RockmanX4 War of Repliforce   作:グルルre

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長きに渡って続いてしまったハンター前史編も次回で漸く終わりとなりそうです。
ほぼレプリフォース前史にもなってしまった作品ですが楽しんでいただけたら幸いです。


ハンター前史⑤

レプリフォース総司令部で起こった旧来派の決起は極めて早期に終結した。

旧来派が雇ったと思われる詳細不明の襲撃者の存在も確認されたが彼らによる被害もレプリフォース全体の規模からすれば極めて些細な物に過ぎなかった。

当然の事ながらその襲撃者の正体について様々な憶測は飛び交ったのだが、その正体は前世紀から生き延びる暴走ロボット或いは政府の目を逃れたイレギュラーの可能性が高いとレプリフォース総司令官ジェネラル=グランドリオンは公式な声明を発表。

結果的にその発表はイレギュラーの恐怖に怯える民衆を煽る形となり、連邦政府主導による新たな治安維持組織の設立の後押しとなる。

「やはりカメレリオンとソルトコールは取り逃がしたか」

総司令部の自らの執務室でグランドリオンことジェネラルは初めから分かっていたと言う顔で報告する士官を見下ろす。

旧来派の決起の後、カメレリオンと共に旧来派の中心人物であったソルトコールは海軍艦隊を率い太平洋上の海軍基地へと向かったのだが、ジェネラルは即座に討伐軍を編成しこれを追撃。

如何に精強を誇る海軍であっても陸軍と空軍を中心にした軍勢を前に率いた艦隊の大半を喪失。

占領した基地も奪還されたのだが、ソルトコール以下旧来派の幹部達を討ち取る事は出来ずに戦いは終結したのであった。

恐らく世界中にあるとされる海底に隠された拠点に身を潜めているのだろうとジェネラルは読んでいる。

あのソルトコールが逃げに徹した以上、その追撃は極めて困難だろう。

「しかし海軍内で多くの者がソルトコールに旧来派に付く中でお前達はよく我々の側についてくれた。礼を言うぞ」

小さく頭を下げるジェネラルに居並ぶ海軍士官の内の一人が驚く様に目を見開く。

ジェネラルからすれば残留した数少ない海軍士官と言えるのだが、その出自を考えると彼らは所謂普通の海軍士官とは違う。

彼らは士官学校を経て入隊していない為、軍の士官ではないのだが前海軍提督でカメレリオンと共にレプリフォースを抜け出したイレイザー=ソルトコールに才を見出された若者の一人だ。

常に組織に反骨的であったソルトコールはエリートではない叩き上げの者達をよく見ていたなとジェネラルは一瞬だが、今や仇敵となった彼の事を思い出し口の端を歪める。

それをなんと取ったのか優男と言うべき青年の背筋が伸びる。

もう片方の如何にも海軍らしい荒々しい風貌の士官はどこか退屈そうな顔で佇んでいた。

「ジョーズィにオアンネルだったな・・・」

「・・・ハッ」

「・・・ヘイ」

自身の名前を呼ばれ冷や汗を掻きながら敬礼をする青年とは対照的にもう一人の方はお世辞にも美形とは言えない顔を歪ませる。

「海軍は旧来派にとって中心派閥であり、結果としてソルトコール以下大半の面々が抜けて行ってしまった。お前達二人にはこれからの海軍とその立て直しを任せたい。ともあれ報告ご苦労であった」

『それぞれの海軍内での地位や役割は追って知らせる』と言葉の最後に付け加えジェネラルは二人を部屋から退室させる。

これからのレプリフォースの事を考えるに海軍の立て直しは急務だ。

己の知己である軍需産業に高性能レプリロイドの開発を依頼せねばと考えた時だった。

自身の机に置かれた端末が鳴り響く。

思考を遮られたジェネラルは若干渋い顔をしつつも端末を手に取る。

「・・・私だ」

<ジェネラル閣下。フェザリオン参謀長が面会を申し出ていますが・・・>

「フェザリオンか。悪いが今は奴に構っている時間は無い。今は軍議で忙しいと適当な事を言って帰らせろ」

自身への面会を求める旨を伝える部下の言葉に小さく鼻を鳴らしつつ、ジェネラルはその通信を一方的に切る。

連邦政府の後ろ盾を得て強気になったのかそれとも小心ゆえの己への確認がてらの報告か。

特務機関シャドーフォースを通じて彼らの動向などジェネラルには筒抜けであり、いちいち報告を受けた所で無意味だ。

そして史上最強の軍隊と謳われるレプリフォースの全権を手に入れたと言ってもジェネラルに安堵する暇など無い。

カメレリオンの背後にいる前世紀の亡霊と言うべき存在の事を思い出すに今でも悪寒が走る。

 

