RockmanX4 War of Repliforce 作:グルルre
突然のレプリフォースの武装蜂起より時間は戻る。
「くそう・・・足りねえ」
獅子の姿をしたレプリロイドが端末を前に呻く。
「足りねえってお前の頭がか?だったら最初から諦めな」
隣で頭を抱えるスラッシュ=ビストレオを茶化す様に笑うのはフロスト=キバトドスだ。
自身の頭の悪さを馬鹿にされ鋭い視線を向けてくる彼にキバトドスは平然としたものであった。
お互いの短所を口にしあうのは挨拶の様なものだが今回ばかりは少し違う。
「足りねえのは物資だっての。いいか・・・このまま連邦政府に喧嘩を売ったとしてもだ。俺達の武器弾薬やエネルギーパックは一年・・・いや半年で尽きる。シグマの反乱の時に俺の部隊で生じた物資一日の消費量とかを参考に計算した結果だ」
元より武勇に秀で策謀にはからっきしのビストレオだが、兎にも角にも兵站の確保には人一倍うるさい。
キバトドスからすれば何故そこにばかり気が向くのかは知らないが、まあ確かに弾薬やエネルギーが補給できねば自身らが戦えないのは正論であるし、そこを気にするようになっただけ昔の頃よりも成長したと言える。
スカイラグーン事件後にハンター達に出頭を約束していたカーネルだったが、突如としてその掌を翻し連邦政府への出頭を拒否した事で陸軍内ではクーデター止む無しの論調が強くなってきている。
同時に誠意ある対応を見せないレプリフォースに対するメディアの反応は冷たく、今も世界各地の支部基地周辺で民間による抗議活動が続いている。
別にビストレオからすればクーデターをするかどうかはこの際どうでもいい。
だが開戦するにしてもこのまま戦いを挑んでは勝てる見込みがないだけに、開戦に踏み込むのは拙いと認識している。
ビストレオの計算が正しければレプリフォースは今保有する物資を半年後には食い潰す事となるのだから。
「まあ人間様に喧嘩を売ればそいつらが経営する企業や団体から支援は受けられなくなるからな。そもそもレプリロイドが経営者の企業も今回の俺らの馬鹿げた主張を聞けば確実に手を引くだろうよ」
「今、陸軍を牛耳ってるのはこの辺の事なんざ考えもしない若造共ばっかりだからな。気合いだ根性で腹が膨れるかってんだ」
キバトドスの言葉にビストレオが鼻を鳴らす。
どこか悪しき体育会系を思わせる精神論など寧ろビストレオの様なノンキャリア組にこそ蔓延る風潮だが、現在陸軍でその様な考えを持って居るのがキャリア組の若手将校に多いのだから救われない。
キバトドスらからすれば戦場において生死の境を経験していないからこそ思い至ってしまう考えである。
まあこれはレプリフォースが規模や質において他の追随を許さない組織であるが故に起こった弊害だ。
絶対的に自身らに有利な状況、滅多な事さえ無ければ負ける事がない戦いしか経験の無い若者達。
そんなぬるま湯同然の戦いを繰り返していれば、本来経験と共に備わるべき感覚など麻痺してしまうだろう。
かつて大首領アルバートが引き起こした第一次イレギュラー大戦に参加した者とそうでない者の考え方の違いは顕著となって来ている。
少し悲しいがそれは自身らが年を取ったとも言えるのだが、今の若手達は少し思い違いをしているのではないかとキバトドスは思うであった。
「それでてめえはどうすんだ?」
「どうって何がだ?」
ビストレオに問われ顔をしかめるキバトドス。
「独り身の俺と違ってお前には何時も自慢している嫁が居るじゃねえか。元イレギュラーのお前個人は元の鞘に収まるだけだが、イレギュラーなんぞになったら嫁が泣くだろ」
「・・・・・・ッ」
相手の指摘にキバトドスは初めてその顔を歪ませる。
彼の顔に浮かぶのは似合わないにも程がある迷いの念だ。
「俺のワイフの事は・・・他人のお前には関係ねえ事だ」
「関係なくねえだろ。お前ほどの奴が抜けるのは痛手だがこればっかりは仕方がねえさ」
