「「「「「うぉぉおおお!!」」」
「先発、放てぇ!!」
『『『煉獄ゥ!!』』』
「赤隊!」
「「「「「炎虎!!」」」」」
「青隊!」
「「「「「生生流転!!」」」」」
「中間!!」
『『『煉獄ゥ!!』』』
「黄隊!」
「「「「「霹靂一閃!!」」」」」
「白隊!」
「「「「「韋駄天台風!」」」」」
「黒隊!」
「「「「「天面砕き!!」」」」」
「最後!もう一発!!」
『『『れ、煉獄ゥゥウ!!!』』』
「よし、開きましたね。はい!全員足元に気を付けて外に出るようにして下さい!」
膝下まで降り積もった雪原に存在する大きな半球が、何度かの振動の後、突如として内部から爆発を起こした。
そこから出て来た3人の人影はそのまま力尽きる様にその場に倒れ伏す。
カナヲ、杏寿郎、慎寿郎。
彼等こそ、この小規模な爆発の功労者であった。
「も、もう一歩も動けん……」
「父上に、同じく……」
「うっ、吐き気が」
「よく頑張った、カナヲ女子」
「君は、見込みがある。いずれ、機会が、あれば……ぬぅん」
「あとは、頼んだ……ぬぅん」
「あ、あの、誰か煉獄さん達を……」
計14発。
これはこの戦いが始まって以来放たれた炎の呼吸 奥義 煉獄が放たれた回数である。
そしてそのうちの10発は煉獄父子が放ったものであり、しかもそれが病み上がりの息子と戦場を退いた父によるものだというのだから、普通に考えれば異常としか言いようがない。
カナヲも4発放ったが、それでも最後の最後まで威力が弱くなるどころか常に最大火力を出し続けた本家の煉獄は明らかにおかしい。
煉獄こそが炎の主。
それを見せつける様な2人の姿は、同じく炎の呼吸を使う者達の瞳に強く焼き付いたに違いない。
「カナヲ、立てますか?あれからかなりの時間が経ちました、急がなければなりません」
「大丈夫、です。立てます、立ちます。雪那のところに、行かないと……!」
「……ええ、急ぎましょう。
予め決めておいた班に分かれて行動して下さい!決して無茶だけはしないように!丁以下の者は支援活動に徹すること!何よりも命を優先して行動するのを忘れてはいけません!」
「「「「「はい!」」」」」
そしてこの雪の囲いから抜け出すための指揮を取ったのは、蟲柱:胡蝶しのぶであった。
巨大な竃蔵とでも言うべきか、凄まじい強度を誇る雪の壁に閉じ込められ、身動きを取ることが全くできなくなってしまった隊士達。
次第に気温が下がっていく状況に絶望する者達も居たが、そんな者達を上手くまとめ、こうして脱出まで漕ぎ着けたのは他でもない彼女である。
その過程で最も突破力の高い煉獄を酷使することになってしまったが、結果的に間違ってはいなかった。
各技の威力を把握していた彼女だからこそ実現できた脱出だろう。
(……何も聞こえない、音から匂いまで全てが消えてる。それにこの降雪、まるで雪那の故郷の山のよう)
地形自体に見覚えはあるが、これほどの降雪はこの地域では初めて見る。
無惨の存在感も他の鬼の雰囲気も、ここには何も伝わって来ない。
まるでこの空間そのものが別のものに変わってしまったような、そんな感覚をしのぶは感じていた。
「不死川さん、戦える隊士はどれくらい居ますか?」
「あァ?……まあ、10人も居ねぇな。あの雪の閉鎖空間が思いの外こっちの体力を削って来やがった。この先を進む事を考えれば大半の奴は着いた頃には立つ力も残って無ェだろうなァ」
「やはりそうですか」
「……胡蝶、その割にはお前は元気そうだな?」
「その点についてはいくらでも理由付けはできますし、気にしても仕方の無いことでもありますから。あの空間で私がむしろ快適に過ごしていたと言ったら、不死川さんは信じます?」
