第15話
「ギイイイッツ!!!!」
研究所の奥から響いてくる鳴き声とガチャガチャと鎖が引っ張られる音を聞きながら、研究室にあったレポートを読む。高濃度の魔力とネクロの気配なんらかの事情で捕獲されたネクロが居ると見て間違いない。
「……記録は15年前。突如上空から落ちてきた紅い怪鳥を捕獲し研究対象としこの地に連れて来た。強固な鎧を持ち小型飛行機程度の大きさのこの怪鳥の羽は起爆性であり、傷も即座の修復する点からなんらかの生物兵器と推測される」
ネクロ……鳥型という事はデクス、もしくはLV3ネクロか魔法生物をネクロ化した者がこの研究所の奥に居る
「……判る。判るよ……直ぐ行くから」
半ネクロの私には判る。寂しい、辛いと泣き叫ぶその声が。私はその声に導かれるように研究所の奥に向かった……
「ふむ、ネクロの……しかしデクスの気配にも似ていますね……」
研究所から感じる気配はデクスの物ではない。そして純粋なネクロの物でも無い
「となると……」
牧師服の中のファイルを取り出し目当てのページを探す
「あった、LV4ネクロ ヴェノム発案の魔法生物のネクロ化実験。詳細はと」
私の仕事は反逆者リーエの抹殺だが、時にヴェノムが作り出した失敗作の処分も任せられている。ヴェノムはネクロを食らうネクロやデクスの研究もしていたので、失敗作とは言え危険と判断するのは当然の事だろう
「3タイプの実験を行い、タイプ1とタイプ3は実験後、死亡。 タイプ2は時空の狭間に逃亡とありますね」
ヴェノムとはそれなりに顔見知りだった。並行世界に任務で出かける事が多い私に魔法生物の捕獲を良く頼みに来ていたからだ
ただドラゴンの捕獲だけは真剣に死を覚悟した、完全に成熟した龍種があんなに強いなんて聞いてなかったですからね。
まぁ最終的には生け捕りを諦め、周囲一体を消滅させる事で生き残りましたが、もう二度と龍種と真っ向から戦うなんて無茶はしたくないです。
「タイプ1 ケルベロス型。タイプ3 白虎型 そしてタイプ2は不死鳥型」
一時期伝説の獣をモチーフにしたネクロをヴェノムが開発していた。確かキメイラ含むデクスシリーズが完成する前。能力は高かったが骨格が力に耐え切れず死亡する魔法生物達の中でタイプ2はどこかの異世界で神と崇められていた神鳥をネクロ化した物。LVこそ3だが能力自体は非常に高かったはず
「リーエに合流されると不味いですね。ここで仕留めて置きましょう」
私はそう呟き研究所に向かおうとしたのだが
「ッ!? 誰です!!」
強烈な殺気を感じ辺りを見渡すがなんの魔力反応も人の気配も無い
「気のせい? いえ……あの殺気は本物。しかもあの気配は何度も感じている」
リーエの後を追う時に毎回感じる、あの殺気……
「何者が居るかは知りませんが。早々に仕事に掛かりますか」
どの道監視されている身ですし、早く仕事に掛かるとしましょう。崖を飛び降り研究所の中に向かって歩きながら
(しかし、ヴェノムの頼みを聞いていたのは間違いではなかったと今では思いますね)
全力を尽くして戦いそして敗れた……だが今思えばあの時から私の命は始まったと言える。あのどこまでも甘く冷酷な男によって
「本当に守護者は変わり者ですよ、全く」
ネクロを助けるなんて正気とは思えない、しかもただの気まぐれとか言っていたが。気まぐれで敵を救う馬鹿がどこにいる?
