RockmanX4 War of Repliforce 作:グルルre
「ご苦労様であります」
「・・・おう」
駐屯地において自身に敬礼をする士官に横柄に言葉を返すビストレオ。
周囲の取り巻きの下士官らが渋い顔となるが、陸軍でも古株の猛将を前に表立って反論する事は出来ない。
「どうやらハンターベースに政府軍の援軍が駆け付けたみたいだな。奴らも本腰を入れて反撃に出てくるって訳だ。気を付けねえと拙いぞ」
「寧ろ敵が戦場に留まってくれる様になって願ったり叶ったりでありますよ。今まではこちらが反撃に出ればすぐに撤退してまともにやり合う事が出来なかったでありますからな」
「エックスやゼロが自由に動けるって事だぞ。油断して怪我するんじゃねえぞ」
ビストレオの忠告にアームズ=スレイプニールは不敵に笑う。
空軍長官であるペガシオンの弟にしてカーネル直属の親衛隊を率いる彼は当然の事ながら陸軍の中心となって、北米大陸における前線に立つ事となる。
対してビストレオは自身が志願した事もあり補給部隊の指揮を任せられているのだが、両者の間には若干のぎこちなさが生じる。
「自分はエックスやゼロが相手でも負けるつもりは無いであります」
「カーネルの大将と互角・・・下手すりゃそれ以上の相手だ。簡単に勝てると思うんじゃねえぞ」
自信ありげに言うスレイプニールにビストレオは無駄とは思いつつも再度の忠告をする。
「それは自分でも分かっているであります。ともあれエックスやゼロはスカイラグーンでカーネル閣下に軍人の誇りである武器を捨てよと迫った愚か者共であります。奴らだけは何としても我らの手で仕留めねばならない存在でありますよ」
(そりゃあの現場で大将に事情聴取するんだったら当然の対応だろってのに・・・)
スレイプニールのエックス、ゼロ両名を討つべしの言葉に周囲の士官らが同調の声を上げるのをうんざりした思いで聞きながら、ビストレオは溜息を吐く。
開戦以前よりこう言った風潮は強くなっていたが、今回の武装蜂起によって陸軍はカーネル派を称する若手将校らが牛耳る組織へと変貌を遂げてしまっている。
元よりノンキャリアであり己の腕一つでここまでの地位となったビストレオからすれば、彼らが口にする軍の誇りだ名誉だと言った考えは唾棄すべき物だと認識している。
此度の無謀な開戦も彼ら青年将校らの暴発による部分が大きいだけに、ビストレオが彼らを見る目も当然白々しい物となる。
(どうせなら俺も後方任務じゃなくて前線を担当すりゃ良かったかな・・・)
兵站や補給網の構築に無関心な士官らの代わりに自身が担当しているが、スレイプニール達は己らがあとどれくらい満足に戦えるのか知っているのだろうか。
(普通だったら俺よりもオツムが良いお前らの仕事だぞこれ)
一度近くに居た士官らに補給物資に関する事を聞いたが、彼らはそれらを目下の者達がするのが当然と言った風潮であり、どれだけの物資を自軍が保有しているのか分かっていない様子であった。
弾薬にエネルギーが無ければ自身らは何も出来ない事を理解していない様な彼らにビストレオは失望の念を禁じ得ない。
「失礼するよ」
一室に顔を出すレプリロイドの姿にビストレオの顔は更に険しくなる。
「失礼するんだったら帰れよ」
「それを言われるといやはや・・・手厳しいじゃないかね?」
ジロリと見据えるビストレオにヴォーダン=ノルンを名乗る幕僚はわざとらしく肩を竦める。
彼からすればカーネルらの腰巾着も気に食わないが、得体の知れないこの男は更に気に入らない。