鼻を鳴らすキバトドスにビストレオが笑う。
「だったらてめえも・・・」
「済まねえが俺にはここしか居場所が無いんでな。ハンターみたいなお利口さんな仕事はまず無理だし、だからと言って自然公園のガードマンみたいな仕事もコリゴリだ」
呻くように口を開くキバトドスにビストレオが豪快に笑う。
そんな彼の顔に巨大な拳を叩きつけながらキバトドスは睨み据える。
「うるせえ!!メリーは俺が選んだ嫁だ。てめえの為に仲間を見捨てる様な選択をする男なんぞ見たら幻滅するに決まってるだろ。まあ迷いが無いと言ったら嘘になるが、今更お前らやカーネルの野郎に馬鹿な若造共を見捨てられるかよ」
「だがな・・・」
「次言ったら本気でぶん殴るぞ」
巨大な胸を張る様にして言うキバトドスにビストレオは尚も口を開こうとするが、僅かに殺気を生じさせる相手に口を閉ざす他無い。
「どんなに状況が苦しいだろうが勝つしかねえんだよ俺達にはな」
「・・・キバトドス」
自身に背を向けるキバトドスにビストレオは力無い声しか出せなかった。
腹を括らねばいけないと両者が待ち受けるだろう破滅の未来に覚悟を決めた所だった。
「遂にカーネル閣下はご決断なされた!!」
「今こそ我らを不当に抑圧する人類から独立を宣言するのだ」
彼らの耳に入るのは何も分かっていない若造達の声。
見れば陸軍本部の中庭で何人かの陸軍の士官らが兵士や下士官らを集めアジ演説を始めていた。
正直彼らの演説を止める為に殴り込みたい衝動に駆られるが、それをグッと堪える両者。
徐々に夕日が沈むのを彼方に見据え彼らは溜息を漏らす他無かった。
「一時的な武装解除・・・それにカーネルばかりかこの私への出頭要請だと!!これを拒否すればイレギュラー認定もあり得るなど・・・」
レプリフォース総司令部にてジェネラルが目の前の少女が手渡した書面の内容を口にし彼女を睨み据える。
対する彼女・・・大統領補佐官アッシュ=W=ワイリーを名乗った少女はジェネラルの殺気が籠った視線に対し薄笑みを返すのみだ。
「ここまで疑いが出た以上は仕方ないですよね?先程連邦政府は議会での賛成多数によってレプリフォースへの強制査察を決定いたしました」
「ぐぬ・・・!!」
アッシュの言葉にジェネラルは呻く。
スカイラグーンでの生存者の証言や発見された物的証拠は何もかもがこちら側に不利になる情報ばかり。
連邦市民から生じる怒りの声に後押しされる様に連邦政府は詰問に近い形で補佐官の少女を差し向け、挙句に自身らの武装解除まで要求しに来ている。
半ば絶望しか感じない状況にジェネラルはただ大きな声で呻く他無い。
「流石に政府もレプリフォースを潰す気はありません。武装解除はあくまでもその疑いを晴らす為の一時的な措置と思って下さいね」
ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべるアッシュだが、そんな彼女の態度がジェネラルの神経を逆撫でする。
「し・・・しかし。それでは現場に現れたと言うドラグーンやハンターもそうではないか!!何故我らばかりに疑いの目を向ける!!カ・・・カーネルがスカイラグーンに出撃をしたのもあのドラグーンがここを襲撃し、奴の妹を拉致したからなのだぞ!!」
「ドラグーンに関しては彼に似たイレギュラーが現れたと言う事であり。生存者の中には彼に助けられて一緒に逃げたと言う証言をする者もいますし、巨大イレギュラーがスカイラグーンに現れた時にドラグーンは同所の別の場所に居たと言う事でアリバイも取れていますねえ」
イレギュラーハンターにも疑惑がある事を言うジェネラルだが、悲しいかなその辺の疑いはすぐ晴れてしまいそうだ。
「仮にあれがレプリフォースの名前を騙ったイレギュラーとしても何故、スカイラグーンが襲撃された直後にカーネル閣下は姿を現したんでしょうね?落下した後に現れたのであれば分かります。ですがカーネルが現場周辺に現れたのはスカイラグーン落下直前と言うではありませんか・・出来過ぎとは言え妖し過ぎます」