「お前とて知らぬ筈も無かろう。我らを含めこの世界に潜む者達の存在を・・・」

 

一連の騒動の後に自ら拘束を受けたヴォイドの言葉が脳裏を過る。

あの後、彼と面会し直接尋問したジェネラルだったがその背後に潜む者達の全容を掴む事は出来ず、かと言って手出しすることも出来ずで今もその身柄を拘束するに留まっている。

思えばオクターヴ大元帥が『門』から得られる物を求めた理由も・・・。

唇を噛みしめるジェネラルの考えを遮る様に再度響き渡る端末のアラーム。

<ジェネラル閣下。再度問い合わせたい事があるとフェザリオン参謀長が・・・>

「忙しいと言っておけ!!」

タイミングの悪い連絡についつい語気が荒くなる。

受け持った者には後で詫びを入れねばと思いつつジェネラルは一室に掲げられた大元帥の肖像画に目を向けていた。

 

 

 

「・・・遅い!!」

空軍本部内の独房で己を迎えに来た巨人を見るなりフクロウルは苛立ちを隠そうとせずにそう言い放つ。

もしも彼がもう少しだけ若かったらフェザリオンの顔に蹴りでも入れていただろう。

「あの後、なかなか帰れなかったんだよ~。なんか総司令部では騒ぎになるし~」

黙っていれば威厳はある顔を情けなく歪ませながらフェザリオンはフクロウルに頭を下げるしかない。

自身が一時拘束される事は仕方が無いと思っていたフクロウルだったが、一連の騒ぎが収まっても連絡一つもなく一週間も放置されるとは思いもしなかった。

あまりの放置ぶりに拘束中に独房をぶち破ろうかと何度考えた事か。

外へと出されるなりフクロウルはフェザリオンを引き連れる形で空軍長官の執務室へと乗り込む。

「おおっ・・・フクロウル。悪い悪いあの後、色々あり過ぎてな~。お前の事をすっかり忘れていたよ」

悪意も無くとんでもない事を言いながら頭を下げるのはフレーヴェルスだ。

言葉通り自身を拘束した事など目の前の男はすっかり忘れていたのだろう。

圧倒的な実力を有しながらもどこか抜けているこの男には、甲斐甲斐しく世話をする者が必要だとフクロウルは痛感するのだが。

それはさておきである。

「私の事はこの際よいのです。ですが彼女は・・・カーグラも身柄を拘束されたと聞きましたが。彼女は今どこに?」

「あ~あいつか。あれは確かグラ・・・じゃなくてジェネラルの所に預けた筈だが」

今や軍内においてその名を使う他の者がいなくなった事で己の呼称をグランドリオンではなくジェネラルと改める様に通達が入ったのだが、慣れ親しんだ者達にとってそれが浸透するのはまだまだ先になりそうである。

「先程、ジェネラル閣下に彼女の事を確認しようと面会を申し出ましたが断られまして」

政府本部から戻るなり空軍本部へと戻ったフェザリオンは仲間達からフクロウルとカーグラが拘束されていると聞き、まずは居所が判明しているフクロウルよりも所在不明となっているカーグラの行方を確認しようとジェネラルに連絡を入れたのだが彼は一向に自身に取り合おうとしてくれなかった。

