【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら   作:ルピーの指輪

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お久しぶりです!
番外編の一発目の話がなかなか思い付かなくて……。
やはりオリジナルストーリーは難しい……。
楽しんで頂けたらうれしいです。


番外編
迷子になった幸平創愛 その1


『さぁ、卒業生と在校生の交流試合もいよいよ大詰めです! 最後に登場するのはBLUE優勝でノリに乗っている我らが玉の世代最強の料理人――遠月十傑、第一席、幸平創愛!! 対するは極星寮の黄金時代を築いた遠月リゾート、総料理長兼取締役会役員! 第69期生、元第一席、堂島銀華(シロハ)先輩!』

 

「「わぁああああああっ!」」

 

 今年の“秋の選抜”が終わり――えりなさんが作った新たなイベントである“傑来集会(けっきしゅうかい)”が行われました。

 これは名前のとおり十傑経験者の先輩方を集めて、在校生の十傑やそれに相応する実力者と試合をするイベントです。

 要するに“在校生選抜VS卒業生ゲスト”という構図で試合をするのです。

 

 今回は現十傑メンバーにえりなさんを加えた11名と卒業生の方々11名が試合を行うという形になりました。

 

 普通に考えれば卒業生の方々が圧倒的に有利ですし、このイベントを立ち上げた意図も“卒業生の胸を借りる機会を増やそう”ということにあったのですが――。

 

『お題は“氷”を使った料理です!』

 

『今回の審査員にはWGOの二等執行官、ランタービさんと薙切インターナショナルの研究スタッフ、ベルタさんとシーラさんにお願いしまぁす。前の試合で薙切えりな総帥が完勝されましたので、卒業生連合と在校生連合の戦績は5対5の五分になりました。ここで幸平創愛が勝てば在校生が勝ち越すという快挙を達成することになります!』

 

 何と皆さんが健闘されたおかげで10戦を終えての対戦成績は5勝5敗という展開に……つまりわたくしにチームが勝てるかどうかの全重圧がかかるという結果になってしまったのです。

 

 えっと、ほのぼのとした雰囲気で料理が出来ると思ってましたのに――いつの間にか全校生徒の期待がプレッシャーとなって背中にのしかかっているのですが……。

 

 人という字を久しぶりに飲み続けていますわ……。

 

「いやぁ、四宮先輩。どちらが勝ちますかね〜」

「乾てめぇ! 負けたクセにヘラヘラしやがって!」

「薙切えりなさんが相手ですから仕方ないじゃないですか。おまけに洋食は専門外ですし」

「言い訳すんじゃねぇ! 堂島さん、勝ってくれなきゃ困るぜ」

「そのつもりよ。でも、相手があの子だから――」

 

 卒業生ゲストサイドでは四宮先生がえりなさんに負けた乾シェフに怒鳴り散らしています。

 乾シェフの言うとおり、えりなさんの得意なお題でしたから、不運もあったと思います……。

 

 

「ソアラさん! 頑張って! 私は四宮コーチに負けちゃったけど……」

「でも、恵さん。審査員の方から一票取ったじゃないですか。あの四宮先生を相手に」

「幸平さん。せっかく私が司先輩に勝ったんだから、あなたも勝って卒業生に私たちの強さを教えてあげるのよ!」

 

 四宮先生に惜しくも敗れた恵さんと、司先輩を相手に僅差で勝利を掴んだアリスさんがわたくしを応援してくれます。

 勝てば盛り上がることはわかっていますが、相手の銀華(シロハ)さんは強敵です……。

 

「そのとおりです。あなたは、私たちの世代の大将なのだから。負けちゃダメよ。ソアラ」

「えりなさんが応援してくれるなら、わたくしは負けません。もっと応援してください」

「そ、そう? しょうがない子ね。でもそこが可愛いのよね」

「えりなさんの方が可愛いです」

「いいえ、ソアラの方が――」

 

 わたくしの手を握るえりなさんが“可愛い”と仰りますが、えりなさんの方がずっと“可愛い”です。

 こんなに素敵な方と交際出来るなんて、わたくしはなんて幸せ者なのでしょう。

 

「そういうのは部屋でしてもらえない?」

「紀ノ国先輩、諦めてください。私たちはこの茶番に何度も付き合わされてます」

 

 えりなさんと言い合いをしていると、紀ノ国先輩がイライラされた顔をしていました。

 ひ、緋沙子さん……、茶番だと思われていますの……?