ニヤリと笑みを浮かべるアッシュ。
「まあカーネル閣下への出頭要請は引き続き行いますが、最高司令官であるジェネラル閣下への出頭は些か行き過ぎかと私も思います・・・ので閣下もそう言った気が無い事を示していただきたい」
「何を以って・・・お前達に示すと言うのだ?」
片目を閉じながら言うアッシュにジェネラルが歯を軋ませる。
「・・・大量破壊兵器の引き渡しと凍結。それを条件に連邦政府は閣下個人への出頭要請は取り消す事とします」
「ぐぬ・・・」
軍隊であるレプリフォースは前世紀に配備された弾道ミサイルを始め、数多くの兵器を有している。
余程の事が無ければまず使う事も無い物だが、それがあると言う事実がレプリフォースを連邦政府から半ば独立した組織として認めさせている要因の一つだと言うのは紛れも無い事実だ。
それを手放すと言う事はレプリフォースの力が衰える事であり、普段であれば到底認められない事だ。
(だがここで出頭要請を無視すれば・・・)
連邦政府は更に攻勢を強めて来るだろうし、水面下で進めているクーデターの動きを感づかれる恐れがある。
それ故にジェネラルの答えは決まっていた。
「地球上に配備されている大量破壊兵器だけで良いのだな?」
ジェネラルの言葉にアッシュは満足げに頷く。
(覚えておれよ小娘・・・)
その後もあれやこれやと話をしてくる少女にジェネラルは殺意を抑えるのが必死であった。
レプリフォースは政府による限定的な武装解除を認めたものの、それによって更に高まる兵士らの不満を抑えるのは並大抵の事では無い。
このままでは己らが誇りとして来た物を全て奪われる。
その現実を前に平静でいろと言うのが無理な話なのであろう。
「もはや我慢ならぬ・・・今の今まで堪えて来たがもはや限界よ」
主だったレプリフォースの幹部が集められた席でそう言い放つのは事もあろうに最高司令官ジェネラルその人だ。
全身を震わせながら血走った目を向ける彼の姿は狂気さえ宿っている。
もしも彼が人間であれば頬なども痩せこけていたであろう。
「よくぞ・・・・言ってくださいました。我らも同感であります」
陸軍元帥カーネルもまた立ち上がり、ジェネラルの意に賛同する。
あまりにも急なジェネラルらの動きに待ったをかけるのはサメの姿をした将官。
「お待ちを!!ジェネラル閣下・・・そしてカーネル。私はお前に出頭を促す為にこの場にやって来たのだ。今すぐでも遅くは無い・・・すぐに武装を解除し政府に出頭するんだ」
「その様な事は聞けませんな。ジョーズィ提督・・・・スカイラグーンの事など些細な事。問題は我らの誇りが奪われようとしている事なのですぞ」
海軍提督であるブレイバル=ジョーズィに対しカーネルは鼻を鳴らしながら言い放つ。
生粋の軍人であるカーネルと技術屋上がりのジョーズィとでは意見が折り合う筈もない。
「問題をすり替えるんじゃない!!このままでは我々がイレギュラーとして見られてしまうのだぞ!!君はそのつまらない誇りの為に軍全体の仲間を危険に晒しているのが分からないのか」
ジョーズィが滅多に上げぬ怒声を響かせる。
軍人でありながら普段は温厚な人柄で知られる彼がここまで声を荒げている。
それだけジョーズィが今のレプリフォースの状況を憂いており、危機的な状況である事を認識しているからなのだ。
「私は決めた・・・いや以前より疑念に思っていたのだ。人間の為に戦い血と汗と涙を流してきたが、その結果がこれだ。これでは何の為に戦って来たのか分からん・・・政府の俗物共に思惑などに利用されぬように我らは人類より独立国家を創り上げる!!それしか道は無い!!」
「ジェネラル閣下!!」
血走った目をそのままに話し出すジェネラルにジョーズィが制止しようとするが。
バキャッッ!!
