第12話
1年。私が六課で過ごした日々は明日で1年になる、毎日騒がしいがそれ以上に充実した日々は何よりも楽しく満たされた毎日だった。スバルさんに徒手空拳での心得を教えてもらったり、皆さんと一緒に毎日の訓練をするのは楽しかった、しかしそれよりも
「はい。ちゃんと水分補給しないと駄目だよ?」
「幻術を見破るには自分の目より、魔力の反応を探る事。こういうのにも特化したネクロがいるから、幻術の破り方はちゃんと覚えたほうがいいわ」
「そうそう、そろそろ射撃魔法も覚えてみる? 色々教えてあげようか?」
「そろそろ甲冑の構築も出来るようになったのではないですか? 私で良ければ相談に乗りましょう。リーエ」
六課の皆が私を妹のように扱ってくれるのが何より嬉しかった。もう家族も知り合いも誰もいないと思っていた私にとってこの新しい居場所はとても暖かくて、居心地のいい場所だった……ずっとここに居たいとも思った。でも、それは叶わない願いだと知った
「リーエ君、非常に言いにくいのだがね」
「……なんですか?」
それは何回目かの私の体の定期健診に日に告げられた
「1年経ったが、君の身体には何の変化もない」
「……良い事じゃないんですか? ネクロの細胞の侵食が進んでないって事ですよね?」
私がそう尋ねると、スカリエッティ博士は私の前に4枚のカルテをおいて
「身長・体重、そして体内細胞の年齢の変化。その全てを調べても何の変化もない。判るかい? この意味が?」
「……良くわかりません」
何を言いたいのかまるで判らず首を振りながら返事を返すと、スカリエッティ博士は
「君は成長していないんだ、1年前に六課に来たときとまるで同じ姿のまま。 それはありえる事だと思うかい?」
……1年で何も変わっていない。それは通常なら決してありえない現象だ……僅かでも身長も体重も増えているべきなのに
「……回りくどい言い方は嫌です、どういうことなのか教えてください」
私がそう言うとスカリエッティ博士は頭を振って
「君は成長していないんだ。1年の間何の変化もない、それがこの1年だけなのか、それともずっとなのか? それは判らないが、この1年君は一切成長していない」
成長していない……それはもしかして
「……不老不死って事ですか?」
自覚症状はないが、そう言うことかもしれないと思って尋ねると
「現段階ではそう言えるかも知れない、だがもしかすると成長速度が遅いのかもしれない、5年で1歳や10年で1歳。そういった割合で歳を取るかもしれない、だけど……確証は出来ない」
それはもしかすると私が皆の最後を見ることになるかもしれないと言うこと……普通に生きて死ねるとは思ってはいなかったが、
これは余りに酷い仕打ちではないのか?
「……それはずっとですか?」
「リーエ君。大丈夫、きっと私が何とかしてみせる。だからそんなに不安そうな顔をしないで、ね?」
私の頭を撫でてくれるスカリエッティ博士。希望的観測だが、もしかするとスカリエッティ博士ならと思う自分もいる
「……はい。私は大丈夫です」
こうして私に親身になって相談に乗ってくれる人がいる。私の事を家族だといって受け入れてくれる人がいる、何も不安に思う事なんてない……きっと皆が何とかしてくれる
「……それでは」
私はそう返事を返しスカリエッティ博士の研究室を後にした
「……今日はどうしましょう?」
しばらく考えてみて思いついたのは
「……演習場にでも行きますか」
身体を動かすのは嫌いではない、それに色々考えてしまいがちな私には思いっきり身体を動かして。考える余裕が無いくらい疲れたほうが良い。多分スバルさんとかもいるはずだからまた訓練を一緒にやるのもいいかもしれない。私はそんなことを考えながら演習場にと足を向けた
リーエが演習場に向かって歩き出した頃。龍也は
「うん、良い感じだな」
2週間前から作っていたプラチナの剣十字のペンダントの整形をしながら、仕上がりに1人納得する
「さてと……真ん中の宝石はどうするか」
六課の全員が持っている、私のお手製のお守り。それがペンダントであれ、イヤリングであれ、ブレスレットであれ。必ずどこかに剣十字の意匠を施している。私自身も剣十字の紋章は好きなので1つのこだわりといえるだろう
「何があるか判らんからな」
魔力を固形化させて作った宝石を見ながら呟く。この宝石はただの飾りではなく中にはさまざまな術式が刻んである。例えばスバルとかが持ってるのは、緊急時の回復系の術式が刻んであるし、ティアナとかは自動で発動する防御の術式が刻んである。ほかにも身体強化とかも出来るんだが、何回も使い回しが利くのは回復と防御だけなので、主にこの2つを作っている。特にはやて達はすぐ喧嘩をするので、回復の術式を……
(あれ? はやて達が喧嘩するのってもしかしてこれのせい?)
