胡蝶の雪   作:ねをんゆう

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みんなが幸せになれますように


16.女の子の鍛錬-2

「それではこれより、女の子の女の子による女の子のための、女の子の授業をはじめます!」

 

「わーい!」

 

「「………?」」

 

いつも通り鍛錬に励もうとしていたところを密璃とカナエに呼び戻された雪那とカナヲ。

もしかしたら今日はあの2人が見てくれるのだろうか?そんな期待を込めて向かった先では何故か小さな机が2つと、学校にある様な黒板が2人のことを待っていた。

そしてなにやら自らを講師と名乗る2人は非常に楽しそうに笑っている、確実にこれから鍛錬をする様な雰囲気ではない。

 

「さて!今日2人に教えるのは鬼の殺し方ではありません。男の子の射殺し方です!」

 

「「………」」

 

「はい2人とも!そんな興味なさそうな顔をしない!カナヲはまだしも、雪那ちゃんに至っては本気で嫌そうな雰囲気を出してるのはなんでなの!滅多に見せないじゃないの!そんな態度!」

 

カナエはそう言うが、雪那はそれについては本当に心の底から興味がない。きっとカナヲは例え興味がなくともカナエが言うならば真面目に知識として蓄えるだろうが、雪那はそうはいかない。別に雪那は男の落とし方などどうでもよいのだ、そもそも落とす予定もつもりも未来も一切無いのだから。

 

「ん〜……それじゃあ雪那ちゃん、"好きな人を振り向かせる方法"なら興味あるかしら?」

 

「っ!!!」

 

それはいる。

 

凄まじい勢いで振り向いて目を爛々にしながら机についた雪那に、カナエと密璃は笑うしかない。

薄々感じてはいたのだが、彼女はどんなに優れた男よりも1人の見知った女性のことにしか興味がないらしい。こんなに真剣になるくらい弟子から愛されているのだから、カナエは自身の妹が羨ましいばかりである。

雪那に続いてカナヲもゆったりとした動きで席についたところで、カナエ先生と密璃先生による恋愛講座が始まるのだった。

 

「さてさて、そういう話なら今日は"好きな人を振り向かせる方法"について、私と密璃ちゃんで2人に徹底的に詰め込んでいきたいと思います。雪那ちゃんは大丈夫だとして、カナヲもしっかり知識として蓄えておくのよ?将来好きな人が出来た時に自分が困らないようにね♪」

 

「………」コクン

 

果たしてそんな日が来るのか。

そんなことは分からないが、もしその時に知識としてあるか無いかだけでも取れる選択肢が変わってくる。どんな時でも選択肢が多いのに越した事はない。恋愛も戦闘と同じで駆け引きなのだ、その時になって慌てふためくのは命取りなのである。

……問題は講師達が恋愛に関してサッパリ未経験とバッチリ大失敗を経験している2人だということであるが、女性として魅力的なのは間違いないためこの点に関してはまあまあ大丈夫だろう。本格的な話になれば講師の交代が要求されるだろうが、その時はこの2人も生徒側に回ればいい話である。

 

「好きな人を振り向かせるなら、まずは何より見た目から入るのが一番早くて簡単よね!2人ともすっごく可愛いんだし、ちょっとお洒落するだけでも充分殿方の気を引けるわ!」

 

「ふむふむ……それじゃあ今日はお洒落を重点的に学んでいきましょうか!お題はズバリ!"外れないお洒落"と"狙ったお洒落"!この2つでいきましょう!」

 

そうと決まれば早速下町へ!

今は冬なので雪那が外に出でも何の問題もなし!

この教室風のセットは一体何のために作られたのだろうか。

ノリノリの2人に連れられて、雪那とカナヲは久方振りに町へと飛び出した。

 

 

 

「まずは"外れないお洒落"と"狙ったお洒落"についてね。"外れないお洒落"はその名の通り、誰にでも受けるような無難なお洒落のことよ。相手との関わりがそんなに無くて好みも分からないけれど、どうしても気が引きたい。そんな時に役立つわ♪今日はこれをカナヲがやってみましょうか♪」

 

「えっとね、もう一つの"狙ったお洒落"っていうのは相手のことがよく分かっていて、好みだって知っている。そんな相手の気を引く為にその人好みに自分を飾りあげるお洒落が"狙ったお洒落"なの!その人に見てもらうためだけに、その人のことだけを思って、その人にだけ効果的な正に愛の結晶……今日はそれを雪那ちゃんがやってみましょう♪カナエさんからお相手さんの好みはたくさん教えてもらえますしね♪」

 

大正の時。

それまで和服だけだったこの国に洋服が広まり始め、未だ都市を離れれば和服が多いとは言え徐々に洋服の波は直ぐそこまで迫ってきている。そんな中、先見の明のある服売り達は既に東西を奔走し、これから伸びるであろう様々なものを自身の才覚を信じて取り寄せ、これから始まるお洒落大革命に向けて着実に準備を進めていた。

