RockmanX4 War of Repliforce 作:グルルre
「ノックはしろよ。侵入者だろうがそれが礼儀だろう?」
私室の前に立つなり向こうから声を掛けられアジールは僅かに口の端を曲げる。
レプリフォースの兵器開発室がある建造物から渡り廊下を抜けた先にある一室。
当然ながら一室には表札は掲げられていない。
この辺はセキュリティを考えれば基本中の基本と言えよう。
レプリフォースにとって部外者には決して見せられぬ機密が集中する兵器開発室の更に奥あり、先程アジールが通って来た渡り廊下を通らねば絶対に辿り着けない場所に史上最強の軍隊の科学顧問の部屋はあった。
更に言えばこの建屋の周囲には核兵器すらも耐えられると言う高出力のビームシールドが何時でも稼働出来る状態となっており、それだけこの場に居る人物の重要性が分かると言えよう。
シュンッッ。
あちらから扉のロックを解除したのか電子ドアが勝手に開く。
アジールからすれば強引に扉をこじ開ける必要が無くなり非常に有り難い。
「どうやってここに来たんだとベタな問いかけはしないでおくぞ。どうせカメレリオンの差し金だろ?」
老齢の男性が薄手のシャツにステテコと言う非常にラフな格好で手にした端末を机に置くのが見える。
アジールからすればそれで外部に助けを呼ばれるのは拙いのだが、生憎あちらはそんなつもりは無いらしい。
「そこまで分かってるんなら話は早ぇ。ジョセフ=カルヴァン・・・レプリフォースの科学顧問にして」
「Dr.ケインの新世代ロボット開発プロジェクトのアドバイザー兼サブチーフ。まあ別に肩書なんぞに興味があるワシではないわ。でワシを殺しに来たのか?それとも脅しか。どっちにしろちょっと待て。これから少し忙しいんだ」
自身の言葉を遮りジョセフは眼鏡の向こうでその目をギョロリとさせ、アジールの前を横切り一室の資料入れから何枚かの書類を取り出す。
その気になればアジールが一刀のもとに切り伏せる事だって出来るのにジョセフの方はそれを気にした様子は一切無い。
「しかし何だってカメレリオンはワシを邪魔に思った?ワシは別に奴の活動の邪魔をした覚えは無いし、今の今まで政治的に敵対した事も無い。そう言う意味では寧ろグランドリオンの方とやりあっていたくらいだ」
目を丸く見開き無数にあるモニターをゆっくりと見るその姿は梟のそれを連想させる。
そう言えば彼が開発設計したフクロウルとか言うレプリロイドが空軍に配属されたのだが、どう言う訳か彼はその姿を自身に寄せて設計していた。
「所詮雇われのチンピラには理由なんぞ説明せんか・・・使われる立場は辛いなぁ」
「・・・あぁ?爺さん調子こいてると痛い目遭うぞ」
大きく鼻を鳴らし『ホー』と嘲りの声を上げるジョセフにアジールが舌打ちをしながら腰の刃に手で触れる。
銃で言えば引き金に指を置いた状態であり、次の瞬間にはこの口の悪い偏屈な老科学者の体は真っ二つになろう。
「ホーホーホー!!殺しに来た癖に痛い目とは片腹痛い。つまりは殺しに来た訳じゃあ無いのか?と言う事はワシ個人に用は無い・・・つまり~だ」
アジールを嘲るだけ嘲ったジョセフだったがそう言った切り急に黙り込んでしまう。
と言うかアジールの事など最初から居なかったかの様に背を向けてしまう。
(チィ・・・科学者って言う変人共はどうも苦手だ)
内心で何度目かの舌打ちをしながらアジールは周囲に意識を向ける。
・・・ザッ!!
一瞬だけ足を踏み入れたアジールの腕がぶれる。
手にしたビームセーバーを一閃させる中、ジョセフの方は気にもせずにキーボードを叩いていた。
ついで言えばアジールに背を向けており彼が何をしたのか確認すらしていない。
もしも自身に向けて振るわれていればその瞬間にも命を失っていたにも関わらずにだ。
「壁の配線は切るなよ」
ジョセフがピントのずれた台詞を口にするのはさておきである。
ズルズルズルズルッッ!!