「それこそ人間じゃねェよ、下らねェ。さっさと行くぞ」
そう言って走り難そうにしながらも雪道を走っていく不死川を暫く見つめてから、しのぶは続いて走り出した。
雪に足を取られる事なく、むしろ普段通りの軽やかさで雪原を駆け抜けていく。
まるで雪自体が自分を避けているかのように……いやむしろ、雪達が自分のために道を開けているかのように。
(雪那……)
しのぶ達は雪那が捕われた氷塊の中から助け出された直後のことを、そう多く見ていた訳では無かった。
猗窩座の一撃によって雪那が氷塊から解放された瞬間、地面に投げ出される筈であった雪那の体が奇妙に空中で静止したのをしのぶは見た。
普通ならばどう考えても有り得ないそんな現象。
まだその時点では意識を取り戻していない筈の雪那がそのような状態になれば、他の第三者からの干渉を考えるのが当然の話だ。
もしかすればと同じ様に落下していた真横に居た童磨を見れば、男はむしろ奇妙なものでも見るかの様な訝しげな顔をしてそれを見ており、
次に猗窩座を見て見れば彼もまた何が起きているのかと困惑しているようであった。
雪那の不思議な現象は全ての元凶とも言える童磨でさえも把握していないもの、それはまたこれまでとは違った意味での恐怖をしのぶに掻き立てた。
『雪波』
ぽつりと、目を閉じている雪那の口からそんな言葉が囁かれた。
囁くような、けれど落下中でまともに音すら聞き取れないしのぶでさえもハッキリと聞き取ることが出来る雪那の声。
久々に聞いた彼女の声は思いの外嬉しくなくて、むしろ背筋に冷たい何かが這い寄るかのような感覚を得て……
『『不味い……!!』』
地上に居る猗窩座と空に居る童磨がそう言ったのは同時だった。
童磨は咄嗟に自らとしのぶの目の前に幾十もの分厚い氷の壁を作り出し、猗窩座は全力でその場を飛び氷の壁に着地をすると乱暴にしのぶを掴んで下界へと投げ落とした。
あまりの出来事に何が起きたのか分からぬまま、カナヲに受け止められるまで空を見上げながら落下していくしのぶ。
だがそんな彼女が確実に視界に捉えることが出来ていたのは、先程まであれほど扱いに困っていた二体の鬼が氷の壁ごと複数の白い帯状の波のようなものに貫かれている様子……
『雪羅』
そしてここに居る自分達を包む様にして持ち上がった巨大な白の壁の大群がこちらに倒れ掛かる、そんな光景だけだった。
「うっ……」
「師範?どうしました?」
「いえ……なんでも、ありません」
走りに走り、付近に降り積もる雪も減って来た。
突然腹痛に襲われたしのぶだが、それも今議論している場合では無い。
何が起きて、どうして今こうなっているのかは少しも理解できていない。ただ、自分にとって最も大切な人が苦しんでいるということだけは分かる。
それならば、やる事など一つしかない。
「カナヲ……必ず、必ず雪那を助け出しますよ。そして必ず無惨を倒して、生きて帰ります。後世のための犠牲になど、絶対にさせません。貴女達には必ず、今この世界で、幸福を掴んで貰いますから」
「……それなら、誰も死なせることが出来ませんね。誰か1人でも犠牲になれば、雪那が必ず悲しみます」
「ええ、そうね」
それはきっとどんな願いよりも欲の強いものなのだろう。
けれど、こんなにも酷い状況だ。
1人くらい、2人くらいそんな最高の理想を抱いていてもバチは当たらない。
望まなければ実現はされないのだ。
望んで、実践して、そうしてやっと砂粒ほどの小さな可能性が、石粒ほどの可能性に変わる。
たった数%程度の誤差でも、可能性が広がることに変わりは無いのだから。