何が起こったのかジョーズィ自身も理解出来なかった。
「が・・・はっ!!」
「て・・提督!!」
問答無用でジェネラルに殴り飛ばされたジョーズィにウェイブ=アンコーラが駆け寄る。
「な・・・なんて事を。いくら最高司令官とは言えあまりにも無礼ですわよ!!」
その声を僅かに震わせながら水色の髪が特徴的な女性士官がジェネラルに抗議する。
「シーラ・・・貴様もこの男と同じか」
カーネルが士官学校の後輩に当たるアクアヴィル=シーラを見据えながら言い放つ。
「前から言おうと思っていましたけど・・・誇りの前に守る物があるのでは無くって?そうでなくても役目も全て放り出して妹のアイリスを助けに行こうとしたのは」
「黙れ!!貴様如きに責められる謂れは無い」
責める様なシーラの言葉を遮りカーネルが鋭く言い放つ。
「ハッ・・・ざまあねえな」
その痛みよりも衝撃の方が強かったのか立ち上がれないジョーズィに薄笑みを浮かべるのは半漁人の姿をした将官タイダル=オアンネルだ。
「カーネル、こんな奴を相手にしている時間がもったいないぜ。他の奴らは知らねえがてめえらにこの俺は賛同するぜ」
オアンネルの言葉に周囲の海軍士官が同調する様な顔を見せる。
ガシッッ!!
不意にシーラの胸倉を掴みながらシーラを目の前にテーブルに押し倒すオアンネル。
「無礼なのはてめえだぜ小娘!!俺達海軍に臆病者や小娘はいらねえ・・・でありますよねジェネラル閣下?」
「くっ・・・お放しなさい!!」
その振る舞いにカタパルト=ヒトデロンはその顔を今にも真っ赤にせん勢いで立ち上がろうとするが、その前にシーラがオアンネルを押し退ける。
そんな彼らの様子をアーバレスト=ダックスビルが独り嘆息していた。
「カーネル元帥にジェネラル将軍を侮辱する輩に裁きの鉄鎚を!!」
まるで最初から申し合わせていたかのように海軍士官の一人ジェット=スティングレンが声を上げる。
それに続けてとばかりに周囲の若手将校らが声を上げる。
「そうだぁ海軍は独立戦争に参加を表明してやらあぁ!!」
彼の言葉を受けオアンネルが意気揚々と口を上げる。
ダンッッッ!!
今にも爆発せん勢いの彼らを押し止める様に机を叩くのは梟の姿をした老将だ。
「行けませんぞ・・・ジェネラル閣下。そしてカーネル、オアンネル貴様らも目を覚まさんか!!」
「フクロウル爺さん・・・アンタは」
「貴様の様な見え透いた野心を持つ者が軽々しく口を挟むな!!」
空軍のみならず軍随一の智将であるストーム=フクロウルの言葉にオアンネルらが黙らされる。
彼もまた前代未聞のレプリフォースの危機に頭を悩ませていた良識派の一人。
海軍の長ではあるとはいえまだ若いと言えるジョーズィと違い、現役軍人の中で最古参の人物である彼の言葉を遮る事は誰も出来ない。
「フクロウル・・・ジェネラル将軍に次ぐ古参である貴方に皆が遠慮するだろうけど言わせてもらうよ。僕らの尊敬するカーネルのそして組織の誇りが奪われようとしているのに貴方はそれをただ黙って居ろと言うのかい?老いてしまった貴方はもはや軍人としての気概も捨ててしまったのか?」
そんな彼を注するのは各軍の長でも最も若い空軍長官のスパイラル=ペガシオンだ。
彼は立場上、上司と言う事もありフクロウルに対し臆する事無く口を挟むのだが・・・。
「このフクロウル。老いたとは言え軍人の誇りは常に胸に抱いておりますぞ。誇りの為に政府に反旗を翻すのも結構。ですがペガシオン長官・・・・では貴方は自らイレギュラーとなるのですか?」
「・・・・・・!!」
静かに言い放つフクロウルの言葉にペガシオンは目を見開き僅かにそれを泳がせる。
「ぐっ・・・それとこれとは。僕は前にそんな嫌疑が掛かった時にカーネルに助けてもらって・・・」
流石にフクロウルに言論で勝つのは難しいのだろう。
フクロウルに打ち負かされたペガシオンは切れが悪い口調で話すのみ。
