【本編完結】もしも、幸平創真が可愛い女の子だったら 作:ルピーの指輪
なんで、風呂敷広げたんだろう……。
「んで、名前とか聞いてもいいか?」
「あ、はい。幸平創愛です。遠月学園高等部2年の……」
お茶を出してくれたソーマさんがわたくしの名前を尋ねましたので、自分の名前を彼に伝えます。
この学園の中で自己紹介をするのは久しぶりですね……。
「ゆ、幸平? ソーマくんの親戚とか?」
「えっ? ソーマさんも幸平という姓なのですか?」
恵さんがわたくしの名前を初めて聞いたようなリアクションにも驚きましたが、ソーマさんの姓がわたくしと同じ“幸平”ということにも驚きました。
「親戚かどうか知らねぇけど、初対面なのは間違いない。うーん。多分……」
「自信はないんだ……。こんなに美人の親戚居たら忘れないと思うけど。というか、同級生なんだね……。見覚えないんだけどなぁ」
わたくしもソーマさんの顔には見覚えがありません。一度会えば、どんな方の顔も忘れませんので初対面なのは間違いないはずです。
それに、恵さんは本当にわたくしの顔を覚えていないみたいでした……。
「め、恵さんも、本当に全然わたくしのことをご存知ないのですか? ずっとこの寮で頑張ってきたのですが!」
「ええと。ごめんなさい。幸平という名字の人はソーマくんしか知らなくて……」
わたくしは縋るように彼女の目を見てわたくしのことを覚えていないのかもう一度確認します。
しかし、恵さんは気まずそうな顔をして首を横に振りました。自分は“幸平ソーマ”さんしか知らないと口にして……。
それは悲しすぎる言葉でした。彼女はわたくしとの思い出を全部忘れてしまったのでしょうか……。
「ほ、本当ですか? 最初のシャペル先生の授業で一緒になったことも、宿泊研修や選抜や学園祭で頑張ったことも……、連隊食戟を共に戦ったことも――全部忘れてしまったのですかぁ?」
「ちょ、ちょっと待って! 今の全部ソーマくんとの思い出だよ! ソーマくんからも何か言ってよ!」
堪らない気持ちになって、恵さんとの思い出の話をすると、彼女は慌てたような口ぶりでわたくしの話は全部ソーマさんとの思い出だと仰ります。そ、そんな……それではまるでわたくしとソーマさんが入れ替わったみたいじゃないですか……。
「うーん。いや、嘘を言ってるように見えねぇんだよなー。どうも」
「秋の選抜とか連隊食戟だよ? ソーマくんだって幸平さんが参加してないのは知ってるでしょ」
「そうなんだけどさ。真剣に話してるって感じだし。何となくこの人、母ちゃんに似てんだよ。性格は全然違うけど、他人には見えなくてさ」
明らかに可哀相な不審者を見るような感じの恵さんと、腕を組んで懐かしそうな顔をされるソーマさん。
わたくしは全く状況が掴めずにいて、途方に暮れておりました。
「おや、お客様かい? ソーマくん。田所ちゃん」
そんな中で一色先輩がいつものように朗らかに顔を出されました。
彼ならわたくしのことを覚えてるかもしれません。
「い、一色先輩! わたくしです! 幸平創愛です! 覚えていませんかぁ?」
「ん? ごめん。ちょっと記憶にないなぁ。ソーマくんたちの友達かい?」
しかし、一色先輩もまた恵さんと同様に初対面だという感じの反応を示されました。
やはり、皆さんがわたくしに関する記憶を失われているのでしょうか……。
「い、一色先輩の格好に無反応だ」
「なんつーか。この寮に住んでた感はあるな」
ソーマさんと恵さんはわたくしと一色先輩の会話を見て、前から寮に住んでいる人の態度だと話されていました。
そして、わたくしは一色先輩に促されて、身の上ばなしをすることにします。
“ゆきひら”という定食屋の娘として生まれて、えりなさんの編入試験をパスして遠月に入学してそれから――。
これまでにあった出来事を彼らに話しみたのです。
「ふむふむ。なるほどね。そんな面白いことが起こっていたのか。その話――面白いよ! ソアラちゃん!」
「面白がらないでくださいな。一色先輩」
「いやぁ、ごめんごめん!」
一色先輩は話を聞き終えるとニコニコと笑いながら面白いと口にされます。
こちらはとても困っていて、面白いどころの話ではないのですが……。
「い、一色先輩馴染んでる」
「おれもコミュニケーション能力高い方だと思ってたんだけどなー」
「つまり、こういうことじゃないかい? ソアラちゃんは僕らと違うパラレルワールドの住人なんだ。言うなら、もう一人のソーマくんと言うわけさ」
「ふぇっ?」
「もう一人のおれ?」
一色先輩はわたくしの話を聞いてとんでもない仮説を立てました。
ぱ、パラレルワールド? そ、そんなことってあり得ますの……?
