連隊食戟の審査をされていたアンさんが現れて、それが本当だと説明をされました。

 

「まぁ、どちらにしろ。私も決勝まで残りますけどね。ソアラと幾度となく対戦を繰り返し、私はあなたの想像を遥かに超えて成長しました。お母様はご存知ないのです。2種類の“神の舌”がぶつかり合うことで生まれるその先の世界を――」

 

 確かにわたくしとえりなさんは連隊食戟の特訓を含めて、今日までにおおよそ100回ほどは料理を出し合って試合のようなことをしていました。

 こうやって切磋琢磨をお互いにすることで、毎回新しい発見が生まれるので、わたくしたちは二人ですることにハマってしまい、夢中になって勝負を繰り返していたのです。

 

「“神の舌”の先じゃと? ふっふっふっ、何を言い出すかと思えば。所詮はまだ童じゃのう。絵空事を抜かしておるわ。仮にえりなとその友人が決勝に残るようなことがあれば、絶望の未来しか見えぬ」

 

「まぁ、お母様ったら。結果を見ずして未来がわかるなんて流石ですわ。特務執行官(ブックマスター)なんて辞められて、占い師にでも転職なさったら如何です?」

 

「減らず口を叩きおって! ――っ!? うっ――!」

 

「「――っ!?」」

 

「お、お母様!?」

 

 えりなさんが真凪さんを煽った瞬間に真凪さんは苦しそうな声を出しながら倒れてしまいました――。

 一体、何がどうなっているのでしょう……。

 

 そして、わたくしは知るのです。“神の舌”を持って生まれたが故に起こってしまった悲劇を――。




分子ガストロノミーの申し子という設定に毎回悩まされ、もっと活躍させたいのに、それが描けなくて悲しくなるアリスです。
すっげー好きなキャラなんだけど、いつもいい加減な感じになって申し訳ない。
とりあえず、原作の300話あたりくらいまで書けたから、最終回が見えてきて嬉しいです。
BLUE編が終わったら本編を完結として、そこから番外編をちょいちょい加える感じにしようと思います。

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