 

 

『それでは――調理開始!!』

 

 そして、試合は始まって、わたくしと堂島シェフは調理を始めました。

 

 お題は氷ですか。難しいお題ですね……。

 

 わたくしたちはそれぞれこの難解なお題に挑み、そして双方が制限時間ギリギリで品を完成させました――。

 

 

 

 

『それでは両者、調理を終えましたので、実食に移ります! まずは堂島先輩のサーブです!』

 

「私の品は“氷のモッツアレラと冷製トマトのカッペリーニ”よ」

 

 堂島シェフの品は、ふわふわシャリシャリとした食感が楽しめる、夏にぴったりのメニューです。冷たさが持続することで、パスタが水分を吸って伸びるのを防ぐ働きもあるとのことでした。

 最後にトッピングしたバジルとオリーブオイル、黒コショウもアクセントになっています。

 

「さすがは遠月リゾートの総料理長ね。間違いなくその腕は世界トップクラスだわ」

 

 審査員の方々も堂島シェフの鮮烈な品を絶賛しました。

 確かに完璧に氷を活かした品で非の打ち所がありません。

 

「んん〜〜っ! 大人の女性の魅力も素敵だね。シーラ」

「うん。銀華(シロハ)さんみたいな格好いい女性(ひと)憧れちゃうよ。ベルタ……。でもぉ――」 

 

「「次は憧れのお姉様ぁ」」

 

『それでは続きまして、幸平創愛のサーブです!』

 

 そして、わたくしの実食が始まりました。いつもこの瞬間は緊張します。

 

「次はわたくしですわね。これが、わたくしの“氷鍋”ですわ」

 

「うわっ!? こ、氷が山ほど入ってるじゃない。辛そうな鍋に氷って大丈夫なんでしょうね?」

 

「ソアラお姉様の料理、久しぶりだね」

「そうね。ベルタ。んんっ……、いい香りがするわ」

 

 わたくしの鍋は氷を大量に入れた鍋料理を出しました。

 冷感が辛味を鋭くして旨味を閉じ込めるように作ったのですが――いかがでしょう。

 

「そ、そういえば、本当にいい香り。と、とにかく食べるわよ」

 

「「――っ!?」」

 

「あふんっ……、んんんっ……、にゃにこれ……、おいひぃ〜〜〜よぉ〜〜」

「んむ……、あああんっ……、しゅごい……、これ……、しゅごいのぉぉぉっ〜〜」

 

 ベルタさんとシーラさんは召し上がった瞬間に目がトロンとなって幸せそうな表情を浮かべておりました。

 少しだけ呂律が回らなくなっているみたいですが、刺激を強くしすぎましたでしょうか……。

 

「んっ……、辛味と旨味が冷気によって……、あんっ……、これほどまで……、んんんっ……、調和を――」

 

 ランタービさんも美味しそうに召し上がってくれております。

 

 堂島シェフの品を上回ることが出来れば良いのですが――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「遠月学園在校生の勝利にカンパーイ!」

 

「ねぇ、あたし部外者なのに居ても良いの?」

 

「もちろんです。極星寮のメニューをどうぞご堪能ください」

 

 何とか卒業生の皆さんに勝ち越すことが出来たわたくしたちは極星寮で祝勝会を開きました。

 審査員をやってくださった、ランタービやベルタさんやシーラさんも寮にお招きしております。

 

「すごいわね。噂に聞く遠月の学生寮。どの品も星が付きそうなレベル。はむっ……、これ美味しい!」

 

「おや、僕たちが作った野菜の天ぷらをお気に召したみたいですね。ランタービ殿」

 

「へぇ、これは自家製の野菜を――って、何で裸エプロンなのこの人!? さっきは、あのミスター・関守を破るくらいの鮮烈な和食を出してたのに!?」

 

 ランタービさんは一色先輩の姿に驚いております。大体の方がこのようなリアクションを取られますわね……。

 

「ソアラお姉様のお料理が食べられるなんて幸せなの」

「ねぇねぇ、新しい論文書いたんだよ。お姉様」

 

「まぁ、凄いですわ。相変わらず研究熱心なのですね」

 

「えへへ」

「褒められて嬉しいね。シーラ」

 

 ベルタさんとシーラさんは楽しそうに料理を召し上がっております。

 アリスさんと仲が良いので、彼女も居ればよかったのですが、彼女と黒木場さんは次の仕事のために今回は不参加です。

 

「そういえば、お姉様はあの特務執行官(ブックマスター)の指定料理人になったんだよね?」

「そうそう。そのニュースを聞いて私たち、とぉっても感動したの」

 

「真凪さんはえりなさんのお母様ですから、そのような立場にならずとも幾らでもお料理を召し上がって貰えると思っているのですが……」

 

 わたくしは真凪さんの“専属の料理人”になるお話は断りましたが、流石に“指定の料理人”になる副賞を辞退することが出来ませんでした。

 なんせ、えりなさんのお母様ですから、無碍に扱えません。

 彼女のために腕を振るうこと自体は本望ですので、お役目を務めさせていただくことにしたのです。

 

「甘いわ! 特務執行官(ブックマスター)に軽々に料理が振る舞えるわけ――」

「ソアラ、今度の休日にお祖父様とお母様と食事会をするのよ。そこであなたにも是非何品か作って欲しいとお母様が――」

 

「あ、はい。ぜひ腕を振るわせて下さいまし」

 

 ランタービさんが何かを言われようとしたとき、えりなさんが会食を行うという話をされました。

 彼女の為ならわたくしはいつでも何処でも頑張ってお料理させていただきます。

 

「ブックマスターに気軽に料理を振る舞えてるね。シーラ」

「そうね。今のランタービさんは恥ずかしいよね。ベルタ。でもここだけの話にしなきゃ」

「聞こえてるわよ〜〜っ!」

 

 ベルタさんとシーラさんは何やらランタービさんと仲良くされているみたいです。

 

 宴会は盛り上がり、ゲストの皆さんも満足そうな顔をされて帰られました。

 

 

 そして、わたくしとえりなさんは――。

 

 

「この部屋に来るのも久しぶり。初めて来たときは、あなたと真剣に交際することになるなんて考えてもみなかったわ」

 

「で、でもあの日……初めて、そのえりなさんと……」

 

 えりなさんはわたくしの部屋に泊まることになりました。

 二人で何回も寝泊まりしていますが、この部屋は久しぶりです。

 この部屋で二人きりになると、どうしてもあの日のことを思い出してしまいますね……。

 

「そ、そうね。そりゃあ、あなたと結ばれたらって妄想することはあったわよ。でも、本当にこうやって一緒になれて――みんなに受け入れて貰えるなんて思わなかったじゃない」

 

「そうですね。えりなさんが彼女なんて、男性の方から嫉妬されちゃいます」

 

 こんなに愛らしく美しい方と交際するなんて、男の方からすれば面白くないでしょう。

 本当にこの方と結ばれるなんて嘘みたいです。

 

「それはこっちのセリフ。ソアラはモテるし。男女問わず。だから私は油断できないんだから」

 

「そ、そんなことないですわ。えりなさんこそ、皆さんからの憧れの存在で……んんっ……」

 

 えりなさんはわたくしのことをジト目で見たかと思えば、反論しようとするわたくしの唇を塞ぎます。

 その柔らかくしっとりとした唇で……。彼女の唾液とわたくしの唾液が混ざり合い、お互いの味を全神経で確かめ合いました。

 

「ちゅっ……、んんっ……、ちゅっ……、でも、私が好きなのはあなたよ。確かに同性だから、世間的には変に見られるけど――私はソアラが女の子だから好きなんじゃない。あなただから好きなの」

 

「え、えりなさん……!」

 

「ソアラ、きて……お願い……」

 

 えりなさんの寝巻きがはだけて、その魅力的な肢体があらわになります。

 そして、彼女はベッドに腰掛けて艷やかな声でわたくしを誘いました――。

 

 

 

 

 しばらくの間、夢中になってお互いを感じ合っていましたが、えりなさんが疲れを見せたので一段落つきます。

 

「はぁ……、はぁ……、ちょっと休憩……」

 

「飲み物ありますよ」

 

 額に汗を滲ませながら、息を切らせているえりなさんにわたくしはミネラルウォーターを手渡しました。

 

「ありがとう。で、でも……」

 

「だ、大丈夫ですよ。シーツの替えならありますから。後で替えましょう」

 

「そ、そう。準備がいいのね」

 

「だってえりなさんがこの前――」

「言わないでぇ! あ、あんなはしたないことを私が……」

 

 えりなさんはシーツの替えがあることに対して準備が良いと言われましたが、()()()()()があれば誰だって準備すると思います……。それに今日も……。

 

 

「それにしても、わたくしが女の子だから……ですか……」

 

「えっ?」

 

「いえ、朝陽さんってずっとわたくしのことを、なぜか男の子だと思っていたらしいんです」

 

 わたくしは話題として朝陽さんがわたくしをずっと男だと思って過ごしていたことを彼女に伝えました。

 

「あら、そうなの。まぁ、最初から知ってたらあなたに求婚しそうなものよね。才波様の正式な息子になれるのだから。それが何か?」

 

「いえ、もしも、わたくしが男の子でしたら。今ごろ、えりなさんとこうして居たのかなぁって……」

 