「あの、一色先輩。そんなSF映画みたいなこと――」
「でも、幸平創愛さんという人間の話を聞くとそうしか思えないよ。“ゆきひら”という定食屋に生まれて、薙切くんの編入試験をパスして、この寮に入るという人生はソーマくんとまるで同じだ。もちろん、ソアラちゃんが嘘をついていないという前提だけど」
パラレルワールドの話は信じられませんが、一色先輩が言うにはソーマさんとわたくしはどうやら同じ人生を歩んでいるみたいなのです。
彼もまた幸平城一郎の息子として“ゆきひら”と共に育ち、この遠月学園で研磨を積んだとのことでした。しかも名前も“幸平創愛”と“幸平創真”の一文字違いで、そっくりです。
同じ人生を歩んだ人間が二人居る――これが事実なら確かにわたくしは知らない世界に迷い込んだのかもしれません。
「わたくし、嘘はついていません! 少なくとも“ゆきひら”で生まれ育ったことは証明出来ます! ソーマさんがもしもわたくしと同じようにあの定食屋で育っているならば」
「おもしれーこと言うじゃねぇか。“ゆきひら”の味を再現出来るなら味見してやるぜ」
とにかく、一色先輩の仮説が本当なのかどうか試してみたい。
わたくしはそのためにソーマさんに協力をお願いしました。
「いえ、今の“ゆきひら”の味なら美作さんのようなトレース能力があれば再現が可能かもしれません」
「じゃあどうやって証明するの? ソーマくんと同じ人生を歩いているって」
「わたくしだけが作れるもう一つの“ゆきひら”の味を再現します」
ソーマさんの言う“ゆきひら”という定食屋の味は美作さんのような方なら再現可能だとわたくしは考えています。
だから、わたくしは
「「もう一つの“ゆきひら”?」」
「厨房を貸してもらってもよろしいですか?」
「構わないよ。君がどんな料理を作るのか楽しみだ」
「なんかワクワクするな。映画みてぇだ」
「ソーマくん、変な話に巻き込まれているの気づいていないのかなぁ」
わたくしは一色先輩の許可を取り、使い慣れた極星寮の厨房に足を踏み入れます。
寮生共用の包丁を握りしめ、髪を縛り精神を集中させて調理に移りました。
「あの真剣な表情といい、スピード感のある包丁捌きといい、まるでソーマくんみたい」
「へぇ、やるじゃん。あいつ……」
そして、3人が見守る中でわたくしは調理を終えました――。
「出来上がりました。カツ丼とチャーハンとカレーです」
「うわぁ〜。チャーハンすごく焦げてる……。カツ丼もカレーもなんか独特の匂い」
「手際はもの凄く良かったように見えたんだけどね。これにはどういう意図が……」
わたくしが完成させた料理は見栄えも香りも悪い品です。
これこそ、わたくしのルーツを証明する一品なのですが……。
「――っ!? こりゃあ……まさか……。はむっ……、――うげぇ……ごほっ、ごほっ……」
「ソーマくん! だ、大丈夫?」
ソーマさんはわたくしの作ったカレーを見て、少しだけ驚いた顔をして、一口食べて咳き込みました。
恵さんはその様子を見て彼を心配しております。
「お、おう。大丈夫、大丈夫。おれも親父も不味い味を作ることにかけちゃ自信があるんだけど――これは……はむっ……ぐえっ、へへっ……この不味さは母ちゃんの味だな」
ソーマさんは戻しそうになりながらも嬉しそうにカレーを召し上がっていました。
そう、これはわたくしの母である幸平珠子の料理――わたくしが生まれてからずっと“ゆきひら”で過ごしていた証拠です。
「ソーマくんのお母様の味?」
「そっす。おれの母ちゃんは料理下手だったんで、よくこういう料理を店で出してたんすよ」
「どれどれ……んぐっ……、ごほっ、ごほっ……! これ、本当に店で出してたの?」
恵さんもわたくしの作った料理を召し上がりましたが、苦しそうな顔をされました。
