RockmanX4 War of Repliforce 作:グルルre
空軍を指揮するフクロウルよりイレギュラーハンターに痛手を与えたと言う報が伝えられるとレプリフォース総本部の作戦司令室は歓喜の声に包まれる。
それと並行してエックス達を迎え撃った陸軍もまたある程度の損害は生じさせつつも、今や北米大陸の大半を制圧しレプリフォースはハンターベースのある東海岸に迫りつつある。
南米大陸も同上であり、海の上では敵なしと言えるタイダル=オアンネル率いる艦隊を前に敵は満足に戦う事も出来ていない状態だ。
「元より戦力ではこちらが圧倒的に有利なのだ。我らの勝ちは当然よ」
破竹の勢いで勢力圏を広げる自軍に喝采を贈るのは最高司令官のジェネラルだ。
「おめでとうございます。やはり正義は我らにありますな」
傍らの席に座るカーネルの祝辞にジェネラルは豪快に笑う。
連日に渡って続く自軍の勝利に首脳陣はすっかり酔いしれていた。
そんな彼を嘲笑うかのように宇宙軍総司令ギャラクシー=キリンタイザーが口を開く。
「だがそれも内通者とやらの情報があっての事。我らの予想よりも政府軍の援軍の到着が早い。敵の動きは思った以上に迅速であるようだ」
「政府軍など我が軍の敵ではないわ。それよりもだ・・・スペースコロニーや月面都市からの返事はどうなっている?」
キリンタイザーの水を差すかのような言葉に不機嫌になりながら、ジェネラルは言う。
宇宙軍本部がある月面を始め、地球の周りには幾つかのコロニーがあり地球上と同様に多くの人間とレプリロイドが暮らしている。
基本的に宇宙での生活は自給自足が原則だが、宇宙で生産された農産物は地球へ輸出されており、連邦政府を影で支える存在なのだ。
その為ジェネラルはキリンタイザーに彼らからの協力を取り付ける様に命じている。
宇宙からの食料の供給がストップすれば、連邦政府への圧力となると言うのがジェネラルの考えなのだが。
「宇宙の民は地球の事には無関心だ。あまり色好い返事は貰えていない」
キリンタイザーの言葉にジェネラルの顔が険しくなる。
「コロニーの市民の中には未だに我らが大首領と戦っていると思っている者がいるくらいだぞ。レプリフォースが政府から独立したと話してもまともに取り合ってもくれんのだ」
「であれば宇宙軍の武力を以て恫喝すれば良いではないか!?」
「そんな事をすれば宇宙で居場所が無くなるのは我らの方だ。それに月面都市とは今まで良好な関係を築いていたのだ。コロニーに脅しをかければそれすらも崩れ去るぞ」
「むう・・・月や各コロニーの市長には私が後で書簡を送る。何が何でも協力してもらうぞ」
のらりくらりとするキリンタイザーにジェネラルが不快感を露わに唸る。
「ともあれハンターベースに軍を進軍させよ。奴らの本拠地さえ落とせばローシャリオンとて降伏せざる得ないだろう」
そう指示を出すとジェネラルは巨体を動かし司令室より出て行ってしまう。
主が居なくなった事で場の緊張の糸が僅かに緩むのが分かる。
それを肌で感じながらキリンタイザーは僅かに口元を緩め、同じように残されたカーネルに目を向けるが彼の方はわざとらしく視線を逸らす。
お互いの性格もあり、両者の仲は良好とは言えない。
と言うか寧ろ悪い方だろう。
出自が出自だけにジェネラルを相手に不遜な態度を取るキリンタイザーと無骨な軍人であるカーネルの相性が良い訳が無い。
「妹の方は無事にハンターベースで保護されているそうだな」
「・・・」
キリンタイザーの言葉にカーネルは無視するかの様に無言を通す。
その空気に幕僚の一人が冷や汗を掻く。
「ハンターベースにはアイリスと付き合っているゼロが居るのだ。悪い様には扱われていないだろう」
「組織を裏切ったあの小娘の事など思い出したくも無い。まして忌々しいあの男の事など口にしたくもない」
薄笑みを浮かべるキリンタイザーに片目を開けながらカーネルが吐き捨てる。
「そうかそうか・・・ではそんな忌々しい男に対し策を思いついたのだがどうだ?」
「・・・っ!!」
キリンタイザーの言葉にカーネルが目を見開く。
周囲の幕僚達も互いに顔を合わせキリンタイザーの次の言葉を待つ。
「策と言ってもやる事は単純明快。ゼロのプライベート端末にお前からの挑戦状を送り奴をこの場に誘き寄せるのだ。『北米大陸の反対側の相手にどうやって?』と思うだろうがそこは我が宇宙軍が協力してやる・・・そんなこんなでのこのこと出てきた相手を我が軍で出迎えるのだ。面白いとは思わんか?」