「分かった分かった。じゃあ今から俺が奴に確認してやる」

そう言ってフレーヴェルスは机にある端末を操作しジェネラルとのホットラインを繋ぐ。

流石に空軍長官からの連絡を無視する訳にはいかなかったのか、フェザリオンに対する頑なな対応とは真逆で数秒もしない内にジェネラルの姿が一室のモニターに映し出される。

<貴様からの連絡とは珍しいな・・・それで何の用だ?>

「いや今、フェザリオンやフクロウルが来てよ」

親指を二人に向け事情を話すフレーヴェルスにジェネラルの顔が若干険しくなる。

<全くそうまでして私に報告がしたいのか?>

呆れの色合いを含めた溜息を吐くジェネラル。

「ん~なんて言うかよ。あの時の騒動でお前に身柄を預けたカーグラって言うウチの士官。覚えてるだろ?」

<ん?ああ・・・あの小娘か。それがどうした?>

フレーヴェルスの言葉にキョトンとした顔でジェネラルが答える。

「そいつ今、どこに拘束してるんだ?」

<・・・?いや私は知らないぞ。騒動の後でお前の所に引き渡しているのではないか?>

「・・・ん?」

互いにその首を傾げる二人。

それに黙っていられなくなったのはフクロウルだ。

「二人揃って何を呑気な。今、彼女はどこにいるのですか?」

「まあまあ待て。落ち着けフクロウル」

<貴様がフクロウルか。フェザリオンを焚き付け余計な動きをしていたのは知っているぞ>

割って入るフクロウルを宥めようとするフレーヴェルスとは対照的にジェネラルの態度はやや冷たい。

彼からすれば中立派なる余計な派閥を立ち上げられた事で己に味方する者が少なくなったからだ。

<あの小娘の所在に関しては私からも確認をする。それとフェザリオン、すぐにとは言わんが・・・>

ジェネラルもそれ以上はフクロウルを構う事も無く、顔を真っ赤にする彼ではなくフェザリオンの方へと鋭い視線を向ける。

<軍を抜け新しい治安維持組織・・・ハンターとか言う組織に加わる者の名簿を私に提出しろ。それがお前のこの軍における最後の任務だ>

「しょ・・・承知しました」

わざわざ自身に提出させるまでも無く誰が組織に加わるかなどジェネラルは把握済みなのだろう。

その上で敢えて自身に最後の仕事としてさせようと言うのは如何なる思惑からか。

平伏するように頭を下げるフェザリオンを前に静かに目を閉じジェネラルは通信を切る。

暫くの間、場に静寂が訪れるがすぐさにフクロウルが声を上げる。

「彼女の居場所をすぐに確認せねば!!」

慌てて一室を飛び出して行くフクロウル。

「総司令官が知らないとなると・・・こいつは拙いな」

そう言ってフレーヴェルスが一室の天井を見上げる。

ゆっくりと頭の裏を掻いていた彼だったが彼女の居場所を思案する内にその顔が強張っていく。

やがて無言のまま得物を手に一室を出て行く彼の姿にフェザリオンはゴクリと息を呑むしかない。

思わず彼を追おうとするフェザリオンであったが、先程ジェネラルから下された命令を思い出しその足を止める。

この後、レプリフォースで何があろうとも既にハンター組織に行く事が決まった自身にとっては余計な事でしかない。

一旦資料を纏めるべく自室へと向かうであった。

ある意味でそんな行動を取った事は彼にとっても幸運であったのかも知れない。

 

 

 

それから更に数時間後。

 

ドゴオオォォォォォンッッ!!

 

分厚い鋼鉄製の扉を一刀の下に両断する空軍長官の姿にその場に居た警備兵達は唖然とする他無い。

「修理費の請求は空軍で頼む」

半ば強引に総司令部内のアンダーフォースとは別の地下施設に侵入したフレーヴェルスは片目を閉じて警備兵達に笑う。

本来であれば特別な許可が無ければ上級士官でも入れない場所だが、彼はジェネラルの許可を取り付ける事無く足を踏み入れていた。

どう考えても軍規違反であり、その場で拘束されてもおかしくは無いのだが、あまりにも自然に入って来た為に警備兵らも反射的に敬礼で返す他無い。

「うちのカーグラはどこだ?」

「カーグラですか・・・確かあれは一番奥に収監されている筈です」

警備兵の言葉にフクロウルが駆け出そうとするがそれはフレーヴェルスによって遮られる。

これはあくまでもフレーヴェルス個人が独断でやっていると言う体もある為、ここでフクロウルが目立つのは避けたい。

アンダーフォースでの現場に居合わせた親衛隊の者とコンタクトを取るのに一時間、更にそこからカーグラの連行先を聞くのに倍の時間、そしてこの総司令部内の地下監獄の場所を知るのに更に数時間を要した。

