第19話
「何時まで落ちるんだ?」
「……さぁ?」
俺とリーエは過去の海鳴から。脱出する為に転移したのだが……かれこれ2時間は落ちている
「クワー?」
「……良いですよ。そのうち下につくと思いますから」
スザクと会話してるリーエに
「お前そいつの言葉判るのか?」
「……いえ?でも大体は目を見れば判ります」
そういう物かなのだろうか? というか何時になれば下につくのだろうか? と考えていると唐突に落ちる感覚がなくなった。慌てて反転し足から地面に着地する。そんな俺の隣にリーエはゆっくりとスカートを押さえながら降り立った
「……なにか?」
「いや。なんでもない」
下手な事は言わないでおこう。生前俺は女心について散々怒られたしな、態々地雷を踏み抜くことも無い、そう考え辺りを見回す
「何だこの世界は?」
世界に色が無い。まるでモノクロ映画の中に居るような。そんな感じだ、リーエは
「……世界の記憶ですよ。偶にあるんです、強烈な出来事があった時間軸は。そこだけが世界の裏に記録されて……永久にその時を残し続ける」
よく判らん話だ。俺自身ネクロと世界の常識からは逸れた存在だが。そんな話は初めてだ
「……とにかく行きましょう。これだけはっきり景色が残っているという事は、相当な出来事が合ったということの証拠ですから」
そういって歩き出すリーエ。確かにこのままここにいても何の意味もないか、俺もゆっくりとリーエの後を追って歩き出した
なんて重い世界なんでしょうか……
私は辺りを見渡しながらそれを感じていた。どこまでも深く、暗い、絶望と慟哭……一体この世界の記憶には何が……
歩いているうちに、徐々に世界が形を変えた……
「……森ですね」
「だな。この感じは……ベルカの地か?」
ペガサスさんの言葉に頷く。花や辺りの木はベルカの自治区にのみ、群生する植物だ……過去か未来か、はたまた並行世界のベルカか……
(ベルカならネクロ関係でしょうかね?)
そんな事を考えながら林を抜けたとき。私の目に飛び込んで来たのは……
『ガアアアアアアアッ!!!!』
咆哮を上げる龍人の姿と無数のネクロの姿……
(あの龍人……どこかで?)
どことなく私の甲冑に似た。雰囲気の刺々しい甲冑に蝙蝠を思わせる、一対の翼と龍の尻尾……私にネクロの知り合いは居ない筈だが……その龍人は間断なく襲い掛かるネクロを両手の爪で、背中の翼で、尻尾で、ありとあらゆる手段で叩き潰し、引き裂き、消滅させていく。その様は荒れ狂う龍そのもの……
(知らない筈なのに……私はあのネクロを知っている)
判る。私はあのネクロを知っていると……
『グルルルルッ!!!』
『じゃまだぁ!!!』
飛び掛ったLV1をその爪で引き裂いた、龍人の声……そして爪を振りぬいた姿勢の龍人の顔が正面に来た瞬間。私は息を呑んだ
「……ッ!?た……龍也……様?」
憎悪と殺意に満ちた。どこまでも暗いその眼
ドグシャアア!?
龍也様の爪が奥にいた。LV3の腹部を貫き、コアを抉り出す
『ぐがあ……こ、これでは……どちらが化け物か、判らんなあ?……かつて守護者だった……「黙れ」グギャアアアアア!?』
倒れたLV3の頭を踵で踏み抜いた龍也様の身体を覆っていた。漆黒の甲冑が弾け飛ぶと
『ぐっ……ごほっ!?げほげほっ!!!』
激しく咳き込みそのつど血を吐き出し蹲る。咄嗟に手を伸ばすが私の手は、崩れ落ちる龍也様をすり抜ける……そうだこれは記憶。 触れることも喋る事も出来ないんだ……
「守護者とは到底思えん眼だな……憎悪と殺意。俺やネクロによく似た目だな」
ぺガサスさんの呟きは私には届かなかった、私の知らない龍也様の姿……記憶の中の龍也様とはあまりにかけ離れたその姿から目が離せなかった
『はぁ……はぁ……まだ……死ぬ訳には……いかないんだ……』
木に背中を預け無理やり立ちあがった。龍也様の顔付きはまだ幼く……私と同年代に見える。
(龍也様が行方不明になっていた時ですか?)