「エックスに並び称されるゼロを討ち取れば我が軍の士気は鰻登りですぞ」
「我が軍の精強ぶりを知らしめる絶好の機会となりましょう」
キリンタイザーが示した策に周囲の幕僚達が乗り気となり声を上げる。
「・・・敵を罠に嵌めるなど」
だが当のカーネルは歯切れ悪くその案を退けようとするのだが。
「ふむ・・・相手が一人ならカーネルよ。お前自身が出迎えるのはどうだ?他の者共は介入させぬ決闘と言う形だ」
「しかし・・・それでは」
投げかけられる提案にカーネルが渋るが不意にキリンタイザーが彼の肩を掴み顔を近づけていた。
「ぶつけられるのは刃かも知れんが、奴自身に何かを伝える絶好の機会なのではないか?」
耳元で囁かれる言葉にカーネルは思わず呻く。
暫しの間、思案していたカーネルだったがやがて席より立ちあがると周囲の者達を見渡す。
「誘き寄せると言うのは気に食わんが。ここはキリンタイザーの策に乗るとしよう・・・だがこの作戦はこの場に居る者達だけで事を進める。決して他言するなよ・・・言うまでも無くジェネラル閣下にもだ」
最高司令官にすら秘密にする形でゼロを誘き寄せると言う作戦は静かに始まろうとしていた。
「全く・・・折角の隠居住まいを引き払う事になるとはのう」
ぶつぶつと文句を言いながらハンターベース内に用意された一室で荷物の整理をする一人の老人。
レプリロイドの生みの親にしてイレギュラーハンターの化学顧問であったDr.ケインだ。
現在彼は運営権の無い特別理事となっており、ハンターベース郊外に小さな研究所を構え暮らしていたのだが迫るレプリフォースの脅威にハンター上層部より避難する様に要請を受け渋々研究所を引き払っている。
ケイン博士からしても人質などになってエックスらの迷惑になる訳にはいかないと言う気持ちがあったのは付け加えておこう。
「と言うか誰でもいいからワシの手伝いをして欲しいもんじゃ。言っておくがワシは今でも特別理事じゃぞ」
この部屋までの案内はされたが戦時下と言う事もありすぐにその場を去っていった職員に文句を言いつつ、ケイン博士は不機嫌そうに唸っていたのだが。
すぐさに何かを思い出したかの様な顔となる老人の表情は悪戯を思いついた子供のそれであった。
「ようし・・・こうなったらエックスやゼロ達の所に行って少し邪魔でもしてやるかの。このワシを蔑ろにした事を後悔させてくれるわ」
喉を鳴らしながら年齢を感じさせぬ足取りで老人が真っ先に向かったのは第17精鋭部隊のオフィスであった。
「たるんどるぞエックス!!」
満面の笑みでオフィスに入ったケイン博士に向けられるのは、普段であれば絶対に向けられないであろう殺気交じりのギスギスした空気であった。
「あ、ケイン博士。ハンターベースに避難されていたのですね」
すぐさにチーフオペレーターのミーシャがケイン博士に一礼をし、彼の席を用意すると紅茶と茶菓子を用意する。
「うむ、有難いが・・・どうしたんじゃ?」
只ならぬ空気にケイン博士は困惑気味にミーシャに問う。
「実はですね・・・」
「ハンターの中に内通者が居るって話で噂が持ち切りなんですよ」
言葉に詰まるミーシャに続けてオージンが掌を広げながら説明をする。
レプリフォースに連戦連敗を続けるイレギュラーハンターの内部ではあまりにも敵に裏を掻かれる事もあり、内通者が居るのではと言う噂で持ちきりであった。
もしかしたら目の前の仲間がスパイかも知れないと言う考えが隊員達の中に漂い始めたのだ。
「まあこれは戦争じゃからのう。スパイの一人や二人は出てくるだろうに」
ケイン博士の言葉に場の空気が凍り付く。
内通者が居る事を認める発言にミーシャが思わず頭を抱えたのだが。
「言っておくがそんなモンはうちの第0特殊部隊だって何人も敵方に忍び込ませてる。ワシらの中に居る敵と通じておる連中も程無く暴かれるじゃろう」
あっけらかんと言いながらケイン博士は片目を閉じる。
「それでお主らはこの中に居る者を疑うのか?これまで苦楽を共にして来た者達をじゃ。シグマの反乱やドップラー事変でも戦い抜いて来た仲間が敵と通じておると思うのか?」
周囲を見渡しながらカッと目を見開くケイン博士に誰もが言葉を失う。
その眼光はかつての部隊長シグマに通じる物がある。
生身の人間である彼にここまで言われては周囲の隊員らも、仲間達に疑念を抱いた己らを恥じるしかない。