「ここは重大な軍規違反を犯した連中や都合の悪い奴らを隠すのに使われる場所なんだが・・・」

今更の様に地下監獄の詳細を説明するフレーヴェルスにフクロウルは無言だ。

フクロウルとてこの様な場が存在している事は知ってはいたが、まさか自分が足を踏み入れるとは思ってもいなかった。

それだけに彼女の身が心配になる。

地下に造られている事もあって周囲の廊下は薄暗く僅かな明かりだけが視界の頼りとなる。

夜の闇とも違う暗さにこの場に居るだけで不快感が生じる。

「へへ・・・ようこそ閣下。それであの、ジェネラル閣下の許可は」

「いんや・・・必要無いだろ?」

カーグラが居る最深部のエリアに辿り着くなりどこか下卑た表情を浮かべた看守が問いかけて来るもフレーヴェルスは気にした風もなく首を振る。

仮に看守らが抵抗しても独房の扉を破るだけであり、その空気を察したのか強張った表情を浮かべた看守は壁に取り付けられた端末を操作していく。

「ほう・・・誰かと思えば」

カーグラが居ると思われる一室の向かい側の独房から声が響く。

独房に取り付けられた窓から顔を覗かせるのは見知らぬ一人の少年。

少年と言っても人間ではないのは明白であり、何よりその顔は薄暗い場と言うのもあってはっきりと見えない。

「まずは謝らねばならんだろうな。向かいの小娘・・・どうやら我らの仲間かなにかと思われたらしい」

『詳細な理由も無く入れられたみたいだからな』と少年は付け加える様に言う。

地上の騒動を引き起こした一味と思われる少年と共に収監された空軍士官。

ジェネラルからは少年の方に手出しは一切するなと厳命が下っていたが、カーグラの方は何の指示もされなかった。

地下監獄に勤める看守達は敢えてジェネラルが自身らに命令を下さなかったと勝手に忖度。

この少年の仲間である(そう看守達は状況から判断した)カーグラに対し凄惨な拷問が行われる事となる。

当然の事ながら元より旧来派でも無い彼女が碌な情報を持っている筈も無く、それを見せつけられても仲間ですらない少年の方は眉一つ動かす事も無い。

「最後に見た時にはちゃんと形になっていたか・・・無駄な事を。一応こいつらには言っておいたのだが・・・聞く耳をもたなかったな」

僅かに口の端を歪め少年は淡々と語った物だった。

「・・・っっ」

顔を真っ青にしたまま立ち尽くすフクロウルの後ろでフレーヴェルスがカーグラが居ると思われる独房の扉を強引に開ける。

「カーグラッッ!!」

独房に先に入ったフレーヴェルスから今まで聞いた事の無いまで叫び声が発せられる。

その声にハッとなり慌てて動こうとしたフクロウルだが、フレーヴェルスに手で制される。

「お前は・・・見るなっ!!」

血走った目で己の前に立ち塞がる友の顔が視界を覆う。

その後ろの方で無造作に転がるのは自身にとって志を通じ合わせた少女であったモノ。

フクロウルにはそれが何なのか最初、分からなかった。

それ程までに徹底的に彼女のボディは破壊尽くされていたからだ。

 

 

「力不足で申し訳無いでゲソ」

兵器開発室の一室にて深々と頭を下げるのはランドグリーズだ。

あの後、カーグラを回収したフレーヴェルスはすぐさに彼女の下に赴くとその身柄を預けていた。

そして自身はこの件でジェネラルに抗議をすべく彼の所へ向かっていった事もあり、その場に残されるのはフクロウルだけとなる。

フクロウル個人は機械工学に明るくない為、何がどうなっているのか分からないのだが彼女が懸命に作業をしている事だけは分かった。

ランドグリーズ自身も先の事件で片腕を斬り飛ばされると言う重傷を負っており、仮で繋ぎ直された彼女の片腕は若干だが覚束ない様に見えた。

「ホー・・・検査結果だ」

ジョセフが端末に何かのデータを表示させながら一室に入って来る。

今にも彼に迫りたくなるフクロウルだが、それはギリギリの所で押し留める。

「まあ分かりやすく説明してやる」

自身の端末にジョセフから送信されたデータを見て顔面蒼白となるランドグリーズ。

その顔を見るだけで察する事は出来るがジョセフはフクロウルに椅子に座る様に促し、両者は向かい合う形で対峙する。

元々モデルになったと言う事もあってか人間とレプリロイドと言う種族の差はあるが二人の姿は親子の様に見える。

「言うまでも無くお前らレプリロイド・・・機械にとってボディって言うのはあくまでも『器』に過ぎねえってのは理解出来るな?」

「承知しております。理論上ではありますが電子頭脳のメインメモリーさえ破壊されねば我々は何度でも再生は可能と考えています」

「ホー。つまりこの小娘・・・カーグラは電子頭脳に致命的な損傷を負わされているって事だ」

『恐らく拷問の一環で電子頭脳に障害をもたらすウィルスも使われたんだろう』とジョセフは付け加える。

「人間で言えばほぼ脳死状態。ここまで電子頭脳とメモリーチップを破壊されちゃあどうしようもねえ」

『ワシとランドグリーズでも修復は無理だ』とフクロウルにとって絶望的な事実を突きつけられる。

レプリフォース内においてレプリロイド工学に最も秀でている二人を以てしても修復は不可能と言う事実にフクロウルは唇を噛みしめ剥き出しの電子頭脳だけとなった彼女をじっと見据える。