「兄上・・・誇りの為に戦うであります!!」
スレイプニールがペガシオンに参加を促す。
「空軍の事は空軍が決める!!部外者の小僧が口を挟むな!!」
がそれも声を荒げるフクロウルによって黙らされる。
「ああ・・・どうすれば」
誰にともなくそんな声を漏らすのは空軍士官の一人でペガシオンの妹であるオーロラ=フレイアだ。
各軍が怒鳴り散らす場で何も出来る筈が無く彼女はオロオロとするばかり。
彼が居れば今頃、何かを言っているのだろうが生憎、彼はここには居ない。
(ケッ・・・下らねえ)
口々に口論をする彼らを冷ややかな目で見つめるのは陸軍士官の一人バーン=ディノレックスだ。
革命だのなんだのに興味が無いディノレックスはカーネルに対し内心でほくそ笑みながら事態を見守る。
「フクロウル・・・私が最高司令官だぞ。私の命令に従えぬと言うのか!!」
「主が過ちを犯すのであれば部下がそれを正すのが忠君の務め!!はっきり言いましょうぞジェネラル殿・・・貴方は間違っておいでだ」
遂にはジェネラルが声を荒げるもフクロウルもまた一歩も退かずに彼を指差しながらジェネラルを糾弾する。
今にも互いに殺し合いを始めんかと言う勢いに何人かの日和見な者達が後ろへと下がろうとする。
「・・・・・ハァ」
緊迫した場に水を注す様に嘆息が漏れる。
嘆息をした張本人である人物にジェネラルとフクロウルが振り返る。
互いにぶつけあっていた激情をそのままぶつける両者の視線に対し全く意に介した様子も無く鼻を鳴らすのは宇宙軍総司令ギャラクシー=キリンタイザーその人だ。
今回の事すらも彼からすればあくまでも他所事に過ぎないと言った所かこの会議が始まってより、彼は興味なさげな様子であった。
「喚いた所でどうにもなるまいに・・・この際だから白黒付けるのだ」
キリンタイザーの言葉に周囲がざわめく・・・・。
「連邦政府に対しクーデターとやらを行うのか・・・否かを」
「クーデターではない!!これは正当なる権利を主張する為の行動である!!」
キリンタイザーの言葉にジェネラルが激高する。
「失礼・・・ともあれ武装蜂起するか否かを多数決でも何でも良いから決めるのだ」
彼の言葉に今まで騒いでいた声が静まりかえる。
「このカーネルはジェネラル将軍と同じ意見だ!!我らの誇りを取り戻す為に陸軍は全面的に協力する!!」
ややあって宣言されるカーネルの言葉に陸軍の士官らが同じような声を上げる。
「カーネル・・・正気か」
今まで黙していたソルブライト=アテネが諦めの念と共に席に座ったカーネルに声をかける。
「ええ正気ですとも。アテネ少将はいかが致しますかな?貴殿が参加しようがしまいと私個人としては別にどちらでも構いませぬが」
陸軍元帥就任以降、路線の違いもあり共に陸軍を束ねるべき彼女とカーネルの関係は微妙なものとなっているだけにお互いの言葉には棘がある。
「馬鹿な・・・・私に軍をお前らを見捨てろと言うのか」
自嘲気味な笑みをその顔に浮かべアテネはもはや失望さえ表に出す事も無く周囲に目を配る。
「私は反対だ・・・・クーデターを起こすくらいならば君達と一戦まみえよう!!」
ジョーズィは失望も露わに吐き棄て自身を支持するシーラ以下の面々と共に退席してしまう。
「ヘッ・・・まああんな奴らどうって事はねえよ。協力するぜ・・・ジェネラル閣下」
オアンネルが下卑た笑みを浮かべ残った武闘派の面々と共に立ち上がる。
「空軍として僕はカーネルらに賛同する」
「・・・・長官!!」
「僕達の誇りは僕達で取り戻さなくてはならないんだ!!フクロウルは黙っていてくれ」
ペガシオンが尚も抗弁するフクロウルを強引に押し退ける形でクーデター参加を表明する。
その後ろでフレイアが俯いたのに彼は気づいてさえいなかった。
「流石は兄上!!共に我らの力を見せてやるであります!!」
