【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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ラスボス戦です。一応は……。
料理の描写は適当ですが、結構考えるのには時間がかかりました。



BLUE準決勝――幸平創愛VS才波朝陽

『世間には俗に“世界の五大料理”と呼ばれているものがあるのう。その内訳は諸説あるが、フランス料理、中国料理、トルコ料理、インド料理、そしてイタリア料理――この五つは特に有力なジャンルと言えよう。――さて、今回作ってもらうのは――その全てだ』

 

「「――っ!?」」

 

『食材は自由。制限時間は180分。五大料理を一つの品に集約して最高の美食を作ってみよ! それがお題じゃ!』

 

「何ィーーーっ!」

「む、無理難題すぎる! そんなことどうやって成立させろってんだ!」

 

 真凪さんはお題として五大料理を集約した美食を一皿生み出して見せよと言い放ちました。

 ある程度難しいお題であることは覚悟していましたが、これは想像以上ですね……。

 

「悪ぃなソアラちゃん。このお題は、俺の能力にぴったりだ。さぁて、才波のナイフと古今東西、どの道具をクロスさせるとするかな!!」

 

 朝陽さんはさっそく調理に取り掛かるようでした。

 制限時間は限られておりますから、早く動けたほうが有利です。

 

「クロス!」

 

 朝陽さんは才波のナイフとククリ刀の様な形のナイフを掛け合わせて調理されます。

 ネギ・生姜などの香草を刻み濃厚な鶏ガラスープに投入しておりました。

 

 そして、スパイスを焼き始められます。

 すると、朝陽さんは違う道具でクロスされようとしました。なるほど、調理の一工程ごとにクロスが可能なようですね。

 どうやらインド料理などで使われるスパイス、グラインダーを作っているみたいです。

 適切に挽いたスパイスを油で熱する事で有効成分と香りがじっくりと引き出されます。

 

 そう思っていると、彼はまたまたクロスされました。

 

 今度は中華料理でしょうか……。

 才波のナイフと爪のような調理器具を組み合わせます。

 用意したフカヒレの繊維に沿って撫ぜる様に爪を走らせます。恵さんとの対決のときにあの爪の能力は見たことがあります。

 フカヒレ自体は味を持たない食材ですが、あの爪を駆使すれば、うま味成分が染み込んでいくでしょう。

 

 さらにその次に登場したのは、司先輩から強奪した特大グレーターです。

 超速の早技で削り取られるのは、バターの塊ですか……。

 すごいですね。あらゆる道具・調理方法を瞬時に自由に使いこなすことが、出来るのが父の力――つまり“才波のナイフ”の能力なのでしょう。

 

「朝陽さんはすごいですね。道具を持ち替えれば色んなことが瞬時に出来るようになるのですから」

 

「まぁな。これがあるからこそ俺は荒野をどんな連中も置いてきぼりにして、快速で進むことが――。――っ!?」

 

「あ、あれはっ――!」

 

「司先輩のグレーター捌きみたいなことを包丁で!?」

 

 わたくしも豚肉を調理するにあたって彼から教えてもらった調理術を自分なりに変化させて使います。

 普通の包丁も角度と斬り方さえ工夫すれば、色んな使い道があるのです。

 

「おいおい、ソアラちゃんも魅せてくれるじゃん。それがソアラちゃんの異能かい? ますます欲しくなったぜ。そのナイフ」

 

「これですか? これは、一昨日くらいに購入したほとんど新品ですけど、朝陽さんが勝ったら差し上げても構いませんよ。インターネットで調べて好評でした。評判通り切れ味が良くて使いやすいです」

 

 朝陽さんがわたくしの包丁を欲しいと仰られましたが、この包丁は一昨日買ったばかりのものです。

 値段はそれなりにしましたが……。特別なモノというほどではありません。

 

「はぁ? ソアラちゃんの愛用の包丁はどうしたんだ?」

 