致命傷でも1回くらいなら耐えるし、骨折とかも1時間もあれば治る。皆が思いっきり喧嘩するのってこれのせいか? しばらく手製のお守りを見つめて
「リーエにはこれが良いだろう」
深く考えない方が良いと言う結論を出し。紅い宝石をペンダントの真ん中にはめ込む、リーエの髪の色と同系統の色にしてみたが、そんなに悪いものではないと思う、私は完成したペンダントをコートのポケットにしまい。ジェイルから回されて来たリーエについての書類に目を通す
「……余りに重いな」
リーエがこれから先普通に成長出来るかどうかも判らず、また寿命も全く判らないというのがジェイルの見解だ。ヴェノムもそこまでは判らないとしか言わないので、リーエガどうなるのか? それが判るものは誰もいない。
もしかすると不老不死で自分の仲間が死んでいくのずっとリーエは見ないといけないかもしれない、その運命はリーエが背負うには余りに重い……
「どうしてこうもままならんかな」
自分では出来ない事が余りに多すぎる。最強だの何だの言われたって、私は結局の所何も出来ない、弱い1人の人間に過ぎない……
溜息を吐きながら紅茶のポットに手を伸ばしたところで
「!! 何だこの魔力は!?」
凄まじいまでの魔力の本流を感じる、だがこの感じはネクロの魔力……まさか!? 私はあわてて椅子から立ち上がり魔力が発生している場所。第2演習場に向けて走り出した……
その日、珍しく第2演習場には誰もいなかった。それならそれでとネクロの魔力の物質化や教えて貰った体術や魔法の確認をしながら
(どうして私は半ネクロなんでしょう?)
もしも半ネクロではなかったら、私は龍也様と会う事も無く普通の子供として家族ずっと過ごしただろう。それも有り得たかも知れない未来。だが私は半ネクロ、半分人間、半分ネクロ……
(普通に生きて死ぬ事はありえない……私は1人になる……)
もしも私が不老不死なら、普通に老いる龍也様達とはいずれ別れなければならない
(そんなのは嫌だ……私はずっと、ずっと皆と居たい)
龍也様にリィンさん達にはやてさん達。ずっと一緒にいたい、1人になんかなりたくない……そんなことを考えながら魔力を練り上げていると
バキン……
何かが砕けるような嫌な音が脳裏に響いた。そして次の瞬間
「……え……あっ? あああああああッ!!!!」
身体がバラバラになる……
ただひたすらに痛い……
腕を漆黒の装甲が覆い服が破ける音と共に視界の隅に蝙蝠の様な翼が映りこむ。そして魔力が暴走を繰り返し、世界に皹が入っていく。その日々は漆黒の門となり私を吸い込もうとする
(い、嫌だ!! 私はここにいたい!!!)
翼と全身を使って耐えようとするが、闇の吸引力は凄まじく徐々に闇にと引き寄せられていく
「リーエ!!」
龍也様が演習場に駆け込んでくるのが見える……いや龍也様だけじゃない、はやてさん達の姿も一緒だ
「ああ……た、龍也様」
世界が砕けその中に吸い込まれていく、嫌だ……消えたくない……
「今行く!! だから頑張れ!!!」
「すぐにそっちに行くから! 諦めたらあかんよ!!!」
龍也様達が近付こうとするのが見えるが暴走を繰り返す、魔力で近付く事さえできない……暴走した魔力はそれぞれが物質化し、実体を持っている。いくら最高峰の魔導師でもそう簡単に突破できるものではない。それでも龍也様達が来るまではと思い、耐えていると
バキンッ!!!