「要は俺らがレプリフォースに勝てばいいんだよ。それでもって内通者って奴を後悔させてやればいいって事さ」
今まで黙っていたウェザライド=カイルが笑いながら言う。
「まあ元傭兵の俺が言っても説得力なんて全く無いけどな。ってスパイは俺じゃねえからな」
テンガロンハットに顔を隠しながら言うカイルに一瞬だけ白い目が向けられるも、それも彼の冗談で場の笑いに変わる。
実際にシグマの反乱の際に傭兵の身からハンターに転職した彼だが、長年の活躍もあり隊員らの信頼も厚い。
そんな彼を見るに周囲を疑うのが不毛である事を悟らされる。
「ワシが言うのもなんじゃが、次に勝てば良いんじゃよ」
隊員らを鼓舞しつつケイン博士が口を開けて笑い声を上げた時だった。
エックスとアイビスが会議を終えオフィスへと戻って来たのは。
「あ、ケイン博士」
慌てて敬礼をするアイビスにケイン博士が微笑む。
「エックス、それで会議の方は?」
「うん、まあゼロがあんな調子だから揉めちゃって」
オージンに問われエックスは歯切れ悪く口を開く。
会議の席で悉くレプリフォースに手の内を読まれている事に憤慨するゼロは、ハンター内に潜む内通者を見つける為に全部隊の隊員のプライベート端末を始めとする全ての記録情報を調べ上げる事を進言。
組織全体の士気に関わるとしてそれを拒否した総監にゼロが激昂。
のらりくらりとする総監にゼロのフラストレーションは高まったのだがその上である。
寧ろ内通者を探し出すのは第0特殊部隊の仕事であり、それこそ職務怠慢であり責任転嫁だと発言したマグマード=ドラグーンと一触即発の事態となったのだ。
エックスとチャージャー=グラホッパーが羽交い絞めにする形でゼロを止めねば、今頃部隊長同士の私闘が始まっていたであろう。
尤も喧嘩を売った側であるドラグーンは鼻を鳴らすのみで、ゼロにそれ以上取り合おうとはしなかったのが幸いであったのだが。
「大荒れじゃな。しかしゼロがそこまで冷静さを失うとはのう」
ケイン博士が紅茶を口に含みながら腕を組む。
「友人だと思っていたカーネルに裏切られたからか。奴にとってみればお前さんの次くらいには心を許しておったであろうし、アイリスの事もあるからのう」
エックスを見ながらケイン博士はゼロの置かれた立場を察する。
暫しの間、唸っていたケイン博士だったが紅茶を飲み干すと勢いよく立ち上がる。
「ようし!!ではこのワシがゼロの頭を冷やしてくるとしよう」
豪快に笑いながら一室を飛び出していく老人をエックスらは苦笑いを浮かべ見送るのであった。
「ぬう・・・漸く見つけたぞい」
気づけば時刻は昼を過ぎ夕日が向こう側に落ちようとしていた。
肩で息をしながらケイン博士はハンターベースの屋上への階段を昇る。
普通であれば屋上への移動手段にエレベーターが設置されているべきなのだが、どう言う訳かハンターベースにはそれが無い。
こことは別に街を一望できる展望台にはエレベーターが設置されており、そちらは一般隊員も含めた多くの者の憩いの場となっている。
思えば息子であるシグマもそこから街を見ていたとケイン博士は思い出す。
聞けばエックスも時々そこに居るそうなのだが。
「こんな所に来るのは余程の人嫌いじゃな」
年寄りの身には堪える段数の階段を昇りケイン博士は屋上に佇むゼロの背に笑みを向ける。
そして声を掛けようとしてケイン博士は反射的に口を閉じる。
ゼロの隣にもう一人居る事に気づいたからだ。
「あれは・・・」
夕日に照らされて正確な色は分かり難いが、栗色と思しき色の髪を背に垂らす少女は傍らに佇むゼロに何かを話している様であった。
カーネルの妹であるアイリスがハンターベースに保護されている事はケイン博士も知っている。
そしてその彼女がゼロと付き合っている事も。
優しい彼女の事である。
恐らくゼロを宥めているのだろう。
「年寄りの説教は必要ではなさそうじゃな」
ケイン博士は目を閉じるとその場を去ろうとするのだが、来た時同様に眼前に先程の階段があるのを見るや大きく溜息を吐くしかなかった。
「仲間を疑うなんてな・・・俺もどうかしてるな」
先の会議でドラグーンと一触即発となった己を嫌悪するゼロ。
会議の後、屋上で黄昏ていたゼロだったが、そんな彼を追うように屋上にたどり着いたアイリスはその傍らに佇むと彼の愚痴同然の言葉を相槌を打つ事になる。