最初のジオガディスの出現から、数年の間行方不明になっていた時の龍也様だと。私は確信していた
『全てが……終るまでは……俺は死ねん……」
よろよろと立ち上がり。闇に紛れて歩いて行こうとする、龍也様の眼がある一点を見つめる。その視線の先には
「はやてさん……」
まだ私より年下だろうか、幼い少女という感じのはやてさん達が聖王教会から出てきていた
「……ちっ……」
ペガサスさんがはやてさんの後ろから出てきた。なのはさんを見て舌打ちしている……もしかするとペガサスさんは並行世界のクラナガンの人間なのかもしれない。
『!……はやて……!?』
記憶の中の龍也様がそう呟いて歩き出そうとした瞬間
「うっ……うぐッ……』
呻き声を上げ蹲り、右目を押さえて苦しんでいた。龍也様は歩いて行ってしまった。はやてさん達を見て
『くく……はは……未練がましいな……俺は……もう守護者じゃないんだ……』
自嘲するような顔で笑うその顔は、痛々しくて……見ているだけで辛かった……
『そうだ……俺は……ただの復讐者……もう2度とはやて達の前に姿を見せる事は許されない人間だ……』
自分に言い聞かせるように呟き。龍也様はゆっくりと立ち上がる
「痛々しくて見てられんな……砕けかけた心か……」
それは私も感じていた。悲壮なまでの決意で、砕けかけている心を無理やり繋ぎとめている。
『そうさ……この手はもうネクロの血で汚れてる……こんな手ではやて達に触れる事は出来ないんだ……』
自身の手を見つめ嘲るように呟いた龍也様は。サングラスを身につけ
『もう俺には名も……優しさも……命さえ……必要無い!! もう2度と引き返せない道ならば……俺は全てを捨て行く!!』
どこまでも自分を追い詰めた表情からは狂気さえ感じる……足を引き摺るように闇に紛れていく龍也様に思わず手を伸ばしかけ……
「……と……届かないんですよね……」
私の声も手も決してあの背中には届かない。どこまでも優しいからこそ、どこまでも自分を追い詰め。壊れていっているあの人を私には救う事は出来ないんだ……
「……え?ま、また?」
手を下ろしかけた時。また別の記憶が始まり世界が変わった……
荒れ果てた大地とボロボロの街並み。何か激しい戦いがあったというのが一目で判った。だがそれだけではなかった
「……う……あっ」
この記憶は重過ぎる。絶望、慟哭、嘆き……ありとあらゆる負の感情が私を押しつぶしに来る
「ぐっ……なんだ。この感じは……」
「キュー……」
ペガサスさんもスザクも、この記憶に満ちている負の感情に当てられている。……半分であれネクロである私達でも、受け入れることの出来ない不の感情
「この……世界は……何があると言うんだ」
「……と、とりあえず……移動しましょう」
このままではまずい。早く別の世界なり、違う記憶に移動しなければ……
飛ぶ気力がないスザクをフードの中にいれ。足を引き摺りながら廃墟の中を移動していると。何処かから声が響いてくる
『まただ!!また私は!!!』
悲しみと絶望に満ちた声……しかもこの声は
「……私の知ってる龍也様の声」
と言う事はまたこれも龍也様の記憶……その声に導かれるように廃墟を進むと
『また護りたかった命は……私の手から落ちていった……何も! 誰も私は護れてなんかいない!!!!』
拳を地面に打ちつけ。嘆きと絶望に歪んだ顔をした龍也様がそこにはいた
「……た、龍也様……」
届かないと判っているのに私は龍也様にと手を伸ばそうとした……だけどそれより早く
『キキ』
『グルルルル』
破壊されたビルの影から無数のネクロがまた姿を見せる。それを見た龍也様は
『私は……私に出来るのは……貴様らを倒す事だけだ……その為になら……私は全てを捨てる……感情も夢も……そして命さえも……』
何も見えない、能面の様な顔をして立ち上がった龍也様は
『In itself, a life does not have itself in a sake. (己が命が己が為にあらず )』
感情の抜け落ちた声で淡々と言葉が紡がれていく……