お店で出していた料理ということが信じられないみたいですね……。
「出してましたよ。お客様も割と楽しんでいましたわ。度胸試しみたいな感じで」
「そうそう。母ちゃんが張り切った時に限ってハズレでな。そんときはよく親父が口直しに」
「必ず新作の料理を出して、それがまた好評になると、お母様が不貞腐れて」
「なんか、兄弟の会話みたいだね」
「まさか、不味さで証明するなんて。もう一人のソーマくんだけあって、意外性があるなぁ」
ソーマさんとわたくしは幼少期からの記憶がほとんど同じなので、確かに双子の兄弟のような会話になってしまいます。
亡くなってしまった母の思い出話を父以外と久しぶりにしましたので、懐かしい気持ちになりました。
「でも、それが証明できたところでどうやって帰れば良いのでしょう?」
結局わかったことはわたくしが男の子だった世界に来てしまったという奇妙な話だけです。
元の世界に帰る方法も全然わかりません。
「ま、いつかなんとかなるだろ。それより、せっかく“ゆきひら”の看板娘が来てくれたんだ。勝負するぞ! 幸平創愛! お前も遠月の第一席なんだろ?」
「ふぇっ? いえ、そのう。何とかなりますかね? こんな状況」
しかし、ソーマさんはわたくしのこんな状況を何とかなるの一言で済ましてしまいました。
何てポジティブな方でしょう。お父様の影響でしょうか……。
「大丈夫だって、ほら、早く勝負しようぜ。テーマはどうする? やっぱ定食屋らしく、定食で勝負すっか」
「えっ? えっ? いつの間に勝負することになっていますの? め、恵さ〜〜ん。助けてくださ〜〜い」
ソーマさんの中では料理勝負をすることになっており、テーマを既に決めていました。
こんな状況で気分的には勝負どころではないのですが……。恵さんに助けを求めても、彼女は止めることが無理と言わんばかりに首を横に振りました。
「ゆ、幸平さん? なんだろう……親近感が沸く。女の子ってだけでこんなに性格違うんだ」
「じゃあ、田所。審査員頼むわ」
「え、あ……、うん」
結局、恵さんが審判でわたくしとソーマさんは料理勝負をすることに――。
味見をして頂きましたし、あんなにワクワクした顔をされると断ることも気が引けましたから……。
◆ ◆ ◆
「…………」
「あのう。すみません……、なんか……そのう」
定食勝負が終わったあとで、ソーマさんがあまりにもムスッとした表情をされましたので、わたくしはつい謝ってしまいました。
「すご〜〜い。幸平さん。女の子らしい綺麗な定食だったよ。白身フライ定食がまるでフレンチのコース料理! 信じられないくらい美味しいよ!」
「野菜の扱い方は四宮シェフを彷彿とさせる。ソーマくんとそっくりだ。でも……、素材の活かし方はソアラちゃんの方が上かな。驚いたなぁ。ソーマくんの定食も発想力も味もとてつもない完成度だったんだけど……」
世界一の定食屋になるために考えていたメニューの一つを出してみたのですが、恵さんと一色先輩には好評でした。
ソーマさんの酢豚定食もアイデア満載でとても勉強になりましたし……。
「ちっくしょー! こんな薙切みてぇに洒落たモンを定食で出すのは考えもしなかったぜ! もっかいだ、もっかい勝負しろ!」
「しょ、承知いたしました」
落ち込んでいたと思っていたソーマさんは5分も経たずに立ち直り、すごい形相で再勝負を挑んでこられましたので、わたくしは断れませんでした――。
「ここは、もう少し薄めに切ったほうが良かったのでは?」
「なるほどなー。じゃあここをこうするってのはどうだ?」
「す、凄いですね。こんな突飛な発想が一瞬で出るなんて……」
「ヘヘっ! よし、もう一回勝負だ!」