此度の反乱でジェネラルに雇われたと言うヴォーダンは、出自不明と言う立場でありながらジェネラル直轄の参謀の一人に迎えられている。
この場においては事実上のジェネラルの名代と言う事もあり、ビストレオらも彼を軽々しく扱う事は出来ずに対応に苦慮していると言うのが現状だ。
ただその実力は本物であり、イレギュラーハンター内部に入り込ませた内通者からの情報を基に今までハンター側が行った攻撃による被害を最小限に抑える事が出来ている。
噂では都市伝説の様に存在が囁かれるシャドーフォースの者なのではとも言われているが、どちらにせよ油断ならない人物である事には変わりはない。
「政府軍はメタルセーバー隊を中心とする一個師団を援軍として送って来たそうだ。まあ戦力ではこちらが俄然有利・・・政府軍はハンター達を囮に欧州での戦力増強からの巻き返しを狙っているみたいじゃないかね」
ヴォーダンの詳細な情報に士官らが互いに顔を見合わせる。
「敵は第7空挺部隊とトルネードセーバー隊を使って欧州への牽制を図る我が空軍艦隊を強襲するつもりだそうだ。既にこの情報はフクロウル幕僚長には伝え済みだから、後はそちらで対処してくれるだろう」
如何に戦略を練ろうともこうも情報が筒抜けでは全てが裏目に出る。
恐らくフクロウルは逆に相手を罠に嵌めるべく策を考えているであろう。
「それで我々に対しては・・・どう来るでありますか?」
スレイプニールがヴォーダンに目を向ける。
彼の顔にはこの男に対する不快感が滲み出ているが、ヴォーダンの持つ情報は利用するつもりなのだろう。
この辺りはペガシオン同様に機転が利くと言えようか。
「エックスとゼロらを中心とするハンターとユピテイル率いる政府軍の連合軍が我々の動きを鈍らせるべく、それぞれの輸送列車とその関連施設を襲うつもりの様だ。詳細はこちらの方にある」
一枚のチップを見せながらヴォーダンはほくそ笑む。
どこから手に入れたのか分からぬチップの中身がビストレオらの端末にデータとして表示される。
「正面から来る政府軍は陽動に過ぎない。敵の本命はエックス達イレギュラーハンターじゃないか。と言う訳で我々はそれを各個撃破する・・・そんな作戦で如何かな?」
ヴォーダンの言葉にビストレオらは渋々ながら頷く他無いのであった。
「イレギュラー共に政府軍の力を見せてやれ!!」
ユピテイルの号令の下、最新鋭の戦闘用レプリロイドであるプレオン達が駐屯地のレプリフォースに向けて攻撃を仕掛ける。
ドップラー事変の前後より実践投入されてきたプレオン達だが、その数はまだ少なかった事もあり一部を除けば未だに正統な評価を受けたとは言い難い存在だ。
レプリフォースの影に隠れ冷や飯を食わされ続けた彼らからすれば、今回の戦争は己の評価を世間に知らしめるまたとない機会である。
それ故にプレオン達の士気も高く個人の性能を最大限に生かし、カタログスペックで劣るノットベレー達を圧倒していく。
「銅角にお任せあれ・・・」
カッパー=ホーンドが巨大な電撃弾を敵陣地にばら撒き次々とレプリフォースの防衛兵器を沈黙させる。
圧倒的な実力を見せるホーンドに集中攻撃を仕掛けようとするレプリフォースだが、それを周囲に居るプレオン達が許さない。
ホーンドの前面でビームバリアーを数体で展開したプレオン達は、ギガデスを含むノットベレー達の攻撃を完全に無力化していた。
パーツを換装する事であらゆる局面に対応出来るように汎用性を高めているのがプレオンの最大の強みである。
今はまだ局地的な改修に過ぎないが、実戦データが集まれば専門的な兵装を持つ者達も生み出される事となろう。
ズドンッッ!!