『The body does not have itself to people. (己が体は人にあらず 』
・
・
・
・
「……う、あ……」
痛い!いたい!イタイ!心が魂が軋む。嫌だ!いやだ!イヤダ!何処までも暗い感情が私を包み込んでいく
「これは……あの時の……」
ペガサスさんはこれが何か知っているようだが、私には関係ない。この場から……この記憶から逃げたい。それだけが今の私の考えれることだった
「that time -- all feeling -- it laughs at hidden self(その時まで感情全て隠し我は笑う)
「Because the way of life is just my only one obtained answer (その生き方こそが我が得た唯1つの答えなのだから)
「The grave marker of the sword of 1000 (千の剣の墓標)ッ!!!!」
炎が奔る……そして世界が変わった瞬間……私は
「……あ……」
見てしまった。絶望と嘆きに歪んだ龍也様の横顔と墓標の様な剣の群れを……それは私の知る龍也様とは余りに違っていて。でもそれは間違いなく龍也様で……
『何もない世界……生きるものは無い。この世界が私の心だというのならば……これほど相応しいものは無い。 己の命は自分でない誰かの為に……』
無数に立ち並ぶ剣が震え音を立てる。それが幾つも幾つも重なって、一つの音となる。それは泣き声の様に私には聞こえた
『壊れた人間にこれ以上相応しいものは無い……私もまた生きていると同時に死んでいるのだから』
嘲笑にも似た笑みを浮かべながら地面に並び立つ剣を2振り抜き放った龍也様は
『壊れた男が辿り着いた唯1つの答え。砕けるものなら砕いてみるが良い』
飛び掛ってきたネクロを両断し引き裂く。その時ふと私と目が合う。何処までも空虚で空っぽのその目を見た瞬間
「……い、イヤアアアアアアッ!!!!」
あんな龍也様見たくない。いやだ。違う……もう何が何だか判らない……
「おい!リーエ!おい……」
「クワー!!クワー!!!!」
スザクとペガサスさんの声が遠くに聞こえる……龍也様の姿が消えたと同時に私の意識は闇に沈んだ……
「ショックで気絶したか……」
守護者の姿が消えた瞬間。ふらりと地面に倒れこんだリーエを片手で支える。 守護者と再会することだけを寄りしろにして歩むリーエには、さっきの守護者の姿はあまりに衝撃的だったのだろう
「クワーー!!キュ!!キュキュッ!!!」
「ええい、落ち着け!鳥!!」
慌てて鳴いているスザクにそう怒鳴る。慌てても何にもならない……まずはどこかで休ませなければならない。だが……
「木にも何も触れん。どうするか……」
火を焚こうにも木に触れない。水を用意してやろうにも水にも触れない……どうした物か
「クワー!クワー!!」
「どうした、スザク」
奥を見て翼を広げながら鳴くスザク。俺を呼んでいるのか? 気絶してるリーエを背中に背負い。スザクの方に向かうと
「ゲート?」
「クワ!」
黒い渦がその口を開けていた。どうするか悩んだが……
「このままここにいても何にもならんか」
俺はそう判断し、スザクと共にゲートの中に飛び込んだ……
「ぬっ?」
飛び込んだ瞬間。俺は即座に地面に降り立っていた
「いかにさっきの世界がイレギュラーだったか、思い知らされるな」
無理に転移させたのは悪かったかもしれない……とりあえずリーエを下に寝かせて。水と焚き火の用意をと思っていると
「クワ!クワー」
「そのローブどうなってるんだ?」
リーエのローブの中に嘴を突っ込み、そこから寝袋を引きずり出す。スザクを見て俺はそう思った……
「ま、まぁ良いが」
その寝袋の上にリーエを寝かしなおし。あたりを見る
(どこかの森の中だな……人の気配はなし……無人世界か?)
ネクロ化によって強化された。気配探知には近くに人の気配がないのを感じ取っていた。これで安心して辺りを見て回れると思っていると
ボンッ!!