「朝陽さんがわたくしの力を道具さえ奪えば奪えると仰っているように見えましたので、それは出来ないということを実演しようと思ったのです。このとおり、わたくしの力を奪うのでしたら、腕を切り落とすくらいされませんと。もちろんいつもの包丁の方が愛着はありますが、この包丁だからパフォーマンスが落ちるということはあり得ません」

 

 彼がわたくしの包丁さえ奪えば、今までの研磨で手に入れた技術も何もかもが奪えるというようなことを言われましたので、わたくしはそうではないことを証明するためにいつもの包丁を使わずに今回の調理に臨みました。

 

 ある程度の切れ味さえあれば、それで覚えた技術が使えなくなるとか、料理が下手になるなんてことは起こりません。

 料理には道具よりも大事なモノがあるということを彼に教えたかったのです。

 

「なんつーセンス!? 道具を選ばずに他人の異能の力を包丁一本で再現できる規格外の才能がソアラちゃんの力ってわけか。最後の最後で何て理不尽な力を――っ!」

 

「幸平も才波に負けてねぇ!」

「なんだ? あの素早い動きは! 一本の包丁でどれだけの技を」

「様々な料理を複雑な行程に則って、しかもそれを同時に――」

 

「出会いが力になるのは、朝陽さんと同感です。しかし、教えられたことをそのまま使うだけでは――面白くありませんわ」

 

 単純に他人の技術をそのまま使うだけでは面白いとわたくしは思えません。

 教えられたことを体に覚えさせて、それを自らの独自性(オリジナリティ)のあるものに再構築させることが出会うことの楽しさだとわたくしは思います。

 

「――っ!? お、俺のクロスナイブスにケチをつけるつもりか? なぜだ? 俺だけが数多くの異能を使える唯一の料理人だと思っていたのに――だが、持ってる異能の数は俺の方が上のはずだ!」

 

「朝陽さん。楽しいですね。五つの料理を一つにするなんて、考えたこともなかったです」

 

「た、楽しいだと? なんでそんな笑ってられる! こっちは神経擦り減らしてんだぞ。余裕な顔してこっちの動揺を誘ってんのか?」

 

 真凪さんはとても面白いテーマを考えてくださいました。

 こんなに想像力と創造力が掻き立てられるような調理が出来て、わたくしは幸せです。

 

「見ろ、才波朝陽はあれだけ汗だくなのに……、幸平創愛は息一つ乱していない……!」

 

「才波朝陽、幸平創愛、ほとんど同時に品を完成させた!」

 

 そして、わたくしと朝陽さんは無事に制限時間内に品を完成させました。

 あとは審査員の方々の審判を待つのみです。

 

『制限時間終了! これより両選手の実食に移ります! 審査をする執行官三名は入場してください!』

 

 審査員として登場しされたのはわたくしも存じている人物でした。

 二等執行官のシャムルさんと一等執行官のデコラさんとクラージュさんの三名――こちらの三人は連隊食戟のときも審査をされていましたね。

 

「デコラ先輩、クラージュ先輩……、アン先輩からの伝言ですが、例の北海道での審査みたいに片方に肩入れしないでくださいよ」

 

 ランタービさんがアンさんの伝言で片側に肩入れした審査をしないようにデコラさんたちにクギを刺されます。

 そういえば、彼女たちは元々薊さん側の方たちでした……。

 

「何言ってるのぉ? あのときだって、WGOの理念に従って正当に審査して――あらぁ、君、イケメンねぇ」

 

「本当ね。なんというか雰囲気や佇まいとか、すごく私たち好みだわ♡」

 

「言ってる側から不平等感出さないでください!」

 

 彼女たちはWGOの理念に基づき正当な審査をしたと言いつつも朝陽さんを見るなりイケメンだと口にされます。

 前に葉山さんと進級試験をした際にベルタさんとシーラさんが審査をされた時みたいです……。

 

「さぁて、どちらの品を味わおうかしら。幸平さんは前の連隊食戟でその非凡な才能は確認済みだし、一方で朝陽くんの調理も非常に期待ができる」

 