鼻を啜りながら声を押し殺して泣くランドグリーズとは対照的に沈黙を保ったままの彼はやがてゆっくりとカーグラに向かって敬礼をしていた。

まるで迷いを断ち切るかのようにフクロウルは踵を返すとその場を後にしていた。

ランドグリーズにも端末からの呼び出しが入り、彼女は泣き腫らした顔を拭いながら一室から出て行く。

ややあってジョセフの方も席を立つのを『彼女』はぼんやりとした目で見送っていた。

 

 

(あ~あ~・・・こりゃどうも死んだっぽいね)

半ば朦朧とした意識の中、誰も居なくなった一室でカーグラは諦めた様に肩を落とす。

脳死状態とジョセフに宣告された彼女だが、フレーヴェルスやフクロウルが迎えに来た時点でその意識ははっきりと保っていた。

だがそれを他者に伝える術を今の彼女は持ち合わせていない。

壊れかけの電子頭脳だけの状態で転がされているからだ。

いやそもそも何故自分がこうして存在しているのかさえカーグラには分からない。

(アタシ・・・どうなってるのさ)

自身であった残骸を見下ろしカーグラは頭を傾げるが答えなど出ない。

一人取り残されたカーグラは身じろぎもせずその場に佇む。

その状況で感じるのは徐々にだが自分自身が今の状態すら保てなくなっている事実だ。

必死に己を保とうとする彼女だが、誰にも見えず話す事すら出来ない存在になった事でいよいよそれも限界に近づいて来た。

(ああ・・・消える。消えてしまう)

己自身が無となると自覚したその時だった。

(いやあ・・・君には申し訳無い事をした)

不意に辺りに響く声に四散し掛けていた意識が急に鮮明になる。

その場に姿を現したのは真紅のローブを身に纏った一人の少年。

端正な顔だが額に付けられた傷にまず目が行ってしまう。

その視線に気づいたのか少年は苦笑いをし『まあそれは気にせずに』と軽く手を上げてカーグラに微笑む。

(あ・・・アンタは?)

(こうして会うのは初めてだが君と僕は一度会っているよ。僕の名前はアルバート・・・カメレリオン達の活動に協力した者だ)

メモリアルホールの地下で姿を現さず端末越しに声を響かせていた謎の人物。

あの時、カーグラには何者であるか見当もつかなかったが今であれば察する事が出来た。

(僕個人の事はさておき・・・優先すべきは君自身の事だ)

彼女の表情から何を感じ取ったのかを把握しつつ、アルバートは簡潔にカーグラが今どの様な状況となっているのかを説明する。

今、自身が所謂精神プログラムだけの状態になっている事。

そしてこのままであれば消滅してしまう事。

アルバート個人はそんな自身を助ける術を持っていると言う事。

カーグラからすればアルバートの申し出は非常に有り難いのだが。

(ヴォイドにも言われたが君個人に非は無く。ただ巻き込まれただけ・・・と思っている。僕の申し出に乗ったとしても君個人を縛るつもりは一切無い。と言う事だけは付け加えさせてもらうよ)

ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべながらアルバートはその手を差し出してくる。

その手を暫くの間、じっと見つめていたカーグラだが僅かな迷いを振り払う様にその手を握り返していた。

 

 

