【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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あの日の想い出

 

「むぅ〜〜」

 

「あ、アリスさん。気を落とさずに……」

 

 アリスさんとえりなさんが対戦することになってしまって、アリスさんは負けてしまいました。

 彼女は先程から、不機嫌そうにムッとした顔をされております。

 それもそのはず、彼女の料理はアリスさんの作った中で最高傑作と言っても良いほどの完成度でした。それでも、えりなさんの品には及ばなかったのです。

 

「えりなさんの品凄かったね。審査員の人たち、喋れなくなったどころか、無言でお替りを要求していたもん」

 

「悔しい! また、あのドヤ顔をされたのよ! にんまりと笑っちゃって、気に入らないわ」

 

 アリスさんは感情を素直に表現されながら、足をバタバタされます。

 彼女には悪いのですが、頬を膨らませてジタバタされる仕草は非常に可愛らしかったです。

 

「まぁまぁ、アリスさんの品も見事でしたよ」

 

「そんな慰め要らないわよ。こうなったら幸平さんが優勝しなさい。それで、えりなの得意満面な顔を見なくて済むし」

 

「それはどうかと思いますけども……」

 

 アリスさんはえりなさんが得意満面な顔をされることが嫌という理由でわたくしに優勝するように命じられました。

 そんな理由で優勝はしたくないのですが……。

 

「それにしても、えりなさんのお母さん……」

 

「ええ、まさか“神の舌”を持つことであのような弊害が――」

 

 わたくしは先日のアンさんの話を思い出しました。

 彼女によれば、WGO内でも真凪さんの素性を知っている方はごく少数のようです。

 

 それでもアンさんが真凪さんとえりなさんが親子に違いないと確信したのには理由があります。それは真凪さんも“神の舌”の持ち主ということです。彼女は美食を追求する日々の中、ある時、味というものに完全に絶望してしまったのでした。

 その結果、食事を受けつけなくなり今では点滴で多くの栄養を摂取するようになります。

 薙切家から出ていったのもそれが原因のようです。彼女はまだ幼いえりなさんを残して去ったのでした。

 

 ですから、えりなさんは自分を捨てた母親のことを恨んでいると、アンさんは感じているようです。

 

 彼女はわたくしと決勝で試合をされたいと仰られていましたが、それはどういう意図からなのでしょうか……。

 

 そのえりなさんは朝陽さんにまたもや言い寄られているようでした。

 

「えりな姫。そろそろ、結婚について本気で考えてもいいんじゃねぇか? 俺はこの大会で優勝するぜ」

 

「残念ですが、それはあり得ません。あなたはまた負けるのですから」

 

「確かに、ソアラちゃんには不覚を取った。しかし、今度はこのクロスナイブズを惜しみなく使う! そのためにノワールを集めたんだからな! いくら、ソアラちゃんが凄くても、たった一人の料理人。絶対に本気の俺には勝てねぇ。俺には力がある! 君の“神の舌”をも超える力が!」

 

 えりなさんが朝陽さんとの結婚について、断固拒否の姿勢を見せると、彼は自分の力が“神の舌”を超えると豪語されます。

 わたくしでは本気の朝陽さんには勝てないとも。

 

「見当違いもそこまでいくと哀れですね。勝てませんよ。そんな認識では彼女には」

 

「くっ、まぁいいさ。たしかに負けちまった事実がある以上、説得力がねぇのは仕方ねぇ。じゃあ今度はデモンストレーションしてやるよ。わかりやすいカモもいることだしな」

 

 朝陽さんは何やら企み顔をされて、去って行きました。

 彼の言うカモという言葉はどういう意味なのでしょうか……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「勝者! 才波朝陽!」

 

「め、恵さんが負けてしまいました――」

 

 ノワールを相手に連勝されていた、恵さんは朝陽さんとぶつかりました。

 朝陽さんが使ったのは、恵さんに負けた二人の選手の使っていた調理器具です。

 クロスナイブスでその二人の異能を借り受けて、恵さんを圧倒したのでした。

 

「あの人が使った異能って、田所さんに負けた人の能力でしょ? それなのに」

 