 クラージュさんはどちらの品から審査をするのか迷っていましたが、朝陽さんの皿から、クロッシュで蓋をしているのにそれ越しに香りが立ってきていることに気付いたみたいです。

 

 彼女たちは、その香りを今まで一度も嗅いだことがないまろやかで優美な香りだと評して、もう我慢できないと最初の実食は朝陽さんからになりました。

 

「それでは審査に入りましょう」

 

 朝陽さんの蓋を開けると無数に香されたパイ生地が網のように器に覆っています。

 スプーンでパイを割り落として下の具や煮汁を絡めながら食べるようです。

 

「おっ、そうだ! 特務執行官(ブックマスター)殿もいかがです? 見てるんでしょ? 俺の自信作ですよ」

 

 朝陽さんは観戦されている真凪さんにも料理を勧めるのでした。

 彼女は美味しくないと感じる品を召し上がると体を壊すと聞きましたが――朝陽さんには本当にこの品に自信があるのでしょう。真凪さんもそれを感じ取って彼女も朝陽さんの品を召し上がるみたいです。

 

 朝陽の皿は“バスティー”――器に入っている具はニンジン・銀杏・しいたけ等です。

 さらに、とろとろに煮込んだフカヒレも入っています。

 

「た、堪らない。火傷しても構わない。思いっきりかっこみたい! う……、んんっ……、うわぁあ〜〜っ! このパイは司瑛士から奪い取った”剣技”を駆使しているのね。舌の中で旨みが熱く溶け合っていて、とろっとしたフカヒレとサクサクのパイの食感が堪らないわ」

 

 デコラさんたちは実に美味しそうに朝陽さんのバスティーを召し上がられてます。

 このパイは小麦粉と強力粉が混ざり合う前にバターを粗く削ることで、ただ均一に溶け込ませた場合よりもよりサックリと軽い食感が得られているみたいです。さらに煮汁とも絡みやすくこの品にピッタリです。

 

 この料理のベースは長崎県に伝わる郷土料理“卓袱料理”の一部です。

 鎖国時代の日本で唯一海外と貿易のあった長崎の出島を発祥とする、和・洋・中のエッセンスを合わせた食文化――その代表料理が網状のパイを冠したスープ料理が“バスティー”なのです。

 多くの文化が合わさった今回のお題にふさわしいメニューチョイスと言えるでしょう。

 

 網目のパイ生地はフレンチ、器の中にはうま味たっぷりの中華のフカヒレ、香り付けられたインドのスパイスは具にコクを染みこませています。

 

 さらにデコラさんは具にイタリア料理のラヴィオリを見つけます。

 しかし彼女がそれを口にすると何と具が伸びていきます。これはまさか、トルコ料理の――。

 

「それは“ドンドゥルマ”。日本で言うところのトルコアイスだ。“ドンドゥルマ”はサーレップの球根から作られた粉で粘り気を作り出す。これがラヴィオラの生地のしっとり感と絡み合い病みつきの食材になるのさ」

 

「恐ろしい料理だわ。例えば、全く異なるジャンルを極めた5人が、それぞれの技をカンペキに調和させて一つの皿を作ることが出来るかしら? そんなことは不可能よ。この料理の最も凄いところは本来ならば反発し合う物同士が噛み合っていること――これは本来は成立しない筈の品なのよ!」

 

 クラージュさんは朝陽さんの品を絶賛されていました。

 審査員の方々は五大料理のハーモニーに吸い寄せられて離れられません。

 

「こりゃあ、勝負あったかな」

 

 朝陽さんがそう呟いたのは、破裂音が響いた後でした。バァンッというこの音は以前にも聞いたことがあります。

 

「これは、まさか真凪さんの――」

 

 観客席では次々に衣服が弾けていました。

 これは“おさずけ”です。

 真凪さんのおさずけパルスが天守閣から漏れ出していたのでした。

 つまりこれは彼女は朝陽さんの料理を美味と感じた証拠に他なりません。

 