一室の隅にある金属製のロッカーに亀裂が走り上半分が甲高い金属音と共にずり落ちる。
「ゲソゲソッッ~!!」
残された半分だけのロッカーから隠れていた少女の悲鳴が聞こえる。
「ランドグリーズ=ノルン博士だな?・・・統合幕僚長がお呼びだぜ」
殺気を滲ませながらバイザー越しに眼光を向けるアジールにランドグリーズと呼ばれたレプリロイドは完全に腰を抜かしていた。
自分の接近に気づいたのかは知らないが、人間であり上司でもあるジョセフをそのままに自分だけ隠れようとした彼女にアジールは内心で蔑む。
「ジョセフ博士~助けてゲソ~!!」
「知らん知らん。ワシはその手の政治的な話には一切興味が無いしあの件に乗ったのはお前の独断だ。自分の尻くらいは自分で拭けホー」
ランドグリーズがジョセフに助けを求めるも、彼の方は取り合う気も無いのかキーボードを勢いよく叩いた物だった。
腰を抜かした彼女にアジールはロッカーの残骸から引っ張り出す様にして立たせる。
「あんまり手間かけさせると達磨にするぞ」
尚も逃げ腰の彼女だったが目の前の刺客にそう言い放たれ観念した様に項垂れる。
「よし・・・これで完璧だな」
一仕事終えたのか端末から一枚のデータディスクを取り出すとジョセフはどこへ行こうと言うのか白衣を着始める。
この時点でアジールもこの老人が己の邪魔をするつもりは無いと判断し、彼の行動には無視を決め込む。
「ホーホー!!」
「博士~薄情でゲソ~」
涙ぐむ部下の事など知らぬとばかりにジョセフはアジール達の先を歩き出す。
(まあ下手な動きを見せたら二人とも斬り捨てれば良いか・・・)
と内心アジールが思った時だった。
「ホー、ワシは忙しいんだぞ」
前を進むジョセフに巨大な影が立ち塞がる。
統合幕僚長のカメレリオンはジョセフと次いで歩いてくるアジールとランドグリーズの姿を確認し僅かに目を細める。
「科学顧問が多忙なのは重々承知しております。ですがランドグリーズ博士共々、暫くお付き合いお願いしたいのですが・・・」
「ホ~?ワシまで付き合うと言う事は・・・例の『アレ』か?しかし再起動は無理な筈だろ」
カメレリオンの言葉にジョセフは目を大きくする。
僅かな間、鋭い視線を向けあう両者だったがジョセフの方が小さく息を吐くとカメレリオンに『案内しろ』と顎で促す。
「ヒィ~でゲソ~」
誰も言葉を発しないまま歩く中で唯一、ランドグリーズだけが情けない声を上げていた。
そんな時であった。
ドゴオオオオォォォォォンッッ!!