 

この下町にもそんな店が一軒だけある。

珍しいものが好きなカナエと食事の面から洋式の物への関心があった密璃は暇さえあれば顔を出しに行くような常連でもあり、店主とは顔馴染みであることからも今日の戦場をその場所に選んだ。

 

ちなみにこの辺りでは隊服はまだしも普通に暮らしている民達は未だ和装が多い。そんな中でなかなか自分から洋服を身に付けるのはまだ少しだけ勇気がいる行為であり、その一歩がカナエと密璃が踏み出せないでいたのも事実。

そんな時にこのお洒落の授業である。

普段自分達では着れないような可愛らしいものを、珍しいものを、今日だけは好きなだけ2人に着せて楽しむことができる。

密璃はさておき、カナエは柱として貰っていた十分な給料を持て余していた。金ならある。普段はカナヲや雪那に何か買って行こうとすると無駄遣いだとしのぶが怒るが、今日はそのしのぶもここには居ない。

2人はGOGOハイテンションで店に乗り込んでいった。

 

「いやぁ!こりゃまた飾り甲斐のある嬢ちゃん達を連れてきてくれたじゃねえか!カナエちゃん!密璃ちゃん!こいつぁオイラも久々に楽しくなってくるってもんよ!」

 

「ふふふ、今日は2人を目一杯着飾ってあげて欲しいの♪この町で一番お洒落で、一番可愛い女の子にしてあげて頂戴♪」

 

「はっはっは!任せとけぃ!」

 

古今東西様々なお洒落を探求してきたと自称する親父さん。

都会で洋服が流行る前から既に海外の服に目をつけており、都市にある町よりも豊富な品を揃えている凄まじい人物である。

そんな彼の前に現れた黒髪の美しい純和風な美少女と、白い髪に白い肌、赤い眼と、どちらかと言えば洋寄りの容姿をした美少女。

そんなタイプの違う2人を好きなだけ着飾っていいと言われれば三度の飯すら要らなくなるほどに魂が燃え上がるというもの。今日はもう店仕舞いにする勢いで親父さんはこの話に乗ってきた。

 

「さあ!燃えるぜ!」

 

「「おー!!」」

 

こうしてお洒落の授業が始まった。

 

 

 

 

「しのぶちゃん実はね、普段のその人とは違う一面に凄く弱かったりするのよ。例えば普段はボーッとした人が偶に見せるキリッとした表情とか。だから今日はそれを狙ってみましょうか♪」

 

「なるほどなるほど、つまりギャップって奴だな。そしたら嬢ちゃんは如何にも可愛い系だし、今日はちょっくらカッコいい感じに仕立ててみるか」

 

「それなら色も黒色を中心にするのはどうかしら?ほら、雪那ちゃんっていつも着てるものもそうだけど、どうしても白色って印象があるじゃない?そこでもぎゃっぷ(?)が狙えると思うの!」

 

「それなら"こーと"って奴が良さそうだな……だがこれだけだとただの防寒具だ。こっから洒落良く着飾ってくのが腕の見せ所だな!」

 

「仕草とかもそれに合わせてみましょう♪今日は全力でしのぶちゃんを落としに行くわよ〜♪」

 

 

 

 

「う〜ん、カナヲは何を着ても似合うと思うから、これはこれで悩むのよねぇ。いっそのこと完全に可愛路線を突き詰めてみましょうか、"どれす"とか着てみて」

 

「けど"どれす"が一般的じゃないから、外れないお洒落とは言い難いんですよね。そうなるとやっぱり着物系になっちゃいます」

 

「それなら思いっきり大人っぽくしてみるのはどうだ?こっちの嬢ちゃんはそこそこ背はあるし、髪型変えて着物に羽織らせれば相当雰囲気変わるぜ?若い男はいつの世も落ち着いて大人びた女に憧れるってもんよ!」

 

「それいいじゃない!カナヲなら絶対似合うわ!それにしましょう!」

 

「きゃ〜!すごくいい!……そうだカナヲちゃん!私が教えてあげるから上品な歩き方とか試してみましょ!きっと凄く似合うと思うの!」

 

そうして着せ替えを始めて3時間ほど。

ようやく2人を着飾り終えた頃にはカナヲと雪那は鍛錬もしていないのにヘトヘトになっていた。反してカナエ達はずっとイキイキとしているが、いつの世もお洒落に関しては本人より周囲の方が盛り上がるのは変わらないものである。

 

しかし3人の見る目は確かなもので、雪那とカナヲは確かに魅力的な女性になった。

金額はそれなりになったものの、親父さんが来て歩いてくれれば宣伝になるし自分も楽しんだからとマケてくれたこともあり、カナエの懐も然程痛むことなく済み。親父さんの見込み通り、蝶屋敷への道中で2人は周囲の視線を大きく集めることとなった。


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