「これがBLUEの頂点、次世代の料理界、第一席に立つべき男の姿さ。リベンジ達成だ。やっと俺も笑えるぜ」

 

 勝利を確信したかのような朝陽さんは天を仰ぎました。

 彼はわたくしの品などこれっぽっちも気にかけていないみたいですね……。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「客席は落ち着いたみたいよ。あんたも不運ねぇ。あんな化物みたいな料理の次に品を出さなきゃいけないなんて」

 

 ランタービさんはわたくしに真凪さんの“おさずけ”によって観客席の方々の衣服が吹き飛んでしまった騒ぎが収まったことを教えてくれました。

 

「朝陽さんなら、誰も見たことないような凄い品を作ることはわかっていましたよ。あとは、わたくしの品がそれを上回る出来なのか、そうでないのか測ってもらうだけですから……。大丈夫です」

 

「潔いのね。あんたが天才的な料理人なのは知っているけど、勝つつもりなの?」

 

「それは、もちろんですよ」

 

 朝陽さんのクロスナイブスの能力は十分知っていましたので、彼の品が非常に高いレベルだということも覚悟しておりました。

 しかし、だからといって食べてもらう前に諦めるなんてことは致しません。

 

「なんだ、ソアラちゃんはまだ勝てるかもしれないって思ってるのかい? 俺の品を上回る自信があるんだ。あれを見て。意外と強がりなんだな」

 

「強がりではありませんよ――これがわたくしの品です」

 

「なんだ、これは――ッ!」

 

 わたくしは自分の品を皆さんに披露しました。

 この品にはわたくしのすべてが込められています。

 

「真っ白なソースが大量にかかっていて、何も見えないぞ」

「クリームシチュー? それともグラタンのようなもの……?」

 

「――わたくしの品はカツ丼ですわ。白いカツ丼です」

 

 皿の上は白いソースで覆われており、一見しただけでは何の料理なのか分かるはずがありませんので、わたくしは自分の品の正体を明かしました。

 五大料理をわたくしはカツ丼という一品に集約したのです。

 

「おいおい、ソアラちゃん。俺に勝つ自信があるって言っときながら見た目が奇抜なだけのカツ丼って――定食屋に拘るのは見事だが、審査員を見ろ! 呆れて物が言えねぇってよ」

 

「やだな〜、審査するの。今日はもう朝陽くんの勝ちにしちゃって帰りましょうよ」

「バカなこと言わないで。ソアラが自信があるって言ってるんだから食べてください」

 

 朝陽さんは馬鹿にされたような表情でわたくしの品は審査されるに値しないと言われましたが、確かにデコラさんのやる気はゼロのようでした。

 ランタービさんが、彼女に品を食べるよう促しております。

 

「ランタービさん……、そんなに無理やり食べさせようとしなくても」

 

「あんたのためにやってるんじゃない! ほら、口を開けて。あ〜〜ん。なんでこんなことをいい歳した人に――」

 

「ううっ……、はむっ……。――っ!?」

 

「えっ?」

 

 ランタービさんによって、デコラさんは強引にわたくしの品をひと口食べさせられました。

 すると彼女の目の色が変わって、皿を掴み、物凄い勢いでカツ丼をかき込まれます。

 

「このカツ――信じられないほどの美味しさだわ。確かにトンカツとはそもそもフランス料理の“コートレット”が起源だからフランス料理と言っても差し支えない……。その揚げ方も焼くように揚げていてフレンチの技法を用いてるみたいね。鮮烈に素材の味が感じられるわ」

 

 以前にも焼きロースカツを作りましたが、それを思いついたのは、まさにトンカツがフランス料理が起源という知識を四宮先生に実演と共に教えて貰ったからです。

 彼に鍛えて貰った技術は定食屋としてのわたくしもパワーアップさせてくれました。

 