地響きと共に爆音が耳に入ったのは。
「・・・オイオイ」
眉間に皺を寄せながらアジールが呆れた様な声を上げる。
今この時点で行動を起こす事は流石にアジールも聞いていない。
ピクリピクリと片方の髭を動かすカメレリオンはそんな彼の反応を楽しんでいる様に見えた。
「フェザリオンが軍内の中立派を引き連れ連邦政府が立ち上げる新しい治安維持組織に参加するとなれば、軍内には多数派の改革派と少数派となる我ら旧来派だけが残る事となる。このまま時間を置けば飲み込まれ淘汰されるのは我らだ」
僅かに口の端を歪めカメレリオンはアジールに淡々と言う。
「故に今この瞬間に動く事とした。最初からヴォイド卿が来た時点でその予定でな・・・既にソルトコールにも合図をしている」
「『合図』にしちゃあ少々派手過ぎませんかね。囮のつもりかも知れやせんがあいつはやり過ぎますぜ」
「お前同様にヴォイド卿お抱えの者の実力を確かめる良い機会だからな」
続けざまに起こる爆音に遅れる様にレプリフォース総司令部内で敵襲を告げるサイレンが鳴り響く。
アジールはランドグリーズを先に歩かせながら小さく舌打ちをしていた。
史上最強の軍隊を謳うレプリフォース総司令部内に突如として現れたのは筋骨隆々の巨人。
無骨な装甲に身を包んだ巨人は装甲の隙間より垣間見える眼光を怪しく輝かせ、手にした巨大なハンマーを地面に叩きつける。
その一撃にアスファルトの地面はあっさりと砕け散り、そればかりか直線状に在った建物さえ軽々と崩壊させていく。
「・・・・・・」
破壊活動を行う敵を前にノットベレー達を始めとする兵士らが何やら叫ぶのが見えるが、まだ混乱の極みにあってかレプリフォース側は表立った反撃をしてはこない。
自らの襲来に浮足立つレプリフォースの姿に刺客たる『バイオレン』は呆れた様に息を吐く。
「情けない・・・史上最強の軍隊の名が泣くな」
くぐもった笑い声を響かせバイオレンが握り締めたハンマーを集まり出した一団に向けて放り投げる。
単純な投擲ではあるが下手なミサイルよりも威力があると言える一撃にノットベレー達は残骸へと成り果てる。
投擲したハンマーにバイオレンが手招きする様に掌を動かすや、巨大な鉄塊は糸でも引いているかのように手元に戻って来る。
「ヴォイド卿より命じられたはあくまでも陽動。やり過ぎぬ様に注意せねばな・・・」
バイオレンからすれば非常に退屈な命令ではあるが、そもそもこうやって派手に活動する機会は滅多に無い。
「聞けい!!レプリフォースの雑兵共!!我が名はバイオレン。偉大なる英雄ヴォイド卿直属の兵衆が一人。このバイオレンに挑む命知らずはどこにもおらぬか?」
大音響の声を響かせ周囲を見渡すバイオレンだが彼に挑もうとする者は居ない。
まばらに銃弾が飛んで来るがそれらはバイオレンの装甲に弾かれ地面に落ちるだけだ。
「下らん・・・弱者は死ねい!!」
大きく目を見開きバイオレンが手にしたハンマーを目についた装甲車とそれに集まる一団目掛け放り投げるのだが。
ガキィィィィィィッッ!!
一団と己の間に割って入った人物の得物が投擲したハンマーを受け止める。
無数の火花を散らしながらもその一撃を弾かれバイオレンは驚いた様に目を見開く。
まさか己の一撃を真っ向から受け止められる者が居るとは思わなかったからだ。
そして驚愕はすぐに歓喜へと変わる。
「てめえぇ・・・何好き勝手やってくれてんだ?」
「ここで暴れるのに貴様の許可が居るのか?であれば今すぐに申請しよう」
陸軍元帥アトーラスを前にバイオレンは戻って来たハンマーを握り締める。
「各員は傷ついた者の避難誘導を。相手はアトーラス閣下と同等のレベルと見た。他の者達は手を出すな、加勢しても我らは閣下の足手纏いにしかならん」
陸軍参謀のトキシック=コモドールが逸早く指示を出し周辺に集まり出していた兵士らを下がらせる。
「ほう・・・賢明だな。雑魚共が幾ら集まってもこのバイオレンを倒すのは無理だ」
「うるせえよ。て言うかカメレリオンの野郎の差し金だな?」
コモドールの指示に迅速に従う兵士らを見て感心した様に声を上げるバイオレンに対し、アトーラスはこの騒ぎを起こした者で目星がついている人物の名前を上げる。
「貴様がそう思うのであればそう言う事だ」
アトーラスの問いにそう答えつつ、バイオレンはハンマーを手に身構える。
対してアトーラスの方も己の得物である戦槌を素振りの様に大きく振るうのであった。
(ちょっとちょっと。何が起こってんのよ!?)