「ああ・・・僕もすぐに艦隊を率いて参加しよう」
弟のスレイプニールの喝采にペガシオンは力強く答える。
「さて・・・俺はだが」
キリンタイザーが面白げに口を開く。
ある意味でこの場において重要な戦力を握るだけに彼が参加するか否かで大きな影響力がある。
「まあ数の多い方に賛同してやるのだ」
それはクーデターに参加する事を意味する言葉であり、ジェネラルが胸を撫で下ろしたように嘆息する。
「では決行日は日を追って決める。各軍すぐさに準備をし我が下に集うのだ!!」
「「「イエッサーーー!!!」」」
ジェネラルの言葉に敬礼を返す将校達。
この瞬間を持ってレプリフォースが人類に対し反旗を翻す事は避けられぬ事となっていた。
「ぬううぅぅぅ!!こんなふざけた話があるか!!」
周囲が慌ただしく動く中、己のオフィスに戻ったフクロウルは自身の苛立ちを抑えきれずにその拳を机に叩きつけていた。
先の会議もそうだが滅多に見せぬ激情に対面する様にして椅子に座る少女の肩がビクリと震える。
「あの・・・フクロウル閣下。お兄様がクーデター参加を表明したけどボク達、このままじゃあイレギュラーに認定されるって事ですよね?」
遠慮がちに問うてくるフレイアにフクロウルは自身も我を失いかけていた事に気づく。
「スカイラグーン落下の真相がどうあれ連邦政府が此度の一件に乗じて我々に圧力をかけてきているのは事実だ。だがそれに抗議して武装蜂起などすれば相手の思う壺よ。現時点においても世間は我々に疑念を抱いておるのだ。そんな事をすればスカイラグーンの一件も我々が犯人と認めた事となる」
取り繕う様に笑みを浮かべつつ話すフクロウルにフレイアはまたしても押し黙った。
「アイリスが敵に拉致されたからカーネル元帥がスカイラグーンに行く事は・・・。ボクがしっかりしていていればアイリスは・・・」
「いやその事はお前だけの責任ではない。軍全体の事を考えればカーネルはその場に留まるべきだった。妹可愛さに私情を優先したカーネルにこそ問題がある」
謎の刺客にアイリスが拉致された際に彼女の間近にいたフレイア。
自身がしっかりしていれば今回の事は起こらなかったと思いつめる彼女にフクロウルは慌ててフォローを入れる。
不器用な彼の言葉に一応は微笑むのだが、フレイアの顔が本当の意味で晴れる事は無い。
「武装蜂起なんて絶対に駄目だけどお兄様も完全に頭に血が昇っているから多分、ボクが言っても聞いてくれないよ」
「そうだろうな。ああ見えてペガシオンは少々頑固な所もある。自身が尊敬するカーネルを侮辱されて怒り狂っている・・・妹のお前が説得を試みても火に油を注ぐ様なものだ」
この状況を何とかしようと互いに思案するが答えなど出て来る筈がない。
そんな折であった。
一室に訪問者を告げるアラームが鳴る。
フクロウルが入室を許可する旨を携帯端末に送ると訪問者はすぐに姿を現した。
「エステル室長。はっきり言ってとんでもない事になりましたな」
「ええ・・・全くね」
レプリフォース兵器開発室室長のエステル=アニモナータは大きく嘆息するとフクロウルらと共に席に座る。
「私としても迂闊だったわアイリスの怪我の修理を優先していたあまり、ここまで事態が進むまで気づかなかったんですもの」
エステルはここにやってきた経緯をフクロウルらに簡潔に話す。
アイリスの修理が一段落した所で周囲が人類からの独立云々の発言を公言する様になった事に不審を抱いたエステルは、すぐにカーネルに問い質そうとしたのだが面会は叶わず。
カーネルの生みの親と言う事で手荒には扱われる事は無かったが、兵器開発室の一室に半ば軟禁状態に置かれる事になったのだと言う。
「・・・何という暴挙だ」
エステルから説明を受けたフクロウルの顔が険しくなっていく。
「しかし監視が居たのでは?どうやってこの空軍のオフィスに・・・?」
「ええ・・・それは彼が」
シュンッッ!!
