RockmanX4 War of Repliforce 作:グルルre
無数の瓦礫が折り重なった廃墟の底を支配するイレギュラーは、スカイラグーンの地上落下と言う惨劇を引き起こした者達を己の下に招き入れていた。
「よう・・・ご苦労さん」
「ドクトレスが援助してくれたお陰で簡単に事が済んだカメ。だけどどうも帰り道に本来設定した筈の脱出ルートにあった転送装置が壊れていたみたいカメが」
自身を出迎えたかつてドッペルタウンと呼ばれた都市に居座るイレギュラーに旧組織ゲストロンの首領であったアトミック=ギガトータスは笑う。
「そりゃあれだよあれ。不幸な事故って奴だ」
「本当カメねえ~。まあこっちはスカイラグーン暮らしが長かったから別ルートを確保していたからこそこうして居るカメ」
くぐもった笑い声を響かせるヴァヴァのとぼける様な言葉にギガトータスもわざとらしく言う。
承知の上で行ったテロではあるが、ギガトータスらは長年の潜伏先として使っていたスカイラグーン内の拠点を失っている。
彼らからしても元々史上最大の大戦の狼煙を上げた後での拠点探しは急務でもあった。
そんな折に自身らにもたらされたヴァヴァの申し出は渡りに船であったと言える。
「しかし思った以上にボロボロカメね」
スクラップ同然の身であるヴァヴァを見据えギガトータスが笑う。
その口調や見た目から愛嬌ある雰囲気だが、彼も強豪イレギュラーを率いてきた裏社会の人間である。
垣間見せる雰囲気には危険な物が含まれる。
「今、お前さんらに襲われたら俺もタダじゃすまねえだろうな」
ゴホゴホと咽込みながらヴァヴァはギガトータスを見据える。
少なくとも五体満足なボディを持つ相手を前にヴァヴァも虚勢を張れるほど余裕はない。
「俺からこの瓦礫の山の拠点を奪っても別に構わねえが、腕一本ぐらいは覚悟しておいてくれよ」
「腕一本でお前を倒せるなら寧ろ安い方だカメ」
冗談交じりに口を開くヴァヴァにギガトータスが腰を屈める。
両者の間に生じる緊張感にベルカナが後ろへと退く。
ガンッッ!!
一瞬、その腕に付けられた爪を振り下ろすかのように見えたギガトータスの腕がヴァヴァの肩を叩く。
「冗談だカメ。お前を殺したらここの開発を援助している奴らとまた交渉をし直さないといけないしで面倒くさいカメ」
ヴァヴァの肩を数回叩きながら大笑いをするギガトータスにビクトロイド達も思わず息を吐く。
そんな彼に対しヴァヴァは無言のまま頭を下げるのであった。
「とりあえず今はお前の傘下に入ってやるカメよヴァヴァ。と言っても俺が率いるゲストロンも元ノットベレーのゲストロンコマンダー数十体に下士官のゲストロンベレー数人しか残っていない程度だカメが」
「戦力としては十分だ。それこそ今は猫の手も借りたいぐらいでな。ビクトロイドとは違う戦闘のプロって奴が欲しかった所だったんだ」
いつぞやの政府軍襲撃の際に如何にスペックが高かろうとも、戦いに対する認識や意識の差が結果に及ぼすのを痛感したヴァヴァにとって元レプリフォースの面々は喉から手が出るほど欲しい存在であった。
「そりゃどうもカメ。まあお前さんの傘下に入るのは少々癪だけど、俺個人も組織を率いる才能って奴に限界を感じていた所もあったカメよ。とりあえず幹部待遇で宜しくカメ」
先の折れ曲がったヴァヴァの腕を強引に掴みギガトータスがその腕を激しく上下させる。
「じゃあ雇用契約成立って事で。レプリフォース大戦が起こったらあんたらには色々とやってもらいたい事がある」
ヴァヴァは今まで気配を消していた人物を呼び寄せる。