思わずそんな声を上げたくなるが物影に身を隠したカーグラはその衝動を必死に堪える。
現在レプリフォースの兵器開発室は軍内の派閥争いに科学顧問であるジョセフの意向もあって無関心だ。
それ故にお互いに手を出さない場所とはなっているが、策謀に長けたカメレリオンが何もしない事は無いとカーグラとフクロウルは以前より懸念していた。
その為、彼女は身を潜め兵器開発室周辺に目を光らせていた過程で此度の一件に遭遇してしまう。
「・・・・・・」
不意にアジールが足を止めたのが見えた。
「・・・チッ」
彼が舌打ちをした瞬間にカーグラは後方に飛び跳ねる。
と同時に振り返ったアジールが予備動作も無しに居合の要領で手にした刃を振るっていた。
アジールの居合は空を切るが僅かな間と共にカーグラが被っていた軍帽が切り裂かれ床へとずり落ちる。
もしも咄嗟の判断で後ろに飛ばねば今頃、切り捨てられていただろう。
「なんか居ると思ったら、もしかしなくてもシャドーフォースの連中か?」
「シャ・・・シャドーフォースってあの都市伝説の・・・!?」
アジールの言葉に身に纏っていた光学迷彩を解きながらカーグラが冷や汗交じりに首を傾げる。
レプリフォースには陸海空と宇宙のそれぞれ四つの軍が存在するが、それらとは別に五つ目の軍隊としてシャドーフォースなる特務機関が存在すると言う噂がある。
曰くレプリフォース内に潜む影の軍隊であり、レプリフォースの指導者に仕える者達だと言うのだがその存在は一切公になっていない。
以前に興味が沸いたカーグラも何度か調べた事もあったが、結局はそれが存在すると言う事実は掴む事は出来ず都市伝説の類に過ぎないと考えていた。
だが目の前の明らかに裏社会の住人と言える男がその名前を口にした事で、シャドーフォースが実在する事をカーグラは察してしまう。
「ほう・・・貴様は」
振り返ったカメレリオンが声を上げる。
カーグラとアジールが互いに身構えた時だった。
「アジールよ。武器を収めろ。こやつは我が派閥の者だ」
カメレリオンの言葉にアジールが怪訝顔で振り返る。
カーグラの方も驚いた顔をしそうになるが何とかそれを抑える。
彼女が空軍内の中立派から旧来派に鞍替えしたのはほんの数日前。
尤もそれは軍内の争いを止める為であり、内心では現在も中立派だ。
と言うか今頃になって急に鞍替えした自身の事などカメレリオンが覚えているなど思いもしなかった。
「え・・・と。カメレリオン幕僚長が科学顧問達を引き連れて怪しい奴と一緒に行動しているので・・・つい気になって」
冷や汗を掻きながらアジールと次いでジョセフやランドグリーズに目を向けながら事情を説明する。
「今から行動を起こそうと思ってな。良いだろう・・・お前もついて来い」
ピクリと髭を動かしたカメレリオンをそう言うや再び自身らに背を向け先を進む。
アジールの方は舌打ちをしながら自身を見据えるも同じ様に背を向けるが抜身の様な殺気はそのままだ。
「カーグラ。た・・・助けてゲソ~」
今にも泣きそうな声でランドグリーズがカーグラに助けを求めるがこの状況でそんな事をすれば即座に殺されてしまうだろう。
目の前のアジールなる人物に注意を向けながらカーグラは一同と行動を共にする。
「こ・・・ここって?」
レプリフォース総司令部内にあるメモリアルホール。
功績のあった者の昇格や任命式、軍の集会などが行われるカーグラにも馴染みの場所ではあるが科学顧問らを連れ立ってこの様な場所に来たのだから驚くのも無理は無い。
彼女としては彼らを何処かに拉致するものと思っていたからだ。
「かつてオクターヴ大元帥が旧連邦政府からの独立を宣言し今の我が軍が産声を上げた記念すべき場所・・・だがここはそれだけの場所ではない」
メモリアルホールの檀上にカーグラ達を立たせるとカメレリオンが端末を操作する。
ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!