後方に居たギガデスが三体纏めて爆散する。
巨大なレールキャノンを手にしたユピテイルは笑みを浮かべながら動揺するレプリフォースを見据えていた。
「さてこのくらい暴れりゃこっちに敵はくぎ付けだろう。俺っち達に敵が集まっている間に頼むぜエックス」
別動隊を率いるエックスにエールを送りながらユピテイルは手にしたプラズマランサーを手に戦場を駆けるのだが。
「・・・やっぱりおかしい」
第17精鋭部隊を率いながらレプリフォースが物資の中継拠点として利用している駅を襲撃したエックスはその違和感を感じ取っていた。
「おかしいって何が?」
そんなエックスにビームスピアを振り回しバットンボーンを蹴散らしたブリッツ=オージンが振り返りながら問うてくる。
「俺達は奇襲を掛けている・・・だから多少は敵の数が少ないのは分かるけど。なんて言うか反撃が緩いと言うか・・・」
砲撃を放つギガデスをチャージショットで破壊し、撤退していくノットベレー達を追撃せんとする部下の隊員を制止しながらエックスはオージンと向かい合う。
「確かになんか俺らを招き入れているような気がしないでもないな」
ドゴォォォンッッ!!
別方面で爆風が上がりそれに煽られる形で輸送列車の車体が宙に舞うのが見える。
『あっちは第0特殊部隊の担当だったな』と内心で思いながらオージンは腕を組み思案する。
今回の戦いが始まって以降、留守番を命じられフラストレーションが溜まりに溜まったゼロが暴れているのだろうとオージンは判断する。
(勢いの付いたあの人を止めるのは無理だよな・・・それこそカーネルでも出さなきゃ)
スカイラグーンの現場で出頭すると約束した筈のカーネルが姿を現さず、そればかりか人類の反乱を主導する立場となった事に人一倍苦悩してきたゼロ。
彼からすればカーネルやそれに与するレプリフォースは許す事の出来ない存在と言う事なのだろう。
エックスらが足を止めた事に気づいたのか、別方面で部隊を指揮する副隊長のスノウアー=アイビスが通信を入れてくる。
現在第17精鋭部隊はハンターベース防衛の為にある程度の戦力は残しているが、現段階で動員出来る限りの隊員らを率いている。
アイビスの下にはジーエン=アンカトゥスらの実力者も配備されている。
<エックス、動きが鈍いけどどうしたの?>
「ああ・・・なんだか妙だと思わないかアイビス」
<妙って・・・レプリフォースがこっちの攻撃を予想していたみたいだから?>
アイビスもアイビスで敵の反撃が予想よりも無い事に気づいたらしく、警戒して当初よりも進撃の速度が遅くなっているのがエネルギー感知器より分かる。
「前から思っていたんだけど俺達の動きが敵に情報として伝わっているんじゃないかな」
<え・・・?第0特殊部隊がそれこそ情報管理を徹底しているのに?>
「でもそうとしか思えないよ。これだけ・・・こちらの動きが読まれていたらさ」
アイビスと通信をしつつ、エックスは己の前に姿を見せるレプリフォース士官の姿に苦笑を浮かべる。
「どうやら自分は運が良いみたいであります。まさかいきなりロックマンエックスと相見えるとは・・・」
統一した装飾を施されたノットベレーやグランベレーには見覚えがある。
彼らはカーネル直属の親衛隊でありそれを率いるのはスレイプニール。
陸軍内でも筆頭格の実力者である。
スレイプニールが現れたのを合図に物陰へ隠れていた他の兵士らも姿を現していた。
倍近い敵の数にエックスらは唸る。
兵士らだけではなくバットンボーンを始めとするメカニロイドに戦闘用ライドアーマーであるライデンに搭乗するグランベレーの姿も見え、実際の戦力比はどれだけのものであろうか。
「やっぱり俺達の動きは筒抜けか」
「それに関してはノーコメントでありますよ」
エックスの言葉に笑みを浮かべるそう答えるスレイプニールだが、彼が万全の状態で待ち構えていた事からも事実上の肯定と言えよう。
スレイプニールは周囲の兵士らを軽く手を上げて制止すると単身で近寄って来る。