ソーマさんの凄いところは失敗から新たなアイデアを思いつくまでの瞬発力です。
ピンチをもチャンスに変えてしまうような柔軟性を持っている彼は優れた料理人でした。
わたくしとはまるでタイプが違います……。
「同じ牛肉でも、産地によって特徴がありまして、オージービーフを扱うときは……」
「すげぇ勉強してんのな」
「にくみさんに色々と習ったので」
「あー、あいつ何だかんだ言って色々と教えてくれるもんなー。次は魚で勝負――」
何度も何度もソーマさんと料理勝負をする内に自分に足りなかったガッツや柔軟な思考の大切さを彼から学びました。
負けてもへこたれることなく、その敗戦をバネに出来る彼はとても強い方です。
今までに出会った誰とも違う強さをわたくしは彼から感じました――。
「あの子誰? なんか幸平が負けたとか言ってたけど」
「ええと、話せば長くなるというか、何というか」
夜になり、授業に出ていらっしゃった極星寮の皆さんが帰って来られました。
やはり、わたくしのことは誰一人として知らないみたいですね……。ようやくわたくしは、別の世界に来てしまったことを確信しました。
「ふわぁ〜〜。これ美味しい! 誰が作ったの? 繊細な味付けで、それでいて野菜の風味が強烈に抜けていく! これ作ったのえりなっちでしょ?」
吉野さんはわたくしが先ほど作ったキッシュを召し上がって絶賛されました。
えりなさんの影響を受けて作った料理ですから、彼女が作ったと勘違いされたのは素直に嬉しいです。
「ううん。えっと、それはね……、幸平さん……かな?」
「“幸平さん”?」
恵さんがちょっと困ったような顔をしてわたくしのことを紹介しようとされました。
別の世界から来たとかそんな説明をしても簡単に理解しては貰えないでしょうし……。
「ああ、紹介するよ。こちらはソーマくんの親戚の幸平創愛さん。彼女が遠月に転入出来ないかソーマくんが打診してきてね。今日からしばらく体験入学してもらうことにしたんだ」
そんな中で、一色先輩はわたくしのことをソーマさんの親戚だと紹介してくれました。
ありもしない転入の話や体験入学の話を当然のように話される彼の機転には脱帽です。
確かに、わたくしがいつになったら帰れるのか分からない以上は、別の世界から来たと逐一説明するよりも、ソーマさんの親戚だと説明したほうが良いかもしれません。
「転入……体験入学……そんなの聞いたことがないですが」
「まぁ、特例措置って感じにはなるかな。実力はこのとおりだし」
一色先輩は榊さんのツッコミも冷静に躱されて、特例措置とまで言われます。
彼の言葉には説得力がありましたので、皆さんはそれ以上は何も聞かれませんでした。
「すげぇ! 中華もイタリアンもフレンチもどれも超一級品じゃねぇか!」
「で、幸平〜。あんた負けたんだ。親戚の子に」
「いや〜、何回も負けちまったわ。やっぱ、鍛え直さなきゃいけねぇなぁ。薙切にもやられっぱなしだし」
ソーマさんは負けたことを言及されても、ヘラっと笑いながら受け流されます。
彼にとって負けることは財産なのでしょう。悔しい気持ちと同じくらい、次はもっと強くなれるという嬉しさも持ち合わせているような気がしました――。
「遠月に通ってなくてもこんなに凄い子いるんだ」
「てか、第一席が非公式でも何回も負けるのって事件なんじゃ……」
「少なくとも十傑クラスの実力って訳だろう。大騒ぎになるよな」
「えっと、そのう……」
「で、今日はどうするの? ここに泊まってく? 部屋なら余ってるし」
「だったら、歓迎会の準備をしねぇとな」
「幸平さんも定食屋さんだったりするの?」
「二人、幸平がいると紛らわしいよな」
寮の方々は口々にわたくしに質問攻めにされました。