「クワ、クワ!!」
焚き火の近くに寝かせろと言いたげな素振りを見せるスザクを
「お前の羽便利だな」
木の枝を足の爪で切り落とし。起爆性の羽で着火するスザク。便利な奴だ……そう思いながら水を探しに行く。
「思ったより近かったな」
リーエを寝かしたところから、5分ほどで綺麗な小川を見つけ。そこの水を持ち歩いていた水筒に入れて戻る
「……えぐ……寂しい……寒いよ……」
「クウ。クウ」
泣きながら眠るリーエに気が付く……心配そうに寄りそうスザク。
「会いたい……皆に……龍也様に会いたいよぉ……」
さっきの世界で見た。守護者の暗い過去……
「すまん……」
俺が無理に転移させたせいだ。最初に会った時にリーエが言っていたある方とは、十中八九守護者……いや、八神龍也だろう。クドラクとの戦いでリーエがどれ程八神龍也を想っているのかを知った……リーエにとって八神龍也の存在は大きいのだろう。その人物の狂気に満ちた姿を見て耐え切れなくて意識を失った
「辛い思いをさせてしまったな」
そういう思いがどれだけ辛いのか俺は知っている。酷い事をしてしまった……俺はリーエが目を覚ますまでの2時間の間。絶え間なく零れ落ちる涙を拭い続けた……
誰もいない深い闇の中……皆がいるところに行こうとするのだが。どこまで走ろうが絶対に追いつけず、一人ぼっちになる怖い夢……
「……あ」
何時もと同じ様に涙を流しながら目を覚まし、ゆっくり身を起こす
「よう。気分はどうだ」
焚き火の周りに魚を刺した木の枝と何かの獣の肉を焼いている。ペガサスさんと目が合う
「……見ました?」
「すまん」
言葉短く謝る。ペガサスさんの顔を見ないように離れた所に座ると
「食え。魚はスザクが、熊肉は俺が獲ってきた」
いい感じに焼かれている、魚をとって齧っていると
「なぁ……お前は何のために旅をするんだ?」
「……どうしてそんな事を聞くんですか?」
食べるのをやめて尋ねるとペガサスさんは
「俺は自らネクロと化した。復讐の為にだ……そんな道しか選べなかった。だがお前は違う、何のために旅をする?辛いと判っていて何故笑える?」
復讐者ですか……じゃあ目的というのは復讐を終えたということですか……
「……答えても良いですが。貴方は何に復讐したんですか?」
もしこれが私を受け入れた人達だったとしたら。私はこの人を許せない。それは聞かねばならない事だ
「ハーデスと言うネクロだ。俺はそいつに仲間と大切な奴らを殺され……世界を滅ぼされた。仇をとりたかった……その為に裏切り者の名を受けてまでネクロと化した。全ては復讐の為に……そしてある世界で。守護者に会い奴の助力を得てハーデスを倒したんだ」
嘘は……言っていない。その目は揺らがずに私を見つめていたから……きっと本当のことだ
「……私は龍也様に……私に居場所と友達をくれたあの人にもう1度会いたい。それだけを胸にもう100年……いえ、もっとかもしれませんね。 ちょっとよくわかんないですけど。とにかく長い間旅して来ました」
長い時間が経っているのは判るが、詳しくは判らない
「そうか……リーエ。暫く旅に付き合うと言ったが気が変わった」
ペガサスさんは真剣な表情で立ち上がり、剣を空中から作り出す。思わず身構えたが、次の瞬間には驚きに目を見開く事になった
「お前が八神龍也に再会できるまで、我が剣をお前に預けよう」
剣を自分の足元に突き刺し片膝立ちになる
「……え。ええ!?」
こんなの初めてでどうすれば良いか判らない。慌てながらも考え直すように説得しようと思ったが……
「それに一人旅も味気なかろう?話し相手くらいにはなってやるぞ」
あっ、駄目だ……もう何を言っても駄目な目をしてる。覇気とかがなかった目に鋭い光が宿っている。もう何を言っても駄目だ
「……それじゃあ……一緒に来てくれるんですね?」
「ああ、お前が会いたいと望む八神龍也に出会えるまでな」
にっと笑うペガサスさんに、私の肩に止まって
「キュウ!」
キュウキュウと鳴くスザク……
「……それじゃあ。お願いします、長い旅になりますけど……途中で降りるなんて許しませんからね」
「構わん、望むところだ」
にやりと笑うペガサスさんにフードを外してから、右手を差し出し
「……リーエです。苗字は忘れてしまって思い出せないんで、すいません」
「ペガサス。ペガサス・ナイトアークだ」
こうして私の旅に新しい仲間が増えました……何時になれば終るかなんて判らない……何時の日か。また龍也様に出会う為に。私の旅は続いていくだろう……
第20話に続く
ペガサスさんが本格的にリーエの旅に同伴となりました。次回は少し短めの話をして。そこから本格的に宵闇の使者の物語は始まっていきます
それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします