絶対爆破した瞬間ヒャッハーしてたでしょ、あの人。
しのぶが雪那に蝶屋敷の役割とその仕事の内容について説明をしていると、パタパタと誰かの急ぐ足音が聞こえてきた。
まるで入口を探す様な慣れていないこの感じからして、恐らく新人の隊士か隠の者であるのだろうが、また柱の誰かが大怪我でもしたのだろうか。しのぶは一旦説明を中断して雪那を抱えながら玄関へと向かう。
カナエもまた気付いたのか、カナヲの手を取りながらこちらに歩いてきていた。
「しのぶ様!カナエ様!お館様がお呼びです!」
「まあ、お館様が……?」
恐らくここまで全力ダッシュで走ってきたのであろうその隠の者は、2人を見かけるや否や汗を拭うこともなくそう伝える。
きっと彼もまさか下っ端の自分がお館様直々に指示を出されるとは思わなかったのだろう、記憶が正しければ彼はまだついの間入ったばかりの新人だったと胡蝶姉妹は思い返す。
「お館様は何と?」
「あ、えっと……花柱様、いえ、カナエ様がお連れになった幼子と話してみたいと仰っておられまして。もしお忙しい様でありましたら後日でも構わないとのことですが……」
「いえ、今から向かいます。しのぶも大丈夫よね?」
「う、うん。じゃあカナヲ、しばらくの間留守番をお願いしても……」
「あ、えっと、カナヲ様も一緒にとお館様は仰っておられましたが」
「え、カナヲも?」
「ええ。一人で残すのは寂しいだろうから、と」
「そう……お館様のご好意に感謝しないとね」
もし雪那について知るだけならばカナエと雪那を呼べばいいだけの話だが、そこにしのぶとカナヲも呼ぶと言うのだ。恐らくお館様は雪那がカナエではなくしのぶに懐いていることも既に知っているのだろう。
カナエが隠の者に後は大丈夫だと伝えると彼はホッとした様子でその場を後にする。
正直な話、柱でもないしのぶはお館様と呼ばれる男性を直接見たことが殆ど無かった。姉との関係で一度だけ顔を合わせたことがあるが、その時は本当に少し言葉を交わしただけであり、緊張と困惑であまり上手く返答できなかったことと、不思議な雰囲気を持つ人だということだけしか覚えていない。殆ど頭を下げていたからというのもある。
だが、今のしのぶは姉の後ろに付いているだけの人間ではない。
柱をやめた姉は今や自分と同じ立場であり、自分は雪那とカナヲの保護者としてむしろ前に立つべき立場だ。以前の様に会話の全てを姉に任せるという訳にはいかない。
「行きましょう、姉さん」
「ええ、そうね。雪那ちゃんのことお願いね、しのぶ」
「はい!」
お館様とお話をするだけなのに、なんだか不思議なやる気に満ちている妹を見てカナエは微笑ましく思った。
「やあ、忙しいのに突然呼んでしまって悪かったね」
「お久しぶりでございます、お館様。お館様直々のお願いですもの、急患が運ばれたりしていなければいつでも参りますわ」
「うん、そう言ってくれるとありがたい。一応期を見て使いを出してはいるけれど、君達には重要な役割を担って貰っているからね。少しでも忙しければ私のお願いなんて断ってくれていいんだよ」
「もちろんです、お館様。何より大切なのは子供達の命だと、その言葉を忘れたことはありません」
「ありがとう、カナエ。頼りにしている」
相変わらず不思議な雰囲気を漂わせ自身の姉と言葉を交わすお館様こと産屋敷家当主:産屋敷耀哉を前に、先ほどまであれほどやる気に満ちていた筈のしのぶは相変わらず会話に混じることが出来ずただただ頭を下げていた。
何を話せばいいのだろう?
姉の様に話の種になる様な話題すら持って無いのにどうすれば?