「きっとそれこそが彼のクロスナイブスの優れた点なのでしょう。文字通り、能力と能力を掛け合わせることで、単純な足し算ではなく、新たな強力な異能の力を発動させることが出来る。それが朝陽さんの力です」

 

 彼のクロスナイブスは組み合わせが無数にある上に、複数の異能の底力を高め合えるという可能性を秘めていました。

 要するに異能の良い所取りをして、それを皿にぶつけることが出来るので、どんなお題にも最大の成果を成し遂げられる強さがあるということです。

 

「さっすが、ソアラちゃん。可愛い顔してんのによく見てんのな」

 

「顔は関係ないと思いますが……」

 

 わたくしが才波さんの力を分析していると、彼はそれを肯定します。

 前回彼と戦ったとき、本気を出していなかったことは明確でしょう。

 

「見てのとおりだ。俺のクロスナイブスには無限の可能性がある! どんな料理人でも、なし得なかった、“地球上になかった皿”を創り出すことが出来るんだ! もういい加減気付いただろ? 君や君の母上を絶望から救えるのはこの俺だけだって!」  

 

「勘違いしないでほしいのですが、私は絶望なんて一切していないです」

 

 朝陽さんはえりなさんが真凪さんと同様に、“神の舌”に絶望されていると仰られましたが、彼女はまったく絶望しておりません。

 確かに彼なら真凪さんの悲願を達成できるのかもしれませんが……。

 

「強がらなくていい。俺なら君を幸せに出来る。だから君も俺のためにその“神の舌”を捧げろ」

「お待ちください。えりなさんはわたくしが幸せにします」

 

 わたくしはもう黙って見ていることが出来ませんでした。

 自惚れでも構わない――その役目は譲りたくありません。

 

「おいおい、ソアラちゃんは女の子じゃないか。友達が大事なのはわかるが――」

「わたくしの方が朝陽さんよりもえりなさんを大事に想っておりますから」

 

「ば、バカっ、何を急に言い出すのよ……。う、嬉しいけど……」

 

 わたくしがはっきりと自分の思っていることを伝えると、えりなさんは顔を真っ赤にされながらわたくしの胸にもたれかかります。

 同性とかそんなことは関係ありません。ここだけは自分の気持ちを大事にしたいです。

 

「だから、譲れません。朝陽さんに勝って決勝に行くのはわたくしです」

 

「…………そっかそっか。二人はそういう関係だったのか。じゃあ完璧に俺が邪魔者って訳だ。そりゃあ、えりな姫も靡かねぇわな」

 

「何か文句がありますか? 変かもしれないですが、私が共に居たいと想っているのはあなたではなく、ソアラです」

 

「ねぇよ。文句なんざ。ただ、ソアラちゃんが羨ましくってたまらねぇのさ。あの人もえりな姫も全部持って行ってしまうなんて――。だったら、俺はソアラちゃんの大事なモノを奪いたい。このクロスナイブスで――もう料理が出来ねぇくらいの敗北を味わってもらってな」

 

 朝陽さんはわたくしたちの気持ちを理解しながら、わたくしの全てを奪うと宣言されました。

 彼は父のことも含めてわたくしを恨んでいるのかもしれません。

 

「何よ、それ。逆恨みもいいとこじゃない」

 

「そうさ、逆恨みだ。だが、いつしかそれが俺の生きる目的になっちまった――。準決勝は楽しみにしてるぜ」

 

「わかりました。全部そこで決着をつけましょう。わたくしも全力で勝負に臨みます」

 

 宣戦布告とも言える朝陽さんのセリフ。わたくしはそれをはっきりと受けて立つと返しました。

 しかし、彼の力には無限の可能性があります。きっと彼はありとあらゆる難題に対応することが可能でしょう。

 

 

 

 わたくしはその日、どうしてもホテルで休む気にはなれず、父に許可をとって“ゆきひら”に帰りました。

 

 調理場でわたくしは自分の料理の原点になった品を作ります――。

 

 

「…………出来ましたわ」

 

「ソアラちゃん、どうしたんだい? いきなりここに帰ってきても良いかって」

 

「ちょっと、神経が昂ぶってしまったので、初心に戻ろうと思いまして――料理を楽しむために」

 