突如として檀上が揺れ動きメモリアルホールの椅子や壇上が動き始める。
目の前で起こる光景に目を見開くばかりなのだがそんなカーグラなどお構いなしに彼女らを乗せた壇上であった部分は降下を始めていた。
「メモリアールの・・・総司令部の地下には我が軍の禁忌と言うべき物が眠っていてな」
「・・・例の失敗作は起動させねえからな」
カーグラに説明する様に話すカメレリオン。
茶々を入れる様にジョセフが口を開くが彼は僅かに口の端を歪めるのみ。
「あんな物を起動させては破滅するのは我らなのは百も承知。科学顧問はご安心ください」
「ホーホー。なら構わねえよ」
(・・・・・・?)
両者の含みのある言葉についていけずカーグラは首を傾げるも自身が何かとんでもない事に巻き込まれているのだけは理解できた。
(頃合いを見て二人を連れて逃げ出さなきゃ・・・)
正直な所、自分だけでも逃げ出したいがジョセフや友人であるランドグリーズを見捨てる訳には行かない。
地下へと向かうエレベーターに乗せられる事、時間にして数分だがカーグラにはその倍以上に感じられた。
やがて辿り着いたのはこれまたメモリアルホールと同じくらいの広大な空洞だ。
当然の事ながら椅子などの調度品も無い殺風景な場所であったが。
「・・・嫌な空気ですな」
舌打ちをしながらアジールがカーグラとそう変わらない事を口にする。
裏社会に属する彼でも不快感を示すこの場所には確かに何か不気味な物の気配を感じ取れる。
この場所には長居はしたくないそう思わせるだけの何かがそこにはあった。
「元はかつて大破壊があった際に建造されたシェルターであった。今もその機能は失われてはいないが・・・」
通路の途上には幾つもの小部屋が蟻の巣の様に張り巡らされておりカメレリオンの言葉通り万が一のシェルターとしても機能するのであろう。
ゴオオオオオォォォォォォォ!!
長い通路を歩きながらカメレリオンが駆動音を響かせる一室に目を向ける。
総本部の地下に広がる気配の正体とも言うべき存在は巨大な扉の向こう側に居た。
「・・・失敗作め」
吐き捨てる様に言い放ったその言葉には嫌悪感がありありと浮かぶ。
一瞬好奇心が沸いたが『これは何』などとはとてもではないが聞ける雰囲気ではなかった。
決して触れてはいけないその存在にカーグラはただ圧倒されるばかりだ。
「我らの目的はそちらではない」
思わず足を止めた彼女にカメレリオンが急かす様に言う。
慌てて彼女が向かった先にあったのはこれまた殺風景な空洞。
先程の入り口と違い大型の端末が備え付けられていたが、それ以外は何もない。
しいて言うなれば一部の床の模様が通路も含めたそれと違っていたと言う所だろう。
「科学顧問、お願いします」
「ホーホー。端末の起動はしてやれるが・・・扉を開く事は出来ねえぞ」
カメレリオンに促され端末を高速で操作するジョセフ。
「お~い。お前も手を貸せランドグリーズ」
「嫌だゲソッ。こんな危ない事、したくない・・・!!」
ジョセフに促されたランドグリーズが涙ながらに抗議の声を上げるがそれは最後まで言う事は出来なかった。
端末を指差す様に出した腕がすっぽ抜ける様に地面に落ちる。
辺りにオイルが撒き散らされる中、ランドグリーズは声も無く地面に蹲る。
「手間かけさせるんじゃねえよ」
刃を振るったアジールがランドグリーズの背中を蹴る。
その光景に僅かに目を細めるカメレリオンは呆然としていたカーグラに顎で地面に落ちた彼女の腕を示す。
「こ奴の腕を端末の画面に持っていけ。端末の起動には二人分のIDが必要でな」
「あ・・・りょ了解しました」
その場で敬礼をしつつカーグラが地面に落ちたランドグリーズの腕を拾い上げ端末まで持って行く。
掌の形を模したコンソール画面には既にジョセフが掌を置いており、続けてランドグリーズのそれを画面に押し付ける。
端末のモニターに『承認』と言う文字が表示され何やら無数の文字が流れていく。
ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!