 朝陽さんの言うようにわたくしがもしも、幸平城一郎の息子だったら、えりなさんとこうしていたのか、わからないと思います。

 全然違う人生になっていたのかもしれません。

 

「ソアラが男の子だったら? 想像できないわね。料理は上手いでしょうから、編入試験はパスするのは間違いない。――でも、男の子だったら仲良くなるには時間はかかってると思うわ。きっとでも、あなたなら情熱的にアタックしてくるはずよ。それでいて紳士的に格好良く……」

 

「そ、そうでしょうかね? 腕白な人間になるかもしれませんよ。父がアレですから」

 

「だとしても――きっと素敵な殿方だったと思うわ」

 

 えりなさんはわたくしが仮に男の子だったとしても素敵な人になるとまで仰ってくれました。

 こんなにも愛してくれる彼女をわたくしはいつまでも大切にしたいと心から誓います――。

 

「うふふ……、こういったあり得ないことを想像するのも面白いですね」

 

「ねぇ、ソアラ……。そろそろ……」

 

「んっ……、えりなさぁん……、急にそんなところを……、んんんっ……」

 

 そして、わたくしとえりなさんはその後も――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ふわぁ……、いけませんわ。あれから、制服に着替えて……、そのまま寝ちゃったみたいです……。あれ? えりなさん?」

 

 目を覚ますとえりなさんの姿はありませんでした。

 彼女が制服姿のわたくしを見ながら()()()()()をしたいと仰るから着替えて、それから――あれ? 変ですわね……。

 

「こ、この部屋、わたくしの部屋ではない? どこ……」

 

 どうも、部屋の様子が変なのです。可愛いぬいぐるみも無くなってますし、花瓶も……。

 この部屋はわたくしの部屋ではない……?

 

 驚いたわたくしは部屋から出ます。ここは何号室なのでしょう……。

 

「さ、303号室? う、嘘ですよね……、ドッキリですか?」

 

 部屋番号は303号室……。えっと、わたくしの部屋ですわね……。吉野さん辺りがイタズラでも? それにしては手が込んでいますが……。

 

「きゃあっ!! そ、ソーマくんの部屋から、お、女の子が!!」

 

 部屋から出たわたくしを見た恵さんが悲鳴にも似た声を出して尻もちをつきました。

 えっ? わたくしの顔に何か付いてます? “ソーマくん”の部屋ってどういうことですの……。

 

「め、恵さん? ど、どうしてそんなに驚いていますの?」

 

「あ、あなたは誰ですか? せ、先輩ですか?」

 

「ふぇっ? 何を仰っているんですの? やっぱりドッキリですか……?」

 

 恵さんは怯えたような顔でわたくしのことを誰だと問われました。

 ドッキリにしては迫真の演技過ぎます。それに恵さんがそんなことをするなんて思えないです……。

 

「おーい。田所ぉ! どうした? すげぇ、叫び声だったけど? ん? あの人誰? 田所の知り合い?」

 

 下の階から上がってきたのは左の眉に傷のある黒髪の男性です。初めて会ったはずなのに何故か他人のような気がしないのですが……。

 それにしても随分と恵さんと親しそうですね……。まさか、彼氏さんとか……。

 

「そ、ソーマくん。私は知らないよぉ。ソーマくんの部屋から出てきたんだよ。知り合いじゃないの?」

 

「いや知らねぇって。つか、俺の部屋に居たって普通にやべぇよな。美作みたいに合鍵を作ったのか」

 

「そ、そこはわたくしの部屋です!」

 

 “ソーマくん”と恵さんに呼ばれた彼は、303号室を自分の部屋だと仰って、わたくしが合鍵で侵入したみたいなことを言われましたので、つい大きな声を出してしまいました。

 恵さんも、ソーマさんの部屋だと言っていますし、何が起こったのか意味がわかりません。

 

「お、おう。久しぶりだな。なんつーか。返答に困ったのは。とりあえず、茶でもだすわ」

 

「ね、ねぇ、ソーマくん。この人変だよ」

 

「んー、そんなに悪い奴には見えねーし。何か事情でもあるんじゃねーか?」

 

「な、何が起きましたの……?」

 

 とりあえず、ソーマさんがお茶を出すと仰るので、わたくしは一旦状況を把握することにしました。

 一晩寝ている内にどうなっていますの? えりなさん……、わたくし……怖いです……。

 




原作の世界に迷い込むというシチュエーションを書いてみました。
あと、バカップルになってるえりなとソアラも。
ここにきて、原作主人公の幸平創真が初登場です!
感想などお待ちしております!

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