 ちょうど、調理が一段落したところに父がやって来られました。

 わたくしはどうしても慣れない勝負の雰囲気に飲まれそうになりましたので、一番馴染みのある調理場で料理を作って気分転換をしていたのです。

 

「なんだ、かつ丼に、カレーに、チャーハンか。こんなに食べると太るぞ」

 

「――ちゃんと少なめに作ってますし。半分はお父様の分ですよ」

 

 わたくしは米物を三品も夜中に作ったことを父に指摘されて、彼と一緒に食べる分だと申しました。

 

「おっ! 悪ぃな。ちょうど小腹が減っててさ。ソアラちゃんがどんだけ力を上げたのか――。――っ!? ぐえっ、ま、まじぃ……、――こ、この脳天をハンマーで殴られたくらいの不味さは……」

 

 父はニヤリと笑って、カツ丼に手を付けました。

 しかし、彼はひと口食べた瞬間に顔を歪められます。そして、彼の目からひとすじの涙が流れました。

 

「泣いてるのですか……?」

 

「ぐっ……、泣いてねぇって。この味を何でソアラちゃんが……? そりゃ、懐かしいけどさ」

 

「覚えているからですよ。お母様の作ってくれた料理は全部。時々こっそり作って食べているのです。大事な思い出の味ですから」

 

 そう、わたくしが作ったのは母が幼いわたくしに食べさせてくれた料理。

 彼女は定食屋の娘でしたが、料理があまり得意ではなく、失敗することが多かったのです。

 しかし、誰よりも楽しそうに料理をする方でした。今日作った三品は彼女が自分でも大失敗だと仰った品です。

 

「なんか、久しぶりにソアラちゃんの人間離れしてるところを見た気がするぜ。あいつの味を再現ねぇ……」

 

 父はどうして母が大失敗をしたときの品を作っているのか不思議みたいでした。

 もちろん、母のことを思い出したいという理由が一番でしたが、もう一つの理由もあります。

 

「お父様は料理で失敗したことありますか?」

 

「覚えたての時とか失敗して覚えるもんだろ。まぁ、俺もソアラちゃんと一緒で物覚えは良い方だったから、ほとんど経験してなかったせいで潰れたんだけどな。今考えるともっと失敗しとけば良かったのかもしれねぇな」

 

 父に失敗したことがあるのかどうか尋ねると、当然あると答えられました。

 しかし、ほとんど経験はしておらず、もっとしておけば良かったとも仰られます。

 

「わたくしは無いのですよ。一度も料理で失敗したことが」

 

「あー、そうだっけ? そういや、珠子がお前に包丁持たせて“失敗しても良いからやってみな”とか言ってて、様子を見てたらいつの間にかソアラちゃんがあいつに料理を教えてやんの。ありゃあ笑ったぜ」

 

「わたくしもなぜ教わるつもりが教えているのか分からなかったです」

 

 最初に包丁を握った日、わたくしは教えられたことを自分なりに考えて調理した結果、母はわたくしの料理が美味しいと仰ってくれました。

 そして、どうやってその味を出したのか質問されたので、得意気にわたくしは彼女の問いかけに答えました。

 あの日の母の嬉しそうな顔を忘れる日はないでしょう。

 

「失敗してねぇから、この品を作ったのか? よくわかんねぇな」

 

「知りたかったのですよ。これを作るときのお母様のワクワクした気持ちとか、何を思ってこの行程にしようと思ったのか、とか。だって、わたくしはお母様よりも楽しそうに料理をする人を知らないのですから」

 

 失敗ばかりしていても母はいつも楽しそうに調理されていました。

 こうしてあの頃の母のことを思い出すと、いつも彼女は笑っていたので、我が家は笑顔が絶えなかったことを思い出します。

 

「ソアラちゃんだって楽しそうに作ってんだろ?」

 

「それは、まぁ。好きですよ、わたくしだってお母様に負けないくらい。でも、今度の朝陽さんとの戦いは――もっと、もっと自由な発想で挑まなくてはならないと思いまして。失敗だと思えるようなことも全部試すくらいで……。ですから、お父様――今からわたくしと勝負しませんか?」

