情景の変わりゆくさまが視界を通過していく。
いつも通学時に見ていた景色は誰が進めるでもなく走り去っていく。
「上原 遥」はその様は窓口にその体躯を押しかける形で覗き込んでいた。
上原は義理の家族から過度な虐待を受けていた、それが世間に公になると即親と離されることとなった。
高校生である彼は独り立ちなんてことは出来ず、学校から保護をの要請を受けた上原に残それた唯一の親戚である叔父「笠井 健司」の家に引き取られることとなった。
上野〜上野〜、とアナウンスが微睡みに落ちていた意識を叩き起こす。
そろそろ最寄りだ慣れぬ都会への緊張と期待とで固くなった体に喝を入れカバンを持ち上げる。
「……行くか。」
〜笠井宅
コツン、コツン。とドアをノックする、懐かしい家である。
ほんとに昔の記憶であるがこの家で本当の父母とそうして祖父祖母、それにこの家の主である健司叔父さんとクリスマスの催しを共にしたことをしっかりと覚えている。
階段の軋む音、微かなタバコの香が鼻腔を擽る叔父の自室、家にはないストーブ等々。
ギィ、と扉が開かれる。そこには少し白髪を蓄えているけれどあの頃のさして変わりのない叔父の姿があった。
「久しぶりだな、元気にって……してなかったよな」
言って、苦笑を作る。
「久しぶりです、これからお世話になります」
「なーに改めてんだよ、お前は血の繋がった家族じゃねーか。もっと柔軟でいいんだよ」
一息置いて。
「しかし、こうも距離と期間が空くと確かに接し方もわかんなくなるわな、俺のこれだって素じゃない道化だ。まあなんだ、上がれよ。茶ぁ出してやる」
上原は頭を掻いて
「はい、お邪魔します」
純白のスニーカーをサンダルに履き替えていると一声かけられる。
「……遥、お前は姉さんの部屋を使え。俺の部屋じゃタバコ臭くて敵わんし母さんらの部屋じゃジメジメしてるからな。部屋はあの頃のまま何も手を加えていないからお前の好きなようにしろな」
言われて上原は違和感に頭を過ぎらせる。
叔父は自分のことを遥なんて呼んでいただろうか。何かもっと別の呼び名で呼んでいた気がする、しかし彼も先程言っていた様にしばらく距離が空いていたがために自分に対する呼称を忘れてしまったのかもしれない、とその違和感はすぐに消え去った。
「あ!家に上げてすぐでしょうがないが今日、お前の担任をする先生が家に来るんだった!さっそくで悪いが部屋の片付け手伝ってくれ!ゴミはとりあえず奥の部屋に押し込んでおけ!」
言われて上原はクスリと笑う、この極度なまでに雑なところが彼の味なのであった。
そういうところも昔からまるで変わっていない。
〜〜
「失礼します、上原くんの担任を務めさせて頂きます。前川と申します。」
と、幼い女性の声が部屋掃除に必死になっていた二人の耳に届く。
「俺は茶の準備してくるからお前が迎え入れてくれ、頼んだぞ」