「ってお前にさっきから愚痴ってばっかりだな。済まねえなアイリス」
「謝るのは私の方よ。それに今回の反乱はジェネラル閣下や兄さんの暴走が原因だもの。スカイラグーンの墜落の際にゼロは兄さんにあれだけ弁護を図ってくれたのに」
頭を下げるゼロにアイリスは慌てて答える。
恐らくエックスにも話せないであろう苦悩を自らには話してくれた事にアイリスは内心で嬉しかった。
「ごめんなさいゼロ。私がもっとしっかりしていれば今回の事も未然に防げたかも知れないのに。そもそもスカイラグーンに兄が行く事も無かったのに」
思うに彼女が何者かに拉致をされスカイラグーンが落下した事による事件が、今回の戦争の火種となった事をゼロはすっかり忘れていた。
連日の戦いによる忙しさもあったが、カーネルへの怒りもありそれらの事を見失っていたのだ。
そしてその事で目の前の少女がずっと苦しんでいた事も。
「済まねえなアイリス。どうやら俺は冷静さを失っていたみたいだ。今度の会議の時にドラグーンに謝らねえとな」
アイリスを抱きしめながらゼロは漸く本来の彼に戻ろうとしていた。
突然の彼の行動に驚きながらも温もりを感じニッコリと微笑むアイリス。
「恥ずかしかったら私も一緒に謝るわ。ゼロって素直じゃないから」
「そっちの方が恥ずかしいっての。俺でも間違いを認めれば謝るさ」
互いに顔を合わせ微笑んだ時であった。
ゼロの持つ端末に着信音が鳴り響いたのは。
当初は部下達からの連絡かと思ったゼロだったが、差出人の名前を見るや表情が強張っていく。
アイリスも端末に表示される名前に思わず言葉を失った。
<ゼロ・・・聞こえているな?私だカーネルだ。貴様を我が軍のメモリアルホールにて待つ・・・このメールに添付した座標点まで来るが良い>
カーネルから叩きつけられた挑戦状を無言のまま見つめていたゼロであったが、ややあって唇を噛み締めると一言だけ呟いた。
「・・・上等だ」
「待ってゼロ!!これは罠よ。エックス隊長や他の皆と相談を・・・」
漸く冷静さを取り戻しつつあったゼロだが、カーネル直々の挑戦状を前に我を失っていた。
彼はアイリスが引き止める間も無くその場より駆け出していく。
恐らくカーネルが示した座標点まで単身で行くつもりなのだろう。
ただ一人、その場に残されたアイリスは祈る様にその大きな瞳を閉じるも次にその目を開けた時にはゼロを追う様にして駆け出していた。
「・・・なに?ゼロが!?」
開戦当初は欧州にある連邦政府本部に留まっていたファントム=フィーネは総監室に駆けこんで来たアイリスの言葉に目を見開く。
彼女の話によればゼロはカーネルからの挑戦状に激昂し、そのまま単身で彼の下へ向かったのだと言う。
「うわ~最悪のタイミングね~」
机の上に両肘をつきながら総監は渋い顔となる。
「ともあれ報告ご苦労だった。しかしゼロめ・・・今回の一件は相当堪えているようだな」
指先で額を押さえながらフィーネは顔面蒼白に近いアイリスに微笑む。
「まあ奴がそういう性格なのは我々としても十分承知している。何でも全てがお前の責任だと思うんじゃないぞ」
心優しい彼女が今回の戦争に対し人一倍責任を感じているのは、その表情からも分かる。
「恐らくその指定された座標点に行っても既に手遅れだろう。ヅィンガロを使い文字通り空を飛んで行ったゼロに追いつくのは無理だろうからな」
ヅィンガロと言う名前のメカニロイドに乗ってハンターベースを飛び去ったゼロ。
仮にこれがアディオンであってもゼロを止めるのは無理だったと言うのがフィーネと総監の感想だ。
「隊長の地位にある者が無断で出撃するなど、しかもどう見ても敵の罠であるのが明白な所に行くなど・・・」
参謀のシグナスが露骨に口を開くが総監らは完全に聞き流す。
「ともあれゼロちゃんを失う訳にはいかないわ。彼を救出する為にすぐさに部隊の編制をする必要があるわね」
総監の言葉にフィーネは静かに頷いていた。
「ようこそ・・・こうして会うのは初めてだな」
指定された座標点でゼロを待っていたのは麒麟を思わせる真紅の鎧を着た人物であった。
宇宙軍総司令ギャラクシー=キリンタイザーは薄笑みを浮かべながらゼロを出向かる。
ゼットセイバーの柄を手に身構えるゼロにキリンタイザーはますます笑みを深くしていた。
「俺は貴様と戦う気は無いのだ。それにここで戦えば知り合いに迷惑がかかるのでな」