「ふふふ……まぁ過去を思い返すのはここまで、タイプ2とリーエの合流はなんとしても防ぎます」
魔力で身体を強化し私はリーエの後を追って走り出した……
研究所の中に入っていくアークを見つめる瞳
「また会うなんてね。よほど縁があるのかしら?」
銀が混じった亜麻色の髪をした黒衣の女性はそう呟き、溶ける様に姿を消した……
「……居た」
鎖に繋がれ傷を負った鳥のネクロが研究室の奥に居た、美しい紅い身体と鎧を身に纏ったそのネクロは身体から血を流しながらももがき。鎖の束縛から逃れようとしていた
「……傷が治ってない? どうして」
どんな下級ネクロでも再生能力は持っている。でも目の前のネクロの傷が治る気配は無い……そんな事ありえないのに、そんなことを考えながら一歩踏み出した瞬間。足元に転がっていた金属片に足が触れると
「……ッ!?」
身体に電撃が走ったような痛みがする、慌てて飛びのき。その破片から距離をとる
「……ネクロの体内細胞を狂わせる物質」
こんなの初めて見た。よほど優れた文明世界の遺産だろう。 もしかするとロストロギアなのかもしれない……ネクロの細胞は魔力を循環させて肉体の回復を早くする能力がある。それを阻害するとは相当な危険な物質である事に間違いない
「シャアアアアッ!!!」
私を見て威嚇するネクロ、ここの研究者と勘違いしてるんだね……きっとこの子はずっと怯えていたのだろう。もういないはずの研究者の影に……
「……今、助けるから」
その鎖の破片が密集している場所に踏み込む、すると落ちていた金属片は淡い光を放ち
「ッ!?!?」
バチバチと鎖が放電する。その激痛に思わず蹲る……回復しないから余計に痛く感じるのかもしれない……
(半ネクロでこれなら、あの子は一体どれ程の激痛を……)
「ガアアアアッ!!!」
更にネクロの羽が数枚私の前に落ちると同時に爆発する
「……ッきゃあ」
爆風だけで数メートル弾き飛ばされた……再び研究室の入り口まで戻された私は
「……絶対助ける」
立ち上がり甲冑を展開する。生身では到底辿り着けない、鎖のダメージが増すがこの際我慢だ
「グア!?」
「そう、私も貴方の同類。今助けてあげる」
驚くネクロにそう言って再度鎖の密集地に脚を踏みいれると同時に
「あああああッ!!!」
先程の非ではない電撃が襲う、いや電気じゃない……魔力を強引に剥ぎ取られるようなそんな形容しがたい痛み
「……負けるかッ!!!」
あの子はこれ15年耐えた、なら私だって耐えれる
「グアアアアッ!!!」
僅かに動く翼と頭を振るネクロ。来るなとでも言ってるのだろう
「……大丈夫。絶対に助けてあげるから」
痛みは耐えれば良い。それで誰かを救えるのなら……
「ぐううっ!?」
甲冑が砕け身体が裂ける……肉体と魔力ダメージが同時に襲ってくる。普通の人間には何の害もないがネクロにとっては危険すぎる物質だ……
(何て危険な物質なんでしょう……間違いなくロストロギアでしょ。これ)
思わず苦笑する。こんな滅んだ世界にこんな物質があるなんて……予想外にも程がある……僅か10メートル進むだけでごっそり体力と魔力を持っていかれたが、この子を縛っている鎖の大本の前には辿り着けた
「はぁ……はぁ……死刑執行モード起動、ぐッああああああああッ!?!?」
ネクロの力を最大限に使用できる。形態にシフトすると同時に甲冑に付着していた破片が更に放電し、魔力が一気に減少していく……それでもまだ私が意識を保っていられるのは
(このお守りのおかげですね)
首から下げたペンダントが淡い光を放っている。それが僅かながらに電撃のダメージを和らげていてくれるからだ……
「トーデス……シュトラーフェッ!!!」
具現化させた巨大な死神の鎌を振りぬく、それと同時に放たれる黒い魔力刃がネクロを縛り上げていた鎖を断ち切る
「キシャアアアアアアッ!!!!」
拘束から解放されたと同時に翼を大きく広げ辺りに自らの翼を振りまく
「えっ?」
そして私に覆いかぶさるように身体を低くし翼で自分と私を護る、それと同時に羽が一斉に起爆し鎖を全て弾き飛ばす
「クア? クゥクゥ」
つんつんと私の甲冑をくちばしで突くネクロ。その目は優しい光を浮かべ私を見ている
「心配してくれてるの? ありがとう。優しいね」
そのネクロの頭を撫でていると
「随分と無茶をしますね。リーエ」
「ッアーク!?」
闇の中から姿を見せたのは牧師服に黒い翼、そして縦に割れた瞳孔を持つ男。私の追っ手のアーク
「随分と消耗してるようですね」
「うるさいですよ。ストーカー」
とは言った物の内心舌打ちさぜるを得なかった……
(不味いですね、体力・魔力共にかなり減少しています。 万全でも逃げるのが手一杯なのにこれは不味すぎます)
「クアアアアアッ!!!!」
「ほう? 私に歯向かうと言うのですか? LV3如きが」
私の前に立ち翼を広げて威嚇するネクロに
「なっ!? 駄目です!」
この子に今戦うだけの体力も魔力も残ってはいない、それなのにこの子は私の前に立つ。しかも尾の尻尾でグイグイ私を外に向かって押している。逃げろと言いたい様に必死で
「良いでしょう。ではまずお前から!」
「クアアアアッ!!!」
咆哮と共に炎を吐き出すが、アークはそれを片手で弾きながら私とネクロに向かって突っ込んでくる
「闇よッ!」
走りながら放たれた魔力刃は高速でネクロにと襲い掛かり
「グギャアアアッ!?」
ネクロが苦悶の叫びを上げる。放たれた闇の刃は、ネクロの美しい紅い翼に深く傷をつける
「駄目なんです! 貴方ではアークには勝てない!」
LV4だったとしてもアークには勝てない、アークの強さは最上級のLV4に匹敵する。今の状態で勝率があるわけがない。
「ええ、その通りですね」
パチンッ! アークが指を鳴らすと闇色の竜巻が現れこの子の身体を宙に浮かす
「極刑です」
「クアーッ!!!」
ゼロ距離での闇の刃の嵐に全身を切り刻まれる。だがそれでも倒れず威嚇を続ける。ただ見ていることなんて出来はしない、かけていた治癒魔法を途中で中断し翼の間から飛び出し切り掛る
「ほう、その程度の治癒で私に勝てるとでも?」
回復具合はいいとこ4割、全力での戦闘も死刑執行モードの起動もできない
「勝てないから戦わない。それはきっと賢い選択だ……」
踏み込んで下からの切り上げを放ちながら
「だが……私は知っている」
興味深そうな顔をしたアークはにやりと笑いながら
「ほう? 何をです?」
それを受け止め、繰り出された拳を首を傾け回避し、肘の関節を狙い
「絶望的な状況でも諦めず。戦ったあの人のことを!」
魔力で強化した膝蹴りを叩き込もうとするが
「そうですか、だが貴女では守護者とは格が違いすぎる」
「ッ!! うあっ!?」
膝蹴りを肘で相殺され、回転と共に放たれた裏拳が頬を捉え思いっきりふっとばされる。体勢を立て直そうとすると
「甘いですよ」
「くっ!!!」
カソックの裾に仕込まされた魔力糸で結ばれた14本の刃が風を裂き迫ってくる
「クアーッ!!!」
「むっ? それは少々予想外ですね」
ネクロが全力で羽ばたき14本の刃の軌道をそらしたが……
「その程度ではどうと言う事は無いですがね?」
カソックの裾を掴み振り上げるアーク、それに伴い刃の軌道が変わり、羽ばたいていた翼を容赦なく引き裂く
「クアアアアアッ!?」
予想外の攻撃にネクロが絶叫し体勢を崩す。だがそれは無理もない、あの刃の密度はLV4の甲冑でさえ容易く切り裂く。LV3が耐えれるような攻撃ではないのだ
「まだまだ」
バランスを崩したネクロの体に巻きつく魔力糸をアークが掴み、引き寄せようとする。
「させない!」
それを妨害しようと飛び出すが、それよりも早く
「遅いです」
アークが指を鳴らすと不可視の魔力弾が放たれ。私を吹き飛ばすその間に魔力糸を掴んで、小型の飛行機ほどの巨体を片手で引き寄せる
「消えなさい」
右手を振り上げる、それと同時に巨大な闇色の魔力刃が5本地面を走り、ネクロを切り裂こうと迫る
「プロテクション!」
フラッシュムーブでネクロと魔力刃の間に割り込み。魔力の大半をつぎ込んだプロテクションを張る。これなら何とか耐えられる!