「どうでありますか?自分と一騎討ちと言うのは」
「・・・ッ」
自信ありげにエックスに挑戦状を突き付けるスレイプニールに彼の顔が渋くなる。
元より戦いを好まぬ彼にとって顔見知りであるスレイプニールと戦うのは心苦しい。
「待ってくれ・・・それよりも俺達は」
「待つ理由も話し合う理由も皆無であります。お前達は自分達の誇りを傷つけ、そればかりかカーネル閣下から命よりも大事な武器を差し出せと言う暴挙にまで及んだ。それは正しく万死に値する愚行でありますよ」
エックスの説得に聞く耳を持たないと言った様子で更に一歩、エックスの側に踏み入れたスレイプニール。
自身を睨み据える彼を前に歯噛みしながらエックスは彼に倣うようにして歩を進める。
「・・・エックス!?」
「皆、下がっていてくれ」
一騎討ちに応じる姿勢を見せるエックスをオージンが止めようとするも、逆にエックスの言葉に動きを止められる。
瞬時にフォースアーマーを身に纏うエックスに対し、スレイプニールもマントを払い除けその下にある両腕とそれに取り付けられた四本のマニピュレーター、計六本の腕を展開する。
「お前のバスターを陸軍本部の入り口に飾り付けてやるであります」
「そう簡単にやられるつもりは無い」
声を上げるスレイプニールを前にエックスも静かにバスターを構えていた。
「いやあ・・・これはこれは初めまして」
他の隊員らを置き去りにする形で突出していたゼロに黄金色のアーマーを身に纏ったレプリロイドが慇懃無礼な口調と共に頭を下げる。
「私の名前はヴォーダン。ヴォーダン=ノルンと言う。ジェネラル閣下直属の幕僚の一人で・・・」
「ボタンだ?まあてめえの名前なんてどうでも良いんだよ。それよりもカーネルはどこだ?」
名を名乗ったと言うのにそれを覚える気さえ見せずにカーネルの行方を問うた事でニコニコと笑みを浮かべるヴォーダンの顔が一瞬、引き攣ったのだがゼロの方は気づかない。
「ふう・・・やはり君の様な奴は気に入らないじゃないかね」
ピキピキピキッッ!!
己の腕に収納されていた巨大な槍グングニールを出しながらヴォーダンは肩を震わせる。
「私も悪知恵ばかり働くと思われたくないからね。ここは少しはその力を・・・」
周囲の兵士らに目を向けながらヴォーダンがゼロに身構えたその時だった。
ズバッッ!!
電光石火の抜刀とはこの事か。
瞬時に間合いを詰めたゼロはヴォーダンの体を袈裟懸けに切り裂いたのであった。
「な・・・ヴォーダン大佐」
士官の一人が呆気無い戦いの決着を信じられないとばかりにその場より後ずさるのだが。
「ああ・・・やっぱり気に入らないね」
ズドドドドドドドドッッ!!
真っ二つに切り裂かれた状態のままヴォーダンの全身が脈打ち、無数の棘の付いた触手となるやゼロ目掛けて放たれる。
変幻自在の動きをする触手を前にゼットセイバーで薙ぎ払う、或いは避けるなどし攻撃を凌ぐゼロ。
そんな彼の前でヴォーダンは切断面を即座に合わせ元通りにボディを再生させてしまう。
「リキッドメタルか・・・ガボン野郎」
「ふむ・・・その呼び方はわざとだと認識しても宜しいかな?」
今度はヴォーダンが地を駆ける。
投擲された槍を跳躍し回避したゼロに対し、至近距離まで近寄ったヴォーダンは片腕を刃へと変えそれを軽く払う。
ヴォーダンの一撃はゼロの脇腹を掠めるが彼の動きを止めるには至らない。
逆に刃を振り下ろされヴォーダンは電撃を放ちながら一旦、距離を離していた。
相対時とだいたいが同じ形となった両者に陸軍の兵士らが感嘆とした声を上げた。
「得体の知れぬ者と思われていたが・・・」
「この男、もしかすればスレイプニール中佐らに匹敵する実力を持っているやもしれん」
誰もその勢いが止められぬと思えたゼロを前に互角の戦いを繰り広げるヴォーダン。
胡散臭い男と言う評価しか無かった彼に武断を美徳とする陸軍兵士らも見る目を変えざる得ない。
バキッッ!!
槍と言う得物のリーチの差を利用し刃の面でゼロを弾き飛ばすヴォーダン。
背後の瓦礫に吹き飛ぶゼロの姿に兵士らが歓声を上げるが、ヴォーダンは表情を変えずに起き上がろうとするゼロを見据える。
(・・・野郎)
先程まで道化の様に話していたヴォーダンだが、ある意味でそれはこの男の仮面なのだろう。
能面の様に眉一つ動かさぬ顔で自身の動きを注視する相手に隙は殆ど無い。
そもそも液体金属製のボディを持つ相手は今のゼロにとって一種の天敵とも言える相手だ。
バスターの機能を失い大技であるアースクラッシュを使用出来ないゼロは相手のボディを瞬時に破壊できる術を持たないのだ。
液体金属のボディを構成するコアが相手の体内にあるだろうが、それを探る手段も無い。
ズバッッ!!
何度かの鍔迫り合いの後にヴォーダンの手首を薙ぐがそれも有効打にはならない。
「・・・チッ」
「少し本気で行こうかな?言っておくが私は実力の半分も出していないのだがね」
舌打ちをするゼロにヴォーダンが張り付けた様な笑みを浮かべる。
その顔に見覚えがある様な気がしたが、ゼロはそれらの雑念を頭から降り払う。
目の前の敵に対し余計な事を考えればこちらが負けると判断したからだ。
事実目の前の敵は、並の特A級ハンターを超えるだけの実力を有しているのは間違いない。
「ブリッツサウザンド!!」
ズドドドドドドドドッッ!!
ヴォーダンの兜から生える髪が無数の触手となり、電撃を撒き散らしながらゼロへと迫る。
ゼットセイバーを振るいある程度の攻撃は捌く事が出来たが、手数の多い相手の攻撃にゼロの四肢や全身が傷ついていく。
バチバチバチッッ。
「やるじゃねえか・・・ボディがリキッドメタルじゃなくても、てめえは強いな」
「お褒めに預かり光栄だよ。さて・・・と君にはじっくりと」
強敵を前に不敵に笑うゼロに対し、ヴォーダンがほくそ笑むのだが。
(ちんたら何やってるんだ・・・俺様に代われ!!)
己の内から響く声にヴォーダンはその表情を一瞬だが歪める。
この姿で本格的な戦いを行った事もあり、眠っていた筈のもう一人の己が目を覚ましたのだ。
(ビルドルヴ・・・起きてしまったか)
(たりめえだ!!こんな敵を前に寝てられるかってんだ)
ビルドルヴと呼ばれる分割された人格の声にヴォーダンとしてのボディを操るグリムニールは内心で歯噛みする。
(俺様に代われグリムニール。今、お前と行動を共にしている奴らは俺様が前に出た方がなにかと都合が良い筈だ)
人格は違えど状況判断能力は己と変わらず冷静なビルドルヴ。
(確かにここで彼らの支持を集めるのは何かと都合が良いか・・・だがヴィングにはあまり事を大きくするなと言われているのだがね)
(構う事はねえよ。ここは戦場だろうが!!)
ザシュッッ!!
己の内で討論を続けた事もあり、自然と動きが鈍くなりゼロの一撃に脇腹を削られる。
この事態にヴォーダンの決断は早かった。
(分かった・・・では君に委ねよう。くれぐれも羽目を外さないようにね)
(・・・了解)
ドンッッ!!
ゼロの回し蹴りを食らい今度は逆にヴォーダンの方が吹き飛ばされる。
地面に痕を残しながら片膝を衝く彼にゼロは追撃を仕掛けようとして、その足を反射的に止めていた。
(気配が・・・変わった?)
それはデータなどで捉えられる物ではない。
ゼロの長年の戦いの中で培った感が危険を察知したのだ。
「ハァァァァ・・・やるじゃねえかゼロォォ!!」
ゆっくりと顔を上げたヴォーダンは先程までの慇懃無礼な様子は一切無く、粗暴な口調と共に立ち上がる。
パキパキパキッッ!!
自身の持つ槍グングニールを巨大なハンマーへと変形させながらヴォーダンは軽々とそれを持ち上げる。
自身のボディを形成する液体金属を応用して造り出されたハンマーは、まるで生命体の様に表面が大きく脈打つ。
「少々強いからって図に乗るんじゃねえぞ!!」
身に纏った空気ばかりではなく己のボディすらも先程よりも巨大化させたヴォーダンが、瞬時に距離を詰める。
まるで肥大化したとばかりに発達した上半身を持ちながら、敏捷性は何ら変わりがない。
力任せに振られる巨大なハンマーの直撃をゼロは成す術無く受ける事となる。
バキィィッッ!!
まるで人形の様にゼロが吹き飛ばされ陣地の土嚢が積まれた一角に頭から突っ込む。
「あのゼロがこうも簡単に・・・」
陸軍兵士らもボディを変形させたヴォーダンと彼の持つ驚異的な実力に驚く他無い。
「てめえら・・・何をボーっとしてやがる!!さっさと動いて攻め込んできた敵をぶっ殺せってんだ!!」
「は・・・はいっ!!」
巨大なハンマーで脅しながら檄を飛ばすヴォーダンにノットベレー達がゼロと共に攻め込んできた第0特殊部隊の迎撃に向かわんとする。
先程まで内心では策略ばかりに長ける部外者と言う印象が強かったヴォーダンだが、武断こそ美徳とする陸軍内において彼の実力は十分すぎる物を示した。
少なくとも陸軍内で彼の指示に疑問を抱く者は居なくなるであろう。
「フンッ・・・俺様のハンマーをまともに食らっても死なねえか」
土嚢の残骸から身を起こすゼロにヴォーダンが不敵に笑う。
「イテテテッ・・・やってくれるじゃねえか」
「まあ俺様としてもこれで終わったら面白くとも何とも無いからな。最後のワイリーナンバーズさんよ~」
嘲る様に言うヴォーダンにゼロの顔が不快気な物となる。
「ワイリーナンバーズ?フンッ・・・知らねえな」
鼻で笑いながら跳躍しヴォーダンに刃を振り下ろすゼロ。
対して振り下ろされた刃を軽々と受け止めながらヴォーダンは更に頬を歪ませた。
「知らねえとか言っても俺様には分かるぜ。ナンバーズって言う単語を聞いて懐かしい過去の記憶とやらを思い出したんだろ?何といってもお前とあのエックスは・・・」
「・・・黙れっ!!」
エックスと己を絡め話し出す相手にゼロは自身でも驚くほどに苛立っていた。
初対面のイレギュラーに自身らの関係性を指摘されたからか。
当初こそ先輩と後輩と言う関係であったが今では共に部隊を指揮する隊長同士であり、今では部隊の枠を超えて交流を深めてもいる。
世間から見れば自分とエックスは戦友と見られるのだろう。
そしてそんな関係以上に言葉では上手く出来ない物で己らが結ばれている事もゼロ自身認めざる得ない。
一瞬だが思考を巡らせたゼロだったが、彼の意識を現実に戻したのは迫りくる敵が放つ殺気であった。
「やはりと言うかお前さん・・・クールに見えてホットだな」
「そういうてめえこそ脳筋に見えて頭が働くじゃねえか」
頭上より振り下ろされたハンマーをゼットセイバーで受け止めながらゼロは笑う。
粗暴な口調と態度を露わにしたヴォーダンだが、先程ゼロをダウンさせた際に周りの兵士らに敵の攻撃を迎撃を命じた事も含め見た目通りの単細胞ではない。
そもそも今回の襲撃が敵に悟られていた時点で自身らはまんまと罠に掛かったと言う事になる。
「ミュルニールハンマー!!」
「雷神撃!!」
大振りに振られるハンマーとゼロの刃から生じる電撃が真っ向からぶつかり合う。
共に電撃を放った衝撃で間合いが離れた両者は暫しの間、身構えながら対峙するのだが。
先に武器を下ろしたのはヴォーダンの方であった。
「このまま戦場に留まればお前さんはレプリフォースに包囲されるぜ。まあエックス共々、尻尾を巻いて逃げるこった」
歯を見せながら笑うヴォーダンはそう言ってゼロに背を向ける。
その姿にゼロは怪訝な顔となる。
状況は明らかにこちらの不利にあるにも拘らず、敵は敢えて己を見逃すかのような行動を取ろうとする。
「ここで勝っても面白くないからな。俺様はまだ戦いを楽しみたいんだ。それはお前さんも一緒だろう?」
同意を求めるかのようなヴォーダンの言葉にゼロは否定も肯定もしなかった。
<ゼロ隊長。どうやら今回の襲撃・・・>
「ああ・・・分かってる。まさかこっちの情報が筒抜けとはな」
別方面で部隊を指揮していたニードル=クィンビーからの通信に仏頂面で答えるゼロ。
<ともあれすぐにその場から撤退を。政府軍も既に後退する準備を始めています>
クィンビーの言葉に頷きながらゼロは簡易転送装置を使いその場より離脱する。
その間、ヴォーダンは薄笑みを浮かべるのみでゼロを追撃しようとはしなかった。
「戦いはまだ始まったばかりだ。盛り上げていこうぜ~史上最大の大戦って奴をな」
ヴォーダンはそう言って巨大なハンマーを軽々と背負う。
静まり返った戦場に不気味な笑い声だけが木霊し続けていた。
一方、別方面でスレイプニールと激闘を続けていたエックスにも撤退の命令が伝えられる。
「プラズマチャージショット!!」
「ぬぎぎぎぎっっ・・・やるっ!!でありますな!!」
胴体に巨大な光弾を受け弾き飛ばされながらも起き上がったスレイプニールがアーマーを纏ったエックスに声を上げる。
当初こそ無数の腕からの手数で圧倒したスレイプニールだが、対するエックスは自身が持つ射撃能力を十二分に活かし的確にダメージを与えていく。
プラズマチャージショットの直撃を受けながらも平然としている事もあり、スレイプニールの見た目とは裏腹の頑強さには驚くばかりだが、このまま戦いを続ければエックスの勝利は確実と言えた。
この辺りはハンターとして戦い続けてきたエックスとの経験の差もあったのだろう。
「こうなればフロストジャベリンを使って勝負であります!!」
スレイプニールがバックパックから冷気を放つ槍を取り出すが、そんな彼の鼻先に鋼鉄の爪が突き付けられる。
「冷静さを失った今のお前にはエックスは倒せねえよ」
不敵に笑いながらスレイプニールを横目で見るのは後方に居た筈のビストレオ。
彼は鋼鉄の爪を鳴らしながらエックスらに対し身構える。
「手柄を前にして焦り過ぎだ小僧。舐めてかかって勝てる相手じゃねえ」
宥める様に肩に手を置くビストレオにスレイプニールが唸るも、言葉通り冷静さを欠いていたのは事実だ。
それを認めるだけの度量はこの青年は持ち合わせている。
でなければカーネルの親衛隊など任せられる筈が無い。
「超特急で片を付けたいが時間切れだろ?」
ビストレオに指摘されるまでも無く自身らの奇襲が看過されていた時点でエックスらにとって作戦は失敗であった。
陽動の為に動いていた政府軍もレプリフォースの戦いを切り上げ戦線を後退し始めているのが、エネルギー反応から分かった。
「第7空挺部隊の動きも同じくだぜ。フクロウルの爺さんがそれを利用して罠に嵌めるのは言うまでもねえよな」
「アルバルド達が・・・どうやら今回も俺達の負けか」
勝ち誇るビストレオを前にエックスは部下達に撤退命令を出す。
簡易転送装置を使い次々と姿を消していくエックス達。
残されるのはビストレオ以下、陸軍の兵士ら。
「我が軍はこれより敵の追撃に移るであります。フクロウル准将の飛行艦隊とも連携し前線の都市を占領するでありますよ」