初対面のわたくしに気を使ってくれる彼らはやはり優しい方々です。初めて寮に来た日を思い出しました。
「で、では……、ソアラと呼んでください。あ、あのう。恵さんもぜひ……」
「えっ? あっ、うん。よろしく。ソアラさん」
「はい。恵さんに名前で呼ばれて嬉しいですわ」
「――っ!? な、なして、私はドキドキしてるんだべさ……」
こちらの世界の恵さんにも名前で呼んで貰えて嬉しくなったわたくしは彼女に感極まって抱き着いてしまいました。
え、えりなさん……、う、浮気ではありませんからね……。
「そういえば、えりなっちはもう来た〜? 幸平に用事があるみたいなこと言ってたけど」
「薙切が? いや、来てねぇけど。こっちに来るなんて珍しいな。だから、さっき薙切が作ったとか言ってたのか」
吉野さんがソーマさんにえりなさんがこちらに来られたのかどうか質問されて、彼は首を横に振ります。
えりなさんはあまりこちらに来られていないのですね……。ということは、ソーマさんはえりなさんと交際はされていないということでしょうか……。
「ソーマさんは、えりなさ……、じゃなかった、薙切総帥とはあまり会ってないのですか?」
「薙切と? 会ったときは大抵、面倒な仕事を押し付けられてるからなぁ。正直会いたくねぇ」
もしかして、ソーマさんはえりなさんを交際どころか少しだけ煙たがっています? そんなにこちらのえりなさんって仕事を押し付けたりしますの?
「押し付けられるって、ソーマくんが仕事をサボるからじゃない」
「えっ? ソーマさん、ダメですよ。きちんと仕事をしなくては。えりなさん……、じゃなくて薙切総帥だって総帥になりたてで不慣れな作業に忙しいのですから、それを十傑メンバーはサポートしてあげませんと。そういう不真面目なところはお父様に似ないほうがいいですよ」
「お、親父? いや、だってさ。十傑になったら、好き勝手が許されるって。つーか、薙切の話になると急に怖い顔をするな」
ソーマさんがお仕事をされないで、えりなさんを困らせていると聞いたわたくしは彼にきちんと仕事をするように声をかけました。
やはり、父の悪いところを引き継いでいるみたいです。
「それは、えりなさんはわたくしの――」
「……んっ?」
「えっと、わたくしの憧れですから……。そうです。憧れです……」
「なんか顔が真っ赤だぞ。風邪でも引いたのか?」
「だ、大丈夫です。とにかくお仕事はサボっちゃダメです。事務処理が苦手なのでしたら、教えますから。覚えてくださいな。自由とは責任を果たした方に与えられる権利なのですから」
危ないところでした。えりなさんと交際なんてここで口にすると皆さんにどんな顔をされるか……。
とにかくソーマさんにはこちらの世界のえりなさんを助けて欲しいです。
「お、おう……」
「すごい……、ソーマくんと真逆の性格……」
「幸平、すげぇ面倒くさそうな顔してんな」
「言い方は優しいけど、一歩も譲りそうにねぇもん。しかも正論だし……」
そんな会話をしている間に、誰かがこの寮にやって来たみたいです。
「あっ! お客さんだ。薙切さんかな? 私、出てくるよ」
恵さんが玄関まで行かれて迎え入れた方はやはり、えりなさんでした。
ソーマさんに用事だと聞きましたが、何の用事でしょう……。
「幸平くん。夜分遅くに悪いわね」
「な、なんだ。この品数は? またパーティーでもやってたのかお前たち」
えりなさんと緋沙子さんがこちらにやって来られました。
お二人ともこちらの世界でも見た目は全く変わりはありません。
「あー、幸平とその親戚の子が料理対決をしてたんだよ」
「親戚の子?」
「あれ? えりなっち聞いてないの? 転入希望だって、この子」
「ど、どうも……、幸平創愛です……」