「えっ?」
防げる事を確信していた私の目の前で、掻き消える5本の魔力刃と
「戦いにおいての見極めがまだ甘いですね。リーエ」
嘲りを混ぜたアークの呟き。それと同時に
「あぐっ……」
膝蹴りが鳩尾に食い込む……幻影魔法……あれだけ警戒しろと目だけで確認するなと言われていたのに……
「魔力を充分に使いこなせていない貴女ではこうはできないでしょうね? シャドウバイツ」
顎を蹴り上げられ、宙を舞った瞬間。半月を描く魔力刃に引き裂かれる。体の右側を覆っていた甲冑を引き裂き腕を切り裂こうと更に進む魔力刃
「クアアアアッ!!!」
「しつこいですよ。LV3如きが」
私への追撃を防ごうとしたネクロの懐に一瞬で飛び込むと同時に
「グギャアアアアアッ!!!!」
超高速の拳打がネクロを打つ。身体がへこむほどの威力の拳に苦悶の悲鳴を上げたネクロ
「痛みはもう……おしまいです」
崩れ落ちるネクロの首に手を伸ばすアークに
「……さ、させません」
まだ動く左腕に握っていた剣をアークの腕目掛け投げる。それは的確にアークの腕にと突き刺さる、はやてさんに投げナイフとかのコツを聞いておいて無駄はなかったと言う訳だが
「……」
腕に突き刺さった剣を見たアークは無言でそれを引き抜き
「良いでしょう、なら2人仲良く殺してあげますよ」
回し蹴りでネクロを私の方に蹴り飛ばしたアークはそのまま後ろに跳んで詠唱に入る
「死者に与えられる物は無い……ただ等しく闇に消えるが唯1つ死者が持ちえる物……光さえ届かぬ煉獄の底で己が罪を悔いろ」
アークが手を広げ魔力球を作り始める。あれは前に見た、命中と同時に周囲を粒子分解する魔法……都市半分を粒子分解し壊滅させた……今の私では避ける事も防御する事もできない
「こうなったら」
この場から転移で逃れるしかない、あれだけの魔力の前で転移するなんてどこに飛ばされるかなんて判らない、でも私とこの子が逃げる最後の手段だ。場所時間なんて考えないで、ただ時空の狭間に逃げることだけを考えれば。数秒で術式は完成する……術式の完成がどちらが早いかが勝負だ
「遅いですよ……さぁ闇に……」
駄目だ。間に合わな……もう魔力を暴発させるしかないと私が判断した瞬間
「―――――――バスター」
静かに響き渡る女性の声、それと同時にアークの身体を打ち抜く漆黒の砲撃
「な。何ィ……」
胴を打ち抜かれ吹っ飛ぶアーク、それに伴い集中が途切れたのか消え去る魔力球
(だ、誰が!?)