人間である彼女が監視の目を逃れて単独で抜け出して来る筈など無く、エステルは自身が入って来た扉に目を向ける。
エステルの言葉に促される様にして入って来るのは、フクロウルにとっては予想外の人物であるキリンタイザーその人であった。
「たまたま立ち寄ってみれば何やら窮屈な待遇であったので、少々息抜きをさせるべきと連れ出してやったのだ」
恐らくは監視役を半ば脅す様な形で彼女を連れ出してきたのだろう。
喉を震わせるキリンタイザーはフクロウルらを見渡す。
「貴様・・・何を考えている?」
前々から油断ならぬ人物であるキリンタイザーにフクロウルは警戒しながら問う。
「何も・・・と言えば嘘になるがどちらにせよジェネラルは終わりだな」
両手を広げながらキリンタイザーは静かに首を振る。
会議の席ではああ言ったものの彼もまた今回のクーデターに賛同する気が無い事が窺えた。
「俺としてはレプリフォースがどうなろうと知った事ではない。お前達には悪いがな」
どこまでも他人事な態度を取るキリンタイザーに反感を抱くフクロウルだが、彼の出自を鑑みれば仕方がないとも言えるだろう。
「ジェネラル閣下を始めとするレプリフォースの暴走を止める為に私はこれから父や兄の所に向かおうと思っています」
エステルの言葉にフクロウルが目を見開く。
正直、あまり良好とは言えないがエステルの父は軍務大臣のシュワルツ=シュタイナーであり、兄のフレデリックは政府軍の幹部の一人。
彼女が取り計らえばこの事態を打開できる可能性は十分にある。
「しかしカーネル派の者共がその様な事を許す筈が・・・」
エステルの勇気は買うが生身の人間である彼女がここから逃げ切れるとはフクロウルには到底思えない。
「ある程度の所までは俺が連れて行こう。部屋から息抜きに連れ出すとは言ったが、外にまで連れ出さないとは言っていないからな」
薄笑みを浮かべるキリンタイザーにフクロウルは苦笑しつつもその後の事を思案した時だった。
「エ、エステル博士の護衛はボクがします」
フレイアの言葉にフクロウルは驚いた様に目を開く。
「ボクもレプリフォースの蜂起を兄様のイレギュラー認定だけは何とか避けたいから。このまま黙っている事なんて出来ないよ」
一瞬、止めようと思ったフクロウルだが少女ながら兄譲りの強情さを持つフレイアの事だ。
ここで制止してもいずれは動き出すだろう。
であればとすぐさに思考を切り替えたフクロウルは己の脳裏に浮かんだ案に苦笑する。
「キリンタイザーらの誘導で敷地外に逃げたと言えどすぐに追手が派遣されよう。如何にフレイアが実力があろうとも単身でエステル室長を守りながら逃げるのはあまりにも無謀だ」
淡々と事実を口にするフクロウルにフレイアもエステルも黙り込む。
「ほんの少しだけ時間をくれぬか?ここからの離脱に協力してくれる者に私が声を掛ける。彼も今回の事態には心を痛めておるだろうしな」
首を傾げる両者を前にフクロウルは端末を取り出すと不敵に笑うのであった。
「・・・っ!!」
自身が姿を現すなり武器を構える将校達の姿にジョーズィは思わず呆れた様な顔をする他無い。
元より技術屋上がりの提督であり、武断が美徳とされる海軍内で尊敬を集めていた訳ではないがここまであからさまだともう笑う他無い。
「もはや我ら一同貴方を海軍提督とは思っておりませぬ故に如何な言葉にも耳を貸しませぬ」
「それで結構。私も君達を栄光ある海軍の者とは考えてもいないさ」
平時であれば処罰されるであろう言動の将校にジョーズィも皮肉で返す。
そんな彼に鋭い視線を向ける将校達。
「誰かスティングレン少佐をお呼びしろ」
将校の一人がそんな言葉を口にした時だった。
「これはこれはジョーズィ提督。こんな所に何の用ですかな?」
将校らを押し退ける様にしておくから姿を見せるのは海軍参謀のダックスビル。
腹心であるシーラも引き連れずに武断派が多く居るオフィスに姿を現したジョーズィに心底驚いたと言う顔だ。
「なあに話は簡単だ。オアンネルと少しだけ話がしたい・・・私の要求はそれだけだ」
ジョーズィの言葉に将校らがざわめく。
「その様な事が通じるとでも・・・」
「いいでしょう。では案内します」
一人の将校が鼻で笑おうとした時、ダックスビルは頷きながらあっさりと申し出を受け入れる。
「それじゃあ頼むよ」