「揚げられている豚肉はトンポーローになっている。柔らかくトロっとしていて、極上の食感と美味しさの――。それをサクサクの衣で包んでいるから、贅沢な旨味を堪能できるってわけだ。肉の表面を衣を付けて揚げ焼きにすることで、トンポーローの型崩れを防ぎ、見事に旨味を閉じ込めている。理に適っているけど、それを実際に行うには精密な作業と根気が必要だ」

 

 トンポーローは調理過程で旨味が逃げやすいメニューです。表面の部分を油で揚げることでコーティングする工夫をすると、旨味が閉じ込められるので、さらにサクッとした食感を加えるために衣を付けてみました。

 

「さらにこのソースの口触りとまろやかさと塩味が全体を調和させているわ。これはまさか――ヨーグルト?」

 

「ええ、“アイラン”と呼ばれているトルコでは定番となっております塩と水で割ったヨーグルトをベースにソースを作りました。さらにトンポーローも肉を柔らかくするためにこちらを使用していますので、ソースとの相性は抜群のはずです」

 

 中国料理のトンポーローとフレンチのカツを組み合わせ、さらにトルコのヨーグルト――“アイラン”をソースにしたり、肉を柔らかくするために使うことで旨味を上乗せさせます。

 

「しかし、最も驚くべきはこの米の部分よ。これはカレーリゾットね。イタリア料理とインド料理を見事に融合してるけど――秘密はそれだけじゃないような……。なんでこんなに病みつきになるほど美味しくて、カツと合うの……?」

 

 そして、米はイタリアンリゾットとインドカレーを組み合わせたカレーリゾットを作りました。

 このカレーリゾットには今回の品の核を担ってもらっています。

 

「五大料理のエッセンスを組み合わせたり、単純に加えたり、かなり無謀なことをしてるのに――それがまったく破綻していないどころか、すべてが掛け合わせて信じられないほどの美味になっているわ。こんな無謀な発想、正解とは程遠いはずなのに!」

 

「ただ、一つ言えるのは、先程の才波朝陽の品をこの品が遥かに凌駕してるってことだ……」

 

「んだとぉ! あ、あんたら、さっきまで俺の品を褒めちぎってたじゃねぇか!」

 

 シャムルさんが朝陽さんの品よりわたくしの品が美味しいと口にされて、デコラさんとクラージュさんがその言葉に頷くと、朝陽さんは怒りの形相を浮かべました。

 

「あ、朝陽くんの品も美味しかったわ。でも、この品はもはや人間業では到底到達出来ない領域なのよ」

 

「私たちは感じてしまったの。この品には神がかり的な何かがある。いや、神をも超えてしまったようなそんな領域に踏み込んでるかもしれないわ」

 

「もう止まらない!」

「止められないの! こんなの知っちゃったら――」

「ダメっ……、イケメンが今まで好きだったのに――こんなことされたら……」

 

「「お嫁さんが欲しくなっちゃう〜〜っ!」」

 

 審査員の方々、特にデコラさんとクラージュさんは恍惚とした表情でわたくしのカツ丼を素晴らしい勢いで召し上がります。

 

「審査員たちが無言になって一心不乱に食べている」

「もう審査する気ないのかな?」

「そう言ってるうちに丼のなか、もう空っぽじゃねぇか! 食い終わってんのに、なんで一言も発しないんだよ!」

 

 そして、品を食べ終えた審査員の皆さんはボーッとされた表情で空っぽの丼の中を見つめておりました。

 美味しそうに召し上がって貰えたので嬉しいです……。

 

『その品をこちらに持てい。才波朝陽をも凌駕して、神をも超えた領域と言わしめさせた品に興味がある』

 

「おおーっ! 特務執行官(ブックマスター)の方から食べたいと言い出したぞ!」

「前代未聞ですな。あの方自らがそこまで言われるとは――」

 

 その様子をご覧になっていた真凪さんが、自分もカツ丼を食べたいと仰られました。

 そんなに自ら食べたいと仰ることが珍しいのですね……。

 

『――な、なんだこれは。まさか、これほどの品を作れる者がこの世に……! まず、驚かされたのは、幸平創愛の技量の高さよ。このカレーリゾット――米のひと粒ひと粒に“ウフ・マヨネーズ”を纏わせたな……』