わたくしは吉野さんに促されるままえりなさんと緋沙子さんに挨拶をしました。
転入希望なんて彼女は受け入れてくれないと思いますので、緊張します。
「転入希望って、この遠月学園はね。誰もが気軽に入れるような場所じゃ――」
「あー、わかった。わかった。薙切もそんなに怖い顔しねぇでさ。もっと優しくしてやりなよ。それよか、用事ってなんだ? 急ぎなんだろ?」
その空気を読んだのか、ソーマさんは急いで話題を変えてくださいました。
大事なのは確かにそちらの話ですよね……。
「そ、そうよ。あの“ルグラン学園”から試合をしないかって、連絡があったのよ」
「“ルグラン学園”? んだ、そりゃ?」
えりなさんの話は“ルグラン学園”から試合の打診があったことでした。
ソーマさんはご存知ないみたいですね……。
「フランスにある遠月学園みたいな料理学校だよ。ソーマくん。三ツ星シェフを何人も輩出している名門中の名門」
「ウチも厳しいけど、ルグラン学園はもっと厳しいよ。毎年、厳しすぎて脱走者が大量に出るんだ」
そう、“ルグラン学園”はフランスというより欧州で最も有名な料理学校です。
卒業生は世界中の様々な名店のシェフとなり、実績は遠月学園以上なのは間違いありません。
振り落とす教育方針の遠月学園が天国に感じられるくらい厳しい授業を行うらしく、過酷すぎて逃げ出してしまう生徒があとを絶たないという噂はわたくしも聞いたことがあります。
「ここは退学にされるけど、向こうは自主退学で人数が絞られるっていうからなぁ。恐ろしい料理学校だよ」
「ルグラン学園はBLUEの理念に賛同できず、卒業生も含めて参加をずっと辞退しているけど、世界のトップシェフを多く抱えているわ。あそこの理事長はお祖父様と懇意にしていてね。お祖父様から引き継いで、私が総帥になったから、手腕をぜひ見たいって」
そう、“ルグラン学園”は学園内でOBやOGも参加する料理コンクールをしており、BLUEに参加しても、それと結局同じ結果になるとして、意義が見出せないと不参加のスタンスを取っていました。
そんな学園が対外試合をすることは異例中の異例と言っても過言ではありません。
「へぇ、また国際試合か。おもしれぇ。もっと視野を広げてぇと思ってたんだ」
「ソーマさん……」
「それで、交流試合なんだけど、メインとなる勝負はタッグバトル形式を提案されたわ。シェフとスーシェフの二人で一品作って勝負するの。シェフはもちろん、遠月の第一席を出してほしいと言われたからあなたを出すのは確定。そして、幸平くんのサポートをするスーシェフをあなたに選んでもらいたいのよ。出来れば、今日中に」
どうやらえりなさんの用事とは、交流試合のメインのとなる第一席のソーマさんとの試合が誰かとペアを組んで行う形式なので、そのペアとなる生徒を彼に決めてほしいとのことでした。
「ルグランと試合なんてすげぇ!」
「幸平、誰を選ぶの? 恵? それともタクミっち?」
「いやいや、えりなちゃんの可能性もあるぞ」
「わ、私が幸平くんのサブ? ま、まぁ、どうしてもというなら仕方ないけど……。あと、ちゃん付けは止めてと言ったはずよ」
皆さんはソーマさんがどなたを選ぶのか興味津々でした。わたくしなら、えりなさんを迷わず選びますが……。
「サポート役かぁ。んじゃ、こいつで」
「ふぇっ? わ、わたくしですか?」
しかし、ソーマさんはえりなさんを選びませんでした。
なんと彼は迷わずわたくしを指さしたのです。いや、わたくしはこっちの遠月の生徒ではないのですが……。
チラッと原作世界線のキャラと絡ませて終わろうと思ったのですが、いつの間にかフランスの料理学校とのバトル展開とかアホなことを書いていました。
設定はガバガバだし、一色先輩の察しが良すぎてすみません。