模様に沿って一部の床が持ち上がりそれは巨大な円を描く。
「さて・・・ここまでは予定通り」
「門の再起動には現状におけるレプリフォースの最高責任者・・・お前とグランドリオン二人の承認が必要な筈だ。扉が開かないんだったら向こう側に消えた大元帥を呼び戻す事は不可能だホー」
カメレリオンに首を傾げながら問うジョセフ。
「え・・・門の扉って。大元帥が向こう側に居るってどういう・・・?」
まるで当たり前の様に話されているがカーグラにとってその話はあまりに突拍子のつかない物であった。
「そうだったな・・・お前達が知らないのも無理は無い。この事を知っているのはここに居る科学顧問とその助手の小娘。そして私とグランドリオンに加え三軍の長しか知らぬ。所謂最高機密と言う奴だ」
カメレリオンは驚愕するばかりのカーグラに意地の悪い笑みを浮かべる。
策謀に長けた彼にとって他人の慌てふためく顔は心地よいのだろう。
「科学顧問の言われる通り私一人の認証コードでは門を開ける事は出来ない。・・・だが」
不意に言葉を切ったカメレリオンが振り返る。
そこには何時の間にか二つの人影があった。
<私なら・・・もしかしたら出来るかも知れない。これの大元のデザインをしたのは我が偉大なるオリジナルだ。まあレプリフォース独自の改良もされているから簡単にはいかないだろうけどね>
黒衣を纏った一人の少年と少女。
そして少女の方が持つ端末から朗々とした青年の声が響き渡る。
<・・・と言う訳で早速取り掛かりたいのだけれども>
青年が端末の向こうで視線を動かした様にカーグラには感じられた。
無数の足音と共にエネルギー反応が近づいてくる。
自身らの動きに気づいた誰かが駆け付けようとしているのだ。
「身の程知らずですな・・・師匠」
「・・・ああ」
アジールに師と呼ばれた少年はビームセーバーを手に佇む。
その瞳には何の光も宿っておらず虚空を見据えていた。
「科学顧問の爺さんはさておきランドグリーズが兵器開発室に居ない?」
空軍本部の司令室で部下からの報告にフレーヴェルスが目を見開き次に舌打ちをする。
「総司令部では並の兵士では歯が立たぬ輩が暴れているそうでアトーラス閣下がこれに対応しています」
この事はフレーヴェルスも既に知っているが、襲撃者の対応にアトーラスが当たっていると聞き彼は敢えてすぐに動く事はしなかった。
「海軍は・・・?」
「・・・は?」
「海軍の方はどうなっているかと聞いている」
「あ、いえレーダーでは特に異常は」
「直接見て来い。それと偵察用のメカニロイドも複数飛ばせ!!待機させている艦船もな」
「りょ・・・了解です!!」
矢継ぎ早に部下達に指示を出しながらフレーヴェルスが手元にあるパイプに火をつけた時だった。
「大変です。我が軍の哨戒機や飛行戦艦の一部でエンジントラブルが発生して動けないと報告が!!」
「やられたか・・・」
オペレーターが報告をしてくると同時に目の前のモニターにトラブルを起こした艦船の情報が表示される。
現在この司令部に隣接する空港に置かれている艦船の約半数に生じたトラブル、フレーヴェルスはこれを事故ではなく人為的な物と即座に判断する。
「我が軍の旧来派の一部が飛行戦艦を強奪し行方を晦ませている模様。こちらの応答に応じません」
「何隻かの飛行戦艦が勝手に空港から飛び立っています」
急に慌ただしくなってくる司令室の中でフレーヴェルスがパイプから大きく煙を吹かすとゆっくりとした動作で席より立ち上がる。
「我が軍の旧来派は誰が仕切っていたっけな?」
「それはカーグラ少佐であります。最近まではフクロウル中佐と共に中立派ではありましたが」
「あの女か・・・やりやがったな」
パイプに溜まった灰を灰皿に捨てつつ、フレーヴェルスがどうすべきか思案した時だった。
「フレーヴェルス長官!!これは一体!?」
息を急き切って司令室に入って来るのはフクロウルだ。
「カーグラの奴にやられた・・・と言うかカメレリオンの野郎。まさかのタイミングで動いたみたいだ。恐らくソルトコールも動いているだろうさ」
「な・・・なんと」
絶句するフクロウルにフレーヴェルスは一瞬だが鋭い視線を向ける。
彼の反応を見るに少なくともこの男は今起こっている件には無関係だろうと判断する。
「まあ・・・いずれにせよだ」
溜息を吐くフレーヴェルスは軽く手を上げ周囲に居た自らの親衛隊の面々に合図を送る。
・・・ザッッ!!