 

 そう、わたくしのリゾットの旨さを爆発的に引き上げることに成功した要因には、フランス料理の技法で作った“変則式ウフ・マヨネーズ”が大きく関係しております。

 

 フレンチビストロの大定番とも言えるウフ・マヨネーズは、半熟卵に野菜や自家製マヨネーズを添える皿です。

 わたくしが作り上げたのは、それをかなり柔らかめのトロトロに仕上げて特製マヨネーズを混ぜ合わせた卵液でした。

 それを中華鍋とお玉を振るって、出来上がっていたカレーリゾットに纏わせたのです。

 

『初見では知覚できぬほどの薄い卵のベール。それはさながら、“極小のオムライス”! 噛み締めた瞬間に最上の美味と風味が口の中を、鼻孔を、脳天を突き抜けるように出来ておる!』

 

「ば、バカな! そんなことできるはず――」

 

『それだけではない。この“アイラン”を応用して作られたというヨーグルトソースは、時間を置くごとに肉に、米に、浸透して肉の旨味を変化させ、米をまろやかに優しく包み込み、食べ続けても決して飽きることのない美味になるように工夫されておる。常に味が変化しとるのに、全体のバランスが崩れないのは天才的なセンスとしか言えん』

 

『カレーは数十種類ものスパイスを使いながら、すべてが調和して、奇跡の香りを生み出している。この者は嗅覚も常人離れしておるのか……』

 

『これだけ複雑な構成の味を生み出すためには“神の舌”は必須。つまり幸平創愛には間違いなく“神の舌”は宿っているのは認めざるを得ん。しかし、わからん。“神の舌”を使ったのなら、こんなやり方は失敗だと切り捨てるはずなのだが――』

 

 真凪さんはえりなさんと同じ“神の舌”を持っていらっしゃるので、わたくしのカツ丼の秘密をすべて丸裸にされました。

 しかし、彼女は明らかに失敗しそうなこの料理の行程を生み出したことが不思議なようです。

 

「失敗を切り捨てるなんて勿体無いですよ」

 

『なんじゃと?』

 

「実はこの品、全部母の失敗した料理が元になっているんですよ。彼女はあまり料理が上手ではなかったのですが――」

 

 わたくしは母との思い出の話をしました。

 彼女はいわゆるアレンジ好きで、常に新しい味を開発しようと“ゆきひら”で腕をふるっていました。

 失敗ばかりの母ですがチャーハンは成功率が高くてよく注文を受け、わたくしが丼物とカレーが好きなのを知ってからはそちらの研究にも力を入れておりました。失敗の量はとんでもなかったのですが――。

 

 カレーリゾットをコーティングしようと思いついたのは、お米の外側だけを見事に焼き焦がしたチャーハンの中身が美味しかったことをヒントにしました。

 

 そして、カツ丼にヨーグルトは肉が柔らかくなるという知識を間違って覚えた母がそのままヨーグルトをカツ丼にかけてしまって大惨事を起こしたことをヒントにしたのです。

 確かにお世辞にも美味しいとは言えませんでしたが、“神の舌”を使って味見をするとヨーグルトの酸味とまろやかさによって、肉も米も徐々に食感と性質が変化していることに気付きました。

 

 最後にカレーの大失敗は母がありとあらゆる大量のスパイスを使って、とても言葉では言い表せないほどの酷い香りのカレーが出来てしまったことです。

 

 しかし、このカレー……、鼻を摘むと恐ろしく美味しいのです。

 酷い香りは匂いが強すぎるだけで、緩和されると芳醇な香りへと変化したのでした。

 この味を再現するのは長らく無理だったのですが、葉山さんやえりなさんとの出会いを経て初めて実現できました。

 技量が上がって母の失敗したカレーを再現したという話を父にすると、変な顔をされましたが……。

 

 つまり、今回のこの品は母の失敗作の大集合と呼べる品です。

 