「うっ……」
翼が折れる嫌な音と共に身体が宙に浮いて、狭間の中に引き込まれていく
「リーエ!!」
龍也様が何かを投げ渡してくる。反射的に投げられたそれを手にすると同時に私は漆黒の闇の中に呑みこまれ……
「絶対探し出すから!! 絶対に諦めるな!!」
龍也様のその言葉を最後に私は世界から弾き飛ばされた……
「……ん。またあの夢ですか」
ゆっくりと背中を預けていた、木から離れ立ち上がる。
「……懐かしい夢を見たものです」
近くの木の枝に掛けていたローブを身に纏い。ポケットにしまっていたペンダントを取り出す。これは世界から弾き飛ばされたときに龍也様が投げ渡してくれた物で、大事なお守りだ
「……色々ありましたね」
龍也様の世界から弾き飛ばされてから、100年……いやもっと行ってるかも知れない……その間に色々あった、さまざまな平行世界を渡り歩き、長い時を生きてきた。それでも私の目的は何も変わらないもう1度龍也様に、皆に会う。ただそれだけを夢見て旅を続ける。身嗜みを整えてから歩き出す……ネクロの追走から逃れて流れ着いたのは森だらけの世界……
「……これだけの森の世界に生物の気配が無いという事は、この世界はすでに滅んでいるでしょうね」
この世界に来て丸1日経ったが、何の生物にも遭遇していない……それなのに
「……あちこちから殺気を感じます……と言う事は……「グルオアアアアッ!!!!」こういう事だな!」
木々の間から飛び出してきたデクスの一撃を後ろに飛んで回避しながら、魔力を物質化させ剣にする
「グルルルルッ!!!」
次々と姿を見せるデクスを睨みながら、甲冑を構築する
「甘く見られた物だ……」
デクスタイプが4体。昔の私ならいざ知らず、今の私相手にデクス4体では役不足と言うものだ
「「「グアアアアアアッ!!!」」」
雄たけびを上げて飛び掛ってくる、デクスを見据え駆け出した……
4体のデクス相手に余裕の色すら見せているリーエを見つめている瞳があった
「中々にやりますね。リーエ」
カソック姿の男。いや……半ネクロのアークだ。アークはカソックから取り出した聖書を読みながら
「僅かながら守護者を師事しただけはありますね」
リーエの動きはどれを見ても、守護者に精通するものがある……無論守護者と比べれば数段劣るが、今のリーエならばLV4相手でも良い勝負をするだろう……
「おや? もう決着ですか? 役に立ちませんね、セカンドタイプも」
最近ロールアウトされた、デクスの新型タイプを4体投入したのだが……戦闘時間は約10分。私の予想以上にリーエが力をつけているのか、それともデクスが弱いのか? 判断に悩む……
「致し方ありません、LV3を出しますか」
暴走を繰り返すネクロという事で押し付けられた獣型をリーエの近くに転移させる。知性が無い代わりに戦闘能力は素晴らしい物があった、これでリーエの力を見極めるとしましょう。
「私が望むレベルになっているのかをね」
私はリーエに飛び掛ったLV3を見ながら。リーエがどのような戦いをするのか観察し始めた……
「こ、これは予想外ですね」
流石の私も驚いた。LV3は背後からリーエを奇襲し、一撃与えたのだが
「……死ね」
それは致命傷ではなく、リーエの服を破く程度の攻撃だったのだが、リーエの怒りを買うには十分すぎた一撃で。手足を剣で地面に縫い付けられた上に炎で焼かれていた……それを見据えるリーエの視線は私でも少々恐ろしいと感じた
やはり力をつけているのは間違いないようだ……
「さてと……また後を追いますか」
リーエは直ぐに空間を切りつけ、ゲートを作り移動し始めた。魔力を使った以上増援が来ると判断したのだろう、その判断は正直正しい。どうやら戦闘能力だけでなく、戦術眼も着実に身に着けている……
「貴女にはまだまだ強くなって貰わなければ困りますからね」
私の目的のためにね……私はそう呟き。リーエの後を追って世界を移動した……
「……少し疲れました」
今度転移した世界もやはり無人世界。最近は無人世界ばかりだなと思いながらローブを脱ごうとして
「……止めておきましょう」
さっきの世界でのネクロの攻撃で背中から服が完全に破けた。今ここでローブを脱ぐのは得策は言えないだろう
「……少しだけ休んでまた転移しましょう」
少々感情任せで魔力を使いすぎた。何時またあのネクロ。アークが襲ってくるかもしれないこの状況で魔力切れなんて洒落にならない……それにこの世界は荒野だらけで身を隠せるところも無い。私はローブを身体に巻きつけ、近くの岩に背中を預け
「……大丈夫、私は大丈夫ですから」
皆と撮った記念写真を見る。長い年数のせいで多少色ぼけているが、それでもあの時と同じ姿で皆笑っている。この写真を見る度に思う、必ず帰る、帰って見せると……写真をローブの中にしまい、龍也様から貰ったペンダントを握り締め眠りに落ちた……
長い時間が経っても、1人でも私は頑張れる。あの1年で皆がくれたたくさんの暖かい思い出があるから……
だから立ち止まらない……ずっと歩き続けてられる。皆の所に帰るそのときまで……
第13話に続く
次回からはリーエさんの旅がメインになります。一応ディケイド方式をとるつもりなので、色々な世界や平行世界の話も出そうと思っていますが、しばらくはリーエさんのパーティーメンバーを集める話をするつもりです。
それと可能性は低いと思っていますが、宵闇とコラボしても良いという作者様がいましたら、メッセージください
ディケイド形式なので本編でその世界にお邪魔したいなとか思っていますので、詳しくは7時に書く活動報告に書くつもりなのでどうかよろしくお願いします