合図と共に一斉に動きフクロウルに銃を突きつける親衛隊の面々。
「悪いがお前の身柄は一時的に拘束する。お前も含めた中立派を旧来派と合流させる訳にはいかないからな」
「この私が貴方やジェネラル閣下達を裏切り旧来派に合流すると思いか!?」
「そうは思ってねえ。だが状況が状況だ。旧来派が動いた以上、レプリフォースは完全に割れる。そんな中でお前らに勝手に動かれちゃ困るんでな」
下手な動きを見せれば即座に射殺されかねない状況で、尚も己に食い下がるフクロウルにフレーヴェルスは落ち着けと言わんばかりに掌を上下に動かす。
「しかしカーグラめ。空軍内の旧来派はお前ら中立派の動きが活発なのもあって少数派に過ぎなかったが、カーグラが加わった途端に一端の集団になりやがった。少々侮っていたか」
「お待ちください。カーグラですがあれはこのフクロウルと示し合わせて旧来派の動きを探るべく表前は鞍替えをした様に見せたまで。彼女は決して貴方やレプリフォースその物に反旗を翻す様な者ではありません」
周囲から見れば突如として自身の派閥を鞍替えしとしか見えないカーグラの真意をフレーヴェルスに説明をしようとするフクロウル。
彼はカーグラからカメレリオンを含めた者達の動きを得ていたと告白するのだが。
「その辺の報連相はしっかりして欲しいモンだな。カーグラの奴の本心はさておき今、あいつは空軍内の旧来派の元締めだ。お前もそうだが身柄は拘束する。なあに悪いようにはしねえ・・・この騒ぎが収まるまでの一時的な措置だ」
「一時的・・・ですか」
「・・・ああ。俺を信じろ」
自身の言葉を反芻するフクロウルを安心させようとフレーヴェルスはその胸を手の甲で叩くと親衛隊に彼を連れて行くように命じる。
「ついでに聞くがフェザリオンは・・・?」
「フェザリオン閣下でありましたら政府関係者やケイン博士らとの会食に出かけていると聞いておりますが」
「今日、ここに居なくてラッキーだったな」
もしもこの事を知れば腰を抜かすだろうと彼の驚く顔を想像しフレーヴェルスは笑う。
「お前ら、エンジントラブルを起こしている艦船が動けるようになったら上空で待機させておけ。それともしもジェネラルから命令があったらそっちに従え」
フレーヴェルスの命令を復唱し敬礼をする兵士達。
「それで・・・長官の方は?」
参謀の一人が一応確認とばかりに聞いてくる。
「俺は俺で好きに動かせてもらう。すまねえが後はよろしくだ」
隻眼の目を小さくし微笑んだ彼はそのままの足で司令室を後にする。
「さてと・・・地下にある転送装置だが。まだ動いたかねえ」
空軍本部の地下にある秘密の転送室。
空軍長官である自らの私室からのみアクセスできる場所の事を思い浮かべながらフレーヴェルスは口の端を歪める。
だがそれも束の間、常に朗々としている彼の顔から徐々に感情が消え失せていく。
「ランドグリーズ達を連れてカメレリオンが行くとなればあそこしかねえからな」
そう独り言を口にするやフレーヴェルスは足早に己の私室へと向かうのであった。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇ジョセフ=カルヴァンについて
元々はリブート前のヴァヴァ編のフクロウルの話に登場した人物でその話では既に故人であった為、本格的に搭乗したのは今回が初。
ケイン博士らの研究仲間で飛行型レプリロイドの父でフクロウルの設計者と言う設定でこの辺は今回も変わっていない。
ケイン博士らよりも二回りは年上であり以前からレプリフォースもといロボットアーミーで働いていた出向組。