漆黒のアーマーを身に付けたレプリロイドにギガトータスも目を見開く。
「お前は・・・?」
「久しぶりだなギガトータス。こうしてまた顔を合わせる事になるとはな」
ギガトータスの前に姿を現したのは、かつて大首領に仕えた四駿の一人ムスピルス=サナトスその人であった。
カーネルと瓜二つの顔を持つがその声はどこか無機質な物が感じられる。
「こんな隠し玉を持って居たとは。無駄な争いをしなくて良かったカメ」
一目会うなりサナトスの実力を把握したギガトータスは、安堵した様に息を吐く。
もしも彼がヴァヴァを殺そうとすればすぐさにサナトスが出てくる手筈になっていたのだろう。
元ハンターのヴァヴァと大首領直属のイレギュラーである彼がどう繋がったのかは分からぬが、ギガトータスは無用な争いを起こすのは得策ではないと悟る。
「それで大戦中に俺らにやって欲しい事ってなにカメ?」
思い出した様に問いかけるギガトータスにヴァヴァはメットの向こうで悪そうな笑みを浮かべたものであった。
「んなもん決まってるじゃねえか。戦争のどさくさに紛れてちょいと物資やら装備を拝借してもらいたくてな」
「つまりは火事場泥棒って事カメね」
ヴァヴァの言葉にギガトータスは若干呆れ顔となる。
それを見て獣はくぐもった笑い声を響かせた。
「来ないわねえ~カーネルちゃん」
総監室でわざとらしく口を開く総監にゼロの鋭い視線が突き刺さる。
並の者であれば怯むであろうその眼光と目を合わせながらも平然としている辺りは大物と言うべきか、無神経と言うべきなのかエックスには分からなかった。
「ここだけの話。カーネルちゃんは少し前にハンターベースに出頭をするとシュタイナー大臣に言ったそうなのよね~」
先程内密に告げられた事を口にする辺り、総監も若干苛立っているのだろう。
カーネルがハンターベースに出頭をする。
その際に無用なトラブルを引き起こさぬ様にエックスとゼロはスカイラグーンでの調査もそこそこに切り上げ、ハンターベースで彼が来るのを待っていたのだが。
「予定の時刻を既に過ぎております。カーネルに出頭の意思は無いとみてもおかしくありませんな」
冷徹に口を開くシグナスにゼロが振り返る。
彼も彼でゼロの態度を気に留める様子はない。
「まあもしかすれば別の誰かに引き留められているのかもね。・・・っとカーネルちゃんとは別のお客様ね」
来訪を告げるアラームに端末を操作しながら総監は一室に入ってくる一団を招き入れる。
「と・・・特別査察局です」
総監の下へとやって来るなりぼそりと口を開くのは、褐色の肌を持つ少女。
エックスもよく知るスフェーリア=エフレーモフだ。
人形の様な印象を与える彼女はシグナスに無言のまま、持って居た紙媒体の書類を渡す。
「はいは~い。中東にあるレプリフォース支部基地の接収案件ね。あそこには大量破壊兵器があるから速やかに行いますね~。当該基地には第4陸上部隊を向かわせます」
小さな書類に器用にサインをする総監。
連邦政府はカーネルの出頭を待つ前に幾つかのレプリフォースの支部基地の接収に取り掛かっている。
政府に関連する全ての施設や組織に議会の承認無しに視察を行える特別査察局が、その接収に主導的な役割を行っている。
そのあまりにも強引な動きにはエックスも若干の危惧を抱かずにはいられない。
「それと議会から・・・ドラグーンの件で総監から聞きたいって言う話が」
「ええ・・・ドラグーンちゃんの事?議会にはこの前報告書を提出したんだけど」
スフェーリアの言葉に総監が心底嫌そうな顔をする。
「うん。だからその後、新しい情報を聞き出せたかって言うのを知りたいみたい」