キリンタイザーは敷地内にある建物の入り口から不安げに両者を見つめる女性を顎で示す。
この場所は一度も来た事は無いが確かエックスが何度か懇意にしていると聞いた事がある。
ゼロ達を興味ありげに窓から見つめるのは、この孤児院で暮らす人間の子供達だ。
「危ないから奥に居なさい」
孤児院を運営する女性・・・確かアースとか言う名前のロボットが子供達に注意をするのが聞こえる。
「お前も俺もあれを巻き込むほど無粋ではない筈だ」
「ああ・・・そうだったな」
キリンタイザーの言葉にゼロは刃を仕舞うと一応は構えを解く。
だがキリンタイザーが何を考えているのか分からない以上、完全に警戒を解くつもりはない。
「クノーラ・・・道を開け」
「分かりました。キリンタイザー閣下」
キリンタイザーはハイロゥ=クノーラと言う名前の宇宙軍士官に合図を送る。
両肩に浮かぶ輪を連結させ彼女は、巨大なワープホールを形成する。
「ここを潜るが良い。そうすればメモリアルホール内だ。まあ詳しい原理は説明しないでおこう」
転送装置などを用いずにレプリロイド単位で単独で空間を渡るなど、普通であれば不可能と言えるのだが今のゼロにそれらを突っ込む余裕は無かった。
「不安なら先に俺が潜ろうか?」
そう言ってキリンタイザーはクノーラが生み出した空間の割れ目へと入っていってしまう。
時間にして数秒程、空間の割れ目に目を向けていたゼロだが意を決した様に足を前に踏み出す。
「ゼロ・・・話はキリンタイザーから聞いたよ」
不意に背後から声を掛けられゼロは面倒臭げに振り返る。
「なんだ・・・ロッキーかよ。ああ・・・確かエックスが孤児院で暮らしてるとか言っていたような」
普段はハンターベースで清掃員として働くロックはゼロに遠慮がちに微笑む。
以前よりそのロックの顔をどこかで見たような気がするのだが思い出す事が出来ない。
少なくとも今はそれを思い出すよりもカーネルの挑戦状を受ける事が先決であり、ゼロは一瞬だけ浮かんだ雑念を頭の隅に追いやる。
「これは罠だよゼロ。君を待っているカーネルでなくてもレプリフォースに居る他の士官が罠を仕掛けないとも限らない」
ロックの尤もらしい忠告にゼロは思わず苦笑を浮かべていた。
「分かってるよ。だがここで二の足を踏む俺じゃない・・・それにカーネルとは一度会ってみる必要がある」
不敵に笑うゼロは溜息を吐くロックを背に空間の歪みに足を踏み入れる。
思うに一瞬であったかゼロの周囲は文字通りに一変する。
「さて・・・改めてようこそレプリフォース総本部へ」
空間渡った先は装飾が施された一室であった。
キリンタイザーはゼロを歓迎する様に両腕を広げるも、それに対しゼロが何か反応をする事は無い。
「フン・・・まあ良い。カーネルが待っているのはメモリアルホール。ジェネラルがクーデターの演説を行った場所と言えば分かるか?」
ゼロに遅れてその場に姿を現したクノーラを伴いキリンタイザーはゼロの前を進む。
「今回の件はジェネラルや他の将兵らには無断で行っている。そうでなければお前を誘い出して討ち取らんとする馬鹿共が何をするか分からんからな」
「寧ろ俺としてはそっちの方が気が楽だがな」
どこか恩を着せる様に今回の一件の内幕を話し出すキリンタイザー。
ゼロとて罠の可能性は十分に考えていたし、ロックの言葉通りカーネル個人が罠を仕掛けずとも他の面々が黙っていないだろう。
飛んで火にいる夏の虫と言うべきかゼロは単身で敵の本拠地に乗り込んだ間抜けも良い所なのだ。
「奴がクーデターに参加したのはあり得ないと当初は考えていただろう?」
後ろを振り返りながらキリンタイザーがゼロに問うてくる。
「現に奴は出頭しようと考えていたぞ。それこそ事実上の祖父に当たるシュタイナーにスカイラグーン事件時点での各軍の出撃記録を提出したぐらいだからな」
「・・・!!」
まるで己への揺さぶりか彼は尚も口を開き続ける。
「だが奴はクーデターに参加した。俺もその点では驚きであったのだが、この星の者共が考える時々よく分からないのだ」
道中では終始キリンタイザーが一方的に話を続けていた。
ゼロは心の動揺を抑える様に無言を貫く。
「時に聞くがDr.ワイリーと言う人間を知っているか?」
不意に足を止め己に問うてくる相手にゼロは虚を衝かれた様に目を見開く。
「生憎だがその人物との面識は無いが先の孤児院に居たアースが色々と世話になったらしい。俺個人もその辺りで色々と礼を言っておきたいものだ」