『ば、バカな!? お前はこの神聖で気高い“神の舌”を、敢えて不味い失敗料理を食べるために使ったと申すか――。そんな自殺行為をした経験からこの美味を生み出したと……!』

 

 真凪さんは“神の舌”の持ち主として、わたくしが母の失敗した料理を再現してそれを“神の舌”を使って吟味していたことが信じられないみたいです。

 えりなさんにもドン引きされましたから、無理もありません。

 しかし、切り捨てられるような失敗の中に宝物が眠っていることが実際にあるのです。

 その失敗に熱量さえ籠もっていれば――。

 

「「――っ!?」」

 

 真凪さんが話し終えた瞬間に、建物が倒壊したのでは、と思えるくらいの大きな爆発音がしました。

 

「――い、今、鼓膜が破れるんじゃねぇかってくらいの轟音が!」

「ちょっと待て! どうなってやがる!」

「観客席の全員の衣服が一瞬で四散してしまったなんて――」

 

 観客席の皆さんの衣服が爆音とともに四散してなくなってしまったのです。

 先ほど以上の事態に、観客席の皆さんもあ然とされていました。

 

「“おさずけ”と“おはじけ”が同時に、しかも大規模で一瞬にして起こったということですか……。こんな現象は見たことがありませんが……」

 

「――何故だ、そんな事があるはずが無ぇ。クロスナイブズに単独で張り合える料理人など居ねぇはずだ。俺のバスティーより美味しい品なんて作れるわけがないんだ!」

 

 朝陽さんはこの様子を見て、あり得ないことが起こっていると狼狽されていました。

 自分の品に絶対の自信があるからなのでしょう。

 

『幸平創愛の力が人間離れしていたということだ。一言で言えば、“相手が悪い”』

 

「あ、相手が悪いだとぉ! そんなこと――」

 

『付け加えると、確かにバスティーはあらゆる品が練り込まれた逸品であった。幾多の料理人の技が幾重にも折り重なっている。だが――その皮を取り去ったあとには何もない。空っぽ、お前自身の味は何処にもない……』

 

『お前も気付いているのではないか? 皿に載せるべき“自分”が居ない事実から目を逸らすために、他人のナイフを奪い続けてきたことに!』

 

『――対する幸平創愛は出会った者とぶつかり育んできた、自分自身の味を皿に載せておる。その練度は驚嘆に値し、センスも人外の領域、おまけに“神の舌”でわざわざ不味いモノを食す豪胆さまで持ち合わせていた。そう考えると、やはりお前の敗因は“相手が悪かった”に他ならん』

 

 真凪さんは、朝陽さんの品からは作られた本人の顔が浮かばなかったと言われました。

 彼は他人の力を奪い取ることに熱中するあまりに、一番大事なことを疎かにされていたみたいです。

 

『さぁ、執行官たちよ。早う判定を下せ!』

 

 真凪さんは審査員の方々に判定を下すように催促されました。

 そして、電光掲示板に審査員の方々の票数が映し出されます。

 

『――勝者! ――幸平創愛!』

 

「ふぅ、お粗末様ですの!」

 

 BLUE準決勝、ノワールのリーダーである才波朝陽さんにわたくしは勝利しました。

 彼に勝つことによって、わたくしはえりなさんとの約束を果たして決勝に駒を進めることができます。

 そう思ってホッとしていると、真凪さんがわたくしに声をかけられました。

 

『ときに、幸平創愛よ。決勝がまだ残っておるが――私の“指定料理人”いや、“専属料理人”にならぬか? お前の才能は美食界の至宝じゃ。優勝も間違いなかろう――』

 

 彼女の声には有無を言わさないような迫力があります。

 しかしわたくしの答えは――。

 




予想通りラスボス戦は圧勝で終わりました。
五大料理を一つにするなんて最初から考えるのは無理なんで原作からアイデアをもらって楽をするしかなかったです。
本編の最終回まであと少しですね〜。
ここまで見てくれた皆さん、ありがとうございます!
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