「正直。あれ以上は聞き出しようが・・・」
少女の遠慮がちな言葉に総監が唸った時であった。
不意にシグナスの手にする端末が鳴り響き、彼は慌ててそれを目にする。
<た・・・大変ですシグナス参謀。それに総監も居られますか!?>
血相を変え報告をしてくるハンターの言葉にシグナスを含めた全員が目を見開く。
「は~い私は居るわよ。それで何かしら~?」
シグナスの肩越しに声を上げる総監。
<実は・・・ドラグーン隊長が。収監されていた施設から脱走しました>
ハンターの報告に全員が言葉を失う。
「あはははは・・・うそ~ん」
呆然としたまま明後日の方向に目を向ける総監。
「収監していたドラグーンが脱走・・・お母さんやお祖父ちゃんに報告・・・」
「ちょ・・・リアちゃん!!ま・・・待って頂戴」
ぼそりと呟きながら端末を操作しようとしたスフェーリアに総監が慌てて押し留める。
静止の声に人形の様な顔でじっと見据えてくる少女に総監は低く呻くしかない。
「カーネルちゃんを待っていたけどそれどころじゃないわね。ええと・・・エックスちゃん!!」
「は・・・はい!?」
ドラグーン脱走の報に困惑していたエックスだが、総監に名前を呼ばれ背筋を伸ばす。
「今すぐにドラグーンちゃんを連れ戻しなさい!!その為の手段は問わないわ。例えボディを大破させてでもここに連れ戻すのよ」
顔を真っ赤にして叫ぶ総監の言葉にエックスも縮こまる他無く、彼は敬礼をしながら慌てて部屋から出て行く。
「世間の一部ではイレギュラーハンターも疑われているけど。本当の所はどうなの?」
じっと己を見つめながら問いかけてくる少女に総監は苦笑いを浮かべるしか無いのであった。
「知ってるんだぜ。俺はよう・・・あんたが例の公園の貸し倉庫に大切なモンを保管しているのを」
その声に聞き覚えは無かったが彼の言葉は聞き流す事が出来なかった。
「今、そこにハンターの部隊が調査の為に派遣されたんだってよ。どうするんだい?隊長さんよ」
「な・・・誰だお前は!!」
ガタンッッ!!
拘束されている自身に扉越しに話しかけていた人物の姿を確認せんと一室の扉を『開けた』ドラグーンは、外の廊下に誰もいない事に気づき慌てて左右に首を振る。
「ぬう・・・どう言う事だ?」
先程まで感じられていた相手のエネルギーも当然ない。
狐につままれた様な顔で彼は再度首を傾げるのだが。
「・・・え?」
「・・・ん?」
見回りに戻って来た看守と目が合い互いの思考は数秒ほど硬直する。
相手の姿を見ようと体が勝手に動いたが、ロックが掛かっている筈の扉は何故か開いていたのだ。
両腕に拘束具を嵌められたままだが、廊下に出てしまったドラグーンに看守は血相を変えるのは当然の反応と言える。
(ここは何もなかった振りをして一室に戻るか・・・?いやそんな事をしては・・・)
謎の声が言い放った言葉が脳裏を過り、ドラグーンは即座に決断した。
「ド・・・ドラグーン隊長なんで外に!?」
「ええい!!」
ブチッッ!!
驚愕の声を上げる看守の前で並の特A級ハンターの膂力では外せない筈の拘束具の鎖を強引に引き千切るドラグーン。
ズンッッ!!
一瞬の内に頭部に手刀を食らわされた看守は気を失うが、僅かに早く看守が警報装置を作動させていた。
響き渡るアラーム音を背にドラグーンは肩を震わせながら息を吸う。
「白竜号よ!!いでよ!!」
大音響で叫ぶドラグーンは時間にして十数秒ほどその場で佇む。
一見すると滑稽な姿だが、呼べばどの様な場所でも彼はやって来る。
ドガアアァァァァンッッ!!
「ヒヒヒィィィンンッッ!!」
ハンターベースの壁を破壊しながら姿を現すのは竜頭の巨大な白馬。
白竜号と言う名前のドラグーン専用のメカニロイドはドラグーンを背に乗せるや空へと跳躍する。
「いざ行かん!!一路イエローストーン公園へぇぇぇ!!」
「ヒヒヒィィィンッッ!!」
飛行能力を有する愛馬に跨りドラグーンは空へと消える。
ハンターベースに居る隊員らがそれを追おうとしても既に手遅れなのであった。
「よしあいつを処分しに行こうぜエックス」
ドラグーン追撃の為に第7空挺部隊の協力を仰ぐ為にハンターベース近くの空港に向かったエックスを前に、第7空挺部隊隊長ハリケーン=アルバルドは真顔でそう言ったものだった。
普段はどこか抜けている所が多い彼だが、妹のソレイユと交際し結婚したドラグーンを未だに認めていないのはエックスも知る所である。
エックス自身もドラグーンの脱走には呆れるしかないのだが、幾らなんでも処分はやり過ぎである。
「そ・・・そんな伯父上!!」
その隣で悲鳴の様な声を上げるのは娘のパイロ=ドラゴンニュ。
「なんて冗談だっての。まあ機会あればとは思ってるけどな~」
今にも泣きそうな顔となる姪っ子とククルウーらに睨まれアルバルドは視線を逸らしながらとぼける。
「とにかくあの馬鹿の行き先だが」
モニターに映し出されるのは現在のドラグーンの位置である。
彼の両腕を繋ぎ止めていた拘束具には発信機が内蔵されており、彼の逃げ込んだ先はある意味でバレバレであった。
「イエローストーン公園か・・・西海岸となるとレプリフォースの勢力圏だな」
モニターの情報に目を通しながらアルバルドはそのままエックスを小型飛行艇が格納されている倉庫まで案内する。
「新型のデスメーザーであの野郎の頭に爆撃をしてやりてえが。そんな事をすればレプリフォースと冗談抜きでぶつかっちまう。だからこいつで行くしかねえ」
緊張状態にあるレプリフォースをこれ以上刺激しない為にも、エックスはアルバルドらが用意した小型飛行艇に乗り込もうとした時であった。
「エックスさんに兄さん!!待ってください~私も行きます」
息をせき切って一人の銀髪の少女がエックスらの前に走ってくる。
アルバルドの妹でドラグーンの妻でもあるソレイユだ。
「おいおいソレイユ。俺達はドラグーンの野郎を連れ戻しに・・・」
「はい、だからこそ私が行きます。だって今はあまり動かない方が良いんでしょう?エックスさんばかりか兄さんまでここから離れたら手薄になります」
万が一、ドラグーンとの間で戦闘が発生する可能性もあり当地に向かうのはエックスとアルバルド両名の少数精鋭の予定だったのだが。
「あのソレイユさん。幾らなんでも危険じゃ」
「こう見えてもドラグナーお姉さんに格闘技の手解きも受けてますから安心してください。それに頭に血が上ったドラグーンを説得出来るのは私だけですから」
レプリロイドとは言え一般市民に近い彼女の同行を断ろうとするエックスだが、彼女は自信ありげにそう言ったものだ。
「ん~まあ仕方ねえな。じゃあソレイユに任せるか」
「・・・え?」
暫しの間、無言で唸っていたアルバルドだがすぐさに妹に己の役目を譲ってしまう。
「まあエックス。こう見えてソレイユも結構戦闘能力あるからよ。一応コウフォーゲルも同行させるから心配はいらねえよ」
「頑張ってきてください母上~」
「は~いお父さんを連れてきますからドラ子は良い子で待っていてくださいね~」
勝手に納得しそのまま立ち去るアルバルド。
満面の笑みで娘からの見送りに手を振るソレイユにエックスは困惑を隠せないのであった。
そんな彼の思いは他所に飛行艇はイエロストーン公園近郊へと辿り着く。
「エックス隊長とソレイユさんを降ろした後、一旦この場より離脱する事とします。対空レーダーは掻い潜りましたが万が一の事が考えられますので」
飛行艇内で操縦桿を握るゲイル=コウフォーゲルがエックスらに向かって言う。
年若くA級ハンターとなっている彼は若手の筆頭格なのだと言う。
そう言えば前隊長のイーグリードの妹であるイクティーエが先頃、特A級ハンターに昇格したという話を噂好きの友人から聞いている。
「うん、そうしてくれると有り難いかな」
「ではご武運を」
地面に降り立ったエックスらに一礼をするコウフォーゲルはそのまま飛行艇を浮上させ、その場より飛び去って行く。