「ど・・・どう言う」

彼女の電子頭脳が見当たらなくなったと言う報告を受けフクロウルは会議の途中で退席し、慌てて兵器開発室の一室へと舞い戻っていた。

そこにある筈の物は忽然と無くなっており彼は呆然とその場に立ち尽くす他無い。

後からやって来たランドグリーズも恐らく己と同じ様に連絡を受けたのだろう。

二人で作業台を始めとする一室をくまなく探したが彼女が見つかる事は無かった。

周囲の状況からカーグラの電子頭脳を何者かが持ち去ったと考えるのが常識であろう。

一瞬だがフクロウルはジェネラルを疑うが先程の会議の様子からそれは無いと判断する。

もしもそうであったなら今頃、彼女の処遇に関して正式な通知がなされていただろうしそもそも地下監獄に自身らを踏み入れさせる事などしなかった筈だ。

では誰がと考えるのだがこの時点でフクロウルには犯人の事など分かる筈も無い。

いずれにせよ程無くして彼女らはフクロウルらの前に姿を現す事となる。

レプリフォースを追われデッドフォースと名を変えた旧来派組織の幹部の一人としてである。




何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。

〇一連の騒動について
作中でも言われている通り一連の騒動は数日の間に終わっている。その内レプリフォース総本部での一件は大体半日程。
元々少数派となっていた旧来派ではまともに武装蜂起してもこうなる事は分かっていただけに破壊活動は混乱を生じさせ、その間に部隊を脱出させる意味合いが強い。
この内、旧来派が唯一主流となっていた海軍は騒動の最中に各軍の同志を所有する艦艇に乗せ、太平洋上の海軍基地へと移動している。
太平洋上の海軍基地では海軍を除く陸軍と空軍が中心となって戦闘が行われているのだが、この戦い自体も短時間で終わっている。
カメレリオンを始めソルトコールら旧来派は野に下り雌伏の時を過ごす事となる。

主な面々が根こそぎ抜けてしまった海軍には殆どまともな士官は残っておらず、その殆どがソルトコールと行動を共にしている。
軍内の対立に嫌気が差した後の第6艦隊艦長アンモナーやオクトパルドを始めとした者達は軍を退職していたのも、その後を考えると痛手であった。
結果として残留組となったジョーズィとオアンネルに託される事となるのだが、この一件が原因で海軍内が歪な権力構造となるのだがそれはまた別の話である。

〇カーグラの扱いについて、ジェネラルの関与具合
まずにこれだけは言わねばならないがカーグラに対する凄惨な扱いに関してはジェネラルは全く関与していない。
彼からするとなんかカメレリオンと一緒に行動していた空軍の女性士官程度の認識である。
とりあえずフレーヴェルスに応じて投降したし、それよりもカメレリオンらを何とかせねばと言うのが当時の彼の優先事項であった。
この辺はフレーヴェルスも一緒であり、ソルトコールが逃げ込んだ海軍基地への出撃や何やらで忙しくてすっかり失念していた。
フクロウルの扱いについても同上。

地下監獄にはレプリフォース創設期以前から活動している者も居る。
個々が拷問や尋問のプロであり、史上最強の軍隊の暗部の一つと言える。
作中で言われている様にヴォイドと一緒に拘束されたのもカーグラにとっては運が悪かったとしか言えない。
看守達はヴォイドの方には手を出すなと言われていたのもあって何もしなかったが、カーグラの方は何も言われていないので情報を引き出す為に冗談抜きで滅茶苦茶にした。
因みにエロ目的な考えではやっていない事だけは拷問官の名誉(?)の為に付け加えておく、彼らはとにかく無慈悲なプロなのだ。
当初の予定では色々とやられた末の精神崩壊的な展開であったがカーグラと言うキャラを考えるにその程度では壊れないなと判断し、ギリギリの限界まで拷問をした形にした。
因みにヴォイドのそれらの最中、眉一つ動かす事無くガン無視。手違いを指摘しても拷問官らが止める事は無いと判断して何もしていない。
その程度の事で心が動く事など無い程度に彼も壊れている。

〇カーグラの見に起こった事
電子頭脳だけの状態となった彼女だが、精神プログラムだけの状態となって生きてはいた。
ただ戻るべきボディは無く電子頭脳もメモリーチップ含め壊れており、あのままでは自我を失い四散していた。
ボディから離れた精神プログラムはそれをデータ化して特殊なデータチップに納める或いはそれを維持する処置を施さなければ、やがては消滅してしまうと言う設定。
この辺は後のシグマウィルスやサイバーエルフに近い形と言える。
イレイズウィルスとかにも通じるかも知れない。

精神プログラムの形で比較的長時間彼女が自我を維持出来ていたのは彼女自身の意思の強さと拷問の際に使われた電子ウィルスが原因である。
ヴォイドから手違いであった事を受けアルバートが直接出向いている。
彼らなりのお詫びと言う事もあり、アルバート自身が言っている様に彼女には洗脳や誘導、或いは支配下に置くなどと言った行為は行っておらず、彼女が消滅しない様に処置を施しただけにとどまっている。
つまり彼女がフクロウルの下に戻らずデッドフォースの幹部となったのは他ならぬ彼女自身の意思と言う事となる。

今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。
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