何故その名前をこのタイミングで聞いて来たのか分からない。
だが初めて聞く名前にしてはどこか懐かしさを覚えるのも事実。
『ワイリー』なる人物の名前に思考を巡らせるも何か靄が掛かった様に思考を遮られるのを感じる。
その言葉と直接関係があるのかは分からないが、不意に脳裏を過るのはミレニアム社でのお家騒動の際に空間を渡った先にあった光景であった。
「・・・着いたぞ」
ゼロの思考を断ち切る様にキリンタイザーが口を開く。
「メモリアルホールの周囲は我が軍が今は警備をしている。無粋な邪魔は入らぬと保証したいのだが・・・」
メモリアルホールの正面ゲートを前に口を開くキリンタイザーであったが、その表情が僅かに険しくなる。
言葉を切り彼が視線を向けた先に居たのは、半魚人を思わせる巨体を持った一人の将官であった。
ゼロも彼の事を一応であるが知っていただけに思わず身構える。
「下品な輩がどうしてこの場に居るのやら・・・これに関しては謝罪しよう」
ゼロに軽く頭を下げるキリンタイザーを面白くなさそうに見据えながら、現海軍提督タイダル=オアンネルは大きく鼻を鳴らす。
「俺がどこに居ようと勝手じゃねえか。まあ小耳に面白そうな話を挟んだんで来てみただけだ」
品の無い笑い声を響かせるオアンネルにキリンタイザーの顔が不快気に歪む。
「あのゼロとカーネルの若造が一騎打ちをする。なんだったら俺も混ぜて欲しいぐらいだ」
「部外者がでしゃばるのは許さないのだ」
海軍内の武闘派の重鎮である彼の言葉にキリンタイザーが僅かに殺気を滲ませる。
そんな彼を前にオアンネルはわざとらしく両手を上げ敵意が無い事を示すと、メモリアルホールへと入っていく。
人物的にどう足掻いて好感は得られないオアンネルだが、彼の実力はカーネルらに匹敵しており今のレプリフォースには必要な存在だ。
敵対者であるゼロもゼロでカーネルとの対決を前に無用な消耗は可能な限り避けたい。
それが故にゼロも不快気な顔をするのみでオアンネルを見送る他無い。
「お前とカーネル。共に語り合う手段は言葉だけではあるまい。刃なり拳なりで語り合う方法もある筈だろう」
キリンタイザーの言葉にゼロは無言で頷きゲートを潜る。
周囲が暗闇に包まれたメモリアルホールは、人が殆ど居ない事もありがらんとしており一層の不気味さを感じる。
かつてジェネラルが演説をした舞台の中央に無言で佇むのは漆黒の軍服を着た将官。
「・・・カーネルッ!!」
その人物の名前を叫びながらゼロは一足飛びで舞台の上に降り立つ。
「・・・ゼロか」
暫しの無言の後、漸く口を開いたカーネルにゼロは射殺す様な視線を向けていた。
「クーデターを今すぐ中止しろカーネル」
「・・・断る。寧ろ我が軍への妨害を止めて欲しいのはこちらの方だ」
ゼロの説得をあっさりと拒否するカーネル。
「連邦政府は我々軍人から魂である武器を取り上げそればかりかレプリフォースの掌握に打って出た。今回のクーデターはそれら正統な権利を主張する為であり、ましてジェネラル将軍が言った通り人類への敵対ではない。連邦政府さえ我々の主張を認めれば我々も各地から手を引くつもりだ」
荒唐無稽な主張をさも当然とばかりに口にするカーネルにゼロは軽い眩暈さえ覚えていた。
スカイラグーン事件も含めレプリフォースのカーネルの主張を正当とするには、どだい無理な話だとしか言いようがない。
「お前・・・本当にそう思っているのか?」
思わず問い返すゼロにカーネルははっきりと頷く。
「全てはレプリフォースが為に全てはジェネラル閣下を始めとする将兵の為に・・・このカーネルは己を捨て革命に身を投じているのだ」
ザンッッ!!
組織は違えどエックス達と同じく友と見る男からそんな言葉など聞きたくは無かった。
恋仲である少女の兄であり、人間の関係とは違うが義兄とも言える男が発した言葉はそこらのイレギュラーが主張する事よりも狂っていると断じる他無い。
己が瞬時に振るった刃を半歩下がって回避したカーネルは、口の端を歪めつつ刃を抜く。
「カーネル・・・イレギュラーであるお前を処分する」
「やれるものならやってみろ。貴様にレプリフォース軍人の信念と誇りを見せてやろう」
互いに啖呵を切った両者は次の瞬間、それぞれの刃に信念を乗せぶつけ合うのであった。
一方、レプリフォース総本部にある地下施設の最深部では。
ヴウウゥゥゥゥゥンンッッ!!
普段は開かずの間となっておりそもそも誰の侵入も許さぬ障壁の向こう側にある巨大な転送装置が静かに動き始めていた。
「敵は・・・いないな。ここはもう敵の本拠だ。油断はするなよ」
転送装置が光を放ち、次々と人影が出てくる中、その先頭を行くフィーネが辺りを伺いながら警戒を促す。
一部の者でしか知りえない事実であるが、レプリフォース総本部とハンターベースはアンダーアルカディアなる地下深くに建造された施設を経由する形で繋がっている。
かつて大破壊から逃れる為に旧連邦政府が建造した物で現在ではその殆どが廃棄され使う事は不可能となっているのだが、一部の区画と各施設を繋ぐ転送装置はまだ生きている。
「ハンターベースとレプリフォースの総本部が繋がっていたなんて・・・」
驚く様に周囲を見渡すエックス。
今でこそ転送装置の移動も普通になってはいるが、己の足元にまさかこの様な物があるとは想像も出来なかったのだろう。
ハンターベースの場合は第0特殊部隊のオフィスからさらに奥、現在はフィーネの執務室になっている場所へと向かった一行は、アンダーアルカディアを経由してレプリフォース総本部へと辿り着いていた。
「だったらさこれを使って最初から敵に殴り込むのもありだったんじゃね?」
「特A級ハンターの皆を集めて一点突破デシ~!!」
オージンとダブルがある意味で尤もな言葉を口にするが、フィーネがゆっくりと首を振る。
「一度に送り込める人員に限界がある。それに意気揚々と乗り込んで敵がここで待ち構えていたらどうする?寧ろ逆にだ・・・我々の方にだって乗り込まれる可能性があるのだぞ」
安易に使える物ではない事を指摘するフィーネの言葉に二人の顔が青ざめる。
「ジェネラル達がこれにアクセスする権限が無くて良かったな。私がハンターベースに帰還したのはこれを使って乗り込まれない様に転送装置をロックする為でもあったのだ」
「権限・・・ですか?」
フィーネの言葉にエックスが首を傾げる。
「ああ・・・この装置にアクセスをする権限を持つのは。大破壊の後に臨時政府を立ち上げた時の首脳陣とその血縁の者だ。まあ言ってしまえば人間の殆どは鬼籍に入っているし、レプリロイドで言えば私の様な前世紀から生きている者だけと限られている。因みにだがジェネラルがそうであるようにローシャリオンにも権限は無い」
イレギュラーハンターのトップである総監すらアクセス出来ないと言う事実にオージンが苦笑いを浮かべる。
「あの~。一つ聞きたいんですが・・・」
オージンが恐る恐るフィーネに問う。
鋭い視線を向けられ一瞬、身を震わせる彼だが好奇心を抑える事は出来ない。
「今のジェネラルがそうである様にレプリフォースにもそう言った権限を持つ奴が居たって事ですよね。そいつって・・・」
「安心しろ・・・彼はもうこの世には居ないからな」
苦笑を浮かべながらどこか懐かしむ様に目を細めるフィーネ。
その表情から答えは半ば察する事が出来る。
「オクターヴ大元帥・・・前世紀においてロボットアーミーの司令官でありレプリフォースの創設者であった者だ。私が知る限りではこれにアクセス出来るのは彼だけだ」
クルリと背を向け先を行こうとするフィーネに何か言おうとするオージンだが、彼の膝にアイギスが放ったローキックが決まり黙らされる。
「イテ~!!」
「無駄話をしている時間は無いからね」
悶絶するオージンを残しつつ、アイギスがフィーネに続く。
後ろから響くオージンの声などどこ吹く風だ。
エックスも苦笑いを浮かべながら先を行ってしまう。
「先輩大丈夫デシか~?」
「おう・・・何時もの事だぜ」
心配そうに覗き込むダブルだったが、振り返りざまにアイビスに睨まれ慌てて先を急ぐ。
非常に厚い障壁に備えられた端末をフィーネが操作し、鈍い音と共に扉が真横に開かれていく。
「ここは敵の総本部だ。皆、当たり前だけど慎重に行こう」
エックスの言葉に一番後ろを行くアイリスが申し訳なさそうに俯く。
「私が先行するからその後をエックスとアイビスにラビットラーが続いてくれ。アイリスの護衛はデネブが担当する」
フィーネの言葉にアイリスの隣に立つ少女が頷く。
第3警備部隊副隊長であるプロテック=デネブは自ら志願する形で同行して来ている。
戦闘能力の無いアイリスを護衛する為の人選であり、元より総監警護を任務の主にする彼女には適任と言えよう。