ソレイユと残されたエックスは若干困った様な顔で彼女を見てしまうのだ。
「やはり私の事を信頼していませんね?本当の本当に私も結構強いんですよ」
「あ、いやそう言う訳じゃなくて君とこうして話したりするのは殆ど初めてだなって思ってさ」
「そう言えばそうですね。エックスさんとお話をする機会はあまりありませんでしたね」
新人の頃よりそうだが同じ部隊長として何度も任務で顔を合わせ、アルバルドとは交友があると言えるが、彼の妹であるソレイユとは何度か顔を合わせ一言、二言挨拶をするだけで今まで殆ど話をした事がない。
ソレイユに対しアルバルドと違いどこかしっかりしている妹と言う印象を抱いていたエックスだが、ここに至るまでの強引さなどを見るに兄に似ている所もあると言えよう。
「とにかくドラグーンを連れ戻しましょうか。実は以前にも同じような形でドラグーンを説得しに行った時があるんですよ」
ニコニコと笑みを浮かべるソレイユは第一次イレギュラー大戦時に敵に拉致され、拳魔として覚醒したドラグーンを元に戻した時の事を簡潔に話す。
エックスにとっては己がハンターになる前の事であり、ある意味で新鮮な内容であった。
「あの時はシグマさんやヴァヴァさんもイレギュラーハンターでしたし、皆さん心強かったんですよ」
屈託無い笑顔で当時の事を語るソレイユだが、エックスの顔は若干重い。
隊長として一人の人物として今も尚、大きな目標とも言えるシグマはともかく、エックス個人の認識ではイレギュラーその物と言えるあのヴァヴァの事を話題にされ面白い筈もない。
「ヴァヴァさんと兄さんは訓練学校の同期で昔から二人で色々と問題を起こしたんですよ。でもそのヴァヴァさんもなんだかんだ言って兄や私を助けてくれたりして良い人で・・・」
「あの男がそんな筈は・・・あいつはただのイレギュラーだよ」
それだけ付き合いがあると言う事なのだろうが、自然と多くなるヴァヴァの話題にエックスは苛立ったようにそんな言葉を口にしてしまう。
エックスの表情からただならぬ因縁があるのを理解したのか、ソレイユは申し訳なさそうに頭を下げる。
「スイマセン。エックスさんはヴァヴァさんと何度か戦った事があったんでしたね」
「そうだけど。やっぱり俺個人は信じられないかな。あのヴァヴァが昔はある程度まともにハンターをしていた事実が」
エックス個人あの凶悪すぎる性格などさえ無ければヴァヴァも素直に尊敬するハンターの一人と認識していたであろう。
ソレイユは自身が会う前のヴァヴァを知っているが、自分は知らない。
そのギャップと言う物がなんとなくもどかしさを感じさせる。
二人で会話をしながらも端末が反応を示す先を目指し進んでいた時だった。
「・・・!?」
目の前に広がる光景にソレイユは反射的に口元を手で押さえる。
対してエックスはバスターを構えると周囲の様子に目を向ける。
二人の前に広がるのは累々と積まれたレプリロイドの残骸。
「これはレプリフォースの・・・?」
その残骸がレプリフォースの兵士達である事を確認し、エックスは小さく呻く。
辺りに輸送用の車両や機材などが散乱するのを見るに、レプリフォースの者達はここに基地を築こうとしたのだろう。
だがその作業に入ろうとした時に何者かに襲撃を受けたと見るべきか。
一撃の元に粉砕された最新型ライドアーマーのライデンのボディには、高熱の何かで溶かされた痕が確認出来る。
「まさかドラグーンが・・・?」
「そんな・・・幾らあの人でもここまで酷い事は」
真っ先に脳裏に浮かんだ推論を口にするエックスにソレイユが否定をする。
兵士達のボディに残された傷痕を見るに下手人は格闘術に長け、高熱を操るレプリロイドであるのは間違いない。
そして百人近く居るレプリフォースの兵士らを蹂躙できるとなるとドラグーンぐらいしか考えられない。
「とにかくドラグーンの反応を追おう。何者かは分からないけどここに居る部隊が全滅したと知れば、レプリフォースも確認に来るだろうし長居は出来ないよ」
とにかくドラグーンに会って事の次第を確認しなければいけない。
ソレイユと頷きあったエックスはドラグーンの反応を追うべく、駆け出そうとするのだが。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!