事実上のロボットアーミーが差し向けた監視役でもあったが、彼個人はその辺の事情に一切興味が無かった事もありレプリロイドの開発具合を報告はすれど妨害等は一切行わず、寧ろ自身の顔が利く事もあって軍需産業などから高級なパーツを取り寄せるなどしていた。
若く才能はあるが突っ走りがちなケイン博士らを年長者である事もあって纏めていたサブチーフ的なポジションであった。
レプリロイドの第一号の完成を見届けた後にロボットアーミーへと舞い戻り、その後は本編同様に科学顧問の地位についている。
作中では兵器開発室の室長も兼ねているが、これは前任者であった人物が辞職した事による一時的な措置。
後に自身の助手であったランドグリーズにその立場は譲っている。
作中においてはかなり偏屈な性格が強調されているがこの辺はケイン博士らも同様なのであしからずである。
〇ランドグリーズについて
リブート前と違い性格含め結構変更がある人物。後に兵器開発室室長となりペガシオンらを開発するのは変更なし。
ケイン博士に対するドップラーと同様に彼女はジョセフの仕事をサポートすべく生み出された助手型レプリロイド。
語尾と言い相変わらずイカっぽいがこの頃は少女型だったと言う事もあって戦闘能力は皆無だった。
ジョセフ同様に最高機密に関わる仕事もしておりアジールに身柄を狙われる羽目となる。
余談ながらカーグラとは友人関係にあり、探りを入れて来た彼女に結構べらべらと喋ってしまっていたらしい。
あとフレーヴェルスとも付き合っており彼含めてお喋りカップルである。
〇バイオレンについて
前回から出ているアジール同様に同名の彼の前任者でありプロトバイオレンと言うのが正確と言える存在。
装甲に身を包んだ長身の巨人と言うのがコンセプト。
アジールよりも背は高いが流石にジェネラル程はない。
投擲すると手元に戻って来るハンマーが得物と細かい部分で本編のバイオレンと違うが、圧倒的なパワーで敵をねじ伏せると言う点は変わらない。
当たり前だがこの頃はハンターは居ないのでここではあくまでもヴォイド直属の精鋭衆である。
〇メモリアルホール地下について
レプリフォース総本部の地下に広がる大空洞。
シェルターであると同時に軍の暗部ともいえる装置や未完成の兵器やらがゴロゴロしている危険地帯となっている。
カメレリオンが吐き捨てた『究極の失敗作』もここに封印されて眠っている。
辿り着いた先にあった門も含めての詳細はここでは伏せさせてもらう。
一応この装置の原型はアルバートのオリジナルが開発したものであったらしい。
〇フレーヴェルスについて
動き出した旧来派を見据え怪しいと判断したフクロウルを拘束するなどしたがこれは中立派の彼が旧来派の説得に応じて敵にならない様にする措置でもある。
元よりカーグラが旧来派を従えるまでは空軍内で文字通り息をしていない状態だったのもあり、彼がカーグラの動きを忌々しく思うのも無理は無いだろう。
フクロウルらは軍内の衝突を抑えるべく動いていたが、ジェネラルと同じく改革派であった彼からすれば衝突は時間の問題であり、行動を起こした旧来派を潰した方が手っ取り早いと考えていた。
この頃の彼はフクロウルと後々の様な信頼関係をまだ築けていない。
信用できる参謀が居ない事もあって、彼の指示はかなりアバウトかつ正直適当。
この点はジェネラルも彼を頼りにはしていたが不安視していたようである。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。