誰が助けてくれたのか見ようとするが既に術式が完成し転移が始まっている。薄れ行く研究室の壁……そして外が見えている壁の所にその人は居た……
漆黒のバリアジャケットを身に纏った美しい女性……バリアジャケットを覆う金属の装甲。そこまで確認したところで私達はこの世界から弾き飛ばされた
「何者です? 貴女は?」
「さぁ? 答えると思って?」
傷を修復し拳を構え、私を狙撃した女を睨む。銀が混じった亜麻色の髪と左目の眼帯と目立つ容姿だ、漆黒のバリアジャケットの胸元を大きく開き。スカートにも深くスリットを入れ金属の装甲……いや甲冑か? それで全身を覆ったその女は槍に似た漆黒の杖を片手で持ちくすくすと笑っていた
「敵に答える馬鹿は居ないでしょうね」
「ならそれが答えね」
自然体だがまるで隙が無い。それにただの人間ではないというのは一目で判った……
「貴女も半ネクロですね?」
縦に割れた目と独特な魔力。私と同じ半ネクロと見て間違いないが、こんな奴は見たことが無い。いや……待て? この女
「残念だけど。そこまでにして貰いましょうか?」
女が指を鳴らすと私の足元に10角の魔法陣が展開される
「な、何時の間に……ぐあッ!!」
魔法陣から放たれた魔力弾に上空に打ち上げられる
「じゃあね」
冷たいその宣告と共に放たれた無数の魔力弾に私の意識は消し飛ばされた
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「う……わ、私は」
どれ程時間が経ったかは判らないが、私は意識を取り戻した……破壊された壁から見える空はもう暗く夜である事が判る
「トドメを刺さなかった。何故?」
あれほどの実力者なら私を倒すことなど容易かったはずだが
「まぁ良いでしょう。命があることに感謝という事で……しかしあの女の顔どこかで……ん。何だ!? 思い出せない!?」
女と戦ったこと、それと誰かに似ているということまでは覚えているのだが。顔と誰に似ていたかが判らない
「やられました……記憶抹消ですか。しかし襲撃者はそれをしなければならなかった相手ということですか」
半ネクロは基本物事を忘れない。つまりは覚えられていては不味い物を私は見たことになる
「それと喰らった魔法から何とでも予測は付きますね」
あの魔法、何度も見た覚えがある……威力こそ桁違いに上昇していたが間違い用が無い
「……並行世界で何があったか知りませんが……善とは程遠い存在になったようですね」
何の為にリーエを救ったかは判らないし、私を殺さなかった理由も判らない……
「まぁ良いでしょう。リーエの後を追うとしますか」
僅かな魔力の残滓から転移した時間と場所を探る
「む……これはまた辿りにくいですね……なるほどトドメを刺さなかった理由がわかりましたよ」
リーエの反応がいくつもある、恐らくはダミーだがこれではしらみつぶしに転移していくしかない
「やれやれ。また長い旅になりそうですね」
私はそう呟き転移しようとし、空を見上げ
「では失礼を、堕ちた英雄さん。またどこかでお会いしましょう」
誰に聞かせるでなくそう呟いた、私がリーエを追う以上。いずれどこかで又道は重なるのだから
「……こ、ここは?」
転移の衝撃で意識を失っていたらしい。目を開くと木が見える何処かの森の中のようだ。周囲の確認の為に立ち上がろうとして
「イタタタッ!!」
何の気なしに右手を着いて立ち上がろうとして走った激痛に顔を歪める、傷は再生こそし始めているがまだ傷跡は生々しく残っている。それを見てはっと気付く
「……そうだ! あの子は」
私を助けてくれた鳥のネクロを探そうとし身を起こすと焚き火が見える、一体誰が?