「なっ・・・?」
地を揺るがす振動に目を見開くエックス。
ここイエロストーン公園の地下には大量のマグマが溜まっており、大破壊の際には連動をするようにして噴火をし多大な被害をもたらした事でも知られている。
その火山活動が近年再び活発化する兆候が見られていたのだが、ある意味で最悪のタイミングで活動が始まったと言える。
「早くドラグーンに会わないと・・・」
収まりを見せる気配がない振動にエックスは公園にある山を見上げていた。
「俺知ってるんだぜ。アンタがここに大切な物が・・・とは言ったがねえ」
公園内にある一角にある貸し倉庫の中で一人のレプリロイドが呆れ顔で両の掌を広げる。
彼の隣に佇むのは禍々しい殺気を放つ竜の姿をしたレプリロイド。
「・・・くだらんな。先のスカイラグーンと言い・・・この様な物に阿呆共は現を抜かすか」
「俺個人もこの手の趣味はねえが特定の事に興じるってのは人間様やそれを模して造られた俺達の特権って事だな」
そう言って背を向けるレプリロイドの言葉にイグニード=リュウオーは鼻を鳴らす。
「アンタがそれらを馬鹿にするように武術とかもそういうのも興味がない奴らには糞の価値もねえがな」
立場故の価値観の違いはお互い様と嘲笑うように言うレプリロイドにリュウオーは怒るでもなく、ただただ淡々としていた。
その静けさがある意味で不気味でもあった。
「他人からの共感は求めぬ。我ら修羅はただただ己の強さを極める事にしか頭に無い故にな」
「ストイックだねえ~まあ俺様も殺しを楽しめればそれでいいがね」
有無も言わせぬ口調で話すリュウオーにレプリロイドはヘラヘラとした態度を崩さない。
そんな彼の背で凄まじい熱気と光が生じた。
「さっき一仕事してきたぜ。ここの公園の地下にあるマグマを制御する装置が完全に壊れるのも時間の問題だ」
「前世紀より溜まりに溜まった溶岩がこの地域一帯に溢れ出るか。さぞかし優美な物となろうな」
ドラグーンが秘密裏に借りていた貸し倉庫を無残にも破壊したリュウオーが口の端を歪める。
「優美ねえ・・・まあアンタの感性にはいちいち突っ込まねえよ」
レプリロイドは呆れ顔で言いつつもすぐに顔を歪める。
「エックスにドラグーン。イレギュラーハンターでも最強格の二人が激突するんだ。これは見物だぜ」
「まともにぶつかれば双方共にただでは済まぬな。どうせなら我個人が二人を相手取っても構わんのだが」
笑みを浮かべるレプリロイドとは対照的にリュウオーは渋い顔となる。
彼の顔には一種の飢餓感にも似た物がありありと浮かぶ。
(強敵との戦いを常に求めるか・・・だが強すぎるってのも問題だな。そこらの相手じゃ満足出来ねえんだからよ)
卑屈気に己を見上げるレプリロイドをリュウオーは気にした様子もない。
正しく歯牙にもかけないとはこの事であろうか。
「二人の戦いのお膳立てはしてやった・・・邪魔な部外者には消えてもらったのだ。後は存分に争ってもらおうか」
「レプリフォースの奴らここに前線基地を造ろうとしていたみたいだな。まあそれもアンタに襲われてお釈迦になったんだが」
リュウオーもレプリロイドも既に史上最大の大戦勃発が避けられぬ状況であるのは、十分に理解している。
このイエローストーン公園に基地を築こうとしたのは、レプリフォースが戦争を始めようとしている何よりの証拠。
リュウオーに強襲されたレプリフォースの部隊は恐らくリュウオーの事をドラグーンと誤認したまま、本部の方に報告を入れたであろう。
限界を超えた政府とレプリフォースの緊張に加えこれだけの駄目押しをしたのだから、戦争の一つや二つは起こってもらわねば困る。
「さてと・・・じゃあ俺も一旦帰るわ。リュウオーさんよ大戦が起こるのを楽しみにしていようぜ」
「・・・・・・」
軽い調子で別れの言葉を口にするレプリロイドにリュウオーは答えない。
不遜な態度を取る相手に今更怒る事も無くレプリロイドは端末を手にしていた。
「叔父貴か?俺だ・・・今からハンターベースに戻るから口裏合わせよろしくな」
端末の向こう側に居る人物に口を開きながら、レプリロイドはその場より姿を消した。
「己を偽る者共か・・・我からすれば唾棄すべき存在だが。我もスカイラグーンを落とす際に姿、名前を偽ったがそれらの屈辱すらも甘んじたは史上最大の大戦を起こす為よ」
薄笑みを浮かべるその瞳の奥には闇が漂う。
「我個人の願望ではあるがロックマンエックスを見事打倒して見せるのだな。さすればお前は更なる高みにのぼる事が出来よう」
修羅はこれより起こる事を脳裏に浮かべ静かに微笑む。
「ヒヒィィィィンッッ!!」
ドラグーンの反応まで間近と迫った時、茂みの中よりエックスらに襲い掛かって来たのは竜頭を持った白馬であった。
「白竜号!!」
エックスがそう叫び飛び退く。
僅かに遅れてエックスが立っていた場所に蹄の痕がハッキリと残される。
並のレプリロイドであれば白竜号はその強靭な足で踏み砕くとも言われている。
最近になって特A級ハンターを中心に配備されているライドマシン、アディオンと同様に白竜号はドラグーン専用のサポート型メカニロイドでありその性能は折り紙付きだ。
話によればドラグーンを制作した南鳳星グループによって以前より開発されていたらしいのだが、自らが持ち主を選ぶと言うメカニロイドらしからぬ習性を持っていたが為に今まで誰の乗り手が居なかったのだと言う。
実際に文字通りの単騎でイレギュラーの集団を蹴散らす姿を、現場で見た事があるだけにエックスは緊張を覚える。
「グウウゥゥゥ!!」
鼻息を鳴らしながらエックスを睨み据える白竜号は明らかに興奮をしているようだった。
持ち主と認めたドラグーン以外にその背を預ける事を許さない白竜号。
彼は威嚇するように左右を行ったり来たりしながらも、その瞳はエックスを捉えて離さなかった。
「エックスさん!!ここは私に任せてください!!」
白竜号の前に進み出るのはソレイユだ。
当然それを見たエックスは慌てて首を振る。
「でも・・・あれは特A級ハンターに匹敵するだけの性能を持ったメカニロイドなんですよ」
「大丈夫です。ドラグーンさんと同乗した形ですが。私はあの子に乗った事がありますから」
根拠の無い自信を見せるソレイユだったが、確かにこの場で足止めを食らっている余裕はない。
迷いを見せるエックスの背を押す様にソレイユが屈託の無い笑みを向ける。
「ぜ・・・絶対に無理だけはしないでくださいね」
後ろ髪を引かれるような思いでエックスはその場を駆ける。
「ヒヒィィィンッッ!!」
当然それを阻止せんと動く白竜号だが、彼の脇を一発の光弾がすり抜けその動きを止める。
その間にエックスはその場を抜け出しており、白竜号は両手を構えたソレイユへと視線を移す。
「白竜さん。ここから先は通しませんよ!!」
己に指を向ける少女に白竜号は喉を鳴らす。
「言っておきますけど私も結構強いんですから。白竜さんには負けません!!」
そう言ってソレイユはどこぞのヒーローの如くポーズを決める。
「装着~!!シャイニーアーマーです!!」
ピカアァァァァァ!!
掛け声と共に光に包まれるソレイユ。
その光が収まると青味がかった銀色のアーマーが現れる。
「ヒヒィィィィンッッ!!」
再びポーズを決めようとするソレイユに白竜号は鳴き声を響かせながら駆け出していた。
そしてソレイユに後を任せたエックスも。
ブアァッッ!!
その熱気とも殺気とも取れる気配にエックスは反射的に顔を背ける。
「ぬううぅぅぅぅ!!」
現場へと辿り着いたエックスが見たのは無残にも破壊された無数の貸し倉庫が点在する公園内の敷地。
先程から地面が少し揺れているのもあるが、ドラグーンを中心に放たれる気配にその様な事への意識は削がれる。
もしも自分が新人であれば息が出来なくなっていたかもしれない。
それだけの殺気を『爆炎の武闘家』と呼ばれる最強格のハンターは周囲へと放っていた。
「俺の俺の・・・誰だ?こんな事をしたのは!?さっきのレプリフォースの連中か?」
「ドラグーン。どうして脱走なんかしたんだい?総監から君をハンターベースに連れ戻す様に命令を受けている。それと聞きたくは無いけどさっきのレプリフォースの部隊はまさか君が壊滅させたんじゃないよね?」
先程から唸り声を上げるドラグーンにエックスは言葉を選びながら、事を穏便に収めようとするのだが。
「俺を疑うのかエックス?」
ギロリと睨まれエックスは息を呑む。
「ちが・・・だけどこのままじゃ君には嫌疑が」
「お前も俺を疑うかああぁぁぁ!!」
怒りを爆発させたドラグーンにエックスは後ずさるしかない。
「ちょっと落ち着いて・・・俺の話を」
何とか宥めようとするエックスだが、宥めようとすればするほどドラグーンの興奮は高まっていく。
「この貸し倉庫に何があったのかは知らないけど、たかがモノの為に興奮しなくても・・・」
部隊長としての職務以外は殆ど趣味らしい趣味を持たないエックスは分からなかった。
自身の発した言葉がドラグーンの逆鱗に触れた事に。
因みにだが一般隊員からすれば大体が変わった性格を持つと認識されている特A級ハンター達。
その中で趣味らしい趣味を持たないエックスもまた、周囲からは変わっていると認識されているのは言うまでもない。
ともあれエックスは踏んではいけない虎の尾ならぬ竜の尾を踏んでしまっていた。
いやこの場合は先程の様に逆鱗と言った方が正解か。
「そんなモノ・・・だとぉぉぉぉ!!この貸し倉庫に保管していた俺のコレクションをそんなモノと言ったか」
ボンッッ!!
ドラグーンが咆哮と共に放った闘気にエックスは一メートルほど後ろに飛ばされる。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
吹き飛ばされ体勢を元に戻そうとするエックスへと問答無用に殴り掛かってくるドラグーン。
怒りのあまり我を失ったドラグーンの拳を受け止めながらエックスは目を白黒させる。
何故ドラグーンが怒り狂っているのかも分からず、エックスは再度言うのであった。
「コレクションって・・・モノはモノでしょ?」
ブチッッ!!
困った様に言うエックスの言葉にドラグーンの血管が切れた。
冗談抜きで何本か切れる。
恐らくここまで彼が激怒するのは十年に一度あるか無いかだろう。
「どうやらお前は本気で死にたいようだな?エックスゥゥゥ!!」
ドラグーンが拳を構え全身より殺気を放出する。
「俺を連れ戻したかったら全力で来い!!」
拳を構えるドラグーンを前にエックスは未だに何がどうなったのか分からず、困惑を露わにするしか無い。
ドラグーンとの対峙に全神経を集中せざる得なかったエックスはこの時知らなかった。
既に自身らが知らぬ所で事態が最悪の方向に進んでいる事を。