耀哉独特の声の調子で緊張は解されていたが、しのぶはただただ悩んでいた。これもまたやる気の空回りと言えるかもしれない。
「そう考え過ぎなくてもいいんだよ、しのぶ」
「……っ!お館様」
「今日はカナエが連れてきたその女の子について教えて欲しいだけなんだ。けれど彼女はあまり上手く話せるようではないからね、しのぶには彼女の代わりに話をしてもらいたい。いいかな?」
「は、はい!お任せください!」
今も自らの横で不思議そうな顔をして立っている雪那。耀哉はそんな彼女とカナエの横で無表情で座っているカナヲを交互に見てまたニコリと笑う。
「まず……カナエ、しのぶ。君達は雪那を継子にする気はあるのかい?」
「……それ、は」
「本人の意思が分かるまではそうするつもりはない、といった感じかな?」
「……はい。カナヲもこれについては自分の意思で継子になることを決めました。雪那にも、自分の意思で決めて欲しいと思っています」
「なるほど。ちなみにしのぶはどうなって欲しいと思ってるのかな?」
「……雪那は先天性の白皮症を抱えています。年齢の割に身体の成長も遅い。鬼殺隊員になっても私以上の苦労をすることになるはずです」
「そうだね、身体付きによる苦労と苦悩については誰よりもしのぶが知っている筈だ。それに本来は強い味方である太陽光に弱いことは鬼殺隊員として非常に辛い。しのぶの言っていることは間違っていないよ」
「鬼を知らず、憎しみも持たず、ただそこに居合わせただけの子供をわざわざ茨の道へ進ませたいと私は思いません。1人で生きていくのが難しい体質とは言え、それでも道は他にいくらでもあります」
「君らしい答えだ、とても好ましいと思う」
鬼殺隊として生きるなど、いくつかある道の中でも一番選んで欲しくない道だ。
確かに雪那はその体質ゆえに普通に生きていくのは困難であるだろう。けれど例えば蝶屋敷で手伝いとして生きていくことは可能だ。人手が常に不足している現状では少しでも仕事が出来るのならば喜んで置いておける。呼吸の基礎だけでも教えれば身体の調子も今よりずっと良くなるだろう。
それに、しのぶが雪那を気にかけるのは姉の命の恩人という他にも、体格などで自分との共通点を見つけてしまったからだった。自分の味わっている苦悩を鬼に関係のないこの子にも味合わせたいとは思わない。
それが彼女の本音だった。
「……けれどね、しのぶ。私の本音を言わせて貰うとすれば、雪那には是非鬼殺隊として働いて貰いたいと思っているんだよ」
「!?な、なぜ!!」
思ってもみなかった耀哉のその言葉に驚愕したのはカナエも同様だった。
今まで見てきた彼の性格からして、てっきりこの案に賛成してくれていると思っていたし、この流れからしてもそうなるだろうと思っていた。
しかし彼はその言葉を撤回しない。
それが本心であると、変わらないその表情が語っている。
「カナエ。君が上弦の鬼と戦っていた時、不思議なことが起きたと言ったね。確か敵の血鬼術が暴走し、雪那に傷を治して貰ったとか」
「は、はい。その通りですが……」
「しのぶ。最近の蝶屋敷では不思議な現象が起きているね。降り積もるほどでは無いにしろ、何故か小さな粉雪が止まなくなっているとか」
「それも、その通りですが……」
「このいくつかの現象、間違いなくその子が関わっている。けれど普通の人間にそんなことができるはずがない。可能性があるとすれば血鬼術だが、そもそも彼女は鬼では無い」
「お館様は、雪那の正体を……?」
「まだ予想の段階だけれどね」
耀哉が片手を上げると両隣に座っていた娘達がある巻物を広げて1枚の絵を2人へと見せる。
真っ白な雪原にポツンと建っている簡素な一軒家。そしてそこに入ろうとする旅人と、出迎えている真っ白な髪と真っ白な着物を着た女性の姿。
それはまるで……
「"雪女"という怪談話を2人は知っているかな?」
雪那(ゆきな)
重度の白皮症の外見を持つ小さな少女。しかし外見と症状が噛み合っておらず、同様の患者と比べるとかなり軽い症状であることが分かる。身体能力に問題は無く、しかしカナヲの様に優れた感覚も持っていない。年齢はカナヲと同じだが、身体の成長はかなり遅い様に見える。
意思もあり、自分から言葉を発することもできるが、かなりの無口。というより、喋ることに慣れていない。誰かと関わろうという気持ちはある。