 

 わたくしは母の料理から学んだのです。料理とは自由だと。

 がむしゃらに進むからこそ見えるものもあるということ。

 そして、この気持ちを皿にぶつけたくなったわたくしは父に初めて勝負を挑みます。

 

「おいおい、ソアラちゃんが俺に料理勝負を挑むって? ちょっと驚いたぜ。どういう風の吹き回しだ?」

 

「何となくですわ。それとも連敗するのは嫌ですか?」

 

「言ってくれるぜ。良いだろう。お前があいつに勝てるかどうか見てやるぜ」

 

 父は新しく買ったのであろう包丁を取り出して、やる気を漲らせました。

 

 真夜中に父娘で料理対決を開始しました――。

 

 

 

「――ったく、結局失敗しねぇのかよ……。こんなに気持ちいいくらいの完敗は久しぶりだぜ」

 

 勝負と言っても審判が居ませんので、自分たちで食べ比べをします。

 今回の品の出来はわたくしの方が良かったみたいです。

 

「包丁……、朝陽さんに取られてしまったのですね。それでは全力は――」

「いや、全力さ。あいつに負けたときよりもずっと、ずぅっとな。娘に負けたとあっちゃ、かっちょ悪いだろ? 負けたくねぇって気持ちしかなかった」

 

 父としては誰に負けるよりもわたくしに負けることが嫌だったみたいです。

 何の意地なのか分かりませんが、格好悪いなんてことありませんのに――。

 

「なら、わたくしは――」

 

「自信を持て、お前は俺を超えたんだ。そもそも、ソアラちゃんは俺から見りゃ完璧な料理人だ。でも、お前はそれでも満足せずに驚いたことにあいつの失敗まで糧にしようとした。結果、ソアラちゃんはさらに荒野の奥に進んで行っちまった。それも誰よりも楽しそうによぉ。間違いなくお前は母さんの娘だよ」

 

 失敗する方向にあえて舵は取れません。“神の舌”を使うようになると、それはまさに自殺行為に等しくなります。

 しかし、同時に感じ取れるようになったのです。その方向にある微かな輝きを。

 だからわたくしは母の遺してくれたその可能性に賭けてみたくなったのです。

 

「だって、新たな可能性が眠っているのですよ。こんな面白いことありませんわ。お父様の仰る荒野は宝の島です」

 

「そう思えるからお前は凄いんだよ。応援するからさ。ソアラちゃんの次の皿を楽しみにしてるぜ」

 

 父は優しく微笑むと、残していた思い出の味の方に手を付けました。

 

「やっぱ不味いモンは不味いぜ。俺もまだまだこの域には到達出来ねぇもんなぁ」

 

 チャーハンは割と成功することが多かったのですが……。失敗するととんでもなかったのですよね……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「待ってたぜ、ソアラちゃん。今日使うナイフを1つだけ教えてやろう。これだ――」

 

「父の包丁ですか。気前が良いのですね。手の内を明かしてくれるなんて」

 

 準決勝の日、朝陽さんはわたくしにナイフコレクションを見せながら、父の包丁を使うと言われました。

 沢山ある内の一つが分かったところで……、だとは思いますが、どういった意図があるのでしょう……。

 

「別に君のためにやった訳じゃねぇ。食戟をしようぜ。負けたほうが、勝ったほうにナイフを差し出す。俺はソアラちゃんの包丁が欲しい。それでもって、今度はえりな姫も倒す」

 

「構いませんよ。わたくしは負けませんから」

 

「試合が楽しみだ。ソアラちゃんの全部が貰えるんだからな。力も大切な人も全部な」

 

 朝陽さんはわたくしの全てを奪うと言いました。

 それが彼の生きる動機ならば、悲しいですがもう語ることは何もないでしょう。

 わたくしは自分の皿にすべてを込めるだけですわ――。

 




どうでもいいですが、モナールカをえりながやっつけたので、田所ちゃんは一人多くノワールをやっつけた感じになってます。
流れは原作と同じなのでほぼカットしました。
必要以上にキャラを貶めないようにしているのに、朝陽の株が話数が進むごとにとんでもなく下がってる……。
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