ダックスビルに笑みを返しながらジョーズィは彼に付き従う。
「闇討ちなどと言う愚かな事は考えないでくださいよ。わざわざ敵地を訪れた敵将に襲い掛かるなど、貴方がたが普段から口にする誇り高き軍人としてあるまじき行為なんですから」
今にもジョーズィに襲い掛かりそうな雰囲気を察したのか、ダックスビルが制止する様に口を開く。
悔し気に顔を歪ませる面々にダックスビルは酷薄な笑みを浮かべジョーズィを案内するのであった。
「おう・・・酒でも飲むか?」
オアンネルの私室に入るなり、彼は宿敵と言える優男にそう声を掛けていた。
無言のまま苦笑いを浮かべる相手にオアンネルも口の端を歪める。
「知ってるよ・・・てめえが下戸な事ぐらいは」
相手の分と自身の分を勝手に注ぎながらオアンネルはその巨体を椅子に預ける。
豪快に笑いながらグラスに注がれたワインを飲み干すオアンネルに抱くのは、あまりにも品が無さすぎる姿への嫌悪感かそれとも自分が飲めないが故の羨望か。
己の利益や出世の為であればいかなる行為にでも手に染める事をいとわないオアンネル。
愚劣な男と切り捨てる事も出来るが、同時に彼は己の腕一つでここまでの地位に上り詰めてきた。
少なくともそれはジョーズィにとっては不可能と言える事であり、逆に相手の方も自身の様に策謀でもって出世が叶う事は無かった。
「もはや無駄とは思うが考え直す気は・・・」
「ねえな。ジェネラルが反乱を起こすなら願ったり叶ったりだ。海軍で多数派を占める武断派は俺が牛耳っているんだ。さっきの会議で反ジェネラルの立場を鮮明にしたお前は強制的に解任で俺がまた海軍提督に返り咲くってわけだ」
自身の言葉を遮りながらオアンネルは下卑た笑い声を響かせる。
「言っておくがこれはレプリフォースを潰さんとする何者かの罠だ。敵が分からない中で挙兵をした所で勝てる見込みなんて無いぞオアンネル」
「んなもんは分かってるよ。だがてめえだけでこの反乱の気運を止められるか?」
「我が身の不徳をここに来て思い知らされるよ」
舌打ちをしながら頭を抱えるジョーズィ。
彼がどの様な説得を行っても既に反乱の為に動き出している海軍の将校らを止める事は不可能だと断言できる。
「まあそう言う訳だ。お前も最初から分かっているのに賢人らしからぬ無駄な行動をしたもんだ」
ゲラゲラと笑いながらオアンネルはジョーズィの目の前にグラスを置き、自身の物にも新しいワインを注ぎ込む。
暫しの間、じっとワインを見つめていたジョーズィだが、彼はそれを手に取るとオアンネルのグラスと叩き合わせる。
甲高い音が室内に鳴り響くとともにジョーズィは真っ赤な液体を喉に押し込んでいた。
「飲みっぷりは見事だな。しかしお前とこうして酒を飲むとは思いもしなかった」
「同感だ・・・出来れば二度と遠慮願いたいが」
互いに言わんとする事は長年の対立からも分かっているし、その考えも手に取るように理解できる。
決して交じり合う事は無いと言うのにある部分では通じているのだからやりきれない。
若干赤くなった頬をそのままにジョーズィは椅子より立ち上がる。
「もはや敵の巣窟となった海軍本部に留まるのは危険だ。我々は三日以内に支持する者を集め連邦政府に出頭し武装解除するとしよう」
「じゃあ俺らは三日後に若造共を集めてここを占拠する・・・で良いか?」
オアンネルの言葉に答える事無く背を向け退室するジョーズィは来た時と同様にダックスビルに先導されて帰っていく。
「さあ始めようぜ。どでかいドンパチをなあ」
品の無い笑い声を響かせながらオアンネルはグラスの中の液体を飲み干した。
「お互いに素直ではありませんな」
帰る途中で口を開くダックスビルにジョーズィは苦笑を浮かべる。
「ハハ・・・まあ確かに我々はもう少し歩み寄るべきだったかもしれないね」
こうすべきだったと言う後悔の念を口にするジョーズィ。
後悔したところでもはや完全に手遅れなのだが。
彼を武断派の影響が及ばないエリアまで案内するとダックスビルは彼に向って敬礼をする。
「次に会う時は恐らく戦場となりましょう。その時までどうかお元気で」
「ああ・・・君もオアンネルの事をよろしく」
どこまでも律義な彼に小さく頭を下げつつ、ジョーズィはすぐさに己の腹心らを呼び集め海軍本部脱出の準備をし始める。
ジェネラルによるレプリフォース蜂起の演説まで残された時間は残り僅かとなっていた。