先にも名前が挙げられた通り、第14白兵部隊副隊長のクイック=ラビットラーも参加している。
本来であれば部隊長のドラグーンが行くべきなのだが、前線で味方が押され気味な状況ではこれ以上戦力を割く訳には行かずドラグーンはハンターベースで帰りを待つ事となる。
彼に加え第0特殊部隊からスカウト=エリンガルと何故か勝手に同行を申し出た参謀のシグナスの計十名が、この危険な任務に同行した面々である。
「この転送装置が運べる定員は十二名までだ。余裕を持たせて同行するのは十名までとしたが、今の瞬間にも敵に気づかれる危険性が・・・」
一向に注意を促そうとしたフィーネの声を遮る様に僅かな振動音が辺りに響く。
次いで強大なエネルギー反応が二つエネルギー感知器に記録される。
メモリアルホール内と思われる座標で現れる反応の詳細をいちいち確認するまでも無かった。
「ゼロとカーネルだ。間に合わなかったか・・・」
「・・・急ぐぞ!!」
呻くエックスにフィーネが声を掛け、突入班はメモリアルホールを目指して駆けていく。
彼らを見送ったアイビスら待機班は退路の確保をする為にその場で即席の陣地を築き始める。
「果たして無事に帰ってこれるのやら・・・」
不気味な笑みを浮かべるエリンガルにアイビスがジト目で見据える。
「どちらにせよフィーネ理事しかこれは動かせませんからね。我々は彼女らが帰って来るのを待つしか無い訳で」
殺気さえ感じられる少女に掌を広げながらエリンガルは思わず後ずさる。
彼の正体がカウンターハンターであったアジールである事を知っているだけにアイビスの態度は非常に冷たい。
「ねえ・・・内通者ってアンタじゃないわよね?」
元より彼を信頼していない事もあり、一応の仲間に失礼極まりないと言える言葉まで出てしまう。
その当然と言えんばかりの問いにエリンガルは笑みを深くする。
まるで小馬鹿にするかの様に肩を竦める彼はゆっくりと口を開く。
「あるいは・・・そうかも知れませんよ?私がレプリフォースに情報を流しているのかも・・・」
「き・・・貴様!!」
エリンガルの言葉にシグナスが声を荒げるがアイビスはハァと溜息を吐く。
シグナスはともかく大した反応を示さない彼女にエリンガルはわざとらしく頭を下げていた。
「冗談ですよ。冗談・・・そもそも私がレプリフォースに情報を売り渡すメリットがありませんからね。そんな事をすれば体内にある爆弾が爆発しますし、そもそも今の職場は私にとって心地よい場所ですからねえ」
司法取引に応じたとは言えそれ相応の処置が施されている事を暴露するエリンガル。
「何せ合法的に他人を斬れますからね。私の十八番は他人を斬る事・・・ハンターに鞍替えしても斬る対象が変わっただけですよ」
「・・・最低」
孕んだ狂気を滲ませながら笑みを浮かべるエリンガルにアイビスは嫌悪感を隠せずに言い放つ。
「はは・・・そもそもがイレギュラーですからね」
エリンガルもそれ以上は和を乱すつもりは無いのだろう。
笑みを浮かべつつ、彼は一室の隅に移動し自分の作業をし始める。
「それはそうとシグナスさん。はいデシ」
己が運んでいたキャリーケースをシグナスの前に突き出すダブル。
「ん・・・確かダブルだったな。これは・・・」
「シグナスさんも手伝って欲しいデシ。オージン先輩は土嚢とビームバリアー発生装置を組み立ててるデシ。オイラだけじゃ大変デシ」
ニコニコと笑みを浮かべながら仕事を手伝えと言うダブルにシグナスは露骨に嫌なそうな顔をする。
そもそも普段の職務において現場に立つ事が無い参謀職のシグナスである。
この手の雑用など目下の者がする事と言う一種のエリート意識さえある。
「私には周囲の状況を監視すると言う大事な仕事が・・・」
「ああ。それなら私がしていますよ~」
やんわりと断ろうとするシグナスだったが、エリンガルが組み立てた偵察用メカニロイドを稼働させ外へと飛ばし始めた所であった。
「この場に居る一番の戦力であるアイビス副隊長は温存するべきデシ。先輩とオイラとシグナスさんしか作業をする人員が残っていないデシ」
屈託の無い笑みと共にキャリーケースがシグナスに迫る。
「さあ・・・手伝うデシ」
C級ハンターらしからぬ有無を言わせぬ圧にシグナスは力なく項垂れるのであった。