スレイプニールは部隊を再編成すると返す刃で軍勢を前に進ませる。
奇襲を掛けてきたハンターと政府軍の連合軍を退けたレプリフォースは更に支配地域を拡大する事となる。
「ごめん・・・何両かの輸送車両は破壊出来たんだけど」
仮設の野営地でアイビスはエックスに頭を下げる。
「謝るのは俺の方だよ。スレイプニールと戦っていたのもあって殆ど目的を果たせなかった」
親衛隊を率いるスレイプニールをエックスが相手取った事もあり、アイビス率いる部隊はある程度の目的は果たせたらしい。
と言っても圧倒的な軍事力を誇るレプリフォースからすれば、損害らしい損害とは言えないだろう。
「情報が漏れていた・・・由々しき事態ですな」
ジーエンがエックスらに耳打ちをする様に言う。
「つまりは俺達の中に内通者が居るって事だ。誰だか知らねえが見つけたらただじゃ済まさねえ」
ゼロが周囲に殺気を放ちながら言う。
彼の顔には何時にもまして隠しようのない苛立ちが見える。
その殺気にダブルなどを始めとする一般隊員らは戦々恐々とする他無い。
「仲間を疑うなんて今はそんな事をしている場合じゃないよゼロ」
「だが現に今回の奇襲の情報も漏れていた。幾ら奴らの所にシャドーフォースとか言う俺の部隊の様な存在が居ても、あそこまで確実に奇襲のタイミングが分かってるなんてあり得ねえ。俺達ハンターの中に裏切り者が居やがる。命惜しさにレプリフォースに内通している奴がな」
疑心暗鬼が芽生えそうな空気を払拭せんとエックスが口を開くも、フラストレーションが溜まりに溜まったゼロは声を荒げ逆にエックスを睨み据える。
この大戦が始まってからそうであったが、今のゼロは信頼していたカーネルに裏切られた事もあり冷静さを失っていた。
いつもの彼であれば逆に皆の動揺を鎮めていた筈であろうに、逆に不信感を振りまく彼にエックスも連敗続きもあり苛立ちを覚える。
「ゼロ・・・俺はイレギュラーハンターの皆を仲間を信じる。そうやって皆に疑いの目を向けるのは止めてくれ」
「甘ちゃんな所は相変わらずだな。そもそものシグマの反乱の時からお前だって同じハンターの裏切りを何度も経験してきただろうに」
「それを・・・今、言うのか!?ゼロ!!」
尚も周囲に当たるゼロの言葉にエックスも堪忍袋の緒が切れる。
「お二人とも落ち着くんですな」
「ちょ・・・止めなよ!!」
慌ててジーエンがエックスを背後から押さえ、アイビスがゼロとの間に入った事で衝突は避けられたが、もしも二人の動きが遅ければ互いに拳の一発は確実に入っていただろう。
それで済めばいいが下手をすれば殺し合いにさえ発展しかねない危うさが二人の間では流れ続ける。
「まあまあここで同士討ちは勘弁だぜ」
「うるせえガボン野郎!!てめえからまずはぶん殴ってやろうか!!」
アイビスと同じ様に間に割って入るオージンにゼロが叫ぶが、たかがB級ハンターである彼に激昂するゼロの姿は非常に大人げない。
「・・・チッ」
己が冷静さを失っていた事に気づいたのかゼロが舌打ちをしながらその場を後にする。
対してエックスの方も我を失いかけていた事を自覚したのかその場に座り込むと深々と息を吐いていた。
「エックス・・・つ、次は勝とうよ。元々レプリフォースとの戦力差もあるんだしさ。仕方が無いよ・・・うん」
フォローの言葉を投げかけるアイビスに力なく微笑みながらエックスはゼロの去って行った方向に目を向ける。
ここに来て表面化したエックスとゼロとの不和は、この後も影響を及ぼす事となるのだがまだその事にエックス達もまだ気づかないのであった。