「クア?」
「……随分と可愛らしい姿になってますね」
木の間から飛んで来る1羽の鳥、それは大きさこそ違えど私を守ってくれたあの鳥のネクロだった
「キューッ」
「……私にですか?」
銜えていた木の枝を私に差し出す、その枝には木の実が成っていた
「……ありがとう。優しいね」
「ミイッ!」
頭を撫でると嬉しそうにそう鳴いて。今度は足の爪で木の枝を切り落とし焚き火の上に落とす
「キュ!」
翼を振るうと羽が1枚抜け落ちて焚き火の中に入り、ポンッ! という小さな爆発音と共に火の勢いが増す
「……ありがとう、おいで」
跳ねて近付いてきたこの子を見て、ふいに思い出す
(ドラきち見たいですね)
愛らしくそれでいて頭も良かった、アザレアさんのペットの小さな小さなドラゴンの事を思い出し、微笑みながら
「……名前が無いと不便ですね」
この子もアークに狙われているのなら私と行動した方が良い、転移能力を持ってるようには見えないし。クア?と首を傾げるのをジッと見る
(確か。スザクとか言う不死鳥? が赤でしたよね?)
龍也様の書庫にあった、伝説の生き物の中に書いてあった鳥のことを思い出す、色も似てるし決まりだ
「……良し、貴方の名前はスザクです、良いですね?」
「ミイッ!」
翼を広げる仕草をする、スザク。この動きは了承と受け取りましょう
「……ではスザク、これをどうぞ」
ローブの中から保存食として確保していた缶詰を取り出し、スザクの足元に置く
「……クア?」
不思議そうに首を傾げるスザクを見て
「……ああ、なるほど」
LV3までなら魔力だけで身体を維持できる。食べると言う概念がないのだろう
「……これは食べる物です。体力と魔力が回復しますよ?」
食べて見せる事で理解したのか缶詰に嘴をつけるスザクを見ながら、私も食事を再開した
「……どれほど眠っていたのでしょうね?」
時間の感覚が完全に狂っている。少なくとも1日は経過しているだろうが……実際はどうなのかわからない
「……スザク、私はどれくらい寝ていたんですか?」
近くにいたスザクにそう尋ねると、スザクは首を傾げながら
「クア?」
「……すいません、忘れてください」
食べるという概念がなかった以上、寝るという概念もスザクには無いのだろう。LV3で鳥型なので人間と近い感覚を持っていると考えるのはおかしいというものだ……
「……転移するのが良いんでしょうけど。ここは何処です?」
見覚えが無い世界だ……それに不思議な感覚がずっとしている。これは1度だけ感じた事のある魔力の流れ
「……浸食? 世界を浸食するようなネクロはそうはいないはずなんですが?」
世界全体にネクロの魔力を感じる、それにあちこち無理矢理削り取られたような黒い大穴が開いている……最上位ネクロだけが出来る空間の破壊と浸食現象だ……どうも無理な転移のせいで削り取られた世界に跳んでしまったようだ
「……ネクロを見ませんでしたか?」
となればこの世界は最上位ネクロが支配する世界と見て間違いない筈だ、そう思ってスザクに尋ねるが
「クアー」
首と尻尾を振る、恐らく見てないというジェスチャーだろう。つまりこの世界で感じるネクロの気配はあの穴が原因なのだろう
「……何か建物は?」
「キュィー」
「……見てないんですね」
何か落ち込んだ様子なので恐らく見てないという事を伝えたいのだろう
「……暫くここで休みましょう」
ネクロの気配は無いし、それに浸食の影響か時空が乱れている。アークも直ぐには転移して来れない環境だ。休息を取るには丁度良い
「……行きましょう。スザク」
「キュッ!」
そうと決まれば拠点を決めよう、スザクの移動範囲では見つけられなかった何かがあるかもしれないし。暫くここにいるのも悪くない、私はそう判断しスザクを肩に乗せて拠点となる場所を探し始めた……
第16話に続く
魔法少女と言えば使い魔という発想でした。しかしお決まりの猫とかじゃつまんないので鳥にしました。名称はスザクです、注目すべき点はLV3・紅い・鳥の3点です。判る人は人はきっと判ると思います。私が何を考えているのかが……!!
あんまり気付かれると面白くないので強調するのはやめておきましょう。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします